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今世紀の排出が1000年先の未来を決める —ティッピングとは何か?

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Academic year: 2021

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(1)

今世紀の排出が1000年

先の未来を決める?!

—ティッピングとは何か?

鼎信次郎(東京工業大学)

2016年11月21日

東京大学伊藤国際学術センター伊藤謝恩ホール

環境省環境研究総合推進費 戦略的研究開発プロジェクトS-10公開シンポジウム

『地球温暖化対策の長期目標を考える

-パリ協定の「

1.5℃」、「2℃」目標にどう向き合うか?』

(2)

地球温暖化による様々なリスク

洪水

(ANN News)

食糧

エネルギー

水資源

健康

生態系

熱波

台風

(http://healthil.jp/33573) (http://natgeo.nikkeibp.co.jp/) (WWF)

ティッピング

海面上昇

(3)

ティッピングポイント(TP)とは?

それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する

時点を意味する。

坂道の先には崖が! 崖の先端まで転がる と崖下へ落下。 もちろん球を坂道に 戻すことはできない。 転換点 (ティッピングポイント)

例えば、坂道を丸い球が転がっているとする

(4)

ティッピングポイント(TP)とは?

地球温暖化研究では、

地球の気候を構成する要素に質的かつ急速な変化が生じさせ

るしきい値(気温など)を指す。

Meehl et al., 2007

ティッピングポイントを超えると、

気候システムにしばしば元に戻すこと

ができない大規模な変化が生じる。

強制力 (気温など) 気候システムの 応答 ティッピングポイント 要素2 要素1 要素3

(5)

ティッピングエレメント(TE)とは?

TE:TPを超えたときに発生しうる地球の気候システムを構成する要素。

Lenton et al (2008)の図1 永久凍土・ ツンドラの 消失 北方林の 立ち枯れ 北方林の 立ち枯れ アマゾン 熱帯林の 立ち枯れ サハラの 緑化 インドモンスーンの弱化 西アフリカ モンスーンの変化 エルニーニョ現象 (ENSO)振幅増大 南極底層水形成 の変化 北極オゾン の減少 北極海氷の消失 北大西洋熱塩 循環の減速 グリーンランド氷床の融解 西南極氷床の 不安定化

メタンハイド

レートの分解

(6)

パリ合意

西南極氷床 グリーンランド 北極海夏季海氷消失 アル プ ス 氷河消失 サン ゴ礁 白 化 アマゾン熱帯雨林消失 北方林消失 THC サヘル緑化 ENS O 東南極氷床 永久凍土 上図のティッピングエレメントとティッピング ポイントの幅はSchellnhuber et al. (2016)より

ティッピングエレメントの発現可能性は?

(7)

ティッピングポイントを超える可能性が

あるティッピングエレメント

北極海夏季海氷の消失

アルプス氷河の消失

サンゴ礁の白化

グリーンランドと南極氷床の融解

(8)

北極海夏季海氷の消失

通常は、北極海では毎年、春から夏にかけて海氷が縮小し、9月に最小になっ た後、再び冬にかけて海氷が拡大するという変化を繰り返している。 大 気 海 氷 氷 暖 春~夏 夏 太陽光の吸収 暖 秋 暖 秋~冬 暖 蓄積熱を放出 寒 国立極地研究所 9月の北極海 2012年 1980年代 Yoshimori et al., 2014

(9)

北極海夏季海氷の消失

Holland et al., 2006 in GRL  2040年代、 A1Bシナリオ(+1~2℃上昇)で 夏季の海氷は、カナダとグリーンランド北岸 沿いにのみ残る。 海氷面積 北極海 ー:1990年代(観測) ー:1990年代(予測) ー:2010~2019(予測) ー:2040~2049(予測) 【影響】 太陽熱の吸収率上昇、 海水から大気への熱輸送増加、 深層循環、生態系、先住民 等

(10)

アルプス氷河の消失

氷河長の変化 (m ) Meur et al., 2007 Vaughan et al., 2013 厚 さ 氷の体積 (106m3) 既に氷河消失・・  B1シナリオ(+2℃上昇)で、 2060年代までにアルプス氷河 はほぼ消失する予測。 【影響】 水資源(河川水量・ダム貯水)、エネルギー、海面上昇 等

