代講を目的としたロボットによるプレゼンテーション
A Presentation Robot as Substitute Lecturer
石野 達也,後藤 充裕,柏原 昭博
Tatsuya Ishino, Mitsuhiro Goto, and Akihiro Kashihara
電気通信大学 情報理工学研究科
Graduate School of Informatics and Engineering, The University of Electro-Communications
Abstract: In presentations, nonverbal behavior of presenters such as gaze and gesture are so importantfor effective commuication. In universities, lecturers often use presentation slides to present their lecture contents with oral/nonverbal behavior. In order to promote learners’ understanding of the lecture contents, it is necesssary for lecturers to induce the learners to direct their attention to the slide/oral contents. However, it often seems difficult. This paper proposes a presentation robot system, which gives lectures as a substitute lecturer. The main purpose of the robot is to reproduce the lecture contents with suitable oral/non-verbal behavior that attracts learners’ attention and promotes their understanding. The presentation robot could also intentionally exaggerate its oral/gesture with multimedia information such as sound/light to attract more attention from learners. This allows lecturers to have their lectures in a more effective way.
1.はじめに
一般に,プレゼンテーションは,スライドコンテ ンツとオーラルコンテンツの2 種類の情報を聴衆に 提示する情報伝達手段である.聴衆に対して,正確 に情報を伝達し,理解・納得を得るためには,プレ ゼンタに高度なコミュニケーションスキルが必要と なる.現在,日常生活の多くの場面において,プレ ゼンテーションの機会がある.例えば,顧客の購買 行動を促進するために商品やサービス紹介において プレゼンテーションが実施される.また,教育現場 では,大学の対面講義やe-Learning においてプレゼ ンテーションが盛んに行われており[1],講師が受講 者(以下,学習者)に対して,講義内容を伝達する ためにプレゼンテーションが実施される. 大学講義では,学習者の講義内容の理解を促すた めに,講師が伝達しようとしている内容(スライド コンテンツやオーラルコンテンツ)に注目させるこ とが重要である.そのためには,伝達内容に学習者 らの目を向けさせることが必要である.Kamide ら[2] は,プレゼンタが聴衆の視線を誘導することによっ て,プレゼンテーションの内容理解を促すことに成 功している. また,講師は学習者の注目を集めることに加えて, ジェスチャなどの非言語動作も伴わせながら,講義 内容の特徴を表現したり,重要な箇所を強調するな ど,講義内容の深い理解を促すことも重要といえる. 一方,講師がプレゼンテーションを通して,必ず しも学習者らの視線を誘導したり,講義内容の理解 を促すことができるとは限らない.例えば,手元の PC を常に見ながら講義を行ったり,ジェスチャを使 わない内向的な講師も存在し,講義内容がうまく学 習者に伝わらず理解を促すことができない場合もあ る. そこで,本研究では講師の代わりに,ロボットが 非言語動作を伴わせながら講義のためのプレゼンテ ーションを行い,学習者の講義理解を支援するシス テムを提案する.本システムでは,講師が行ったプ レゼンテーションを撮影し,ロボットがそのプレゼ ンテーションを再現することを目的としている.そ の際,視線誘導や講義内容の理解促進について不適 切・不十分な振る舞いを検出・修正したり,視線誘 導・理解促進の振る舞いを誇張再現することで,よ り効果的なプレゼンテーションの再現を目指してい る.こうした代講ロボットによって,講義プレゼン テーションが得意でない講師でも,適切な代講を実 施できると考えている. 以下,本稿では,講義のプレゼンテーションにお ける視線誘導や講義内容の理解促進のために必要と なる講師の振る舞いについて考察する.その上で, 人工知能学会研究会資料 SIG-ALST-B508-05 - 26 -ロボットによるプレゼンテーション再現の枠組みを 示し,講師の不適切・不十分な振る舞いの検出・修 正方法,および誇張再現の方法について論じる.最 後に,現在開発を進めている代講ロボットによるプ レゼンテーション支援システムの概要について述べ る.
