論文種別:原著論文
表題:
女子バスケットボール選手におけるワンハンドショットでのボールの飛距離に影響を及ぼ す動作要因
Motion Factors Affecting the Ball Fight Distance on One-Hand Shot in Female Basketball Players 著者: 1) 石川 叶絵 ISHIKAWA Kanae 2) 遠藤 俊典 ENDO Toshinori 3) 田内 健二 TAUCHI Kenji 所属先:
1) 青山学院大学教育人間科学部 School of Education and Human Science, Aoyama Gakuin University
2) 青 山 学 院 大 学 社 会 情 報 学 部 School of Social Infomatics, Aoyama Gakuin University
3) 中京大学スポーツ科学部 School of Health and Sport Science, Chukyo University
所属先住所:
1) 〒252-5258 神奈川県相模原市中央区淵野辺 5-10-1
5-10-1 Fuchinobe, Chuo-ku, Sagamihara, Kanagawa 252-5258 2) 〒252-5258 神奈川県相模原市中央区淵野辺 5-10-1
5-10-1 Fuchinobe, Chuo-ku, Sagamihara, Kanagawa 252-5258 3) 〒470-0393 愛知県豊田市貝津町床立 101
101 Tokodachi, Kaizu-cho, Toyota, Aichi 470-0393
キーワード:ボールのリリース速度と角度,下肢の屈曲,肩関節の伸展,下肢と上肢の動 作の同期,筋力
Key Word:ball release velocity and angle, flexion of the lower limb, shoulder extension, synchronization lower limb movement and upper limb movement, muscle strength
ランニングタイトル:女子バスケットボール選手のワンハンドショット動作 連絡先担当者:石川 叶絵 [email protected]
Abstract:
The purpose of this study was to clarify the motion factors of a one-hand shot to get the ball flight distance for female basketball players.
Subjects were 18 female basketball players, who had one-hand shots. Seven distances were set, 1st shot from 3.225m. When the ball entered or reached the ring, the shot distance was extended 1m backward, and when the ball did not reach the ring 3 times continuously, subjects dropped out of the subsequent attempts.
The main results were as follows.
1) As the shot distance increases, the release velocity increased and release angle decrease significantly, and there was no significant in release height.
2) As the shot distance increases, the lower limb increased the horizontal velocity and the vertical velocity by extending the hip joint and knee joint from the more flexed posture.
3) As the shot distance increases, the vertical velocity of upper limb changed from a bimodal pattern that increased before maximum knee flexion (MKF), decreased once after MKF, and increased toward ball release (REL), to a pattern that suppressed the decrease after MKF and gradually increased toward REL.
4) As the shot distance increases, the pattern changed to increase the vertical velocity of the upper limb in synchronization with increase in the vertical velocity of the lower limb.
From these results, it was suggested that the factor of a one-hand shot in female basketball players that can get the ball flight distance is that the lower limb extend from the more flexed posture, and the upper limb shots immediate from the front of the chest after catching the ball, and synchronize these lower and upper limb movements.
Ⅰ.緒言 バスケットボールは2 つのチームが一定の競技時間内で得点を競い合うスポーツである. オフェンスには,ショット,ドリブル,パスといった技術があり,得点する唯一の手段であ るショットは,バスケットボールの試合において最も重要なスキルである(Hay,1994, p.239). ショットの方法は,ワンハンドショットとボースハンドショットとに大別できる.日本バ スケットボール協会(2014,p.109)は,ワンハンドショットのメリットは,ショットまで の準備動作(セット)が速いこと,打点を高くできること,打点や姿勢を変化させてもショ ットが可能なこと,片手のボール操作能力が向上すること,などが挙げられるが,ボースハ ンドショットのメリットは,飛距離を獲得できることのみであるとしている.このことから, ワンハンドショットはボースハンドショットより優位性があることが考えられ,実際に国 内外の男子選手,および国外の女子選手は,競技レベルを問わずワンハンドショットを用い ている.一方で,日本の女子選手のみ,ワンハンドショットよりもボースハンドショットを 多用しているのが現状である.この原因として,佐藤・長澤(2007)は,日本の指導者は女 子選手の筋力が低いという認識があることから,ワンハンドショットを指導することを諦 めていることが考えられると報告しており,日本バスケットボール協会(2014,p.110)も, 飛距離を獲得できるボースハンドを選択してしまう指導者が多いことが考えられると報告 している.しかし,これまでの日本の女子選手において,ワンハンドショットでのボールの 飛距離と筋力との関係を検討した研究はない. バスケットボールにおけるショット動作に関する先行研究は,主に正確性に着目してい るものが多い.男子選手のワンハンドショット動作を対象にした研究について,Nakano et al.(2018)は,ショット距離が増加するに伴って,上肢が発生するエネルギー量には変化 がなかったが,下肢から伝達されたエネルギーが増加し,ボールのリリース速度が増加して いたことから,上肢の動きを一定に保つことが正確性を維持するために重要であるとして いる.一方,女子のワンハンドショット動作に関する研究については,主に国外の選手を対 象にしており,ショット距離が増加するに伴って,ジャンプ高がピークに達する前にボール をリリースしていたことが報告されている(Satern,1993;Walters et al.,1990).日本の 女子選手を対象にしたものは,大神ら(1992)が,3.2m という近い距離からの中学女子選 手におけるショット動作は,肘関節の伸展に依存したショット動作であったことを報告し ているのみである.