(11)

サンゴ礁の白化

白 化 National Geographic, 2016 2050年のサンゴ礁白化割合 1.5℃ 2.0℃ ① 進化による熱適応 9% 39% ② 1.5℃ or 2.0℃が維持 89% 98% ③ 海洋酸性化や病原菌の拡大等が②に 追加された場合 94% 100%

Schleussner et al., 2016 in ESD

2.0℃

1.5℃

② ② ① ① サン ゴ 礁白化リ ス ク の割合 (% )  1.5℃・2.0℃ 上昇の場合 どちらでもサ ンゴ礁の多く が白化  サンゴへの ストレス(海 面上昇・ ENSOイベント や熱帯低気 圧の増加・外 来種の増加 など)は未考 慮 【影響】 ・生物多様性 ・漁業 ・観光資源 など

(12)

グリーンランド氷床と南極氷床

IPCC, AR5, WGI, Fig. 4-01

氷河:重力によって長期間に渡り緩やかに動く氷塊

氷床:大陸規模(5万km

2

以上)の氷河

グリーン

ランド氷床

南極氷床

(接地部分)

表面積

170万

km

2

1,230万

km

2

氷厚の平均

1,700m 約2,034m

地球上の氷

(氷河・氷床)

占める割合

11%

88%

全融解した

場合の海面

上昇寄与

7.3m

57m

(13)

海面上昇と各要素の寄与

2081~2100年における海面

上昇量の予測

:

+0.26~0.82 [m]

*1986-2005年を基準

・~

2100年では海面上昇寄与は,

熱膨張

> (山岳)氷河 >

グリーンランド氷床

> 南極氷床

2100年を超えた予測では,

グリーンランド氷床の寄与が大き

くなる可能性がある

(左図)

.

*モデル性能の関係により左図で南極氷床か

らの寄与は過小評価されている可能性がある.

(14)

グリーンランド氷床のティッピングポイント

→表面質量収支が負に転じる(全球平均)気温:

表面質量収支

=降雪-昇華-流出

氷床

降雪

昇華

流出

表面質量収支~

標高フィードバック:

氷床融解(昇華・流出)

の増加

→氷厚の減少

→氷床の標高が下が

り融解が増大

(15)

大規模な海面上昇による影響

(東京湾周辺)

海面上昇量:1m

3m

10m

15m

20m

7m

熊谷

春日部

埼玉

成田

千葉

横浜

新宿

茅ヶ崎

(16)

海面上昇でどこが浸水するの?

八丈島 御蔵島 三宅島 伊豆大島 名古屋 四日市 伊勢

グリーンランド氷床が全融解し、7m海面上昇した場合(関東~東海地方)

新宿 千葉 成田 上野 国立西洋美術館 成田国際空港 大島公園 名古屋城 伊勢神宮 三保の松原 沼津 浜松 茅ヶ崎 沖ノ鳥島 ※2m上昇で 水没 埼玉春日部

(17)

海面上昇でどこが浸水するの?

グリーンランド氷床が全融解し、 7m海面上昇した場合(関西~九州)

軍艦島 厳島神社 広島 原爆 ドーム 姫路 姫路城 桂浜 福岡 松山 徳島 佐賀 大阪

(18)

グリーンランド氷床と北極海夏季

の海氷が、2100年までにそれぞ

れのティッピングポイントを超え

る確率はどの位なのだろうか?

(19)

2通りの目標気温 (1.5℃, 2.0℃)と追加政策なしの計3つの

シナリオに対して,

グリーンランド氷床と北極海夏季海氷が,

2100年までにティッピングポイントを超える確率

を推定

「戦略」

目標温度水準

(工業化前比)

実際の気候感度

目標気温

1.5℃(政策気候感度3.65)

1.5℃

1.5, 2.0, 3.65, 4.5

目標気温

2.0℃(政策気候感度3.65)

2.0℃

1.5, 2.0, 3.65, 4.5

BAU (追加政策なし)

1.5, 2.0, 3.65, 4.5

*確率の推定には,以下の点は考慮されていな

い(または考慮が不十分である)事に注意.

