勝 髭 経 疏 の 本 義 に つ い て (渡 部)
勝
箋
経
義
疏
の
本
義
に
つ
い
て
渡
部
孝
順
法 華 義 疏 の 本 義 に つ い て は、 現 存 す る、 法 雲 師 の 法 華 義 記 が そ れ で あ ろ う と、 異 論 の な い と こ ろ で あ る が、 勝 髭 経 義 疏 に 十 三 回 も 引 用 さ れ て い る 本 義 と は、 何 人 の 説 で あ る か、 今 の と こ ろ 決 着 を 見 て を ら な い。 し か し、 大 体、 江 南 の 法 雲 師 と、 曼 師 の 説 が、 最 も 有 力 の よ う で あ る。 金 治 先 生 が ﹁ 印 度 学 仏 教 学 研 究 誌 第 十 八 巻 第 二 号 ﹂ ﹁ 同 誌 第 十 九 巻 第 } 号 ﹂ ﹁ 同 誌 第 二 十 一 巻 第 一 号 ﹂ そ れ に、 四 天 王 寺 女 子 大 学 紀 要 第 三 号 に ﹁ 勝 髭 経 義 疏 の 本 義 の 学 系 と そ の 選 述 者 ﹂ 等 に 発 表 さ れ た よ う に、 経 疏 奈 九 三 を、 太 子 義 疏 の 本 義 で あ る と す べ き で あ り、 そ し て、 そ れ は 曼 師 の 流 れ を 汲 ん だ も の で あ る、 と い う の が、 そ の 大 体 の 筋 道 で あ つ た よ う で あ る。 ノ し か し、 太 子 疏 如 来 蔵 章 ( 一 二 九 頁) の ﹁ 本 義 云、 苦 ・ 滅 ニ ハ ハ ル ハ ス コ ヲ ニ ヅ ク ト ト 諦 当 体 不 レ 能 レ 作 レ 果 故 名 二 無 作 こ の 一 句 は、 奈 九 三 本 に 見 当 ら な い も の で あ る。 ハ ブ ト ス ル ヲ 亦、 一 乗 章 ﹄ ( 一 〇 三 頁) の ﹁ 本 義 云、 従 レ 此 以 下 結 三 収 コ 入 ニ 一 こ の 本 義 説 は、 経 典 ( 一 〇 三 頁) の ﹃ 世 尊、 不 受 後 有 智 有 ニ ク ハ テ ヲ ス ニ 種 一 謂 如 来 以 二 無 上 調 御 一降 二 伏 四 魔 一 ⋮ ⋮ ﹄ 以 下 の 科 段 釈 で ニ ス ブ ヲ シ テ ヲ ハ シ テ あ る が、 奈 九 三 本 で は ﹁ 第 五 料 三 簡 結 二 出 ワ 仏 非 下 是 一 乗 収 二 結 ヲ ス ニ ト 三 乗 一 以 為 中 一 乗 上 也 ﹂ と な つ て を り、 し か も、 本 義 云 の ﹁ 結 三 収 二 入 一 一 ﹂ の 科 段 釈 は、 奈 九 三 本 に も ﹁ 第 二 結 レ 入 一二 乗 こ と 記 さ れ て は い る が、 前 述 の 経 文 よ り、 約 百 六 十 字 後 の ﹃ 是 ハ チ レ ナ リ 故 三 乗 即 是 一 乗 ﹄ ( 一 〇 七 頁) の 科 段 釈 で、 同 文 に は 見 え て も、 そ の 役 目 が 全 く 相 違 し て い る。 レ サ キ ニ ス ヲ ダ ス ヲ ズ ト 亦、 太 子 疏 ( 一 〇 六 頁) の ﹁ 本 義 云、 此 前 料 二 簡 仏 出 画 非 下 レ ニ シ テ ヲ テ ス ニ ト 是 一 乗 収 岡 結 三 乗 一以 為 中 一 乗 上 ﹂ の 本 義 説 は、 奈 九 三 本 に も 見 え て い る が、 し か し、 奈 九 三 本 の 場 合 は、 前 述 の 通 り ﹃ 世 尊、 不 受 後 有 智 有 二 二 種 一 ⋮ ⋮ ﹄ ( 一 〇 六 頁) の 経 文 か ら の 科 段 釈 で あ つ た が、 太 子 疏 の 本 義 説 は、 こ の 経 文 か ら 約 百 四 十 五 レ ノ ノ ニ ハ 字 後 の ﹃ 世 尊、 彼 先 所 得 地 不 レ 愚 二 於 法 一﹄ ( 一 〇 六 頁) か ら の 科 段 釈 で、 同 文 で は あ る が、 夫 々 の 役 目 が 相 違 し て い る。 