2007 年9月
第一生命保険相互会社(社長 斎藤 勝利)のシンクタンク、(株)第一生命経済研究所
(社長 小山 正之)では、全国の中学3年生までの子どもをもつ父親・母親とその子どもを対
象に、標記についてのアンケート調査を実施いたしました。
この程、その調査結果がまとまりましたのでご報告いたします。
平日と休日の学校以外での勉強時間 (P2)
○小学4~6年生の4人にひとりは、休日に勉強を「ほとんどしない」。
○中学生は、勉強時間が長い子と短い子に分かれる。
どの学校まで進学したいか (P3)
○大学・大学院への進学を希望する割合は、
小学4~6年生では、男子が 57.5%、女子が 45.0%。
中学生では、男子が 75.0%、女子が 51.9%。
親が子どもの勉強をどの程度教えているか(P4)
○父親・母親が勉強を教える週あたりの回数は、
小学4~6年生の場合は、父親が 0.8 回、母親が 3.3 回。
中学生の場合は、父親が 0.5 回、母親が 1.0 回。
勉強時間の長さを左右するもの(P5~7)
○父親・母親の学歴が高い子の方が、勉強時間は長い。
○父親の年収が高いほど、子どもの勉強時間は長い。
○父親・母親が子どもに勉強を教えることが多い家庭ほど、子どもの勉強時間は長く、
「勉強は楽しい」と答えている子どもの割合は高い。
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 広報担当(室井・新井)
TEL.03-5221-4771
FAX.03-3212-4470
【アドレス】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi
<お問い合わせ先>
「子どもの生活に関するアンケート調査」より
『子どもの学力格差を生む親の意識格差』
~父親・母親が子どもに勉強を教えることが多い家庭ほど、子どもの勉強時間は長くなる~
☆本冊子は、当研究所から隔月発行している
『ライフデザインレポート』9-10 月号をもとに
作成したものです。
レポートご希望の方は、左記の広報担当、
またはホームページからお申し込みください。
≪調査結果のポイント≫
≪アンケート調査の実施概要≫
1.調査地域と対象 全国の中学3年生までの子どもをもつ父親・母親お
よびその子どものうち小学4年生~中学3年生まで
の子
※該当子が複数いる場合は最年長子のみ
2.サンプル数 父親・母親 1,078 組
子ども 567 名
3.有効回収数(率) 父親 927 名(86.0%)
母親 930 名(86.3%)
子ども 548 名(96.6%)
※ 当ニュースリリースについては、同一世帯の父親、母親、子どもの
3者それぞれに対するアンケート調査を組み合わせた 404 世帯分
のデータセットを分析した。
4.サンプル抽出方法 第一生命経済研究所生活調査モニター
5.調査方法 質問紙郵送調査法
6.実施時期 2007 年3月
平日と休日の学校以外での勉強時間
小学4~6年生の4人にひとりは、休日に勉強を「ほとんどしない」。
中学生は、勉強時間が長い子どもと短い子どもに分かれる。
図表1 平日と休日の学校以外での勉強時間(就学状況別)
25.9
8.6
23.4
11.1
6.3
42.0
34.3
6.3 8.1
20.8
31.0
16.8
33.0
10.7
7.3
25.2
23.8
29.4
18.3
17.8
平日と休日の学校以外での勉強時間(塾を含む)をたずねました。
小学4~6年生についてみると、平日は1時間台が 42.0%と最も多く、次いで 30 分が
34.3%でした。平日と休日を比べると、休日の方が勉強時間は短く、4人にひとりが勉強
を「ほとんどしない」と回答しました。
中学生の方は、小学4~6年生よりも勉強時間が長い子どもと短い子どもに分かれました。
男女別にみると、小学4~6年生・中学生とも、勉強する子どもと勉強しない子どもに別
れる傾向は、男子で強くみられます(図表省略)。すなわち、ほとんど勉強しないのは男子
に多いが、長時間勉強するのもまた男子が多いということとなります。