• 気候感度の確率分布は対数正規分布のみを仮定 • ティッピングポイントの確率分布は未知であるが一様 分布を仮定 • ティッピングポイントの範囲は,現存の文献から言え る範囲で定めている. • 昇温量には統合評価モデルDICEの気候モジュール出 力を用いており気候モデルの出力は利用していない.

既存文献(主に

IPCC AR5)より,ティッピングポイントの範囲は以下に設定.

グリーンランド氷床:

1.0~4.0℃,北極海夏季海氷: 2.2~2.7℃

(20)

ティッピングポイントを超える確率

1.5度目標

2.0度目標

BAU

グ リ ー ン ラ ン ド 氷 床 北 極 海 夏 季 海 氷

21%

35%

84%

13%

28%

90%

確率の推定には,前述の点は考慮されていない(または考慮が不

十分である)事に注意.

(21)

本プロジェクト(ICA-RUS)で研究対象

としているティッピングエレメント

西南極氷床の安定性

北大西洋熱塩循環と貧酸素水域の拡大

メタンハイドレートの分解

(22)

1万年後の南極氷床の厚さの変化 (Winkelmann et al. 2015)

南極大陸

氷床

氷床

海流 氷床の底部の融解 基底部

氷床と棚氷、海洋との関係を調べ、

その関係をモデルに導入

Yamane et al. 2015

海洋部の氷床の退氷

がより現実的に再現

できた!

将来どれだけ南極の 氷が融けるか正確 に分かれば、どれだ け海面上昇するかも より正確に分かる!

西南極氷床の安定性

(23)

北大西洋熱塩循環と貧酸素水域の拡大

・大気海洋結合モデ

ルの長期実験と、

開発した海洋物質

循環モデルを用いて、

海洋中の酸素の

長期変動を計算。

大西洋 太平洋 2000年後の酸素の変化(Yamamoto et al. 2015)

表層、亜表層

では水温変化

の影響で酸素

が減少

→ 酸素呼吸をする魚介類などが好む環境でなくなることで、

生物生息域等に影響

・温暖化により海洋中の酸素は1000年かけて

30%程度減少すると簡易気候モデルが予測。

2xCO2 4xCO2 海洋熱塩循環

(24)

メタンハイドレートの分解

メタンハイドレートとは・・・低温かつ高圧の条件下でメタン分子が水分子に囲

まれた氷状の化石燃料。次世代のエネルギーとして

期待されている。

【数千年~数万年スケールのティッピングエレメント】

メタンハイドレート分布図

Wikipedia参照 埋蔵域  シベリアなどの永久凍土地下数百m~数千m  水深500~1000mの地下数十~数百m

(25)

メタンハイドレートの分解

海洋堆積物 海洋 温暖化による気温上昇 海水温の上昇 メタンハイドレート 分解 CO2へ酸化 溶出 海洋の酸性化 CO2排出(大気へ) 溶存酸素の減少 Q: 酸化により海水中の溶存酸素が減少 するが、どのくらいか? A:魚等が生息出来ない貧酸素域の拡大

3000~4000年後に最大

貧酸素水塊体積 (M k m 3 )

 メタンハイドレート2600GtC

(現在)

から

800GtCへ減少

 その放出により貧酸素域が拡大

(北太平洋 1000m深付近)

 大気CO

2

が200ppm程度上昇の可能性

Yamamoto et al., 2014 【影響】 ・生物多様性 ・漁業 など

【数千年~数万年スケールのティッピングエレメント】

(26)

本日のまとめ

地球温暖化による様々なリスクとして、ティッピングポイン

ト・ティッピングエレメントをご紹介した。

パリ合意の気温幅でも発現する可能性があるティッピン

グエレメント(北極海夏季海氷の消失、アルプス氷河の消失、サ

ンゴ礁の白化、グリーンランドと南極氷床の融解)がある。

何かしら気候変動政策

(パリ合意など)をとらないと、発現可

能性がかなり高くなるティッピングエレメントも存在する。

 ただし、かなり不確実性が高く、まだまだ発展途上の研究であるた

め、科学的な根拠をつかむ研究が今後も必要。世界の温暖化研究

へ寄与。

参照

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