今 迄、 同 文 釈 と し て 一 応、 取 り 扱 つ て 来 た も の の、 実 は、 太 子-232-レ サ キ ニ ヲ ス ヲ ニ 疏 の ﹁ 本 義 云、 此 前 料 二 簡 仏 出 一 ⋮ ⋮ ﹂ と、 奈 九 三 本 の ﹁ 第 五 ス ル ヲ シ テ ヲ 料 二 簡 結 7 出 レ 仏 ⋮ ⋮ ﹂ と の ﹁ 前 ﹂ と ﹁ 結 ﹂ の 一 字 が 相 違 し て い る と い う こ と で あ る。 唯 一 字 の 相 違 で あ る か ら、 あ る い は、 ど ち ら か の 誤 写 で あ ろ う と も 考 え ら れ る が、 誤 写 で は な い。 レ サ キ ニ レ ノ ノ ニ シ テ 本 義 云 の ﹁ 此 前 ⋮ ⋮ ﹂ の ﹁ 前 ﹂ と は ﹃ 世 尊、 彼 先 所 得 地 不 レ ク ハ テ 愚 二 於 法 一﹄ の 経 文 よ り 約 百 四 十 五 字 の 前 の ﹃ 謂 如 来 以 二 無 上 デ テ ヲ リ タ マ フ ト ス ル 調 御 一 降 二 伏 四 魔 一出 二 一 切 世 問 一為 三 一 切 衆 生 之 所 二 謄 仰 一 ⋮ ⋮ 六 十 二 字 略 ⋮ ⋮ ﹄ の 経 文 を 指 し て い る も の で あ り、 奈 九 三 本 ニ ス ス ル ヲ シ テ ヲ の ﹁ 第 五 料 二 簡 結 7 出 レ 仏 ⋮ ⋮ ﹂ の ﹁ 結 ﹂ す る と は、 経 文 の ﹃ 世 尊、 不 受 後 有 智 有 二 二 種 ⋮ ⋮ ﹄ を 指 し、 本 義 云 が ﹃ 結 三 収 二 入 ニ 一 こ と ﹁ 結 ﹂ す る の 科 段 釈 が 示 す よ う に、 正 し く 奈 九 三 本 が ニ ス ス ル ヲ シ テ ヲ 云 う ﹁ 第 五 料 二 簡 結 ワ 出 レ 仏 ⋮ ⋮ ﹂ の ﹁ 結 ﹂ す る 科 段 釈 で あ つ た の で あ る。 即 ち、 奈 九 三 本 の ﹁ 結 ﹂ と、 本 義 云 の ﹁ 前 ﹂ と は、 夫 々 の 役 目 を 果 し た 一 字 で あ つ て、 誤 写 で は な い。 ル マ デ フ 亦、 太 子 疏 ( 一 一 〇 頁) の ﹁ 本 義 云、 従 レ 初 詑 下 ﹃ 謂 二 如 来 ・ ニ カ ス ト ノ ハ ル コ ト ヲ ル ニ ハ 応 ・ 等 正 覚 一 也 ﹄ 上 明 三 今 日 一 体 為 二 帰 依 之 本 嚇 而 今 不 レ 須 ﹂ バ ク ル コ ト ノ の 科 段 釈 も、 経 典 ( 一 〇 九 頁) の ﹃ 世 尊、 如 来 無 レ 有 -一 限 斎 時 ト ハ フ ⋮ ⋮ 七 十 六 字 略 ⋮ ⋮ 常 住 帰 依 者 謂 二 如 来 ・ 応 ・ 等 正 覚 一 也 ﹄ ノ ま で の 経 文 を 指 し て い る も の で あ つ て、 こ れ を 本 義 は ﹁ 今 日 ノ 一 体 ⋮ ⋮ ﹂ と 釈 す る の で あ る。 ﹁ 今 日 一 体 ﹂ と は、 仏 法 僧 の 三 宝 の 一 体 を い う の で あ る。 