初対面における「ほめ」と話題展開について
Compliments and Topic-development in the Conversation between
Unacquainted Participants
張 承姫
Seung-Hee JANG
関西学院大学大学院・日本学術振興会特別研究員
DC
Graduate School of Language, Communication, and Culture, Kwansei Gakuin University / JSPS
Research Fellow
Abstract: The purpose of this study consists of the following two points: 1) to describe the way in which
"compliment" is introduced and developed in the first meeting, 2) to reconsider the definition of compliments that previous studies have suggested as making the recipient to feel good. The analysis shows that compliments can be used not only as a means to make the recipient to feel good but also as a means to move the conversation forward by minimizing silences which are likely to occur in the first meeting.
1 はじめに
本研究の目的は以下の二点である。一点目は初対面 の会話における「ほめ」がどのように導入されて展開 していくことを記述することである。そして二点目は、 先行研究において「ほめ」が「聞き手を心地よくさせ ることを意図した」ものである1(金庚芬,2012:42−43)と 定義されていることの妥当性を再考することである。 初対面である会話参与者には、お互いが共有する知識 や情報がほとんどないため、どのように会話を円滑に 進めればよいかが重大な問題となる。本研究では、初 対面会話の「ほめ」が、「聞き手を心地よくさせること」 だけではなく、沈黙を最小化して円滑に会話を展開さ せるために利用できる装置であることを提示する。 以降、本研究では、聞き手に属するポジティブな評 価であるといっても、その発話が聞き手に「ほめ」と して認識されるとは限らないと考え(張, in press) 、「ほ めとして認識可能な発話」と記す(ただし、先行研究で 「ほめ」として記述されている場合について言及する 際はそのまま「ほめ」と記す)。 1 金(2012)は、ほめを「話し手が聞き手を心地よくさせることを意図 し,聞き手あるいは聞き手に関わりのある人,物,ことに関して「良 い」と認める様々なものに対して,直接的あるいは間接的に,肯定 的な価値があると伝える言語行為である」(金庚芬,2012:43)と定義2 先行研究
まず、会話分析において重要な概念である隣接ペア について説明しておく。隣接ペアは第 1 対成分と第 2 対成分によって構成される行為連鎖を指す(Schegloff, 2007)。たとえば、「質問」に対して「返答」が、「依頼」 に対しては「受諾/拒絶」といった反応が後続すること が適切となる。その他にも「挨拶−挨拶」、「提案−承認/ 拒否」「呼びかけ− 応じる」「お知らせ・ニュース (announcement) − 承 認 ・ 評 価 ・ 質 問 」 な ど も あ る (Schgloff,2007)。 隣接ペアの概念を踏まえ、Maynard(1980)は話題転換 (Topic-changes) に つ い て 分 析 を 行 っ た 。 Maynard(1980)によると、会話参与者は「お知らせ/ニ ュース」連鎖を通して話題を転換され、さらに話題を 展開していくという(Maynard,1980:283-284)。また、 話題開始の部分に注目した Button&Casey(1985)は、 「相手のニュースについての質問」や「自分について のニュース」を導入することによって、連鎖が拡張さ れると指摘している。 日本語における話題の先行研究は、会話参与者が話 題の終了しうる場所において「掴み出し」という装置 を利用して話題を展開していくことを明らかにした平 本(2011)や、話題についての研究ではないが、情報提 供連鎖(informing sequences)における「へえ」という反応に注目し、「へえ」という反応は情報提供連鎖の終 了部分に評価(sequence closing assessment)として用 いられるということを明らかにした研究もある (Mori,2006;Hayano,2013)。
