要旨 小論では,税務広報広聴官が講師を務めた租税教室の参加学生を対象としたアンケート調査に基づいて, その学習効果と課題を明らかにする。調査結果から,概ね租税教室の目的を達成しているといえる。しかし, 租税教育推進事業の受講及び応募の経験については数名程度であった。近年増加傾向にある租税教室の開催 回数を考慮すれば,受講済みの大学生の数が増えると同時に,若者の納税者意識が高揚することが期待され る。 キーワード:租税教室,納税者意識
Ⅰ.はじめに
租税教室は,税の仕組みや税が社会に果たす役割, 申告納税制度の意義,納税者の権利・義務を正しく理 解することを目的とする。同時に,参加者は財政の役 割と機能を学び,わが国が直面する財政危機について の関心を高めることも可能である。 租税については,学校の教科書で取り上げられてい るのはもちろん,税務関係者が教育機関と協力して租 税教育を推進し,教育的効果を高めることに努めてい る。日本税理士会連合会では,平成 23 年に租税教育 等基本指針を制定し,本事業の目的を,租税教育を通 じて租税に関する意義や役割,機能,仕組み等の租税 制度を知ることで,申告納税制度の理念や納税者の権 利及び義務を理解し,社会の構成員としての正しい判 断力と健全な納税者意識を育むことにあるとしている。 小論の構成は以下の通りである。次節では日本にお ける租税教室の実施状況を整理し,3 節は税務広報広 聴官が講師を務めた租税教室の参加学生を対象とした アンケート調査に基づいてその学習効果と租税教育事 業の課題を明らかにし,終節を小論のまとめとする。Ⅱ.租税教室の実施状況
国税庁では,次代を担う児童・生徒が,民主主義の 根幹である租税の意義や役割を正しく理解し,社会の 構成員として税金を納め,その使い道に関心を持ち, さらには納税者として社会や国の在り方を主体的に考 えるという自覚を育てることを目的に,租税教育の充 実に努めている。各都道府県に設置された租税教育推 進協議会を中心に,広く関係民間団体等の協力を得て, 小学生から大学生まで幅広く租税教室を実施するとと もに,中学生・高校生の対象作文募集を行っている。 さらに,インターネット上でも児童・生徒・学生が租 税の意義や役割を学習できるように国税庁ホームペー ジに「税の学習コーナー」を設けている。 表 1 では,2014 年度と 2015 年度における租税教室 等への講師派遣状況を示している。表中の括弧内は, 派遣講師総数に占める職員と職員以外職員の割合を示 している。2014 年度の派遣講師総数は前年に比べて 2905 人増加し,そのうち職員の占める割合が 26.0%, 職員以外の割合は 74.0%となっている。 表 2 では,2014 年度から 2017 年度までの「税につ いての作文」(中学生対象)と「税に関する高校生の 作文」の応募編数の推移を示している。これは,生徒 が税について関心を持ち,正しい理解を深めるという租税教室の概要と課題
Economic EducationThe Journal of No.37, September, 2018A brief overview of class on tax and its issues SASAKI, Kenichi 佐々木 謙一(北海道教育大学)
趣旨で,1962 年度から毎年実施されている。中学生 の応募編数については,2015 年度に前年度に比べて 832 編増加し,2015 年度は前年度に比べて 13,472 編と 大幅に増加したが,2016 年度は前年度の増加数にほ ぼ等しい 13,462 編の減少となった。高校生の応募編数 については,2015 年度は 832 編,2016 年度は 11,067 編,2017 年度は 7,740 編,前年度に比べてそれぞれ増 加している。 国税庁の他に,全国 15 の税理士会でも租税教室を 実施している。税理士会が行う租税教育等の対象は以 下の[1]〜[3]とされている。 [1] 学校教育法における児童,生徒及び学生 [2] 小学校,中学校,高等学校の教員又は教員にな ろうとしている者 [3]社会人 表3では全国15の税理士会による租税教室の実施状 況を示している。2016 年度の各税理士会における租 税教室の実施回数は 10,715 回で,平成 15 年度以降, 毎年増えている。2016 年度の実施回数を学校種別で みると,小学校は 5,512 回,中学校は 3,082 回,高校は 1620 回,専門・専修学校は 287 回,大学・短期大学は 96 回,社会人・その他は 118 回となっており,小学校 と中学校を中心に実施されている。
