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特集:2019年度人工知能学会全国大会(第33 回)[企画セッション(KS-1~KS-12)]

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831 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 1.はじめに 人工知能(AI)をめぐっては,国内でも内閣府,総 務省などが相次いで指針などを発表し,国際的には Partnership on AIといった企業の連携団体から,IEEE などの学会,OECD や UNESCO などの国際組織までさ まざまなところで議論が行われている.こういった状況 下,AI に係わる研究者,開発者は自らの立ち位置を把 握したうえで,進むべき研究開発の方向を提案し成果を 示すことが期待されている.本セッションでは,国内外 の動向を踏まえ,AI 研究の置かれた状況を我々がどう 受け止め行動すればよいかを研究者とともに議論を行っ た. 2.AI研究に自由はあるのか? 基調講演として理化学研究所革新知能統合研究セン ターの中川裕志氏が講演を行った.中川氏は国内外のさ まざまな組織が提案している人工知能の倫理文書を一覧 としてまとめて表示した.最近のトレンドとしては,自 律的な AI(AGI)よりは公平性,アカウンタビリティや 透明性(いわゆる,FAT 研究)への言及が増えてきている. また公平性や説明性を担保するにはトラスト(信頼) 概念が重要になるが,組織,人,データなど「何」に対 する信頼なのかを考える必要がある.中川氏は人間が生 まれてから(生まれる前から)死ぬまでのデータ管理を AIがサポートするだろうと予測し,AI を使う側もこれ からは AI の倫理について考えていく必要があると指摘 した. 3.話題提供 続いて,5 名の話題提供者が自分自身の研究テーマと AI倫理の関係性を紹介した.大澤正彦氏(慶應義塾大学) は,「ドラえもんをつくる」という目標を掲げ,人工物 を「道具」から「仲間」にするための Human-Agent Interaction研究を行う.その一方で,異分野で多様な バックグラウンドをもつメンバとのコミュニティづくり も行っている. 諏訪正樹氏(オムロン・サイニックスエックス)は, 人と機械の関係性をセンシングして可視化することで, 人と機械の共同が可能になると指摘する.また,企業開 発という観点からすると,AI の責任を考える前に生成 したデータを誰が保有する権利があるのかなど,AI を 取り巻く人どうしの関係性の問題も重要だと指摘した. 葭田貴子氏(東京工業大学)は,ヒトと AI・ロボッ トが協調するときのユーザ体験の最適化のためにヒト中

心設計(Human Centric Design)を行っている.自動 運転や半自動ロボット手術などヒトとロボットのハイブ リッドでの行為時に問題が起きたときは,誰の責任にな るのかを問題提起した. 江間有沙(東京大学)は人と技術,社会の関係性を研 究する立場から,政策誘導や利用者による抵抗,古いけ れど確実な技術のほうが確実であるというタスクや分野 による選考,昨今の貿易戦争の影響などさまざまな要因 が技術と相互作用しながら進むと指摘した. 浅川直輝氏(日経 BP)は,倫理委員かつ IT 記者と しての立場から,昨今の AI の取材テーマの変遷を紹介 した.特に AI 倫理に関する議論は 2014 年から始まり, 研究者内部の議論から法学者,倫理学者,企業などへと 関係者や議論のテーマが広がり,現在は個々の AI 研究 者・利用者に「AI 倫理」が問われる時代になったと指 摘した. 4.パネルディスカッション パネルディスカッションでは司会の武田が,AI 倫理 の問題の解決法として,社会制度による解決法と技術志 向の解決法があるが,どのようなバランスで取り込むべ きと思うか投げかけた. これに対し大澤氏は,HAI 研究は技術に対する印象を 人と機械の間に立ちながら是正していけるため,技術志 向と制度志向を両輪で進めやすい研究領域であると指摘 した. 諏訪氏も AI によって不確定性が減少すると保険制度 が弱者排除になる可能性があるとの懸念を示し,技術の 社会実装にあたっては社会制度での対応が必要になると 指摘した. 葭田氏はヒト中心設計においては技術と社会を分けて 考えた議論はしていないと前置きをしつつも,一般的に は異分野議論をしていくのはまだまだ課題があると述べ た. 江間は,個々の企業が公平性やアカウンタビリティに 取り組むのが大事だと言及しつつも,そもそも社会や組 織そのものが構造的に公平ではない現実を指摘した.AI 倫理の議論をきっかけとして,社会や組織の構造そのも のを見直すことが求められていると指摘した. 浅川氏は国によって技術と社会のバランスのとり方が 異なると指摘した.フェイスブックの事件では公聴会で の議論を受けて,倫理的な AI の研究が推進された.最 初から一般ユーザも巻き込みながら議論をしていく場が

企画セッション KS-1「人工知能学会倫理委員会:AI 研究に自由はあるか?

〜 AI 倫理をめぐる世界の動向を踏まえた第一歩とは?〜」

武田 英明(国立情報学研究所),江間 有沙(東京大学) 企画セッション KS-1「人工知能学会倫理委員会:AI 研究に自由はあるか?~ AI 倫理をめぐる世界の動向を踏まえた第一歩とは?~」

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重要であると指摘した. 中川氏は,日本では法学や倫理学者が懸念するトロッ コ問題を解けるような AI を技術者が考えるという構図 になりがちだが,ドイツではトロッコ問題がそもそも起 きないような交通システムを考えるのが技術者の役割で あるとの話を紹介した.この問題は技術だけでは答えら れず,さまざまな人が入って議論ができるミックスゾー ンを構築する必要性を述べた. 5.今後の展開 パネルの最後に司会の武田が,AI ELSI 賞を倫理委員 会で新たに設けることを告知した.研究論文だけではな く社会活動も含め,幅広く AI と社会の関わりに関して 深い洞察や影響力のある実践を行ったものを表彰してい きたいと述べて,公開セッションを締めくくった. 図 1 議論の様子

