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閾下単純接触の累積的効果とその長期持続性

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閾下単純接触の累積的効果とその長期持続性

1

川上 直秋

2

吉田 富二雄

筑波大学

Accumulative effects and long- term persistence of subliminal mere exposure Naoaki Kawakami and Fujio Yoshida (University of Tsukuba)

We examined the accumulative effects and long-term persistence of subliminal mere exposure. An accumulative exposure condition (100 exposures distributed over five days) and a massed exposure condition (100 exposures in one day) were used in a Go/No-go Association Task (GNAT), with assessments of likability from Time 1 (just after) to Time 6 (after three months). First, a single stimulus was shown subliminally for a total of 100 times. The results indicated that mere exposure effects occurred equally often at Time 1. However, after Time 2, likability gradually decreased under the massed exposure condition, while it did not decrease under the accumulative exposure condition until Time 6. Second, in order to investigate the effect of multiple exposure, five stimuli belonging to a common category were shown 20 times each, for a total of 100 times. An ANOVA suggested that massed exposure had an instantaneous effect on likability, whereas accumulative exposure had a long-term persistence effect. Also, multiple exposures strengthened the mere exposure effect.

Key words: mere exposure effect, Go/No-go Association Task (GNAT), subliminal, accumulative effect.

The Japanese Journal of Psychology

2011, Vol. 82, No. 4, pp. 345-353 ある対象に反復して接触することで,その対象に対 する好意度が増す現象を単純接触効果(mere expo-sure effect)という(Zajonc, 1968)。単純接触効果の 基本的な実験パラダイムは,対象への反復接触と好意 度評定の二つのフェイズから構成される。例えば,そ の先駆的研究である Zajonc(1968)では,文字や写 真などを様々な頻度で一時的に呈示した後,それらに 対する好意度評定が行われた。その後の単純接触効果 研究は,基本的にこの Zajonc(1968)による実験パ ラダイムを踏襲する形で行われ,いくつかの基礎的な 知見が確立された。それらは以下に整理される。 1.単純接触効果は,極めて短時間の閾下呈示によ る反復接触した刺激を再認できない状況下においても

生起することから(Kunst-Wilson & Zajonc, 1980), 接触の無意識的影響が指摘されている。 2.単 純 接 触 効 果 は,幾 何 学 図 形(Bornstein & DʼAgostino, 1992)な ど の 図 形 刺 激,文 字 刺 激 (Zajonc, 1968)を始めとし,人物の顔写真(Zajonc, 1968)など,あらゆる対象において生起する。 3.単純接触効果においては,呈示回数が多いほど その対象への好意度も高まり(Bornstein, 1989),こ の傾向は閾上呈示,閾下呈示にかかわらず認められる (Bornstein & DʼAgostino, 1992; Zajonc, 1968)3

このように,単純接触効果はあらゆる対象に対する 当事者の意識とは独立した,–単なる(mere)—反復 接触に基づく現象である。それ故,情報化社会に伴う 刺激量の増大による影響など,様々な社会現象の説明 へと適用されているが(下條,2008),多くの研究で は,前述のように,Zajonc(1968)に依拠した実験室 実験という形で,一時的に接触回数を操作した検討が なされてきた。一方で Moreland & Beach(1992)は, この一時点での接触回数という従来の枠組みを,フィ ールド実験における接触日数に置き換えることで,よ

Correspondence concerning this article should be sent to: Naoaki Kawakami, Institute of Psychology, University of Tsukuba, Tennodai, Tsukuba 305-8572, Japan (e-mail: aki-kawa@human. tsukuba.ac.jp) 1 本研究の一部は,公益財団法人吉田秀雄記念事業財団第 43 次研究助成の支援を受けて実施された。 2 本研究の実施にあたり,筑波大学人間学群心理学類の甲斐 壮太郎さん,島田 葵さん,高野 満里加さん, 睦美さん,野 島 孝信さんにご協力いただきました。記して感謝申し上げま す。 3 ただし,過度の接触によって好意度が上昇から下降に転ず るという飽きの効果を報告する知見もある(Berlyne, 1970)。