3 分析データ
本研究のデータは、ティスカッションをするため集 めた調査協力者四名を二人一組のペアにし、それぞれ 別の部屋でディスカッションの開始を待ってもらい、 その間の会話を収録した。一つの会話の時間は20分程 度に設定し、一回ごとに4つの初対面会話のデータを収 集した。データは日本語母語話者同士計20組と、日本語母語 話者と中国人留学生(日本に10年以上居住)2組の日本 語での会話データを含め、最終的に計22組、総計480 分の会話データを分析した。 分析に際しては、ビデオデータを用い、言語形式や 音声だけでは明確ではない非言語的な振る舞いも対象 として、より詳しく明らかにする。
4 分析
以下、4.1 節では、「ほめとして理解可能な発話」に より、話題が転換2されてさらにその話題が展開してい く事例を、4.2 節では、「ほめとして理解可能な発話」 が導入される一方で、4.1 節の事例とは異なり、直前の 話題との関連を保ちつつ徐々に話題が移行していく事 例を検討する。4.1 話題導入としてのほめと話題展開
4.1.1 今発見したものとしてのほめを導入 まず、断片(1)をみてみる。断片(1)のデータ収録場所 はN が所属している学校である。K は N の学校を初め て訪問している。N は学部の 4 年生であり、K は社会 人である。断片(1)の直前では「データの収録に協力し たことがあるか」という質問に対してK が「前回も協 力したことがあり、今日で2 回目である」と答えてい る (01 行目)。 (1) 01K:今日で<二回:目>ですhねh[h 02N: [↑あh↑そhう 03 h↓なんhで(h)す[か(h) 04K: [は::[い 05N: [へえ:::: 06 (3.9) ((Nが鼻をすする)) 07K:゜ねえ゜ 2 本研究では平本(2011:106)が定義した「話題の転換」 「話題の移行」 を採用する。平本によると、直前の話題との関連を持たない話題が 新規に導入されることを「話題の転換」とし、直前の話題との関連 を保ちつつも話題が変化するということを「話題の移行」とした。 08 (2.3)((アンケート紙を見ていた K が 突然パット頭を上げる)) →09K:学校きれいですね.=私初めて来たんです →10 [けど:: ((視線「学校」の部分では窓)) N は断片(1)の直前で「データ収録に協力したのは初 めである」と述べる。それに対しK は「今日で 2 回目 である」と発言する。そのことをN は情報として受け 入れ (02−03 行目)、K も確認を与える(04 行目)。その 後、N は「へえ」と、これまでの K の発言を情報とし て受け入れたことを示す反応を行う。このN の「へえ」 という反応は、情報提供連鎖の終了部分に行われ (Hayano,2013;Hayashi,2001;Mori,2006)、相手の情報が情 報 価 値 ・ ニ ュ ー ス 性 が あ る こ と を 示 し て い る (Hayano,2013:150;Mori,2006:1185-1188)。そして、約 7 秒程度の長い沈黙が生じた3あと、K は直前の話題と関 連がないように見える「学校きれいですね」という発 言をする(09 行目)。 ここで注目すべき点は2 点ある。一点目は、K の 09 行目の発話がN の学校についてのポジティブな評価で あり、N はその学校と密接にかかわりを持っているた め、この発話がほめとして理解可能である点である。 二点目は、この発話がなされた位置である。K のほめ として理解可能な発話の直前までの話題は「データ収 録の経験」についてであり、それが終了し、長い沈黙 が続いているときに導入されている。つまり、直前の 話題が終了したが、次の話題が見つからず、長い沈黙 が起こっている時にK は「学校きれいですね」と相手 にポジティブな評価を行っているのである。 ほめとして理解可能な発話を行った時にK の振る舞 いをより詳細に見ると、K は長く沈黙が続いていると きは、N から視線を外して、アンケート用紙に視線を 向けている。そして、突然アンケート用紙から目を離 し、窓側から見える学校の風景を見ながら09 行目の発 話を産出する。このK の振る舞いは、今学校の風景を 見て、学校の美しさに今気付いた.....ことを述べるものと して発話されてる。より正確にいうと、K は N に学校 の美しさについてもっと早い時点で言及・評価するこ とも可能であったにもかかわらず4、この時点で今発見... し.たかのように......「ほめとして理解可能な発話」を導入 している。 3 相手に視線を向けておらず、非常に小さい声で発されているので、 相手に向けられていない発話、つまり独り言のように聞こえる発話 である。断片(2)の07行目も同様である。 4 より早い時点で行うことも可能であったというのは、N が収録し ている場所の学生であるということが明らかになった後の位置や、N の学校について話をした後の位置など、直前の話題と関連付けて言 及することも可能であったからである。