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The Traditional Physical Expression of Hotoke-mai Approach to Some Analyses of the Physical Movements with the Idea of <I>Raigo</I>

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Academic year: 2021

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仏 舞 の伝 承 的 身体 表現

身体運動学的分析 と来迎思想 を手がか りとして

弓削 田 綾 乃*

The Traditional Physical Expression of Hotoke-mai

Approach to Some Analyses of the Physical Movements with the Idea of Raigo

Ayano Yugeta

Abstract

The purpose of this research is to explain the structure of the physical movements of the traditional dance "Hotoke-mai" in Japan, where the Buddha appears. I also examine the dramatics and stage effects with the idea of Raigo, where Bodhisattvas appear and lead the people into the paradise.

I have analyzed Hotoke-mai by watching the movements on video, researching many dancing books, guidance documents and the support base of festivals. I chose to study the dance in the following temples and a shrine : Matsunoo temple in Maizuru city, Kyoto Prefecture, Itosaki temple in Fukui city, Fukui Prefecture and Oguni shrine in Mori town, Syuchi-gun, Shizuoka Prefecture.

I have analyzed their movements from the following viewpoints. I. Moving sequences, poses and patterns during the routine. 2. The percentages of movements and poses. 3. The line of physical movements on the moving sequences. 4. The formation of the dancer's hands. 5. The formation changes of all the dancers. 6. The dynamics of the music frequencies and the movements.

The results of the three Hotoke-mai studied are as follows.

As for the festival of Matsunoo, which celebrates the birth of Shaka-Nyorai―identical with the Buddha―,

the key word concerned with "death" is extracted. They make hand formations that means, Amida-Nyorai ―who preaches the teachings―leading

into the paradise. As for the change where 6 dancers point in

8 different directions, it suggest the symbol of 8 leafs Mandala with Dainichi-Nyorai ―who preaches the

truth through all creation―staying in the center. In other words, Buddhas who appeared for Hotoke-mai are the embodiment of the doctrine.

In Itosaki, there is an old legend. People found a sculpture of the thousand armed Kannon in the sea, and it was niched in the temple. Then, some Bodhisa ttvas―identical to Buddhas who seek to save all living beings―and celestial maidens appeared and danced in the sky. The bounding steps of the dance

and the formation that slowly turns clockwise, express floatingness in the sky. It expresses the force running through the sky and the joy of the 8 dancers that are gathered in the center.

Hotoke-mai of Oguni is one of 12 Bugaku in the shrine festival. The first half are the sacred dances of "God's children"

, the latter half are the civil dances of the adult men. Hotoke-mai is one of the sacred dances. It includes, the poses that are metaphors of sex organs, the movements that point at the heaven and earth, the formation of the left turn, the going straight and returning back to the formation, and the

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gold and silver disk adornments.

The structures that are common to the three Hotoke-mai are the following points.

The dancers do some movements that expression the Buddha's World. They express the Buddha's symbolic figures with their hands and the sacred centripetal force with their formation. And, it shows the audience the ways in which dancers walk into the stage from the dressing room, that is known as the religious action of "Gyo-do" .

Performing the above, a scene of "Buddhas appear on the stage, they dance and then leave" . This is the same as the belief of Raigo, where various Buddhas go to and from the paradise and the human world. I consider the above the productions an extraordinary encounter of Buddhas and humans by portrayed by dancers, where by human bodies are a medium to setup the stage for an amazing festival.

Key words : Hotoke-mai, Approach to some analyses of the physical movements, the idea of Raigo