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り日常的な効果を検討している。その研究では,サク ラの学生を週 1 回の講義へ出席させる日数を操作し (0 回,5 回,10 回,15 回),そのコースの最後にサク ラの人物についての好意度を尋ねるという方法が用い られた。その結果,他の学生との相互作用はなかった にもかかわらず,接触日数の増加と共に好意度も増加 することが示された。 この研究は,現実場面における単純接触効果を実証 したものと位置づけられるが,それだけに留まらず, 単純接触効果の本質に関わる二つの可能性を示唆す る。第一に,従来の実験室実験で検討されてきた一時 点での接触による効果ではなく,接触が日々繰り返さ れることによる効果を示した点である。つまり,日常 的な観点からすると,反復接触という事態は短時間の うち一時点で完結することはありえず,少なからず 日々の接触が積み重ねられ,累積的な形となる。ただ し,Moreland & Beach(1992)の場合,接触日数が 独立変数であるため,接触回数の効果と接触を日々積 み重ねることによる累積的な効果が概念的に区別され ない。例えば,このような接触の累積的な効果は,メ ディア接触の文脈から多く議論され(Johnson, Cohen, Smailes, Kasen, & Brook, 2002),日常的なメディア接 触の積み重ねが,視聴者の攻撃性などに長期的な影響 を及ぼすことが相関研究から明らかとされている。し たがって,接触を日々積み重ねることによる累積的な 影響は,従来の一時点における接触の影響とは異なる 性質を持つと推測される。実際,この反復の方法に関 わる問題は,いわゆる分散学習,集中学習という文脈 では明確に区別される。具体的には,ある一定量の項 目を学習する際,間隔をあけずに学習する(集中学 習)よりも,ある程度の間隔をあけて学習する(分散 学習)方が,後の再生率が優れるというものである (Dempster, 1996)。すなわち,反復の方法によってそ の効果が質的に異なることを示しており,より現実場 面に近い現象を捉えるためには,単純接触効果におい ても,接触回数の効果と日々の接触の積み重ねによる 累積的な効果を概念的に区別した実験的手続きが必要 であろう。ただし,ある行為の反復のスパンという点 からすれば,接触の積み重ねによる単純接触効果と分 散学習は類似するものの,両者の前提にはいくつかの 重要な相違点が見受けられる。まず,分散学習が意図 的な学習を前提としているのに対して,単純接触効果 で は む し ろ そ の 無 意 図 的 な 側 面 が 強 調 さ れ る (Zajonc, 2001)。すなわち,対象への一切の働きかけ のない–単なる—接触が好意度増加の十分条件となる ことに,この効果の現象的意義がある。また,分散学 習の多くが再生率という意識的な記憶を指標とする一 方で,単純接触効果は好意度という感情あるいは態度 を指標とする。ここで重要なことは,単純接触効果が

顕在的な記憶とは独立して生じる点である(Kunst-Wilson & Zajonc, 1980)。それどころか,接触を意識 することは効果を割り引くとさえ考えられている (Bornstein & DʼAgostino, 1992)。したがって,両者のプ

ロセスが同一であるとは考え難いが,接触のスパンに よって効果が質的に異なるであろう示唆は得られる。

Moreland & Beach(1992)から示唆される第二の 点として,接触における–反復—と–変化—が挙げら れる。すなわち,人が日々接触する対象は必ずしも同 一 の も の で は な く,常 に 変 化 を 伴 う。例 え ば, Moreland & Beach(1992)は,週 1 回同じ人物に接 触することの効果を検討したが,その人物についても 外見的に同一であるとは考えづらい。なぜなら,人は 日ごとに髪型も異なれば,服装も異なると考えられる ためである。すなわち,日常的な観点から単純接触効 果を捉え直した場合,単に同じ対象に反復して接触す るのではなく,日々多様な変化を伴うものと考えられ る。このような接触における反復と変化に関する効果 について,多面的接触という視点から新たな知見が得 られ始めている。近年,単純接触効果において接触す る刺激にある共通性(カテゴリ)が存在する場合,そ のカテゴリ全体へと効果が般化することが示された (川 上・佐 藤・吉 田,2010; Smith, Dijksterhuis, & Chaiken, 2008)。そこで,川上・吉田(2009)は,こ の知見を踏まえ,共通のカテゴリに属する複数の刺激 への反復接触(多面的接触)は,そのカテゴリ内にお ける単一の刺激のみへ接触する場合と比べ,効果を強 化することを明らかにした。その研究では(実験 2), ある人物の複数の表情(7 表情)へ各 3 回ずつ閾下接 触する方が,無表情のみに 21 回閾下で接触するより も,効果が強いことが示された。すなわち,–ある人 物—をカテゴリとして捉えた場合,カテゴリレベルで の–反復—とカテゴリ内での–変化—が単純接触効果 を強化することが示唆される。

ここまで,Moreland & Beach(1992)の研究を基 に,接触を日々繰り返すことによる累積的効果と,接 触における反復と変化の可能性を示した。しかし,こ れまでの研究で,両者を統一的に検討したものはな い。むしろ先に論じたように,人が何かに反復接触を するという状況は,日々積み重なり,かつ常に変化を 伴うものである。特に情報社会の現代では,ある対象 や情報は形や発信される媒体を変え,我々の日常に• れている。したがって,日々の接触の積み重ね(累積 接触)に反復と変化(多面的接触)の観点が重なるこ とで,より現実場面で起こり得る現象に対して,包括 的な示唆を与えられるものと考えられる。そこで,本 研究ではこれら 2 点について,単純接触効果の長期持 続性の観点から実験的に検討する。 接触を日々積み重ねることによる累積的な影響は, メディア接触の影響で議論されるように長期的に見た 場合,顕著に現れると推測される(Johnson et al.,

