3 × 3 進化ゲームの位相図分析 : 円錐曲線と安定
性に関するノート
著者
森本 好則
雑誌名
経済学論究
巻
64
号
3
ページ
1-21
発行年
2010-12-25
URL
http://hdl.handle.net/10236/7272
3
× 3
進化ゲームの位相図分析
円錐曲線と安定性に関するノート
On the Phase Diagram Analysis of
3
× 3 Evolutionary Games
A Note on Conic Section and Stability
森 本 好 則
This paper is a supplementary note to Morimoto (2009), which showed that the quadratic equation and its diagrammatic representation, conic section, played crucial roles in the phase diagram analysis of 3 × 3 evolutionary games. In the present note, the first section analyses the relationships between the coefficients (and the eigenvalues of the coefficient matrix) of the quadratic equation, and the shapes of the conic section—ellipse, hyperbola, or parabola. In the second section, first it is shown that in the dynamic stability analysis in the phase diagram of right angled isosceles triangle, just two particular equations out of the three dynamic equations, are effective, depending upon the framework of the analysis and the situation of the equilibrium. Then advantages and disadvantages of using the phase diagram of equilateral triangle instead of the phase diagram of right angled isosceles triangle are discussed.Yoshinori Morimoto
JEL:C72
キーワード:進化ゲーム、位相図分析、等利得曲線、2 次方程式、円錐曲線、安定分析 Key words: evolutionary game, phase diagram analysis, equi-payoff curve,
quadratic equation, conic section, stability analysis
本稿は、3×3進化ゲームの位相図分析において、2次方程式とその図形的
表現である円錐曲線がきわめて重要な役割を演じることを示した前稿[森本
(2009)]に対する補論である。前項で説明が不十分なままに残されていた論点
1 等利得曲線の形状
多数の同質の生物から構成される単一の集団の内部における戦略の自然淘汰 のプロセスを考える。そのときどきの集団の中で戦略α,β,γをとる構成員 の比率をp, q, r; p + q + r = 1とし、p, q, rの相対的変化率(成長率)が、 そのときどきの期待利得V と、戦略α,β、γの期待利得Vα,Vβ,Vγとの乖 離に比例して決定されるとすれば、この3×3進化ゲームの動学体系は、 dp dt = κ(Vα− V )p, (1) dq dt = κ(Vβ− V )q, (2) dr dt = κ(Vγ− V )r, (3) ただし κ = const. > 0 とあらわされる。