以上のように,これまでのワンハンドショット動作に関する研究は,主に男子選手あるい は国外の女子選手を対象にして行われているが,これらの対象者においてはそもそもボー ルの飛距離が足りないという発想がないことから,正確性に着目して動作分析が行われて きたものと考えられる.したがって,ワンハンドショットにおいて,ボールの飛距離を獲得 するための動作要因については十分に検討されていない.先述したように日本の女子選手 においては,ボールの飛距離の獲得ができないという認識が主な要因となって,ワンハンド ショットが普及していないのが現状である.しかし,国外の女子選手は競技レベルを問わず ワンハンドショットを用いていることを考慮すると,日本の女子選手において普及しない 要因の一つには,選手および指導者がボールの飛距離を獲得できるワンハンドショット動 作を知らない,また,そのことによって指導できないことが考えられる. そこで本研究では,女子バスケットボール選手を対象として,ワンハンドショットにおい てボールの飛距離を獲得するための動作要因を,ショット距離の増加に伴う動作の変化の 観点から明らかにすること,加えてボールの飛距離に対する基礎的な筋力の影響を明らか にすることを目的とした. Ⅱ.方法 1. 分析対象者 本研究では,バスケットボール部に所属する大学女子選手 18 名(身長:164.9±6.3cm, 体重:61.1±6.2kg,年齢:20.3±1.5 歳,競技歴:11.1±2.4 年,利き手:右 17 名,左 1 名)を分析対象とした.なお,全ての分析対象者は,普段はボースハンドショットを行う選 手であった. 本研究は,中京大学体育学研究科研究倫理委員会の承認を得て行われた(承認 No.2019-9).分析対象者には,本研究の目的および実験内容などを説明し,あらかじめ実験参加への 同意を書面にて得た. 2. 試技 図1 に本研究の実験環境を示した.実験試技は,分析対象者をゴールの正面に立たせ,パ スキャッチから即座にワンハンドでショットする動作とした.試技を行う前に,分析対象者 本人が納得するまで,任意の距離からショット練習を行わせた.ショットは,リングの中心 から3.225m の地点から,1m ずつ後方に距離を伸ばし,9.225m の地点までの計 7 条件を
設定し(3.225m,4.225m,5.225m … 9.225m),それらを順に,D1,D2,D3 … D7 と した.本研究では,試合中のショット動作を想定して,動作範囲をショットするラインから 後方1m 以内とし,ボールキャッチ時はラインを踏まず,ボールリリース後はラインを越え ても良いとした.ボールがリングに入った,または当たった試技を成功試技とし,リングに 当たらなかった試技を失敗試技とした.なお,ボールはリングに達していたが,左右に外れ て失敗となった試技はなかった.3 回連続で失敗した場合,それ以降の試技から脱落させた. 分析試技は,各分析対象者における全成功試技とした. 3. 撮影方法 ショット動作を撮影するために,分析対象者の右側方約 8m に 4 台の高速度ビデオカメ ラ(EXLIM EX-100F,CASIO)を設置した(図 1).カメラ 1 で D1,D2,カメラ 2 で D3, D4,カメラ 3 で D5,D6,カメラ 4 で D7 からのショット動作を毎秒 240 コマ,露出時間 1/1000 秒で記録した. 撮影範囲は,各カメラにおけるゴールに近いショット距離より 1.5m 後ろから0.5m 前までとし,横 2m×高さ 2.4m の画角を設定し,3 カ所ずつキャリブレー ションポール(マーク間隔0.4m)を立てた(図 1).※図 1 4. 分析方法 撮影したショット動作の映像をPC に取り込み,動作分析ソフト(Flame-DIASⅤ,DKH) を用いて,ボールおよび分析対象者の利き手側の身体分析点(13 点)の合計 14 点(図 2) を,120Hz でデジタイズした.デジタイズによって取得した座標値を 2 次元 DLT(Direct Linear Transformation)法により実長換算し,ボールおよび身体分析点の 2 次元座標値を 求めた.算出された座標値は,6Hz のバターワース型ローパスデジタルフィルタにより平 滑化した(Okazaki and Rodacki,2018).なお本研究では,ゴール方向を X 軸,鉛直方向 をY 軸とし,それぞれの平均誤差は,X 軸:4.2±1.6mm,Y 軸:5.4±1.0mm であった. ※図2 分析範囲をボールキャッチ(ボールの加速度が最小値になった点)からリリース(ボール が指から完全に離れた最初の点)までとし,ボールキャッチ(CAT),膝関節最大屈曲(MKF), 離地(TO)およびボールリリース(REL)の各イベントを設定した.また,CAT から MKF までをP1,MKF から TO までを P2,TO から REL までを P3 とし,P1 を準備局面,P2 および P3 をリリース局面とした(図 3).動作時間は,フレーム数をもとに算出した.ま
