原 著
足底部背屈可能な短下肢装具による歩行への影響の分析
井 上
淳
)・林
敏 熙
)・花 崎
泉
) )東京電機大学工学部 )東京電機大学未来科学部Analysis of the effects on gait by ankle foot orthosis which soleplate dorsiflexible
Jun Inoue);Toshihiro Hayashi)and Izumi Hanazaki) 1)School of Engineering, Tokyo Denki University
2)School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki University
Abstract
The authors have developed an assistive device that allows patients with hemiplegia to train natural walk in early after injury. In this study, we develop a lower limb orthosis with a joint that can dorsiflex the MP joint without elasticity by dividing the sole into three layers and making a cut in the middle layer. In this paper, we compared normal walk and walking with a short leg brace that had two types of plantar parts with joints on the sole and a flat type. We first measured the time taken to walk 5 meters, and then measured the range of movement of the sole pressure center. As a result, it was found that the lower limb orthosis with joints in the sole can walk faster than the flat type lower limb orthosis, and that the center of foot pressure can be moved naturally. In addition, it was clarified that the joint position provided on the sole of the foot matches the human MP joint to produce efficient walking.
Key words: gait analysis, assistive technology, sole pressure distribution, lower limb orthosis
要 旨 著者らは,片麻痺患者が早期から自然な歩行訓練をできる補助機器を開発してきた.そのなかで,本研究では従来の 形状とは異なる短下肢装具を開発した.これは足底部を"層に分け,中央の層に凹凸を作ることで,反発力のない MP 関節を反発なく背屈可能にした短下肢装具である.本論文ではそれが歩行に与える影響について検討するために,裸足 歩行と平面型の足底部パーツ,足底部に関節のある種類の足底部パーツをつけた短下肢装具での歩行の計#条件で, 下肢装具の足底部形状が歩行に与える影響を$m 歩行持間と足底圧中心の移動範囲の点から比較した.その結果,足 底部に関節のある下肢装具のほうが平面型の下肢装具よりも速度が速い歩行が可能であることと,足底圧中心移動が自 然にできることが分かった.また,足底部に設ける関節位置が人間の MP 関節と一致していることが歩行速度によい影 響を与えることを明らかにした. キーワード:歩行解析,福祉機器,足底圧力分布,下肢装具 連絡著者:井上 淳 受領日 2019 年 11 月 30 日 東京電機大学工学部 〒120-8551 東京都足立区千住旭町$ E-mail:[email protected]