この集団の構成員の「ゼロ対角化」1)された利得行列(行プ レーヤーの場合)2) を 0 B B @ 0 b d c 0 f g h 0 1 C C A とすれば、 V ≡ pVα+ qVβ+ rVγ, Vα≡ qb + rd, Vβ ≡ pc + rf, Vγ≡ pg + qh である。 上掲の(1)∼(3)で定義される3× 3進化ゲームにおいて、p, q, rの変動経 1) 行プレーヤー(列プレーヤー)の利得行列の各列ごと(各行ごと)に適当な定数を差し引いて、利 得行列の対角要素をゼロにする単純化を、「ゼロ対角化」と呼ぶ。この単純化によって各プレー ヤーの最適反応が変化することはない。Zeeman(1981, pp.255-256),森本(2009, p.25) 参照。 2) 列プレーヤーの利得行列は、行プレーヤーの利得行列の転置行列である。路と均衡の安定性は、位相図によって分析することができる。この位相図にお いて分析の用具として用いられるのは、次の曲線である。 等利得曲線: p(qb + rd) + q(pc + rf ) + r(pg + qh) =−(d + g)p2+ (b− d − f + c − g − h)pq − (f + h)q2 + (d + g)p + (f + h)q = V (= const.) (4) p = 0˙ 曲線: Vα− V = qb + (1 − p − q)d − V = (d + g)p2− (b − d − f + c − g − h)pq + (f + h)q2 − (2d + g)p − (d − b + f + h)q + d = 0 (5) q = 0˙ 曲線: Vβ− V = pc + (1 − p − q)f − V = (d + g)p2− (b − d − f + c − g − h)pq + (f + h)q2 − (f − c + d + g)p − (2f + h)q + f = 0 (6) r = 0˙ 曲線: Vγ− V = pg + qh − V = (d + g)p2− (b − d − f + c − g − h)pq + (f + h)q2− dp − fq = 0 (7) これらの曲線は、いずれも、一般に2変数p, qの2次方程式となり、これ らの2次方程式の図形的表現は、楕円、双曲線、放物線、交わる2直線、平 行な2直線、1直線、1点、あるいは図形なし、となるが、この中で、とくに 楕円、双曲線および放物線は、円錐曲線(conic section)あるいは2次曲線 (quadratic curve)と呼ばれる。以下、本節では、等利得曲線を中心に、2次
方程式の係数およびその係数行列の固有値と、図形的表現との間の関係につい て考察を加える。 単純化のために2変数p, qの2次方程式を up2+ vpq + wq2+ lp + mq = V (= const.) (8) とあらわすことにする。p, qの1次の項lp + mqは、座標の平行移動のみに かかわっており、2次方程式の図形の基本的な形状には影響しないから、まず、 p, qの2次の項 up2+ vpq + wq2= up2+ 2kpq + wq2, (ただしk≡ v/2) (9) に注目する。この対称2次形式(9)の行列 A≡ „ u k k w « の固有値をλ1,λ2とし、これらの固有値に属する単位固有ベクトルから成る 直交行列をΨとするとき、直交変換 (p0, q0) = (p, q)Ψ すなわち (p, q) = (p0, q0)ΨT, (ただしΨT= Ψ−1) によって、(9)式を標準化すると、 up2+ 2kpq + wq2= λ1p02+ λ2q02 (10) となる。 なお、2次形式(9)式の固有方程式 λ2− (u + w)λ + uw − k2 = 0 より、Aの固有値は、 λi= u + w±p(u + w)2− 4(uw − k2) 2 , (i = 1, 2) となるが、λ16= λ2のとき、判別式