キ ー ワ ー ド:仏 舞 、 身 体 運 動 学 的 分 析 、 来 迎 思 想 1.  は じ め に 1-1.  問 題 の 所 在 と研 究 目的 日本 に は、 人 間 が仏 に扮 して 舞 を舞 う地域 伝 統 芸 ほ とけ まい 能 「仏 舞 」 が伝 承 す る。 そ れ らは 仏 の 面 をつ け た 演 者 が寺 社 の 祭礼 にお い て 舞 う もの で 、 民 俗 芸 能 の 総 論 的 分類 にお い て は、 仏 事 芸 能 、 外 来 芸 能 、 舞 楽 芸 ほ とけ 能 な ど に 区分 さ れ て きた1)。 い ず れ も 「仏 」 を主 題 とす る点 が 共 通 し てい るが 、 信 仰 対 象 とな る超 越 的 存 在 の 「仏 」 は、 誰 もが 日常 的 に 目に で きる もの で は な い2)。 多 くの場 合 は 、信 仰 の 対 象 と して、 そ の 威 光 を期 待 さ れ る もの で あ る 。 日本 の歴 史 に様 々 な影 響 を及 ぼ して きた仏 教 の象 徴 的存 在 で あ る 「仏 」 は 、絵 画 や 彫刻 等 で は な く人 間 の 身体 を 媒体 とす る と、 どの よ うな 意 匠 で 表 わ さ れ る の だ ろ うか 。 また 、 人 間 が 「仏 」 を演 じる こ と に 、 どの よ うな 意 味 が あ るの だ ろ うか 。 口伝 が 主 で あ る 日本 の 伝 統 舞 踊 にお い て 、 そ の 正 確 な伝 播 経 路 や 開 始 時 期 、 発 生 理 由 な どを突 き止 め る こ とは容 易 で は な い 。 しか し、 身 体 に 受 け 継 が れ て き た もの 、 す なわ ち身 体 運 動 とい う芸 能 の表 層 に注 目す る こ と で 、 伝 承 意 義 や 魅 力 とい っ た深 層 の一 端 に迫 る こ と が で きる と考 え る。 も ち ろ ん、 地 域 伝 統 芸 能 が地 域 特 有 の社 会 基 盤 の 上 に成 り立 ち、 何 らか の 目的 を もっ て伝 承 され て き た こ とを鑑 み れ ば 、仏 舞 を支 え る地 域社 会 を始 め と して 、 人 員構 成 、祭 礼 次 第 、 衣 裳 、 装 飾 、 音 楽 な ど を 丹 念 に分 析 し、 包 括 的 に と らえ る こ とが 必 要 だ 。 しか しそ の 一 方 で 、 舞 踊 が 人 間 の 身 体 を媒 体 とす る 以 上 は 、 身 体 レベ ル の 表 現 構 造 を無 視 す る こ とは で き ない 。 伝 承 者 に認 識 され に くい 身 体 レベ ル で の表 現 の 意 味 、 あ る い は意 義 を あ らた め て提 示 す る必 要 が あ る と考 え る。 なお 、 先 行 研 究 を概 観 す る と、 こ れ ま で仏 舞 に 着 目 した研 究 は数 え る ほ どで あ っ た 。 そ の な か で 、水 原 の報 告 に よっ て、 数地 域 の仏 舞 が概 説 され 、 音 楽 的構 造 が お お む ね解 明 され た3)。 ま た、 村 上 が 「糸 崎寺 に伝 わ る仏 舞 の 源流 は 中 国 にあ る」 とい う仮 説 を検 証 す る研 究 を進 め て い る4)。 そ して筆 者 が9地 域 の 仏 舞 の 舞 踊 表 現 に着 目 した 研 究 を進 め て きた5。 しか し仏 舞 の 総 論 的研 究 は、 い ま だ確 立 して い る と はい えず 、 特 に舞 踊 表 現 に焦 点 を あ て て仏 舞 の大 局 的 な意 味 ・意 義 を探 る ア プ ロ ー チ は な か っ た とい え る。 以 上 の見 地 に よ り、 本 研 究 の 目的 を以 下 の よ うに 定 め る。(1)仏舞 の 身体 運 動 的視 点 か ら表現 構 造 を明 示 す る。(2)表現 の基 盤 に あ る と考 え られ る 思想 を切 り口 に仏 舞 の演 出 意 図 を検 討 し、根 源 的 価 値 を探 る。 そ して 、 この 過程 を通 して 、伝 統 芸 能研 究 にお け る 身体 運動 学 的 ア プ ロー チ の 有 効性 に も言 及 して い き た い 。