Ⅲ.租税教室の実施とアンケート調査の結果
北海道教育大学教育学部旭川校において,2015 年 から毎年,旭川中税務署の税務広報広聴官にお越し頂 き,租税教室を開催している。受講対象は大学 1 年か ら 3 年までであり,受講者数は 2015 年が 25 名,2016 年が 29 名,2017 年が 13 名であった。講義内容は,税 務署の仕事内容,消費税と所得税,税金の役割と種類, 税金の使途,財政の 3 機能,租税教育モデル授業実践 事例であった。講師の方は,パワーポイントを活用し て授業を展開し,大学生にとって身近な税金の例を紹 介して興味や関心を引き出し,税金によって社会が成 り立っていることを伝えていた。また,租税教育実践 事例として,北海道租税教育推進協議会編集『わたく したちの生活と税』を活用した中学校の授業を紹介し て頂き,将来教員を目指す学生への情報提供を行う授 業内容であった。 表4,表5,表6では,租税教室終了後に実施したア ンケート調査の結果を示した。実施日は 2015 年 11 月 2 日,2016 年 6 月 16 日,2017 年 10 月 12 日である。は じめに,表 4 で「講演を受けて,税に関する理解は深 まりましたか」という質問に対する回答結果を示した。 「深まった」と回答した受講者の割合は,2016 年度と 2017年度は100%,2015年度は88%であった。この調 査結果より,租税教室は多くの受講者にとって税に関 する理解を深める授業内容であるといえる。 表 5 では「税に関する情報の中で,あなたが興味・ 関心のある項目はどれですか」という質問に対する回 答(複数選択可)の項目と回答者数を示している。 表 1 租税教室等への講師派遣状況 2013 年度 2014 年度 職員 8,159 人 (27.8%) (26.0%)8,403 人 職員以外 21,207 人 (72.2%) (74.0%)23,868 人 派遣講師総数 29,366 人 32,271 人 出典 『国税庁レポート 2016』13 頁 表 3 税理士会による租税教室の実施状況 年度 実施回数 年度 実施回数 2003 333 2010 4,634 2004 821 2011 5,433 2005 1,254 2012 6,518 2006 2,216 2013 7,650 2007 2,855 2014 8,583 2008 3,647 2015 9,776 2009 3,874 2016 10,715 [出典]日本税理士会連合会租税教育推進部(2017) 表 2 税の作文の応募状況 中学生の応募編数 高校生の応募編数 2014 年度 615,230 193,393 2015 年度 616,062 199,401 2016 年度 629,534 210,468 2017 年度 616,072 218,208 出典 国税庁ホームページ 表 4 受講者の税に関する理解 2017 年 2016 年 2015 年 深まった (100%)13 (100%)29 (88%)22 どちらともいえない (0%)0 (0%)0 (12%)3 深まらなかった (0%)0 (0%)0 (0%)0 受講者総数 13 29 25 [出典] 調査結果に基づいて作成2017 年度は「税の使途」と「確定申告の仕方」を 回答した受講生が一番多く,それぞれ 9 名であった。 続けて,「国の財政事情」の 8 名,「税の国際比較」の 7 名の順となっている。2016 年度は「税の使途」の 15 名が一番多く,「税の仕組み」が 13 名,「確定申告の 仕方」が 11 名,「税の国際比較」が 10 名であった。 2015 年度は「税の仕組み」の 14 名が一番多く,「税の 使途」11 名,「税の国際比較」11 名,「国の財政事情」 7 名の順となっている。調査期間の 3 年間を通じて, 「税の使途」に対して多くの受講生が興味・関心を もっており,その他の項目については受講生の関心・ 興味が年度によって異なることがうかがえる。 