キーメッセージ ઃ.今回の研究は看護・介護のどのような問題をテーマにしているのか? 研究を行うきっかけとなったことはどのようなことか? 下肢装具ユーザーの歩行時 MP 関節は制限や制動となっているのが一般的であるが,これを遊動とすることで自然 な歩行に近づけ,日常移動中における MP 関節の機能改善を目指した. .この研究成果が看護・介護にどのように貢献できるのか?あるいは,将来的に貢献できることは何か? 足趾は歩行に関して重要な要素であるが,一般的な下肢装具は MP 関節の背屈が阻害されてしまうものがほとんど である.本研究成果を実用化して歩行中に MP 関節の背屈を自然に行わせる装具を開発することで,将来的な歩行困 難を回避することができる. અ.今後どのような技術が必要になるのか? 足底部に複数関節を作ることによる,さらなる自然な歩行の支援検討と,患者個人に合わせた装具足底部関節位置 の決定方法の策定. はじめに 超高齢社会である日本において,高齢者・障害者が 満足した生活を送るためには,QOL(Quality of Life) の向上が必要とされている.QOL は手段的自立,知 的能動性,社会的役割の"つに大別され,それぞれが さらに詳細な項目に分類される.そのなかの非常に多 くの項目にかかわるものとして,自律移動能力の有無 があげられる.この自立移動能力が低下すると,家へ の閉じこもりにつながる.閉じこもり状態になった高 齢者は生活機能得点の低下がみられ,特に知的能動 性・社会的役割の低下に顕著な結果がみられるほか, 抑うつにも大きく影響する1).つまり,自立移動能力の 低下は,体力だけでなく,知的な面,精神面にも大き く負の影響を与えることになる.自律移動能力を低下 させる大きな原因として,骨折などの怪我・脳血管障 害による身体の麻痺等をきっかけとした寝たきり生活 への移行がある.脳血管障害は日本において 111 万 5000 人の患者が存在すると推計されている2).さらに 今後高齢化が進行するに従ってその患者数は増加して いくことが予想されている.脳血管障害などの病気に よる麻痺では,治療後のリハビリテーションにより, その回復度合いが大きく左右される.回復期・維持期 においては,病院での理学療法士によるリハビリテー ションに加えて,特に下肢においては装具を使用した 日常生活での歩行が下肢の機能を維持・向上させるの に重要となる.リハビリテーションを考えるうえで基 本となる考えのつにルーの法則というものがある. これは「身体の機能は適度に使うと発達し,使わなけ れば萎縮し,過度に使えば障害を起こす」というもの である.実際,脊髄損傷や脳梗塞などから来る下肢障 害に対するリハビリの効果は顕著に現れ,吊り上げト レッドミルを用いた訓練では介助を受けても歩行不能 であった患者の約%割が自力歩行可能になったという 報告がある3).また,脊髄が完全に遮断された患者で も,強制的に歩行様の運動をさせることで,あたかも 実際に歩行をしているような筋活動が誘発される4)な どの研究がある.これらからも分かるように,障害を 克服するうえでは通常の歩行と同様の動作をすること が非常に重要である.受傷直後からリハビリや病棟に おいて自然な歩行をすることで,獲得する代替歩行も 正常な歩容に近いものになる.通常の歩容に近い歩行 訓練を支援する機器も多く研究されており,ウェル ウォーク WW-1000 は歩行訓練の初期から最終的な歩 容に近い,膝屈曲を伴う歩行を練習可能なシステム で,運動学習を促す本来の意味でのリハビリテーショ ンを目指しており,2017 年からレンタルが開始され ている5).また,下肢装具に関しても近年の研究で, より健常歩行に近い歩容と機能を再現するためのさま ざまな工学的アプローチの研究がなされており,着地 時に足首への負担を軽減して,自然な歩行を再現する バネ・ダンパ要素などを用いた装具の開発が行われて いる.谷田らは MR 流体ブレーキを用いた足関節の トルクを制御できるアクチュエータを開発しており, 歩行状態を立脚前期,立脚後期,遊脚期の"種類に分 け,装着時のそれぞれの状態の分析を行った6).また 山本らは,歩行の補助のために油圧を利用して足関節 を制御するゲイトソリューションの開発を行い,現在 広く使用されている7). しかしながら,股関節,膝関節,足関節の自然な動 きを再現した歩行を実現できる機器は存在するもの の,足底部の機能を再現した歩行が可能な機器や下肢 装具は販売されていない.足底部には着地時の衝撃を 和らげるアーチ機能が存在する.足のアーチには縦 アーチと横アーチが存在し,歩行エネルギーの効率化 や歩行時の衝撃吸収の役割を果たしている8).また, 歩行中 MP 関節が過伸展するタイミングで,踵骨と 足指をつなぐ足底腱膜が前方に引き寄せられ,縦アー チ高さが高くなることが報告されており,これがウィ ンドラスメカニズムと呼ばれている9).それにより,
