• 検索結果がありません。

[Physiographic and Hydrologic Environment of Rice Culture in the Vietnamese Part of the Mekong Delta]

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "[Physiographic and Hydrologic Environment of Rice Culture in the Vietnamese Part of the Mekong Delta]"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

東南 ア ジア研 究 13巻1号 1975年6月

特集 :メ コ ン デ ル タ の 自 然 と 農 業

木特集 には,1970-74年 の問 に国連 ア ジア太 平洋経 済社会委

L

Ti会- メ コン要 目 会,1√AC)な どの委嘱を うけて メ コンデ ル タ地域 の 圧守′!ミと農 業の調査 にたず 封 ) ったわがT醐 f究者 ・技術者 の 報吾 と,咋年度末 まで 九州 大学 に骨 学 してい た PT'Of-・ Xuil′n (Can Th()入学農学 部)の 幌!告を収めた。 本年 5月以 降南ベ トナム全 卜は両ベ トナム冊寺隼命政府 の支配 下に入 り, メ コ ンデ ル タの政 治的状況 は一 変 したが, その 自然 と農 業が新/柚 iベ トナムに もつ市 要件 は不変で あ り, これ らの報告 の中で論議 され た問題 の 多 くは依然 と してその 意 義を失 わない と想 わjLる0 本特 集を組 んだゆえんであ るO (編 集部)

デル タ稲作農業 の 自然環境 とデル タの開発構 図

才毎 田 能 宏 *

Phys

i

o皇r

aphi

candHydr

ol

o皇i

cEnvi

r

onme

ntofRi

c

eCul

t

ur

e

i

nt

heVi

e

t

name

s

ePar

toft

heMe

kon皇De

l

t

a

by

Yo

s

hi

hi

r

()K All)A

The Vietnamese part()fthe Mekong Delta isdividedint()sevenphyslOgraI,Lie (livisionsinrelationtori(・eculture.TheyareTrams-IiilSSaCII()rsl,Floodplain,Mo(len

Delta,CoastalComplex,T3r(〕ad Depression,Pl王1in ofRe(1ds andW est(汀n (1OこtStこll

Zone.Some()fthem arefurthersLIl)divi(1e(1. FlooLlplain i.q ilgml,en rill(、(Iup I,y thelMekong Elrl(1theI3assa(、'sfluviation. Trams-IiassLL(、lIorstisa slightly up】iftetl

LTeOlogl(・tjlock with flatgr()und surfilCe. Modern I)elt之Ii't.he(lownward extensioll ofFl()odl)lain and it has deltai(、netw()rksof rivers ofgreiLttidalrallge. Hroil(I

I)el)rL▲SSionis ablocked-in swamp behind CotlStalC(〕TnPlcx. These five(livisi()ns

f。rm theimportantricegrowingareaofthe(1elta・ Thet舶ttwo,PlllirlOfR(,edsan(I W esternCoastalZone,areswampy areaLS On the m;lrgln Ofthe delta stillwiliting possil)lereclamation. The dLImiLr(、Llti()1-Ofthe(livi・qi。nSan(1th(、ir su上)LIivihi()ns are

glVen in Fig.2.

Thedeltais:1Wetterrain,I,Pingslgnirledl'vtheplelltifullnOnH()。mllrとlinhHw]'th

evendistributionovertheriLinylnOnths(Fig.31,iultH ,vlow・1yingt()P,)gr叩 hy. The *京都大学

南ア ジア研 究 セ ン/

(2)

海 田 :デル タ稲作農業の 自然環境 とデル タの開発構図

deltais,however,divided intotwopartswith respectto the hydrologlC C(,nditions,

inwhichthealternationofdryandwetcyclesaremorepronouncedinonereglOn,and lesssignificantintheother. Thetwoclassesare closelyrelatedtothephysi()graphic (ljvisions;Trams-liassac llorst,Floodplain, and CoastalFlatcomprise the former

r(LEI.-n,andMo(ユernI)elta,Tミroadr)epressionandLagoonnlSwalebelongtothelatter. An ad;lI)t・'-一ionofthericegrowingmethodstothegivenhydr()loglCcon(1itions is

the(、hara(汁erthヱlt(lefinestherieぐCultureofthedelta. Ricegrowingdoesn()trely()Ⅰ -rjverw(,ltL

l

r,ifnotata

H

,hutit(lepends more on rainfalland its loe【11ized run-off whi(、hiseontrol】cdI)ynlicr()-relief. Thetll'ovecharこ1(、teristicsofthepres(lnthydrology ilr(iSuTlmと】′rizetlin T;ll,le1(,orresponding tO thephysiograPhy;lr一一ltyl)1(、altyl)tlSOf rif、cculture.

Theriverwater,however,wil一havetobetappe(1tomeettherequirem(,nt()fwater forTN ri(、e(newhigh-yieldingvarictjesofrice)whichisrapidlyextendingitsareaasthe earlyralnyS。王IS()n'scropaSwellasthedryseason'S(・rop・ At,un(hntflow ofrivers,

creeks all(I(、iulals is readily uJと11)lc as itisoftenperellnialbeingindtlced I)v the

slgnifi(・.,tnttidalfluctuationin thtゝseaandinmajorrivers. Thepossil'l(、tyI)eSOfriver w;LterCOntI・olandutiliziltionare(leserit)edand.qummilri-/JCdinthes;mletと1blt.,in view ()fgivingthefilVOral,le(、()nditionsto theexten(ユed TN riceandpossil)】e・liversifi(、ation orthedeltaagrl(、ulturt、.

The nElturalenvironment is onewhich willallow furthermodifi(、ation lJv the efforts of indivi(Iual farmers tlnd of1()calcommlLnjties on(,e illfr;lStru(、tuE11 iul(I

institutio11il1f;1(.ilitit、Hlrl-PrOvi(ie(1I)yther・ov(、rnment.

ま え が き -- デル タ稲 作農業 の 自然環境 へ の適応-デル タ農 業 の現 実 と 将 来像 を洞察 しよ うとす る とき,"現在 の農 業が いか に 自然的環境 に支 配 され, そ して いか に適応 して い るか を貝体 的 事実 に もとづいて明 らか にす る とい うことが一 つ の手 がか り, とい うよ りはむ しろ最 大の武 器 とな り得 る"- これが

1

9

7

4

7

8

月 の

2

カ月間3人 の 自然科学学徒 (池 形学,農業土 木学 ,稲作農学) が メ コンデル タを踏 査 して得 た 実 感的結 論で あ る。 メ コ ンデル タ は今 さまざま な農業 開発構想 が展開 され る舞 台 と な って い るO ベ トナムの農 業生産 の飛躍的拡 大 は山 にデル タの開発 にかか って い る とい う認識 にた って, 「デル タ 農 業 を集約 化す る 方途 は何 か」 とい う種 々の 構 想が 提 出 されは じめてい るわ けで あ る。 たかだか