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833 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 1.概 要 “近未来チャレンジ”は現実路線の人工知能や社会貢 献へ重点化した全国大会の特別企画で約 20 年継続した. 本セッションは,その最終チャレンジの年を記念し,ロ ングスパンの次世代研究や分野間コラボレーションの機 運を高めることをねらって,以下の 4 部構成で開催した. 第 1 部は,“近未来チャレンジ”の関係者に登壇いた だき次世代へのメッセージをいただいた.第 2 部以降で は“22 世紀チャレンジ”をキーワードに,第 2 部では, ロングスパンの研究や分野間コラボレーションの機運を 高めるパートとし,第 3 部では他の研究領域へ焦点を当 て未来に社会がどう変わっていくのかを考えるパートと し,それぞれ招待講演を行った.第 4 部では,研究や技 術開発の今後の変遷を会場参加型で議論する場を設け, 議論の過程で,研究に期待している社会からみた価値を 共有し,また普段接点のない研究者間の交流を促進した. 2.実施報告 2・1 第 1 部 近未来チャレンジの目指したもの “近未来チャレンジ”を長年とりまとめて下さった阿 部明典先生(千葉大学)より当該プログラムの成し遂げ たことについて紹介いただき,これまでの“近未来チャ レンジ”チャレンジャーの中からは代表して矢入郁子先 生(上智大学)にプログラム参加のご経験を講演いただ いた. 2・2 第 2 部 22 世紀にチャレンジする才能に向けて ロングスパンの生命科学研究にチャレンジされている 京都大学 iPS 細胞研究所から齊藤博英先生に登壇いただ き,iPS 細胞のできるメカニズムには未解明な点がある こと,細胞を工学的に合成するアプローチが出てきてい ること,22 世紀くらい先であれば人工細胞がゼロベー スでつくられていく可能性もあることなど,夢のある講 演をいただいた. 分野間コラボレーションプロジェクトの実践者とし て,安岡美佳 CEO(北欧研究所)に登壇いただき,リ ビングラボなどの社会課題へ継続的に取り組むデザイン 活動で留意されていることとして,コミュニティを形成 することや,価値を明らかにすることの重要性について 紹介いただいた. 2・3 第 3 部 22 世紀のセカイ 次世代研究者支援機構でもある京都大学白眉センター から,人工知能分野と相性の良さそうな先進的研究領域 の研究者 2 名に登壇いただいた.霊長類研究所の雨森 賢一先生(京都大学)からは,霊長類の不安回路に関す る研究や脳科学研究の目指す先にある神経回路を非侵襲 で自在に制御できる可能性などを講演いただいた.生態 学研究センターの潮 雅之先生(京都大学)からは,環 境 DNA*1により,生物の情報をパラメータとした稲の 各日の成長予測が可能になってきていることや,この先 個々の生物の生態が制御できるようになる可能性などを 講演いただいた. 2・4 第 4 部 22 世紀にフィットしたチャレンジ 会場聴講者や講演者が参加する形式のワークショップ を行い,22 世紀に実現したいものやサービス(例【三 次元ポケットしかもたない二足歩行のネコ型世話焼きロ ボット】)ごとにグループで議論を行った.遠大な目標 を見据えることで,実現までに社会が求めている価値や 必要となる要素技術について議論し,ホライズンマップ 化した(参考例:図 1).詳細は Web サイト(https:// teamq22c.wixsite.com/q22c/)を参照されたい. 3.所 感 実践家─研究開発者間,複数分野間のコラボレーショ ン促進に関する学会への期待は,“近未来チャレンジ” に止まらず今後も大きいと考える.ワークショップ参加 者からは,他の分野の方からみた自身の研究の価値を議 論できて良かったといった声をいただいた.学会全国大 会のもつ,普段接点のない分野であっても交流が生まれ る場であることを活用した,本企画のような機会が,次 世代の研究に寄与できることをオーガナイザ一同,期待 している. 図 1 【三次元ポケットしかもたない二足歩行のネコ型世話 焼きロボット】実現に向けたホライズンマップ

企画セッション KS-2「22 世紀チャレンジ

〜これまでの近未来チャレンジとこれから〜」

林田 尚子((株)富士通研究所),成松 宏美(NTT コミュニケーション科学基礎研究所), 大澤 幸生(東京大学) 企画セッション KS-2「22 世紀チャレンジ~これまでの近未来チャレンジとこれから~」 *1 水中,土壌中,空気中などのあらゆる環境中にある生息して いる生物由来の DNA.

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「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 1.はじめに 調理・提供現場におけるロボット導入や,対話型接 客,需要予測など,食・食システム分野への AI 活用が 広がっている.世界中の数ある食材の組合せを探索し新 たな調理レシピを創造する取組みや調理盛付けなど,付 加価値創造を志向した AI 活用も進んでいる.従来の食 ビジネス・サービスの発展のみならず,ヘルスケア,地 域活性など食を通じた課題解決にも期待が高まってい る.本セッションでは,藤井信忠氏(神戸大学大学院 システム情報学研究科)モデレータのもと,山寺 純氏 ((株)Eyes, JAPAN 代表取締役/チーフ・カオス・オ フィサー),田森秀明氏((株)朝日新聞社メディアラボ), 鎌谷かおる氏(立命館大学食マネジメント学部准教授), 野中朋美(立命館大学食マネジメント学部准教授)を迎 えパネルディスカッションを行った.なお,本企画セッ ションは,昨年度に実施した KS-6「AI で切り開く未来 社会:食・食システムを通じて社会課題を解決する」に 引き続き実施した.食分野に関心をもつ実務家や研究者 など,活発な議論が交わされた.

2.講演 1「Kitchen Hacker’s Guide to the FoodGalaxy (キッチンハッカーの食銀河ガイド)」(山寺 純氏) 山寺氏は,創業以来,ディジタルアーカイブ,CG,モー ションキャプチャ,VR/AR,医療×IT,セキュリティ, シェアリングエコノミー,ロボット,人工知能など,先 進的なプロジェクトを多数手掛けている.前回の講演で は,日本酒を対象とした機械学習の分析結果を紹介した. 今回は,皿のプレイティングに AI を適用する取組みを 報告した.料理を絵画として捉えると,皿は額縁であり いかに美しくおいしそうに盛り付けられるかのアート表 現だと考えることができる.一流シェフの盛付け技術は, 余白や色合いの使い方などが絶妙であり美しい.料理の 盛付けを美しくできれば,ひと皿の付加価値を大きく向 上させ単価を上げることなども可能だという. 3.講演 2「歴史学研究からみた歴史資料の活用の可能性 ─食研究の新しい展開」(鎌谷かおる氏) 鎌谷氏は,日本史を専門とする研究者である.最近の 歴史学では,他分野との学際研究が広がりつつあり,専門 ではない分野の学会やイベントにも積極的に参加してい るという.自身が進める古気候学との共同プロジェクト では,気候変動が人々の生活に与えた歴史的な影響を研 究している.他分野の方法論や知見は,これからますま す歴史学に新しい発見をもたらすはずであると語った. 4.講演 3「過去・現在の料理レシピデータ分析からみ る調理の発展性・変異性への寄与」(野中朋美) 野中からは,鎌谷氏と協業で取り組む江戸のレシピ研 究が紹介された.歴史学とシステム工学の知見を用いて, 江戸の調理レシピを再現し分析する.江戸のレシピにお ける情報の不完全さに着目し,当時のレシピには調理者 や地域における創意工夫の余地が大きく,それが結果と して“おふくろの味”や“郷土料理”と呼ばれる文化を 育んだと考えられる.またこの情報の曖昧さの効果は, ロボット調理・自動調理におけるインスペクション工程 の設計に役立てられる可能性があると報告した. 5.講演 4「朝日新聞社メディアラボの人工知能研究の 取組み」(田森秀明氏) 田森氏は,朝日新聞社メディアラボで人工知能研究に 取り組んでいる.新聞記事の一部を入力すると自動で見 出しや要約文の候補を出力する自動要約生成 API を紹 介した.熟練記者や編集者の人手による作業の特徴と解 釈の難しさに触れ,文章には背景があり,同じ文章一つ でも,コンテクストを考慮すると複数の解釈が可能であ る場合がある.いかに人工知能を用いて解決するか,そ の工夫を報告した.また,豊富な新聞社のメディアデー タの蓄積を用いた,食への応用可能性について語った. 6.おわりに 食は,工学・サイエンスのみならず医学や文化,歴史 など複数の学問領域に密接に関わるため,多方面から学 際的アプローチで研究することが望まれる.未来の食を 扱うことは,まさに総合科学であり,AI で切り拓く未 来社会の可能性とチャレンジを体感するイベントであっ た.継続的に本学会において活動を続けていきたい.

