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黒板アートを用いた魚類解剖実験のデザイン案

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Academic year: 2021

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(1)黒板アートを用いた魚類解剖実験のデザイン案 伊東眞由子,平野幸希,西栄二郎 Designing of fish dissection experiments using chalkboard-art Mayuko ITO, Koki HIRANO, Eijiroh NISHI 要旨 生物学実験等において,生物の全体図や頭部の拡大,内臓の配置等を黒板に描く作 業は必須のものである。あらかじめ用意した写真や線画等を黒板に投影し,それをな ぞっていくことで黒板上に板書する方法を提案する。この方法により,板書する人の 技量にかかわらず,正確な図が短時間に,かつ容易に描けるようになる。投影する図 や黒板周辺の明暗なども考慮し,教育現場での実践に供することができるようなデザ インを考えた。黒板アートとしての価値を高めつつ,理科教材としての情報が正確に 伝わるような描画法を提示する。 はじめに 黒板アートとは,黒板にチョークで描かれた絵や文字等の作品のことである(日学 株式会社,2017)。日学・黒板アート甲子園では,多くの参加があり,メディアでも 取り上げられている。黒板アートはまた,武蔵野美術大学の学生による研究・社会貢 献の一環として行われている「黒板ジャック」という活動でも知られている(西村, 2016)。黒板ジャックでは,武蔵野美術大学の学生たちが半日かけて描いた絵を登校 してきた児童・生徒が鑑賞し,鑑賞後,始業前には絵を消すのがルールである(武蔵 野美術大学,2017)。この短い時間のできごとが、子どもたちのその日を新鮮な感覚 で過ごさせ、その驚きとともに美術への関心を引き出す活動となっている(武蔵野美 術大学,2017)。 黒板アートと同様に,チョークアートという欧米諸国等の飲食店の看板などに描か れたアート(日本チョークアート協会,2017)も広く普及している。本研究において は,チョークアートの様々な技法(例えば,チョークボーイ,2016;クラッチ編集部, 2016 参照)を参考にし,学校現場における実践への応用を考えた。 本研究においての黒板アートは,美術への関心を引き出すのではなく,板書の際に 絵や図を描くのが苦手な教師でも教科書や写真と同じ絵を描くことができる方法や 解剖実験が苦手な生徒でも魚類のからだの構造を正確に理解するための手段として 取り入れる。その方法論を紹介するとともに,実践の場での役割を提示した。 生物学実験等において,描画をすることの重要性ははかりしれない。例えば,外部 75.

(2) 形態を正確に描画するために,顕微鏡に取り付けた描画装置を用いて標本の外部形態 を描画する方法がある(富川・森野,2009 参照)。これらの描画方法を参考に,投影 機を利用した正確な解剖図や外部形態図を黒板アートとして実践する方法を提示し た。 方法 通常の教室にある黒板を使用し,投影機を用いて黒板に図を投影することにより, 黒板に図を描く試みを行った。教育学部第3研究棟5階生物教育演習室にある壁付け の 900x1800cm サイズの黒板2枚を用い,一枚は表面色が深緑,もう一枚が黒である。 投影機は QUMI Q6(輝度 500 lm)と EIKI Eip3500(輝度 3500 lm)を用い,室内 灯を点灯した状態や消灯した状態で,黒板表面の照度をセコニックフラッシュマスタ ーL-358 で計測した。また,黒板から離れた場所に設置した机の上においても照度を 計測した。 使用したチョークは,通常使用される6色(白,緑,茶,赤,黄,青)に加え, Masters Pastel 24 色セットと蛍光チョーク6色(蛍光燈,蛍光赤,蛍光黄,蛍光緑, 蛍光青,蛍光紫)を用いた。黒板消しとして,通常の布製のものと消しゴム(Tombow 社製,Staedler 社製),布製雑巾を用いた。 解剖図などの写真をプロジェクターで直接黒板に映し,写真に映っている魚類の輪 郭をなぞる作業を行った。その際には,投影後,書き始めてから書き終えるまでの時 間を計測した。また,色鮮やかな魚類の写真を使用する際には,色チョーク等で色を つけることもできるが,これらの作業に要する時間も計測した。黒板に魚類の輪郭を なぞった後,魚類の体の構造が示された写真を重ね,さらに描き加える。それをデジ タル写真で撮り,その写真をまた,投影して黒板アートを行うことを繰り返した。 黒板に図を描く作業を行ったのは,著者の3名と横浜国立大学教育学部理科専攻の 3年生と4年生である。 今回,描画に用いた魚種は,マアナゴ,キハダマグロ,キチジ,キンメダイ,エビ スダイ,シログチ(イシモチ),アユの7種であり,頭部の解剖や半規管,耳石の摘 出,内臓の観察等を行った際の図や写真を使用した。解剖実験の授業デザイン案とし て,伊東・平野(2018)によるものを今回,応用した。魚類解剖実験の手順や魚類各 部の名称等に関しては,落合(1987),木村(2010)を,教材としての魚類に関して は藤原(2016)を参考にした。 結果と考察 通常の板書よりも容易に,かつ短時間で図を描けることがわかった。ただし,どの ような図を投影する方が描きやすいのか,輪郭をなぞるだけで,細部は手元に写真や 76.

