• 検索結果がありません。

現代の企業・利益に各分野から迫る : オムニバス講義の実践

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "現代の企業・利益に各分野から迫る : オムニバス講義の実践"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Ⅰ.はじめに

 本稿は,「現代の企業・利益」というテーマで,京 都経済短期大学の学長である岩田と同短期大学関係者 によるやりとりを軸としたオムニバス講義の実践事例 を紹介するものである。

Ⅱ.オムニバス講義実施のねらい

 京都経済短期大学は,経営情報学科を擁し,経済・ 経営・会計・情報の 4 分野を専門とする教員が在籍し ている。オムニバス講義は,2013 年度の新規科目 (科目名「経営情報学科特講」)として,4 月から 7 月 にかけて 1 年生を対象に開講されたものである。  オムニバス講義を実施するねらいは,「現代の企 業・利益」という統一テーマのもとで,各専門分野の 教員が講義を行うことによって,その共通する水脈を 学生が把握し,短期大学で勉強する内容の全体像を理 解することにある。  また,この講義は,地域住民や教育関係者といった 学外の人々も聴講可能な公開講義とした。これは,実 際に短期大学で実施されている講義の内容を広く知っ てもらうことによって,「社会的公器」としての大学 の使命を果たす目的で実施されたものである。それと 同時に,講義内容を公開することによって,教員への 刺激を喚起し,教育の質的向上を図る意義も大きい。

Ⅲ.オムニバス講義の内容

 この講義は,経済・経営・会計・情報の 4 つの角度 から,「現代の企業・利益」を分析することに加えて, 京都経済短期大学が,地域に根ざした大学であること を象徴するものとして,「京都の歴史と企業」と「京 都の観光・旅の歴史」という 2 つのテーマで,京都を 学ぶことができる講義を行った。  この講義は,岩田が全講義に参加し,進行と統括を 担当した。各講義の担当者は,それぞれの専門分野に 関するテーマで講義を行った。ちなみに教員は,非常 勤講師を除く全員が講義を担当した。なお,各講義の

現代の企業・利益に

各分野から迫る

─オムニバス講義の実践─

The Journal of Economic Education No.33, September, 2014

An Approach from Each Field in Modern Enterprise and Profit : Practice of Omnibus Lecture

Iwata, Toshihiro Sato, Kenji 岩田 年浩(京都経済短期大学) 佐藤 健司(京都経済短期大学) 表 1 各講義の担当者とテーマ 担当者(専門分野;所属) テーマ 岩田年浩(経済学・経済教育学;学長) 「勉強の仕方のいろいろ」 増田和夫(経済学;教員) 「利益とご利益(ごりやく)」 佐藤健司(経営学;教員) 「日本的経営の変容─新しい『働き方』にどのように対応すべきか─」 加藤康(経営学;教員) 「大企業と中小企業」 藤原隆信(経営学;教員) 「広い視野で『利益(Profit)』を捉えよう!」 西川宝(情報学;教員) 「パソコンからビッグデータへ」 松田昌人(経営情報学;教員) 「ビッグデータ活用例」 小路真木子(情報学;教員) 「企業にとって情報化とは」 近藤光重(情報学;教員) 「開発事例から考える企業利益と企業」 友田光明(会計学;教員) 「簿記・会計上の利益」 田中豊実(京都明徳高等学校校長) 「所得税・消費税の身近な知識」 山岸忠(鴨沂高等学校前校長;教員) 「京都の歴史と企業」 中島伸吾(職員) 「京都の観光・旅の歴史」

(2)

担当者(専門分野;所属)と具体的なテーマは,表 1 の通りである。  ところで,講義運営上の最大の特徴は,岩田と各担 当者のやりとりにある。各講義の冒頭で,岩田が各担 当者の特徴を引き出すねらいで担当者の紹介を行い, スムースに本論に入ることができるための工夫を試み た。本論では,岩田による進行に沿って担当者が説明 を行い,項目ごとに両者間で質疑応答を含むやりとり が展開された。それに加えて,岩田が,重要なポイン トの確認および詳細な解説を行った。また,各講義で はユーモアを交えながら進行することが心がけられて いたため,講義全体が単調にならずに,学生が講義の 内容を自然に理解することができるという成果が得ら れた。  そこで,ⅣとⅤでは,実際に行われたオムニバス講 義の実践例についてみていく。