D = (u + w)2− 4(uw − k2) = u2+ 2uw + w2− 4uw + 4k2 = (u− w)2+ 4k2 > 0 より、λi, (i = 1, 2)は必ず実数となる3)。したがって、λiに属する固有ベク トルは実ベクトルであり、 (A− λiI)ci= 0, (i = 1, 2) より、 ci= „ −k u− λi « or „ w− λi −k « , (i = 1, 2) として求められるから、直交行列Ψは、このciを単位ベクトルに書き改める ことによって導かれる。 次に、(8)式のp, qの1次の項に対して、(10)式の場合と同様に直交変換 を加えると、 lp + mq = (l0, m0)ΨTΨ „ p0 q0 « = l0p0+ m0q0 となる。ただし、(l0, m0) = (l, m)Ψである。 これより、2次方程式(8)式は、 V = up2+ vpq + wq2+ lp + mq = λ1p02+ λ2q02+ l0p0+ m0q0 = λ1(p0+ s)2+ λ2(q0+ t)2− n すなわち λ1P2+ λ2Q2= n0 (11) とあらわすことができる。ただし、 3) より一般的にいえば、対称 2 次形式の固有値はすべて実数となる。
s = l 0 2λ1 , t = m 0 2λ2 , n = λ1s2+ λ2t2= l02 4λ1 +m 02 4λ2 , P = p0+ s = p0+ l 0 2λ1 , Q = q0+ t = q0+ m 0 2λ2 , n0= V + n = V + l 02 4λ1 +m 02 4λ2 である。 ① 楕円、1点、および虚楕円 楕円および双曲線の標準方程式は、通常、 p02 C2 ± q02 D2 = 1, (C, Dは定数) という形であらわされるが、本稿では、外生的に与えられる期待利得の値V に一定の意味があり、また、行列Aの固有値λ1とλ2を明示しておきたいこ とから、前掲の(11)式 λ1P2+ λ2Q2= n0(= V + n) の形で楕円および双曲線を表示することにする。 この式が楕円となるのは、λ1, λ2およびn0がすべて同符号(ゼロを除く) となる場合である。行列Aの固有方程式 |A − λI| = ˛ ˛ ˛ ˛u− λk wk− λ ˛ ˛ ˛ ˛ = λ2− (u + w)λ + ˛ ˛ ˛ ˛uk wk ˛ ˛ ˛ ˛ = 0 において、 detA = λ1λ2= ˛ ˛ ˛ ˛uk wk ˛ ˛ ˛ ˛, trA = λ1+ λ2= u + w であるから、(11)式が楕円となるためには、
ⅰ)detA > 0, trA > 0, & n0> 0
あるいは、
ⅱ)detA > 0, trA < 0, & n0< 0
次に、detA > 0でn0 = 0の場合には、P2 = Q2 = 0より、(11)式の図 形は1点に退化する。また、detA > 0で、trAとn0が異符号4)の場合には、 (11)式は虚楕円(図形なし)となる。 なお、λ1= λ2(重解)の場合には、楕円は円となるが、この場合、行列A の固有方程式の判別式 D = (u− w)2+ 4k2 = 0 より、u = w,k = 0,したがって λ∗(= λ1= λ2) = u = w, A = „ u 0 0 u « となり、Aは最初から対角行列であるから、直交変換の必要がない。この場 合、(9)式の2次形式は up2+ wq2+ 2kpq = λ∗(p2+ q2) となるから、(8)式でu = w = λ∗,v = 0,p = p0,q = q0,l = l0,m = m0 とおけばよい。 (11)式が楕円の場合、上掲ⅰ)のケースでは、 n0=V + n = V + λ1s2+ λ2t2> 0, ただし λ1s2+ λ2t2> 0 であり、期待利得の値V [>−(λ1s2+ λ2t2)]が増加すると、等利得曲線をあら わす楕円は相似的に拡大する。したがって、そのときどきに常により大きな利 得を求めて最適戦略が選択されるかぎり、体系の動きは外側へ向かって拡散す ると考えられる。 他方、ⅱ)のケースでは、 n0=V + n = V + λ1s2+ λ2t2< 0, ただし λ1s2+ λ2t2< 0 4) すなわち、λ1,λ2と n0とが異符号。