と こ ろ が、 奈 九 三 本 は ﹁ 明 三 常 住 ニ ニ 大 悲 為 二 帰 依 之 本 { 第 二 正 出 二 常 住 帰 依 之 体 こ と あ つ て、 仏 法 僧 の 三 宝 で な し に、 仏 宝 の 一 宝 の み の 注 釈 と な つ て を り、 こ れ も、 太 子 疏 の 本 義 説 と 奈 九 三 本 と は 相 違 し て い る。 太 子 疏 の 引 用 し て お つ た 十 三 回 の 本 義 説 の う ち、 四 ヶ 処 も 奈 九 三 本 と 相 違 し て い る 以 上、 太 子 疏 の 本 義 は 奈 九 三 本 の そ れ と 決 定 す る こ と に は 躊 躇 せ ざ る を 得 な い。 次 き に、 太 子 疏 の 引 用 し て お つ た 本 義 説 と は、 曼 師 釈 の そ れ で あ ろ う と い う こ と で あ る が、 太 子 疏 に 曼 師 釈 が、 相 当、 重 く、 取 り 扱 わ れ て お つ た こ と か ら の、 金 治 先 生 の 説 の よ う で あ る。 そ れ を、 最 も よ く、 ま と め た も の に、 四 天 王 寺 女 子 大 学 ・ 紀 要 ・ 第 三 号 の ﹁ 勝 髭 経 義 疏 の 本 義 の 学 系 と そ の 撰 述 者 ﹂ が あ る。 そ の 中 に、 十 項 目 を 挙 げ、 い ず れ も 江 南 系 の も の で あ る こ と を 指 摘 さ れ、 就 中、 曼 師 の 説 と し て、 菩 薩 階 位 の 分 判、 四 種 生 死 説、 生 死 後 際 釈、 十 八 界 観 釈、 如 来 蔵 釈、 三 徳 釈、 因 行 乗 体 説 の 七 項 目 を 挙 げ て お ら れ る。 金 治 先 生 の、 こ の 研 究 は、 正 に、 そ の 通 り で あ る。 し か し、 右 の 七 項 目 が、 曼 師 釈 で あ つ た と し て も、 こ れ を 以 て、 直 ち に、 太 子 疏 の 引 用 し て お つ た 本 義 説 が、 曼 師 の そ れ で あ る と は 云 い 得 な い よ う で あ る。 右 の 七 項 目 の う ち の、 四 種 生 死 説 と 三 徳 釈 の 二 項 目 に 就 い て は、 ﹁ 印 度 学 仏 教 学 研 究 誌 第 二 十 巻、 第 一 号 ﹂ に、 私 の 意 見 を 述 べ て お い た の で そ れ を 御 参 照 願 う こ と に し、 残 る、 五 項 目 の 事 で あ る。 残 る 五 項 目 は、 太 子 疏 の 引 用 し て い る 本 義 云 勝 髭 経 疏 の 本 義 に つ い て (渡 部)
-233-勝 蜜 経 疏 の 本 義 に つ い て ( 渡 部) と は、 何 等、 関 わ り の な い と い う 事 に 注 意 し な け れ ば な ら な い。 最 後 に 取 り 挙 げ た い の は、 太 子 疏 法 身 章 ( = 三 二 頁) の ﹁ 本 ト ト ハ ニ シ ッ ヲ シ ク カ ス ニ ニ カ ナ レ バ ト 義 云、 如 来 蔵 章 法 身 章 更 無 レ 別 レ 文、 但、 附 明 已 顕 不 レ ラ ニ ス コ ト ヲ 仮 二 別 出 一﹂ の 本 義 説 で あ る。 こ れ は 奈 九 三 本 に も 見 え て い る 注 釈 で あ る。 