Ⅳ.オムニバス講義の実践例(1)

1.講義のテーマと流れ  ここでは,オムニバス講義の 1 つめの事例として, 「日本的経営の変容─新しい『働き方』にどのように 対応すべきか─」(担当者;佐藤)を取り上げる。  この講義は,①岩田による担当者(佐藤)の紹介, ②これまでの日本的経営における働き方の特徴につい ての説明,③新しい働き方の特徴についての説明,④ 現在,企業から求められている能力は何か,という流 れで進められた。なお,①〜④の内容は,一貫して岩 田と担当者とのやりとりに基づいている。 2.講義運営上の特徴 1)岩田による担当者の紹介  講義の冒頭では,岩田による担当者の紹介が行われ た。担当者の紹介は,担当者の特徴を捉えたものに なっており,担当者が学生に身近になるように工夫さ れている。具体的には,表 2 のようなやりとりが行わ れた。  このようなやりとりを通じて,教室が和やかな雰囲 気になったところで,本論への導入として岩田から担 当者に対して,担当者が経営学研究を志したきっかけ と担当者が考えている経営学の魅力について質問があ り,表 3 のようなやりとりが行われた。  このようなやりとりを行うことによって,「担当者 がどの分野の学問を教える教員なのか」,「その分野の 魅力はどのような点にあるのか」,ということを学生 がスムースに知ることができ,学生の学問に対するモ チベーションを喚起するという効果があった。 2)本論の構成  担当者の紹介に続いて,本論に入った。本論は,こ の講義に限らず,全ての講義において,①岩田による 進行,②担当者による説明,③岩田から担当者への問 いかけ,④岩田による説明,⑤担当者から岩田への質 問,という内容で構成されている。  講義の形式としては,写真 1 にみられるように,壇 上で岩田と担当者のやりとりが行われ,とりわけ,内 容を強調する場合には,岩田が壇上から降りて,教室 表 2 岩田による担当者の紹介(例) 岩田:「佐藤先生は,大柄な体格ですが聞くところによると先祖に力士がいたとか?」 佐藤:「はい,そうです。『手柄山』という名前の力士です。だいぶ昔の力士ですが……。」 岩田:「ところで,先生の身長はどれくらいですか?」 佐藤:「191 センチです。」 岩田:「ほう。白鵬と同じくらい?」 佐藤:「白鵬の方が私より少し大きいですが,ほぼ同じくらいですね。」 岩田:「そうですか。それでは,今から佐藤さんのことを白鳳と呼びますよ。(少し間があった後,大きな声で)白 鳳!!」 佐藤:「はいっ!」  ─ 2 人のやりとりに学生から笑いが起こる。─ 表 3 岩田による本論への導入(例) 岩田:「佐藤先生が経営学研究を志したきっかけは何ですか。また,経営学の魅力はどこにあると思いますか。」 佐藤:「経営学研究を志したきっかけは,私が,実際に企業で働いていたときに,企業経営や『働くこと』についてよ り詳しく勉強したいと思ったことです。経営学の魅力は,経営学には一定の法則性はあるものの,時代や環境 の変化に応じて柔軟な対応が求められるために,常にヴァージョンアップしていることにあります。」 岩田:「皆さん。経営学が,常にヴァージョンアップしているという点は非常に重要ですよ(大きな声で)。」  ─岩田の呼びかけに学生が一斉にメモをとる。─

(3)