2.講義でのプレゼンテーション
ここでは,講義におけるプレゼンテーションでの 課題を整理した後に,学習者の講義内容への注目を 促したり,講義内容の理解を促進するための講師の 振る舞いについて述べる.2.1 講義プレゼンテーションにおける課題
通常,大学での講義では,講師が講義内容を表現 したスライドを用いてプレゼンテーションを行う場 合が多い.スライドには,イラストやグラフ,キー ワードが散りばめられており,講師は口頭でこれら を説明するとともに,スライドには陽に表現されて ない事項についても口頭で補足説明を行う.このよ うに講義でのプレゼンテーションでは,講師が伝達 しようとするスライドコンテンツとオーラルコンテ ンツといった2 種類の講義コンテンツが存在する. 学習者が講義内容を深く理解するには,講師がどち らのコンテンツに注目して欲しいか講師の意図を把 握した上で,プレゼンテーションを聞くことが望ま しい. しかしながら,講師によっては手元の PC を常に 見てプレゼンテーションを進めたり,ジェスチャを あまり用いず,淡々と口頭説明をするなど重要な箇 所をうまく伝えられずに進めてしまうことがある. その結果,伝えたい講義内容がうまく学習者に伝わ らずにプレゼンテーションを終えてしまうことも少 なくない.2.2 理解を促す講師の振る舞い
前節で述べた通り,講義プレゼンテーションにお いて重要なのは,講師がプレゼンテーション時に意 図したコンテンツへ学習者の注目を集め,重要な箇 所を伝えながら学習内容の理解を促すことである. 講師が学習者の注目を集める一つの方法として,学 習者の視線誘導が考えられる. Kamide ら[2]の研究では,ロボットをプレゼンタと したプレゼンテーションにおいて,ロボットの視線 方向が聴衆の視線誘導を促す可能性が示されており, 注目させたいコンテンツへの視線誘導を行うことで 聴衆のプレゼンテーション内容への理解が高まるこ とが示唆されている.この知見にもとづけば,講義 でのプレゼンテーションにおいても,図1 に示すよ うに,講師がスライドへ視線を移すことで学習者の 視線をスライドに誘導し,スライドから学習者に視 線を向けることで学習者の注意を講師に向けさせる ことができると考えられる. さらに,視線誘導に加えて,講義プレゼンテーシ ョンでは,重要な箇所を強調しながらコンテンツを 伝達することで,学習者の理解をより促進すること ができると考えられる.そのためには,スライドコ ンテンツやオーラルコンテンツをわかりやすく表現 することに加えて,効果的にコンテンツの理解を促 すようなジェスチャなどの非言語動作を交えたプレ ゼンテーションを行う必要がある[3]. McNeill[4]は,こうした観点から人のジェスチャを, (a)Deictic: スライド内容について強調したい部分を 指 差 す な ど の ポ イ ン テ ィ ン グ ジ ェ ス チ ャ , (b)Metaphoric: 3つの主張がある場合に指を3本立 てて表現したり,増減を表現するために手を上下に 動かすような概念を表現するジェスチャ,(c)Iconic: 両手で大きさや長さを表現するジェスチャ,に分類 している. 図2 に示すように,講義でもこのようなジェスチ 図 1 講師による視線誘導 図 2 理解促進のための講師の振る舞い - 27 -ャ分類に基づき,伝達しようとするコンテンツに合 わせて適切なジェスチャを行えば,講義内容が学習 者によりわかりやすく伝わり,印象に残るプレゼン テーションを実施することができると考えられる. また,講義ではスライド間の遷移において学習者 の理解が途切れることのないように,スライドのつ ながりを分かりやすく伝えることも重要である.そ こで,図2 に示すように,スライド間をつなぐ接続 詞を口頭で強調したり,接続詞に合わせたジェスチ ャを施すことで理解を促すことも必要である.例え ば,「ところが」という接続詞で話を転換させる際に は,手を裏返すといったジェスチャが考えられる.
3.プレゼンテーションの再現
ロボットによるプレゼンテーションとして,本研 究では図3 に示すようにプレゼンテーション再現と 誇張再現を検討している. プレゼンテーション再現では,講師によるプレゼ ンテーションを入力として,入力されたスライドコ ンテンツとオーラルコンテンツの差分から,視線誘 導や講義内容の理解促進の振る舞いとして不適切・ 不十分な点を検出・修正する.例えば,スライドコ ンテンツを口頭で説明している際にスライドへの視 線誘導ができていない場合や,スライドの補足説明 をしている際に講師の視線が学習者に向けられてい ない場合などを検出し,ロボットが視線誘導のため の振る舞いを修正する.理解促進の振る舞いについ ては,現在のところキーワードに指差しのジェスチ ャが行われていない場合や,スライド遷移時に接続 詞が使われていない場合,ロボットが対応するジェ スチャや口頭説明を自動的に代行することを検討し ている. これらの視線誘導や講義内容の理解促進について, 不適切・不十分な振る舞いを検出し,修正が行われ ることで内向的な講師も伝えたい講義内容をうまく 学習者に伝えることが可能となり,学習者の理解を 促すことができる.また,講師はロボットのプレゼ ンテーションを内省し,自らのプレゼンテーション のあり方を改善することも可能となる. 次に,誇張再現では,プレゼンテーションにおけ る視点誘導や理解促進のための振る舞いに対してエ ンターテイメント性を付与し,学習者の興味を引き つけることを目的としている.そのために,(i)オー バーアクション:ジェスチャの動きを大きくする, (ii)マルチメディア:音や光などを伴わせる,(iii)間・ 繰り返し:キーワードやスライド接続を強調するた めに間をとる・繰り返す,などを組み込んだプレゼ ンテーション再現を実現する.つまり,オーバーア クションや,音楽や光などのマルチメディアを提示 するなど,人間のプレゼンタが実施しがたいことを ロボットに行わせることがプレゼンテーション代講 における誇張再現の意義である.4.ロボットによる
