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管理会計体系論の融合に関する一考察

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経済と経営 50‒1・2(2020.3)

〈論 文〉

管理会計体系論の融合に関する一考察

小 野 保 之

Ⅰ 序

 多様な管理会計の内容を区分して,なんらか系統的に整理するために,従来から管理会計の体系 化が論じられてきた。体系論は,マッキンゼイの『管理会計』1を嚆矢とする 1920 年代の管理会 計論の成立期から論じられてきたものである。体系論の意義について辻教授は,「管理会計の意義・ 概念を明確にするためにも,また関連する諸種の管理技技術をめぐって系統的な整理をはかるため にも体系論をめぐる議論が不可欠である」2と述べ,その重要性を示唆している。しかし,その一 方で,「総じて第 2 次世界大戦前までの体系論は貧困であった」3とも述べている。  たしかに,辻教授のいうように,体系論の議論が広く行われるようになったのは,1940 年代以 降のことである。しかし体系論の議論が盛んであったのは 1970 年代はじめまでであり,それ以降は, さしたる議論も行われていない。それでは,体系論の意義がなくなったというのだろうか。しかし 現在でも多くの本で体系論について取り上げていることを見ると、そうは思われない。また,現在 の体系論が完全なものなのであるとも思われない。なぜなら,ジョンソン=キャプランの『レレバ ンス・ロスト-管理会計の盛衰-』4の発刊以降,新しい管理会計技法が次々と生み出され,また, それ以後には戦略的管理会計が新しいカテゴリーとして確立するなど,近年,管理会計の領域が拡 大しているからである。このように,1970 年代当時と比べると,管理会計もそのフレームワーク を拡大しており,体系論の議論を再考する環境が生まれてきているといえるのではないだろうか。  そこで,本論では,新たな体系論の手掛かりとして,体系論の融合について論じていきたい。

1 J. O. McKinsey, Managerial Accounting,The University of Chicago, 1924. 2 辻厚生編著『管理会計の基礎理論』中央経済社,1985 年,128 ペ-ジ。 3 前掲書,128 ペ-ジ。

4 H. T. Jonson and R. S. Kaplan, Relevance Lost,: The Rise and Fall of Management Accounting Harvard Business School Press,1988., 鳥居宏史訳『H.T. ジョンソン R.S. キャプラン著 レレバンス・ロスト―管理会計の盛衰―』白桃書房, 1992 年。

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Ⅱ 既存の体系論の整理

 現在までに多くの体系論が論じられているが,主なものは次の 5 つである。        計算技法的体系論        職能別体系論        計画会計・統制会計体系論        意思決定会計・業績管理会計体系論        経営階層別体系論  本章では,体系論の融合を論じるにあたって,まず,この 5 つの体系論につい考察していきたい。 1 計算技法的体系論  初期の支配的な体系論のひとつが計算技法的体系論である。これは,管理会計の成立期に,事前(未 来)計算としての管理理会計特有の技法(とくに,標準原価計算と予算管理)を強調して体系化す ることで, 事後(過去)計算である財務会計との差別化をはかろうとしたものである。  しかし,たとえば,予算管理において,予算編成はたしかに事前計算であるが,統制の局面では 実績として事後計算情報も必要である。また,標準原価計算は,今日では,財務会計上の原価計算 方法のひとつでもある。このように,「財務会計といい,管理会計といっても,これはそれぞれの 果す役割にすなわち機能に即してとらえられたものであるから,もともと計算制度から区分するこ とが妥当ではない」5のである。さらに,計算技法は日々新しいものが生み出されており,計算技 法による体系化も常に変わって行く必要がある。この意味でも,不変ではないにせよ,確立した要 素をもつ体系論というものとしては,計算技法的体系論は,ふさわしいとは思われない。辻教授が, 前述のように,第 2 次大戦前の体系論が貧困であったというのも,この技法的体系論のことを指し ているのである。  では,初期的体系論としての技法的体系論の意義はどこにあったのか。これは,管理会計理論の 生成の時期にあって,財務会計との相違を強調することによって,管理会計というものを啓蒙する 役割を果たしたところにあるといえよう。  しかしながら,「会計の本質には技法としての側面があることは確かであるから,これを軽視す ることはできない」6のである。計算技法による体系化には,前述のように,根本的な問題がある ため,現在これを支持するものは少ないが,「計算技法的観点は,他の分類基準による体系づけに あたって,補完的な役割を果すものとして位置付ける」7ことができよう。 2 職能別体系論  技法別体系論と同様,初期の体系論が職能別体系論である。これは,生産などの企業の職能領域 5 溝口一雄編著『管理会計の基礎』中央経済社,1987 年,25 ~ 26 ペ-ジ。 6 前掲書,26 ペ-ジ。 7 前掲書,26 ペ-ジ。同様の見解は,河野二男『管理会計一般理論』税務経理教会,1996 年,53 ペ-ジ,中原章 吉編著『管理会計論』税務経理教会,2000 年,34 ペ-ジにもみられる。

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別に,独立の内容として体系化しようとするものであり,前出のマッキンゼイが,その著書の各章 を,販売管理,購買管理,運搬管理,生産管理に分けて論述している8のも,職能別管理の一例で ある。溝口教授は「会計管理の観点からすれば,前掲のような 4 つの領域に分けるよりは,むしろ, (1)生産,(2)販売(3)財務という 3 つの領域に区分することの方が,むしろより有用」9である としている。  この職能別体系論は,企業組織における分権化に呼応した部門管理に対応しており,その中で,「具 体的な計算技法を用いることを通じて行われることになるから,…(中略)…きわめて実践的な体 系である」10といえよう。しかし,一方で,多くの論者が指摘するように,職能別体系論は,上記 のように,分権的部門管理を中心としたものであり,その意味で,ミドルおよびロワ-・マネジメ ントの職能領域のみを取り扱うものであり,「トップ・マネジメントによる総合管理」11が無視さ れているという欠点がある。また,「この体系化では概念・技法間に重複」12がみられる。この批 判は,すべての職能に共通する「計画機能と統制機能との関係の明確化」という視点に通じるもの である。  このように職能別体系論は批判も多く,単独で体系論として成立するものではなく,「ほかの区 分基準と関連的に捉えられることによって,その妥当性を有することになる」13といえよう。 3 計画会計・統制会計体系論  戦後の体系論は,経営管理機能に関連して展開されてきた。管理会計が,経営管理に役立つ会計 情報を提供することを目的とすることを考えれば当然のことともいえよう。そのひとつが,計画会 計・統制会計体系論である。  計画(プラニング)と統制(コントロ-ル)という経営管理の基本機能に管理会計を分類する という体系は,ゲッツによりはじまる。しかし,1950 年代前は,統制のための基礎数値や目標 数値の設定そのものが計画の内容と考えられており,統制中心に両者は切り離せないものととら えられていた。ゲッツ14においても,計画と統制を結びつける媒介は,個人的責任(individual  responsibility)とされていたのである。しかも,ゲッツの著書は,体系論を論じることを目的とし たものではなく,「経営管理目的との関連で管理会計を論じ,その結果としてそこに計画のための 会計と統制のための会計が区分されるというかたちで管理会計の体系的思考があらわれてきたもの である」15という指摘もある。