しかし、K はその時点では 言及・評価せず、長い沈黙が生じている位置において言及している。このことは次の断片(2)でも見られる。断片(2)は断片 (1)の前の部分である。N はもうすぐ卒業して社会人に なるのが信じられないと語っている(01−03 行目)。 (2) 01N:社会[人になるのかと h おも h う h と= 02K: [へ:: 03N:=[h 信じられなくて[:: 04K: [あ:: [へ:゜[<そうなんや>゜ 05N: [゜は::い:゜ 06 (1.9) 07K:゜<そう:ですね>゜ 08K : ((N は K の顔を一回見て紙を見ながら)) →09N:す:っごい字きれいですね[:hhuhuhu ((「すごい字」の部分では紙を見ながら。 「きれい」の部分から K を見る)) 09 行目の発話の特徴をまとめと、まず、「すごい字 きれいですね」はK のアンケート用紙に書いてある字 を見て、ポジティブな評価を行うものである。このポ ジティブな評価はK の能力にかかわるポジティブな評 価であるため、ほめとして理解可能である。次に、09 行目の発話の位置は、「社会人になるのかと思うと信じ られなくて」(01−03 行目)という発話を K が「へえ」「そ うなんや」と受け入れた後で(04 行目)、沈黙(06 行目) が続いていた位置で産出されている。言い換えると、 直前の話題終了し、次の話題を見つけださなければい けない状況のときにほめとして理解可能な発言がなさ れている。さらにN の振る舞いを見ると、K は N から 視線を外して、机のほうにある視線を向けているが、 N はその K を見てから K のアンケート用紙のほうに視 線を向け「すごい字きれいですね」と述べる。しかし、 このことは、断片(1)と同じく、もっと早い時点で述べ ることも可能であったにもかかわらず、今K のアンケ ート用紙を見て今発見したかのように5、相手にポジテ ィブな評価を行っている。 以上述べてきたように、断片(1)と(2)のほめとして理 解可能な発話は、直前までなされた会話の流れに関連 を持たないものであり、その発話が導入されることに より話題が転換する。そして、ほめとして理解可能な 発話を行う側(以降、話し手とし、その相手は聞き手と する)は、「ほめとして理解可能な発話」を今発見した ものとして振る舞う。このことは、直前の話題と関連 しない話題を突然導入したことが不適切なものではな く、今その対象を発見したからであるとして、話題を 転換したことを正当化する。したがって、直前の話題 と関連がない「ほめとして理解可能な発話」は、その ほめの対象を今発見したように振る舞うことによって、 5 N と K の会話が開始される前、二人は収録に関するアンケートを 行っていた。N のほうが K より 3~5 分程度早く終了し、K のアンケ ートを見ながら、K が終了まで待っていた。したがって、少なくと もN は断片(2)よりも早い時点言及・評価するも可能であった。 ほめによって導入された新たな話題を適切な話題とし て展開していく。 4.1.2 両方が利用可能な装置としてほめ ほめとして理解可能な発話は、今発見したものとし てデザインされる。しかし、話題を展開するために行 うのが、なぜ「ほめとして理解な発話」である必要が あるのか。単なる「今発見した」発話との異なる点と は何か。これらの点について考察する。 Button&Casey(1985)は、話題が途切れた際に話題の 展開のため用いる「相手のニュースについての質問」 や「自分のニュースについて伝える」ことは、どちら か一方にしかその情報や知識が存在しないため、相手 に欠けている情報を埋めるためでもあるとした。つま り、参与者の一方しか語ることができない方法である。 しかし、話題の展開のために用いられるほめとして理 解可能な発話の「言及・評価の対象(たとえば、断片 1 だと「学校」であり、断片2 だと「字」)」は話し手と 語り手の両方が語ることができるものである。ポジテ ィブな評価の対象が聞き手に属するものであるため、 評価の対象を詳細に知っている聞き手からその情報を 引き出すことができ、話し手からも何らかの形で語る こともできる。このことを断片(1)の続きを再掲載し検 討する。 (1)の続き 09K:学校きれいですね.=私初めて来たんです 10 [けど:: ((視線「学校」の部分では窓)) 11N: [あ::: 12K:.h[o<す:ごい::きれい>o]((視線は窓)) →13N: [ああ<↓で::も::> ] 14N (0.4) →15N:ぱっと見::と:: 16K:ん 17N :(0.3) →18N:ここはまだきれいなほう →19 [だと(.)h お h も h い h ま h す hh 20K: [あ:そうですか 21 N (.) 