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仏舞 の伝承 的身体 表現 1-2.  仏 舞 と 来 迎 思 想 次 に、 仏 舞 の 基 盤 と して 推 測 され る民 間 思 想 につ い て 、 日本 古 来 の 芸 能 と関 連 させ 検 討 した い 。 まず 着 目す るの は、 水 原 が 、 仏 舞 の 音 楽 に は舞 楽 曲 《菩 薩 》 の 痕 跡 が あ る と指 摘 して い る こ とだ6)。 《菩 薩 》 は、 仏 に扮 した 複 数 の 演 者 が 、 仏 具 を携 え て 舞 台 上 を練 り歩 く舞 楽 で あ る。 お も に寺 院 の 法 会 で は、僧 侶 や信 者 な どの宗 教 実践 者 らが 隊列 を組 み 、 練 り歩 くこ と に よ って 、 教 義 を体 現 す る仏 事 行 為 を 「行 道 」 とい い、 読 経 や 奏 楽 等 を 伴 う こ とが 多 い 。 《菩 薩 》 にみ られ る練 り歩 き も、 教 義 の 象 徴 的 存 在 を示 現 させ る とい う意 味 で 、 一 種 の 行 道 と と らえ ら れ る7)。 《 菩 薩 》 の よ う に、 何 らか の 教 義 を具 現 し よ う とす る場 で 、人 間 が仏 に扮 して練 り歩 く行 為 を、 本 研 究 で い う と ころ の 「行 道 」 と定 め た い8)。 こ う した 行 道 形 式 を もつ 芸 能 は数 多 く、 中 で も 「仏 に扮 した 演 者 の 行 道 」 は 「来 迎 会 」 で 認 め られ る。 そ こ で 、 仏 舞 に も 同様 の 練 り歩 きが み られ る点 と、 音 楽 的 相 似 が あ る点 と を踏 ま え、 来 迎 会 と仏 舞 との 関連 性 をみ てい き たい 。 来 迎 会 は、 浄 土 宗 、 真 言 宗 、 天 台 宗 、 融 通 念 仏 宗 な どの 寺 院 で伝 承 さ れ て きた9)。 基 本 的 な設 定 は 、 極 楽 浄 土 と人 間世 界 に見 立 て た場 所 を1本 の道(橋) で つ な ぎ、 諸 菩 薩 が 練 り歩 い て臨 終 の 人 間 を極 楽 浄 土 へ 導 く様 子 を再 現 す る もの だ。 そ して こ の芸 能 の 基 盤 とな る のが 、 来 迎 思 想 で あ る10)。 平 安 時 代 末 期 、 武 士 の 台 頭 や 病 の 流 行 な どで 貴 族 社 会 が 崩 壊 した混 沌 と した時 代 に、 末 法 思 想 が 流 布 した11)。 そ う した 中 で 享 受 さ れ た の が 、 念 仏 を と な えれ ば死 後 に功 徳 が あ る とす る極 楽 往 生 を説 く教 え で あ っ た。 極 楽 浄 土 の最 高 位 の仏 で あ る 阿弥 陀如 来 と菩 薩 らが 往 生 の導 き手 と して現 れ る とい う観 念 が 、 来 迎 思 想 で あ る。 妙 な る音 楽 が 天 空 か ら聞 こ え、 香 が 満 ち る 中、 諸 仏 が 飛 来 す る とい う の が 来 迎 の バ リエ ー シ ョ ンで 、 仏 像 ・仏 画 な どに も頻 繁 に描 か れ て きた。 例 え ば 高 野 山 の 『阿 弥 陀 聖 衆 来 迎 図』(写 真1)、 当 麻 寺 の 『二 十 五 菩 薩 来 迎 像 』(写 真2)な ど多 数 の造 形 が残 さ れ てお り、 いず れ も仏 の 来迎 を 瞬 間 的 に切 り取 っ た もの だ とわ か る。 来迎 会 は、 人 間 の 身体 を媒 体 と した、 仏 の 来迎 の動 態 的 ・立体 的 表 現 の 一 つ だ った と考 え られ る。 行 道 とい う形 式 と楽 曲 の類 似 、 さ ら には 一 見 した と ころ演 者 の外 見 か ら も仏 舞 と来 迎 会 との 共 通 項 は 多 い。 そ れ ゆ え に 、仏 舞 に も来 迎 思 想 が 関 与 して い た と推 測 す る の は、 あ な が ち誤 りで な い と考 え る。 そ こで本 研 究 で は 「仏 舞 の 演 出 には 、 諸 仏 が 人 間 を 極 楽 浄 土 に 導 くと い う来 迎 思 想 が 反 映 さ れ て い る」 とい う仮 説 を立 て 、 こ れ を 仏 舞 の 解 釈 の 切 り口 に して 進 め て い きた い14)。 な お 、 来 迎 思 想 の よ う な、 時代 の趨 勢 を反 映 す る流 行 的 思 想 は、 宗 派 を超 えた 民 間信 仰 の レベ ル で と ら え る こ と が 可 能 だ と考 え る 。 した が っ て 本研 究 で は 、 来 迎 思 想 を 「臨 終 に際 して 諸仏 が 現 れ 、 安 寧 な極 楽 へ 導 い て くれ る」 こ と を祈 念 す る 民 間信 仰 的 願 望 と と ら えて 進 め て い く。 写 真1.  阿 弥 陀 聖 衆 来 迎 図/高 野 山12) 写 真2. 二 十 五 菩 薩 来 迎 像/当 麻 寺13)