8 J. O. McKinsey, Op. Cit.

9 溝口一雄,前掲書,26 ページ。 10 山田康平編著『経営管理会計の基礎知識(改訂版)』東京経済情報出版,2002 年,11 ページ。この実践性については, 河野二男,前掲書,57 ペ-ジ,吉田弥雄『現代管理会計論(改訂版)』1998 年 46 ページにおいても主張されている。 11 中原章吉編著,前掲書,34 ページ。 12 志村正,上條秀三,長屋信義,藤井一夫『管理会計テキスト』東京経済情報出版,20001 年,10 ペ-ジ。 13 河野二男,前掲書,57 ペ-ジ。

14 B. E. Goetz, Management Planning and Control: A Managerial Approach to Industrial Accounting, New York, McGraw-Hill, 1949.

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 その意味で,計画の内容を明確にし,統制と切り離して,真の意味の計画会計・統制会計体系論 を展開したものが,AAA の「原価概念・基準委員会」1955 年度『中間報告書』16である。この『中 間報告書』では,計画会計が,通常の営業サイクル外で行われる計画であり,個々のプロジェクト ごとに個別的・臨時的な計画設定が必要な個別計画(project planning)と,通常の営業サイクル内 で行われる計画であり,個々の計画間の関係性を考慮してたてる一定期間の総合計画である期間計 画(period planning)に分類されている。このように,「計画とは,2 つ以上の代替案を比較検討して, そのうち一つを選択・決定するという意思決定の過程であり,計画会計とは,これにできるだけ計 数的に接近しようとするのがその使命である会計」17である。したがって,『中間報告書』では,ゲッ ツと反対に,計画会計を中心とした体系論となっている。  松本教授は,次の 3 点から両者に異質性が認められることが,計画会計・統制会計体系論を主張 する根拠であると指摘する。 「(1) 計画会計においては,将来とりうる,いくつかのやり方について期待値が計算され比較され る。…(中略)…これに対し統制会計においては,統制期間において達成すべきはずの目標 値と実現した実績とを比較して差異を計算し,これを分析する。…(後略)… (2) …(前略)…それゆえに計画会計は臨時計算であるのに対し,統制会計は,経常計算として 行なわれる。 (3) 計画会計は。必要に応じて臨時的に行われる未來値と未來値との比較であるから通常会計制 度に組み入れられないが,統制会計は,経常的に行なわれる目標値と実績との比較であるか ら,会計制度へ組み入れられる。」18 しかし,松本教授は,逆に,この体系の欠点も指摘している。 「(1) 同じく計画といっても,非定型的な長期計画と定型的な短期計画とは性質を異にしている。 …(中略)…それゆえに両者に役立つ会計情報は質を異にしている。…(後略)… (2) 短期の計画は,統制によってささえられ,統制は計画によって達成目標を与えられる。それ ゆえに両者は不可分の関係にある。…(中略)…にもかかわらず,上述の体系においては, 前者は計画会計として,後者は統制会計として,両者は切断されている。 (3) 個別計画と期間計画は,それぞれにこれに役立つ会計の性質を異にしているに もかかわら ず,上述の体系においては,この区別がなされていない。 (4) 管理会計は,具体的には,財務会計と原価会計わかれて存在しているにもかかわらず,上述 の体系は,この点の考慮に欠けている。」19  とくに問題となるのは(2)で,要するに,「期間計画と統制とは一体的にマネジメント・プロセ スの構成要素であるからこれらを切り離せないという考え方があって,計画と統制を区別すること ができない」20という結論に至ったというのである。

16 American Accounting Association, 1955 Committee on Cost Concepts and Standards, “The Tentative Statement of Cost Concepts, Underlying Reports for Management Purposes,” The Accounting Review Vol.133, No.2, April 1956. 櫻井通晴訳 『AAA・原価・管理会計基準』中央経済社,1975 年。

17 中原章吉編著,前掲書,35-36 ペ-ジ

18 松本雅雄『管理会計総論』同文舘,1971 年,13 ペ-ジ。   19 前掲書,14 ペ-ジ。

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 この計画会計・統制会計体系論の欠点を解消するものが,次節で取り上げる意思決定会計・業績 管理会計体系論である。 4 意思決定会計・業績管理会計体系論  意思決定会計・業績管理会計体系論を最初に提唱したのがベイヤ-21である。その背景には, 当時「事業部制組織が大企業に普及するなど管理会計環境が変化したことにより,業績管理のため の直接原価計算と貢献利益への関心が高ま」22ったことがあったことがあげられる。