プレゼンテーションシステム
本研究では,図4 に示すとおり,代講を目的とし たロボットによるプレゼンテーションシステムの開 発を行っている. 本システムでは,ロボットとして SHARP 製の RoBoHoN[5]を使用する.RoBoHoN は,Android を OS としているため,Android Studio を用いて開発を 行なっている.また,RoBoHoN の動きは自由に設定 することができない.そのため,800 種ほどの用意 されたモーションからプレゼンテーションで主に使 用する動作をピックアップして用いる. 本システムの利用に際しては,まず使用できるジ ェスチャを講師に提示し,確認後プレゼンテーショ ンを行ってもらう.その際にオーラルコンテンツを マイクで録音し,講師の動作(顔の向きや体の向き) やジェスチャをKinect を用いてキャプチャする.そ の後,オーラルコンテンツをテキストに書き出し, RoBoHoN に入力する. 図 3 ロボットによる プレゼンテーション再現 図 4 ロボットによる プレゼンテーションシステムの概要 - 28 -また,入力された講師の動きに対して RoBoHoN に用意されているモーションの中から近いモーショ ンを検出し,RoBoHoN のジェスチャとして使用する. なお,スライドコンテンツとオーラルコンテンツの 差分がある場合,不適切・不十分な振る舞いを検出 し修正を行う.ここで検出したデータを講師に提示 する,あるいは講師自身がロボットの動きを簡単に 修正したり,削除できる仕組みを取り入れる予定で ある.また,プレゼンテーション再現と誇張再現を 切り替える機能も実現する. 実際の講義で使用する際には,あらかじめ講師が プレゼンテーションのスライドを画像にし,サーバ へアップロードする.アップロードされたスライド 画像を RoBoHoN が制御し,指定されたタイミング でサーバとの通信を行い,プロジェクタに映し出さ れているスライド画像を変更しながらプレゼンテー ション代講を行う. 大学の講義内のプレゼンテーシ ョンだけでなく,e-Learning としてのプレゼンテー ションコンテンツと連動できれば,自宅で学習する 際に学習者自身が好きなプレゼンテーションスタイ ルをロボットに反映させて学習することも可能とな る.
5.まとめ
本研究では,講師の代わりに,ロボットが非言語 動作を伴わせながら講義のためのプレゼンテーショ ンを行い,学習者の講義理解を支援するシステムを 提案した.また,講義におけるプレゼンテーション では,講師による視線誘導や理解促進(ジェスチャ やスライド間のつなぎ)のための振る舞いが重要で あることを述べた.さらに,講師のプレゼンテーシ ョンをロボットに再現させる上で不適切・不十分な 振る舞いを検出・修正する方法を示し,誇張再現方 法についても述べた.そして,現在開発を進めてい る代講ロボットによるプレゼンテーションシステム の概要を紹介した. 今後はシステムを実装し,ロボットによる代講の 評価実験を行い,その有用性や視線誘導,ジェスチ ャによる講義理解への効果について検証していきた い.また,現状はロボットから聴衆への一方向な情 報伝達を行っているが,聴衆の状況によってプレゼ ンテーション内容を変更したり聴衆の頷きにロボッ トが反応を行うインタラクティブなシステムを目指 していく.参考文献
[1] 後藤充裕, 柏原昭博:スライド間の接続関係の可視化 に基づくプレゼンテーションドキュメント理解支援, 電子情報通信学会技術研究報告,Vol. 115, No. 492, pp. 273-278, (2016)[2] Kamide, H., Kawabe, K., Shigemi, S., and Arai, T.: Nonverbal behaviors toward an audience and a screen for a presentation by a humanoid robot. Artificial Intelligence Research, Vol. 3, No. 2, pp. 57-66, (2014)
[3] Chien-Ming, H., Mutlu, Bilge.: Learning-based modeling of multimodal behaviors for humanlike robots. Proc of HRI 2014. pp. 57-64(2014)
[4] McNeill, D.: Hand and Mind. The University of Chicago Press, 1992.
[5] RoBoHoN https://robohon.com