企画セッション KS-3「食と AI ─ AI で切り開く未来社会─」

野中 朋美(立命館大学),藤井 信忠(神戸大学) 図 1 セッションの様子. 左上:藤井信忠氏,右上:田森秀明氏,左下:山寺 純氏,右下: 鎌谷かおる氏

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835 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 1.はじめに 本企画セッションでは,昨今急速に世の中に普及し つつある情報技術が,研究や社会,そしてフィクション の現場で,どのように未来の社会像を変えているか,と いうことを調査するため,人工知能学会全国大会の企画 セッションとして,未来社会における知能,虚構,リア リティを議論するセッションを開催した.人工知能とい う言葉がフィクションから影響を受けた状況を日本 SF 作家クラブと共同でデータを集め,分析し,パネリスト として,研究者であり評論家の宮本道人氏,SF・ファ ンタジー作家の長谷敏司氏を招いて議論した.合わせて, 認知科学の知見をもとに,人の能力の VR 技術による拡 張と変容を目指す研究者の鳴海拓志氏,VR 技術者で虚 構的なキャラクタとして YouTube 上で配信を行うクリ エイターの届木ウカ氏,SF 小説家で,民俗学的な知見 と VR 技術のような技術による身体性の変容を合わせて 物語として記載する柴田勝家氏が登壇し,VR 技術が人 間の認知能力をどのように変化させるか,人間の虚構に 対する概念をどのように変容させるかを議論した. 本稿では,本セッションの様子を報告する.また合わ せて,半虚構的な存在である,バーチャル YouTuber 届 木ウカ氏のバーチャル登壇に合わせた準備の知見も報告 する(セッションの様子は図 1).同様の登壇が行われ る際の参考になれば幸いである. セッションの様子はメンバである明治大学の福地健太 郎氏によって,YouTube でストリーミング放送された* 1 実際の様子は,ぜひ,こちらをご確認いただければ幸い である. 2.企画の背景 フィクション,特にサイエンスフィクション(SF) のもたらす想像力は,今や我々の現代社会の重要な構成 要素であり,将来像を駆動させる要因となっている.科 学から影響を受け,技術のもたらす社会への影響,人々 のドラマ,価値観の変容を描く物語形式として登場した SFは,逆に科学技術者にとって,将来的な未来社会を 描くうえでの指針ともなってきた.特に人工知能分野に おける SF の影響は強い.SF はアイディアを生み,研 究者を動機付ける一方で,AI への不安も生んできた. こうした SF の想像力を,積極的に技術の将来像の検 討のため取り入れようとする試みも数多くある.Nature は SF 短編集を 2009 年より掲載し,異分野間の研究者, 一般読者の間にイメージをわかりやすくもたせるための 手助けとしている.Microsoft 社は自身の研究所の技術 を伝えるため,研究所の技術を元にした SF 短編を各作 家に発注し,できたアンソロジー「Future Visions」を 無料で配布している.中国では複数の作家に対し国家的 な支援が行われ,国際 SF 大会などの開催に積極的に政 府が支援を行っている*2.さらに積極的な例として,SF 作家を技術顧問として招き,直接未来像を描く例が見ら れる.Bruce Sterling や Cory Doctorow などの SF 作家 は情報技術の会議や政策決定に関わっており,日本にお いても長谷敏司や藤井太洋といった作家が人工知能学会 の倫理委員会に参加し,倫理基準の作成に関わっている. 特に Bruce Sterling はこうした SF の未来を描き出す力 を「デザインフィクション」という形でまとめた.デザ インフィクションをベースとした国際会議(PRIMER*3 も開催されている.日本では理化学研究所で佐倉 統を中 心としたグループが「革新知能統合研究センター」の科

企画セッション KS-4「虚構と技術は人をどう変えるか:

「未来社会の知能・虚構・リアリティ」レポート」

大澤 博隆(筑波大学) 図 1 セッションの様子(手前左から,宮本道人氏,長谷敏司氏, 柴田勝家氏,鳴海拓志氏,スクリーン上に届木ウカ氏) *1 YouTube アーカイブ:人工知能学会セッション「未来社会 の知能・虚構・リアリティ」https://www.youtube.com/ watch?v=jpqctjsXr8s&t=3446s *2 http://www.xinhuanet.com/live/20160910a/index. htm *3 https://primerconference.com/2018/ 企画セッション KS-4「虚構と技術は人をどう変えるか:「未来社会の知能・虚構・リアリティ」レポート」

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学技術と社会チーム*4において,SF と社会との関係の 調査を試みている. しかしながら,こうした SF の力を科学技術に取り入 れるプロジェクトでは,主に技術者側の利害関心に基づ く SF のチェリーピッキングが行われており,SF に内 在する物語上の論理や,その背景となる社会状況の文 脈との関係については,技術者内で十分に検討されるこ とがあまりなかった.SF の想像するシナリオやイメー ジは,未来を描き出す助けとなる利点がある一方で,あ くまでフィクションとして描かれることによる制約もあ る.また,描かれた技術ではなく,その背景に存在した 社会問題の提起こそが重要である作品も存在する.時代 ごとの文脈に沿って生まれた SF を,文脈と切り離し無 批判に未来像として適用することには,十分注意しなけ ればならない. 著者をはじめとする企画メンバは,JST RISTEX「人 と情報のエコシステム」の中で,こうした人工知能技術 問題を扱う研究プロジェクト「想像力のアップデート: 人工知能のデザインフィクション」を開始した.研究プ ロジェクトでは,日本 SF 作家クラブと共同で行ってい る,SF に登場した AI の表象の調査と分類,情報系の 研究者に対し,SF の影響をインタビューによって探る オーラルヒストリー企画(「SF マガジン」にて「SF の 射程距離」として 10 月 25 日より連載),対談の形で研 究者や SF クリエイターなど,さまざまな関係者から情 報を得るイベント企画を進めてきた [長谷 18].本企画は, そのうち,異分野のスペシャリストを集め,対談によっ て現在の問題と将来の社会ビジョンを浮き上がらせる, という趣旨の企画になる. 3.構成と登壇者について 第 1 部では,我々のプロジェクト趣旨と,現在まで日 本 SF 作家クラブに依頼して調査を行った,SF に登場 する AI の表象の統計分析の結果が発表された.研究内 容は司会を担当した代表の著者が行った.結果を議論す るにあたって,プロジェクトメンバである,研究者かつ SF評論家の宮本道人氏,SF・ファンタジー小説家の長 谷敏司氏の 2 名がパネリストとして参加した. 宮本道人氏は東京大学大学院理学系研究科を修了し, 博士(理学)を取得した研究者である.神経科学を軸と した研究を進めつつ,オープンサイエンスを推進する枠 組み,フィクションの実社会への応用,人類の在り方の 変容可能性などを考察している.宮本氏の編著として, 『プレイヤーはどこへ行くのか』,共著『東日本大震災後 文学論』などがあげられ,主な寄稿先に「ユリイカ」,「週 刊読書人」がある.漫画・舞台作品など異分野への協力 にも力を入れている. 長谷敏司氏は SF・ファンタジー作家として活動して おり,2001 年,第 6 回スニーカー大賞金賞を受賞した『戦 略拠点 32098 楽園』(KADOKAWA)でデビューしたの ち,ライトノベルから SF に活動の場を広げる.2015 年,『My Humanity』(早川書房)で第 35 回日本 SF 大 賞を受賞している.その他の著作に『円環少女』シリー ズ(KADOKAWA),『あなたのための物語』(早川書房), 『BEATLESS』(KADOKAWA),『メタルギアソリッド スネークイーター』(KADOKAWA)などがあげられる. 第 2 部では研究者である鳴海拓志氏,クリエイターで ある届木ウカ氏と柴田勝家氏 3 名が,パネリストとして 登壇した. 鳴海拓志氏は東京大学の VR 研究者である.VR 研究 で有名な東京大学廣瀬通孝研究室出身であり,現在は東 京大学廣瀬・ 岡・鳴海研究室の准教授である*5.鳴海 氏は VR 研究の中で,特に,人間の知覚を編集し,価値 観を変えることを目的に置いた研究を行っている.コン テンツに関わる業績として,Unity の簗瀬洋平氏(「ワ ンダと巨像」などの開発)との VR 作品「無限回廊 Unlimited Corridor」で第 20 回文化庁メディア芸術祭 で受賞している*6 届木ウカ氏はバーチャルクリエイターであり,3DCG モデリング技術者かつ映像制作者として活動を続けてい る.2018 年末のバーチャル YouTuber ブームの影響を 受け,2018 年 1 月 3 日に YouTube に動画を掲載し,バー チャル YouTuber として活動している*7.2018 年 4 月 9 日よりバーチャル YouTuber 事務所 ENTUM へ所属し, 「ユリイカ」2018 年 7 月号にエッセイと対談が掲載され た.2018 年 9 月 360 度 VR 演劇「Virus」制作と出演に 関わり,VR 放送局 VRoadCaster では V-TV 総合司会, 構成台本を担当*8,VR プラットフォーム cluster での個 人イベントなどを行っている. 柴田勝家氏は若手 SF 作家であり,民俗学修士号をも つ*9.民俗学的な想像力と,SF を結び付けた作品を多 く手がけている.戦国武将の名前で,自身をフィクショ ナルなキャラクタと位置付けている*10.VR,人工知能 技術についても多くの興味をもち,それを題材にした小 説を手がけている. 第 1 部,第 2 部で登壇した登壇者の意見を,第 3 部で 集約する形をとった.

