Japanese Physical Therapy Association
NII-Electronic Library Service
Japar ユese Physical Therapy Association理 学 療 法 学 第
42
巻 第2
号184
〜
185
頁 (2015
年 )平 成
25
年 度 研 究 助 成 報 告 書
脳 卒 中後
遺 症
者
に
お け る
歩 行中
の
方 向 転
換 開 始時
の
動 作 特 性
中村 高 仁D2),
武 田尊
徳2),
田 代 英 之2),
西 原賢2)
,
星文 彦2) 1)リハ ビ リ テ
ー
シ ョ ン天 草 病 院 2)埼 玉 県 立 大 学 大 学 院 保 健 医 療 福 祉 学 研 究 科 要旨:【
目 的】
脳卒 中 後 遺 症 者に おける方 向 転 換 開 始 時の動 作 特 性につ い て 分析 するこ と。
【方 法 】 健 常 若 年 群10名,
健 常 高 齢 群6
名,
脳卒 中群8
名 を 対象 とし,
方 向 指 示 光 刺 激に対 する歩
行 中の方向
転 換 動 作 課題 を行
っ た。
計
測 は慣
性セ ンサ(
頭 部,
胸 部,
腰 部)
を用い た。 方向転換
開始時点
の身体
の順序性
とステップ戦 略につ い て,
光刺 激か ら各
部が 回旋 する ま で の 反 応 時 間 を用い て分析 した。 光刺 激は非 麻 痺 側立脚期 (
健常
群 : 右 )に与 えた。
【
結 果】
脳 卒 中 群の頭 部 反応時 間は健 常群 と比 べ て遅 延 した。
非麻 痺 側 (健 常 群 1右 )へ の方 向転 換で は各群 とも身 体の順 序 性はみら れず (p >0.
05),
軸 足や ス テ ッ プ 戦略
は類
似し た。
麻痺
側(
健 常群 :左 )へ の方 向 転 換で は各 群と も身体
の順 序 性が み ら れ (p<0
.
05
),
若 年 群はspin turn,
高齢
群は step turn を用いた。
脳卒
中 群は軸 足 をクロスし ない戦 略 を とっ た。
【
結 論】
方 向転 換 課 題で脳 卒 中 群の反応 時 間は遅 延 し,
身 体の順 序性 とステップ戦 略 は進 行 方 向 な らびに対 象者 で 異 なっ た。
キー
ワー
ド:脳卒中,
方 向 転換,
予期 的 制御 機 構 は じ め に脳
卒
中者
の転
倒時 動 作 とし て方 向 転 換 動 作は大 きな割A
を 占 め る1)。
し か し,
先行
研究
は歩 行や立 ち 上が りと比べ て少 な く,
未 だ不明 な 点が多い 動 作 と されている2)3)。
方 向 転 換の際 に は視覚
情 報から環 境 を把 握 して動 作 を修 正 する予期 的 制 御機 構4)5)が重 要 となるが,
日常 生 活 場 面の再 現 性は難 しい。
外 部 刺激 に 応答す る 方向転換動作と し て は,
Patla
ら6〕やHolland
ら31 に よ る方法 とLamontagne
ら2)に よ る方 法の ふ たつ が お も に 用い られ てい る。
し か し,
いずれ の方 法 も方 向転 換開始 時 を 検 出 す る た め の適切 な 課 題 設定 とはい えず,
運 動 戦 略につ い て も見解
が異なっ てい る。
また,
先行 研 究で はい ずれも3次 元動作解
析 装 置が 用い ら れてお り.
臨 床 現場で簡 易 的に測 定 する に は至っ ていない。
近 年,
臨 床 現 場で の動 作 解 析 方 法として慣 性センサ を用い た 報告 が 多 くな されてお り.
方 向 転 換 動 作に関 するものも散 見さ れ る。
これ ら を踏 ま えて,
本 研 究では方 向転 換 開始 時のタ イ ミング を 明確に規 定し,
脳卒 中 者に おける歩 行 中の方 向 転換 動 作 開始 時の動 作 特 性 につ いて慣 性セ ンサを用い て分 析 する こ と を目的とする。
対 象お よ び方 法1
.