学校以外での勉強時間とクラスでの成績の関係をみました(図表省略)。
小学4~6年生の場合、成績が「とてもよい」と回答した割合は、平日の勉強時間が 30
分以内の子どもは 16.7%であるのに対して、1時間台の子どもは 19.5%、2時間以上の子
どもでは 44.4%であり、勉強時間が長いほどクラスでの成績がよい子どもが多いことがわ
かりました。休日の勉強時間についても、同様の関係がみられました。
中学生でも、成績が「とてもよい」と回答した割合は、平日の勉強時間が 30 分以内の子
どもは 3.8%であるのに対して、1時間台の子どもは 14.8%、2時間以上の子どもでは
31.6%でした。休日についても勉強時間が長い子どもほど成績のよい子が多くなりました。
0
10
20
30
40
50
ほとんど
しない
30分 1時間
台
2時間
台
3時間
以上
ほとんど
しない
30分 1時間
台
2時間
台
3時間
以上
平日(小学4~6年生n=207、中
学生n=197)
休日(小学4~6年生n=206、中
学生n=197)
【小学4~6年生】 【中学生】
(%)
どの学校まで進学したいか
大学・大学院への進学を希望する割合は、
小学4~6年生では、男子が 57.5%、女子が 45.0%。
中学生では、男子が 75.0%、女子が 51.9%。
図表2 どの学校まで進学したいか(性・就学状況別)
(単位:%)
n 高校 専門学校 短大 大学 大学院 その他 特に希望はない
小学4~6年生 男子 106 20.8 5.7 0.9 50.0 7.5 0.9 14.2
小学4~6年生 女子 100 14.0 18.0 5.0 37.0 8.0 1.0 17.0
中学生 男子 116 13.8 3.4 0.0 64.7 10.3 0.9 6.9
中学生 女子 79 15.2 19.0 10.1 49.4 2.5 1.3 2.5
注:小学4年生~中学生の回答結果
小中学生に、どの段階の学校まで進学したいと思うかをたずねました。
小中学生とも、大学・大学院への進学希望は高く、その希望する割合は、小学4~6年生
では、男子が 57.5%、女子が 45.0%でした。同じく、中学生では、男子が 75.0%、女子が
51.9%でした。
男女を比較すると、女子よりも男子の方が、大学・大学院への進学希望をもつ子どもが
多くなります。また、男女を比較した際の特徴として、男子では、進学希望が二極化して
いることがあげられます。
大学・大学院への進学希望をもっているか否かによって、学校外での勉強時間は異なるこ
とがわかりました。学校以外での勉強時間は、小学4~6年生の場合、進学希望が高校・
専門学校・短大の子どもは平日 0.9 時間、休日 0.7 時間であるのに対して、進学希望が大
学・大学院の子どもは平日 1.3 時間、休日 1.2 時間でした(図表省略)。
中学生の場合、その差はさらに大きくなります。学校以外での勉強時間は、進学希望が
高校・専門学校・短大の子どもは平日 0.9 時間、休日 0.8 時間であるのに対して、進学希
望が大学・大学院の子どもは平日 1.4 時間、休日 1.3 時間でした。
親が子どもの勉強をどの程度教えているか
父親・母親が勉強を教える週あたりの回数は、
小学4~6年生の場合は、父親が 0.8 回、母親が 3.3 回。
中学生の場合は、父親が 0.5 回、母親が 1.0 回。
図表3 父親・母親が子どもに勉強を教えることやいっしょに遊ぶ週あたりの頻度(就学状況別)
(単位:回/週)
父親 母親 父親 母親
子どもに勉強(読み書きを含む)を教える 0.8 3.3 0.5 1.0
子どもといっしょに遊ぶ 1.5 2.1 0.8 1.1
子どもの食事、着替えなど身の回りの世話をする 1.2 6.6 0.8 6.0
子どもと学校での勉強のことについて話す 1.9 4.9 1.7 4.0
子どもと学校の友だちのことや遊びのことについて話す 2.1 5.6 1.9 4.8
小学4~6年生(n=207) 中学生(n=197)
注:小学4年生~中学生の子どもを持つ親の回答結果
