保証人の主たる債務者に対する求償権の消滅時効の
中断事由と共同保証人間の求償権の消滅時効中断の有無
辻 博 明
最高裁第一小法廷平成27年11月19日判決(平成25年(受)第2001号、求償金等請求事件、民 集69巻 7 号1988頁、裁時1640号33頁、判時2282号63頁、判タ1421号108頁、金法2043号66頁、 金判1481号16頁、金判1485号16頁) 第 1 審:大津地裁平成25年 2 月28日判決(平成24年(ワ)第453号、民集69巻 7 号1994頁、 金法2043号74頁、金判1481号24頁) 第 2 審:大阪高裁平成25年 7 月 9 日判決(平成25年(ネ)第1018号、民集69巻 7 号2006頁、 金法2043号69頁、金判1481号20頁) 本判決は、共同保証人の 1 人として代位弁済した保証人の主たる債務者に対する求償権 に消滅時効の中断事由がある場合に、その中断効が他の共同保証人に対する求償権につい て及ぶかが問題となった事案において、これを否定する判断を最高裁として示した新判例 である。これまで議論の蓄積がなくかつ「混乱」の潜む論点であり、理論・実務において 意義があると思われる。そこで、複数の求償権、代位、附従的性質、担保たる性格、時効 の中断効、事案の背景事情、債権回収の実務の視点等から分析を試みることにする。 〔参照条文〕 民法147条、442条、465条 1 事実の概要 本件は、共同保証人の 1 人であり、主たる債務者の借入金債務を代位弁済した信用保証協 会 X(原告・被控訴人・上告人)が、他の共同保証人である Y(被告・控訴人・被上告人) に対し、民法465条 1 項、442条に基づき、求償金残元金と遅延損害金の支払を求める事案で ある。Y が上記求償権の時効消滅を主張するのに対し、X は、主たる債務者に対して取得し た求償権の消滅時効の中断により共同保証人間の求償権についても消滅時効の中断の効力が 生じていると主張して争った。 事実関係の概要は、次のとおりである。( 1 )Y は、A から委託を受け、平成元年 4 月10日、B 銀行との間で、A が B 銀行に対して 負担する一切の債務を連帯保証する旨の契約をした。
( 2 )ア A は、平成 2 年 8 月14日、B 銀行から、いずれも弁済期を平成 3 年 7 月31日、利 息を年7.7%、遅延損害金を年14%とする旨の約定で 2 口合計8490万円を借入れた。
イ X は、A から信用保証の委託を受け、平成 2 年 8 月13日、B 銀行との間で、A の上記 アの各債務を連帯保証する旨の契約をした。
( 3 )X は、平成 6 年 2 月23日、B 銀行に対し、上記( 2 )アの残債務全額を代位弁済した。 ( 4 )ア A は、平成 6 年12月30日から平成13年 5 月16日までの間、X に対し、上記( 3 ) の代位弁済により発生した求償金債務を一部弁済した。 イ X は、平成14年 5 月20日、A に対し、上記アの求償金の支払を求める訴訟を提起し、 同年 9 月13日、X の請求を認容する判決が言い渡され、その後同判決は確定した。 ( 5 )X は、平成24年 7 月25日、本件訴訟を提起したところ、Y が求償権の時効消滅を主張し た。これに対して、X は、共同保証人間の求償権について消滅時効の中断があると主張した。 1 審は、「共同保証人間の求償は、主たる債務者の資力が十分でない場合に、弁済した保 証人のみが損失を負担することは他の共同保証人に対する関係において不公平であるから、 保証人間の負担の公平性を確保するために設けられた制度であり、その範囲において主たる 債務者への求償権を確保するものであるところ、主たる債務者への求償権につき、確定判決 により時効を中断し、時効期間が10年に延長されたにもかかわらず、共同保証人に対する求 償権については別個に時効中断措置をとらなければならないと解することは、保証債務の附 従性、上記のごとき制度趣旨及び当事者の合理的意思にも反するものといえるから、民法 174条の 2 の規定によって主たる債務者の求償権等債務の短期消滅時効期間が10年に延長す るときは、保証人の債務の消滅時効期間も同じく10年に変ずるものと解すべきである。」と し、「Y に対する本件代位弁済 1、2 に係る求償権等の時効期間は10年であり、消滅時効の起 算点は前訴の判決確定日翌日である平成14年11月 6 日であるから、本件訴え提起時点(平成 24年 7 月25日。