であり、期待利得の値V が増加すると、等利得曲線をあらわす楕円は相似的 に縮小し、 V = Vmax=−(λ1s2+ λ2t2) > 0 に至って1点(楕円の中心点)となる。したがって、ⅱ)のケースでは、体系 の動きは、プレーヤーがそのときどきに常により大きな利得を求めようとする かぎりにおいて、楕円の内側へ向かうことになる5)。 ② 双曲線、および交わる2直線 λ1とλ2が正負異符号でn06= 0のとき、(11)式は双曲線となる。双曲線の 位置は、n0≷ 0により、漸近線の上下から左右に(あるいは、その逆に)入れ 替わる。n0 > 0のとき期待利得V の値が増加すると、双曲線(等利得曲線) は外側へ移動拡大し、n0< 0のときV の値が増加すると、双曲線(等利得曲 線)は内側へ収束する(図1の例示参照。図中の矢印⇒は、V の値の増加の 方向をあらわす)。したがって、双曲線の中心(漸近線の交点)EはV の値に 関して鞍点となっている。 また、λ1とλ2が正負異符号でn0= 0のときは、(11)式は、 λ1 λ2 P2+ Q2= 0 すなわち、 −λ1 λ2 P2− Q2=(p−λ1/λ2P− Q)( p −λ1/λ2P + Q) = 0, ただし −λ1 λ2 > 0 より、 Q =p−λ1/λ2P および Q =− p −λ1/λ2P となり、交わる2直線(漸近線)となる。これは、双曲線が漸近線に「退化」 するケースである。 5) ただし、この場合の等利得曲線(楕円)の中心点は、必ずしも混合戦略均衡点ではない。より一 般的にいえば、プレーヤーの利得の極大点が、必ずしも常にナッシュ均衡となるわけではない。 これは、2× 2 進化ゲームにおける囚人のジレンマのケースと同様である。
E n0< 0 n0> 0 n0> 0 n0< 0 図 1 ③ 放物線、平行な2直線、虚2直線、および1直線 固有値λ1,λ2のいずれか1つ(λ2とする)がゼロ6)、したがって λ1λ2= ˛ ˛ ˛ ˛uk wk ˛ ˛ ˛ ˛ = 0 のときは、行列Aの固有方程式は、 |A − λI| = ˛ ˛ ˛ ˛u− λk wk− λ ˛ ˛ ˛ ˛ = λ2− (u + w)λ = λ[λ − (u + w)] = 0 となり、固有値は、 λ1= u + w, λ2 = 0 となる。 これらの固有値λ1,λ2に属する固有ベクトルは、それぞれ、 6) もし λ1 = λ2= 0 なら、λ1λ2= uw− k 2 = 0,λ1+ λ2 = u + w = 0 より、uw = − u2 =−w2 = k2したがって u = w = k = 0 となるから、原式 (8) が 2 次方程式である かぎりにおいて λ1= λ2= 0 となることはない。
c1= „ u k « or „ k w « , c2= „ k −u « or „ w −k « , となるから、これより、直交行列 Ψ = √ 1 u2+ k2 „ u k k − u « = √ 1 w2+ k2 „ k w w − k « が得られる。 このとき、(8)式の標準形は、 V = λ1p02+ λ2q02+ l0p0+ m0q0 より、 λ1P2+ m0q0= n0 (12) ただし、 P = p0+ l 0 2λ1 , n0= V + l 02 4λ1 となって、この(12)式は、m06= 0なら放物線をあらわす。 なお、 (l0, m0) = (l, m)Ψより、 l0=√ul + km u2+ k2 = kl + wm √ w2+ k2, m 0= √kl− um u2+ k2 = wl− km √ w2+ k2 である。 次に、 m0= 0 & λ1n0> 0 なら、(12)式は P2= n 0 λ1 > 0 すなわち P =±pn0/λ1 となり、平行な2直線となる。 また、 m0= 0 & λ1n0< 0 なら、(12)式は