子どもの勉強や身の回りの世話をどの程度行っているかを父親と母親のそれぞれにたず
ねました。
中学生よりも小学4~6年生の方が、父親・母親が勉強や身の回りの世話を行うことが多
いことがわかりました。父親・母親が勉強を教える週あたりの回数は、小学4~6年生の
場合は父親が 0.8 回、母親が 3.3 回でしたが、中学生の場合は父親が 0.5 回、母親が 1.0
回でした。なお、父親・母親とも、学歴、就労形態、収入によって勉強を教える頻度に大
きな差はみられませんでした(図表省略)。
学校での勉強のことについて親子が話す頻度も、小学4~6年生の場合は父親が 1.9 回、
母親が 4.9 回でしたが、中学生の場合は父親が 1.7 回、母親が 4.0 回でした。
父親・母親の関わり方を比較すると、いずれの頻度も母親の方が多く、父親が比較的行
うことが多いのは、子どもと学校の友達のことや遊びのことについて話すことでした。
勉強時間の長さを左右するもの -親の学歴-
父親・母親の学歴が高い子どもの方が、勉強時間は長い。
図表4 父親の学歴別にみた平日と休日の勉強時間(就学状況別)
1.5
1.4
0.8
0.6
1.2
1.0
0.9 1.1 0.9 0.9
1.1
0.7
0.4
子どもの勉強時間の長さを左右している要因を分析しました。
既存研究では、親の学歴や経済力等が低い子どもよりも高い子どもの方が、勉強時間が
長く、成績もよいことが指摘されています。まず、本データにおいても同様の結果がみら
れるか確認します。
父親の学歴別にみた子どもの平日と休日の勉強時間を、小学4~6年生についてみると、
父親が高卒の子どもよりも、大学・大学院卒の子どもの方が、勉強時間が長くなっていま
す。中学生でも、父親が大学・大学院卒の子どもの勉強時間は長くなります。母親の学歴
別にみても、同様の関係はみられます(図表省略)。
0.8
1.2
6
2.0
高校
(n=58)
短大・高専
(n=37)
大学・大学院
(n=110)
高校
(n=50)
短大・高専
(n=21)
大学・大学院
(n=126)
1.
平日
休日
【小学4~6年生】 【中学生】
(時間)
注:勉強時間は小学4年生~中学生の子どもの、学歴はその子どもの親の回答結果
勉強時間の長さを左右するもの -父親の年収-
父親の年収が高いほど、子どもの勉強時間は長い。
図表5 父親の年収別にみた平日と休日の勉強時間(就学状況別)
1.0 1.1
1.3
1.1
0.9 1.3
1.4
1.3
0.7
1.1
1.0
1.4
0.4
0.8
1.2
1.6
2.0
500
万円未満
(n=70)
500~800
万円未満
(n=71)
800
万円以上
(n=29)
500
万円未満
(n=51)
500~800
万円未満
(n=67)
800
万円以上
(n=49)
平日
休日
【小学4~6年生】 【中学生】
(時間)
注:勉強時間は小学4年生~中学生の子どもの、父親の年収はその子どもの親の回答結果
次に父親の年収の違いによる子どもの勉強時間の差を分析しました。
父親の年収が高いほど、平日と休日とも、子どもの勉強時間は長いことがわかりました。こ
の関係は、子どもが小学4~6年生でも、中学生でも、同様にみられました。
以上、既存研究の指摘と同様に、本データでも、父親・母親の学歴および父親の年収が
高い子どもほど、勉強時間は長いことが確認されました。
勉強時間の長さを左右するもの
-親が勉強を教える頻度-父親・母親が子どもに勉強を教えることが多い家庭ほど、
子どもの勉強時間は長く、
「勉強は楽しい」と答えている子どもの割合は高い。
図表6 父親・母親が勉強を教えること別にみた平日と休日の勉強時間(就学状況別)
1.3
1.2
1.1
1.2
1.0
0.9
1.6
0.9
1.2
1.4
1.2
0.9
1.2
1.0
0.7
2.0
0.4
0.8
1.2
1.6
2.0
父なし
母少
(n=57)
父あり
母少
(n=29)
父なし
母多
(n=54)
父あり
母多
(n=64)
父なし
母少
(n=98)
父あり
母少
(n=25)
父なし
母多
(n=47)
父あり
母多