歩行の効率化,歩行速度の維持につながることから, これらの機能が廃用してしまうと健常歩行に近い歩行 を行うことが困難になる.また,足部関節角度可動域 の低下は転倒の原因となっていることも明らかにされ ている10).上記の理由から,リハビリや病棟に入院時 から MP 関節の自然な背屈を妨げないことが重要で あり,裸足での歩行に近い重心移動を可能にする足底 部を開発することで,歩行の効率化を図ることができ ると考えられる.また,下肢装具を制作する際,人体 の関節位置や角度に合わせて作成しないことで,人体 への影響があることや,通常の歩行ではなく,代償歩 行となってしまうことが明らかになっている11).この ことから,新たに検討する装具の足底関節に関しても 人体の関節位置から距離があると効率的な歩行を阻害 する可能性がある. 筆者らは,リハビリ室以外での量的歩行訓練の時間 を増加させることを目的とし,片麻痺患者が病棟で量 的歩行訓練を可能にする補助機器の研究を行ってき た.現在開発している,見守りなしでも患者が人で 安全に杖歩行訓練を行うことが可能な歩行訓練器12)13) と併せ,図ઃに示すような足底部の背屈を可能にする 短下肢装具の開発を行っている.背屈を可能にする下 肢装具としては可撓性のある足底部をもった短下肢装 具が研究されているが,高い可撓性をもつ物体であっ ても屈曲時にある程度の力を必要とし,その反発力が 離地時に足部を前上方に引き上げる力として働くた め,歩行速度の低下につながるといった課題があげら れている14).この問題に対し,本短下肢装具は足底部 の板を"層に分離し,図ઃの利用者の MP 関節背屈 と同時に背屈する,装具関節部分の中央層に,図の 断面図に示すような凹凸を施した.さらに,足との接 触面にあたる上層に,切れ目のないインソールを張り 付けることで,背屈は可能だが底屈は防ぐうえ,反力 なしに自然な歩行が可能な形状を実現している.開発 中の歩行訓練器と短下肢装具のつを併せて使うこと で,入院時に病棟において独力で,早期から自然な杖 歩行の訓練を行うことができ,退院までの期間に高い 歩行能力を再獲得することにつながる.下肢装具は歩 行速度や足圧中心軌跡に与える影響がきわめて大きい ことが知られており,このつは装具歩行の評価にも 用いられる15)16).そのため本論文では,この新しい形 状の短下肢装具を実験用に作成し,それらを用いて歩 行計測を行い,足底関節が存在することによる,装具 が人体に与える影響の変化の検討を行うことを目的と した.また,装具の関節位置と人間の関節位置がずれ ていることによる影響は歩行に影響を与えることが予 想されるため,関節位置を変更した装具を用いて歩行 計測を行った. 対 象 本研究で開発している短下肢装具の対象としている 疾患は脳卒中による片麻痺である.本実験では下肢装 具の足底関節が歩行に与える影響を確認するため,短 下肢装具を使用して正常な動作がなされた際に得られ る歩行速度の変化や足底圧分布への影響を実験から得 ることを目的として,20 代若年健常者男性を対象と した. なお,一般的な歩行計測では下腿部の太さや長さ, 足のサイズを定めずに被験者を選定するが,下肢装具 は通常,個人に合わせて製作するものであり,本実験 では足部 MP 関節と足底関節の位置関係が結果に重 要な影響を及ぼすことが予想される.一方で,実験協 力者個人に合わせて装具を製作して計測を行うと,装 具の形状自体の差による影響が排除できない.そのた 図 足底部関節断面図 (a)背屈時 (b)伸展時 図ઃ MP 関節の背屈を妨げない下肢装具 (a) (b)
め,本研究では実験用下肢装具を足のサイズ 28 cm の 対象者に合わせて製作した.また,実験協力者は下腿 部の太さや長さがこの実験用短下肢装具とマッチし, 足のサイズと MP 関節の位置が後述する足底部パー ツのA型と合致することを条件として選定した"名と した.実験協力者の基本属性を表ઃに示す. 方 法 ઃ.実験概要 本実験では裸足歩行と,図અに示す実験用短下肢装 具に,図આに示す足底関節の位置が異なる"種類の足 底部を取り付けた歩行の計#条件を計測した.図આに 示す足底部は左から,足底部に関節がない平面型, MP 関節に合わせて足底関節を製作したA型,A型か ら"cm 近位に足底関節を製作したB型となっており, A型とB型はそれぞれ関節の位置を実線で示してい る.