た,本研究では後述する各身体部位の速度および動作を各試技間で比較するためにCAT を 0%,REL を 100%としてデータを規格化した.なお,1 名の分析対象者は D1 および D2 に おいて,TO を行わなかったため,成功試技であったが分析試技から除外した.※図 3 5. 分析項目 本研究では,以下の項目を算出した. 1) リリースパラメータ ・リリース速度(m/s):REL 時のボールの合成速度(ボールの座標値を時間微分するこ とで算出したものの合成値) ・リリース角度(deg):リリース速度ベクトルと X 軸とのなす角度 ・リリース高(m):REL 時のボールの高さ 2) 動作時間(s):P1,P2,P3 における経過時間および全経過時間をフレーム数をもとに 算出した. 3) ボール速度および身体部位速度(m/s):ボール,肩,大転子の水平および鉛直速度 4) ボール速度に対する身体各部位の貢献(m/s):阿江・渋川(1980)の相対運動の考え を参考にして,ボール速度(Vball)は,大転子速度(Vleg),大転子に対する肩の相対速 度(Vshoulder / Vleg),肩に対するボールの相対速度(Vball / Vshoulder)の総和(Vball = Vleg + Vshoulder / Vleg + Vball / Vshoulder)であるとし,ボール速度に対する身体各部位の貢献の 仕方を,水平成分において前方向(+)/後方向(−),鉛直成分において上方向(+)/ 下方向(−)として,それぞれ検討することとした.すなわち,Vlegは下肢の動作によ るボール速度(以下,下肢速度),Vshoulder / Vlegは体幹の動作によるボール速度(以下, 体幹速度),Vball / Vshoulderは上肢の動作によるボール速度(以下,上肢速度)を示すこ とになる. 5) 各関節角度の時系列変化 ・肩関節角度(deg):肩から大転子へ向かうベクトルと肩から肘へ向かうベクトルとのな す角度 ・肘関節角度(deg):肘から肩へ向かうベクトルと肘から手首へ向かうベクトルとのなす 角度 ・股関節角度(deg):大転子から肩へ向かうベクトルと大転子から膝へ向かうベクトルと のなす角度
・膝関節角度(deg):膝から大転子へ向かうベクトルと膝から足首へ向かうベクトルとの なす角度 6) 平均動作モデル:ショット動作の特徴を視覚的に把握するために,Ae et al.(2007)の 方法による平均動作モデルを算出した.この方法は,身体分析点の各座標値を身長で除 すことによって身体の大きさを規格化し,動作時間を0−100%で規格化することによっ て,分析対象者の平均的な動作モデルを構築するものである. 7) ベンチプレスおよびハーフスクワットの 3RM(Repetition Maximum):日常のトレー ニングにおけるベンチプレスおよびハーフスクワットの3RM の重量(kg)を聞き取り 調査した. 6. 統計処理 各分析項目について,表には平均値±標準偏差を示し,図には平均値のみを示した.成 功試技における距離の増加に伴う各パラメータの変化傾向を確認するために,傾向分析の 手法の1 つであるヨンクヒール・タプストラ検定を用いた.規格化したデータについては 5%ごとに検定を行った.有意水準は 5%未満とした.また,統計処理には統計解析ソフト ウェアSPSS ver.23 を使用した.最大ショット距離に対する筋力の影響については,サン プル数が少ないため,統計処理は行わなかった. Ⅲ.結果 各ショット距離における成功者は,D1 から D3 までは 18 名全員,D4 は 15 名,D5 は 12 名,D6 は 8 名,D7 は 4 名であった. 1. ボールのリリースパラメータおよび動作時間 表 1 にボールのリリースパラメータおよび動作時間を示した.ショット距離が増加する に伴って,リリース速度は有意に大きくなる傾向を示し,リリース角度は有意に小さくなる 傾向を示した.リリース高において有意な傾向は認められなかった.動作時間は,P1,P2 およびP3 に有意な傾向がなく,全ての試技における平均値の比がおよそ 6.5 : 2.5 : 1(P1: 0.52±0.13sec,P2:0.20±0.03sec,P3:0.06±0.03sec)であったことから,P1 を 0−65%, P2 を 65−90%,P3 を 90−100%として規格化した.※表 1