  ベ イ ヤ - は, 会 計 を, 財 産 保 全 会 計 (custodial accounting), 業 績 管 理 会 計(performance accounting),意思決定会計(decision accounting)に 3 区分し,財産保全会計を財務会計,残り 2 つ を管理会計にあたるものとしている。  このうち業績管理会計について,ベイヤ-は,「組織上の責任単位ごとのなんらかの計画に対し て数量的に対応させることである…(中略)…それはまた原価以外の数量的デ-タも含む…(中略) …その特徴は,責任単位ごとに計画された業績に対して(実際に達成された)業績を測定するのに 役立つことである」23と定義する。ここで注意すべきは,この定義においては,業績管理会計の領 域は必ずしも明確にはなっていないということである。つまり,この定義では,計画と統制の融合 について述べられているが,その計画がどの領域の計画を指しているのかが不明なのである。しか し一方で意思決定会計については,意思決定会計における「意思決定は,個別計画設定によるもの のみに限定されている」24のである。このことから考えると,業績管理会計は,期間計画会計と統 制会計の融合したものであることが示唆されるのである。  山邊教授は,(1)期間計画と統制の経営管理の面からの不可分性,(2)意思決定会計(個別計画 会計)と業績管理会計(期間計画会計および統制会計)の会計概念の相違性(前者は差額収益・原 価であるのに対し,後者は管理可能収益・原価)(3)意思決定会計と業績管理会計の会計実体の相 違性(前者はプロジェクト実体であるのに対し,後者は責任実体),との 3 点から,意思決定会計・ 業績管理会計体系論を支持する25とし,意思決定会計を個別計画のための会計,業績管理会計を 期間計画と統制のための会計として明確に位置付け,次のように図示している。

プロジェクト・プランニング→ピリオド・プランニング→コントロ-ル

計画会計

統制会計

意思決定会計

業績管理会計

出所:山邊六郎『管理会計』千倉書房,1968 年,79 ペ-ジ。

21 R. Beyer, Profitability Accounting for Planning and Control, Ronald, 1963. 22 上埜進『管理会計―価値創出をめざして―[第 3 版]』2007 年,26 ペ-ジ。 23 Ibid., p.17,( )内加筆。

24 吉田隆紀『業績管理会計』中央経済社,1984 年,4 ペ-ジ, 25 山邊六郎『管理会計』千倉書房,1968 年,80-81 ペ-ジ。

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 意思決定会計・業績管理会計体系論は 1965 - 66 年度企業利益研究委員会の公表した『管理会計 上の利益概念に関する意見書』他,多くの論者が支持している26。しかしこの体系にも問題点が指 摘されている。とくに溝口教授は,この体系をとった場合,長期利益計画(期間計画として業績管 理会計に組み入れられている)と短期的な個別計画である個別業務計画(意思決定会計に組み入れ られる)の位置づけに問題がある27という。つまり,期間計画には短期利益計画と長期利益計画 があるが,長期利益計画は業績管理(統制)システムが整っているとは言えないので業績管理会計 ともいえず,個別計画でもないので意思決定会計ともいえない。また,個別計画には個別構造計画 と個別業務計画があるが,新製品の販売計画などの個別業務計画は,短期予算に組み込まれて実行 されることになるが,個別計画であるので業績管理会計ではないが短期予算であるため,計画会計 と統制会計が融合しているので意思決定会計とも言えない。したがって,長期利益計画と個別業務 計画に関しては,意思決定会計と業績管理会計のどちらに組み入れるにしても問題があるといえる が,溝口教授は,現段階ではと断ったうえで,長期利益計画を意思決定会計に属するものとして, また個別業務計画は業績管理会計に属するものとしておくのが良い28と主張する。   5 経営階層別体系論  経営階層別体系論は,企業組織に対応した体系論であるという点では職能別体系論と類似性を持 つ体系論である。しかし,職能別体系論が水平的に分割された企業組織を対象としたものであるの に対し,経営階層別体系論は経営者層という垂直的に分割した体系論であるところに違いがある。  経営階層別体系論はアンソニーによるものである。彼は,経営意思決定活動の目的から意思決定 を分類しようと試み,まず,経経営管理者を,トップ・マネジメント,ミドル・マネジメント,ロワー・ マネジメントの 3 層に分け,それぞれに対応する意思決定を,戦略的計画(strategic planning),マ ネジメント・コントロール(management control),オペレーショナル・コントロール(operational control)の 3 つに分類し,体系論を展開している。29  戦略的計画は,組織の目的,これらの目的の変更,こられの目的達成のために使用される諸資源, およびこれらの資源の取得・使用・処分に際して準拠すべき方針を決定するプロセスである。した がって,戦略的計画は,企業経営の根幹にかかわる基本計画であり,現在の経営構造を変化させ, 長期にわたって企業経営に影響をおよぼすものであり,もっぱら,トップ・マネジメントによって 行われる意思決定である。  マネジメント・コントロールは,組織の目的達成のために必要とされる資源を有効的かつ能率的 に取得・使用することを確保するプロセスである。これは,戦略的計画で設定された,組織の基本 目標・方針にしたがってこれを実現するために行われる,主としてミドル・マネジメントの遂行す る意思決定である。 26 たとえば,山田教授は,各種体系論を述べたあとで,「この体系がもっとも優れていると考える」(山田康平,前掲書, 16 ペ-ジ)と意思決定会計・業績管理会計体系論への支持を表明している。 27 溝口一雄編著『文献学説による管理会計論の研究』中央経済社,1984 年,19 ペ-ジ。 28 溝口一雄編著『管理会計の基礎』,34 ペ-ジ。

29 R.N., Anthony, Planning and Control Systems: A Framework for Analysis, Harvard Univ., 1965. 高橋吉之助訳『経営管 理システムの基礎』ダイヤモンド社,1968 年。

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 オペレーショナル・コントロールは,特定のタスクを有効的かつ能率的に遂行することを確保す るプロセスである。これは,もっぱら,ロワー・マネジメントによって行われる意思決定である。  ライチ = デービスは,それ自身は経営意思決定活動ではないが,意思決定に対するデータを与 える重要な業務活動である取引処理(transaction processing)を第 4 の区分として加え,それぞれの 区分に必要とされる情報の性質を次表のようにあらわしている。 経営活動を支援するために必要とされる情報の必要条件 データおよび 戦略的計画 マネジメント・ オペレーショナル・ 取引処理 情報の特性 コントロール コントロール 時間範囲 長期かつ未来的 短期(日常) 即時的 使用頻度 まれ 頻繁 連続的 精密度 重要性低い 非常に重要 非常に重要 源泉 ほとんど外部的 ほとんど内部的 ほとんど内部的 詳細度 要約的 非常に詳細 完全に詳細 情報の範囲 広い 狭い 非常に狭い