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2002)。単純接触効果研究において,一時点での接触 による長期的な効果はいくつか報告されている。例え ば,Stang(1975)では,トルコ語への閾上接触の効 果が,直後に比べれば弱まるものの 2 週間後まで維持 さ れ る こ と が 示 さ れ た。ま た,Seamon, Brody, & Kauff(1983)では,ランダム図形への閾下での反復 接触の効果が 1 週間後にも確認されている。このよう に,一時点における接触ではある程度の持続性が確認 されているものの,接触を数日に渡って繰り返した場 合,ならびに多面的な接触をした場合の持続性につい ては検討がなされていない。さらに,その影響をより 明確に捉えるためには,数週間に留まらずより長期的 な測定が必要であろう。 以上のように,接触の積み重ねによる累積的な効果 と単純接触効果の長期持続性について示唆する知見は あるものの,総合的に検討したものはない。その大き な理由の一つは,実験に当たっての方法論的な制約に あると考えられる。接触の累積的な影響の検討には, 同じ対象へ数日間に渡る繰り返し接触が必要である。 同様に,長期持続性の検討にも,同じ実験参加者に対 して同じ対象への複数回の好意度測定が必要である。 つまり,長期的なスパンでの単純接触効果の検討に は,実験参加者に対して同じ対象への接触,測定を繰 り返すという不自然な課題を強いることになる。その ため,例えば実験参加者が実験者の意図を意識的に汲 み取ってしまう可能性(要求特性など)も考えられる。 そのような実験設定の不自然さを排除するため,社会 心理学では無意識的な方法が用いられる(Bargh, 1992)。 すなわち,同じことが不自然に繰り返されているとい う意識を極力排除した形の実験状況を設定すること で,要求特性の混入は比較的避けられるものと考えら れる。そこで本研究では,反復接触の累積的効果とそ の長期持続性を検討するにあたり,接触には刺激の閾 下呈示(再認困難なレベルでの呈示により,実験参加 者がどのような対象に接触したか自覚を伴わない), ならびに測定には間接的な方法(好意度評定とは表面 上無関連な課題を通して,自動的な評価を測定する) を用いる。同時に,このような本人に意識されない方 法を用いることで,単純接触効果における無意識過程 の存在を改めて捉え直すことができると考えられる。 本研究では,間接的な測定方法として,Implicit Association Test(以 下 IAT と す る; Greenwald, McGhee, & Schwartz, 1998)から派生した,カテゴリ ご と の 個 別 評 価 を 測 定 す る Go/No-go Association Task(以下 GNAT とする; Nosek & Banaji, 2001)を 用いる。GNAT は,ある対象カテゴリ(–日本—)と 属性(–快—,–不快—)を組み合わせ,–日本—という カテゴリが–快—,–不快—のどちらの属性との結び付 きが強いか,その連合強度をカテゴリ弁別課題から測 定する。主要な画面例を Figure 1 に示した。具体的 な課題としては,コンピューター画面中央に対象関連 刺激(–京都—,–広島—,–上海—,–北京—など)と属 性関連刺激(–美—,–好—,–汚—,–嫌—など)が,一 つずつランダムな順序で連続して呈示される。そし て,それらの各刺激が画面上部で指定されている対象 カテゴリと属性カテゴリにそれぞれ当てはまるか(タ ーゲット),あるいは当てはまらないか(ディストラ クタ)を制限時間内にキー押しで弁別する課題が行わ れる4。例えば,Figure 1 左では,–日本—と–快—が ターゲットカテゴリであり,画面中央に呈示された –美—という属性関連語は–快—に当てはまるため, キ ー 押 し(ス ペ ー ス キ ー)が 正 答 と な る。一 方, Figure 1 右では,–日本—と–不快—がターゲットカ テゴリであるため,–美—はディストラクタとなり, キー押しをしないことが正答となる。同様に,–京都— など日本に関連する対象関連刺激は反応すべきターゲ ットとなるが,–上海—など日本に含まれない対象関 連刺激はディストラクタとなる。連合の強いカテゴリ 同士がターゲットとなる場合(–日本-快—:Figure 1 左),そうでない場合(–日本-不快—:Figure 1 右) よりも弁別が容易になり,結果として課題への正答率 が高いことが想定される。したがって,両弁別課題の 正答率の差分の大きさが,そのカテゴリが–快—ある いは–不快—のどちらと強く連合しているかという個 別のカテゴリ評価の指標となる。この方法は IAT と 異なり,必ずしも対とならない対象を扱う場合に有効 であるとされる。 目 的 ここまでの議論から,本研究では GNAT による間

Figure 1. Sample screenshots from the–日本—GNAT.