2

0

0

ha

の水 田面積 を もつベ トナム儀 メコンデル タ といえ ど も,そ こに展開 され る農 業が進む方 向 も一 つで はない。 稲 作 に限 ってみて もメ コ ンデル タの現状 と将来 の方 向 は少 な くとも 丘つの特徴 的 な地域 に分 けて 考え るのが現 実的で あ る。 この五つ の タイプは 自然環境 の異質性 に よ って もた らされ る もので あ る。 小稿 の 目的 は, (1)メ コ ンデル タを 自然環境 に よ って い くつかに区分 し, それぞれ の環境要 素 を説 明 し,(2)自然環境 か らみてデル タの開発 は ど うい う方 向- 進むだ ろ うか とい うことに つ いての試論 を提 ,Tt..す るこ とにあ る。

(3)

東南 アジア研 究 13巻1号 結局稲作 は土 と水 によ って制約 され る。 そ して土 と水 の状態 は ことご とく地形 によ って決定 され る。気候要素 はメコ ンデル タで はほ とん ど均質 と考 えて よい。 したが って,小稿 はメコン デル タの発達史か らはな しを始 めな くてはな らないよ うで ある。 Ⅰ メ コ ン デ ル タ の 発 達 史 メコンデル タの発達史 は以下 の三つのステー ジに分解 され る。それ らは地塁一地溝 タイプの テク トニズ ム,地溝 にお ける堆積作用 および海岸形成作用 である。 地 塁-地溝 タイ プの テク トニズム メコン河流城 の一部で一つの地塁一地溝 タイプのテク トニズムが過去か ら多分現在にわた っ て続 いてお り, このテ ク トニズムによ って メコ ンデル タの骨格的構造 が形づ くられている。 こ れが高谷 のたてた一つ の仮説 であ る (TAKAYA,1974)。 この仮説 を証す る事象 は二つ ある。一 つはバ サ ック河の異様 なほどの直行形状,他 の一つはバサ ック河西部 に位 置す るモナ ドノ ック を もつやや高標高 の地塊 の存在で あ る。 バサ ック河 とこの地塊 の延長方位 はいずれ も北西一南 東方向を と り, これは東南 アジア大陸部において メ コン ・バ サ ック氾濫原, カ ンボジアの トン レサ ップ, ダ ランラ ック (大潮), タイ中央平原, ピン川 とつづ く最大 の地質的陥没嵩 の方向 に一致す る。やや高 い標高を もつ地 塊を ここで は地塁 (horst)と呼び, メコン河 とバ サ ック河 が流下す る低地 を地溝 (graben)と称 してお く。 地溝 における堆積作 用 ひとたび地溝が形成 され ると, そ こは東南 アジア大陸部の河川群 の大排水流路 となることは 自明で ある。 そ して 当然そ こで は諸川の流 出水 の営力による堆積作用 が展開 され る。河水 の運 ぶ シル トが大量で あれば流路 に沿 って幾組 もの 自然堤防 と後背湿地 の組 み合 わせの地形が発達 す る。時間 の経過 と共 に この地溝帯 は氾濫原 と呼ばれ るべ き堆積地形に変貌す る。 下流 に至 って地塁 と地 溝 の対称の程度が若干小 さ くな って くる地帯で は,堆積作用 はデル タ 形成作用 のスタイルを とる。 そ こで は単純 な 自然堤防 と後背湿地 の組み合 わせが一つの河谷 の 中でのみ形成 され るとい うタイプの堆積作用で はな く,河川本流 は幾す じもの分岐流にわかれ, 鳥足状 (bird-foottype)のデル タ河川 システムをつ くる。 地質学 的に こうい う地形 は新デル タ (ModernDelta)と呼ぶ ことがで きる。 大胆 に線 を ひ くと,SaDecよ り上流で メコ ンとバ サ ック河が2筋にわかれて並行 して流れ る地域 まで は氾濫原で あ り,VinhLong--CanTho- MyThoを結ぶ三角形の地域が新デル タで あ る。 海岸地形の形成 海岸形成作用- これはメコンデル タ主部を形成す る地質作用 の最終行程で ある。新デル タ 60

(4)

海 田 :デル タ稲作農業の 自然環境 とデル タの開 発構図 先端 で海 に注 ぐ堆積物 は 南 シナ海 の 東南 風が ひ き 起 こす西 向 きの 沿岸流 によ って西- 運搬 され る。 そ して 旧海岸 に沿 って列状 に再堆積 す ると,その浜 堤 の 内側 に ラグー ン (lagoon,潟湖) が と りのこ されて ゆ く。川 と海 の接点 で生 じる海 岸地 形形成 作 用 の もた らす結 果 の地 形は 現海岸 にほぼ 並 行 して 走 る幾列 もの浜堤 (beachridge)とラグー ン(潟湖 ) の組 み合 わせ地 形 で あ る。この海 の エネル ギーに よ って形 づ くられ た海岸 の 地 形 を今 ここで 海 岸 複 合 地 形 (CoastalComplex)と呼んで お こう。 デル タ周縁部 に生 じる調整作 用 上述 の

3

行程 に よ ってデ ル タの 骨格 が 形 成 さ れ る と,デ ル タ周縁 部で若干 の調整作用 が進行 Lは じ 図1 メコンデルタの地形発達史を模式化し た 図 LII」 バ サ ック酉布地塁,〔F〕 氾濫原

l

M

J新デルタ

,「

C

〕海岸複合

,〔B

大低地,LRコアシの原,〔W〕西海 岸

地帯

め る。前述 の海岸複合地形 が

に延長 されて ゆ くに つれて,この海 岸地 形 自身 とバサ ック西部の地 塁 との間 には大 きな潟湖 が とりの こされて ゆ く。 両者か らもた らされ る堆積 物 の鼠 は少 ないので,この広大 な潟湖 は急速 に堆積 されて はゆかず, 時 間の経 過 と共 に 巨大 な湿地状 の 低地 帯 とな って ゆ く。 したが って 盆状 の 広大 低地 (Broad Depression)がデル タ形成 調整作用 の もっとも典 型 的 な結果 と して 出現 す る。 ア シの原 (PlainofReedsまたはPlaincdes

J

ones)と呼ばれ る巨大 な湿地原 も同様 の過程 で 形成 された広大低地 で あ る。 しか しなが ら, この場合 せ き とめ作用 をす るのは新デル タの断続 す る自然堤 防列 で あ る。 メ コンデル タの西縁 において は タイ湾 の海水 面潮汐運動 と沿岸流 の エ ネルギーに よ って あ る特殊 な地形 が形成 され る。 これが ウ- ミンの森 と呼 ばれ る泥 炭低湿地 で あ る。 以 上 の大胆 な仮説 に もとづ くメコ ンデル タ形成 の発達史 を要約す ると図 1に 示 す よ うで あ る。 tl メ コ ン デ ル タ の 地 形 区 分 1974年7月か ら8月 に行 な った50日間 の 現地 踏査 (車),2日間 の 小型 飛行機 によ る観察,

1/50,000地 図, それにオ ランダチー ムの報告 (NetherlandDeltaDevelopmentTeam,1974)