出所: Leitch, R. A. and K. R. Davis, Accounting Information Systems Theory and Practice second ed., Prentice-Hall,1992, p.32, Figure 2-5.  ここで問題になるのは,それぞれの分類に対応する領域は何かということである。それぞれの名 称からは,戦略的計画のみが計画会計の領域で,マネジメント・コントロール,オペレーショナル・ コントロールは統制会計の領域に含まれることになるが,それほど単純ではない。内容からみると, 戦略的計画は個別計画会計,マネジメント・コントロールは期間計画会計と統制会計,オペレーショ ナル・コントロールは,現場での統制会計ということになろうか。しかし,これも完全にはあては まらない。これは,アンソニーの体系が経営意思決定を中心とした体系であり,管理会計のみの体 系論ではないからである。たとえば,戦略的計画には,「会社目的の選択」,「人事方針の決定」など, マネジメント・コントロールには,「スタッフ人事の決定」,「工場レイアウト変更」など,またオペレー ショナル・コントロールには,「雇用活動の統制」,「生産スケジューリング」など,管理会計の対 象外の項目が含まれている30のである。また管理会計は,3 つのカテゴリーのうち「マネジメント・ コントロールと大いに関連している」31という見解もある。このことは,アンソニー自身「マネジ メント・コントロールを,とくに管理会計を同等とみなしている」32ことからもわかる。  このアンソニーの体系論を支持する論者も多い。伊藤教授は,その理由として,「その枠組み自 体の斬新さに追うところが大きい。だが,これにくわえて,それが伝統的な計画設定・統制の枠組 みと完全に対立するものではなく,むしろ両者の間に一定の相関が認められたからといえるであ 30 河野二男,前掲書,100 ペ-ジ。 31 志村正他,前掲書,10 ペ-ジ。 32 伊藤博,『管理会計の世紀』税務経理協会,1992 年,279 ペ-ジ。

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ろう」33と述べている。   しかし,この経営階層別体系論にも。いくつかの問題点が存在する。上記の伊藤教授も 3 つのプ ロセスについて,「実務上はもちろん概念上もこれを明確に類別することは困難である」34と問題 点を指摘している。管理会計の体系論は,「アンソニーに至ってもまだ定まることが」35ないので ある。

Ⅲ 融合型体系論の先駆

 既存の体系論同士を融合した先例はない。しかし,既存の体系論とサイモンの経営意思決定の分 類を結びつけて 1 つの体系論を構成したものは,ASOBDAT とゴリー = スコットモートンの 2 例が ある。 1 サイモンの経営意思決定の分類  1960 年代に入ると,コンピュータを経営意思決定の道具として利用しようとする動きがでてき た。ここで,まず問題となるのは,経営意思決定の内容であろう。つまり,コンピュータ化との関 連で,経営意思決定がどのような構造をもつのかが問われることになるのである。  経営意思決定をコンピュータとの関係から論じた先駆者として,サイモンがあげられる。サイ モンは,経営における意思決定のコンピュータ化という点に関連して,意思決定の分類を行って いる36  彼は,まず,意思決定プロセスには,(1)情報(intelligence),(2)設計,(3)選択,(4)再検 討の 4 つの局面があることを指摘する。  情報の局面では,問題の確認,情報(information)の収集を中心として,必要とされる意思決定 についての環境が探索される。設計の局面では情報局面において確認された問題についての各種代 替案の提示および分析が行われる。選択の局面は,種々の代替案のなかから最良のものを選択する 選択プロセスである。再検討の局面は,既存の選択の評価,再検討のプロセスである。  このような意思決定プロセスの諸局面を提示したうえで,彼は,経営における意思決定のタイプ を,コンピュータ用語を用いて,プログラム化されるもの(定型的)とプログラム化されないもの (非定型的)との 2 つに区分している。  反復的でルーティンであり,また問題処理の手続,つまりすべての意思決定プロセスの局面が明 確化されている意思決定が,プログラム化された意思決定ないしは定型的)意思決定であり,その 例としては,通常の注文品に対する価格の設定,事務用品の補充注文などがあげられる。こうした 意思決定に対しては,その構造や解決方法が明白であるため,コンピュータ化は容易である。 33 伊藤喜博『管理会計のパースペクティブ』上智大学出版会,2001 年,16 ペ-ジ。 34 前掲書,16 ペ-ジ。 35 伊藤博,前掲書,279 ペ-ジ。

36 H. A. Simon,The New Science of Management Decision, Prentice-Hall, 1977. 稲葉元吉・倉井武夫訳『意思決定の科学』 産業能率短期大学出版部,1979 年。

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これに対し,まれにしか発生せず,その性質や構造がとらえがたく,意思決定プロセスの全局面が 不明確であり,また重大な意思決定がプログラム化されない意思決定ないしは非定型的意思決定と 称されるのである。このような意思決定の例としては,新製品の開発計画や,設備更新などをあげ ることができよう。このような意思決定については,それを取り扱う定石といったようなものは存 在せず,既存の方法が利用不能であるためコンピュータ化することが困難となる。  このように,サイモンは,経営意思決定について,コンピュータ化になじむものとなじまないも のとがあることを指摘するのである。 2 ASOBDAT の体系論  AAA は,1966 年に ASOBAT(『基礎的会計理論』)を刊行した。ASOBAT は,会計を「情報の利 用者が事情に精通して判断や意思決定を行なうことができるように,経済的情報を識別し,測定し, 伝達するプロセス」37と定義し,会計の本質を情報提供システムとしてとらえた。  このように会計を情報提供システムととらえることによって,ASOBAT は,会計の枠組みも作 り変える。すなわち,従来,財務会計と管理会計とに分化されていた会計の機能を,情報の利用者 の相違という点に矮小化し,前者を外部情報利用者に対する会計(外部情報会計)として,また後 者を内部情報利用者に対する会計(内部情報会計)としてそれぞれ情報会計の 1 領域として内包す るような,会計の全領域に対する広範な枠組みを提供するのである。  ASOBAT の会計一般に関する定義が,このように革新的であったのに対して,管理会計(内部 情報会計)に関する定義にはとくに新しさはない。すなわち,ASOBAT は,1958 年度 AAA 管理 会計委員会の報告書38の定義を援用し,管理会計は「経済主体の実際の経済資料と計画上の経済 資料を処理するにあたって,合理的な経済目標を計画し,この目標を達成しようとして合目的的な 意思決定を行なうにあたって,経営管理者を助けるために,利用目的に適合した技術および概念を 適用すること」39と定義している。  こうした管理会計の定義に続いて,ASOBAT は,経営管理者(会計情報の内部利用者)の立場 を強調したうえで,前述の 1955 年度の AAA 原価諸概念および基準委員会『中間報告書』と同様, 経営管理者の基本的機能として計画と統制があることを述べ,経営機能による管理会計の体系論を 展開する。この点では,ASOBAT の体系論も,伝統的な経営機能による体系論の立場にたったも のであるといえる。しかし,ASOBAT は,伝統的な体系論をただ踏襲するのではく,経営意思決 定を重視することによって新しい体系論の枠組みを提示するのである。  ASOBAT は,「計画とはいくつかの代替案のなかから選択をすることを意味し,また,全部では ないとしても,主として意思決定活動である」40と述べ,こうした管理会計の体系のなかで,とく