当裁判所に顕著)において10年を経過しておらず、Y の主張に理由はない。」 とし、X の請求を認容した。Y が控訴。 これに対して、原審は、求償権の消滅時効の中断効について、次のように判断して、1 審 判決を取消し、X の請求を棄却した。共同保証人間の求償権は、「Y が主張するとおり、主 債務者の資力が十分でなく、主債務者に対する求償では満足できない場合に、出捐した保証 人だけが損失を負担しなければならなくなっては共同保証人間の公平に反することから、共 同保証人間の負担を最終的に調整するために、民法465条が特に創設したものである。この ように、保証債務の全額又は自己の負担部分を超える額を弁済した共同保証人の他の共同保 証人に対する求償権は、民法465条によって創設された権利であって、主債務者に対する求 償権との間に主従の関係(共同保証人に対する求償権が主債務者に対する求償権に附従する 関係)があるとはいえない。」。そうすると、X の A に対する別件訴訟の提起によって、X の Y に対する求償権の消滅時効が中断することはない、と判断した。 これに対して、X は、上告受理申立てをした。(a)共同保証人間の求償権は、主たる債務 者に対する求償権の担保的性格を有し、これに対して附従的性質を有するから、主たる債務 者に対する求償権について時効の中断があると、その効力が共同保証人間の求償権にも及 ぶ。(b)「共同保証人の 1 人が主債務の代位弁済を行ったとき、当該保証人は、主債務者に 対して主債務者求償債権、他の共同保証人に対して共同保証人求償債権を取得すると同時 に、原債権者が有していた原債権及び担保権(これには原債権の人的担保たる保証債権が含 まれる)を取得する。そして、これら代位取得の制度は、主債務者求償権を確保することを 趣旨としたものであり、主債務者求償権に対して附従的な権利であると解されている(最判 昭59・5・29民集38・7・885。最判昭61・2・20民集40・1・43)。」「原債権の担保たる保証債
権とは、原債権者が他の共同保証人に対して債務の履行を請求することを内実とするもので あるから、これを代位取得した保証人が共同保証人に対してこれを行使するということは、 同保証人が共同保証人求償権を行使するということと実質的に異ならない。」「共同保証人求 償権自体も、その制度趣旨たる保証人間の公平の限度において、主債務者求償権を確保する ために存するものであり、原債権にとっての保証債権と同じく、主債務者求償権にとっての 担保たる性格を有するものであるということができる。」「これらの間にも民法457条 1 項を 類推適用し、主債務者求償権に生じた時効中断事由の効力は共同保証人求償権にも及ぶと解 するのが、制度趣旨に適うものである。」(c)「仮にこのような時効中断効を否定するならば、 代位弁済保証人は、主債務者から一部弁済を受け続けている場合でも、共同保証人に対して その求償権の時効中断措置を取り続けなければならないことになるが、そのような事態は、 一般的に、当事者の予期していないことである。」等、と申し立てた(理由第 1 点)。 2 判旨 ―― 上告棄却 本判決は、次ぎのように判示して、X の上告を棄却した。「所論は、共同保証人間の求償 権は、保証人が主たる債務者に対して取得した求償権を担保するためのものであるから、保 証人が主たる債務者に対して取得した求償権の消滅時効の中断事由がある場合には、民法 457条 1 項の類推適用により、共同保証人間の求償権についても消滅時効の中断の効力が生 ずると解すべきであるというものである。 民法465条に規定する共同保証人間の求償権は、主たる債務者の資力が不十分な場合に、弁 済をした保証人のみが損失を負担しなければならないとすると共同保証人間の公平に反するこ とから、共同保証人間の負担を最終的に調整するためのものであり、保証人が主たる債務者に 対して取得した求償権を担保するためのものではないと解される。したがって、保証人が主た る債務者に対して取得した求償権の消滅時効の中断事由がある場合であっても、共同保証人間 の求償権について消滅時効の中断の効力は生じないものと解するのが相当である。」とした。 3 研究 ( 1 )本判決の意義・位置付け 本判決は、共同保証人の 1 人として代位弁済した保証人の主たる債務者に対する求償権に 消滅時効の中断事由がある場合に、その中断効が他の共同保証人に対する求償権について及 ぶかが問題となった事案において、これを否定する判断を最高裁として示した新判例であ る。