22K:[え:::: →23N:[ほか:::(0.4)とか[行ったら:(0.2)= 24K: [ん →25 =そん:::な::: N に対するほめとして理解可能な発話に対し(09-10 行目)、N は今いる場所がきれいなだけで(13,15,18,19 行目)他のところはそこまできれいではないと述べる (23,25 行目)。この N の発言は、ほめとして理解可能な 発話に対して、話し手K が知らないであろう学校のほ かの部分を言及することで部分的な不同意6を示して 6 あるいは「部分的な同意」とも言える。具体的にいうと、K の「学 校がきれいだ」という発話は学校全体に対する評価として理解でき る。それに対するN の「ここはまだきれいなほうだ」という応答は、 「学校全体がきれいなのではなく、今見えるここがきれいだ」とい
いる。同時に、K にとって知らない情報であったため ニュース性・情報性を持つものである。実際K は「あ、 そうですか」(20 行目)と自分が知らなかった情報とし て受け入れる。N の部分的な不同意の発話は、相手が 知らないであろう情報を持ち出して自分の学校はほめ られるほどきれいではないことを示している。 他方、このほめとして理解可能な発話は話し手K に とっても何らかの形で、言及・評価された対象につい て語ることができる装置である。K は「学校きれいで すね」とポジティブな評価を行った後、N の学校に初 めてきたという情報を付け足している。この付け足し の発話は、K 自らの情報・ニュースを提供することで あって、相手の反応によってより詳細なことを語るこ とも可能である(Button&Casey,1985:23)。そして、この 情報は、「学校きれいですね」が、学校に初めて来た者 としてのポジティブな評価であると理解でき、話題の 転換としてポジティブな評価を行ったことへの説明と して聞くこともできる。この観察は断片(2)にも見られ る。 (2)の続き 09N:す:っごい字きれいですね[:hhuhuhu 10K: [>え,え,<え:そう 11 で h す h か hh[hh 12N: [hhh(ひゃ)hhhh 13K:[゜(じゃ::)゜ 14N:[.hh 達筆だな::[と思って ((「達筆」の部分では紙。その後 K)) 15K: [>いえいえ<いえ:[(え:) 16N: [なんか: →17 (0.2)私も[字が汚いんで:(0.5)こう= 18K: [ん →19N:=きれいになりたいな:[と思[って][:.h 20K : [oんo[ん] [んん: 21 (0.2) →22N:前なんか<雑[誌:>(0.3)あの日経= 23K: [ん →24N:=ウーマンってあるの[知ってますか:?] 25K: [あ>知っ(てる)< ] N の「すごい字きれいですね(09 行目)」は話題を展 開させ。その後、N は「なんか私も字が汚いんで、こ うきれいになりたいなと思って」(16-19 行目)と発話を 付け足している。この発話はN が字が汚い者として相 手K に対するポジティブな評価を行っていることを説 明するものであると同時に、N 自身が「字が汚い」と いう新しい情報を提供するものでもあるのである。 ここまでの考察をまとめると、断片(1)と(2)で観察し たように、ほめとして理解可能な発話の評価対象は話 う意味を含んでいる。つまり、「学校のここがきれいであることには 同意する(部分的な同意)」あるいは「ここはたまたまきれいなだけで、 学校全体がきれいなのではない(部分的な不同意)」としても理解でき る。 し手と聞き手両方が何らかの形で語れるものである。 まず、聞き手(ほめとして理解可能な発話に対する聞き 手)の場合は、聞き手自身に属している事柄について評 価されているため、それに対する不同意・同意(あるい は部分的な同意)を示す形で相手が知らない情報につ いて述べることが可能である。そして、話し手(ほめと して理解可能な発話を産出した側)は、新情報を受け入 れる反応を示し、そこから話題が展開して行く(断片 1 の事例)。一方、ポジティブな評価を行った話し手もそ の対象について何かを語ることができる。たとえば、 断片2 の事例を見ると、ほめとして理解可能な発話に 対して、聞き手は最小限の反応である「えそうですか」 「いえいえいえ」のみを行っており(10-11 行目,15 行目)、 聞き手が新しい情報を提供していない。このときに話 し手は直前の評価対象と関係する自分の語りを始める。 したがって、聞き手からの新情報がなくとも、話し手 自らの情報を語ることによって、「字」についての話題 は再度終了に向かったり、沈黙が訪れたりすることな く、話題が展開して行く。 以上、「ほめとして理解可能な発話」によって話題が 転換され、そこからさらにその話題が展開していく事 例を検討した。この節で検討したことは以下の三点に まとめられる。第一に、ほめとして理解可能な発話は 話し手と聞き手の両方が何らかの形で語ることができ る対象である。第二に、話し手は直前の話題と関連し ない話題を導入しているが、それを今発見したものと して振る舞うことによってこの位置で話すことが適切 であることを示す。第三に、話し手がほめとして理解 可能な発話を行った後の位置で、相手が知らないであ ろうと思われる情報(「私はじめて来たんですけど」「私 も字が汚いんで~」)を付け足すことは、直前の話題と 関連しないポジティブな評価を行ったことに志向して いる7。