37 AAA Committee to Prepare a Statement of Basic Accounting Theory, A Statement of Basic Accounting Theory, American Accounting Association,1966, 飯野利夫訳『アメリカ会計学会  基礎的会計理論』国元書房,1969 年,2 ページ。 38 AAA Committee on Management Accountings,“Report of Committee on Management Accountings,” The Accounting Review

(April,1959)

39 AAA Committee to Prepare a Statement of Basic Accounting Op. Cit., 飯野利夫訳 , 前掲訳書,58 ページ。 40 Ibid., 前掲訳書,64 ページ。

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に計画機能を意思決定と関連の深いものとしているが,この意思決定が最上層部から下層部までの さまざまな意思決定階層によって行われるものであるという観点から,計画会計の領域を定型的な ものと非定型的なものにわけるのである。したがって,これに呼応して,統制会計も計画会計と同 様,定型と非定型に分離されることになる。  ここで注意しなければならないのは,この ASOBAT の定型・非定型の区分が,サイモンの意思 決定の分類に対応していることである。このように,ASOBAT の体系論の特徴は,当時急速に進 みつつあった会計のコンピュータ情報システム化の可能性を考慮して,サイモンによる経営意思決 定のフレームワーク41と,伝統的な計画・統制による区分とを結びつけたところにあるといえる。 すなわち,ASOBAT の体系論は,「経営活動のコンピュータ化の進展という技術的基礎に依拠して おり,コンピュータ化した活動をもって定型とし,しからざるものを非定型とするという,きわめ て実践的な指針の提供に通じていることに注意しなければならない」42のである。  このように,計画・統制会計に定型・非定型の区分をもちこむことにより,ASOBAT による経 営管理のフレームワークは,次図のように(1)~(4)までの 4 つの局面で示されることになる。 経営管理のフレームワーク

出所: AAA Committee to Prepare a Statement of Basic Accounting Theory, A Statement of Basic Accounting Theory, American Accounting Association,1966, 飯野利夫訳『アメリカ会計学会  基礎的会計理論』国元書房,1969 年,64 ページ。  この ASOBAT の体系で,前述の松本教授の計画会計・統制会計体系に対する批判のうち(1)非 定型的な長期計画と定型的な短期計画との性質の相違を考慮していないという欠点は解消される。 また,ASOBAT の 4 区分は,経営階層別体系と同様,「経営管理の階層化に対応したものである」43 という長所もある。具体的には上図で,(1)に相当するものはトップ・マネジメントの行う基本計 画業務であり,(4)に相当するものは工場などにおけるロワー・マネジメントの行うようなルーティ

41 ASOBAT は,Simon, H. A., The New Science of Management Decision, Harper and Brothers Publishers, 1960, を引用して いる。 42 辻厚生編著,前掲書,133 ページ。 43 中原章吉編著,前掲書,37 ペ-ジ。 活 動 機 能 非 定 型 的 活 動 定 型 的 活 動 計 画 (1) (2) 統 制 (3) (4)

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ンな統制業務である。ミドル・マネジメントの業務は実施機能として(2)および(3)に相当する ことになる。これを図示すると次図のようになる。 戦略的計画 トップ・ マネジメント マネジメント・ ミドル・ コントッロ-ル マネジメント オペレ-ショナル・ ロワ-・ コントロ-ル マネジメント 計 画 非定型活動 (1) 統 制 定 型 活 動 (4) 計 画 定 型 活 動 (2) 統 制 非定型活動 (3)

出所:N. C. Churchill and others, Based Information Systems for Management: A Survey, 1969, pp.10-11.

 ASOBAT の体系論は当初こそ注目されたが,定着することはなかった。それどころか,ASOBAT については,わが国では批判的見解も多い。その主なものは,定型・非定型区別についてなんの解 釈も示されてなく,ただサイモンの分類を援用したにすぎないとするものである44。そのことから 考えれば「ASOBAT の目的は,周辺領域おける最新のトピックスを網羅し,これを会計問題とし て再構成することにより,組織における会計の重要性を強調したものと思える。同時に,その分 ASOBAT はどちらかといえばアドホックな議論に終始していたとの印象を」45受けるという指摘も ある。  このような点から考えれば ASOBAT の行なった,計画会計・統制会計体系論とサイモンの経営 意思決定論との統合は,成功したものとはいえないと思われる。 44 溝口一雄編著,1987 年,前掲書,31 ペ-ジ,辻厚生編著,前掲書,134 ペ-ジ,他。 45 伊藤嘉博,前掲書,18 ペ-ジ。

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3 ゴリー = スコットモートンの体系論  もう 1 例は,アンソニーによる経営階層別体系論と,先のサイモンによる経営意思決定分類と をマトリクス的に統合したものである。この統合を行ったのがゴリー = スコットモートンであっ た46。ベルカウイは,ゴリー = スコットモートンの描く体系論(意思決定のフレームワーク)を多 少拡大した形で,次図のように描いている。 拡大したゴリー = スコットモートンのフレームワーク オペレーショナル・ マネジメント・ 戦略的計画 コントロール コントロール 売掛金管理 予算分析 タンカー船隊ミクス 受注 短期予測 倉庫およびプラント立地 構造的 在庫再発注 エンジニアード・コスト (定型的) 製造のためのLP 在庫管理 差異分析 合併と買収 半構造的 生産日程計画 総合予算 資本獲得分析 (半定型的) 債券取引 予算編成 新製品計画 現金管理 雇用 研究開発計画 非構造的 PERT コストシステム 販売と生産 (非定型的)

出所: A. Belkaoui, Conceptual Foundations of Management Accounting, Addison-Wesley,1980, p.95, Exhibit 4.2.