2 ᰴᣇ⒟ᑼ䈱࿑ᒻ 定数項 固有値と係数 [2次方程式の標準形] n 0 ≠ 0 n 0 = 0 det A = ¸1 ¸2 ≠ 0 [¸1 P 2 + ¸2 Q 2 = n 0 ] ① det A= ¸1 ¸2 > 0 tr A = ¸1 + ¸2 Ҙ 0 n & & 0 Ҙ 0 (符号同順 )のとき 楕円 1 点 tr A = ¸1 + ¸2 Ҙ 0 n 0 җ 0 (符号同順 )のとき 虚楕円 ② det A= ¸1 ¸2 < 0 双曲線 交わ る 2 直線 ③ det A = ¸1 ¸2 = 0 [¸1 P 2 + m 0 q 0 = n 0 ] ¸1 ≠ 0, ¸2 = 0 と する (註) 。 m 0 ≠ 0 放物線 m 0 = 0 ¸ n 0 > 0 のとき 平行 な 2 直線 1 直線 ¸1 1 n 0 < 0 のと き 虚 2 直線 (註 ) ¸1 = 0, ¸2 ≠ 0 のときは、 ¸,1 P, m 0 ,… を 、 ¸,2 Q, l 0 , … に読み 替 える 。
P2= n 0 λ1 < 0 となり、虚2直線(図形なし)となる。 さらに、λ2= 0のとき、 m0= 0 & n0= 0 なら、 λ1P2= 0 すなわち P = 0 となり、(12)式は1直線(重なる2直線)となる7)。 前頁の表は、以上の分析結果を要約的に示したものである。
2 動学体系の代替的定式化
2.1 直角2等辺3角形図における安定分析 進化ゲームの動学体系は、前掲の3つの微分方程式(1)∼(3)によってあら わされるが、これら3つの方程式は互いに独立ではなく、任意の2つの方程式 から残りの1つを導くことができる。たとえば、 dr dt = d(1− p − q) dt =− dp dt − dq dt =−κ(Vα− V )p − κ(Vβ− V )q = κ(−pVα+ pV − qVβ+ qV ) = κ(−pVα+ pV + V − V − qVβ+ qV ) = κ[−pVα− qVβ+ pVα+ qVβ+ rVγ− (1 − p − q)V ] = κ[rVγ− (1 − p − q)V ] = κ(Vγ− V )r となり(ただしp, q, r6= 0)、(1)∼(2)式から(3)式が導かれることが示され た。ここで、戦略α,β,γの順序は任意に入れ替えても差し支えない。した 7) さきに λ16= 0,λ2= 0 とおいたが、λ1= 0,λ26= 0 の場合には、P と Q が入れ替わり、 l0と m0が入れ替わるだけで、全く同様な結果が得られることは明らかである。がって、(1)∼(3)式の中の任意の2つの微分方程式から構成される動学体系 は、p, q, r∈ (0, 1)に関して互いに同値である8)。 このことはまた、(1),(2),(3)式の辺々を加え合わせると、 dp dt + dq dt + dr dt = κ(Vα− V )p + κ(Vβ− V )q + κ(Vγ− V )r = κ[pVα+ qVβ+ rVγ− (p + q + r)V ] = κ(V − V ) = 0 となって、動学方程式に関するコンシステンシーの条件が満たされることから も、確かめることができる。 なお、もしp,q,rの絶・・対・的・変・化による調整を想定すると、動学モデルは、 dp dt = κ(Vα− V ), dq dt = κ(Vβ− V ), dr dt = κ(Vγ− V ) となるが、この場合には、これらの3つの微分方程式は互いに独立であり、辺々 を加え合わせると、 dp dt + dq dt + dr dt = κ(Vα+ Vβ+ Vγ− 3V ) 6= 0 となって、コンシステンシーの必要条件を・満・た・さ・な・い。 このように、微分方程式(1)∼(3)の中の任意の2つの式を用いてp,q,r の変動経路を求めることができるが、しかし、横軸と縦軸にpとqを測った 直角2等辺3角形の位相図においては、(1)式と(2)式から構成される動学体 8) 2× 2 進化ゲームの場合には、同様に、 dp dt = κ(Vα− V )p と d(1− p) dt = κ(Vβ− V )(1 − p) は、p∈ (0, 1) に関して同値である。森本(2008,p.42 脚注 6)参照。