なお,B型は人体の関節から明確にずれた位置か つ,関節の屈曲に影響がある位置として"cm 近位と している.まず歩行速度の計測を行い,その後一歩ご との歩行中の足底圧中心移動量を計測した. .調査期間 調査期間は 2018 年&月$日〜%月 10 日. અ.実験場所 東京電機大学の"次元動作解析室にて実施した. આ.実験装置 足底圧中心移動量は足底圧分布計測装置実験装置 (F-SCAN データロガー)で計測した.この装置は腰 に装着するデータロガー,足首につけるカフユニッ ト,足裏のセンサとそれぞれをつなぐケーブルで構成 されている.センサ部は加わる力の大きさに応じて電 気抵抗値が変化する特殊インキで薄膜が形成されてい る.そして,薄膜の上下には行電極と列電極が一定の 間隔でマトリクス状に配置されており,これらの交点 が個別のセンサセルとなっている.このセンサセルご との電気抵抗値を読み取ることで,加えられた圧力の 分布と大きさを検出する.装置の諸元を表に示す. ઇ.実験手順 実験手順の具体的な順序を表અに示す.()から (")まででインフォームド・コンセント,更衣,身 長・体重の計測を行い,(#)で各条件での$m 歩行 時間を計測した.($)〜(')で各条件での歩行中の 足底圧中心軌跡を計測した. ઈ.実験条件 短下肢装具は足関節を 90 度に固定した状態で使用 し,各短下肢装具を使用する歩行計測の前には,その 条件での歩行の練習を十分に行って歩行に違和感がな くなってから計測を開始した.歩行時間の計測では 10 m 歩行するうちの前後 2.5 m は予備路とし,中央 の$m を通過する時間を計測した.この際,中央の $m は$歩から'歩で通過した. つぎに,足底圧分布計測器を装着して 10 m 歩行を 行った.ただし,足底圧分布は 100 Hz で取得し,中 心軌跡は開始後右足歩と停止前右足歩のデータを 破棄してそれ以外のデータを利用しており,試行ごと に歩から歩のデータを取得した. 図અ 実験用下肢装具 図આ 実験用下肢装具の足底部パーツ 表ઃ 実験協力者の属性 被験者A 被験者B 被験者C 年齢(歳) 21 22 22 身長(cm) 179.6 177.0 175.0 体重(㎏) 88.0 68.0 74.0 BMI 27.3 21.7 24.2 靴サイズ(cm) 28.0 28.0 28.0
なお,どちらの実験も計測回数は 10 回とし,条件 ごとの間には各条件の装具を使用した歩行の練習と$ 分程度の休憩を挟み,疲労が残らないように考慮し た.また,歩行はすべて右足から開始した.下肢装具 着用者の装具の使用は,装具を使用した歩行に慣れ, よろけなどがほぼ出ない期間が大半を占めることか ら,実験協力者本人による歩行の違和感のほか,実験 者の観察によってよろけなどがみられた場合は計測の やり直しを行った. ઉ.倫理的配慮 研究は東京電機大学ヒト生命倫理審査委員会の審査 および承認(課題番号:29-98 課題名:杖歩行訓練 を可能にする歩行補助器の検証)を経て行い,実験は すべての実験協力者からインフォームド・コンセント を得てから行った.本研究における研究費は東京電機 大学から受けており,利益相反は存在しない. ઊ.分析方法 )外れ値の除去 今回の実験では,装具歩行を十分に練習してから計 測を行ったものの,よろけるなどの歩行の失敗が起き ることがあった.これは歩行とは異なる動作である. 装具利用者も通常の歩行でよろけることはあるが,時 間をかけて装具に慣れていくと歩行の失敗は減ってい く.本研究の目的は,装具が利用者の歩行に与える影 響をみることであるため,外れ値の除去を行い,歩行 と異なる動作を除外することとした.標準偏差を用い る方法は,一方向の極端な外れ値に全体が影響され る.本計測ではよろけが起きると前の遊脚期の途中で 足をつくなどの極端に異なった動作となるため,パー キンソン病の歩行分析にも用いられることがある四分 位範囲を用いた外れ値の除去17)を行った.具体的には, 計測データの中央値を算出し,それより下のデータの 中央値を第一四分位,上のデータの中央値を第三四分 位とする.第三四分位から第一四分位を引いた値を IQR と定め,第一四分位から IQR×1.5 を引いたもの を下内境界点,第三四分位に IQR×1.5 を足したもの を上内境界点とする.下内境界点未満の値と上内境界 点をこえる値を外れ値として扱った. 