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1-3.  対 象 と 方 法 本 研 究 の 対 象 は、 現 行 の仏 舞 お よ び 行 事 とす る。 「仏 舞 」 「仏 の 舞 」 とい う名 称(通 称 を含 む)を もち 、 舞 踊 行 為 を行 う芸 能 は、9ヶ 所 に現 存 し、 図1の よ う に 分 布 す る 。 そ れ らの う ち、 「超 越 的存 在 と み な さ れ る仏 に扮 した舞 踊 」 で あ る こ とを 主 た る 条件 と して対 象 を絞 る と、 下 記 の3つ に 絞 られ た15)。 (1)松尾 の仏 舞(京 都 府 舞 鶴 市松 尾松 尾 寺 、 行 事 の 名 称 は 「仏 生 会(花 まつ り)」 (2)糸崎 の 仏 舞(福 井 県 福 井 市 糸 崎 糸 崎 寺 、 行 事 の 名 称 は 「十 一 面 千 手 観 世 音 菩 薩 の 縁 日 ・仏 舞 」) (3)小國 の 仏 舞(静 岡 県 周 智 郡 森 町 一 宮 小 國神 社 、 行 事 の 名 称 は 「例 大 祭 ・十 二 段 舞 楽 」)16) これ 以 降、文 中の 表 記 は、各 寺 社 の 名 称 を と っ て、 "松 尾 の 仏 舞""糸 崎 の仏 舞""小 國 の仏 舞"と す る 。 研 究 方 法 は、 演 舞 のVTR、 稽 古 の観 察 、現 地 に 伝 わ る舞 踊 譜 ・指 導 書 等 を資料 と した 実技 面 の 分析 に よる ア プ ロ ー チ を主 軸 と し、 分 析 結 果 に基 づ き演 出 意 図 を考 察 す る手 法 を と る。 なお 、 身 体 運 動 学 的 分析 方 法 につ い て は、 次 項 で 詳 述 した い。 現 地 調 査 は、1997年 か ら順 次 お こ な い、観 察 記 録 、 AV機 器 に よ る客 観 的 な記 録 、 聞 き取 り調 査 、 資料 の収 集 を お こ な っ た17)。特 に 分 析 に活 用 した 史 料 は次 の もの で あ る。 ・松 尾 寺 所 蔵 の仏 舞 舞 踊 譜(安 永7年 ・西 暦1778 年 作 成)18) ・糸 崎 寺 所 蔵 の寺 院縁 起 書(作 成 年 不 明 の もの を 応 永10年 ・西 暦1403年 に写 本)19) ・大 場 家 所 蔵 の小 國 神 社 の 十 二 段 舞 楽 舞 踊 譜(延 宝5年 ・西 暦1677年 作 成 の も の を 貞 享2年 ・ 西暦1685年 に写 本)20) 2.  仏 舞 の 身 体 運 動 学 的 分 析 の 観 点 と 方 法 2-1.  分 析 の も の さ し 西 洋 を 中心 と した 伝 統 舞 踊 研 究 で は、 ラバ ノ ー テ ー シ ョン を始 め と した 体 系 的 な記 譜 法 を用 い、 分 析 に 活 用 し て い る事 例 が 多 い21)。そ の 一 方 で 、 日 本 国 内 の 研 究 で は、 こ う した記 譜 法 が 汎 用 さ れ て い な い と い う現 状 が あ るが 、 目的 に よ っ て は 必 ず し も 体 系 的 な記 譜 を必 要 と しな い もの も多 く、 身体 運 動