な どに基 づいて メ コンデル タの地 形区分 を試 みた。デル タ地 形 の骨格 に関す る知見 は上 のメ コ ンデル タ発 達史 につ いて の洞察か らもた らされた もので あ る。地 形区分 は図2に示 した とお り で あ る。

(5)

東 南 ア ジア研 究 13巻1号 JH ,Ii JL/ \ll ゝ\

(

) Chou Doc

G

) S。C TrCjnCJ

phu … 1

0

Long Xuyen

∨・nh L。∩9

Bo⊂ L,eu

COrlTho

叫 Th。

C。】M'lU

G。 C。ng 〔R〕 ァシの原 水 田 地 帯 ハサ ック西部地塁 厘醜 独立丘

ヨ ハサ ック西部平原 氾 濫原 [享ヨ 自然堤防

[

云ヨ石

巨∃ 後背湿地 新 テル タ 園 新デル タ 海岸複合

r

<1-

E

コ 海岸平地 ⅢⅢ ラヴ:/状窪地 広大低地

W

〕 西鶴 蛸 Ⅲ 広大低地 図2 水 田立地 の視点か ら行 な ったメ コンデ ル タの地域 区分 .. 」 62

(6)

梅田 :デル タ稲作 農業 の 自然環境 とデル タC)開発構 図 バ サ ッ ク

西F

I

J

肘出畏 (Trams-13assacHorst) (1) 残 丘 (Monadonoe) (1.1) 平 脱 (Plate) (1.2)

濫 塩 (Fl()odplain) (2) 自然堤 防 (Levee) (2.1) 砂州 (SandliとIr) (2.2) 後背 湿 地 (IiackswとLmP) (2.3) 断デ ル タ (ModernDeltil,) (3) 自然堤 防 (I,evee) (3.1) 後背 湿 地 (13a(、kswamp) (3.2) 海岸複合地形 ((二()(,LStalComplex) (4)

浜堤 (Raisedliea(「IIRi(短e) (4.1) 裾 圭平 地 (C()astalFlat) (4.2) ラグ ー ン状 雄 地 (LagoonalSwale) (4.3) 広 大 低 地 (Br()adI)(、PreSSion) (5) ア シの原 (PlainofRee(ls) (6) ウ- ミンの森 (WesternC。astalZone) (7) 川 地形 と土壌 と水文-- 地形区分の説明-まず は じめ に メ コ ンデ ル タの降雨 に つ いて み て お こ う。月別降雨

のパ ター ンを8観 測 所 に つ いて 示 す (図 3)(。年制 分相古畳分 布 か らみ る とデ ル タは 四 つ の地 域 に区 分 され る (図 4)。 し か しなが ら, もっ と入 局 的 にみ る とデ ル タ全 体 は 久 馬 の知 夫区 分 グ ルー プVの 中 に入 って しま L(⊃「-g Xuyerl C(川 il() mn1 3

0

] 1 Ltl]

l

O nlm 二丈沿 勘跳 1∝) 0 1′SrnmrTl ユ L 」FM AMJJASOND I -M一二「 上 二 1即 「-川 【 T i 上 K (jnh HunH (SoC Trc】nE_]) 1′837rT川1 `J-Ll-一・一 l 」 二L Rー【 QLJrJn Lorlg (cc】M (コ1日 」土 _- __【」 _上 土 亡 「 1 RC】ChGic] 」1 」 上土 _L 肌q M 「一・ 2ノ021mm jFMAMJJASOND JFMAMJJASON[) 」FMAMJJASC)ND 図3 デ ル タ 内 の 代 表 的 地 点 に お け る 月 別 降 雨 鼠

(7)

東南 ア ジア研 究 13巻1弓・ 図4 メコンデルタにおける年描

胴 雨

追分研 く7 う(K yuMA

,1

9

72

)

。月別 降雨量をみ ると

5

月∼

1

0

月の雨季 月については月

量 2

0

0

-300mm

で あ り,モ ンスー ン降雨 はほぼ雨季 の問均等分布 してい るとみて よい。 いわゆ る雨季 車の小乾期 (dryspell)は ここでは朗著 にあ らわれない. 小 乾期のある ことはタイ とカ ンボジアでは極 めて は っき りして いることで あ って,稲作作期や作 柄な どこれに大 き く影響 されて いる ことと比較 す ると大 きな特徴で ある。 と くに軌 東部にゆ く ほど降雨に恵 まれて,

1

3

a

cLi

e

u,CaMau

あた りでは雨 季間中の降 雨量 とその月別分布 は天水 稲作を営むに十分である。 降雨量か らみ るか ぎ りデル タの各地域 とも大差 な く, いず こも雨季 モ ンスー ン降雨の恵みを十分 に受 けているO ところでデル タの水 文環境 は後述す るよ うに,決 して均質ではな く,地域 によ って決定的な 差異 がみ られ る。 この大差異 は結局地形 の もた らす結果で ある。 以下 に 全 く不 可 分 な 要 素 - 地形 ・土壌 ・水又一 一 について と くに稲作 の環境 的基礎要件 として の見地か ら説 明 してゆ こう(K AH)A

,1

9

7

4;

FUKUI

,1

9

74

)

0

バサ ック西部平 原 (1.2) バサ ック巨射‡臣ド原 (以下 プ レー トとい う) はバ サ ック頭部地塁 の主要部分で ある。 ここは東 側 の氾濫原か らは数

1

0c

m

か ら

1m

程度 高 くな った平地 で ある。 デル タ発達 の過程で このプ レー トはメコン ・バサ ック河か らき り離 されて い るので,主流の流量を運び こむ大川 はな く, バサ ック河 に直交す る放水の短 い小河川が このプ レー トに くさび状 に入 りこんでい る程度であ る。乾季 には荏みを除 いて全 く乾 き串が って しま う。

季 前半には湛水す る ことはまれで,

季後期 といえ ど もバ サ ックの洪水流 が押 しよせ て くることはない。 ただ し,降雨流 出水 は, こ のプ レー トが起状 のない平地で ある ことと氾濫 原の高 い水 位にはばまれて,排水 困難 とな り雨 季後期 には全体 にわた って湛水深 は

1

∼21

1

1に及ぶ。 排水性が必ず しも良 くない ことが原因 とな って, このプ レー トの処 々には強酸性土壌 がみ ら れ る。 西部 に とくに広 い地域 にわた る酸性土壌 が分布す る。 土性 は平坦地であるわ りには重 く ない。 プ レー トには人工運河網が敷かれていて,これが隣接す る氾濫原 とはきわだ った差異である。 この運河網 は分 布が十分でな く

,

雨季前半 に必要 なかんがい水 をすみず みまで運ぶ には全 く機 能 していない。 しか しなが ら運河網 の人工土堤 は人間の屠住を可f倒 こし,運河 は稲 作地 と消費 64

(8)