表 足底圧分布計諸元 腰部データロガーサイズ W 107 mm×D 95 mm×H 38 mm 腰部データロガー重量 322 g 足首部カフユニットサイズ W 98.4 mm×D 66.8 mm×H 25.4 足首部カフユニット重量 106 g センサ厚み 0.15 mm 最大サンプリングレート 750 Hz 圧力測定範囲 50 kPa〜500 kPa 空間分解能 5 mm×5 mm 計測点数 955 点 表અ 実験手順 () 器具の安全確認,実験協力者の健康状態の確認を行ったあと,実験の内容について詳しく説明し,実験協力者からインフォームド・コンセントを得た. () センサを取り付けやすいよう,計測用の動きやすい服に更衣させた. (") 身長および体重を測定した. (#) 裸足と,平面型・A型・B型の足底部パーツを取り付けた実験用短下肢装具を右足に装着した計#条件で実験協 力者に 10 m 歩行をさせ,中央$m の通過時間を計測した.回の計測終了ごとに,実験協力者には歩行中の違 和感やよろけなどがなかったかを確認した.なお,各条件の順番を回ごとにランダム化すると,足底部の交換 時に細かな装着のずれなどが起き実験結果に影響する可能性があるため,今回は条件ごとに 10 回連続で計測し ている.各実験用短下肢装具を使用する前には,各装具を用いた歩行に慣れるまで十分に練習してから計測を開 始することで実験順による装具歩行への慣れの影響を排除した.また,実験順による疲労の影響を排除するた め,各条件の間には 5 分程度の休憩を挟んだ. ($) 実験協力者の右足に足底圧分布計を装着し,違和感がないか確認した. (') 再び裸足と,平面型・A型・B型の足底部パーツを取り付けた実験用短下肢装具を装着した計#条件で実験協力 者に 10 m 歩行をさせ,足底圧中心軌跡を計測した.回の計測終了ごとに,実験協力者には歩行中の違和感や よろけなどがなかったかを確認した.なお,足底圧センサは人体にも使用できる弱粘着両面テープで足にセンサ シートを固定したうえで,テープを貼ったことによる値の変化がないことを確認してから計測を開始した.
)一歩ごとの足底圧中心移動量の導出 足底圧中心の移動量を裸足時の自然歩行と比較する ため,本実験では歩行データを一歩ごとに切り出し, 足底圧中心移動量を導出した.立脚期の開始と終了を それぞれ,センサの踵部分に"フレーム以上連続で正 の数値が得られたときと,"フレーム以上連続でセン サ上のいずれの点も正の数値が得られなかったときと 定義した.図ઇに歩行周期の足底圧の積分値と足底 圧中心軌跡進行の例を示す.歩行時の進行方向をX 軸,横向き方向をY軸とし,それぞれ最高値から最低 値を引いた値をX方向移動量,Y方向移動量と定義し た.その後,IQR を用いて外れ値の除去を行った. その際,XとYのどちらかが外れ値として除去された 場合は,双方ともデータを外れ値として除去した. ")有意差検定 本計測では裸足での歩行や,条件の異なる装具を装 着した歩行という,動作に直接大きな影響を与える条 件での歩行を比較する.このため,標本ごとの分散が 異なることが想定されることから,Welch 検定18)を用 いて有意差検定を行った. 結 果 ઃ.ઇm 歩行時間 実験協力者ごとに$m 歩行の時間を各条件で比較 したところ,図ઈおよび表આのようになった.全体の 傾向は実験協力者全員に共通しており,平面型が一番 歩行時間が長く,B型,A型と続き,一番歩行時間が 短いのが裸足歩行であった.つぎに詳細に検証する. 裸足歩行と平面型を比較すると,実験協力者それぞれ が,平面型で 13%,21%,36%と歩行にかかる時間 が有意に増えていることが分かる(p<0.01).また, A型とB型に関してみると,どちらも裸足歩行よりは 有意に歩行時間が長く(p<0.01),平面型短下肢装 具より有意に歩行時間が短い(p<0.01).また,A 型のほうがB型よりも有意に歩行時間が短い(実験協 力者:p=0.02,実験協力者:p=0.03,実験協 力者":p<0.01)ことが分かった. .足底圧中心移動量 足底圧分布から足底圧中心の移動量を算出した結果 の分布を図ઉから図ઋに示す.なお,条件ごとのデー タ数の差異は,実験時の歩数の差および,外れ値の除 去の結果による.また,平均と標準誤差を表ઇに,各 被験者における実験条件ごとの有意差を表ઈにまとめ た.X軸方向については,"人とも裸足歩行での足底 圧の中心移動量が一番大きく,平面型が一番小さかっ た.A型とB型の足底圧中心移動量は実験協力者に よって分布に差があるものの,平面型と比較して裸足 歩行に近いことから,足底関節があることで,自然な 歩行に近づいていることが分かった.Y軸方向につい 図ઈ $m 歩行にかかる時間 エラーバーは標準誤差 *p<0.05 **p<0.01 表આ $m 歩行時間の平均と標準誤差 平均値±標準誤差(s) 実験協力者 実験協力者 実験協力者" 裸足 3.89±0.03 4.60±0.04 4.15±0.05 平面 4.46±0.08 5.57±0.06 5.86±0.14 A 4.11±0.05 5.21±0.04 4.78±0.05 B 4.26±0.04 5.28±0.08 4.97±0.04 図ઇ 歩行中の足底圧分布積分 値と足底圧中心軌跡の例