中をくまなく歩きながら説明を行った。このことによ り,学生は,岩田と担当者の話を真剣に聴くという効 果がみられた。  既に触れたように,この講義では,これまでの日本 的経営における働き方の特徴についての説明を行った 後で,日本企業における新しい働き方の特徴について 説明を行った。具体的には,担当者が,日本企業にお ける成果主義の導入状況を説明した後で,その背景の 1 つとして,グローバル競争の激化の問題を指摘した。 そこでのやりとりは表 4 の通りである。  このようなやりとりを通じて,日本企業における働 き方だけではなく,諸外国の状況も指摘することによ り,学生の理解度が深まったと考えられる。講義終了 後に学生を対象に行われたアンケートによれば,学生 からの具体的な反応は表 5 のようなものであった。  また,講義全体についての学生の反応は,内容を大 別すると以下の 3 点になる。 ① 岩田と担当者とのやりとりを通じて,講義内容の 理解を深めることができた。 ② 2 年間で勉強する内容の全体像を理解することが できた。 ③ 勉強に対するモチベーションが上がった。 4.担当者の感想─講義を終えて─  ここでは,オムニバス講義を終えた担当者の感想と して以下の 2 点を挙げたい。  第 1 に,「やりとりの効果」が挙げられる。この講 義では,「日本企業における働き方」の問題を取り上 げたのであるが,岩田とのやりとりを通じて,経済お よび経済学の視点を交えて,学生に立体的および多面 的に内容を伝えることができたと思う。  第 2 に,担当教員に「ほどよい緊張感」が醸成され たことである。通常の講義では,担当者が単独で講義 を行っているのであるが,オムニバス講義では,岩田 と担当者とのやりとりがメインになるため,岩田から の問いかけおよび指摘を通じて,担当者自身が刺激を 受けたことも大きな経験であった。 

Ⅴ.オムニバス講義の実践例(2)

 ここでは,京都経済短期大学で行われたオムニバス 講義の具体的内容について,講義で実際に使用したス ライド等を使用しながら紹介することにする。  紙幅の関係上,ここでは第 5 週目に実施された藤原 が担当する講義の一部を紹介することにする(藤原が 担当した講義は,「広い視野で『利益(Profit)』を捉 えよう!─営利企業,非営利組織,社会的企業の経営 学─」というテーマ設定で行われた)。以下,「具体的 な講義内容」,「岩田との掛け合い」,「学生たちの反 応」の順で紹介していくことにする。 表 4 本論における岩田と担当者とのやりとり(例) 岩田:「アメリカでは成果主義が主流であり,韓国でも成果主義に移行している傾向にありますね。」 佐藤:「ご指摘,ありがとうございます。ところで,先ほど,日本企業の『働き方』が変容を遂げている背景の 1 つと して競争の激化を挙げましたが,それについて詳しく教えていただけますか。」 岩田:「中国の台頭がめざましいですね。中国の人口は日本の約 10 倍で,市場規模が日本に比べてはるかに大きいで すし,人件費も日本に比べて安価ですね。また,近年のインドによる世界進出も,今日のグローバル競争の激 化に拍車をかけている重要な要因ですね。」 表 5 本論でのやりとりに対する学生の反応(例) ・「経営における『働き方』についての変化で知ったことが数多くありました。」 ・「日本企業の経営と,それが影響を与える企業の雇用状態との関連性についての話がわかりやすかった。」 ・「日本企業が,韓国や中国の企業との競争に直面していることは知っていましたが,その理由などが詳しく知れて, とても勉強になりました。」 ・「日本とアメリカとの違いが,色々なところであるのだと思いました。」 写真 1 岩田と担当者とのやりとりの模様     (「簿記・会計上の利益」の講義より)

(4)