*5 情報処理学会 IPSJ ONE 自己紹介:https://www.milive-plus.net/gakumon170906/ *6 作家:川端裕人インタビュー:https://natgeo. nikkeibp.co.jp/atcl/web/17/101100014/ *7 届木ウカ Channel:https://www.youtube.com/ channel/UCk0dNVAdlgn4ynURwAq_z2A *8 VRoadCaster インタビュー:https://www.youtube.com/ watch?v=N1eFRoBFXeA *9 『クロニスタ』刊行記念柴田勝家 QA:https://cakes.mu/ posts/12490 *10 戦国武将,SF を書く──柴田勝家インタビュー:https:// cakes.mu/posts/8367 *4 https://www.riken.jp/research/labs/aip/ai_soc/ sci_tech_soc/

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837 4.セッションの様子 4・1 セッション準備 セッションは大澤が司会となり,四人の人間がスク リーン前に登壇し,一人のバーチャル登壇者が,スク リーン上に投影される,という形の登壇形式をとった. 届木ウカ氏の登壇にあたっては,ゲーマー向けのボイス チャットソフト Discord を使用し,PowerPoint のスク リーンと同時に表示される形式をとった.接続にあたっ て,あらかじめ会場のネットワークとは別のネットワー クをモバイルルータ越しに用意し,これを届木ウカ氏と の通信専用に割り当てた. 届木氏とは事務所 ENTUM を通じてメールのやり取 りを行い,それ以外の登壇者については直接メールを送 り,事前に質問項目を確認して交換した.前日に,登壇 者を含めたオンラインでの打合せを行い,進行の手順を 確認した.会場の様子を図 2 に示す.立ち見の参加者や オンライン上の参加者も含め,多くの参加者がセッショ ンを視聴した. 4・2 セッションの議論の様子 まず大澤が,日本 SF 作家クラブに依頼し,SF に登 場する AI 115 件のデータのうち,身体性,人間形状, 言語,自意識,汎用性,学習性,ネットワーク接続性, 群知能性,親近性,設計者の 10 の特徴について,階層 的クラスタ分析を用いて 4 分類にまとめた結果,および 主成分分析を用いて集中した領域があることを発見した 経緯について説明を行った.発見できた 4 分類のうち, 鉄腕アトムに近い領域に人形の AI 表象のほとんどが集 まっている一方で,SF に描かれている AI 表象に,かな りバリエーションがあり,例えば映画「ターミネーター」 に登場する Skynet という人間管理型 AI と,星 新一の 『声の網』(角川文庫,1970)に登場する電話網型のコン ピュータの類似点が示された. SF作家の長谷敏司より,作家が物語中で意図してい る役割と,実際に現れているデータの違いが説明された. また,SF 評論家でもある宮本道人氏より,主成分分析 の結果から,あえて外れ値を探すことによって,まだ分 析されていない作品を新しく評論対象として発見できる のではないか,という議論がなされた.長谷氏より,こ うした分析を作品の執筆に生かすアイディアも提案され た. 第 2 部では,鳴海氏,届木氏,柴田氏より,それぞれ の背景からどのような問題意識で研究や創作を行ってい るか,という説明が行われた.また,合わせて「フィクショ ンと現実の境界はどこか」,「フィクションと嘘の差異は どこか」というお題に沿って各パネリストが議論を行っ た. 鳴海氏は VR 研究者として,人間のリアリティの編集 が,人間の認識を変容させることで簡単に変わってしま うこと,例えばアインシュタインの身体を VR で体験す ると成績が良くなる,といったように,更新された自己 イメージが人間自身の知能自体も変容させてしまう,と いう事例の説明がなされた.そうした意味で,フィクショ ンのようなコンテンツで,第三者の体験を変容させる力 に,興味をもっているという説明が行われた.また届木 氏は,自身が 3D モデラとして活動していて,技術力を 磨くために,自分自身がキャラクタとして配信を行った ところ,視聴者からバーチャルクリエイターとして受 け取られたという経験から,虚構のキャラクタとリアリ ティが,曖昧になっている現場の体験を説明した.また, 柴田勝家氏は,民俗学調査における昔話の語りでは,フィ クションと現実の語りが曖昧であり,実際起こったかど うか曖昧になっていく,という段階があることが説明さ れた.また,印刷技術の普及によって,具体的な地名が 落ちて抽象度が高まったように,メディアの変化によっ てフィクションの受入れ方は変わってきており,その点 で VR 技術に注目している,という説明がなされた. また,こうした仮想的な実質現実が,人間の価値観や 社会性を広げるか,あるいは狭めるか,という点につい ても議論が行われた.柴田氏は,雲南省の仮想の少数民 族が VR 空間上で生きる,という自身の短編から,こう した技術がどこまで普及するか,それをどのように小説 に落とし込んでいくか,議論を広げた.また,自身のオ ンラインゲームの体験から,仮想のキャラクタである自 分自身が生まれ,それが戦国武将の作家名を名乗ること につながった経緯を説明した. また届木氏は,現実の体験のリッチさがあり,現状 の VR 技術の限界があることを認める一方で,バーチャ ルな空間で初めてライブの大音量に妨げられず,ライブ 体験ができた自身の体験から,技術によって体験がリッ チになることは,多くの人々の視点を広げるのではない か,という提言が行われた.また,自身が VR 空間で, そうした情報を積極的にレポートしている,という説明 を行った.また鳴海氏は,耽 するリスクを指摘しつつ も,議論における少数派の人を,発話を検出し二体のア バターから話しているように増やすことで,社会的圧力 を避け,議論全体の納得度を上げる,という自身の研究 図 2 セッション会場の様子 企画セッション KS-4「虚構と技術は人をどう変えるか:「未来社会の知能・虚構・リアリティ」レポート」