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仏舞の伝承的 身体表現 の 簡 易 な可 視 化 をね ら った 人 型 で 図 示 す る例 が 見 受 け られ る。研 究 者 自身 が 目的 を明確 に し、 何 を ど こ まで 明示 す る必 要 が あ るの か を検 討 して 取 り組 む 場 合 に重 要 にな るの が 、 分析 の 「もの さ し」 の 選 定 だ と考 え、 こ こで 検 討 した い22)。 本研 究 で は 、 日本 にお け る仏 舞 を大 局 的 に と ら え るた め 、 分析 にあ た って は、 芸 能 の 内 側 にい る伝 承 者 の 視 点 か らだ け で は な く、 極 力 外 側 か らの 視 点 を 保 つ こ と を基 本 姿 勢 と した 。 そ れ ゆ え、 汎 的 な思 想 で あ る来 迎 思 想 を解 釈 に定 め た の で あ る。 しか しな が ら、 各 仏 舞 の独 自性 につ い て解 釈 を試 み る際 に は、伝 承 地 域 の 信 仰 や 由来 課 な ど を参 照 す る必 要 が あ った 。 また 、 動作 の 分 節 す な わ ち動 作 の ひ とか た ま りと して の フ レー ズ を抽 出 す る に は、 動 きの 脈 略 を正確 に と ら え るた め に、伝 承 者 らの 認 識 と照合 す る必 要 が 生 じた 。 そ の た め 、伝 承 者 自身 に よ って 記 され た 舞 踊 譜 を参 考 に した 。 こ う して 分 節 化 され た動 作 につ い で は、 日本 で 多 用 され て きた トレー ス 図 に よ る可 視 化 を は か り、 特 に本 田の 、 数種 類 の視 点 で 動 態 を解析 す る手 法 を参 考 に した23)。ま た ク ー ラ ス や笹 原 らの、 踊 りの 場 に お け る鳥 瞰 的 な隊 形 変 化 に よ る全 体 像 の 解 析 も取 り 入 れ た24)。さ らに、動 作 と音 の関係 を よ り正確 に測 る た めに、李 が試 み た音 の強弱 の抽 出 も参考 に した25)。 これ らは 、研 究 者 の 直 感 や 主 観 に よ る動作 の 記 述 法 を排 除 す る こ と につ なが り、 分析 方 法 が 同 じで あ れ ば 、 同 じ結 果 を得 て 、 他 者 が 理 解 しや す く、 追 試 可 能 な方 法 だ と考 え る。 以 上 の よ う に検 討 した 結 果 、 本研 究 の 分析 の 観 点 を、(1)フレー ズ ・ポ ー ズ と全 体構 成 、(2)動と静 の 状 態 の 比 率 、(3)モチ ー フ と な る フ レー ズ の 軌 跡 、(4)手 の ポ ー ズ 、(5)隊形 変 化 、(6)音量 と動 作 の 関 係 性 と し た 。 そ れ ぞ れ の 観 点 と方 法 を次 項 に記 す26)。 2-2.  諸 分 析 の 観 点 と方 法 仏 舞 にお け る身 体 運 動 の 最 小 構 成 単 位 を 「動 き」、 ひ と流 れ の 動 き を 「フ レー ズ 」 あ るい は 「ポ ーズ 」、 フ レー ズ とポ ー ズ の 組 み 合 わせ に よ る全 体 的 な ま と ま りを 「全 体 構 成 」 と定 め た27)。 