対 象対 象 は 健 常 若 年 成 人
10
名 (
若年
群 :年 齢21.
9 ± L3 歳,
男 性10名 ),
地 域 在 住の 健 常 高 齢 者6
名 (高 齢群 ;年 齢69
.
0
±2
.
5
歳 男 性3
名,
女 性3
名 ),
脳 卒 中 者8
名 (脳 卒 中 群 ;年 齢63
.
4
±79
歳,
男 性6
名,
女 性2
名.
右 片 麻 痺4
名,
左
片 麻 痺4
名,
歩 行 速 度1,
2 ±O
.
3
mfsec,
Berg BalanceScale
50
.
0
±4
.
0
点 )と し た
。
脳 卒 中 群の取 りこ み基 準は発 症 後2
ヵ月以 上経
過 し,
杖な し歩 行が自立して い る者と し た。
除外 基 準は 重篤な高
次 脳 機 能 障 害 また は認 知 機 能 低 下により課 題 遂 行 困難な者や視覚
障 害 を有す る者と し た。
な お,
本 研 究は埼 玉 県立大 学 倫 理審 査委
員会
の承 認の下(
審
査番号
:25506
)
,
各 対象
者に本 研 究の 主旨と倫 理 的 配 慮につ い て 口頭お よ び書
面に て十 分に説 明し,
書 面に て同意を得た。 2,
方 法方
向
転 換 課 題と して,
4
〜
5m
程 度の定常 歩 行後,
歩 行 路の 終 点に目線の高さに置いた方 向 指示 器 に よ り進 行 方向を提示 し,
その方 向にできる だけ 早 く左右90
°
方 向 転換 ま た は直 進さ せた。
光 刺 激の タイミ ング は脳 卒 中群の非 麻 痺側 立脚期,
健常 群の右 立脚 期とした。
測 定は十 分 練 習し たうえ で.
対 象 者が 動 作習熟し た後に行った。
光 刺 激の タイミ ングと方 向は ランダム に行い,
若 年 群は左 右3
試 行,
高 齢 群 は左 右2
試 行.
脳 卒 中群 は左 右3
試 行 ずつ を分 析 対象 と した。
計 測 に は慣性セ ンサ (ATR
−
Promotions
:TSND121
)を用い,
頭部 (頭 頂 部 ),
胸 部 (第1
胸 椎 棘 突起 ),
腰 部 (第3
腰 椎 棘 突起 ) に貼 付し た。
方 向 指 示器 は2
重スイッチ を用い,
験 者が手 元の スイッチ を押し た後,
足 底 に貼 付し たフッ トス イッチ がON
と な ることで左 右,
直 進の3
方 向 を光 刺 激と し て矢印
で点灯
させ た。 光 刺 激のタ イ ミン グ は 同 期 用の慣 性セ ンサを用い て モバ イルPC
上 で同期
し た。
ま た,
動作 確
認 用 とし てWeb
カ メ ラ (UCAM−
CO220FB)
も 同期
し た。
光 刺 激か ら
3
歩前
までを定常歩行
デー
タ(
基準
値 ) と し,
光 刺 激 後に各 部の垂直 方 向 角速度デー
タ が 基準値の平 均値±2SD
か ら逸 脱し た時 点を各 部 反応時 間と し て算出 し た。
足 部接地 の タイ ミ ング は頭 部の 3軸 加速 度 合 成 デー
タ (!
(x2 + y2 + z2) の ピー
ク値を1歩と し た。
ま た,
光 刺 激 か ら次の1
歩目をCFC
(Contralateral FootContact
)と し た。
サ ンプ リング周 波 数は100Hz
と し,
検
出 さ れ た デー
タ は移 動 平 均 法 (10区 間) を用いて 処 理 し た。
ま た,
Web
カ メ ラ に て方 向 転 換 動 作 時の 軸 足とス テ ッ プ を確 認し た。
統 計 学 的 解 析では
,
頭 部反応時
間 につ い て各 群 間で一
元 配 置 分 散 分 析を行い,
有 意差 が み ら れ た 場 合,
多重 比較 検 定 を行っ た。
ま た,
方 向転換開始 時の各部の順序性につ い て は各 部 反 応 時 間,
CFC につ い て各群 内 で一
元 配 置 分散分析の後,
多 重比 較検定 を 行っ た。
有 意 水 準は5
% と し.