(n=25)
平日
休日
【小学4~6年生】 【中学生】
(時間)
注1:勉強時間は小学4年生~中学生の子どもの、父親・母親が勉強を教えることはその子どもの親の回答結果
注2:母親が勉強を教える頻度が、小学4~6年生の場合は週3日以上か否か、中学生の場合は週1回以上か否かで分類
子どもの勉強時間を左右する家庭環境の要因は、親の学歴や経済力等のみでしょうか。
そこで、父親・母親が勉強を教える頻度と子どもの勉強時間の長さの関係を分析しました。
小学4~6年生の場合、(勉強を教えることが)「父なし・母少」グループの子どもの勉
強時間は、平日が 0.9 時間、休日が 0.7 時間と短いのに対して、「父あり・母多」グループ
の子どもはそれぞれ 1.2 時間、1.2 時間と長いことがわかりました。中学生の場合も、「父
あり・母多」グループの子どもは、それ以外のグループの子どもよりも、平日、休日とも
勉強時間が長くなっています。すなわち、父親・母親が子どもに勉強を教えることが多い
家庭ほど、子どもの勉強時間は長いといえます。
父親が勉強を教えることの有無と母親が教える頻度の影響を比べると、父親の影響の方
が強くなっています。勉強を教える頻度は、母親よりも父親の方が少なくなっていますが、
父親が教えているか否かで、特に中学生は子どもの勉強時間には大きな差が生じています。
ここで、父親・母親が勉強を教えている家庭は、子どもに勉強を無理強いするために、
勉強時間が長くなっているのではないかという点が懸念されます。しかしながら、父親・
母親が教えることが多い家庭ほど、子どもが「勉強は楽しい」と答えている割合はむしろ
高くなっており(図表省略)、先の懸念はあたりません。
≪研究員のコメント≫
今回の分析から、次の点が明らかになりました。
第一に、小中学生、特に中学生では、勉強する子どもとしない子どもの差が大きいこと
が見出されました。平日の勉強時間が、1日3時間以上の子どもがいる一方で、ほとんど
しない子どももいます。特に休日の勉強時間の個人差は大きいです。また、男女を比較し
た場合、男子の方が勉強する子どもとしない子どもの差が大きくなっています。他の条件
が同じであれば、当然、勉強をしない子どもよりもする子どもの方が、成績はよくなり、
より高い水準の高等教育へ進学することになります。
第二に、父親・母親の学歴や父親の年収が、子どもの勉強に影響を与えていることが確
認されました。父親・母親の学歴や父親の年収が高い子どもの方が、勉強時間は長くなっ
ています。これは、家庭の学歴や経済力等の差によって、子どもの勉強行動や勉強する意
欲の差が生じているという既存研究の指摘と合致します。
ただし、子どもの勉強に影響を与えているのは、親の学歴や父親の年収のみではありま
せん。第三に、父親・母親の学歴や父親の年収よりも、父親・母親が子どもに勉強を教え
る頻度の方が、子どもの勉強時間の長さに強い影響を与えていることが見出されました。
父親・母親の学歴が高い子どもほど勉強時間は長い傾向がありますが、親が高学歴でも勉
強をサポートしていなければ、子どもの勉強時間はそれほど長くはなりません。
近年における子どもの学力格差は、子どもの学習に対する意欲格差の広がりから生じて
いることが指摘されています。子どもの意欲格差の背景には親の学歴や経済力等の差があ
り、ゆとり教育は期せずして親の学歴差等の影響を強めることになりました。しかし、今
回の分析結果をふまえると、この間に広がっていたものは、子どもの側の意欲格差のみで
はないかもしれません。子どもの勉強を親がどの程度支えているかという格差やそれを行
おうとする<親の意欲格差>の広がりも、子どもの学力格差を拡大させた大きな要因とし
て存在しているとみられます。
従来、子どもの学力格差が親の学歴や経済力等と結びついている点を指して、不平等が
再生産されているという議論がなされてきました。しかし、子どもの学力格差が、自らの
子どもに勉強を教えようとする親の意欲格差から生じている場合、これも従来の議論の延
長線上で捉えられるのだろうかという疑問が生じます。
(研究開発室 主任研究員 松田 茂樹)