 ゴリー = スコットモートンの体系論(意思決定の分類)のうえで重要なことは,彼らの論議の なかで構造的(定型的)意思決定と非構造的(非定型的)意思決定に加えて半構造的(半定型的) 意思決定がとりあげられたことである。ここで,前 2 者はサイモンのいうプログラム,ノンプログ ラムに対応するものである。すなわち,再論すれば,サイモンの主張する意思決定プロセスの諸局 面がすべて明確化されているものが構造的(定型的)意思決定であり,逆にすべてが明確化されて いないものが非構造的(非定型的)意思決定である。

46 G. A. Gorry, and M. S. Scott Morton, “A Framework for Management Information Systems,” Sloan Management Review, 1971, Fall.

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 これに対し,明確化される局面と明確化されない局面をあわせもつもの,換言すれば,すべてで はないが諸局面のうちひとつでも明確造化されていないものが含まれていれば半構造的(半定型的) な意思決定と呼ばれる。このように,サイモンの 2 区分の間にあるものとして半構造的(半定型的) な意思決定が設定されるのである。  サイモンの分類では,意思決定はコンピュータ化の観点から,それが容易なものと困難なものと に大別された。しかし,経営意思決定はそのように明確に 2 分できるものではなく,むしろその 2 つの極の間に存在するものがあると考えられる。サイモン自身も,この点について,その「両者は 必ずしも現実にははっきりと区別しうるものではなく,むしろ一方の極に高度にプログラム化しう る意思決定を置き,他方の極に高度にプログラム化しえない意思決定が置かれた,いわば一つの連 続体である」47と指摘しているのである。  この定型・半定型・非定型の 3 区分にアンソニーの各カテゴリーの内容を分類したものが左図で あるが,これをみると経営階層別体系に関する前章の論述との相違が明らかになる。前章の論述で は,「戦略的計画は,企業経営の根幹にかかわる基本計画であり,現在の経営構造を変化させ,長 期にわたって企業経営に影響をおよぼすもの」としていた。この意味では意思決定のタイプは,非 構造的(非定型的)意思決定ないしは半構造的(半定型的)意思決定となるが,実際には構造的(定 型的)意思決定と半構造的(半定型的)意思決定であり,非構造的(非定型的)意思決定は含まれ ていない。  また,「マネジメント・コントロールは,戦略的計画で設定された,組織の基本目標・方針にしたがっ てこれを実現するために行われる」ものとしていた。これによれば,対応する意思決定タイプは, 半構造的(半定型的)意思決定と構造的(定型的)意思決定となる。さらに,オペレーショナル・ コントロールは,「特定のタスクを有効的かつ能率的に遂行することを確保するプロセス」である。 これには,構造的(定型的)意思決定が対応する意思決定のタイプである。しかし実際には,両者 とも 3 つすべてのタイプの意思決定が含まれている。  とくに,戦略的計画に非構造的(非定型的)意思決定に相当する意思決定項目が含まれていない のには違和感を覚える。しかし,後述するように,2000 年代以降,戦略会計の分野が発展し,こ のカテゴリーが増大しており,現在では非構造的(非定型的)意思決定に属する項目も増えている。 いずれにしても,すべてのカテゴリーにすべての意思決定のタイプが含まれていることは,アンソ ニーの経営階層別の意思決定分類とサイモンの経営意思決定フレームワークとは,1 対 1 ではリン クしていないものといえよう。  また,この体系論と,同じくサイモンのフレームワークと結合した ASOBAT の体系論との間に も齟齬が生じていることもわかる。つまり,前節で述べた ASOBAT の体系論が経営階層別に「非 定型的計画に相当するものはトップ・マネジメントの行う基本計画業務であり,定型的統制に相当 するものは工場などにおけるロワー・マネジメントの行うようなルーティンな統制業務である。ミ ドル・マネジメントの業務は実施機能として定型的計画および非定型的統制に相当することにな

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る」ことを示唆しているが,ゴリー = スコットモートンの体系論を見る限り。上述のように,定型・ 非定型の分類をアンソニーが意図していなかったことを明確にしただけでなく,計画会計,統制会 計の分類にも捉われていなかった(たとえば,オペレーショナル・コントロールのなかに,生産日 程計画と在庫管理が含まれている)ように思われる。  もちろん,ASOBAT は計画会計・統制会計体系論が前提にあり,ゴリー = スコットモートンの 体系論の元になったアンソニーの体系論は経営者層の意思決定を基盤としたものであって,それぞ れの出発点が異なるのであり,そこに相違が生じるのも当然であるともいえよう。  ゴリー = スコットモートンの体系論は,体系論としては大きな影響を与えなかった。なぜなら, ゴリー = スコットモートンの議論の中心は,経営意思決定構造を,構造的(定型的)意思決定,非 構造的(非定型的)意思決定および半構造的(半定型的)意思決定の 3 区分としてとらえることそ のものであったのである。  ゴリー = スコットモートンの議論の趣旨は,体系論の主張にではなく,経営意思決定に関する コンピュータシスムのひとつである DSS(Decision Support Systems,意思決定支援システム)の利 用を主張することにあったのである。つまり,彼らは,上述の分類にもとづき,構造化(定型化) された意思決定に対しては,従来の狭義の MIS に相当する SDS(Structured Decision Systems,構造 的意思決定システム)を,また構造化(定型化)されないないしは半構造的(半定型的)な意思決 定に対しては DSS を利用することが適切であると提言することが主題であったのである。