(3) 図をもち,それに基づいて描いた方が容易であるのかは,板書を行う教員や児童・生 徒の慣れにもよると思われる。以下に,幾つかのパターンで行った事例を紹介すると ともに,それらの利点や効果等を論じた。 要する時間に関しては,魚類の頭部を黒板上に投影し,輪郭をなぞるだけであれば, 1分以内で行うことが可能である(図1A,B,C)。頭部の後方,胸鰭や背鰭、鰓蓋 周辺などの描画を含めても,1分以内で図を描くことが十分に可能である。黒板の約 80x100cm に魚体全体を投影した場合には,全体の輪郭や背鰭,腹鰭などや側線など を描くのに1分程度を要する(図1E,F)。鰭の鰭条や鱗の分布などを含めると,最 低でも3分程度は必要となる。全体図を示すための輪郭のみとするのか,鰭などの形 態も描画するのかにより,要する時間は大きく変わると思われる。 これらの図に色をつける場合は,頭部の拡大のみ(図1D)であっても,10 分程度 を要する。基盤となる地色を赤やオレンジにする(キチジやキンメダイの場合;図1 F)だけでも,最低3分程度を要する。各部位を指し示す線や用語の記入等も考慮し て,外部形態を細部にわたり描画するかどうか,色を入れる部位をどうするかをあら かじめ決めておいた方が描画は容易であると考えられる。 黒板の明るさに関して,7月〜9月の,午後1時から3時頃,晴天でブラインドを 開けず,蛍光灯を点けた状態で黒板上の照度は 180〜300 lx,蛍光灯を点けない状態 では 23〜65 lx であった。黒板から 1.5 m 離れた高さ 60cm の机の上における照度は, 蛍光灯をつけた状態で 560 lx,蛍光灯を点けない状態で 43 lx であった。蛍光灯を点 けたままでも,投影器からの画像は黒板上に見える。ここで,投影器の照射輝度は約 500 lm である。蛍光灯を点けた状態で図を投影すると黒板上で 280〜370 lx,蛍光灯 を点けない状態で図を投影すると 35〜110 lx であり,投影しない時より黒板上は明 るくなった。ただし,蛍光灯を点けないままで,部屋を暗くした方が画像は見やすく, そのため黒板上に描画する作業も容易であった。特に写真を黒板に写した場合(例え ば図1B,D)は,部屋が明るいと細部は見づらいままであった。黒板に白い線や黒 い線で書いた図を写す場合(図1H)は,部屋の明るさに関係なく,黒板上で見やす く,描画が容易であった。 黒板に投影する図は,魚体や頭部のみ,内臓のみなどの輪郭を描くだけであれば, 写真よりも線画や黒板に描画したものを撮影した写真を投影する方が描画は容易で ある。それらの投影された線をなぞるだけであり,それらの線がガイドとして役立っ ている(図1C,E,G)。写真を投影した場合は,描画する際に写真のどこをなぞる かを考えなければならず,線をなぞるよりも時間もかかる(図1D,H)。 魚体や頭部の輪郭を描いた後に色付けをするのであれば,写真を投影するのが望ま しい。その際には,黒板の地の色(黒か深緑)や黒板周囲の明るさ等に影響されて, 色味が変わることを考慮する必要がある(図1B,D,F,H 参照)。 77.