この問題は特に債権回収をめぐる攻防の最終場面において表面化する重要な問題である が、実務上統一的な見解及び現場での対応策があるとは必ずしもいえない状況にあって、本 判決は理論・実務において意義があると思われる1。そこで以下では、複数の求償権、代位、 1 本判決の評釈等として、中川敏宏・法セ737号120頁、秋山靖浩・法教430号135頁、齋藤毅・ジュリ1495号96頁、 同・曹時68巻10号270頁、下村信江・金法2049号37頁、亀井隆太・新・判例解説 Watch18号79頁、吉岡伸一・岡 法66巻 1 号89頁、渡邊力・民商152巻 3 号271頁、松久三四彦・判時2308号183頁、村田利喜弥・NBL1087号80頁、 小山泰史・リマークス54号18頁、高橋眞・平28度重判解75頁、白石大・現代消費者法34号102頁、日下部真治・ 金判1508号 2 頁、石井教文・金法2043号 4 頁、奈良輝久・銀法21・797号14頁、今枝丈宜・金法2038号88頁、河
附従的性質、担保たる性格、時効の中断効、事案の背景事情、債権回収の実務の視点等から 分析を試みることにする。 ( 2 )本判決の分析 (a)判旨の分析・実務への影響 本判決は、保証人の主たる債務者に対する求償権に消滅時効の中断効が他の共同保証人に 対する求償権に及ぶかが争われた事案において、主たる債務者に対する求償権と共同保証人 間の求償権の関係( 2 つの「求償権の関係」)を中心に議論が展開され、共同保証人間の求 償権の(民法465条)趣旨等を踏まえて、両求償権には担保的関係・主従関係はないと判断 している( 1 審判決との対比からも明確)。 1 審判決は、共同保証人間の求償は、「主たる債務者への求償権を確保するもの」である と判断し、共同保証人に対する求償権について別個に時効中断措置をとらなければならない と解することは、保証債務の附従性、その制度趣旨に反し、さらに、当事者の合理的意思に も反するとも述べている。 これに対して、原審判決は、共同保証人間の求償権は、「共同保証人間の負担を最終的に 調整するために、民法465条が特に創設したもの」で、「主債務者に対する求償権との間に主 従の関係(共同保証人に対する求償権が主債務者に対する求償権に附従する関係)があると はいえない。」とし、また、本判決は、共同保証人間の求償権は、「共同保証人間の負担を最 終的に調整するためのもの」で、「保証人が主たる債務者に対して取得した求償権を担保す るためのものではない」と判断している(一方、第一小法廷は、本判決と同日付けで、原判 決(共同保証人間の求償権は主たる債務者に対する求償権の担保という性質を有するから 457条 1 項が類推適用される旨を判示して、共同保証人間の求償権の消滅時効の中断を認め た判決)を破棄する判決を言い渡した(公刊物不登載)との報告がある2。本件の原審判決と この公刊物不登載判決の原判決の 2 つの高裁判決がでたことからも実務の状況が窺える。)。 このことから、(i)共同保証人間の求償権が主たる債務者に対する求償権の担保という性 質を有しない以上、457条 1 項の類推適用の基礎を欠くことになる(上記・上告受理申立理 由・第 1 点(a)の点)3。またそこには、(ii)主たる債務者に対する関係とは別に他の共同保 証人に対する関係においても時効中断のための措置を講じなければならないと解しても、代 位弁済した共同保証人にとって酷であるとはいい難いとの判断があることが窺える(上記・ 上告受理申立理由・第 1 点(b)との違い)4。 判例・学説での議論の蓄積のない本件の問題はマニュアルの盲点であったことが窺える5。 津博史・銀法21・796号61頁がある。 2 齋藤・前掲曹時276-277頁。 3 秋山・前掲評釈135頁、下村・前掲評釈40頁、渡邊・前掲評釈278頁、中川・前掲評釈120頁、奈良・前掲評釈18頁。 4 齋藤・前掲曹時274-275頁。 5 時効中断の方法について、保証人と主たる債務者の間の中断効に注意が向けられている(経営法友会法務マ ニュアル作成委員会編『新債権管理マニュアル〔増補第 4 版〕』別冊 NBL95号126-127頁)。 実務では、主債務者 が保証人に対する求償債務を分割弁済しているような事案については、他の共同保証人に対する求償権について 時効中断の措置までは取らないことが多いとされ(石井・前掲評釈 5 頁)、平成 2 年頃の関西地域の信用保証協 会実務では、他の地域と異なり、全ての共同保証人が求償債務の連帯保証人と主債務の連帯保証人とを兼ねるわ けはなく、X が Y を求償債務の連帯保証人にしなかったのもやむを得ないとの見方がある(小山・前掲評釈21 頁)。なお、 本問題についての判断がなかった理由として、共同保証人求償権について時効中断が主張されるこ とが稀であること等があるとされる(日下部・前掲評釈 4 頁)。