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を例にして,うまくメディア空間を設計することで人の 社会をより良い方向にもっていけるのではないか,とい う説明が行われた. 第 3 部では第 1 部,第 2 部の議論を踏まえ,将来的に どのように技術や虚構を設定し,未来の社会のビジョン をつくり出すべきかという議論がパネリスト全員で行わ れた.長谷氏からは,特に記憶をどうデザインしていく かが大事ではないかと感じた,という説明が行われた. また鳴海氏は,特に他者に説明するときに記憶が強固に なることに着目していることを説明し,人のストーリー テリング,語りの力について研究者としても着目してい ることを説明した.柴田氏の民俗学調査も踏まえ,VR 技術は個人に対し豊富な体験を生む一方で,小説のよう な抽象化された物語が普遍的に共有されていくプロセス に着目している,と説明された. 会場質疑では,こうしたリアリティを実現するための 技術やストーリーテリングの技術を,教育に応用するに はどのようにすればよいか,また,高次元科学のように 難しい概念,国家のような抽象概念を体験させるには, どのようなデザインを行えばよいか,ビジョンをつくる というフィクションの可能性について,作家・技術者・ クリエイター・評論家を交えて行われた. 5.まとめ セッション後にも議論が続き,企画セッションとして は大変盛り上がった. なお,登壇の様子は ENTUM 公式ページおよび我々の プロジェクトのページに掲載された.また,MoguraVR の,VR に関するニュースメディア MoguLive に,6 月 5日(水)開催の人工知能学会企画セッション「未来社 会の知能・虚構・リアリティ」のレポートが掲載され, 合わせて YouTube 上での番組放送でも取り上げられ た*11.こうした形で,広くさまざまなコミュニティに 議論が広がっていけば,企画の趣旨がある程度達成され るのではないか,とオーガナイザーとしては考えている. 6.謝 辞 本セッションは,JST,RISTEX,JPMJRX18H6 の 支援を受けて開催されたものである.また,登壇いただ いた各位,データをいただいた日本 SF 作家クラブ,技 術的なサポートを行っていただいた ENTUM のスタッ フ各位に,この場を借りて感謝を申し上げたい. ◇ 参 考 文 献 ◇ [長谷 18] 長谷敏司,藤崎慎吾,山川 宏,宮本道人,大澤博隆: SFの想像力を技術者・社会はどのように活用できるか,人工知 能,Vol. 33, No. 5, pp. 679-690(2018) *11 VTuber ドラマ「四月一日さん家の」特集! など─ VTuber 情報番組「週刊 MoguLive!」【6/9 21 時】:https://youtu. be/Bcaa2UZbiBo?t=1255

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839 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 機械学習技術がさまざまなシステムに組み込まれて,社 会に広がっている.それにつれて,高い精度が得られる一 方,説明可能性(ブラックボックス問題),公平性(差別・ 偏見問題),安全性(品質保証・動作保証問題)の課題も 指摘されるようになってきた.本企画セッション [CRDS- a]では,以下の講演 5 件により,これらの課題に対する 取組みの動向を解説し,これからの方向性・対策を論じた. 講演 1 は福島俊一による「イントロダクション─ JST 戦略プロポーザルの紹介─」である.機械学習の説明可能 性・公平性・安全性に関わる問題意識を述べ,国内外の関 連動向を紹介した.科学技術振興機構(JST)研究開発戦 略センターでは国の科学技術政策への提言活動を行ってお り,研究開発の俯瞰報告書 [CRDS-b] や戦略プロポーザル [CRDS-c]において,この問題に対する取組み(「AI ソフ トウェア工学」や「機械学習工学」と呼ばれる技術領域) の強化の必要性を示し,戦略提言を行ってきた.本セッショ ンもその一環で企画したものである. 講演 2 は川村隆浩による「機械学習の説明可能性への 取組み─ DARPA XAI プロジェクトを中心に─」である. XAIは Explainable AI の略称であり,米国国防高等研究計 画局(DARPA)はいち早く 2017 年 5 月から XAI への研 究開発投資を始めている.具体的な意思決定シーンが想定 された 2 種類のタスク,説明可能性に対する 3 通りのアプ ローチ,主な研究機関の成果例など,DARPA の XAI プロ ジェクトで取り組まれている研究開発の内容を紹介した. 講演 3 は神嶌敏弘による「機械学習の公平性への取組み ─ Fairness-aware data mining を中心に─」である.公平 性配慮型データマイニング(Fairness-aware data mining) と呼ばれる研究分野が活性化している.機械学習に混入す るバイアスの分類,公平性を測る指標などを含め,問題の 定式化や研究事例について紹介した. 講演 4 は中江俊博・桑島 洋による「機械学習の安全性 への取組み─自動車業界の取組みを中心に─」である.機 械学習の応用分野が広がりつつあるが,その中でも自動運 転は,特に高い安全性が要求される応用分野の一つであり, 国際的にも取組みが先行している.データ,モデル,シス テムの 3 層で機械学習を用いたシステムの安全性を確保 するための開発手法など,デンソー社での取組み事例や自 動運転分野における課題を紹介した. 講演 5 は石川冬樹による「MLSE 研究会・QA4AI コン ソーシアムの活動・成果物報告」である.本セッション で取り上げた課題に対するソフトウェア工学的取組みを 推進する組織として,2018 年 4 月に機械学習工学研究会 (MLSE)[JSSST-MLSE] と AI プロダクト品質保証コン ソーシアム(QA4AI)[QA4AI] が発足した.石川は両組 織の運営に参画,MLSE の主査も務めており,両組織の 活発な活動状況を紹介した.MLSE は約 1 年間で 19 回の イベントを実施し,QA4AI は 2019 年 5 月に QA4AI ガイ ドラインの初版を公開した([QA4AI] のサイトからダウン ロード可能). 当日は 160 名の会場が満席となり,立見も含めると 二百数十名の参加があった.質問もセッション全体で十数 件が寄せられた(講演資料および主な質問に対する回答集 は [CRDS-a] のサイトからダウンロード可能).産業界か らの参加者が多く見られ,本セッションで取り上げた課題 が企業の開発現場で顕在化しつつあり,問題意識が高まっ ていると感じられた. また,講演 1 でも触れたが,日本政府は統合イノベー ション戦略推進会議において,2019 年 3 月に「人間中心 の AI 社会原則」[ 人間中心の AI 社会原則 ],6 月に「AI 戦略 2019」[AI 戦略 2019] を決定した.AI 社会原則には, 説明可能性・公平性・安全性などが満たされるべきものと して盛り込まれており,AI 戦略 2019 では,研究開発で目 指すべき方向性として「Trusted Quality AI」が掲げられ ている.これらを達成するためには,本セッションで示し たような取組みを一層推進していくことが求められる.国 際的にも取組みが活性化している中,国内では講演 5 の とおり MLSE や QA4AI などの組織が早期に立ち上がり, 業界での実践を啓蒙・牽引している点で先行している.こ のような活動を通して,AI・機械学習の品質を高めるこ とが,日本の国際競争力につながることを期待したい. ◇ 関 連 リ ン ク ◇ [CRDS-a] https://www.jst.go.jp/crds/sympo/201906_ JSAI/index.html [CRDS-b] https://www.jst.go.jp/crds/report/ report02/CRDS-FY2018-FR-02.html [CRDS-c] https://www.jst.go.jp/crds/report/ report01/CRDS-FY2018-SP-03.html [JSSST-MLSE] https://sites.Google.com/view/sig-mlse [QA4AI] http://www.qa4ai.jp/ [人間中心の AI 社会原則] https://www8.cao.go.jp/cstp/ aigensoku.pdf [AI戦略 2019] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ tougou-innovation/pdf/aisenryaku2019.pdf

企画セッション KS-5「機械学習における説明可能性・公平性・

安全性への工学的取組み」

福島 俊一(科学技術振興機構),川村 隆浩(科学技術振興機構),神嶌 敏弘(産業技術総合研究所), 中江 俊博((株)デンソー),桑島  洋((株)デンソー),石川 冬樹(国立情報学研究所) 企画セッション KS-5「機械学習における説明可能性・公平性・安全性への工学的取組み」