Ⅳ 融合的体系論のプロトタイプ

 前章で述べた体系論融合の先駆的研究は,決して成功したものとはいえなかった。それは,これ らの研究が,体系論同士の融合を目指したというより,体系論と隣接諸科学の成果の結合を目指し たものであったという点に原因があったといえるかもしれない。当時,学際的研究という名で,隣 接諸科学の成果を積極的に取り入れようという動きが会計でも盛んであった。しかし,その大半に ついては,「他分野からの研究成果の導入はいつも表面的かつ断片的であり,…(中略)…他分野 の歴史的な理論展開の流れを的確にフォローしてもいない」48ものでであった。その意味で,前述 の 2 つの先行研究もその域をこえたものではなかったといえる。  ところで体系論同士の結合といっても,ただ異なるものを表面上結びつけただけでは,先駆者の 轍を踏んでしまうことになりかねない。体系論の融合は,その結果が既存の融合論の欠点を補い合 う形で,実質的な内容をもつことを目指したものでなければならない。その手掛かりは志村教授の 体系化の議論にあると思われる。 48 伊藤嘉博,前掲書,19 ペ-ジ。

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 志村教授は,各種の体系論をあげたあと,彼自身はベイヤーの意思決定会計・業績管理会計体系 論をとるとするが,計画会計・統制会計の議論も踏まえて体系化の議論を次図のように示す49 経営管理と管理会計の体系

経営管理論

計画のタイプ

管理会計の領域

業務的意思決定会計

個別計画

意思決定会計

計画

設備投資意思決定会計

期間計画

利益管理会計

業績管理会計

統制

原価管理会計

出所 : 志村正他,前掲書,16 ペ-ジ,図表 1-9。  志村教授のこの論述を参考にして,以下,計画会計・統制会計体系論と意思決定会計・業績管理 会計体系論の融合について論じていきたい。 1 プロトタイプ(1)  融合体系論のベースとして ASOBAT の計画会計・統制会計体系論を用いる。前述したように ASOBAT の体系論には批判も多く,その後の発展もなかった。しかし。ASOBAT の体系論は,前 述のように,従来の計画会計・統制会計体系論の欠点の少なくとも一部を解決することができた。 その意味では優れた点を有している。また,伊藤教授によれば,管理会計体系論には、「(1)管理 会計の「貢献領域」に着目して役割期待を明らかにしようとする議論(ゲッツ以下アンソニーにい たる議論)と,(2)「貢献の仕方」に着目する議論(ASOBAT)の 2 つの潮流が認められる」50という。 この 2 つの潮流を 1 つにすることで,体系論融合のきっかけとしたいと思う。  では,後者の潮流は ASOBAT でよいとして,前者の潮流をいずれの体系論とするのか。ここで 留意すべきは,計画会計・統制会計体系論の欠点とされた計画と統制の不可分の関係にスポットを あてた意思決定会計・業績管理会計体系論である。この 2 つの体系論の融合をはかることにより欠 点のさらなる解消をはかることができると思われる 49 志村正他,前掲書,9-16 ペ-ジ。 50 伊藤嘉博,前掲書,19 ペ-ジ。

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 まず融合のために ASOBAT の体系論の行と列を入れ替える。  ベイヤー・山辺による意思決定会計・業績管理会計体系論では,個別計画会計が意思決定会計, 期間計画会計 + 統制会計が業績管理会計であるので,図示すると,次図のようになる。  上図 2 つを結合すると次図が描ける。      これにより,計画会計・統制会計体系論の最大の問題点ともいうべき,計画会計と統制会計の不 可分性が解消されるのである。ただし,上図には問題がある。前述の溝口教授の指摘のように,ベ イヤー・山辺の体系では期間計画に含まれる長期利益計画と個別計画に含まれる個別業務計画の位 置づけが不明確であるという点である。次節は,この問題から始める。 2 プロトタイプ(2)  前節は,ASOBAT の体系論と,意思決定会計・業績管理会計体系論の融合を試みたものであるが, 機 能 活 動 計  画 統  制 非 定 型 的 活 動 非定型的計画 非定型的統制 定 型 的 活 動 定型的計画 定型的統制 機 能 活動領域 計  画 統  制 非 定 型 的 活 動 意 思 決 定 会 計 非定型的計画 = 個別計画 非定型的統制 定 型 的 活 動 業 績 管 理 会 計 定型的計画 + 定型的統制 =        = 期 間 計 画 + 統   制 機  能 領 域 計  画 統  制 意 思 決 定 会 計 個別計画 業 績 管 理 会 計 期 間 計 画 + 統   制

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これは,これまでの例と同様,表面的に両者を結びつけただけというそしりを免れないと思われる。 なぜなら,ASOBAT の体系に対しては欠点の解消というメリットを認められるが,意思決定会計・ 業績管理会計体系論については,そのまま結びつけただけで,何のメリットもないからである。そ こで,この融合により,溝口教授の指摘による意思決定会計・業績管理会計体系論の欠点の解消が できるのかを試みてみたい。  溝口教授は,前述のように,期間計画には短期利益計画と長期利益計画があり,短期利益計画は 業績管理会計に含まれるが,長期利益計画については意思決定会計に含まれるものとする。また, 個別計画には,個別構造計画と個別業務計画があり,個別構造計画は意思決定会計に含まれ,個別 業務計画は業績管理会計に含まれるとする。しかし,その主張はあくまで暫定的であり,積極的な 根拠は示されていない。  この溝口教授の見解は,ASOBAT の定型・非定型の区分をとることにより,根拠を強固にする ことができると思われる。それについて,長期利益計画は,長期計画として設備投資計画などと同 様不確実性をもち,問題を解決する定石を持たないという意味で非定型的であり,個別構造計画と 同じく意思決定会計となる根拠をもつといえ,また,新製品販売計画などの個別業務計画はルーティ ンな短期計画として短期予算に組み込まれて実行されるのであり,統制を受け,問題解決が可能で あるという意味で,定型的であり,業績管理会計に含まれる根拠をもつものといえる。  これを踏まえて上図を書き直すと,次図のようになる。  さらに,「管理会計のさまざまな計算手法は,ひとつの体系のなかにそれぞれ位置けられて整理 されなければ」51ならない。その意味では,技法的体系論の取り込みによって概念的になりがちな 体系論を実践的な体系論へと昇華することができる。それに,1920 年代の技法的体系論は,ほぼ 予算管理と標準原価計算だけであったが,現在では管理会計技法も大幅に増大している。とくにこ こ 15 年あまりで「戦略管理会計(strategic management accounting)あるいは戦略的コスト・マネ