梅 田 :デル タ稲作農業の 自然項境 とデル タの開 発構図 地 を水上交通で結 びつ ける ことに意義があ り, も し運河網がな ければ このプ レー トは稲作地 と はな り得 なか ったばか りか ほ とん ど人の住 めなか った ところで あ る。 自然堤防 (2.1) と砂州 (2.2) 自然堤防 と砂州 は氾濫原 の高標高部分で あ って,後背湿地か らは少 な くとも数Inは高い位置 にある。 雨季の最大高水期で も洪水を受 けることは極 めてまれであるので,集落,道路,集約 栽培的 な樹園地 と して用 い られ る。 自然植生 の豊 かな縁濃 い と ころで ある。, 土壌 は砂質で ある。砂州 の土性 はよ り粗 い。両者 の土性 の差 は微妙 に畑作物 に影響 し, 前者 は種 々の果樹 とサ トウキ ビなどに適 し,後者では トウモ ロコシ, ソルガムなどが栽培 され る。 主水路 において

季 と叱 季

u

j水位差 は6

m

∼ 3

m

におよぶ。 しか し乾季 に も水 はよどむ こと な く,海水 面の潮汐変動 に応 じて1日に2度流向をかえ,水質 は常 に新鮮で ある。潮汐変化の 大 きい ことはメコンデル タの著 しい特質の一つで あ って,後述す るように,潮汐によ って誘起 され る河川水位変化 は重大 な利用価値 を もつ もので ある。 しか しなが らこの水位変化 は今の と ころ農 業水利用 にたい した意味を もっていない。 ただ川 の中を きれいな水 が流下 し,遡上す る ことを くりか え してい るにす ぎない。 後背湿地 (2.3) 乾季の排水性 は良好で あ る。)それは排水河川が よ く発達 して いて,冬用 の潮汐 による水位差 が大 きい

(

30-7

0c

m)

ことによる。 その結果 乾季 にはい くつか の窪地 を除 いて完全 に乾 きあが る。 雨季 には8月 ごろか ら湛水がは じま り, その直後 には(a)プ レー トか らの排水,(b)メ コ ンとバ サ ック河 の水位上昇 に伴 うバ ックロ ツギ ング,(C)そ して遠 くカ ンボジア領 内 で メコン お よびバサ ック河堤防を越流 して流入す る洪水流の到達,の3者が累乗作用 して,9月中 ごろ か ら

1

0

月にか けて

1

カ月 間で平均湛水 深

2m

,雄地 で

4m

に も達す る(XuAN

,1

9

74

)

。氾濫原 とはま さに洪水

濫水 の流 ドす る水 み ちである。 ここでは したが って, この急速 な水 位上昇 に 耐 え得 る唯一一の作物-浮稲-栽培 のみが 可能で あ るO 土壌 は義粘土 である。 新 デル タ

(

3

)

新デル タ も

じく自然堤 防 と後背湿地 か らな りた ってい る. しか しこの両者 の組み合 わせ の スケールは氾濫原 におけるよ りもず っと小 さ く,分布 もモザ イク状 に きわ めて密 で あ る。 メ コ ンとバ サ ック河流路 が新デル タに入 ると多数の分岐流 に分 かれ, したが って 自然堤防 を形成す る川の営力 も分 散す る結果, この地域 の 自然堤 防の高さはせ いぜい

2m

程度,幅は最大

2

0

0

-3

00m

ぐらい とな る。 自然堤防間の距 離 (間隔) は平均

1km

程度であ る。 その上新デル タの 河川水位は強 く感潮 し, 幅

1

0m

以上 の川 の 日潮汐水位差 は

5

0c

m

以 上で ある。 新デル タの 地 形 を要言す ると,小規模 の 自然堤 防 と後背湿地 の密 な るモザ イク状複合 で あ り,密 な る小河 川 は潮汐河川で ある。

(9)

東南 ア ジ ア研 究 13巻11,JJ 新 デル タの水文環境 につ いて は代 表 的断面 を例 に と って図5に示 して あ る。 まず低 位部 の標 高は平均 潮 位上 ほぼゼ ロメー トル で あ る。 そ して徽地 形 を反映 して乾 季 の土壌 の乾湿 は細 か い モザ イ ク状 のパ ッチ と して交錯 す る。5月 の最 初 の雨 に よ って最低 部位 の地 下水面 は地 表 に あ らわ れ るか,少 な くと もその部分 は湿 潤 にな って, 即座 に若 宙 の移植 が可能 にな る。雨 季 に入 り,安 定 した降雨 量 と自然堤 防部 分 か らの流 出水 に よ って湛 水域 は徐 々に拡大 して ゆ き, つ い に旧暦7月 の満月 の 日 (新暦

8

中旬) にな る と, 高潮位 時 の河水 は小溝 あ るいは小川 を適 っ て水 田に 自然流入す るよ うにな るOこの時期 に は二 回移 植 栽培法 の第- 回移 植 は完了 して い る。

-

?・・'

二・=∴ こI .守

ト `

L

'

'

'

;

r

i

-

lZ:L''L汁 一

雨 季前半 ・′6月) 雨季最盛期 '9月 11 u LL ti lL u 自然堤 防 1.0m IOOnl Ll ll A Ll 10月 、〉 u u u o u 止 L! 図5 断デルタの水文環境 と土地利用を模式的に示 した図 1. 常緑樹にかこまれた家並 2, うね立て した果樹園 (

lrjTとしている) :3. サ トウキ ビ,人戻等 5. 多年生 草本の多い湿 地 6. 苗代 7. :臣 -1司移植完 了LH 8. 第二 回移植完 了Lu A.潮の干満のよ く感 じられる川 13.自然 の排 水路 (i.果樹園と川を結ぶ

(10)

梅 田 :デル タ稲作 農業 の 自然環境 とデル タの開発構図 湛水域がか な りの高位部 に及 ぶ よ うになる 8月末か ら9月 にか けて水 深に応 じて順次第二回の 移植 を進 めて ゆ く (Xuan論 文を

参照

)。 自然堤 防の上 はめ ったに湛水 しない。 この高位部 (家敷地 の ウラ手) は果樹閲あるいはサ ト ウキ ビ栽培 に用 い られ る。 普通 は高 さ 1- 1.5m の人工 の土堤 で果樹園を しっか りととり囲み, 中には高さ 1m 程度 の高 ウネをつ くって果樹 を植 えている。 ウネ間には年間を通 じて 潮汐水 位変動 を利用 して高水位時 に取水 し,低水位時 に排水す ることが可能 であ り,そ うして樹園地 の 地下水位を調節 して い る。ソ菜 などに対 しては ウネ問の水 をバ ケ ツな どで汲 みあげて濯水す る。 しか しなが ら, 自然堤防 上の果樹園を除 くと,河水 を稲作かんがいに利用す ることには農民 は あま り頁剣で はない。む しろ彼 らは二 回移植栽培法 に例示 され るよ うに,栽培法や品種を水環 境 に適応 させ るほ うによ り努 力を傾注 して来たよ うに見受 け られ る。 土壌 はかな り重粘 土で, 多故の有機 質を含んで い るのが特徴 で ある。ノ多 くは非常 に肥沃 であ る といわれ る。 海岸複合地 形

(

4

)