4.2 話題の移行としてのほめ
4.2.1 情報提供連鎖が終了しうる位置におけるほめ この節では「ほめとして理解可能な発話」を導入す ることにより、話題が移行していく事例を検討する。 断片(3)は、約 1 秒の沈黙後、F が M に年齢について 尋ねる部分である(01 行目)。 (3) 01F:えおいくつなんです[か?聞いて ]= 02K: [あ私:: ] 03F:=いい[ですか? 04K: [あ:全然(>あたし<)私にじゅうなな 7 4.2 節で記述するデータを参考にしていただきたい。断片(3)と(4) は情報提供連鎖の後にほめとして理解可能な発話がなされているが、 この場合は、4.1 節のデータと異なり、話し手からの理由説明などは 行われていない。05 M 向か゜う[んです:(はい)゜ ] 06F: [あ::そうなん(だ)] 07 ↑えいっこ<上゜ですね[:じゃ>゜ 08K: [あ h 本当で[すか:? 09F: [はい.今年: 10 ろくです[:. 11K: [あ[:そうなん[や:: ((6 行目省略。M が再度今年で 27 歳だと述べる)) 18K:oあの( [ )o 19F: [゜え゜ 20F :(0.8) ((誰かの吸気音が聞こえるかも)) →21K:.hh[でわたしがく(s)] 22F: [合コン ]はい= →23K:=学生さん h か h と h 思っ h[て h た hahahahhhh ] まず21 行目から始まる「で、わたし学生さんかと思 ってた」という発話の特徴を見てみる。この発話がな されたのは、お互いの年齢が明らかになった後の位置 である。そして、F の年齢を聞くまでは F を学生さん だと思って会話をしていたこと、つまり自分がF に対 して誤った認識をしたまま会話をしていたこを報告す るものである。以上の特徴から、「学生のように若く見 えた」という意味を含んだほめとして理解可能な発話 である。さらにこのほめとして理解可能な発話(21−23 行目)は、お互いの年齢についての情報を交換した後で 産出されていることや、お互いに視線を外しているこ と、約一秒程度の沈黙が生じていることから、情報提 供連鎖の終了部分に行われる評価として聞くことが可 能である。次の断片(4)でも、ほめとして理解可能な発 話が同様の位置で行われている。断片(4)の直前では F がK に「何のお仕事をしているのか」について質問し、 「カフェ、コーヒーショップで働いている」と答えた。 その後、自分はコーヒーを作ったりすることなく、コ ーヒー機械が勝手に作ってくれている(01 行目)と発言 している。 (4) 01K:¥勝手にやってくれるんで:¥セルフ= 02 =サービス(0.2)[>ですし< 03F: [↑あ,あ::h そうなんです 04 ね[::. 05K: [はい= 06F:=へえ:::: 07 (0.5) 08K:oなんかo片づけ:(.)とか,まあ:お客さん 09 に h 持っていっ(h)た h り h[とか 10F: [はいはいはい 11F:.hh[へえ:::: 12K: [゜そんなんです(けどね)゜ 13 (0.7) →14F:>なんか-あ n,< おしゃれカフェ::いいです[ね. 14 行目の発話は、K が働いている場所についてポジ ティブな評価を行っているため、ほめとして理解可能 である。この発話は、「おしゃれカフェ」の単語を長く 伸ばしており、ポジティブな評価語をより強調する形 で産出されている。 この断片も断片(3)と同じく、K の仕事についての 情報提供連鎖が終了に向かっている位置においてほめ として理解可能な発話がなされている。F が 01 行目− 02 行目の K の発言に対して情報を受け入れた反応の みを行ない、「へえ」という反応が繰り返し見られてい ることからも連鎖終了に置かれる「へえ」として聞く ことができる(Hayano,2013;Hayashi,2001;Mori,2006)。 また、07 行目・13 行目の沈黙と、K の視線外しなどか らも15 行目のほめとして理解可能な発話は、情報提供 連鎖の終了部分に行われる評価として理解できる。 4.2.2 情報提供連鎖終了と評価連鎖開始 Maynard(1980:283−284)は話題を転換するためには 「質問−応答」が最も頻繁に行われるが、「お知らせ・ ニュース(announcements)」も、次のターンで応答を求 めるものであることから会話参与者が話題を展開する た め に 用 い る 形 式 で あ る と し た 。 