機 能 活動領域 計  画 統  制 非 定 型 的 活 動 意 思 決 定 会 計 非定型的計画 = 個別構造計画 長期利益計画 非定型的統制 定 型 的 活 動 業 績 管 理 会 計 定型的計画   + 定型的統制 =          = 短期期間計画(短期予算)+ 統   制 個別業務計画(短期予算) 51 山口操編著『エッセンス管理会計(第版)』中央経済社,,2003 年,260 ペ-ジ。

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ジメント(strategic cost management)に関する論文(著書)が多数発表され」52,それに関する技 法も大きく発展している。では,戦略管理会計は,どの領域に含まれるのだろうか。この点に関し て「意思決定は,企業の将来方向を決めるためにどのような戦略案から最適なものを選択するかの 戦略決定と考えられるので,意思決定会計は戦略会計とも考えられる」53のである。このように, 戦略管理会計は意思決定会計の一分野と捉えられるので,本図でも意思決定会計に含めるが,技法 別ではなく,山田教授と同様「1 つにまとめ」54て扱う。  また,非定型意思決定は統制が困難ないし不可能といわれている。本論文では,これまでも,非 定型的統制については具体的な扱いはしてこなかった。そこで,統制を業績評価に置き換えること で,具体的な技法をあてはめてみたい。  さらに,業績管理会計についても,従来の予算編成と予算統制が一体化した従来の予算管理に 異論を唱える主張がある。伝統的予算に関してはさまざまな批判が複数の論者によって行われて いる55。こうした論者のなかには,予算不要論(beyond budgeting,脱予算経営)ともいうべき主 張をするものもいる。彼らの多くは従来の予算システムのとくに,事後統制機能については,近年 の社会経済環境の変化の大きさから,差異分析という従来の統制が困難ないし不必要であるとする のである。  意思決定会計および業績管理会計におけるこのような変化を踏まえて,また管理会計技法を組み 込んで,上図は,次図のように書き直すことができる。 融合的体系論のプロトタイプ 52 山田康平編著,前掲書,16 ペ-ジ。 53 西村明,大下𠀋平ら著『新盤 ベーシック管理会計』,2014 年,5 ペ-ジ。 54 山田康平編著,前掲書,16 ペ-ジ。 55 拙稿「活動基準予算管理システムの適用に関する一考察」『経営論集』第 11 巻第 4 号,北海学園大学経営学会, 2014 年 3 月,51 ペ-ジ,図表Ⅱ -5,参照。 機 能 活動領域 項  目 計  画 業績評価 非 定 型 的 活 動 意 思 決 定 会 計 長期利益計画 設備投資 新製品開発など 長期予算編成 NPV,回収期間法 ゼロベース予算 ローリング方式 総合的評価 戦略的会計 PPM(BCG4 セルマトリックス) BSC,EVA 定 型 的 活 動 業 績 管 理 会 計 短期利益計画 予算不要論 短期予算編成 + 短期予算統制 短期(1 か月程度)収益マスター BSC 他複数の業績評価

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Ⅴ 結びにかえて

 1970 年代以降,その体系論こそひきつがれなかったが,ASOBAT の影響は明らかであり,とく に管理会計領域では, ASOBAT がその研究方向を決定付けたともいうことができる。櫻井教授は, この点について,「ASOBAT 以降の管理会計に関するアメリカ会計学会の諸研究は,基本的には ASOBAT で方向づけられた線に沿って研究が進められてきた」56と述べている。具体的に,管理会 計研究は高度に数学的なモデルと行動科学の方法論および成果を取り入れた行動会計研究へと傾倒 し,意思決定の解明およびモデル化の方向で発展していった。しかしながら,これらの成果は,理 論的にはともかく,実務にはほとんど影響をおよぼすことはなかった。  1980 年代後半には,管理会計実務のほとんどが陳腐化してしまっているということを,前述の ジョンソン = キャプランは『レレバンス・ロスト―管理会計の盛衰―』で明らかにし,先端的な 実務から学ぶべきことを示唆した57。これを契機に,「陳腐化してしまった伝統的な管理会計の限 界を克服する新たな管理会計の発展を模索する動向が加速することとなった。それが,いわゆる」 58戦略管理会計の領域である。  このように,現在でも管理会計の議論は盛んであるが,それは個別的に技法の問題として捉えら れるだけで,全体論に昇華することはなかった。つまり,「研究成果は管理会計論における新たな トピックスとして局所的に考察されることはあっても,体系論そのものとしてついぞ議論されるこ とはなかったのである。それどころか,管理会計論は,その時点からわれわれの理論の体系に関す る議論そのものを止揚」59してしまったようにもみえる。それでは,体系論にはもう議論の余地は ないのだろうか。体系論がひとつに収斂されているなら,そういうこともいえるだろう。しかし, 前述のように,現在,各論者によって複数の体系論が主張されている。体系論は収斂されてはいな いのである。では,体系論の必要性そのものがなくなってしまったのであろうか。しかし,多くの 管理会計の著書で体系論が論じられ,とくにテキストレベルの本では,総論のひとつとして取り上 げられていることがしばしばである。体系論の必要性は今なお,変わりなく存在しているのである。  管理会計は,初期の体系論からほぼ 40 年の論議を経て,長い個別論の時代に入った。個別論の 成果として,各種技法や戦略会計という領域が生まれた現在,全体論である体系論の議論を再開す る好機であると思われる。  本論文では,異なる体系論同士を融合することで互いの弱点をカヴァーしあい,より完全な体系 論を構築することができる可能性を示すことにより,体系論再考の契機としようとするものであっ た。その意味では一定の成果を得たものと思われるが,もとよりこれはプロトタイプを示したにす ぎない。70 年代までにはなかった新しい技法や領域を取り入れたとはいえ,まだ一部にすぎない。 また,その整理も緻密さを欠いたものである。これは,体系論の議論の手掛かりというべきもので あり,また今後の体系論研究の方向性を示唆したものである。さらなる議論は,稿を改めて述べて いきたい。 (了) 56 櫻井通晴『アメリカ管理会計基準研究』白桃書房,1981 年,5 ページ。

57 H. T. Jonson and R. S. Kaplan, Op. Cit., H.T. ジョンソン,R.S. キャプラン著,鳥居宏史訳,前掲訳書。 58 大槻晴美「戦略会計の意義」山田康平編著,前掲書,11 章,149 ペ-ジ。

参照

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