岸複合地形 は三つの異質の地域か らな り立つ。 浜堤 (4.1) 海岸複合地 形 の もっと も高い部分 で ある.標 高は最大 5m,普通 は2∼3mで あ り,土壌 は砂質土で乾燥度合がはげ しいので水 田 とはな り得ず,果樹や ソ菜 を若干含む森域 とその中の居住域 と して利用 されて いる。 浜堤 の幅 は20()∼500m,長 さは最大 40km,ほ とん どは 5km以下 であ るO 海岸平地 (4.2) 海岸 複合地形の中位部に相 当 し,平均潮位 よ りわずか に高い平地 である。 土壌 はあま り重 くない。河川密度 はかな り低 く, しか も河水 は乾季 および雨季 のは じめにはか な り高い塩分濃度を示す。

Lの ことに よ り,塩水 お よび河水 は この地域で はほ とん ど使 うこと はで きないO したが って,海岸 、恒也は梅岸近 くにあ りなが ら水 不足 の生 じやす い地域で ある。 地 表水 はか くの ごと く乏 しいが, 地 卜水 面はか な り

高く,

最乾季 に も地 表下 1111に 下が る ことはまれで ある。 そ して この地下水 がまた難物で ある。 なぜ な らば,地 下水 は多 くの場合塩 分 を含み- 堆積年代 の閥 に堆積物 中に トラップ されたいわゆ る化石塩

(

f

o

s

s

i

l

s

a

l

t

)

- 乾季

に毛管力によ って地 表に浸 出 し,塩分 を土壌表層 に集積す るし)この塩分集積 のメカニズムは海 岸平地 に特有 の もので,他 の地域,例 えば ラグー ン状 窪地 の塩分が直接海水侵入 によ って もた らされ るの とは きわだ った対比 をな して い る。 その故に海岸

地 の塩分 問題を工学 的手段 によ って解決す るのは容 易ではない。 さて, この地域 の稲作 は上 記の好 ま しくない諸要因を克服すべ く,注意深 い作業 と品種選択 を もって行なわれ る。 まず 田植時期 はず っと遅 れて 7月未か ら8月中旬 になる。 これは雨季 は じめ2- 3カ月 間の降雨に よ って土壌表層の塩分を洗脱 させ るためで ある。 収穫 は田面湛水深 がゼ ロにな る12月末以 前に行 なわな くては,場所によ って塩分 の表層への上昇移 動の悪影響 を

(11)

東南 ア ジア研 究 13巻1弓・ 受 けるおそれがある。こうい う水 田はアゼを高 くし,降雨 をで きるだ け貯 め こむ と共に,万が一 に も雨季 は じめあるいは乾季 は じめの塩分 を含んだ河水が侵入 しないよ う注 意深 く維持管理 さ れて い る。この地域 は以 上oj制約が あるので例外 な く一年一作 の中期種栽培地域 とな ってい る。 ラグー ン状窪地 (4.3) ここは海岸複合地形 の

の海岸 と並行 した浅 い細長 い窪 み部分で あ る。標 高は平均潮位 よ り少 し低 く, したが って低水 時期 には塩水侵入のおそれが大 きい。土性 は重粘土, たまに ピー トをみ る。 この地域 の土壌 の特徴 は強酸性土壌 が広 く分布 して いる こと で ある。 ラグー ンとい う半 カ ン水条件下で堆積 した汽水成堆積物 は乾燥酸化す ると強酸性 を示 す。 とくに GoCong,BenTre,Vinh liinhにはきわめて有害 な強酸性硫酸土壌 の分布を広 くみ るO 河水 は塩水で あるので, もちろんかんがい水 と して利用す ることはで きず,む しろ圃区 ある いは水 田団地 を高 さ70-90cmの しっか りした土堤で囲んで塩水 の 流入を妨 ぐことに 努 力が は らわれ る。 淡水源 は もちろん雨水 のみで ある。, 広大低地

(

5

)

広大低地 とは基本的には年間を通 じて湛水 してい る温地 のひろが りで ある。 この低地 は海岸 複合地形 によ って海 と遮断 されて お り,しか も南 シナ海 に流 出す る大 きな排水河川 はないので, 潮汐差 の影響 をほ とん ど受 けない。 ただ し, メ コン,バサ ック河に近接す るか,大運河 に沿 う 限 られた ところでは 1m に も達す る日水 位変化 が観測 されている。 土壌 は重 い粘 tで, 多かれ少なかれ酸性 を示すO 稲作期 は水 が通年 十分 にあるとい う点か らは時 を選 ばないはずであ るが,実際 には雨季一作 で ある。十分の降雨を待 って 7月後 半ごろか ら繁 い茂 った多年性 あるいは一年生の カヤ ツ リ草, 主にcy4eru∫と∫cz'rPu∫の仲間を大 きなナイフで刈 りたお して除去 し, 通常 は耕転 しないまま 巨大 な背 を移植す るO稲 は長期種 である

雨季 は じめまでの間の溜 り水 は塩,酸の含量が高い か あるいは腐 った酸素 欠 亡の水で あるか ら,結局降雨,地域的流 出水, あるいは河川氾濫水を 過分 に とり入れて土 と水 の毒性 を稀釈 した後で ない と稲は育たないので ある。 9月 か ら10月未 にか けて 平均湛水深は 1m以 上, ときには2m にな るが, 潜在的沼地 で ある広大低地 の排水 は全体 と しては不 可能 である。 ただ し,周縁 部において潮汐水位差 を利用 し得 るところでは, 水捨 て場 は背後 にい くらで も拡が って いるところか ら,排水は逆 にきわめて容易で ある。 アシの原

(

6

)

および ウー ミンの森 (7) ア シの原 は排水不良 の草原 とメ ラロイカ林 (me/a/euca/eucadendron)か らなる一大低地 で, 土壌 は強酸性硫酸土壌 である。 ウ- ミンの森 は泥炭土か らな る海岸湿地で 自然植生 はメ ラロイ カ林を特徴 とす る。,雨域 は今 の ところ稲作地域 とはな って いない。 以上各地形区分 ・土壌 ・水 文について説明 して きたが,全体を通 じて要約す ると次のよ うに 68

(12)

海田:デルタ稲作農業の自然環境とデルタの開発構図 な ろ う。標高が相対的 に高 い地域 (プ レー ト,氾濫原,海岸平地) は土壌 の乾湿変化 が気 象 的 乾湿 の振幅 を拡大 して反映す る地域 で あ り,逆 に相対的 な窪み の部分 (新デル タ,ラグー ン状 薄地,広大低地 ) で は気象 的 な乾湿差 を縮小 して反 映 させ る地域 といえよ う。窪 みの部分 は年 中乾 きあが る ことはないので あ る。 以 上の基本 的 な環境要素 に加 えて土 と水 の毒性 (土 につ い て は酸 と塩,水 につ いて は塩 と酸 と腐 水) をいか に克服 す るか とい う人 間 の環境適応努 力 の結 果 と して各地域 に特徴 的な稲作 の タイプが 同定す るよ うにな って きたわ けで あ る。以 上 を要約 す る と表1の よ うにな るo 表 1 地 形・水 又 ・稲 作 ・開 発 構 図 地 形