1.具体的な講義内容  講義ではまず,スライドを見せながら現代社会には 多様な問題(貧富の格差や地球環境問題,失業・ホー ムレス問題,ゴミ問題,買い物難民問題等の「社会的 課題」)が存在することを学生たちに伝えた(スライ ド 1 参照)。そして,そのような「社会的課題」の多 くは,企業が利益を獲得するために行っている活動 (収益事業)の結果として生み出されていることを説 明した。一般的に,そのような「社会的課題」を解決 するのは政府や自治体といった行政機関であり,その ための費用は国民から集めた税金である。道義的に考 えれば,「社会的課題」を生み出した企業はその解決 にも責任を持つべきであるが,現実社会ではそうなっ ていない。その結果,「社会的課題」が増えれば増え るほど,国民への“しわ寄せ(税負担)”が大きく なっていくのである。特に近年では,恒常的な財政赤 字と膨大な借金(国債・地方債)等の影響で,「社会 的課題」を解決するための財源は枯渇しつつある。そ のような社会状況の中,「社会的課題」の解決を目的 とした組織体(NPO / NGO /社会的企業)が注目さ れるようになっているのである。  講義では,以上のような流れで「企業と利益」その ものではなく,「その“裏側”で起こっていること」 に焦点を当てることで,社会における「企業」と「政 府」の関係,そして「NPO / NGO /社会的企業」の 位置づけについて解説を行った。  そのような関係と位置づけを踏まえ,次は講義のサ ブテーマである「営利企業,非営利組織,社会的企業 の経営学」という視点から,各組織の特徴を説明して いった(スライド 2 参照)。営利企業は読んで字の如 く,「利益追求(お金儲け)のための組織」であり, NPO / NGO といった非営利組織は,「社会的課題の 解決(社会貢献)のために活動する組織」である。そ して,その両者の“良いとこ取り”をしたような組織 が社会的企業である。つまり,社会的企業とは,「社 会的課題の解決(社会貢献)をしながら,利益追求 (お金儲け)をする組織」なのである。  このように各組織の特徴を説明した後,この 3 者を 「利益」と「社会貢献」という 2 つの基準で評価した 場合の見取り図(スライド 3 参照)を提示した。営利 企業は「高利益追求 & 低社会貢献追求」の組織であ り,非営利組織は「高社会貢献追求 & 低利益追求」 の組織であり,社会的企業は「高利益追求 & 高社会 貢献追求」の組織である。実際のオムニバス講義では, 各組織について具体的な事業体を紹介しながら説明を 行った。特に,「社会貢献しながらお金儲け」をする 社会的企業については,詳細なビジネスモデルを紹介 しながらその仕組みを詳しく説明した。  「企業」=「お金儲け」というイメージが強い学生 たちに,「社会的企業」という存在,およびその社会 スライド 1 (出所)藤原隆信(講義担当者)作成 スライド 2 (出所)藤原隆信(講義担当者)作成 スライド 3 (出所)藤原隆信(講義担当者)作成

(5)