ては平面型にくらべてA型,B型が移動量が大きくな る傾向が分かった. 考 察 本研究では足底部を"層に分けて関節を設けること で,足底部の底屈はさせずに MP 関節の背屈を可能 とした短下肢装具について,その歩行に与える影響に ついて評価を行った.$m 歩行時間の計測では,従 来の下肢装具と同じ平面型が一番歩行速度が遅く,裸 足歩行での歩行速度が一番速かった.B型とA型は平 面型にくらべて歩行速度が向上しており,これは MP 関節が背屈することで起こるウィンドラスメカニズム により,足のアーチが働いて歩行効率が上昇している ことが原因だと考えられる.また,全実験協力者で足 部 MP 関節の位置と足底部の関節位置が合っている A型が,関節位置がずれているB型と比較して歩行速 度が速かった.このことから,足底部においても人と 装具の関節位置を合わせて製作することが新型下肢装 具の機能を左右することが明らかになった. 足底圧中心移動量をみると,足長と比較してX軸方 図ઉ 実験協力者の足底圧中心移動量分布 図ઊ 実験協力者の足底圧中心移動量分布
向の移動量が短いことが分かる.長谷川らによる研究 でも若年女子健常者で足長に対する進行方向移動量が 71.7±4.2%と,足長よりも移動量が短くなっている19). これは,必ずしも踵の先端から着地し,親指の先端で 離地しないことを意味しており,今回の計測値も妥当 な結果となっていると考えられる.X方向での足圧中 心の移動量をみると,平面型にくらべてA型とB型が 大きく,より裸足歩行に近づいていることが分かった. 立脚期中の足圧中心移動量が短いということは,足 を持ち上げてから移動させているということであり, 効率の悪い歩行につながる.この現象は平面型の下肢 装具が,踵接地からつま先接地までが踵を中心として 図ઋ 実験協力者"の足底圧中心移動量分布 表ઈ 足底圧中心移動量 条件ごとの Welch 検定のp値 実験協力者 実験協力者 実験協力者" X軸 A型 B型 裸足 X軸 A型 B型 裸足 X軸 A型 B型 裸足 平面 p<0.01 p<0.01 p<0.01 平面 p<0.01 p<0.01 p<0.01 平面 p<0.01 p<0.01 p<0.01 A型 − p=0.50 p<0.01 A型 − p=0.03 p<0.01 A型 − p<0.01 p<0.01 B型 − − p<0.01 B型 − − p<0.01 B型 − − p<0.01 Y軸 A型 B型 裸足 Y軸 A型 B型 裸足 Y軸 A型 B型 裸足 平面 p<0.01 p<0.01 p=0.15 平面 p<0.01 p=0.03 p<0.01 平面 p<0.01 p=0.20 p<0.01 A型 − p<0.01 p<0.01 A型 − p=0.18 p=0.11 A型 − p<0.01 p=0.34 B型 − − p<0.01 B型 − − p=0.03 B型 − − p<0.01 表ઇ 足底圧中心移動量の平均と標準誤差 平均値±標準誤差(s) 実験協力者 1 実験協力者 実験協力者" X Y X Y X Y 裸足 190.40±3.33 38.98±0.75 223.07±5.42 42.89±2.83 229.07±1.48 31.76±1.65 平面 167.41±0.861 37.87±0.77 174.56±1.50 32.39±1.65 197.45±1.49 22.58±1.45 A 176.60±5.11 52.50±1.52 201.76±1.47 41.98±1.71 207.65±1.23 28.97±1.43 B 176.61±4.26 45.23±2.01 184.62±3.02 34.21±1.18 211.40±1.30 26.77±1.88