2. ボール速度およびボール速度に対する身体各部位の貢献 図 4 にボール速度および身体各部位の貢献を示した.水平速度をみると,ボール速度は CAT 後,マイナスからゼロになり,D1−D4 では MKF 前後に再びマイナスになった後に REL に向けて増加するパターン,D5−D7 では MKF 前後にマイナスにならず,REL に向 けて増加するパターンを示し,50−75%および 85−100%時点においてショット距離が増加す るに伴って有意に大きくなる傾向を示した.上肢速度は,ほぼボール速度のパターンと一致 し,ショット距離が増加するに伴って, 20−35%時点において有意に減少,50−70%および 90−100%時点において有意に増加する傾向を示した.下肢速度は,CAT 後から MKF まで ほぼ一定の値を示し,MKF 後にやや増加するパターンを示し,ショット距離が増加するに 伴って,70−100%時点において有意に増加する傾向を示した.体幹速度は,ほぼゼロ付近で 推移しており,ショット距離の増加に伴って,45−55%時点において有意に増加する傾向を 示した.一方,鉛直速度をみると,ボール速度はCAT 後,D1−D4 ではマイナスからより早 いタイミンングでプラスに転じ,MKF 付近で一旦停滞した後に REL に向けて増加するパ ターン,D5−D7 ではマイナスから MKF の直前にプラスに転じ,REL に向けて増加するパ ターンを示し,ショット距離が増加するに伴って,25−60%時点において有意に減少,70− 100%時点において有意に増加する傾向を示した.上肢速度は,D1−D4 では MKF 前に一旦 増加し,MKF 後に低下した後に REL に向けて再び増加する二峰性のパターンを示し,D5 −D7 では MKF 後の低下が抑えられ,REL に向けて徐々に増加するパターンを示し,ショ ット距離が増加するに伴って,25−60%時点において有意に減少,70−100%時点において有 意に増加する傾向を示した.下肢速度は,MKF を境にしてマイナスからプラスに転じるパ ターンを示し,ショット距離が増加するに伴って,55%時点において有意に減少,75−80% および95−100%時点において有意に増加する傾向を示した.体幹速度は,CAT 後から MKF までほぼゼロの値を示し,MKF 後に増加するパターンを示し,ショット距離が増加するに 伴って,MKF 前に低下した後に REL に向けて徐々に増加するパターンを示し,20−65%時 点において有意に減少,75−100%時点において有意に増加する傾向を示した.※図 4 3. 股関節および膝関節角度の時系列変化 図5 に股関節および膝関節角度の時系列変化を示した.股関節および膝関節は,CAT 後 からMKF に向けて一度伸展してから屈曲し,TO に向けて伸展するパターンを示し,ショ ット距離が増加するに伴って,MKF 時により屈曲位になった後に TO に向けて伸展してい
くパターンに変化した.ショット距離が増加するに伴って,股関節は45−80%時点において 有意に小さくなり,膝関節は55−80%時点において有意に小さくなり,90%時点において有 意に大きくなる傾向を示した.※図5 4. 肩関節および肘関節角度の時系列変化 図6 に肩関節および肘関節角度の時系列変化を示した.肩関節は,CAT 後,30−50 度程 度に伸展してREL に向けて屈曲していくパターンを示し,ショット距離が増加するに伴っ て,MKF 時により伸展位になった後に REL に向けて屈曲するパターンに変化した.ショ ット距離が増加するに伴って,30−100%時点において有意に小さくなる傾向を示した.肘関 節は,CAT 後,70−80 度程度に屈曲位を維持して,MKF から TO 直前に急激に伸展するパ ターンを示し,ショット距離が増加するに伴って,MKF 後により屈曲位になった後に伸展 するパターンに変化した.ショット距離が増加するに伴って,55−80%時点において有意に 小さくなり,90%時点において有意に大きくなる傾向を示した.※図 6 5. 平均動作モデル 各試技における対象者の平均動作モデルを図 7 に示した.