的役割について伝えることに力点を置いて講義は展開 された。 2.岩田との「掛け合い」  以上が具体的な講義内容であるが,実際のオムニバ ス講義では,担当教員が講義を進めている途中で進行 役の岩田から“ツッコミ(質問)”や“サポート(補 足説明)”が入ることになる。  上記で示した「スライド 1」を学生に見せ,「企業 は利益追求する裏側で,多くの社会問題を生み出して おり,政府が国民からお金を集めてそれら社会問題を 解決している」と,藤原が説明した直後,岩田から “サポート”が入った。  「ところで皆さん,牛乳はどうやって飲んでいます か?(しばらくの「間」)恐らく皆さんは紙パックで飲 んでいると思います。でも,昔はみんな瓶で飲んでい ました。牛乳屋さんに牛乳の入った牛乳瓶を配達して もらって,飲み終わったらまた牛乳屋さんが回収して くれました。牛乳屋さんは回収した瓶を洗って再利用 していました。今から考えるととても『エコ』な仕組 みですね。でも,いつの頃からか牛乳瓶がなくなりま した。気付けばみんな紙パックで牛乳を飲んでいまし た。確かに紙パックの費用は掛かりますが,企業は人 を雇って牛乳瓶を回収するコスト,そして瓶を洗浄す るコストが削減できます。このようなコスト削減に よって企業は利益が大きく拡大したことでしょう。」  「でも,飲み終わった後の「紙パック」はどうなり ますか?(しばらくの「間」)そう,ゴミになって出さ れてしまいます。皆さん,この京都経済短大がある京 都市では,どのくらいのゴミ処理費用が掛かっている か知っていますか?(しばらくの「間」)年によって差 はありますが,多い時ではなんと年間 200 億円以上の 費用が掛かっているのです。このお金,皆さんが日々 支払っている税金から支出されているのですよ。(し ばらくの「間」)『200 億円』と聞くとピンとこないか も知れませんが,1 家庭あたりで換算すると年間約 6 万円になります。つまり,皆さんの家庭では年間 6 万 円,毎月 5000 円のゴミ処理費用を払っていることに なるのです。」(スライド 4 参照)  このような岩田の“サポート”によって,学生たち は「企業が利益追求の裏側で生み出している社会問 題」の具体的内容を「身近な例(牛乳の紙パック)」 で知る(理解する)ことができた。また,「社会的課 題の解決に自分たちが支払った税金が使われている」 ことの具体的内容を「身近な例(ゴミ処理費用)」で 知る(理解する)こともできたであろう。  普段,教員が 1 人で講義をする場合,学生たちに 「伝える」ことに集中するあまり,学生が「どこまで 理解できているかを確認する」ことへの意識が希薄に なる場合が多い。しかし,オムニバス講義では,進行 役である岩田が「学生の理解度」を見極め,適宜, “ツッコミ”(=「それはどういうことですか?もう少 しわかりやすく説明してください」)や“サポート” (=「そのことについては,具体的にはこんな例があ りますよ……」)を入れながら授業が進められる。そ のような意味で,オムニバス講義は,教員単独で展開 する講義では見落とされがちな「学生目線での授業」 を具体的に展開する 1 つの手法であると言えよう。 3.学生たちの反応  最後に,「オムニバス講義」を受講した学生たちの 反応を紹介することにする(スライド 5 参照)。  まず,学生たちは「普段の授業とは違う先生の姿」 に興味を持ったようであった。普段,大学の教員は自 分のペースで授業を展開する。しかし,オムニバス講 義では,岩田による“ツッコミ”がいつ入るか予想で きない。担当教員は,良い意味での“緊張感”をもっ て講義に挑んでいる。そのような姿が学生たちには新 鮮に映ったことであろう。  次に,学生たちは「普段の授業とは違う『視点』を 学ぶ」ことになる。この点こそがオムニバス講義の醍 醐味であると思われるが,全講義を通じたメインテー マである「企業と利益」について,各担当者が自身の 「専門分野」から焦点を当てて講義を展開するととも に,その全講義を進行役である岩田がコーディネート していくのである。専門分野の理解を“縦”に深めて いく普段の授業では見落とされがちな,「専門分野同 スライド 4 (出所)藤原隆信(講義担当者)作成

(6)

士の関係」,すなわち“横”の繋がりを学生たちは学 ぶことになる。入学間もない大学 1 年生前期の段階で, 系統的に配置されているカリキュラムの全体像を学生 たちは理解できるようになるのである。  普段の授業とは違う「先生の姿」や「視点」に触れ ることで,学生たちは次第に授業に引き込まれていく ことになる。結果として,「普段の授業」では私語ば かりしている学生も,授業内容に集中するようになる のである。 [補足] 「オムニバス講義」を受けた学生たちの感想は,京都 経済短期大学経営情報学会編『企業と利益がわかる─経営学入 門オムニバス講義─』(ミネルヴァ書房,2014 年)に掲載され ている。ここで紹介した講義以外の内容も含め,興味のある方 は同書を手にとって頂ければ幸いである。