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「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 本セッションは日本物理学会と人工知能学会の 2 回目 の共同セッションとして,JSAI 2019 の 2 日目,2019 年 6 月 5 日(水)17:20 ~ 19:00,メインホール A に て開催された.JSAI 2018 での 1 回目の共同セッション 「機械知能の理解にむけて─物理学との対話を通して─」 では,物理学の分野では深層学習をはじめとする近年の 機械知能の進歩に対して,かつて蒸気機関が実用化され た後に熱力学が成立したときのように新しい物理法則が 生み出されるのではないかという期待があることを中心 に,登壇者らの間で熱く議論がなされた.2回目の今回は, より具体的に,「物理学の視点から自然現象を理解する ために,今後人工知能をどのように活用すべきか?」,「今 まで物理学が十分に扱えなかった情報が人工知能によっ てつまびらかになったとき,物理学の行く末は?」,「実 証主義である物理学の観点から見たとき,人工知能によ る予測をどう取り扱うべきか?」といった疑問を設定し, それらに対する物理学者による答えとしての講演と,物 理学者と人工知能学者双方のパネルディスカッションに よる意見交換が行われた.プレゼン資料やパネルディス カッションのレポートなどの詳細な情報は物理学会のサ イト http://www.meeting.jps.or.jp/JSAI-JPS/ に掲載されているのでご参照いただければ幸いである. 本稿では以下に三人の物理学者による講演の概要と,パ ネルディスカッションの様子を報告する. 講演 1:機械に物理を教わる日は来るか 勝本信吾 日本物理学会副会長,東京大学物性研究所の勝本氏は, 物性物理学の専門家の立場から,AI の物理学への最新 応用例を紹介するとともに,「物理学の原理主義,還元 主義を根本から脅かしかねない最近のデータ駆動型,高 次元科学が科学を席巻してしまえば,物理学などどうで もよい,という話になりかねない」と話題提供を行った. 講演 2:「素粒子物理実験」と AI の接点 田中純一 東京大学素粒子物理国際研究センターの田中氏は, CERNで行う素粒子実験と,検出器から得られたデータ の再構成,粒子識別,解析までの三つのフェーズを紹介 し,フェーズごとでの機械学習応用の現状と課題を示す とともに,AI 研究者の協力を呼びかけた. 講演 3:知の物理学研究センターが目指すもの 上田正仁 東京大学知の物理学研究センターの上田氏は,同セン ターのビジョンを紹介するとともに,「再現性・信頼性・ 因果性が物理法則により保証され,結果から原因へと帰 納的に ることが可能な物理ビッグデータは,説明可能 な AI をモデル化する理想的研究対象である」と述べ, さらにサイエンスする AI を提案した. パネルディスカッション 講演に続き,3 名の講演者に加えて,人工知能学会会 長の浦本直彦氏,東京大学の松尾 豊氏,NPO 法人全脳 アーキテクチャイニシアティブの山川 宏氏を迎え,オー ガナイザの澤・矢入も含めた 8 名で 45 分のディスカッ ションを行った.遅い時間帯であるにもかかわらず, 500人収容の会場の半分を埋める多数の聴講者と,会場 からの熱烈な質問を多数いただくことができた.聴講者, 全国大会委員,会場担当の皆様に深く御礼申し上げたい.

企画セッション KS-6:「物理学との対話 2 ─科学と AI の接点─」

矢入 郁子(上智大学),澤  博(名古屋大学) 図 1 勝本氏のスライドより抜粋 図 3 上田氏のスライドより抜粋 図 3 上田氏のスライドより抜粋

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841 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 1.本セッションの趣旨 2019年 6 月 5 日,企画セッション「Future Prototyping Methodology─ Wellbeing を目指す未来価値共創」を 開催した.本セッションの趣旨は,未来共創を促進す る Future Prototyping Methodology を提案することで ある.この方法論は,コミュニティにおける市民ワーク ショップでの使用を想定し,Well-being の観点から参加 者が将来世代の視点をもちながら未来社会をディスカッ ションで共創するためのものである. この方法論を用いて最終的に目指す姿は,将来世代に おけるメゾレベルコミュニティでの Well-being と考え ている(図 1).世代(現在と将来)と存在レベル(個 人と社会)の Gap を対話によって埋める方法論であり, 未来社会デザインへの AI 活用の可能性を考える方法論 でもある. 本セッションは,趣旨説明のあと,話題提供の講演を 行い,後半は会場を含めた参加型パネルディスカッショ ンで構成した. 2.答えがない問題 別途実施されている倫理セッションにおいては,ト ロッコ問題に代表されるような「答えがない問題」を扱っ ている.本方法論のアプローチとしては,答えがない問 題に,無理に答えを出すのではなく,納得感のある解決 方法(答えではない場合もある)を見つけるための方法 論を目指している.例えば,愛するペットが難治性の病 気になった場合を考えると,一番良いのは病気が治るこ とである.しかし,その解決方法が難しい場合は,発症 を抑えなるべく苦痛のない形で負担を減らし過ごすこと が解決方法になるのかもしれない.こういった問題は, どのような解決が良いのかは状況ごとに異なるが,少な くともこういう問題を考えるためのコミュニティがあっ てもよいのではないか,という提案である.そこで AI がいかに貢献するかは,今後の検討課題である. 3.遠い将来に関する問題 遠い将来のことを考える場合,ビッグデータ解析にお いてはあるべき姿を提示することが難しい場合がある. その場合,知識の仮説形成を行うこの方法論において, バックキャスティングを用いたディスカッションを行 い,将来世代のメゾレベルコミュニティが構築されるに は,現在の個人と社会がいかにあるべきか,私達は今何 をしたらよいかを考えていくことになる.また,参加者 が未来コンテキストにおける Well-being を議論する中 で,考えがどのように変遷していくかの過程が明らかに なる.将来の Well-being を,人がどのように考えてい るかが示されることになるため,人工知能分野にとって は,倫理規範の一つの基準を示すことになる. 4.まとめ 本セッションに先立ち,セッション企画者らは,方 法論において利用する SF Prototyping で先行してい る Arizona State University(ASU)を訪問した.SF Prototypingは,SF あるいは創作を利用して,科学的 発見の端緒やあるべき科学の姿を提示する方法である (https://csi.asu.edu/).その紹介も交えた発表を 行い,活発な質疑が行われた. 本セッションは,ある意味,現在の人工知能のトレン ドとはやや異なる提案をしたわけであるが,別の視点か らのアプローチとしてポジティブに受け止めていただけ たと,企画者一同感謝をしている.