乾 季 雨季的瑚

期 排

性 /T/iif(;o乙警 ヂ i 極乾 氾 濫 原 乾 海 岸 平 地 ラグ- ン状搾地

低 地 湿潤

湿潤

∼湛 水 湿∼中湛 水のモザ イ ク 水 深 へ 水 深 ∼ 水

水 深 浸 湛 洪 湛 深 極深 湿,浅湛 水,深湛 水のモザ イク 描

湿

水 桟

水 温 湛 \) . 塩 ・=. :城 ′1 , 煤 漢 ∼

水 制 . ・・; I 水 水 温 浸 深 い S , :-∼. 水 ∼ 」 丁父

、、.∫

.ー

トトし.ド 浸 費 的 用 心仕 潜

開 発 構 図 中一不良 新開蕃播 良,不良 のモザ イ ク 運河網をもつ広大平 地の通年稲作 魚 水 の 揚 期 親 水 水 高 低

んがい こよるTN二期作 二 回 移植 闇 霜 遇 をもつ 巾 伝統的移植 :改良天水稲作の単作

一不良 申∼不良 新

移 植 ポルダーと をもつ新開 大養魚池を 地域 河 護 運 地 保 水 作 つ 排 稲 も

デル タ開発 の方 向- その 自然環境 によ る規制-4.1. 稲作 にみ られ る顕 著 な変貌 前章 において は現 在進行 しつつ ある稲 作 の変貌 につ いて は意識 的に触 れず,伝統 的 な稲作 タ イプを規制す る環境要素 の説 明に終始 した。8年 まえは じめて IRRIの新 品種 を 導 入 して以 莱,メ コ ンデ ル タの稲作 は大 き く変化 を きた し, その変貌 は現 今 ます ます加速 され よ うと して い るO

まず この IRRIの高収性 品種 (IR-5,IR-20,IR-8な ど, ベ トナムで は

TN-

Tha

ngNo

ng

, 神農- と呼んで い る) は新デル タに と り入れ られ, つづ いて氾濫原 と広大低地 の周縁部 に拡 が

(13)

東南 ア ジア研究 13巻1号 新デル タで はTNの導 入 は きわ めて容 易に行 なわれた ことに 注 目す る 必要 が あ る。 この非 感光性 の短期種稲 は伝統 的 な稲作 - 二回移植 法一 側 に何 ら犠牲 を強 い る ことな く,第1回 移植 か ら第

2

回移植 が は じま るまで の間空 いて い る中位部 の

4

/

5

の圃場 部分 に割 りこみ得 るの で ある。 中位部 の土壌 は雨季 は じめ

6

,

7

,

8

月 の間降雨 に よ って適度 に湿 り

8

月 中旬 まで は 深 く湛水す る ことはまれで あるo もちろんかんがいは必要 で あ るが, これ もご く補 助的 なかん が いで十分 で あ り, 田植 後1回,後 に2,3回揚 水かんが いをす る程 度 で よい。揚程 は小 さい ので,すで に普及 して いたサ ンパ ン船 のエ ンジ ン(2-3HP)に ち ょっと した工夫 (良 いプ ロペ ラシャフ トにブ リキの直径 20cm ぐらいの筒 をかぶせ る) を施 す だ けで 結構 ポ ンプ と してつ か え るわ けで あ る。 なお, この地 域 には前述 の よ うに通年 豊富 な流 れの あ る小河川 が いた ると ころにあ る し,小起伏 に富む拝地 には 常に溜 り水 が あ るか ら,小型の移 動式 ポ ンプ さえあれば 水 の心配 は全 くない。 さ らに この地 域 の土壌 は有 機質 に富 む肥沃 な粘 土で あ るので,施肥量 は ご くわず かです むO-一言で い うと,新デル タで はパ ッケー ジプ ログ ラムに よ らな くともTN栽 培 は実に容 易に浸透 し得 たわ けで あ るO ここで の年間 上地 利用率 は1.3-1.7程 度で あ る。 ところで氾濫 原にお けるTN栽培 は100% ポ ンプ揚 水か んがいによ って い る。 ここで は雨季 が可能 で あ り,TNを導 入 して い る農民 はほ とん ど二 期作 を実行 して い る。第1作 目は6月に は じま り8月下旬 に終 わ る雨季前 作,2作 目は洪水 のひいた後11月か ら2月 に至 る期間で あ る。 TN栽培面積 は通年豊 か な流 量に恵 まれてい るか な りの幅 の 自然川か ク リー ク, あ るいは運河 沿 いで, しか も揚水 かんが いが経 済的に ひ き合 う 範 囲 に限定 され, 水源か らせ いぜ い300- ノ 500mの細長 い帯状 に ひ ろが るにす ぎない。 あ る特殊 な地 域 で は村 人 の中の企業的精 神 に富む 富農 が 30- 50HPのデ ィーゼ ル ポ ンプを購入 設 置 し, 水路網 をひいて農民 に水 を分売 して い るケー スが あ る。 この代表的 な ところはChauDocの東方 メ コ ン本流 をのぞむま ちTanCha.u か ら下流 HoaHatlに至 る問の 自然堤 防か ら後背湿地 にかか る緩傾斜 の帯状地域 で ある。 ここ で は本流 (実際 には一 つ の大分岐流)の無尽蔵 の水 を約 5- 6m揚水 し, 幅約 1kmの地帯 に分 水す る。 こうい うポ ンプかんがい システムが ここのみで約 5,000lla′に ひろが って い る。 他 の 地域 で もTanChauほ どには 〃革新的"で はないが,や る気 をお こ した農民 はサ ンパ ンポ ンプ か ら10HP程度 の エ ンジンポ ンプに切 り換 えて本格 的 なTN二期作 に と り組 もうと して い る。 われわれは こうい う農 民 に故人 とな く出合 って い る. 第三 は広大低地 のTN栽培 で あ る。広大低地 とは 言って もその縁辺部で しか もわ りに大 きい 河川沿 いの ところに限 られ るが, そ うい う場所で は水環境 はい っそ う好都合 で あ る。河水 を ひ きやす く, しか も土壌 が毒性 を もたない場所で あれば,頑丈 なダ イクを築 いて8月 未か ら10月 にか けて の河水溢水 を防止す れば,そ こは立派 な TN栽培地 とな るo もと もと通年湛水 の湿地 的環境 で あ ると ころに,河水 の 目水位変動幅 が大 きいので, ログ潮時 に水 を 自然 に取 り入 れ, 70

(14)

