86 臨床報告 〔東女医大誌 第64巻 第1号頁 86∼89 平成6年1月〕
ペインクリニック163例の臨床的検討
東京女子医科大学附属第二病院 麻酔科 フルヤ ユキオ コバヤシ タチバナ チァキ古谷 幸雄・小林なぎさ・立花 千秋
サトウ ケイコ オオエ ヨウコ佐藤 啓子・大江 容子
(受付平成5年9月6日) The Clinical Study of 163 Cases in Our Pain Clinic Yukio FURUYA, Nagisa KOBAYASm, Chiaki TACHIBANA, Keiko SATOH and Yoko OHE Department of Anesthesiology, Tokyo Women’s Medical College Daini Hospital The present status of pain clinic in our hospital was studied with reference to the 163 patients examined during 3・year period, clinical symptoms, diseases diagnosed, therapeutic methods and therapeutic results. The clinical symptoms and diagnoses were diverse. Many patients had postherpetic neuralgia, cancer pain, and so on. The major therapeutic method was nerve block therapy. The therapeutic results showed the effectiveness of epidural block, stellate ganglion block, trigeminal nerve block, intercostal nerve block, and so on. Stellate ganglion block for postherpet孟。 neuralgia had a favorable effect when it was initiated soon after the onset of pain. Continuous epidural block for cancer pain had a favorable effect when it was used together with a local anesthetic and narcotic. 緒 言 当院におけるペインクリニック外来は開設以来 満3年を迎えたので,その現況を報告する.診療 体制は週1回で紹介患者だけを扱うため,対象症 例は163例に過ぎなかった. 対 象 対象症例の内訳は表1に示す.性別では,男性 75例,女性88例で,女性がやや多かった.年齢で は,6∼91歳,平均59.3歳で,高齢者がとくに多 かった.依頼科別にみると,院内依頼122例(75%), 院外紹介41例(25%)であり,院内依頼のうちで は皮膚科38例がもっとも多く,内科,外科,心臓 血管外科,整形外科,耳鼻咽喉科,眼科の順に続 いた.外来入院別では,外来患者92例(56%),入 院患者71例(44%)で,外来患者がやや多かった. 主要合併症では,全例中52例(32%)にみられ, そのうち高血圧,狭心症,脳卒中,糖尿病などが 多かった. 結 果 ペインクリニックの臨床症状は表2に示す.主 訴とした落痛部位からみると,頭部痛・顔面痛30 例,肩部痛・上肢痛23例,胸部痛・腹部痛43例, 腰部痛・下肢痛55例,その他12例であり,落痛部 位が全身に均等に分布していることがわかった. 女塾の左右部位では,左右同数にみられた.初診 時の落痛程度については,軽痛18例,強痛56例, 激痛74例であり,多くの患者が著しい癖痛を訴え て来診することがわかった.初診時に聴取した発 症時期については,1月以内73例,6月以内63例, 1年以内14例,1年以上13例であり,多くの患者 が発症後1月以内に来診することがわかった. ペインクリニックの診断病名は表3に示す.帯一86一
87 表1 当院におけるペインクリニックの現況 163例(1990∼1992年)の内訳 表2 ペインクリニックの臨床症状 自分部位 性別 年齢 依頼科別 外来入院別 主要合併症 男性 75例 女性 88例 6∼91歳 平均 59.3歳 院内依頼 122例(75%) 皮膚科 38例 内科 19例 外科 18例 心臓血管外科 16例 整形外科 16例 耳鼻咽喉科 6例 眼科 5日 目その他 4例 院外紹介 41例(25%) 外来患者 入院患者 高血圧 狭心症 脳卒中 糖尿病 その他 92{ 畦(56%) 71{ 囁(44%) 52例/163例中(32%) 15例 8例 5例 8例 16例 左右部位 柊痛程度 発症時期 頭部痛 顔面痛 肩部痛 上肢痛 胸部痛 腹部痛 腰部痛 下肢痛 その他 左側 右側 両側 軽痛 強痛 激痛 その他 1週以内 1月以内 6月以内 1年以内 1年以上 8例 22例 8例 15例 25例 18例 31例 24例 12例 62例 65例 36例 18例 56例 74例 15例 15例 58例 63例 14例 13例 状庖疹後神経痛(PHN)が50例(30%)でもっと も多く,これは大部分が皮膚科外来患者の依頼で あった.その疹痛部位を神経支配領域から分ける と,三叉神経11例,頸神経6例,胸神経28例,腰 神経3例,仙骨神経2例と全身の領域にわたるこ とがわかった.次いで癌性疹痛が28例(17%)で かなり多く,これは大部分が内科・外科入院患者 の依頼であった.その落痛部位を分けると胸部腹 部12例,腰部下肢10例が多かった.