4 各カテゴリに当てはまる刺激に混同がないよう,組み合わ せ課題に先立って練習課題が行われる。練習課題では,画面上 部にカテゴリが一つのみ指定され(–日本—),そのカテゴリに当 てはまる刺激(–京都—,–広島—など)が呈示された場合のみ反 応することが求められる。この練習課題を,用いる–日本—, –快—,–不快—カテゴリそれぞれに対して実施し,各試行後に正 誤のフィードバックが行われる。

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接的な測定を用いて,閾下単純接触の累積的効果及び 多面的接触の効果を,その長期持続性の観点から検討 することを全体的な目的とする。したがって,これら の要因の検討のため,接触方法(累積接触・集中接 触),接触対象(単一接触・多面的接触),測定時期の 三つの要因に基づき実験が計画された。ただし,単純 接触効果の生起,ならびに接触回数の多寡による影響 の検討のため,それらに加え接触を行わない場合(統 制)と,先行研究(Bornstein, 1989)から効果が安定 して生起するための標準的な接触回数と考えられる 20 回接触する場合(基本接触)を含め,効果を比較 する。それにあたり,以下の二つの目的を設定した。 目的 1 閾下単純接触の累積的効果について,その 長期持続性の観点から検討する。 目的 2 接触方法(累積接触・集中接触)と接触対 象(単一接触・多面的接触)の各要因の効果を総合的 に分析する。 方 法 実験参加者 大学生 94 名(男性 43 名,女性 51 名) であった。平均年齢 20.66 歳(SD=1.72)であった。 実験デザイン 接触方法(累積接触・集中接触), 接触対象(単一接触・多面的接触),測定時期(Time 1; 直後・Time 2; 3 日後・Time 3; 1 週間後・Time 4; 2 週間後・Time 5; 1ヵ月後・Time 6; 3ヵ月後)を要因 とする 2×2×6 の 3 要因混合計画(測定時期のみ実験 参加者内要因)であった。またこれら三つの要因に, 単純接触効果の生起の基準となる統制条件,20 回の 接触のみ行う基本接触条件を加え,各条件に実験参加 者をランダムに配置した(なお,統制,基本の両条件 についても他条件同様各 6 回の反復測定を行った)。 具体的には,累積的に単一刺激へ接触する(累積単一 接触)条件 16 名,集中的に単一刺激へ接触する(集 中単一接触)条件 16 名,以下同様に累積多面的接触 条件 17 名,集中多面的接触条件 15 名,基本接触条件 15 名,統制条件 15 名であった。 実験装置 刺激の呈示及び GNAT の実施にはパー ソナルコンピューター(Dell 社製),17 インチ CRT デ ィ ス プ レ イ(iiyama 社 製),ソ フ ト ウ ェ ア に は Inquisit2.0(Millisecond 社)を使用した。 刺激材料 長期に渡る実験期間内での日常的な接触 を防ぐため,架空の 3D キャラクターを用いた。刺激 となるキャラクターは,CG 作成ソフト(POSER 7) により作成した。刺激の選定にあたって予備調査を実 施した。第一に,好意度に偏りのないキャラクターを 選定することを目的とし,大学生 20 名(男性 8 名, 女性 12 名)を対象に調査を行った。調査協力者には, 作成した 8 種類のキャラクター(正立正面画像)につ いて,それぞれ–どの程度好ましく感じますか—とい う教示に対して,–かなり嫌い(不快な)(1)-かなり 好き(快い)(7)—の 2 項目 7 件法で評定を求めた。 また,別の大学生 15 名には,多面的接触に用いる刺 激の選定のため,最初の予備調査に用いたキャラクタ ーごとに,ポーズが異なる 5 種類の画像計 40 枚につ いて,–かなり不快な-かなり快い—の 1 項目 7 件法で 評定を求めた。その結果,正立正面画像の好意度評定 値が理論的中間値である 4 付近(3.75─4.25)に収ま り,標準偏差が比較的小さい(0.8 以下),かつポー ズの異なるバリエーション画像 5 枚の快-不快評定値 の平均と正立正面画像の快-不快評定値との間に有意 な差が認められなかったキャラクター 2 種類を最終的 な刺激キャラクターとして実験に用いた。実験に用い た キ ャ ラ ク タ ー と そ の バ リ エ ー シ ョ ン の 例 を Appendix に示した。 また,GNAT による測定に用いるキャラクター関 連刺激として,ポーズや角度の異なる画像を各キャラ クターにつき 30 枚作成し,ランダムに 5 枚組み合わ せ,計 6 セット作成した。GNAT における属性関連 刺激には,–快—を表す刺激として,川上他(2010) に倣い,–良—,–美—,–好—,–嬉—,–優—の 5 語を, –不快—を表す刺激として,–悪—,–醜—,–嫌—,–悲—, –劣—の 5 語を用いた。画面に呈示された刺激のサイ ズは,キャラクター画像が縦約 6 cm×横約 4 cm であ った。実験時の観察距離は約 70 cm であった。 GNAT を用いた連合強度の測定 キャラクターと 属性(–快—・–不快—)との連合強度を,GNAT によ り測定した。GNAT で使用したカテゴリは,対象カ テゴリとして,–接触キャラクター—,–未接触キャラ クター—の 2 種類,属性カテゴリとして,–快—,–不 快—の 2 種類であった。GNAT は全部で七つのブロ ックから構成され,基本的な手続き及び得点化は Nosek & Banaji(2001)に準じた。いずれのブロック においてもコンピューター画面中央にキャラクター関 連刺激と属性関連刺激が連続して呈示され,それぞれ 画面上部に表示されている対象カテゴリと属性カテゴ リに当てはまるターゲットであるか否かを,550 ms 以内に弁別する課題が行われた5。実験参加者には, ターゲット刺激が出てきた場合のみ,利き手の人差し 指でスペースキーを押すよう求めた。なお,画面上部 に表示されるカテゴリを表すラベルには,当該キャラ クターの正立正面画像と,–快—,–不快—という漢字 を用いた。1 ブロック目から 3 ブロック目は,練習課 題用のキャラクターである–フィラーキャラクター—, –快—,–不快—をそれぞれ弁別する練習課題 20 試行ず つであった。4 ブロック目から 7 ブロック目は,–接 触キャラクター—,–未接触キャラクター—の対象カテ

