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あれも見たい!これも撮りたい!~私の昆虫撮影記~(その6 卵を守る昆虫)

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Academic year: 2021

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植 物 防 疫  第 69 巻 第 7 号 (2015 年) ― 48 ― 464 小説を読むときや映画を観るときに感動するシーン は、人それぞれだと思うが、愛する人や子供たちのよう な「大切なものを守る」場面は、多くの人にとって印象 に残り感動するシーンの一つと言えるだろう。 昆虫にも、このような他個体を守るという行動が見ら れる。行動学的には「利他行動」とよばれるもので、昆 虫のように感情がない生物には相応しい言葉とも言える が、どうも味気ないので、ここでは「守る行動」として おく。 社会性をもつハチ類は、巣を襲う外敵に対し、自分の 親兄弟(ここでは姉妹)を守るために、様々な行動を起 こす。しかしこのときの彼女らの行動は、集団で外敵に 襲いかかり、大あごでかじったり毒針で刺したりするこ とであり、この場面に遭遇したとしたら、多くの人は恐 怖を感じることはあっても、お世辞にも感動するシーン とはならないだろう。 昆虫において我々も感動するような「何か」を守る行 動は、「異性を守る」か「卵を守る」場面がこれに当て はまりそうである。しかしトンボの産卵時にオスがメス に連結していたり、すぐそばで飛翔していたりするの は、パートナーを大事に思って守っているというより、 「ちゃんと自分の精子を使って受精した卵を産んでいる かどうか、他のオスと交尾してしまわないか、目を光ら せている」という猜疑心に近いので、(状況を知ってい る者には)献身的な行動という感じはしない。一方で、 自分が産んだ卵を守るという行動は、状況としてまさに 自分の卵を「必死に守っている」のであり、それを観察・ 撮影するとき、ある種の感動に似た感情が湧き上がって くる。 しかし卵を守る昆虫はどのくらいいるのだろうか。社 会性が発達しているハチ類やシロアリ等は、女王が産ん だ卵をワーカーが預かり、それこそ成虫になるまで大事 に育てられるが、社会性をもたない昆虫の多くは、たい てい卵は産みっぱなしであり、卵を守る種類は、それほ ど多くはない。 卵を守るという形質は、どんな昆虫にも見られるわけ ではないが、カメムシの仲間に何種か見いだすことがで きる。なかでも背中のハート型の模様が印象的なエサキ モンキツノカメムシはその代表といえるかもしれない (図―1)。このメスは自分が産んだ卵を飲まず食わずで守 り続け、幼虫がふ化しても守り続ける。そして幼虫が 2 齢になってようやく育児から解放される。6 月ころにミ ズキの葉などで見られるこの光景は、何度見ても感動的 である。また水生昆虫のコオイムシはメスがオスの背中 に産卵し、オスはこの卵がかえるまでケアするいわば昆 虫界のイクメンだが、こうした行動も献身的な感じがす る。しかしオスとメス両方で卵を守る昆虫はいないよう で、卵を守る行動における昆虫界の男女共同参画はまだ 先のようである。 ハサミムシの仲間もメスが産んだ卵を守っているが、 彼女らの育児室は石の下とかなので、あまり目に付かな いのが残念である(図―2)。それだけに偶然見つけたと きの喜びは大きく、とても嬉しくなってしまう。しかし 臆病な彼女らは過度に驚かすと卵を置いて一時退散して しまうので注意が必要である。ハサミムシの卵保護に は、さらに献身的な行動をとるものがいる。なんとふ化 した幼虫に、 として自分の体を捧げてしまう種がいる のである。コブハサミムシの行動がそれで、とても興味 深いものの、もはや感動という段階を超えている行為で ある。まだ見たことのないこの献身的すぎる行動の撮影 は、これからの出会いにとっておくことにしよう。

千葉大学大学院 准教授

野村 昌史

(のむら まさし)

エッセイ

あれも見たい!これも撮りたい!

∼私の昆虫撮影記∼

(その 6 卵を守る昆虫)

図−1  エサキモンキツノカメムシ 図−2  ハサミムシ

参照

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