Ⅵ.報告に関する質疑応答の内容

 報告を終えて,参加者から以下のような質問や意見 が寄せられた。  第 1 に,「オムニバス講義のやりとりについては, 事前の打ち合わせを行っているのか,もしくは,事前 の打ち合わせを行わずに講義で初めてやりとりが展開 されるのか」という質問が寄せられた。この質問に対 しては,「岩田と担当教員の間で,主に全体の流れや ポイントについての調整が一定の範囲で行われるが, 講義でのほどよい緊張感を生み出すために,やりとり の一言一句までを事前に決めているというわけではな い。」と応答した。  第 2 に,「今回のオムニバス講義で,同じテーマで, 異なる主張のやりとりは行われたのか。また,今後の 展開として,複数の教員が,同じテーマで異なる立場 から議論を行うといった取り組みが実現されれば,よ り一層興味深い内容になるのではないか。」という意 見が寄せられた。これに対して,「講義によっては, 一部そのようなやりとりがあったが,今後は,1 つの テーマで複数の教員が議論を行うことを数回にわたっ て実施することも考えている。」と応答した。

Ⅶ.まとめ

 これまで述べてきたオムニバス講義の実践を通じて, 学生が体系的かつ主体的に学業に取り組むきっかけづ くりができたという意味で,一定の成果が得られたの ではないかと考えている。  また,既に触れたが,このオムニバス講義の内容を 軸に,京都経済短期大学の教職員および関係者によっ てまとめられた『企業と利益がわかる─経営学入門オ ムニバス講義─』いうタイトルの書籍が,2014 年 1 月 1 日にミネルヴァ書房より発行された。  この本を読まれた高校,大学,そして企業の方々な どから,「これまでにない,大変ユニークな取り組み である」,「大変わかりやすい内容で,学生も理解しや すいのではないか」といった声が寄せられている。 今後も,オムニバス講義を継続して実施する。なお, 2014 年度のオムニバス講義は,表 6 に記載されている 内容で実施する。  2014 年度開講のオムニバス講義は,岩田と担当者 の間で行われるやりとりを軸とした従来の講義に加え て,新たな取り組みとして,本学の教職員と実務経験 スライド 5 (出所)藤原隆信(講義担当者)作成 表 6 2014 年度 オムニバス講義 回 テーマ 1 「こんなことをしていると学生生活は失敗してしまう」 2 「経短名物オムニバス講義で得すること」 3 「経済学派の対立は社会の対立の根本か」(経済学) 4 オープン座談会「競争原理はいいのか悪いのか」 5 「利益を上げようとした人間の知恵」(商学) 6 「日本の企業経営」(経営学) 7 オープン座談会「日本企業で働くこと」 8 「企業と日常の法律」(法律学) 9 オープン座談会「企業の利益と社会」 10 「簿記・会計の大切さ」(簿記・会計) 11 オープン座談会「企業経営の健康診断と簿記・会計」 12 「情報化の便利さと危うさ」(情報学) 13 オープン座談会「情報社会はどうなっていくか」 14 オープン座談会「京都で学ぶ」 15 まとめ

(7)

などが豊富な本学の非常勤講師が参加する「オープン 座談会」を 6 回実施する。「オープン座談会」では, 上記のように,1 つのテーマで岩田と複数の教職員が, 様々な角度から議論を展開する。こうした取り組みに よって,オムニバス講義の本来の目的である,統一 テーマのもとで共通する水脈を,学生がより一層把握 できることを目指している。 *本稿の「Ⅴ.オムニバス講義の実践例(2)」は,学会分科会 での共同報告者である,本学教員の藤原隆信による報告内容に 基づいている。

参照

関連したドキュメント

例えば,立証責任分配問題については,配分的正義の概念説明,立証責任分配が原・被告 間での手続負担公正配分の問題であること,配分的正義に関する

講義の目標.

 しかし、近代に入り、個人主義や自由主義の興隆、産業の発展、国民国家の形成といった様々な要因が重なる中で、再び、民主主義という

(4) 現地参加者からの質問は、従来通り講演会場内設置のマイクを使用した音声による質問となり ます。WEB 参加者からの質問は、Zoom

・本計画は都市計画に関する基本的な方 針を定めるもので、各事業の具体的な

教育現場の抱える現代的な諸問題に応えます。 〔設立年〕 1950年.

※発電者名義(名義)は現在の発電者 名義と一致しなければ先の画面へ進ま

区分 授業科目の名称 講義等の内容 備考.. 文 化