系を利用することが適切である。この点を確認しておくために、いま、(行プ レーヤーの)利得行列が 0 B @ 0 − − − 0 − − − 0 1 C A という符号パターンの事例9)─ただし、単純化のために、行列の要素の値はす べて−1とおく─について、p = 0˙ 曲線とq = 0˙ 曲線に加えて、r = 0˙ 曲線を描 いてみよう。(3)式 dr dt == d(1− p − q) dt = κ(Vγ− V )r より、この事例のr = 0˙ 曲線は、 Vγ− V = −(p + q) + p[q + (1 − p − q)] + q[p + (1 − p − q)] + (1− p − q)(p + q) =−2p2− 2q2− 2pq + p + q = 0 となり、これは、この式を標準化して得られる楕円 p02 (0.4083)2 + (q0− 0.2357)2 (0.2357)2 = 1 を原点のまわりに−45◦だけ回転したものである(図2)10)。 図2の直角2等辺3角形α β γ上の任意の点Pにおけるrの値は、P点か ら斜辺β αへの水平(あるいは垂直)距離によってあらわされる。斜辺β α上 ではr = 0であり、斜辺に平行に原点に近づくにしたがってrの値は上昇し、 原点ではr = 1である。rの変動方向は、r = 0˙ 曲線の右上方ではrが減少し、 ˙ r = 0曲線の左下方ではrが増加するが、左右あるいは上下という方向を特 定することはできない(たとえばP 点からA点,B点,C点のいずれの方向 への動きも、rの増加をあらわす)。したがって、この場合(p-q座標上では)、 ˙ r = 0曲線は位相図分析にとって必ずしも有用ではないのである。 しかし、図2においても、状況によっては、r = 0˙ 曲線にかかわる(3)式が、 必要不可欠な役割を演じる場合がある。この点について次に述べる。 9) これは、森本(2009)の図 8 のケースに相当する。 10) 変数変換と座標の回転による 2 次曲線の標準化については、森本(2009,第 4 節)参照。
r = 1 0 r = 0 ᦛ✢ 1 2 34 1 3 1 4 1 4 1 3 1 2 3 4 1 1 3 4 r= 1 2 r= 1 4 r= r= 0 P B C A 45± 0.2357 p q0 p0 q α β γ 図 2 2.2 「退化した」混合戦略均衡の安定分析 図3は、前掲の進化モデルの利得行列の事例について、p = 0˙ 曲線,q = 0˙ 曲線およびr = 0˙ 曲線を図示したものである。均衡点Eは、直角2等辺3角 形の・内・部(すなわちp,q,r > 0,p + q + r = 1)で成立する混合戦略ナッシュ 均衡である。直角3角形の内部では、p = ˙˙ q = 0⇔ ˙p = ˙r = 0 ⇔ ˙q = ˙r = 0 という同値関係が成立しているから、p = 0˙ 曲線,q = 0˙ 曲線,r = 0˙ 曲線の 3本の曲線は、この均衡点で交わる。 他方、直角3角形の斜辺上の均衡点F は、斜辺上で(すなわちp,q > 0, p + q = 1という条件のもとで)成立する混合戦略ナッシュ均衡である。斜辺 上ではp = 0˙ ⇔ ˙q = 0であるから、この均衡点ではp = 0˙ 曲線とq = 0˙ 曲線 が交わる。他の2つの辺上の混合戦略均衡点G,Hについても、状況は同様 である。本稿では、これらの均衡点F,G,HをEと区別して、「退化した」 (degenerate)混合戦略ナッシュ均衡と呼ぶことにする。
r = 0 ᦛ✢ q = 0 ᦛ✢ p = 0 ᦛ✢ 1 2 1 2 1 3 1 3 p q α β γ 1 1 0 F H E g G f h 図 3 以下、本節では、これらの「退化した」混合戦略均衡点の局所的安定分析の 問題について述べる。まず、均衡点Fについては、前掲の利得行列の事例に おける(1),(2)式 dp dt = κ(Vα− V )p = κ[−2p 2− 2q2− 2pq + 3p + 2q − 1]p, dq dt = κ(Vβ− V )q = κ[−2p 2− 2q2− 2pq + 2p + 3q − 1]q を均衡点Fの近傍で線形化すると、 d(p− p∗) dt = κ[−(4p ∗+ 2q∗− 3)(p − p∗)−(4q∗+ 2p∗− 2)(q − q∗)]p∗, d(q− q∗) dt = κ[−(4p ∗+ 2q∗− 2)(p − p∗)−(4q∗+ 2p∗− 3)(q − q∗)]q∗ となり、F 点の座標(p∗, q∗) = (1/2, 1/2)を代入して、固有方程式 ˛ ˛ ˛ ˛−λ − 1−1 − λ ˛ ˛ ˛ ˛ = λ2− 1 = 0