企画セッション KS-7「Future Prototyping Methodology – Well-being を

目指す未来価値共創」

西中 美和(香川大学),木下 裕介(東京大学),白肌 邦生(北陸先端科学技術大学院大学), 増田  央(京都大学),武田 英明(国立情報学研究所)

図 1 メゾレベル Well-being

図 2 企画セッション会場の様子 企画セッション KS-7「Future Prototyping Methodology – Well-being を目指す未来価値共創」

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「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 本企画は,科研費新学術領域研究「認知的インタラク ションデザイン学」のメンバがオーガナイザとなり,イ ンタラクション場面における人の行動を予測する認知モ デルの研究を紹介する目的で企画した.オーガナイザは, 大森隆司(玉川大学),寺田和憲(岐阜大学),林 勇吾(立 命館大学),森田純哉(静岡大学)の 4 名である. その趣旨は以下のとおりである.対人サービスでは人 の心の状態の推定はサービスの質向上に重要である.現 在の人工知能は人の知的機能をモデル化しようとしてい るが,人の非言語で曖昧な過程が意思決定を支配すると いうのが認知科学の知見である.本セッションは,この 人の意思決定と人工知能の溝を埋めるべく,いくつかの 事例についての人の認知過程のモデルとあり得る展開を 紹介し,対人サービス人工知能の新たな開発に資するこ とを目指す. 当日は,主催者の趣旨説明の後,4 件の発表に続き, 指定討論が行われた.会場はセッションの開始前から多 くの人に来ていただき,ピーク時には聴衆は 116 人で廊 下にまで人があふれていたとのことである.タイトルに つけた「役に立つ」という言葉が刺激的であっただけで なく,インタラクション場面における認知モデルのニー ズが高かったのかと改めて感じた. 以下,4 件の講演と指定討論の概要を示す. 1.インタラクションの開始過程の解明と内部状態の推定 竹内勇剛(静岡大学) 実世界における個体間のインタラクションの普遍的な 基本要素は,他者への行為(control)とその行為の受容 (acceptance)の二つである.本研究では,個体の内部 状態をこの二つの基本要素におけるそれぞれの欲求の強 さのパラメータとして記述し,その効用を最大化する計 算を通して,個体間の原初的水準でのインタラクション 過程の内部状態を示す認知モデルを構築した.同時にイ ンタラクションにおける各個体の動作から,このモデル に基づいてそれぞれの個体の内部状態を推定できる可能 性を示した.これらを通して,人どうしの自然な出会い 状況(他者としての相互的な認知)を生起させるための インタラクションデザインや,人との関係においてポラ イトな行動をロボットに振る舞わせるための実装指針を 与えることなどが期待できる. 2.子供の行動モデリングによる教育の質的改善 大森隆司(玉川大学) 教育の基本は,子供の個性に合わせた環境整備と教員 の対応である.しかし現実には教師は多数の子供の個性 を同時に視ることは難しい.そこで本講演では,子供の 行動をセンシングし,その個々人の関心を推定し,さら には集団行動を識別する行動分析モデルを紹介した.集 団行動中の個人の関心の推定は,子供の個性の推定や教 育の質の見える化にもつながり,教師が使う分析ツール として教育現場での新たな応用につながる. 3.個人化認知モデルの応用による回想支援 森田純哉(静岡大学) 生得的要因や加齢に起因する個人差,あるいは体調や 気分に応じた認知機能の変化は,汎用的な認知アーキテ クチャに搭載される知識やパラメータによって表現され る.本講演では,そのような個人適応型の認知モデルの 応用として,認知アーキテクチャ ACT-R を組み入れた 回想支援システムを示した.本システムでは,ユーザの 記憶は人生において撮りためた写真のネットワークとし て表現される.また,記憶ネットワークの探索に関わる パラメータをユーザの生理指標によって動的に調整する 機構を構築した.これにより,ユーザの記憶回想プロセ スのシミュレータが実現される.このシミュレータの利 用はユーザの記憶の回想の統制につながり,不快な記憶 の反芻に悩まされる人々の生活の質を向上させることが 可能になると考える. 4.ICT機器を介した人とネットワークのインタラクション 新井田統(KDDI 総合研究所) 我々の日常生活は高機能な人工物に満ちあふれてい る.特に,さまざまな ICT 機器やインターネット環境が 人々の生活へ広く浸透している現在では,個々の人工物 としての機器利用のみならず,通信ネットワークを介し た情報トランザクションを含む人工物利用が常態化して おり,ICT 機器のユーザビリティに大きな影響を与えて いる.本講演では,ICT 機器操作時に発生する待ち時間 の問題を,人とネットワークのインタラクションという 視点から捉え,人の認知的特徴を利用した問題解決への アプローチについて紹介した.さらに,本課題解決にお ける,人の認知特性のモデル化の有用性について論じた. 指定討論は多くの AI 応用の開発に関わっておられる 本村陽一氏(産業技術総合研究所)にお願いした.本村 氏の主導により,認知モデル研究の工学的立場と科学的 立場の議論が行われ,それぞれの講演者の認知モデルに 対する立場が明確にされた.

企画セッション KS-8「役に立つ人の心の過程のモデリング」

大森 隆司(玉川大学)

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843 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 企画セッション KS-9「人工知能に関する国際標準化活動へのお誘い」 「人工知能に関する国際標準化活動へのお誘い」と題 して企画イベントを開催した. パネリストは,株式会社日立製作所システム & サービ スビジネス統括本部伊藤雅樹氏,IBM Research Tokyo Senior IT Architect細川亘啓氏,日本電気株式会社技術 イノベーション戦略本部シニアエキスパート江川尚志 氏,日本電気株式会社第二官公ソリューション事業部主 席技術主幹坂本静生氏,株式会社富士通研究所人工知能 研究所特任研究員丸山文宏氏,株式会社富士通研究所人 工知能研究所シニアリサーチャー 育昌氏で,司会は本 報告者杉村領一が務めた. セッションでは,昨年 4 月に活動が開始された ISO/ IEC JTC 1/SC 42 Artificial Intelligenceの活動に関連す る各パネリストの思いや,標準化に関連する経験談など が,関係する WG の順に述べられた. WG1については,杉村より AI や機械学習の用語定義 の開発状況について,公開可能な範囲で AI の定義状況 などについて説明があった. WG2はビッグデータ関連の標準開発を進めているが, WG2の活動中心の一人である伊藤氏より経緯・既発行 の標準,そして今後の課題について説明があった. WG3は,江川氏より Trustworthiness,Bias,リス ク管理などについての議論が紹介された. WG4は国際コンビーナを務める丸山氏より,各国の 貢献状況などについて紹介があった.同 WG の国際セ クレタリーを務める細川氏からは,同活動を進めるにあ たってのある意味「戦い」の場について熱い思いが語ら れた.また,同 WG のエディターを務める 氏からは, ユースケースの SC42 における意義とこれを取りまとめ る思いが切々と語られた. また,WG5 の国内小委員会主査を務める坂本氏から は,氏が過去に,顔認証の標準化において標準化対象を どう設定し合意形成へ持ち込んだかについて,示唆に富 む経験談が語られた. セッション参加者からは,AI の用語定義の状況につ いて詳細な質問や,ユースケースに関する具体的な状況 についての確認など,多岐にわたる質問があり,標準化 の枠を超える活発な議論が行われた.

企画セッション KS-9「人工知能に関する国際標準化活動へのお誘い」

杉村 領一(産業技術総合研究所情報人間工学領域人工知能研究戦略部 ISO/IEC JTC 1/SC 42 国内専門委員会委員長)  図 1 セッションの様子

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「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 AI学会では AI マップタスクフォース(AI マップ TF)を組織し,AI 研究の全体を見渡せる「AI マップβ」 なる資料を作成した(図 1).マップは学会ホームペー ジ(以下の URL)からダウンロード可能である. https://www.ai-gakkai.or.jp/resource/aimap/ この AI マップβに対して研究者から意見をもらい,今 後の方向性を議論するため企画セッションを開催した. セッションでは日本語版 300 部,英語版 100 部の紙の パンフレット「AI マップβ」を配布したが,セッション 終了時にはすべて配布完了し,関心の高さがうかがえた. 企画セッションのアジェンダおよび,各プレゼンファ イルは以下の URL から閲覧可能である. http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai2019/ks-10 セッション参加者の比率を表 1 に示す(参加者数は 130名程度).AI マップβの想定ユーザである AI 初学 者や異分野研究者に参加いただけたことがわかる.表 2 は AI マップβが参考になるか,という設問への回答で ある.表3はAIマップの切り口に関する回答である.マッ プ C のような AI 習熟の道標となる切り口への要請が強 いことがわかる. セッションでは意見聴取に多くの時間を割き,sli.do (https://www.sli.do/)を用いて意見を求めた結果, 100件近いコメントをいただいた.表 4 に主要コメントを 示す.賛同数とはコメントに共感した参加者数である.表 4にも現れているが,主たる要望は以下にまとめられる. ● キーワードから説明・関連情報・参考図書などにつ ながる学習支援・研究支援 ● 紙ではなくインタラクティブなディジタルコンテンツ ● 個人・企業が抱える課題と,技術・知識との対応 AIマップ TF では,いただいた多数の貴重な意見を 参考に,さらに発展した AI マップをつくるべく,2019 年度の活動を開始している.活動に協力いただける方は info@ai-gakkai.or.jp 宛に連絡いただきたい. AIマップβ AI研究初学者と異分野研究者のための AI研究の俯瞰図 (一社)人工知能学会 AIマップタスクフォース 図 1 AI マップβ