回転し,踵離地からつま先離地まではつま先を中心に 回転する動きになるところに原因がある.健常歩行と くらべて狭い範囲で体重を支える時間が長くなるた め,バランスを保とうとすると立脚後期の早い段階で 下肢を持ち上げることになる.そのため,歩行と歩行 の間でスムーズな重心移動ができなくなる.それに対 し足底部に関節を設けると,つま先接地のあと,MP 関節の背屈が先に起きるため,MP 関節以遠の範囲で 安定して体重を支えることが可能になる.これは装具 をつけない歩行と近い動きであることから,足圧中心 の移動量が平面よりも有意に伸びることにつながった と考えられる.特にA型と平面型を比較すると,それ ぞれ,14 mm,27 mm,9 mm 程度X方向移動量が大 きい.どの被験者も足趾長より短い伸びではあるが, これは上記のように,足底圧中心移動量は必ずしも足 長と一致しないことが原因のつである.ただし,個 人差が大きいため,今後足底部の関節を増やし,この 長さがさらに伸びるかどうか検討を行う. また,Y方向での移動量が平面型よりもA型,B型 が大きくなる傾向があった.これは,MP 関節が動く ことで,指で踏ん張ることができるようになるため, 裸足の歩行に近い動作ができていることによるものと 考えられる.被験者に関しては裸足歩行と比較して も,平均値がA型で 13 mm,B形で'mm 程度大き くなっている.図 10 に裸足とA型装着時の歩行時足 底圧中心軌跡の例を示すように,A型装着時は足底圧 中心が,足の中心やや外側から入って親指側に抜けて いく.一方,裸足歩行時は離地時の足底圧中心が中指 によっており,歩行全体で足底圧中心軌跡が足の中心 近辺を通っていることが原因である. 今回,実験中に数度起きた装具を使用した際の軽い よろけに関する危険性については,長期間装具歩行を 練習しないと,健常者でもよろけを完全に排除するこ とが困難であることが分かった.一方で,片麻痺患者 は歩行訓練をすることを前提として新しい形状の下肢 装具を処方されるため,処方の安全性については歩行 訓練で担保されるものだと考えている. まとめ 本研究では従来の形状とは異なる,足底部に関節の ある短下肢装具が歩行にどのような影響を与えるかを 検討するために,裸足歩行と"種類の足底部パーツを つけた短下肢装具での歩行を$m 歩行持間と足底圧 中心の移動範囲の点から比較した.その結果,$m 歩行時間からは,歩行速度が裸足歩行,A型,B型, 平面型の順に速いことが分かり,足底関節のあるA 型,B型ではウィンドラスメカニズムが働いて歩行効 率が上がったことが考えられる.さらに,足底圧中心 の進行方向移動範囲から,平面型が一般的な歩行とく らべてスムーズに重心移動できていないことが分かっ た.それに対して,A型とB型はX方向,Y方向とも に移動範囲が平面型より広かったことから,歩行の重 心移動の面で改善されていることが明らかになった. 以上のことから,足底部に関節をもつ短下肢装具が歩 行に好影響を与えることが明らかにできた.また,足 底部に設ける関節位置が人間の MP 関節と一致して いることが歩行速度によい影響を与えることを明らか にした.ただし,本研究の限界として,以下の内容が あげられる.装具を使用し始めてその装具に慣れてい くと歩行が変化する.患者に対する追跡研究において は新しい装具に対して"週間の利用後には,使用直後 と比較して慣れが生じ,歩行速度と歩幅が増加すると いう報告もある20).本研究で行った実験では,健常実 験協力者に対してある程度の練習を行ったが,長期間 装具を付けて生活してもらうことは不可能であるた め,本研究の結果を元に,複数群の実際の患者に対し て使用してもらい,十分に慣れたあとの比較を行う必 要がある. さらに,今後は位置の異なる複数の足底関節をもつ 下肢装具を製作し,よろけの発生割合の変化など,歩 きやすさの点からみた人間への影響を調べるほか,筋 電計を用いて筋活動への影響を確認する. 文 献 1)奥野純子,徳力格尓,西嶋尚彦,他.「閉じこもり」 高齢者の体力と生活機能および精神健康度との関連. 図 10 実験協力者の歩行中足底圧分布積分値と足底 圧中心軌跡の例 (左:裸足時 右:A型装着時)
体力科学 52:237-247,2003. 2)厚生労働省.平成 26 年患者調査の概況(2015/12). 2019/11/5[http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/ hw/kanja/14/dl/05.pdf] 3)元 田 英 一,小 山 憲 路,加 藤 晶 子,他.吊 り 上 げ ト レッドミルを使用した脊損不全麻痺患者の歩行訓練. 日脊髄障害医会誌 20:54-55,2007.