より、固有値λ =±1,固有ベクトル(1, − 1)0, (1, 1)0を得る。したがって、 均衡点Fは鞍点であり、初期条件(p0, q0)が q0− q∗ p0− p∗ = 1 なら(そして、その場合にのみ)、F への安定的経路が成立する(図3の経路 f参照)11)。 ここまでは、とくに何も問題はない。しかし、次に、均衡点G(およびH) について同様な分析を行おうとする場合には、上掲の方程式体系を用いること ができない。何故なら、均衡点G : (p∗, q∗, r∗) = (1/2, 0, 1/2)では、q∗= 0 であるために、(2)式(したがってその線形近似式)は機能しないからである。 この場合にG点の近傍で安定性を吟味するためには、均衡点Gでゼロでない 変数をもつ代替的な微分方程式体系 dp dt = κ(Vα− V )p = κ[−2p 2− 2r2− 2pr + 3p + 2r − 1]p, dr dt = κ(Vγ− V )r = κ[−2p 2− 2r2− 2pr + 2p + 3r − 1]r を用いることが必要であり、これを線形化して局所的安定性を求めると、F点 の場合と同様に、固有値λ =±1,固有ベクトル(1,−1)0, (1, 1)0を得る。した がって、均衡点Gは鞍点であり、初期条件(p0, r0)が r0− r∗ p0− p∗ = 1 なら(そして、その場合にのみ)、G点への経路は安定的である。これをp-q 座標であらわすと、 1 = r 0− r∗ p0− p∗ = (1− p0− q0)−(1 − p∗− q∗) p0− p∗ = −(p0− p∗ )−(q0− q∗) p0− p∗ =−1 − q 0− q∗ p0− p∗ すなわち、 q0− q∗ p0− p∗ =−2 11) 森本(2009,p.43 脚注 19)参照。なお、図中の◎印は進化的(安定的)均衡、○印は鞍点均 衡を示す。
となる(図3の経路g参照)。 同様に、均衡点H : (p∗, q∗, r∗) = (0, 1/2, 1/2)も鞍点であり、 dq dt = κ(Vβ− V )q = κ[−2q 2− 2r2− 2qr + 3q + 2r − 1]q, dr dt = κ(Vγ− V )r = κ[−2q 2− 2r2− 2qr + 2q + 3r − 1]r より、均衡点Hの近傍における線形近似体系は、初期条件が、 1 = q 0− q∗ r0− r∗ = q0− q∗ (1− p0− q0)− (1 − p∗− q∗) = q0− q∗ p0− p∗ −1 − q0−q∗ p0− p∗ すなわち、 q0− q∗ p0− p∗ =− 1 2 なら(そして、その場合にのみ)、Hへの経路は安定的である(図3の経路h 参照)12)。 2.3 直角2等辺3角形図と正3角形図 本稿および森本(2009)では、一般によく用いられている直角2等辺3角 形図を用いて位相図分析を行ってきた。この直角3角形図では、直角の頂点を 原点とし、直角を挟む縦軸と横軸の2等辺の長さを1として、pとqを測る。 このときのrの大きさは、前節でも言及したように、座標上の点(p, q)から 斜辺への水平(あるいは垂直)距離によってあらわされる。 この直角2等辺3角形図の利点は、(p, q, r)の中の2変数pとqの大きさ をそのまま直交座標で表現できることである。しかし他方、この図の欠点と して、第3の変数rにかかわる表示が、p, qと非対称的となってしまう。た とえば、前節で示した設例の場合、3つの戦略の利得はいずれのペアについて も対称的であり、したがって3辺上の鞍点F, G, Hへの安定的経路は全く同 一の特性をもつにもかかわらず、直角2等辺3角形上では、F点への経路と、 G, H点への経路は異なった形状で表示される(図3)。縦軸と横軸に測る2 変数の選び方によって、位相図上での表現が異なってくるのである。 12) 森本(2009)では、均衡点(鞍点)G, H の分析が欠落している。