5 Nosek & Banaji(2001)によれば,正答率の天井効果を回避

するため,制限時間は 500 ms─850 ms が適切とされる。予備実 験を通して,本研究では 550 ms が適切と判断した。

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ゴリと,–快—,–不快—の属性カテゴリを各一つずつ 組み合わせた弁別課題 76 試行ずつであった。ディス トラクタ刺激には,四つのカテゴリのうち,ターゲッ トとなるカテゴリに当てはまらない残りのカテゴリに 属する刺激を用いた(例えば–接触キャラクター-快— ブロックでは,–未接触キャラクター—,–不快—の刺 激がディストラクタ)。なお,各組み合わせ弁別ブロ ックの初めの 16 試行は練習試行であり,分析から除 外した。練習試行 16 試行では,ターゲット刺激とデ ィストラクタ刺激がそれぞれ 8 回ずつ,本試行 60 試 行では,それぞれ 30 回ずつランダムに呈示された。 練習ブロック及び組み合わせ弁別ブロック内でのブロ ック順序は,実験参加者ごとにランダムに決定した。 dʼ 得点の算出 接触キャラクターをターゲットと する二つのブロックのみ分析に用いた。まず,実験参 加者ごとに二つの組み合わせブロックの本試行 60 試 行を,それぞれ 550 ms の制限時間と弁別の正解・不 正解から,ヒット(ターゲット刺激に正しく反応)・ コレクトリジェクション(ディストラクタ刺激を正し く回避)・フォルスアラーム(ディストラクタ刺激に 誤って反応)・ミス(ターゲット刺激を誤って回避) に分類した。さらに,両ブロックにおけるヒットの割 合と,フォルスアラームの割合をプロビット変換し, ヒットの値からフォルスアラームの値を引いた値を, 連合強度を表す dʼ とした。以上の手続きの後,–接触 キャラクター-快—ブロックの dʼ から–接触キャラク ター-不快—ブロックの dʼ の差をとり,この値を–接 触キャラクター—の dʼ 得点とした。dʼ 得点が大きい ほど,–不快—よりも–快—の連合が強いことを意味 する。すなわち,dʼ 得点が正の方向に大きいほど, そのキャラクターに対する好意的評価を意味する。 手続き 実験は実験室で個別に実施した。視覚にお ける情報処理に関する時系列的検討という教示のも と,実験は二つのフェイズから構成された。手続きの フローチャートを Figure 2 に示した。 まず接触フェイズでは,–この実験は,視覚におけ る情報処理の速さについて検討するものです。今から 画面中央に画像が短時間表示されます。一瞬しか表示 されないので,画面中央を注視するようにしてくださ い。—という教示の後,接触キャラクター画像を黒地 背景の画面上に呈示した。接触にあたり,接触キャラ クター画像を 20 回呈示するセットを基本セットとし た。接触方法に関して,累積接触条件では,基本セッ トを 1 日 1 セット 5 日間連続してほぼ同時刻に実施し た(計 100 回呈示)。集中接触条件では,基本セット を約 2 分間のインターバルを挟み,1 日の間に 5 セッ ト繰り返して実施した(計 100 回呈示)。接触対象に 関しては,単一接触条件の場合,接触キャラクターの 正立正面画像のみを呈示し,多面的接触条件では,接 触キャラクターのポーズの異なる画像 5 種類をそれぞ れ 1 種類ずつ基本セットに配分し呈示した。また基本 接触条件では,基本セット(正立正面画像)を 1 日の