それぞれの平均動作を概観す ると,リングまでの距離が短い場合は,上体が真っ直ぐなまま,MKF 時にボールを高く位 置付けてショットしていたが,ショット距離が増加するに伴って,MKF 時に上体が前傾し, ボールを低く位置付けてからショットしている傾向が観察された.※図7 6. 最大ショット距離に対するベンチプレスおよびハーフスクワットの 3RM 最大ショット距離に対するベンチプレスおよびハーフスクワットの3RM の重量を図 8 に 示した.ベンチプレスおよびハーフスクワットの3RM の重量(ベンチプレス:40.6±6.2kg, スクワット:84.9±13.0kg)には,最大ショット距離間に顕著な差は認められなかった.※ 図8 Ⅳ.考察 本研究では,通常はボースハンドショットを用いている女子バスケットボール選手のワ ンハンドショットにおいて,ボールの飛距離獲得に関わる動作要因を明らかにすることを 目的として,ショット距離を増加させた際の動作の変化の観点から検討した.
ショットされたボールの軌道は,リリース速度,リリース角度およびリリース高により決 定される(Miller and Bartlett,1996).本研究の結果は,ショット距離が増加するに伴っ てリリース速度は有意に大きくなり,リリース角度は,有意に小さくなるという先行研究の 報告(Satern,1993;Walters et al.,1990)と一致した(表 1).このことは,正確性を求 めるために低いリリース速度と大きなリリース角度を必要とするショット動作(Okazaki et al.,2015)とは異なっていたことから,本研究の動作の変化は,ボールの飛距離を獲得す るための変化であったと考えられる.なお,本研究の分析対象者において,スリーポイント ラインを超えるD5(7.225m)からは,18 名中 12 名が成功していたことを考慮すると,適 切な指導を行えば多くがボースハンドである日本の女子選手においても,ワンハンドショ ットによって十分なボールの飛距離を獲得できるものと考えられる. 本研究では,ショット距離の増加に伴う動作の変化を明らかにするために,阿江・渋川 (1980)が提案した相対運動の考え方を導入し,ボール速度に対する身体各部位の貢献の 仕方について検討した.相対運動の考え方とは,ボール速度は,大転子速度,大転子に対す る肩の相対速度,肩速度に対するボールの相対速度の総和であるとみなし,ボールに対する 下肢,体幹,上肢の貢献の仕方を明らかにするものである.なお本研究では,大転子速度を 下肢速度,大転子に対する肩の相対速度を体幹速度,肩速度に対するボールの相対速度を上 肢速度とした.その結果,ボールの水平速度は,ショット距離が増加するに伴って有意に大 きくなる傾向を示し,いずれのショット距離においても,上肢速度の大きさおよび変化パタ ーンとほぼ一致していた(図4 上段).このことは,ボールの水平速度は,ほぼ上肢の運動 によって発生していたことを示唆するものである.ただし,ショット距離が増加するに伴っ て,このボール速度と上肢速度との差は広がっており,他の部位速度をみると,下肢速度が 増加していた(図4 上段).このことは,ボールの水平速度の増加には,リリース局面にお いて,上肢の伸展動作に加えて,下肢の伸展動作の貢献を高めることが重要であることを示 唆するものである. 一方,ボールの鉛直速度は,ショット距離が増加するに伴って有意に大きくなる傾向を示 し,MKF 直前にマイナスからプラスに転じ,REL に向けて一気に増加するパターンへと変 化していた(図 4 下段).各部位速度をみると,下肢速度はショット距離の増加に伴って, リリース局面において大きくなる傾向がみられた.上肢速度はショット距離の増加に伴っ て,二峰性のパターンから,MKF 後の低下が抑えられ,REL に向けて徐々に増加するパタ ーンへと変化した.体幹速度はショット距離の増加に伴って,ほぼゼロ付近で推移するパタ