表 6 では国税庁等が取り組んでいる租税教育推進事 業の認知度と受講経験を整理した。はじめに,租税教 室の認知度については,2017 年度が 8 人(61.5%), 2016 年度が 11 人(37.9%),2015 年度が 13 人(52%) であり,年度によってばらつきがあり,受講経験者は 各年度 2 名〜 4 名となっている。表 1 や表 3 で示した とおり,国税局の派遣講師総数と税理士会による租税 教室の実施回数状況が共に増加傾向にあることから, 今後,租税教室の受講経験がある学生が多くなること が予想される。 次に,「税の作文」の認知度を対象別にアンケート 結果を示す。中学生対象については,2017 年度が 4 人 (30.8%),2016 年度が 10 人(34.5%),2015 年度が 11 人(44%)であり,応募経験者は各年度 3 名〜 5 名と なっている。他方,高校生対象については,2017 年 度が 5 人(38.5%),2016 年度が 11 人(37.9%),2015 年度が12人(48%)であり,応募経験者は各年度1名 〜 3 名となっている。 最後に,税に関する作品展(書道,ポスター,絵は がき)の認知度は,2017 年度が 7 人(53.8%),2016 年度が 12 人(41.4%),2015 年度が 9 人(36%)であ り,実際に応募した人数が各年度 1 〜 2 名であった。 したがって,どの事業内容ともアンケート対象学生に 認知はされているものの,すべての学生が受講や応募 までに至っていなかった状況が明らかになった。 表7,表8,表9では,税に関する講演会で取り上げ て欲しいテーマや意見・感想などを回答頂いたものを 整理した。租税教室の参加を通じて,受講生は通常の 授業や講義の既習事項に対する理解を深めるとともに, 受講生にとって新しい発見や関心・興味の高まりが あった。
Ⅳ.まとめ
調査結果から,概ね租税教室の目的を達成している。 受講学生は,税の意義や役割,納税の権利・義務を正 しく理解し,税制や財政の興味・関心を高めることが できる。しかし,国税庁等が取り組む租税教育推進事 業の認知度は,高い年度でも約 6 割にとどまり,受講 及び応募の経験については数名程度であった。 2015 年の公職選挙法等改正という租税教育関連事 業の取り巻く環境の変化や,近年増加傾向にある租税 教室の開催回数を考慮すれば,租税教育推進事業に関 する大学生の認知度が改善されることと,若年層の納 税者意識が高揚することが期待される。 2017 年 2016 年 2015 年 税の仕組み 5(38.5%) 13(44.7%) 14(56.0%) 税の使途 9(69.2%) 15(51.7%) 11(44.0%) 税の国際比較 7(53.8%) 10(33.4%) 10(40.0%) 税の歴史 4(30.8%) 9(31.0%) 1 (4.0%) 国の財政事情 8(61.5%) 8(27.6%) 7(28.0%) 税務行政の現状 4(30.8%) 2 (6.9%) 4(16.0%) 国税庁の取組 3(23.1%) 2 (6.9%) 3(12.0%) 国税庁の組織 2(15.4%) 2 (6.9%) 1 (4.0%) 各税法の解説 2(15.4%) 2 (6.9%) 4(16.0%) 確定申告の仕方 9(69.2%) 11(37.9%) 6(24.0%) Internet を活用 した取組 2(15.4%) 3(10.3%) 3(12.0%) その他 0 (0.0%) 0 (0.0%) 0 (0.0%) 表 5 税に対する興味・関心 [出典] 調査結果に基づいて作成 2017 年 2016 年 2015 年 知 っ て い る 受 講 し た 知 っ て い る 受 講 し た 知 っ て い る 受 講 し た 租税教室 8 3 11 4 13 2 中学生「税の作文」 4 3 10 4 11 5 高校生「税の作文」 5 1 11 3 12 1 作品展 7 2 12 1 9 2 受講者数 13 13 29 29 25 25 表 6 国税庁等が取り組んでいる施策 [出典] 調査結果に基づいて作成●税に関しては高校の政治経済レベルでしか知らなかったが,知識が深まった。増税の結果以前とはどう変わったかに ついて気になりました。増えた税収は何に使われているかなど。 ●すごく分かりやすく再確認させられた講義でした。生徒,小学校における租税教室を見ることができたのは非常に貴 重な体験でした。 ●税に関する知識が深まるだけでなく,税についての授業の仕方など,租税教育についても参考となるものが多かった。 とても楽しかったです。ありがとうございました。 ●税は難しいというイメージがずっとありましたが今日の内容はとても分かりやすかったです。真剣にノートを書いて いたので,もう少しスライドを残しておいて下さると良かったかなと思います。 ●ビデオ内の小学生の反応もとてもよくて,税は難しいものだという印象を与えずに講演しているのがすごいと思った。 宝くじや税の種類については自分の知らないことを知ることができたので,とても有意義だった。 ●とても面白かった。最後のビデオが見たかった。 表 7 2017 年度受講生の回答 [出典] 調査結果に基づいて作成 ●税率を上げることの是非について ●スライドのプリントがあればよかったです。話の内容はとてもためになるものでした。 ●税を不正に払わないことについて ●消費税や所得税などは前から知っていて,確定申告などは興味がなかったけど,大学生になりバイトを始め,自分に 関わりのあることだと感じた。年齢が上がるにつれて,自分に関わってくる税金が増えてくると思った。 ●この講演会で印紙税は領収書やレシートなどにもかかると初めて知り,勉強になりました。 ●今日の講義で税への理解がかなり深まったので満足です。ありがとうございました。 ●少し難しいと思っていた「税」のことが少しわかったです。生きていくための知識としてもっと知識を身に着けたい と思います。本当にありがとうございました。 ●本来もらえるはずの給料が,税金を払うことにより何割くらい減っているのか。 ●確定申告の仕方についてもっと詳しく知りたいと思った。 ●今回の講義の中で,消費税のしくみについて大変興味をもちました。消費者の支払う額と卸し売り店たちの消費の合 計になる所に考えた人はすごいなと感じました。テーマに取り上げて欲しいというわけではないですが,個人的に他の 税金がどのようなしくみなのか知りたくなりました。ありがとうございます。 ●税金って身近だけどとっつきにくくて,理解するのを避けていた。でも魚を出荷する流れから消費者に販売する流れ のパワーポイントなど分かりやすくて楽しかった。ありがとうございました。 ●マイナンバーを銀行等で取り扱う事があるとはじめて知りました。マイナンバーについて興味があるので税と絡めて 講演会で取り上げて欲しいです。 表 8 2016 年度受講生の回答 [出典] 調査結果に基づいて作成 ●税についての知識を再確認する時間となり,有意義な時間となった。その中で確定申告については知らない部分が多 かったので,これから理解を深めていきたい。 ●たばこへの課税の高さは知っていたが,お酒にも多くかかっていて驚いた。 ●学生納付特例金や学生向け(学生に直面する関係のある税について)詳しく講演を行ってもらえると助かります。 ●財政の現状に関する理解を深めることができた。 ●マイナンバーについて,詳しく聞きたかった。 ●マイナンバーは,ニュースでもよく聞きますが,どんなことに注意すれば良いのかもう少し聴いてみたかったです。 ●知らないことが多く,勉強になりました。 ●とりあえず,マイナンバーを重点的に取り上げるのがいいと思います。 表 9 2015 年度受講生の回答 [出典] 調査結果に基づいて作成
参考文献 [1] 日本税理士会連合会租税教育推進部(2017) 『2017 租 税教育 講義用テキスト』 [2] 日本税理士会連合会(2016)『租税教育副読本 「税って 何かな?」』第 4 版 [3] 国税庁(2016) 『国税庁レポート 2016』 [4] 北海道租税教育推進協議会編集(2017)『わたくしたちの 生活と税』 [5] 国税庁「税の学習コーナー」国税庁ホームページ [6] 髙井風香・野川千万・佐々木謙一(2017)「租税教育の授 業づくりの実践と課題」『平成 29 年度日本教育大学協会 研究集会発表概要集』 謝辞 本研究の一部は日本税理士会連合会教員養成大学寄附講座助 成金によって行われた。本研究を遂行するにあたり,関係資料 の提供を旭川中税務署税務広報広聴官からご快諾いただいた。 ここに記して心よりお礼申し上げます。