こ の 如 来 蔵 章 と 法 身 章 と を 別 に 立 章 し な い と い ノ リ ハ ノ う 事 に 就 い て、 吉 蔵 は 宝 窟 ( 七 二 頁) 上 に ﹁ 江 南 曼 師 等 従 二此 チ シ テ ヲ ズ ト ス ル ハ ノ ビ ヲ 文 ( ﹃ 世 尊 過 於 恒 沙 ﹄) 即 明 二 空 義 隠 覆 一 成 二 上 如 来 蔵 及 法 身 章 一 ニ グ ル ハ ト ト ヲ ナ リ サ ソ ガ ニ リ ニ 者、 上 挙 二 身 蔵 一 為 レ 明 二 聖 諦 甚 深 一故 在 二 聖 諦 章 内 一 ﹂ と、 曼 師 が 如 来 蔵 章 と 法 身 章 と を 別 立 し な か つ た 事 を 証 し て い る の で、 太 子 疏 の 本 義 説 が、 曼 師 の 説 で あ る か の よ う に 見 え る ギ タ ル ニ ニ し か し、 曼 師 の 空 義 隠 覆 章 は ﹃ 世 尊、 過 二 於 恒 沙 一 ⋮ ⋮ ﹄ ( 一 三 一 頁) 以 下 か ら の 科 段 釈 で、 太 子 疏 の 本 義 説 の 空 義 隠 覆 章 は、 前 述 の ﹃ 世 尊、 過 於 恒 沙 ⋮ ⋮ ﹄ よ り 七 十 二 字 以 後 の ﹃ 世 尊、 有 三 一種 如 来 蔵 空 智 一﹄ ( 一 三 四 頁) か ら の 科 段 釈 で あ る。 是 師 の 空 義 隠 覆 章 は、 実 は、 太 子 疏 ( コ 三 二 頁) の 引 用 す る プ リ ﹁ 又 云 従 二 ﹃ 過 於 恒 沙 ﹄ 以 下 ⋮ ⋮ ﹂ の ﹁ 又 云 ﹂ 説 で あ つ て、 本 義 説 と は 相 違 し て い る。 以 上、 太 子 疏 の 引 用 し て お つ た、 本 義 云 の 本 義 は、 曼 師 の そ れ と は 云 い 難 い。 曼 師 以 外 の 人 で あ つ た と 云 わ ざ る を 得 な い。 因 み に、 本 義 と い う 文 字 の 意 味 を、 諸 橋 大 字 典 に も と め て 見 る に、 ﹁ ま こ と の 意 義 ﹂ ﹁ 本 来 の 意 義 ﹂ ﹁ 書 物 の 本 来 の 意 義 ﹂ ﹁ 著 書 の 最 初 の 訓 ﹂ 等 と あ る。 ﹁ ま こ と ﹂ と か ﹁ 本 来 ﹂ と は 唯 一 つ だ け の も の で あ つ て、 二 つ も 三 つ も あ る 道 理 が な い。 ﹁ 著 書 の 最 初 の 訓 ﹂ も 唯 一 つ に 限 る も の で あ る。 法 華 義 疏 も 勝 髭 経 義 疏 も、 太 子 の 御 親 撰 で あ る と す る な ら ば、 法 華 義 疏 の 引 用 し て お つ た 本 義 も、 勝 髭 経 義 疏 の 引 用 し て お つ た 本 義 も 唯 一 つ、 聖 徳 太 子 の 本 義 で あ つ た に 相 違 な い。 三 経 義 疏 と い う 立 場 か ら 考 え て 見 る に、 法 華 義 疏 の 本 義 は 法 雲 師、 勝 髪 経 義 疏 の 本 義 は 曼 師 の そ れ で あ る と い う な ら ば、 維 摩 経 義 疏 の 本 義 は 肇 師 で も 智 蔵 師 で も よ い か ら、 そ れ を 本 義 と し て、 維 摩 経 義 疏 に も ﹁ 本 義 云 ﹂ と し て、 本 義 と い う 文 字 が 記 さ れ て あ つ て よ い 筈 で あ る。 維 摩 経 義 疏 に 本 義 と い う 文 字 の 見 え な か つ た の は、 法 雲 師 の 維 摩 経 の 注 釈 書 を、 太 子 は 見 る 事 が な か つ た か ら に 相 違 な い。 法 華、 勝 壼 の 太 子 疏 の 本 義 と は、 太 子 が 本 義 と し て 取 り 扱 つ た、 法 雲 師 の そ れ を い う の で は な か ろ う か。