企画セッション KS-10「AI マップタスクフォースの活動

─ AI 初学者・異分野研究者のための AI 研究の俯瞰─」実施報告

人工知能学会 AI マップタスクフォース: 堤 富士雄((一財)電力中央研究所), 森川 幸冶(パナソニック(株)), 市瀬 龍太郎(国立情報学研究所), 植野  研((株)東芝) 表 1 参加者の割合 AI初学者 37% 異分野の研究者(で AI に興味あり) 43% AI研究者 20% 表 2 マップは参考になるか? とっても参考になる 48% ある程度参考になる 44% どちらとも言えない 6% 必要とは思わない 2% 表 3 参考になるマップの切り口 知能の処理の流れに沿った感じ(マップ A のような) 15% 応用例とその発展(マップ B のような) 21% 基盤から応用まで(マップ C のような) 36% 知能のフロンティア(マップ D のような) 10% もっと別の切り口がいいな 18% 表 4 主要コメント 主要コメント 賛同数 とても面白いですが,眺めて終わってしまいそうで す.初学者にはわからない単語もあります.クリッ クして説明や関連サイトへのリンクを開けるような していただけると,眺めて終わるだけでなく次につ ながると思うのですが. 36 紙ベースではなく,Web 上でインタラクションで きる(例えばマップ A の項目をクリックすると他 のマップのどこに位置するか,項目の説明が出る) マップの作成は考えていますか? 22 ざっくりと大枠を見渡せるのは参考になります.た だ,特定の領域を業務に取り入れる場合,具体的に どういう勉強をしていけばよいのか指針があればと ても助かります.私は完全独学ですが,各論のつま み いで知識がつながらず苦労しています. 21 異分野の研究者や初学者向けということで,マップ 上の各項目に対応する参考図書を示していただけた ら大変助かります. 19 何ができるかのマップができませんか? 15

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845 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 企画セッション KS-11「ヒューマン・インタラクション技術による自立共生支援 AI の研究開発と社会実装に向けて」 本セッションは,毎年継続して高評価を獲得してサ バイバルし,昨年の全国大会で卒業セッションを迎えた 近未来チャレンジ「認知症の人の情動理解基盤技術とコ ミュニケーション支援への応用」の活動が基盤で,内閣 府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に採 択された「“認知症の本人と家族の視点を重視する”マ ルチモーダルなヒューマンインタラクション技術による 自立共生支援 AI の研究開発と社会実装」のプロジェク トを紹介する位置付けで企画・開催された. 本 SIP プロジェクトの狙いは,認知症の当事者(本人・ 家族)を中心とした介護領域のステークホルダと AI 技 術が高度に協調し,本人の自立を支援するヒューマンイ ンタラクション技術を構築することにある.具体的には, ケアに関わるマルチモーダルな記憶・統合・認知・行動 の表現モデルの構築と対話処理技術の開発により,認知 症のある人の状態像や他者との関係性を理解・表現する 自立共生支援 AI のプロトタイピングを行う.また,20 程度の地方自治体において IoT 機器やセンサ,主観情報 と連携した同 AI の実証実験を行う.さまざまな実証実 験を通じて,AI とのインタラクション系指標,医科学 系指標,経済系指標を統合した評価基盤を構築し,社会 保障費の低減や当事者の QOL を改善するエビデンスと 経験知・科学知を広く・深く収集し,オープン化・横展 開することで,社会システム全体においてさまざまな“当 事者”が参画する“インクルーシブイノベーション”を 創出するとともに,同 AI による新たな産業を創出し, グローバル市場への展開を目指している.2019 年 9 月 にリンクトイン「TOP COMPANIES」スタートアップ 版ランキングで 1 位を獲得したエクサウィザーズが代 表,慶應義塾大学・東京医療センター・静岡大学・みん なの認知症情報学会が共同で実施する産学連携プロジェ クトである. セッション前半は,リーダーの石山によるプロジェ クト全体像についての基調講演であった.地球史におけ る AI の位置付けの話に始まり,石山が招待されたノー ベル賞受賞者との座談会での自立共生支援 AI への期待, 厚労省の諮問委員として提言した AI 導入による労働環 境のグランドデザインの紹介,「雇用の未来」のオズボー ン氏との対談に基づく「未来のスキル」の理論を展開, Contextual Reasoningを AI の次の波と捉え,AI を用 いた社会課題解決を通じて,みんなが「ときめき」をも てる幸せな社会を実現するのが本プロジェクトのゴール と結んだ(図 1). 後半は,自立共生支援 AI の開発を推進するワーキン ググループ(WG)を機軸とする研究開発体制につい て,五つの WG(図 2)の活動内容が紹介された.WG はプロジェクトを分担する「みんなの認知症情報学会 (https://cihcd.jp)」の賛助会員(2019 年 10 月 現在で約 40 社が参画:https://cihcd.jp/index. php/sanjoichiran/)が中心となって構成されている. 自立共生支援 AI の実現には,広い意味の「テクノロジー」 を結集させることが不可欠で,本プロジェクトの研究開 発の中核を担う静岡大学を拠点に開発が進むマルチモー ダル自立共生支援コーパスがその基盤である.人と環境 の状況理解センシング・自立共生支援機器システムの技 術開発を担う二つの WG の活動を具体例に,ニーズと シーズのマッチングと横展開を促進できる多業種連携の 場を提供し,当事者本人家族を中心にインクルーシブイ

企画セッション KS-11「ヒューマンインタラクション技術による

自立共生支援 AI の研究開発と社会実装に向けて」

桐山 伸也(静岡大学),石山  洸((株)エクサウィザーズ) 図 1 地元メディアも入った基調講演 図 2 プロジェクトを推進するワーキンググループ体制

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ノベーションを展開する方法論が提示された. 続いて,「認知症の見立て」,「生活環境デザイン」,「地 域・社会づくり」を柱とする三つの WG それぞれに導入・ 活用される「『ときめき』を実現するためのテクノロジー」 の詳細が示された. 会場からの質問は,各 WG の活動の詳細やプロジェ クトが扱う具体的な開発項目,活用する要素技術の中身 など本質的な内容で,参加者の本プロジェクトに対する 期待の大きさがうかがえ,人間中心の複合的なテクノロ ジーの研究開発が基盤の AI 研究の魅力的な未来像を, 参加者全員で共有する場となった. http://jiritsu-kyosei.cihcd.jp/ にて,これ までのプロジェクトの成果が参照いただける.多数の本 学会会員の方々に,ぜひ本プロジェクトの WG 活動に参 画いただき,皆様とともに社会課題解決のための AI 研 究を促進したい.

図 2 企画セッション会場の様子

参照

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