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間に 1 セットのみ実施し,統制条件ではフィラー画像 (実験とは無関係な人物顔写真)を 1 日の間に 1 セッ ト分(計 20 回)呈示した。各試行における具体的な 内容としては,まず画面中央に注視点を 1 000 ms 呈 示した後,接触キャラクター画像を 8 ms 呈示した。 キャラクター画像の呈示後,マスク刺激を 200 ms 呈 示した。各試行間のインターバルは 1 000 ms であり, その間はディスプレイには何も呈示しなかった。 最後の接触フェイズ終了後,すべての実験参加者に GNAT を用いた測定フェイズへの取り組みを求めた。 測定フェイズは,各実験参加者につき計 6 回行った。 具体的には,接触フェイズ終了直後,3 日後(M=3 日後),1 週間後(M=7 日後),2 週間後(M=14.12 日後),1ヵ月後(M=30.83 日後),3ヵ月後(M=91.44 日後)に測定を行った。6 組の GNAT 用刺激セット の順序はランダムに決定した。なお,統制条件におい て,いずれのキャラクターが評価対象となるかはカウ ンターバランスをとった。 結 果 接触キャラクターにおける条件ごとの dʼ 得点につ いて,それぞれの目的に従い二つの分析を行った。ま ず目的 1 に従い,閾下単純接触の累積的効果について その長期持続性の観点から検討するため,単一刺激を 呈示した場合の効果を,基本接触条件・統制条件を含 めた 4(累積単一接触・集中単一接触・基本接触・統 制)×6(測定時期:Time 1─Time 6)の分散分析を行 った。さらに,分析 1 の結果を踏まえ,多面的接触の 効果を含めた各要因の特徴を総合的に検討するため, 2(接触方法:累積接触・集中接触)×2(接触対象: 単一接触・多面的接触)×6(測定時期)の 3 要因分散 分析を行った。以下,順に報告する。 分析 1 累積的効果と持続性 dʼ 得点を指標として,4(接触:累積単一接触・集 中単一接触・基本接触・統制)×6(測定時期:Time 1 ─Time 6)の分散分析を行った結果(Figure 3A), 交互作用が有意であった(F(15,290)=4.62,p<.05)。 そこで,要因ごとの単純主効果検定を行った。その結 果,測定時期における接触の単純主効果が Time 3(1 週 間 後)を 除 き 有 意 で あ り(Fs(3,58)≧4.00,ps< .01),また接触における測定時期の単純主効果が累積 接触条件と統制条件を除き有意であった(Fs(5,54) ≧2.92,ps<.05)。多重比較を踏まえた分散分析の結 果は以下の 5 点に整理される。⒜まず,統制条件の得 点は,全ての時期において 0 周辺に位置し,測定時期 間で有意差は見られなかった。このことから,単純接 触効果の生起の基準として妥当だと考えられる。⒝そ こで,Time 1(直後)における条件間の差を見ると, 累積単一接触,集中単一接触,基本接触の 3 条件の得

Figure 3. Mean dʼ scores for target character. Values represent the difference between a target character paired with positive and paired with negative. Positive values indicate a positive attitude toward a target character.