ーンからMKF を境にしてマイナスからプラスに転じるパターンへと変化していた(図 4 下 段).これらのことは,ボールの鉛直速度の増加に影響を及ぼしたのは,全部位であったこ とを示唆するものである.これらのことから,ショット距離の増加に伴うボールの速度の増 加に対しては,水平速度では上肢および下肢,鉛直速度では全部位の貢献の仕方が変化した ことが示された.したがって,以下には,下肢および上肢の各関節角度,および平均動作モ デルの結果から,具体的な動作について論じることとする. まず,下肢および体幹の動作をみると,MKF まで股関節および膝関節は屈曲し,TO に 向けて伸展するパターンを示し,ショット距離が増加するに伴って,MKF 付近で股関節お よび膝関節はより屈曲位になった(図 5).平均動作の下肢をみると,より近いショット距 離では垂直跳びのような動作で鉛直方向に,より遠いショット距離では立ち幅跳びのよう な動作で斜め前方に身体を投射していたことが観察された(図 7).また,ショット距離が 増加するに伴って,下肢の水平方向および鉛直速度は増加していた.これらのことは,MKF 時に下肢をより屈曲させた姿勢から伸展することによって,下肢速度を高める動作を行っ ていたことを示すものである.また,より遠いショット距離でみられた体幹の前傾は,REL に向けて体幹を起こしながらショットすることによって,ボールの鉛直速度の増加(図4 下 段)にも貢献したと考えられる. 次に上肢の動作をみると,肩関節は CAT 後伸展,REL に向けて屈曲するパターンを示 し,ショット距離の増加に伴って,屈曲しながらMKF を迎えるパターンから,より伸展し ながら MKF を迎えるパターンへと変化していた(図 6).また,肘関節は,ショット距離 の増加に伴ってMKF 後により屈曲させた後に伸展するパターンへと変化していた(図 6). さらに,平均動作においてMKF から REL までのボールの移動距離をみると,ショット距 離の増加に伴って明らかに増加していた(図7).これらのことは,近いショット距離では, 一旦ボールを頭上にあげてからショットする(このような動作を“2 モーション”と呼ぶ) ことによって,MKF から REL までのボールの移動距離を短くし,ボール速度を抑えてい たが,ショット距離の増加に伴って,2 モーションではボール速度を十分に高められないた めに,胸の前からショットする(このような動作を“1 モーション”と呼ぶ)ことによって, ボールの移動距離を増加させ,ショット距離に適切なボール速度を獲得しようとしたもの と考えられる.
Okazaki and Rodacki(2018)は,男子選手のワンハンドショットの成功率が高かったも のは,リリース前から肩関節を大きく屈曲させることでボールを高い位置で固定し,リリー
ス高を高くしてショットしたことで,ボールの変動を小さくしていたことを報告している. このことから,本研究における近い距離からのショットでは,MKF 後の上肢の運動範囲を 小さくし,リリース速度というよりは正確性を高める動作を行っており,ショット距離が増 加するに伴って,MKF 後の上肢の運動範囲を大きくすることで,リリース速度を高める動 作を行ったものと考えられる.Chiang and Liu(2006)は,男子選手を対象にして,ショ ット距離の増加に伴う動作の変化を検討した結果,ショット距離が増加するに伴って,下肢 三関節の角速度を高める動作へと変化したが,上肢の動作はほとんど変化がなかったこと から,下肢は飛距離を伸ばす役割,上肢は正確性を維持する役割を担っていると報告してい る.このことと本研究の結果を考慮すると,男子選手はショット距離が増加しても上肢の動 きを変化させず正確性に重きを置き,ボールの飛距離は下肢のみでコントロールできるが, 女子選手は下肢に加えて上肢の動作もボールの飛距離を獲得するために変化させる必要が あるものと考えられる.また,Satern(1993)は,ワンハンドショット動作を男女間で比 較した結果,男子選手はジャンプ高がピークに達してからリリースしていたのに対して,女 子選手はジャンプ高がピークに達する前にボールをリリースしていたことを報告している. つまり,女子選手は男子選手と比較して,下肢の動作のみではショット距離を獲得すること が困難であることから,ジャンプ中に上肢の伸展を行ったものと考えられる.本研究におい ても,ショット距離の増加に伴って,上肢の動作を 2 モーションから 1 モーションへと変 化させ,下肢の鉛直速度の増加に同期して上肢の鉛直速度を増加させるパターンに変化し, ボールの鉛直速度を高めていたことが観察された(図 4 下段:上肢速度と下肢速度との関 係). 以上のことから,ショット距離の増加に伴う動作の変化の特徴として,下肢をより屈曲さ せてからジャンプ動作を行うこと,上肢は一旦頭上にボールを上げてからショットする2 モ ーションから,胸の前から即座にショットする 1 モーションへ変化すること,さらにこの 下肢と上肢の動作が同期するように変化することが明らかとなった. 本研究では,ショット動作の分析に加えて,ボールの飛距離に対する上肢および下肢の基 礎的筋力の影響を検討した.その結果,ベンチプレスおよびハーフスクワットの3RM の重 量には,最大ショット距離間に顕著な差は認められなかった(図 8).したがって,本研究 のようなワンハンドショットに慣れていない女子選手において,約 9m 程度までの範囲で は,基礎的な筋力の影響は大きくないことが推察された.しかし,本研究ではベンチプレス やハーフスクワットといった基礎的な筋力しか測定できていない.今後,ワンハンドショッ