統 計ソ フ トはR2.
8ユを 用い た。
結 果 (
表
1
)
若
年
群・
高齢
群に対
し て脳 卒 中 群の頭 部 反 応 時 間 が 遅 延 し,
若 年 群と脳卒
中群で非
麻痺
側 (健 常 群:右 ) 方 向・
麻 痺 側 (健 常 群 :左 ) 方 向と もに有 意 差が み ら れ た (p<O
.
05
)。
非 麻 痺側 (健常 群 :右 ) 方向へ の方 向 転 換 時は
,
いずれの群 も各部の順 序 性 は み ら れず,
若 年 群と高 齢群 はCFC
の前に各 部 転換 が 開始し た (p <0
.
05
)。
脳 卒 中群 は 頭 部 転 換 と胸 部 転 換 がCFC
より前に (p< 0,
05),
腰 部 転 換 がCFC
と同時 期に N工 工一
Electronic LibraryJapanese Physical Therapy Association
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Japar ユese Physical Therapy Association脳
卒
中 後 遺 症 者に おける歩
行 中の方向
転換 開 始 時の動 作 特 性 185 表1
方 向
転 換 課 題 に お け る各
部 反 応 時 間(
msec)
若年
群(
n≡
le
)
高 齢 群(
n=
6
)
脳 卒 中 群(
n=
8
)
非 麻 痺 側 方 向 (健 常 群 :右 ) 方 向麻
痺
側 (健 常 群 :左 ) 方 向飜
欝
騾 綿朧
3529
±37
,
6
399.
3 ± 27ユ3868
± 71,
4
5642
±34
.
2
*†‡317
,
6
±40
ユ376
ユ ±29
.
7
* 519,
2
±38
,
5*†609
ユ ±22
ユ*†‡368
.
3
±48
.
0
402.
5 ± 50.
1372
.
5 ± 62.
8
510
.
8
±62
.
6
*†‡327
.
5
±59
.
7
554
.
2
±79
,
2
* 610.
8 ± 59.
5* 558.
3
± 53.
9
*422
.
5
±51
.
0
棄 485.
4 ± 57.
9 505.
0 ± 78.
5597
.
1
±35
.
2
*†404
.
6
±78
.
1
粢538
,
3
±140
.
7
668.
3
± 105,
3
*641
.
7 ± 58.
1* 各群 問 での比 較裝p<
e
.
OS
: vs 若 年 群各
群 内での比較* p<
0
.
05
:vs 頭 部,
†p<0
,
05
: vs 胸 部,
‡p 〈0
.
05
;vs 腰 部 みられ た(
p>O
.
05
)
。
ま た,
若 年
群 と高齢
群はす
べてCFC
を 軸 足 としたstep turn を行
い,
脳卒 中
群は7
名
がCFC
を軸
足 と し た step turn を行
っ た。
麻 痺 側 (健常 群:左) 方 向へ の方 向 転 換 開始 時につ い て,
若 年群 は頭 部,
胸 部,
腰 部の順に方 向 転 換 を 開 始 し,
かつCFC
の前に各 部 転 換が開 始し た (p
< 0,
05)。
すべ て CFC を軸 足 と し て,
次の右 足 (光 刺 激か ら2
歩 目)が軸 足を越 えるspin turn を行っ た。 高齢 群は頭 部に対 して胸 部 また は腰 部の順 序 性 が み られ (p<0.
05
),
腰 部転 換 とCFC
が 同時 期にみ られ た (p >0.
05
)。
そ して,
5
名 が 次の右 足 (2
歩 目) を軸 足 と したstep turn を行っ た。
脳卒中群は 頭部に 対 し て 腰部の 順序 性が み ら れ (p<0
,
05
),
腰 部転 換とCFC
が 同 時 期 に み ら れ た(
p>0
.