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点が,統制条件の得点よりも高かった(ps<.01)。し たがって,接触直後においては,接触を行った 3 条件 で単純接触効果が生じていた。しかし,これら 3 条件 間の得点に有意な差は見られなかったことから,直後 の時点では,接触方法にかかわらず同程度の効果が生 じていたと考えられる。続いて,時系列に沿って見て いくと,⒞基本接触条件の得点は,Time 1(直後)か ら Time 2(3 日後)で有意に減少し(p<.05),さら に Time 3(1 週間後)には,統制条件との有意差も見 られなくなった。すなわち,接触直後から効果は減衰 し始め,接触から 1 週間後には効果が消失することが 示された。⒟集中単一接触条件においても,Time 1 (直後)で高い得点が見られたものの,その後徐々に 減少し,Time 3(1 週間後)以降に Time 1 と比較し て有意な減少を示した(ps<.05)。ただし,統制条件 との有意差は Time 3 を除いて Time 5(1ヵ月後)ま で見られ(ps<.05),Time 6(3ヵ月後)で有意差は 消失した。すなわち,基本接触条件と同様,接触直後 から効果は減衰するものの,単純接触効果は接触から 1ヵ月後まで維持されることが示された。⒠累積単一 接触条件では,Time 1(直後)の得点が減少せず,統 制条件との有意差も Time 6(3ヵ月後)まで見られ続 けた(ps<.01)。すなわち,3ヵ月後まで直後の効果 が維持されることが明らかとなった。 分析 2 要因の効果の総合的分析 分析 1 から,累積的な接触は効果を 3ヵ月後まで持 続させる一方で,一時点での接触による効果は直後か ら徐々に減衰していくことが明らかとなった。分析 2 では,多面的接触の効果も含め,各要因の効果を総合 的に検討する。 dʼ 得点を指標として,接触方法(累積接触・集中 接触)と接触対象(単一接触・多面的接触)を実験参 加者間要因,測定時期を実験参加者内要因とする 3 要 因分散分析を行った(Figure 3B)。その結果,まず接触 対象の主効果が有意であり(F(1,60)=5.07,p<.05), 単一接触条件よりも多面的接触条件の方が得点が高か った。すなわち,複数の刺激への多面的接触は効果を 強化することが示された。さらに,接触方法と測定時 期の交互作用が有意であった(F(5,300)=7.20,p< .01)。その後の単純主効果検定及び多重比較の結果を 時系列的に見ていくと,以下に整理される。まず,⒜ 累積接触条件では,測定時期間で得点に有意な変化は なく(F(5,56)=.77,ns),接触直後の得点が 3ヵ月後 まで維持されることが示された。⒝一方,集中接触条 件では,測定時期の単純主効果が見られ(F(5,56)= 10.36,p<.01),Time 1(直後)の得点が最も高く,Time 2(3 日後)から有意な減少が認められた(ps<.01)。 加えて Time 4(2 週間後)の時点からは,累積接触条 件 の 得 点 が 集 中 接 触 条 件 よ り も 高 く な っ て い た (Fs(1,60)≧3.99,ps<.05)。 考 察 単純接触効果に関わる従来の実験室実験では,一時 点における接触の影響が明らかにされてきた。これに 対して,本研究では Moreland & Beach(1992)から 示唆される二つの視点,すなわち接触を数日間に渡っ て積み重ねることによる累積的効果,ならびに単一の 対象のみでなく変化を伴う多面的接触の効果を,その 長期持続性の観点から無意識的手法を用いて検討し た。以下,得られた知見を整理する。 まず分析 1 では,単一刺激へ 5 セット接触した場合 の累積的効果について検討するため,単一刺激に 1 セ ットのみ接触した場合(基本接触)と,フィラー刺激 に 1 セットのみ接触した場合(統制)を含め分析し た。その結果,累積的な接触をした場合では,単純接 触効果が 3ヵ月後まで持続することが明らかとされ た6。それ以外の場合では,直後の時点において単純 接触効果が最も強く現れるものの,徐々に減衰し,1 セット 20 回のみの接触では 1 週間後,5 セット 100 回の集中的な接触では 1ヵ月を超えると効果が消失す ることが示された。この結果は,従来の単純接触効果 が少なくとも 1 週間あるいは 2 週間は持続することを 示した研究(Seamon et al., 1983; Stang, 1975)と近 い。また局所的に見ると,直後の時点においては, 100 回接触する場合と 20 回のみ接触する場合とで差 は見られなかった。一般的には,刺激の呈示回数と好 意度は比例関係にあるが,Bornstein(1989)のメタ 分析によると,用いる材料によって変動はあるもの の,概ね 20 回程度で天井効果が現れるとされる。単 純接触効果の説明理論には未だ定説はないが,知覚的 流暢性説が最も広く知られるところである。それによ ると,反復接触によって生じる知覚的な流暢さがその 好意度に帰属されることで,単純接触効果が生じると される(Bornstein & DʼAgostino, 1992, 1994)。すなわ ち,単一の刺激を呈示する場合には,20 回程度の反 復によって知覚的な流暢さが最大化するため,それ以 上の反復を行った場合であっても好意度の増加には繋 がらなかったものと考えられる。しかし,同じ短時間 での接触である集中接触条件と基本接触条件を比べた 場合,2 週間後以降には差が見られ始めていた。つま り,効果の強度に関しては,20 回程度の接触で頭打 ちとなるが,多数回の接触は長期的に見た場合,少数 回の接触と比較して,知覚的な流暢さの減少を抑え る。したがって,結果として単純接触効果の減衰も多 数回接触の場合には緩やかになるものと考えられる。 続く分析 2 では,同一キャラクターを表す複数の刺 6 この効果が果たしてどの程度の持続性を持つのか,現在(6 ヵ月後以降)も測定を継続中である。