(4) 投影する図は線画が良いのか,実験の際の写真が良いのか,また,黒板に書いた図 の再利用の有効性についても考慮した。黒板に板書する際に,図毎に作図に要する時 間や書きやすさを考慮し,板書の都度,投影する図を用意し投影した方がガイドとし ては有効であることがわかった。例えば,魚体の頭部のみを描画し,その中に耳石や 耳(内耳)の位置を示し(図1A,B,D),脳や口の位置を考慮しながら,最後は色 付けをする板書を行う際には,1)頭部のみの線画,2)頭部のみの線画に各部位の 位置を示した図,3)頭部の色を示した図(図1D),4)線画と写真を組み合わせた 図(図1H),を用意するのが良いと思われる。ここで,3)の写真は,あらかじめ 黒板に書いた図を写真に撮り,それを投影して色付けをする方が色味を合わせやすい と思われる。また,黒板アートを取り入れる目的として,児童・生徒が親しみやすい 図を描く,ということもあるので,脳や内臓などの写真よりは手描きの板書された図 の方が柔らかい印象を与えるであろう。 今回,用いた方法は,多くの学校にあるであろうプロジェクタ(投影機)を利用し て,短時間で容易に黒板に描画するためのものである。今回の例に挙げた魚類の解剖 実験だけではなく,他の理科の実験や多くの板書に対しても有効だと考えられる。黒 板に真っ直ぐ字を描く,線を引く,グラフを描く,などの作業にも有効であろう。黒 板アートの技法として,マスキングテープでガイドを作る,水性ダーマトグラフなど で下書きをする,などがあるが(チョークボーイ,2016 参照),今回の方法では,投 影された図をガイドにすることができ,下書きも不要である。 一方で,この方法は画像をそのままなぞっていることになるため,元となる画像の 版権なども時に考慮すべきかもしれない。日学・黒板アート甲子園事務局から配布さ れた「日学・黒板アート甲子園®」の応募要項には, 「プロジェクターなどの投影器で 画像などを映し,トレースする方法はお控えください」とある(日学株式会社,2017)。 今回,我々が試した方法は正確な図を黒板に描く必要がある際に,投影した図をなぞ る,という作業の教育現場での有効性を検討したものである。描く人によって異なる 情報が板書を通して伝わるよりは,むしろ板書をすることで多くの児童・生徒が正確 な情報を目にする機会が増えることにつながると思われる。すでに用意された図をな ぞることによって,板書をする人の技量によらない,正確な情報を広めていく方法と して,この黒板アートを取り入れた解剖実験の推進は有効であろう。なおかつ,脳や 内臓等の写真ではなく,嫌悪感の少ない手描きの画を描けるという意味での利点もあ る。今後,このような黒板アートの利用が推進されることを望みたい。 謝辞 本研究を進めるにあたり,解剖実験や板書調査に協力していただいた横浜国立大学 78.

(5) 教育課程理科専攻の菅原実氏,内藤芽生氏,森田遥氏,三羽達也氏,川村美南氏に深 く感謝する。 引用文献 チョークボーイ 2016 素晴らしき手描きの世界.151pp., 主婦の友社,東京. クラッチ編集部 2016 チョークアート.162pp., エイ出版,東京. 日学株式会社 2017 日学・黒板アート選手権.http://kokubanart.nichigaku.co.jp (2017 年 10 月1日ダウンロード) 富川 光・森野 浩 2009 ヨコエビ類(節足動物:甲殻亜門)の描画方法.広島大 学大学院教育学研究科紀要,58,27-32. 落合 明 1987 魚類解剖学,250pp. 緑書房,東京. 藤原昌高 2016 からだにおいしい魚の便利帳. 207pp., 高橋書店, 東京. 木村清志 2010 新魚類解剖図鑑 216pp., 緑書房,東京. 西村愛子 2016 子どもの心の中に絵を描くことについての試み−小学校のスライド 式黒板をキャンバスにして−.駒沢女子短期大学研究紀要,49,21-28. 武蔵野美術大学 2017 旅するムサビプロジェクト 黒板ジャック. http://www.musabi.ac.jp/collaboration/spread/tabimusa_project/kokuban/ (2017 年 10 月1日ダウンロード) 日本チョークアート協会 2017 チョークアートとは? http://www.chalkart-jp.org (2017 年 10 月1日ダウンロード) 伊東眞由子・平野幸希 2018 黒板アートを用いた魚類解剖実験のデザイン案.横浜 国立大学教育デザイン研究,9,144-153.. 79.

(6) 80.

(7) 図1.黒板アートにより黒板上に描かれた図.A;マアナゴの頭部,ピンセットの先 端は耳石の位置を示す.B;シログチ(イシモチ)の頭部,眼の後方の耳石の位置を 示す.C;キハダマグロの描画.D;キンメダイの頭部の投影と白線で輪郭をなぞっ た.E;キチジの白線による輪郭図.F,キチジの輪郭に赤等で色をつけた.G;カサ ゴの輪郭をなぞった.H;キンメダイの輪郭をなぞり,色をつけ,写真の投影を重ね た.. 81.

(8)

参照

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