そ し て Pomerantz(1978)によると、「ほめ」の発話も相手の「同 意/受諾」あるいは「不同意」の反応を求められる。 以上を踏まえて考えると、ほめとして理解可能な発話 は、情報連鎖の終了部分においてなされている評価と いうことから情報..提供..連鎖を閉じるもの........として用いら れ、ほめとして理解可能な発話としてデザインされて いることから、評価連鎖の開始するもの...........として用いら れている。断片(3)と(4)の続きを検討してみる。 (3)の続き 21K:.hh[でわたしがく(s)] 22F: [合コン ]はい= 23K:=学生さん h か h と h 24 思っ h[て h た hahahahhhh ] →25F: [hhahaha いえ h すみません] →26 [そんなんじゃ::h 27K: [( )= ((笑いながら言っている)) 28K :[[(゜ええ::゜) →29F: [[え:いちお-いちおうこれでも[働いてるん= 30K: [(゜ん゜) →31F:=で h[す h↑HAH HAH ha 32K: [あ:↑そうなんですか. 33F:.hh[.hhhh 34K: [へ::え:= 35 =何のお仕事<され:(.)てるん:[ですか?> 36F: [えと:なんか 37 あの[::(0.6)すごい説明長いんですけどね, ((その後、自分が産婦人科で働いていることを述語る)) (4)の続き 14F:>なんか-あ n,< おしゃれカフェ::いい= 15 =です[ね. →16K: [お h しゃ h れカ h[フェ h じゃ hhh= 17F: [hhhhhh →18K:=スーパーの,=
19F:=はい, →20K:スーパーのな h か h に(h)あるん →21 ですけ゜ど↑ね:゜ 22F:↑あ,.hhh あ:[::::そう[なんですか. 断片(3)の「で、わたし学生さんかと思ってた」発 話に対して聞き手 F は「いえ、すみません。そんなん じゃ。え、一応これでも働いてるんです。」と不同意を 示す。断片(4)においても「なんか、おしゃれカフェ いいですね」というほめとして理解可能な発話に対し て、聞き手は「おしゃれカフェじゃ。スーパーの、ス ーパーのなかにあるんですけどね」と不同意を示して いる。 断片(3)と断片(4)の不同意の発話をより詳細に見 てみる。ほめとして理解可能な発話に対して聞き手は 「そんなんじゃ(断片 3)」「おしゃれカフェじゃ(断片 4)」のように、「〜じゃ」を含めて否定をしているが、 「学生のようなものではない(断片(3))」「おしゃれ カフェではない(断片 4)」のような不同意として聞く ことができる。その後、「これでも働いているんです (断片 3)」「スーパーのなかにあるんですけどね(断片 4)」と話し手が知らないであろうという新しい情報を 持ち出して、「相手からほめられた対象を十分持ってい ないためほめられるべきでない」ということを示して いる。したがって、話し手は、聞き手が持ち出した新 情報を受け入れ(「あ、そうなんですか」(断片(3)の 32 行目と(4)の 22 行目))、そこから話題が徐々に移 行していく。 ここまでまとめると、断片(3)と(4)のほめとして 理解可能な発話は、断片(1)と(2)と異なって、直前 の話題に対する評価として行われ、その評価により話 題が移行していくことがわかる。すなわち、断片(3) と(4)のようなほめとして理解可能は発話は、直前の 情報提供連鎖で言及された情報やその一部に対する評 価を行うことによって開始される。それによって直前 との関連を保ちつつ話題が変化して話題が展開してい く。
5 おわりに
本研究は、初対面会話において、話題が途切れてし まい、次の話題を探さないといけないという状況に、 会話参与者が「ほめとして理解可能な発話」を利用し て話題を展開していくことを検討した。4.1 節では、直 前の話題を転換する方法としてほめとして理解可能な 発話が導入され話題が展開していく事例を、4.2 節では、 直前の話題にフィットさせる方法としてほめとして理 解可能な発話が導入されて話題が移行して展開してい く事例を検討した。ほめとして理解可能な発話がなさ れる位置や展開は少し異なっているものの、両方とも 初対面である会話参与者が「何かを話さなければいけ ない」という圧力がかかっているときに、次の話題に 展開していく方法として利用可能なプラクティスであ ることを明らかにした。 また、冒頭で述べたように、金庚芬は(2012:46)、ほ めは「相手を心地よくさせること」を意図したと明記 しているが、初対面におけるほめの場合は、単に相手 の気持ちをよくさせていることを意図したものではな く、会話参与者が協調的に次の話題を展開していくた めとして利用可能なプラクティスであることがわかっ た。参考文献
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