〈 フ レー ズ ・ポ ー ズ と全 体 構 成 〉 動 作 の 質 的 内 容(方 向 性 、 角 度 、 速 度 な ど)を み るた め に、 動 きの 組 み 合 わせ が 等 しい一 連 の 身体 動 作 を一 単 位 とみ な して フ レー ズ お よ び ポ ーズ を抽 出 した 。 伝 承 地 域 に舞 踊 譜 が あ る もの につ い て は、 こ れ を参 照 した 。 そ して フ レー ズ ・ポ ー ズ の組 み 合 わ せ を調 べ た 。 なお 、 フ レー ズ とポ ー ズ は 次 の よ う に定 義 す る。 一 連 の 動 作 の 中で 、身体部位 のいず れか の関節 にお い て 角 度 変 化 が あ る 場 合 を フ レー ズ 、 無 い 場 合 を ポ ー ズ とす る。 た と え ば上 肢 と下 肢 の 関節 を あ げ る と、 上 肢 の 肩 関 節 、 肘 関 節 、 手 関節 、 手 指 関節 、 下 肢 の 股 関 節 、 膝 関 節 、 足 関節 とな る。 ま た フ レー ズ の 区 切 りは、 同 じ内容 の 動 作 を繰 り返 す 場 合 の 区切 られ る節 、 あ るい は ポ ーズ の直 後 か ら次 の ポ ー ズ ま で の 問の 始 点 か ら終 点 ま で とす る。 地 域 に伝 承 す る 舞 踊 譜 が あ り、 「繰 り返 し」 「以 下 同 じ」 とい う意 味 の 言 い 回 しが あ る場 合 は、 そ の 区切 りに準 じる。 フ レー ズ は動 き方 の 手 順 を明 記 し、 ポ ー ズ は姿 勢 を 明 記 した 。 なお 、1つ の ポー ズ か ら次 の ポ ーズ へ の移 行 の み を 目的 とす る 関節 移 動 は、 演 出意 図 を有 す る他 の フ レー ズ と は動 きの 質 が 異 な る とみ な し、本研 究 で は、 時 間 は計 測 す る もの の 、フ レー ズ と して 抽 出 し ない 。 〈 動 と 静 の 状 態 の 比 率 〉 演 目全 体 の 力 動 性 をみ る ため 、 関節 の角 度 変 化 が み られ る フ レー ズ の 状 態 を 「動 の 状 態 」、 関 節 の 角 度 変 化 が み られ な い ポ ーズ の状 態 を 「静 の状 態 」 と 定 め 、 そ れ らが 全 体 に 占 め る比 率 を算 出 した。 〈 モ チ ー フ と な る フ レー ズ の 軌 跡 〉 各 仏 舞 の 表 現 の 基 幹 とみ な され る フ レーズ の ダ イ ナ ミズ ム を と ら え る た め に、 全 体 構 成 に お け る モ チ ー フ を検 討 した。 舞 踊 にお け る モ チ ー フ とは、 動 きの 集 合 体 と し て、 一 つ の 表 現 的 意 味 を形 作 るパ タ ー ン と と らえ られ る。本研 究 で 対 象 と した 仏 舞 は、 比 較 的少 数 の フ レー ズ ・ポ ー ズ の反 復 が予 想 され た こ とか ら、 繰 り返 し出現 す る フ レー ズ ・ポ ー ズ の一 定 の 組 み 合 わせ を1つ の モ チ ー フ と と らえ、 そ れ ら の身 体 動 作 の軌 跡 を トレー ス して 図示 した 。 〈 手 の ポ ー ズ 〉 多 彩 な形 状 が 観 察 さ れ る 「手 」の 形 に注 目 し、ボ ー