05
)。
そ のうち4
名がCFC
を,
2
名が 次の非 麻痺側 足 (2
歩
目)を軸 足 とし,
残り の2
名が試 行間 で 混 合 さ せ てい た。
CFC
を 軸 足 とした6
名(
混 合させた2
名 を含 む)
のう
ち5
名
は次
の非麻痺
側 足 が 軸 足 を越 え ない戦 略 を とっ た。
考 察方 向転 換 開 始 時の動 作 特 性につ いて
,
脳卒
中群は健 常 群に比 べ光 刺 激に対する応答
が遅 延す
る ことが示唆
さ れ た。
ま た,
今
回の結果 で は,
非麻 痺側 (健 常 群:右)
方向と 麻痺側(
健常群 : 左 ) 方 向で 異 な る 動 作 特 性 を 示 し た。
こ れ は 光刺激のタ イ ミン グを非 麻 痺側立 脚 期 (健 常 群:右立 脚期〉
と規定し た た め,
提 示さ れ た進 行 方 向が そ れ と 同 側 か 対 側 か で 異 な る 戦 略 が 要求さ れ たと考 え た。
step turn は進行 方向
と反対
側の足を軸
足と し て進 行 方 向側の足 を踏み出す
戦 略で,
spin turn は進行 方向
と 同側の足 を 軸足 と し,
反対 方向
の足が軸
足 をクロ ス し て ス テッ プする戦 略である。
そのた め,
非 麻痺
側方向
へ は step turnを,
麻 痺 側 方 向へ はspin turnを行い やすい状 況であっ た。
非 麻 痺 側 (健 常 群 1右 〉 方 向へ の方 向転 換 開 始 時 に 関 し て,
健 常 群は方 向転 換 開 始 時に身体 分節の順 序性 が 保 たれ てい ると さ れる6)。
しか し,
今回は step turnを行いや すい 課 題 状 況 で,
身 体 重 心 をより素 早 く進 行 方 向に向 ける た め各 部が 同時 期に 回 旋 した と考 えた。一
方,
脳卒中
群で は光刺
激に対し て反 応 時 間 が 遅 延 することに加 え,
腰部
は麻痺
側足を軸
足と し て踏み こ む 動 きの影 響 を受 け,
CFC
と同時期に生じ た と考
えら れ た。
麻 痺 側 (健 常 群 :左 ) 方 向へ の
方 向転
換 開 始時
に関して,
若年群
は光刺激 後
に各
部 が 順 序 的 に素
早 く方向
転 換 を 開始 す るこ とでspin turnを可 能にして いた。 高 齢 群 も素 早 く頭 部 転 換が 開始 するが,
戦 略 と して難しい spin turn は 用い ず 次の右 足 を 軸 足と したstep turnを用い る た め に 腰部転 換が 遅 延 し,
CFC
と同時 期 となっ たと考 えた。一
方,
脳卒中群で は 麻痺側 足 の 支 持 性 低下 により次の非麻 痺 側 足 をクロス し て踏み だ せ ない こ と と,
姿 勢 第一
戦 略7)を用いて動
作 を安定
さ せ ること を選 択し 非 麻 痺 側 足 を戦 略 的に クロスし て踏みださ な かっ た ことの 双方
の可 能 性が考
え られた。
いず
れ に し ても,
脳卒
中群
に とっ て非 麻痺
側 立 脚 期に光 刺 激 を与
えた際
,
CFC
を軸
足と して麻 痺 側 方 向に方 向転 換 する動作が健 常 群と比べ て困難である ことが 示 唆さ れ た。
今 回機 能レベ ル の高い脳 卒 中 者 を対 象としたが
,
今 後 対象
者 を幅広 く増やすことで慣 性センサ を用いた計 測 方 法の妥 当性 な ら び に機 能 障 害レベル に分 けた方 向 転 換 開始 時の動 作 特 性 につ い て さ ら に検
証し てい きたい と考 えている。 文献
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