本判決により、現場の意識改革が進むと思われる。 (b)分析の試み 本判決は、1 審判決を取り消した原審の判断を正当とする。しかし、465条が準用する442 条 1 項の規定の解釈は、債務者間の負担の公平上、負担部分の割合に応じた調整を定めた ものとする立場だけではない。確かに、判例による、「其負担部分ハ何レノ部分ト限レルモ ノニ非スシテ債務額ノ全部ニ通シテ存スルモノナレハ債務額ノ一部中ニモ各自ノ負担ニ属 スル部分ノ存スルハ当然ナリ」とされる(大判大正6.5.3民録23-863)が、学説の解釈の推 移を辿ると複数の見解がある。①立法過程の議事録によると、一部の免責のときはその「免 責の限度で」各自の負担部分について求償できるとする債権担保編第63条に字句の修正を 加えたものとされるが6、議論の余地が残った。②学説は、求償権の根拠・負担部分の意義に 基づく 2 つの有力な説が対立する。(a)出捐によって共同の免責を得たときは、それは自 己の債務の履行であると同時に他の連帯債務者の債務の履行であるとすれば、他の連帯債 務者に対して、その負担部分の「割合」に応じて求償できる。この立場をとれば、共同の 免責を得たときは、その行為は負担部分の割合に応じて他の債務者の債務を履行したこと になるから、債務者間の負担の「公平」上、負担部分の割合に応じて、「免責額が少なくて も」、他の債務者に対して求償できる(多数説・消極説)(富井・末弘等)7。(b)他の連帯債 務者との関係ではその負担部分についてのみ債務を負うとすれば、負担部分が「固有義務」 であり、負担部分を除く部分が他人の債務を「担保」しているとすれば、自らの負担部分 を「超えて」出捐した債務者は、他人の債務を弁済したことになる。この立場をとれば、 負担部分を超えない免責行為は自己の債務の履行であるから、免責額が負担部分を超える ことを要する(有力説・積極説)(梅・鳩山・勝本等)8。また、求償関係の簡略化、「465条」 が共同保証人間の求償には負担部分を超えることを要求していることからもそのように解 される。③その後の論戦は緩やかとなり(a)説が通説と称される一方、近時(b)説は一 般的承認を受けるまでにはいたっていなかった9。確かに、改正民法442条 1 項は最終的に判 6 『法典調査会民法議事速記録7 [ 法務図書館史料7]』(昭和55年)314頁、民法修正案理由書・第443条。 7 富井政章『債権総論 完』(大正元年版復刻)153頁、川名兼四郎『債権法要論』(第 3 版、大正 7 年)332頁、 石坂音四郎『日本民法(債権総論中巻)』(大正10年)876-877頁、末弘巌太郎『債権総論』(昭和 4 年)288頁、 岡村玄治『改訂債権法総論』(第 6 版、昭和 7 年)177頁、林信雄『債権法総論』(昭和16年)181頁、石本雅 男『債権法総論』(昭和26年)284頁、山中康雄『債権総論』(昭和28年)179頁、吾妻光俊『債権法』(昭和29年) 59頁。 8 横田秀雄『債権総論』(明治41年)543頁、梅謙次郎『民法要義巻ノ三・債権編』(昭和59年、大正元年版復刻) 127頁、鳩山秀夫『日本債権法(総論)』(大正 5 年)231頁、中島弘道『債権法論』(第 2 版、昭和 2 年)530頁、吾 孫子勝『債権法要論』(第 5 版、昭和 7 年)155頁、勝本正晃『債権総論中巻( 1 )』(昭和 9 年)187-190頁、岩田 新『債権法新論』(昭和 9 年)131頁、石田文次郎『債権総論講義』(昭和15年)154頁、田島順『債権法』(昭和15年) 147頁、小池隆一『債権法総論』(昭和29年)195頁。 9 我妻栄『新訂債権総論』433頁(昭和39年)、松坂佐一『債権総論』160頁(第 4 版、昭和57年)、奥田昌 道『債権総論』365頁(増補版、平成 4 )、前田達明『口述債権総論』339-340頁(第 3 版、平成 5 年)、平 井宜雄『債権法総論』340頁(第 2 版、平成 6 年)、淡路剛久『債権総論』369頁(平成14年)、内田貴『民 法Ⅲ』377頁(第 3 版、平成17年)、平野裕之『債権総論』400-401、410頁(平成17年)、近江孝治『民法講 義Ⅳ』194頁(第 3 版、平成17年)、中田裕泰『債権総論』431頁(平成20年)(通説)。