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激への多面的接触を含め,各要因の効果を 3 要因分散 分析により総合的に検討した。その結果,接触対象の 主効果から,接触方法(累積接触・集中接触)にかか わらず,多面的接触は単純接触効果を強化するとい う,川上・吉田(2009)を支持する結果が得られた。 また,接触方法と測定時期の交互作用から,接触対象 (単一接触・多面的接触)にかかわらず,累積的な接 触は効果を長期的に持続させる働きがあることが示さ れた。以上の分析から,多面的接触は効果の強度,累 積的接触は効果の長期持続性にそれぞれ影響を及ぼす という特徴が明らかとなった。以下では,関連する先 行研究を交え,これらの結果の意義を論ずる。 本研究の結果は,従来の実験室実験が想定してきた 一時点での接触というパラダイムを超え,日々の接触 の積み重ねの効果を示したものである。その可能性 は,Moreland & Beach(1992)によるフィールド実 験から示唆されていたものの,そこでは接触回数と 日々の接触の積み重ねの影響が概念的に区別されてい なかった。本研究は,両者を分離した実験手続きに基 づき,累積的な接触が従来の一時点での接触とは質的 に異なる効果を有することを実験的に示した。特に, この接触の方法による効果の差異は,時系列的に鳥瞰 した場合に際立った。このような累積的な接触の長期 的効果は,メディア接触に関する相関研究などから示 唆されていたが(Johnson et al., 2002),(接触対象や 従属変数は違うものの)本研究はそれを実験的手法に より実証したものとも捉えられる。ただし,累積的に 接触をした場合の方が,集中的に接触をするよりも全 体的に見て有効であったという結果は,表面的には学 習方略としての分散学習,集中学習と類似しているよ うに思われるかもしれない。しかし,むしろここでは 両者の相違点が重要であろう。序論でも論じたよう に,いわゆる分散学習の多くが顕在的な記憶(再生 率)を指標とするのに対して(Dempster, 1996),単 純接触効果の場合,感情(好意度)が指標となる。こ の記憶と感情という指標の違いは,両者のプロセス を決定的に分かつものである。すなわち,単純接触 効果は,接触した刺激を再認できない閾下呈示にお いても生じ(Kunst-Wilson & Zajonc, 1980)7,むしろ 顕在的な記憶は効果を割り引くと考えられている (Bornstein & DʼAgostino, 1992)。事実,本研究におけ る接触直後の再認率はチャンスレベルに近く,累積接 触,集中接触の条件間で差は見られなかった。このこ とは,純粋に顕在的な記憶を指標とする分散学習の前 提とはなじまない。すなわち,閾下呈示による無意識 的な接触は,本人の意識的な学習あるいは記憶と独立 して積み重なり,好意度に影響を及ぼすものと考えら れる。 さらに,単に同じ刺激のみに繰り返し接触するより も,同一対象の複数の側面へ接触した場合(多面的接 触)の方が,全体的な効果の強度が底上げされてい た。これは,同一カテゴリ内での多面的な接触が効果 を強化するという知見を支持する(川上・吉田, 2009)。本研究から言えば,あるキャラクターという カテゴリレベルでの反復(同じキャラクターへの計 100 回の接触)と,そのカテゴリ内での変化(同一キ ャラクターではあるものの,表面的特徴が異なる刺激 への接触)が効果を強化したと考えられる。 ただし,本研究の結果は,効果の測定に GNAT と いう間接的な手法を用いたことによるところが大きい とも考えられる。単純接触効果に関する研究の大部分 は,対象への好意度を段階評定(Zajonc, 1968)や強 制選択(Kunst-Wilson & Zajonc, 1980)により測定し てきた。それらの自己報告による方法は,直接的に実 験参加者に好き嫌いを問うという点で,少なからず本 人 の 自 覚 に 基 づ く 好 意 度 が 測 定 さ れ る(Fazio & Olson, 2003; Greenwald et al., 1998)。一方,GNAT で は,カテゴリ判断課題を通した連合強度という形で, 好意度が間接的に測定される。そのため,閾下接触の ように本人が接触したことを意識しにくい事態では, 後者の間接的な測定の方が,鋭敏に効果を捉えやすか った可能性もある。ただし,近年ではそのような意識 されない効果であっても,広く社会行動に影響を及ぼ すことが知られている(Bargh, 2007)。したがって, 日々の接触による社会行動への影響という視点からす れば,その効果を無意識的な方法を用いて多角的に検 討した点も示唆に富むと言えるだろう。 本研究から得られた,累積的効果と多面的接触の効 果を総合すると,反復接触に起因する影響について, 以下の特徴が浮かび上がる。まず,効果の持続という 観点からは,少数回の接触を数日間に渡り継続的に行 うことの重要性が窺える。さらに,効果の強度という 観点からは,単に同じものでなく日ごとに異なる刺激 に接触することでより強い効果が生じる。加えて,こ れらの知見が閾下呈示によって示されたことが重要で ある。つまり,知覚者が接触したということを意識で きない状況においても,日々の接触が反復と変化を伴 いながら,潜在的に累積することが実験的に示され た。本研究では単純接触効果の観点から,その影響と して好意度を取り上げたが,単なる反復接触という状 況が極めて日常的な事態であることを加味すると,こ の知見は単純接触効果を超え,より社会的な場面にお いても当てはまるだろう。例えば,メディアなどを介 した日々の情報接触は長期的な影響として現れること 7 接触直後に,統制条件を除く各条件の実験参加者に対して, 接触キャラクターと未接触キャラクターの正立正面画像を対呈 示し,どちらが表示されていたかを問うた。その結果,各条件 間の再認率に有意差はなく(F(4,74)=0.98,ns),平均再認率は 54. 74%であった。

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が相関的研究により示唆されてきた(Johnson et al., 2002)。これに本研究での知見も加えて考えてみた場 合,形や発信される媒体を変えつつ,(本人の自覚と は独立に)常に何らかの情報に曝されている現代社会 では,その接触による影響は,より強く,かつ持続的 なものとして蓄積されていくのではないだろうか。 引 用 文 献

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── 2010. 1. 27 受稿,2011. 3. 5 受理──

Appendix

Figure 1. Sample screenshots from the–日本—GNAT.
Figure 2. Procedural flowchart of the experiment.
Figure 3. Mean dʼ scores for target character. Values represent the difference between a target character paired with positive and paired with negative

参照

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