海 田 :デル タ稲作農業 の自然環境 とデル タの開発構図 引 き潮時 には排水 も可能 で あ る。 この よ うな圃揚 をつ くるに はか な りの投 資 と労働投下 は必要 で あ るが,その後 は運転 コス ト最少 で TN栽 培 の た めの水管理 がで きるのが メ リッ トで あ る。 ここで は現 段階 で は二期作 は と り入 れ られず,雨 季前作 のTNと雨 季後作 の在来種 との組 み合 わせで あ る。 注 目す べ き ことには, 上の二 品種 を無理 な く組 み合 せ わ るた めに在来種 に二回移 植 栽培法 を 適用 す る ことす らと り入 れ られ よ うと して い る事例 が あ る0 以 上 の三地 域以外 で TN の栽培 が まず まず の規 模で普 及 して い る と ころは 絶 無 で あ る と言 って よい。 以 上急速 に変貌 を とげつ つ あ るメ コ ンデ ル タ稲 作 の一 側面- rrNの導 入 と二期作 化- を と りあげ, そ の 普及 を可能 に した 自然 的環境 要 因 を,水 の得 や す さ, 土壌 の肥 沃性 ,在 来稲 作 との無理 の な い組 み合 わせ が可能 で あ る ことな どの面か ら分 析 してみ た。 要約 す る と, い ま爆 発 的 にTN栽 培 が 普及 しつつ あ る と ころは農 民 の意 欲 と一 人一人 の個別 的 なわずか の努 力 ・投 資 をす れ ば それ を容 易 に行 な い得 る とい う環境条 件 をそ なえた地 域 に限 られて い る とい う こと で あ る。 コ ミュー ナル な レベル,あ るいは固 レベル の指導 や投 資 が行 なわ れ たために TNが 普 及 した とい う事例 を筆 者 は聞か ないo この点 メ コ ンデル タの稲 作環境 はま ことに恵 まれて い る といえ よ う。 デ ル タの水 といえ ど も, メコ ンデ ル タの以 上 の3地域 で は農 民個人 で結構 コ ン ト ロール で きる程 度 の水環境 なので あ る。)この ことは重要 で あ る。

4.

2

.

水源 問題 メ コ ンデル タの伝 統 的 な稲 作 は,要 言す る と,恵 まれ た降雨 に頼 りき った稲 作体系 で あ る。 河水 を取水 し, 搬 送 し,分 水 して 閏区 に と り入 れ る ことに よ って しば しば不安定 な降雨 を補 う - 補 助か んが い- ことに対す る努 力は,絶 無 とは言 わ ないが, ほ とん ど無視 されて きた と 言 え る。 む しろ農 民 は 与え られ た水又 環境 に適応 させ て品樽 を選 択 し,作 期 と栽培 法 を工 夫 し, あ る と ころで は二回移植 法 とい う特殊 な稲 作技 術 を完 成 させ た り して きた。農 民 は水 を コ ン ト ロールす る とい う土 木的事 業 よ りは, む しろ農学 的技 術知識 の開発 に よ りい っそ う投 資 を して きた と も言 え るO ところで メ コ ンデル タの水 は豊 富で容 易 に利用可能 で あ る。 メ コ ンとバ サ ック河 を合 わせ た 基 底 流量 は約

2

,

00

0

m

3

/

s

e

cあ り, しか も幸 いな こ とに各分 岐 流 に 自然 に ほ ぼ均等 に 配 分 され て い る

(

Ne

t

he

r

l

a

ndr

)

e

l

t

aDe

ve

l

opme

ntTe

a

m

1974)。 さ らに 多 くの河 川 , ク リー ク, 運河 の 水 は潮汐作用 に誘起 されて通年流 れ を 止めず,場 所 に よ 1'て は 日水 位 変動 も

30-1

2

0c

m

に及 ぶ。水 路水 位 の大 きな変動 幅 は使 い方 次第 で は利点 とな る。容 易 に取水 で き, 同時 に容 易 に排 水 で きる とい う特典 を 与え るか らで あ る。 なぜ に今 まで この特 典 を ほ とん ど活用 して こなか っ たので あ ろ うか 。 この答 えは前 章で十分 に説 明 されて い る と思 う。 しか しなが ら, ほぼ ク ライマ ックス ステー ジに まで達 したか と も思 え るメ コ ンデ ル タの伝統 的 な稲 作 の体 系 に変革 を もた ら して,一 段進 んだ ステー ジに至 ら しめよ うと計画 をたて る とき,

(15)

東南 ア ジア研 究 13巻1号 この容易に利用可能 な河川水 の利用制御 がキー フ ァクターにな る。 もっとも筆者 らは ドラステ ィ ックな環境変革 を意図す るので はな く,環境 にわず かの人 工の手 を加 え るだ けで それを飼 い 馴 らす ことので きる方途 を探 って い るので あ る。

4

.

3

.

新 しい農業 のた めの環境制御 - 水環境制御 を中心 とす るデル タ農 業改善 の構図-ここで新 しい農業 は現 在起 こりつ つ あ る変貌 の延長線 上に あると想定 して い る。 す な わ ち

TN

の拡大 と集約化 お よび在来稲 の集 約安定化 を企図 して い る。 もちろん農業 の多角化 も考 え て はい るが, われわれの案 は末 だ具体 化 して いない。環境制御策 とは 自然環境 を洞察 して得 ら れ るある種 のカ ンにす ぎず,将来好 ま しか らざ る影響 を広範 囲 に及 ぼ さないよ うな水利改善策 とい う程 度 で,残念 なが ら現 段階 で は工学 的可能性,経 済性,経済 的実現可能性 な どの吟味を 経て きて い る もので はない。、 氾濫 原 氾濫原 の洪水状況 を克服 しよ うと も くろむ の は無益で あ る。洪水 を制御 しない場合,稲作 の 方 向は次 の 二つに分 極す るで あろ う。 a.浮稲 +魚 (雨 季一作)

b.TN

二期作 (雨季前 作 +減 水期作) bの場合,稲作 は もっぱ らポ ンプ揚 水 かんがいに依存 し,洪水期 間中は,休 閑 させ て お く。 砂 州 や 自然堤 防で は高揚程 の大型 ポ ンプ と用水 溝 が必要で あ るか ら,必然的 にかんが い管理 のた めの組織 を持 たな くて はな るまいが,一方 Long Xuyenあた りまで下が って くる と個人所有 の2-3HPあ るいは せ いぜ い 10HPぐらいの 低揚程 ポ ンプを用 いて全 く個人的 に

TN

二作 を行 な うのが適 して い るよ うに思 え るO しか しなが ら,現在

TN

水 田は流水 の あ る川 や ク リー クに沿 って 300-500m 幅 に限 られてい るのは一 に小 用水溝 を欠 くか らで あ って,

TN

水 田を 拡大す るには小溝網 を整備 しな くて はな らない。 これ は水 利技術 的には容 易な ことで あ る。農 民 が個人的 に小 溝網 をつ くるのが難 しい とい う理 由は経済 的な ことや技術的 な困難 さ とは無 関 係 に, む しろ他 人の土地 を通 って勝手 に溝 を掘 るわ けにはゆか ない とい う単純 な ことが主因 な ので あ るO この ことを解 決す るにはただ上部組織 の統制 と 1)-ダー シ ップが必要 とされ るだ け で あ る。 小水路 とい う比較的低 コス トの基 盤整備が進行 す るにつ れて, その時点 で上 のl)の面積 は農 民個人 に よ る経済計算 によ って ひ き合 う限界 にまで拡大 されてゆ くで あ ろ う。 以 上 に よ り, この地 域 の水 制御 と農業 の特徴 を一 口で表現す ると,"低 水期 の揚水 かんがいに よ る

