氏 名 花 輪 書 絵 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工博4甲 第 129 号 学 位 授 与 年 月 日 平成25年6月19日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 先進医療科学専攻
学 位 論 文 題 名 IL-6 and IL-10 from B16 cells initiate the differentiation of CD4+/CD8+ T cells: Inhibition of STAT3-signaling cascades in melanoma microenvironment is a prerequisite for immunotherapies (B16 細胞から産生される IL-6/IL-10 は全ての CD4+/CD8+T 細 胞の分化に関与する:悪性黒色腫微小環境での STAT3 シグナル 伝達阻害薬は有効な癌免疫療法に必須である) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 中尾 篤人 委 員 准教授 齋藤 正夫 委 員 講 師 尾 畑 純 栄
学位論文内容の要旨
(研究の目的) 悪性黒色腫を含む様々な癌細胞において恒常的に活性化するSTAT3(リン酸化 STAT3;pSTAT3)の 発現はSTAT3 シグナル依存性のサイトカイン、増殖因子産生誘導し、周囲微小環境内の免疫細胞と cross-talk することで細胞障害性免疫反応を強力に抑制することが明らかとなっている。従って、癌 局所でSTAT3 依存性シグナルを阻害するような治療法・治療薬の開発が望まれてきた。 過去、我々は in vivo において細胞内・癌局所に効率よく蛋白分子・抗原を導入させる手段 (protein-transduction 法 ) の 検 討 を 行 い 、 そ の 結 果 、 poly-arginine(R9)-protein-transduction domain(R9-PTD)が最も効率の良い非侵襲性の peptide-carrier であるとの結論に達した。この方法 を用い、全ての細胞内に広く発現する内因性 STAT3 阻害分子(GRIM19)と R9-PTD を融合させた fusion-protein(rR9-GRIM19)を作製、その抗腫瘍効果について検討を重ねてきた。まず、pSTAT3 を高発現するB 細胞リンパ腫株(A20 cell)では、A20 腫瘍塊に rR9-GRIM19 を局注するのみで完全 拒絶が誘導される事、この際A20 細胞からの IL-10(anti-inflammatory cytokine)産生が抑制され、 IL-10 産生 CD4/CD8+T 細胞から、劇的に IL-17/INF-γ産生 T 細胞に転換する事で強力な抗腫瘍効果が誘導される事を明らかにした。但しこの抗腫瘍効果は pSTAT3 を発現しない腫瘍塊(RG.7 cell) では認められなかった。この際、T 細胞に発現する pSTAT3 が、無効な癌免疫療法の bio-marker と なりうることを提案した。一方、pSTAT3 を発現する B16 melanoma の腫瘍塊に rR9-GRIM19 を単
独で接種しても、ある程度の縮小効果を認めるものの完全拒絶には至らなかった。
今回、我々はB16 担癌マウスを用いて、悪性黒色腫での免疫抑制誘導の機序と共に、完全拒絶を きたす条件について詳細に検討を行った。
(方法)
1. ナイーブマウスと B16 担癌マウスの所属リンパ節(DLN)内 CD4/CD8+T 細胞の PMA+ionomycin
刺激後の cytokine profile, pSTAT3 発現を比較検討した。また、B16 培養液中存在する STAT3-activator の解析も行った。
2. B16 担癌マウスに様々な癌免疫療法を試み、DLN 内 T 細胞の pSTAT3 発現、cytokine profile、 melanoma-specific CTL 数(tetramer 解析)、実際の抗腫瘍効果について比較検討し、最終的に完 全拒絶をきたす組み合わせ治療法を決定した。また、B16 完全拒絶マウスの DLN 内 CD4/CD8+T 細胞の総合的な解析を行った。 3. B16 担癌局所に浸潤する細胞について、癌局所病理切片を用いて病理組織学的検討を行った。 (結果) 1. B16 担癌マウスの DLN 内 T 細胞は IL-6/IL-10 を優位に産生し、INF-γ産生能が阻害されてい た。また、B16 細胞移植5日目より全ての DLN 内 T 細胞において pSTAT3 が発現するようにな った。 2. Naïve T 細胞を B16 細胞培養液と共に共培養すると、INF-γ産生能が強力に阻害されたが、IL-6 中和抗体、またはrR9-GRIM19 を添加する事で阻害効果が解除された。 3. B16 細胞は IL-6/IL-10 を産生し、CD4/CD8+T 細胞の pSTAT3 発現を誘導した。
4. B16 担癌マウスに rR9-GRIM19 を単独接種すると IL-6/IL-10 産生 T 細胞 phenotype の頻度は減 少するが、INF-γ産生 T 細胞 phenotype は誘導されなかった。
5. IFN-γ産生誘導 adjuvant である、CpG-ODN, rR9-OVA を rR9-GRIM19 と共接種すると抗腫瘍 効果は増強された。また、CpG+rR9-OVA+rR9-GRIM19 の 3 者の組み合わせ投与(COG therapy) により、B16 腫瘍塊は完全拒絶された。この腫瘍効果は CD8+T 細胞依存性であった。この際、
IL-6/IL-10 産生 CD4/CD8+T 細胞 phenotype から、IL-17/INF-γ産生 phenotype に変化すると
共に、B16-specific CTL の増加と pSTAT3 発現の完全抑制が確認された。
6. COG therapy を行った B16 腫瘍塊では、B16 細胞死と共に、CD8+T 細胞の腫瘍塊浸潤が確認
された。
(考察・結論)
今回の研究でSTAT3 阻害作用のある治療法以外では、T 細胞に発現する pSTAT3 を抑制できない事 が明らかとなった。従って有効な癌免疫療法を行う場合には我々のような癌局所のSTAT3 シグナル 伝達を阻害する治療法との組み合わせが必須となるものと思われる。