4)Kawashima N, Nozaki D, Abe MO, et al. Alternate Leg Movement Amplifies Locomotor Like Muscle Activity in Spinal Cord Injured Persons. Journal of Neurophy-siol 93: 777-785, 2004. 5)山内 実,今井田昌幸,藤掛祥則,他.片麻痺患者 向け歩行練習支援ロボット「ウェルウォーク WW-1000」.日本ロボット学会誌 37:65-66,2019. 6)谷田惣亮,菊池武士,大月喜久子,他.コンパクト MR 流体ブレーキを用いたインテリジェント短下肢 装具"次試作機の開発と足関節弛緩性麻痺患者への 適用.生体医工学 48:50-58,2010. 7)山本澄子.油圧を利用した短下肢装具の開発.リハ 医 39:301-308,2002. 8)高嶋孝倫,藤本浩志,高西淳夫,他.矢状面におけ る歩行中の足部内側アーチ形状変化:X線 DR 方式, 三次元動態解析による計測.日本機械学会論文集C 編 67:3513-3518,2001. 9)長谷川正哉,金井秀作,清水ミシェルアイズマン, 他.着靴が足趾関節運動およびウィンドラスメカニ ズムに及ぼす影響について.形態・機能 5:75-80, 2007. 10)村田 伸,津田 彰.在宅障害高齢者の身体機能・ 認知機能と転倒発生要因に関する前向き研究.理学 療法学 33:97-104,2006. 11)中野克己,今井基次,窪田幸生,他.短下肢装具作 製時に三次元的アライメントを考慮する必要性につ いて.理学療法学 24:263-269,1997. 12)井上 淳,花崎 泉,川村和也,他.見守り無しで 病棟訓練が可能な杖歩行訓練用歩行器の開発と実用 化への課題.電気学会論文誌C 137:452-458,2017. 13)井上 淳,飯岡俊光,川村和也,他.ハーネスを用 いて腰部に接続する杖歩行訓練器の歩行者の運動に 対する追従性の検討.看護理工 7:99-106,2020. 14)米津 亮,鈴木淳也,山縣 学,他.中足指節関節 の背屈運動を再現できる短下肢装具が痙直型片麻痺 児症例の歩行動作に及ぼす影響.日義肢装具会誌 32:190-193,2016. 15)福井啓介,村田 伸,熊野 亘,他.脳卒中片麻痺 者における短下肢装具装着の影響.ヘルスプロモー ション理療研 2:155-158,2013. 16)中野克己.足圧中心軌跡を利用して歩行練習及び装 具作製を実施し歩行自立に至った症例.理療臨研教 22:67-69,2015. 17)岡本 剛,中西義孝,緒方勝也.パーキンソン病デ ジ タ ル 診 断 の た め の 歩 行 分 析.認 知 神 科 学 9: 246-251,2007.
18)Welch BL. The significance of the difference between two means when the population variances are unequal. Biometrika 29: 350-362, 1938.
19)長谷川正哉,島谷康司,金井秀作,他.静止立位時 の足趾接地状態が歩行に与える影響.理療科 25: 437-441,2010.
20)Yamamoto S, Fuchi M, Yasui T. Change of rocker function in the gait of stroke patients using an AFO with oil damper-immediate changes and the short term effect-. Prosthet Orthot Int 35: 350-359, 2011.