トに対して直接的に関与する可能性のある筋力測定を併せて検討する必要がある. 最後に,本研究ではボールがリングに入った試技だけでなく,ボールがリングに当たった 試技も成功試技とした.Okazaki et al.(2015)は,リリース速度の増加は正確性を低下さ せると報告していることから,本研究の結果がバスケットボールのゲームにおいて得点す ることにつながるか否かは説明することはできない.ただし,ショット成功率と最大ショッ ト距離との間に正の相関関係がある(福田・西島,2010;中大路ら,2012)ことから,シ ョット距離を増加させることは正確性の向上を促す可能性も考えられる.女子選手がワン ハンドショットを用いた際のボールの飛距離の獲得と正確性との関係については,今後の 重要な検討課題である. Ⅴ.結論 本研究の目的は,通常はボースハンドショットを用いている女子バスケットボール選手 のワンハンドショットにおいてボールの飛距離を獲得するための動作要因を明らかにする こととして,ショット距離を増加させた際の動作の変化を相対運動の観点から検討すると ともに,最大ショット距離と基礎的な筋力の関係を検討した. 主な結果は,以下の通りである. 1) ボールのリリース速度は,ショット距離が増加するに伴って有意に大きくなり,リリー ス角度は有意に小さくなる傾向を示し,リリース高に変化は認められなかった. 2) 下肢は,ショット距離の増加に伴って,股関節および膝関節をより屈曲させた姿勢から 伸展することによって,水平速度および鉛直速度を増加させていた. 3) 上肢は,肩関節を屈曲しながら MKF を迎えるパターンから,ショット距離の増加に伴 って,より伸展しながらMKF を迎えるパターンへと変化したことによって,上肢の鉛 直速度は,MKF 前に増加し,MKF 後に一旦低下した後に REL に向けて増加する二峰 性のパターンから,ショット距離の増加に伴って,MKF 後の低下が抑えられ,REL に 向けて徐々に増加するパターンへと変化した. 4) ショット距離の増加に伴って,下肢の鉛直速度の増加に同期して上肢の鉛直速度を増 加させるパターンに変化した. 5) ベンチプレスおよびハーフスクワットの 3RM の重量には,最大ショット距離間に顕著 な差は認められなかった. 以上のことから,通常はボースハンドショットを用いている女子バスケットボール選手
を対象として,ボールの飛距離を獲得できるワンハンドショット動作の要因として,下肢を より屈曲させてからジャンプ動作を行うこと,上肢ではボールキャッチ後,胸の前から即座 にショットする動作を行うこと,およびこれらの下肢と上肢の動作を同期させることが重 要であることが示された.加えて,女子選手のワンハンドショットにおけるボールの飛距離 には,基礎的な筋力は関係していない可能性があると示唆された. 文献
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図2 ボールおよび⾝体のデジタイズポイント 1 2 3 4 14 5 6 7 9 8 10 12 11 13 X Y 1. ⼿先 2. ⼿⾸ 3. 肘 4. 肩 5. つま先 6. ⺟指球 7. 踵 8. ⾜⾸ 9. 膝 10. ⼤転⼦ 11. 頭頂 12. ⽿珠点 13. 胸⾻上縁 14. ボール 図3 分析範囲
CAT:ボールキャッチ MKF:膝関節最⼤屈曲 TO:離地 REL:ボールリリース