他方、鈴木禄弥『債 権法講義』469頁( 3 訂版、平成 7 年)、加賀山茂『担保法』140-142頁、164頁以下(平成21年)の主張が ある。相互保証的性格については、於保不二雄『債権総論』237-239頁(新版、昭和47年)、奥田・前掲書 363頁参照。なお、自説を述べないものがある(椿寿夫『注釈民法(11)』121頁(西村信雄編、昭和40年) にも同様の指摘がある。)。
例法理が明文化されたが、中間試案まではそうではなかった10。(b)説からの構成は比較法 的にもみられ、連帯債務者間の求償を(b)説に基づいて保証の規定から構成することもで きると思われる。 次に、信用保証協会 X は、上告受理申立理由第 1 点(先述 1 )において、「代位取得の制 度は、主債務者求償権を確保することを趣旨としたものであり、主債務者求償権に対して附 従的な権利であると解されている(最判昭59・5・29民集38-7-885。最判昭61・2・20民集 40-1-43)。」とし(以下「最判昭59年」「最判昭61年」とよぶ。)、「原債権の担保たる保証債 権とは、原債権者が他の共同保証人に対して債務の履行を請求することを内実とするもので あるから、これを代位取得した保証人が共同保証人に対してこれを行使するということは、 同保証人が共同保証人求償権を行使するということと実質的に異ならない」から、共同保証 人間の求償権は、主たる債務者に対する求償権の担保という性質を有するものというべきで あり、民法457条 1 項を類推適用し、主たる債務者に対する求償権に生じた時効中断事由の 効力は共同保証人間の求償権にも及ぶと解すべきであると主張する(下線筆者・以下同様)。 X が上告受理申立理由で引用する最判昭59年は、「弁済による代位の制度は、代位弁済者が 債務者に対して取得する求償権を確保するために、法の規定により弁済によって消滅すべき はずの債権者の債務者に対する債権(以下『原債権』という。)及びその担保権を代位弁済 者に移転させ、代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを 認める制度」であるとし、弁済による代位制度の「基本構造」を展開した判決であり((i) 原債権の担保権による求償権の確保、(ii)代位行使される担保権の被担保債権は原債権、(iii) 原債権の担保権の行使は求償権の範囲内かつ原債権額まで)、原債権の担保的性質にまでは 言及していないと思われる。さらに、X が引用する最判昭61年は、「代位弁済者が代位取得 した原債権と求償権とは、元本額、弁済期、利息・遅延損害金の有無・割合を異にすること により総債権額が各別に変動し、債権としての性質に差違があることにより別個に消滅時効 にかかるなど、別異の債権ではあるが、代位弁済者に移転した原債権及びその担保権は、求 償権を確保することを目的として存在する附従的な性質を有し、求償権が消滅したときはこ れによって当然に消滅し、その行使は求償権の存する限度によって制約されるなど、求償権 の存在、その債権額と離れ、これと独立してその行使が認められるものではない。」と述べ る。最判昭61年は、原債権・担保権は求償権を確保する目的をもった附従的性質を有し、求 償権の範囲でしか行使できないとする(附従的性質と形容する)が、同判決は原債権等の「行 使範囲(額)」(請求認容の限度)を問題とした判決である。なお、最判昭61年は弁済による 代位制度の基本構造について敷衍し、原債権とその担保権は求償権を確保することを目的と して存在する附従的な性質を有し、求償権が消滅したときはこれによって当然に消滅すると 述べるが(求償権と原債権の主従的競合・一種の法定債権担保)、時効中断効にまでは言及 していないと思われる。 X は上告受理申立理由において、共同保証人間の求償権は、主たる債務者に対する求償権 の担保という性質を有するものというべきであるとして、457条 1 項の類推適用を主張する。 10 (a)(b)両説の議論があるとし(部会資料8-1・5-6頁、8-2・23-24頁、36・21-22頁)、中間試案では、連帯債 務者は、自己の負担部分を超える部分に限り、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分について求償権を有する とされた(中間試案第16、4( 1 )、部会資料67A・15-16頁)が、最終的に判例法理が採用される(部会資料 80-3・9 頁)。