その他では, 頭部顔面の疾患が34例,体幹四肢の疾患が47例あ り,それぞれの診断病名は多種多様であったが, とくに三叉神経痛,腰椎椎間板症,下肢血行障害 などが多くみられた, ペインクリニヅクの治療方法は表4に示す.こ れにはいろいろな方法が含まれるが,その主体は 神経ブロック法である.硬膜外ブロック(EDB) が85例(52%)でもっとも多く行われた.そのう ち1回注入法が32例,カテーテルを使用した持続 注入法が53例行われた.次いで星状神経節ブロッ ク(SGB)が51例(31%)でかなり多く行われた. そのうちSGB単独が34例,その他ブロック併用 が17例行われた.その他では,三叉神経ブロック, 肋間神経ブロックなど各種の神経ブロックが行わ れた.治療回数をみると,SGBでは総回数942回, 1例平均18.4回であり,EDBでは総回数659回,1 例平均7.8回であった. ペインクリニックの治療成績は表5に示す.こ れは評価が難しいが,自覚症状によるほかない. 各回平均の神経ブロックによる治療効果を著効 (4∼5日間有効),有効(2∼3日間有効),無効 (0∼1日間有効)と仮定すると,著効60例,有効 87例,無効16例であり,合計147例(90%)の症例 で毎回奏効していることがわかった.神経ブロッ クの治療期間をみると,1月以内94例,6月以内 46例,1年以内11例,1年以上12例であり,多く 「の患者が治療を1月以内に終了することがわかっ た.神経ブロックの最終成績としては,全治6例, 略治37例,軽快68例であり,合計111例(68%)の
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88 表3 ペインクリニックの診断病名 表5 ペインクリニックの治療成績 帯状疸疹後神経痛(PHN) 50例(30%) 三叉神経(V1,2,3) 11例 頸神経 (C2−8) 6例 胸神経 (TH2) 28例 腰神経 (Lト5) 3例 仙骨神経(S、一5) 2例 癌性癖痛 28イ列(17%) 肩部上肢(C2∼8) 2例 胸部腹部(T1∼12) 12例 腰部下肢(L、一5) 10例 その他 4例 頭痛 5例 三叉神経痛 11例 後頭神経痛 3例 顔面痙攣 2例 顔面麻痺 2例 耳鼻咽喉科疾患 6例 眼科疾患 5例 頸椎椎間板症 9例 肩上肢痛 5例 上肢血行障害 1例 肋間神経痛 3例 腰椎椎間板症 13例 腰下肢痛 4例 下肢血行障害 12例 その他 4例 治療効果(各回平均) 著効(4∼5日) 有効(2∼3日) 無効(0∼1日) 治療期間 1週以内 1月以内 6月以内 1年以内 1年以上 最終成績 全治 略治 軽快 不変 死亡 60例 87例 16例 38例 56例 46例 11例 12例 6例 37例 68例 43例 9例 表4 ペインクリニックの治療方法 治 療 方 法 例数(%) 総回数 1例 ス均回数 星状神経節ブロック(SGB) 51例(31%) 942 18.4 SGB単独 34例 その他ブロック併用 17例 三叉神経ブロック 7例 177 8.4 顔面神経ブロック 2例 15 7.5 後頭神経ブロック 3例 29 9.7 肩甲上神経ブロック 2例 6 3.0 肋間神経ブロック 6例 49 8.2 硬膜外ブ・ック(EDB) 85例(52%) 659 7.8 1回注入法 32例 持続注入法 53例 局所ブロックその他 7例 14 2.0 症例で概ね満足すべき成績を得ていることが確認 された. 考 察 ペインクリニック.の歴史は,アメリカ1)では 1950年代,日本2)では1960年代に始まる.著者ら3>4) の臨床経験は古いが,当院にペインクリニック外 来が開設されたのは新しい.そこで,満3年間の 現況を報告し,今後の診断体制の資料とした. ペインクリニックの適応症は非常に多岐にわた るが,その治療方法の基本は神経ブロック法であ る.神経ブロック法の奏効機序を簡単に述べると, 以下の通りである5).疾患,外傷,手術などによる 知覚神経刺激が脳脊髄神経に入ると,一部は脳に 達して痛みを感じるが,一部は脳脊髄反射路を介 して,交感神経刺激による血管収縮と運動神経病 .激による筋緊張を起こし,これが局所乏血から代 謝産物蓄積と組織酸素欠乏を来し,そこで発痛物 質が生成されて再び知覚神経を刺激する.神経ブ ロックは,これら痛みの悪循環を遮断することに より鎮痛効果を得るのである. 神経ブロック法にはいろいろな種類があるが,
最も多く用いられるのは星状神経節ブロック
(SGB)と硬膜外ブロック(EDB)である.著者ら の結果でも,SGB 31%とEDB 52%が用いられ た.そこで,とのブロックについて少し述べる. 星状神経節ブロックは,前頸部左右の第6・7 頸椎基部に1%メピ・ミカイン5mlを注入する方法 であり,交感神経遮断のため同側の頭部,顔面, 頸部,上肢,上胸部に血流増加を起こし落痛緩解 を来す.その適応症は極めて広範であり,全支配. 領域にわたる各種疾患に奏効することが知られて いる6)7).著者らの結果でも,帯状庖疹後神経痛 一8889 (PHN)をはじめ,各種の交感神経性落痛(SMP) に有効であった. 帯状庖疹は,水痘・帯状庖疹ウイルスの初感染 である水痘に感染後,ウイルスが神経節に潜伏し, 老齢化などによる免疫能の低下が原因で,そのウ イルスが再活性化した場合に発症する疾患であ り,またPHNは,帯状庖疹の発症後1月以上持続 する頑固な神経痛である8).著者らは,帯状痕疹の 発症早期からSGBを開始することが,治療上重 要であると痛感した. 硬膜外ブロックは,脊髄神経支配領域に一致し た椎問より硬膜外腔に穿刺またはカテーテル留置 を行い,1回注入法では0.25%ブピ・ミカイン3∼5 mlにビタミンB、2とステロイドを混合して注入 し,持続注入法では局麻薬にモルフィンまたはブ