これに対して、正3角形図13) を用いた位相図の場合には、このような非 対称性は生じない。正3角形図では、3つの斜交座標(oblique coordinates) を組み合わせて高さが1の正3角形を構成し、この正3角形上の1点で座標 (p, q, r)をあらわす。正3角形上の1点から3辺へ下ろした垂線の長さの合 計は、この正3角形の高さに等しいから、p + q + r = 1である。 たとえば点P = (p, q, r)の座標pとqは、正3角形α0γ0β0の頂点γ0を 原点として、辺γ0β0と直交する軸γ0α00にpを測り、底辺γ0α0と直交する軸 γ0β00にqを測る(図4)。すなわち、γ0を原点とする正3角形の斜交座標系 β0γ0α0でいえば、原点をγ0として横軸γ0α0にp/sin60◦を測り、縦斜軸γ0β0 にq/sin60◦を測って、P点の座標(p, q)とするのである。 同様に、α0を原点とする斜交座標系γ0α0β0を考えて、α0β0軸にq/sin60◦, 60± 60± 60± p r r r q q/sin 60 ± p/sin60± r/sin60± q/sin 60 ± p/sin 60 ± r/sin 60 ± q p α0 α00 β0 β00 γ0 γ00 1 1 P 図 4 13) Malinvaud(1985, p. 331),Laffont(1989, pp. 11-12).
α0γ0軸にr/sin60◦を測れば、点Pの座標(q, r)が得られ、また、β0を原点 とする斜交座標系γ0β0α0を考えて、β0α0軸にp/sin60◦, β0γ0軸にr/sin60◦ を測れば、点Pの座標(p, r)が得られる。P点から、3辺γ0β0,γ0α0,β0α0 に下ろした垂線の長さが、それぞれp, q, rである。 前節の設例の位相図を正3角形図であらわしたものが、図5である。この 設例の場合、2次方程式の楕円が円となり、3辺上の鞍点への安定的経路は全 く同一の形状をとる。図内のp, qおよびrの変動方向は、たとえばp = 0˙ 曲 線の左上方ではpが減少し(辺γ0β0に近づく)、右下方ではpが増加する(辺 γ0β0から遠ざかる)。q = 0˙ 曲線,r = 0˙ 曲線についても、同様にqとrの変 動方向を特定することができる(図5参照)。 r = 0 ᦛ✢ q = 0 ᦛ✢ p = 0 ᦛ✢ 60± α0 β0 γ0 1 E 図 5 プレーヤーの戦略α,β,γの順序の入れ替えは任意であるから、位相図分 析の表現として、正3角形図は直角2等辺3角形図よりも優れていると考え ることができるが、ただ、前者の場合、等利得曲線やp = 0˙ 曲線,q = 0˙ 曲線, ˙ r = 0曲線の具体的な作図に際して困難が伴う。直交座標上の図形的表現を、 斜交座標系に簡単に変換する方法が、求められるのである。
引用文献
Laffont, J-J.(1989), The Economics of Uncertainty and Information,
(trans-lated by J.P. Bonin and H. Bonin), MIT Press, Massachusetts.
Malinvaud, E.(1985), Lectures on Microeconomic Theory (translated by A.
Silvey), Revised ed., North Holland, Amsterdam. [林 敏彦訳『ミクロ経済 理論講義』創文社,1981.]
森本好則(2008),「進化モデルと利得の位相─ 2 × 2 ゲーム」,『経済学論究』(関 西学院大学),62 巻 3 号,12 月,31-48 頁.
森本好則(2009),「進化モデルの位相図分析序説─ 3 × 3 ゲーム」,『経済学論究』
(関西学院大学),63 巻 2 号,9 月,23-49 頁.
Zeeman, E.C.(1981), “Dynamics of the Evolution of Animal Conflicts,”