X Y P2 CAT MKF TO REL P1 P3 準備局⾯ リリース局⾯ 表1 成功試技におけるボールパラメータおよび動作時間の比較 試技 [n] ボールパラメーター リリース速度* [m/s] 6.50 ± 0.27 7.25 ± 0.23 7.88 ± 0.32 8.35 ± 0.28 9.16 ± 0.32 9.78 ± 0.44 10.30 ± 0.44 リリース角度* [deg] 54.11 ± 3.40 51.78 ± 2.24 52.05 ± 2.74 51.00 ± 3.08 51.38 ± 2.88 50.20 ± 2.11 50.40 ± 4.52 リリース高 [m] 2.32 ± 0.13 2.30 ± 0.13 2.27 ± 0.14 2.27 ± 0.15 2.25 ± 0.10 2.23 ± 0.11 2.21 ± 0.12 動作時間 P1 [s] 0.48 ± 0.10 0.51 ± 0.11 0.55 ± 0.13 0.54 ± 0.19 0.53 ± 0.14 0.54 ± 0.13 0.55 ± 0.09 P2 [s] 0.20 ± 0.02 0.20 ± 0.02 0.19 ± 0.05 0.20 ± 0.02 0.21 ± 0.02 0.22 ± 0.04 0.23 ± 0.03 P3 [s] 0.07 ± 0.04 0.06 ± 0.03 0.07 ± 0.04 0.06 ± 0.03 0.06 ± 0.01 0.06 ± 0.01 0.05 ± 0.01 Total Time [s] 0.75 ± 0.10 0.77 ± 0.12 0.81 ± 0.13 0.81 ± 0.20 0.80 ± 0.15 0.82 ± 0.14 0.83 ± 0.09 D1 D2 D3 D4 D5 D6 D7 4 17 17 18 15 12 8 *:p<0.05
-5 -3 -11 3 5 7 0 50 100 CAT MKFTOREL D1 D2 D3 D4 D5 D6 D7 図4 成功試技におけるボール速度および⾝体各部位の貢献(平均値) ⽔平速度 (m/ s) 鉛直速度 (m/ s) 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 -3 -11 3 5 7 9 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 前(+) 後(−) 下(−) 上(+)
CAT MKFTORELCAT MKFTORELCAT MKFTORELCAT MKFTORELCAT MKFTORELCAT MKFTOREL
―:ボール速度 ---:上肢速度 ―:下肢速度 ---:体幹速度 図5 成功試技における股関節および膝関節⾓度の時系列変化(平均値) 80 100 120 140 160 180 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 股関節⾓度 ( deg ) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 膝関節⾓度 ( deg ) 80 100 120 140 160 180 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 CAT MKFTOREL D1 D2 D3 D4 D5 D6 D7
CAT MKFTORELCAT MKFTORELCAT MKFTORELCAT MKFTORELCAT MKFTORELCAT MKFTOREL
肘関節⾓度 ( deg ) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 図6 成功試技における肩関節および肘関節⾓度の時系列変化(平均値) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 0 50 100 肩関節⾓度 ( deg ) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) 規格化時間(%) CAT MKFTOREL D1 D2 D3 D4 D5 D6 D7
図7 成功試技におけるショットの平均動作 D1 (n = 17) D2 (n = 17) D3 (n = 18) D4 (n = 15) D5 (n = 12) D6 (n = 8) D7 (n = 4) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 CAT MKF TO REL 規格化時間(%) 図8 最⼤ショット距離とベンチプレス およびハーフスクワットの3RM 20 25 30 35 40 45 50 55 ベンチプレス の 3R M (k g) スクワット の 3R M (k g) 最⼤ショット距離 最⼤ショット距離 D3 D4 D5 D6 D7 40 50 60 70 80 90 100 110 120 D3 D4 D5 D6 D7 ●:平均値 〇:個⼈値