同条 1 項は、確かに、「主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、 保証人に対しても、その効力を生ずる。」と規定するが、これは、保証債務の附従性から当 然に生ずる効果ではなく、主たる債務が時効消滅する前に保証債務が時効消滅することのな いようにして債権者保護・債権の担保を確保しようとする便宜的・政策的規定であると解さ れている(通説)11(457条 1 項は主たる債務の履行を担保することを目的とする保証債務の 附従性に基づくものと解されるとする最高裁判所裁判集民事登載の判決(最判昭43・10・17 判時540・34)(上記 1 審判決が引用)があるが学説の支持はない。)。梅博士の説明(民法要 義)でも、保証債務の附従性とか担保性という言葉はでてこないとの指摘がある12。 X は上告受理申立理由において、原債権の担保たる保証債権とは、原債権者が他の共同保 証人に対して債務の履行を請求することを内実とするものであるから、これを代位取得した 保証人が共同保証人に対してこれ(債権(ア))を行使するということは、同保証人が共同 保証人求償権(債権(イ))を行使するということと実質的に異ならない、と述べる。債権 回収する者の立場から見れば、2 つの債権((ア)(イ))は、債権回収という同一の目的を達 成する手段であり、異なる債権であるという実感はないのかも知れないが、最判昭59年・最 判昭61年(弁済による代位制度の構造論)からは実質的に同じであるということは難しい。 原債権と求償権は別個の債権であり、原債権または求償権の一方の時効中断が他方に当然 には及ばないとしても、一方の中断効の他方への影響が問題となる場合もあると思われる (相互間の影響関係)。判例には、原債権の届出名義の変更により求償権の消滅時効が中断す るかが問題となった事案で、届出名義の変更の申出は、求償権の満足を得ようとしている届 出債権の行使であって、求償権について、消滅時効中断効の肯認の基礎となる「権利行使が あったものと評価する」のに何らの妨げもないとし、求償権を行使する「意思」を明らかに したものとみることができるとしたものがある13。 原債権と求償権は別個の債権であり、原債権または求償権の一方の時効中断が他方に及ぶ かについては見解の対立が見られるところ、本判決は、保証人の主たる債務者に対する求償 権の消滅時効の中断効が他の共同保証人に対する求償権について及ぶか(一方向への影響関 係)が争われた事案で、これを否定した(しかし、「附従的な性質」という評価を文字どお りにとれば、求償権に生じた変化は原債権に影響するが、原債権に生じた変化は求償権に影 響する理由はないことになりそうであるが14、それでよいのか。)。 本件では、原債権と求償権の附従的性質・担保たる性格が強調され、457条 1 項の類推適 用が主張されているが、別の争い方もあったのではないかと思われる。 (岡山大学教授) 11 星野英一『民法概論Ⅲ』187頁(補訂版、平成 4 )、奥田・前掲書402頁。 12 松久・前掲評釈186頁。なお、梅博士は、主たる債務者に対する請求が保証人に対して効力がないとすれば、「過 失ナキ債権者ヲシテ不測ノ損失ヲ被ムラシムルノ虞ナシトセス」等とし、「過失・罪のない債権者」への考慮を 説く(梅謙次郎『民法要義巻ノ三・債権編』(昭和59年、大正元年版復刻)168-171頁)。また、立法過程において は、旧民法債権担保編第27条第 1 項に加えられた「確定判決」の保証人に対する効力が専ら審議の対照となった (『法典調査会民法議事速記録 8[法務図書館史料 8](昭和56年)233-245頁、前田達明監修『史料債権総則(平成 22年)337-349頁[ 執筆・和田安夫])。その後、第九回帝国議会衆議院民法中修正案委員会において、主たる債 務者に行った時効中断の効力がこれを知らない保証人に及ぶとするのは酷であるから、保証人には時効中断の効 力が及ばないとする修正動議がなされたが、否決され確定する(廣中俊雄編『第九回帝國議會の民法審議』(昭和 61年)252-253頁)。 13 最判平 7・3・23民集49-3-984等。 14 高橋・前掲評釈76頁。