TN

二期作''とな ろ う。) プ レー ト 隣接地域 よ りわずか に標高 の高 い この乾 きやす い土地 において,農業発 展の 引 きがね とな り 72

(16)

海 田 :デル タ稲作農業 の自然環境 とデル タの開発構図 得 るのは単 に運河綱 の再 整備である。幹支線運河の密度 を十分 に しさえす れば, 重力かんがい 組織で圃場かんがいす ることなどを計画す る必要 はない。水源 が安定 して さえおれば,農民個 々人は 自分で掘 る小 溝 と低揚程 ポ ンプで通年水利用 を行 な うで あろ う。洪水防御堤 とか輪申堤 とかはよほど ここの農 業が集約化 され る段 階に至 るまでは不必要である。 幹 支線運河網につ い て は国 レベル の技術 と資本 の投下が不 可欠で ある。 プ レー トの将来像 は "運河綱を もつ広大平地 の通年稲作''とで も言 うべ き ものである。 ここで注意すべ きは低水 期の大規模 な取水が下 流方面 の塩水遡 上に与 え る大 きな影響で ある。 基底流量が約 2,000m 3/secもあるといえ ども, ち ょっとしたバ ランス の くず れが とんで もな い塩水侵入拡大 とい う結果 をまね く心配 は大 きい。 この問題についてのオ ランダ チー ムの研究 は評価 されて よいo小稿で は水利工学 的な事項 にな るので この ことには触 れ.ないでお くO 新 デル タ かんがい排水 の完全 な コン トロール は容易で あ る。 それは比較的小 さい圃区,2-5ha,最大 で も多分 10haぐらいを小 ポルダーで囲み,簡 単な用排水 溝 とそれに付属す る若 1二の施 設を も うければ実現 され る。前に詳述 したよ うに,大 きな潮汐水位差 を もつ淡水小河川が密 に分布 し て い るので, これを小 ポル ダー方式 と組み合 わせて利用すれば よいのであ る。)小 型ポ ンプがあ ると通年 の土地利用が可能 で, その土地 で 多角的集約栽培がで きるOす こ し高 い ところは集約 果樹,畑作 に, 中 ・低 位の 士」也は

TN

の二ない し三作 も実現不可能で はない日 新デル タの将来像 は "ポルダー群を もつ多角集約農業"であ ろう。 なお,以上 の農業施 設は農民個人 あ るいは少数 の農民 グループが比較的容 易につ くり得 るこ とに注 目す る必要があ るO ここで は土地改革 と農地 の交換分合以外 にほ とん ど政府 の施策 はい らないのではなか ろ うか。, 広大低地 広大低地 の稲作地 としての大 きな潜在力を顕現 させ るに必要 な ことは過剰 な雨季 の水 を排除 す るためのポルダー と大排水運河の コ ンビネー シ ョンではなか ろ うか。排水運河を南 シナ海 と 商結 させ れば比 較的低 コス トで排水 の基 礎条件 が整 うo それは潮汐水位差 を利用す ることを可 能 にす るか らで あるO しか しなが ら,以 上の構想 は広大低地 の周縁部に限定 され よ う。 なぜな らば潜田 畑 こ通年湛 水 の一大湿地 の雨季の水 を ほ とん ど全 部排除す ることは しょせ ん不 可能 なはな しであ り, また 沼地 の潜在的 な強酸性硫酸 土壌 の改良 に関す る経済 的な方法は未知で あるか らである。 広大低 地 の大部分 はむ しろ稲作似外 の土地利用,例 えば養魚 な どの 可能性 を探求 したほ うが いいよ う に思 われ る。 これはア シの原 などに も適用で きる考 え方ではなか ろ うか。 広大低地 の姿 は 〃ポルダー と排水運河を もつ新開稲作地" と "大養魚池 を もつ保護地域" と で も要約で きよ うか。

7

3

(17)

東南 ア ジア研究 13怨l号 海岸平地 工学者 の 目で もって この海岸平地 に対す る開発方式 を計画 す るとき, 対策 はわ りに明瞭で あ る。 それは水源 を上流本 川 の淡水 に求 め, 非常 に大規模 な- 数万 haぐらい- 重力かんが い水路網 を敷 くことで あ る。 これは工学 的に十・分可能 で あ る。 しか しなが ら,現段階 で は筆者 らは こうい う大計画 に興 味 を持 って いない。) 地域 内にお ける淡水河水 の乏 しさ, その逆 に豊 富 な降雨 とその恵 まれた分布,土 壌塩分 の問 題 な どを考 え る と,海岸平地 は "改良天水稲作 の

単作"

に よ って食糧増産 の潜 在力 をまだ まだ 発掘 し得 るので はなか ろ うか。 ここで改良 とい う言葉 は耐鯨 姓,耐 竿性 をそなえ もつ 高収性 中 期種稲 を指 して い る。 この 土地 には一層 の "農学 的改良" で もって 対処 す るべ きで あ る。 小稿 の議 論 を圧縮 し要約す る と図1,図 2お よび表 工の よ うにな る。 水堤境 制御 に関 しての われわれの構 図 を要言 す ると, 国 レベルで水利制御 の大 まか なプ ランをたて,そ して基幹的な 水利構造物 (ほ とん どは用排兼用 の運河綱) さえ建設す る と, あ とは農 民個人 あるいは コ ミュ ーナル な レベル の環境再 適応がす みやかに フォロー し,各段階 でデル タの農業革新 が進行 して ゆ くとい う捉 え方で あ る。 政府 の施策 はむ しろ土地 改革 や農地 の交換分合 な ど "社会 的 な土地 改良" に傾注 されて よいのではなか ろ うか。 74

参照

関連したドキュメント

Standard domino tableaux have already been considered by many authors [33], [6], [34], [8], [1], but, to the best of our knowledge, the expression of the

H ernández , Positive and free boundary solutions to singular nonlinear elliptic problems with absorption; An overview and open problems, in: Proceedings of the Variational

The only thing left to observe that (−) ∨ is a functor from the ordinary category of cartesian (respectively, cocartesian) fibrations to the ordinary category of cocartesian

Keywords: Convex order ; Fréchet distribution ; Median ; Mittag-Leffler distribution ; Mittag- Leffler function ; Stable distribution ; Stochastic order.. AMS MSC 2010: Primary 60E05

Now it makes sense to ask if the curve x(s) has a tangent at the limit point x 0 ; this is exactly the formulation of the gradient conjecture in the Riemannian case.. By the

Inside this class, we identify a new subclass of Liouvillian integrable systems, under suitable conditions such Liouvillian integrable systems can have at most one limit cycle, and

Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A

Definition An embeddable tiled surface is a tiled surface which is actually achieved as the graph of singular leaves of some embedded orientable surface with closed braid