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ズ を抽 出 した 。 こ こで い う手 の ポ ー ズ とは 、 手根 関 節 よ り も遠 位 の 手 指 関 節 が 角 度 変 化 しな い 状 態 を さ す 。い わ ゆ る手 の指 が まっ た く動 か な い状 態 で あ る。 手 指 以 外 の 上 肢 部 位 、 手 関 節 ・肩 関 節 ・肘 関 節 が 角 度 変 化 して い て も、 手 指 関 節 に変 化 が な けれ ば 「手 は ポー ズ 状 態 に あ る」 とみ なす 。 〈 隊 形 変 化 〉 注 目 した隊 型 変 化 の要 素 は、舞 台 上 で の 対 人 関係 、 身体 方 向、 空 間移 動 で あ る 。複 数 の 人 数 で 舞 う場 合 は、 全 体 の 隊形 と演 者 個 別 の 身体 との 両 面 か ら観 察 した 。 身体 方 向 につ い て は、本 研 究 で は 「舞 人 の頭 ・ 体 幹 ・下 肢 が 同 一 方 向 を指 した と きの 方 向 」 と定 義 す る。 また 、 身 体 全 体 を並 進 させ る場 合 を 「隊 形 移 動 」 と表 記 す る。 〈 音 量 と動 作 の 関 係 性 〉 音 と動 作 との 関係 性 を み る た め に、 伴 奏 音 楽 の音 量 す な わ ち音 の 強弱 を時系 列 に沿 っ た波 形 に よっ て 示 した。 波 形 とは、 音 に よっ て 変動 す る 大気 圧 の 変 化 を導 出 した もの で あ る。 これ に よ っ て、 音 楽 、 特 に打 楽 器 の 奏 で る音 の 強 弱 お よ び テ ンポ の 傾 向 を捉 え る こ とが で き る。 ま た管 楽 器 の 音 色 の強 弱 も、 こ の 波 形 の高 低 に あ らわ れ る。 表 記 に際 して、 音 量 の 時 系 列 波 形 の特 徴 が 判 別 で きる各 コ マ の表 示 秒 数 と して2秒 を設 定 し、 波 形 の下 に フ レー ズ ・ポ ー ズ の 種 類 を記 し同機 させ た(図14∼16)。 しか し、 音 源 とな る音 量 が小 さい場 合 は波 形 の分 解 能 力 と して音 の 強弱 を判 別 しに くい こ とが あ るた め 、 状 況 に 応 じ て音 の強 弱 と動 きの対 応 関係 を み る よ うに努 め た。 2-3.  分 析 の 条 件 と 限 界 本研 究 の 目的 が 、 仏 舞 にお け る身 体 運 動 特 性 か ら 身 体 表 現 の 演 出意 図 を検 討 す る こ とに あ る た め、 そ の 分 析 に 当 た っ て は、 動 きの細 部 や 身体 内部 の変 化 な どの数 値 的結 果 を得 る こ とを 目的 と しな い。 以 上 の こ とを前 提 と して、 分 析 の条 件 と限界 をあ げ て お きた い。 一 方 向 か らのVTR映 像 で あ る た め 、後 ろ向 きに な っ た と き に は見 え な くな る。 また 、 他 の 部 分 に隠 れ て 見 え ない こ と もあ る。 そ の よ う な と きは、 見 え る部 分(た とえ ば肘 や 膝)な どの動 きか ら、 動 き始 め 、動 きお さめ を判 断 した 。 フ レー ズ の 軌 跡 は、 明 確 に映 って い る動作 の 一 部 分 を抜 粋 した の で 問 題 は なか った 。 本 分 析 は、 極 力 通 し稽 古 と本 番 の 両 方 を分 析 対 象 と した。 通 し稽 古 で は、 衣 装 をつ け な い た め、 関節 の動 きが と らえ や す い。 そ れ に対 して 、 本 番 で は、 衣 裳 や舞 台構 造 上 、 見 え な い 部分 が増 え る だ け で な く、見 物 人 の多 さな どに よ り、 映像 ・音声 と も に不 明 瞭 に な りや す い 。 さ ら に、 演 者 ・実 施 年 に よっ て、 動作 に弱 冠 の相 違 が あ る こ と も事 実 で あ る。 これ を 補 うた め に、 動 きの 状 態 につ い て は、 舞 踊 譜 と演 者 へ の確 認 を心 が けた 。 なお 分 析 に用 い た ソ フ トは、 一 般 的 に入 手 しや す い市 販 の 映像 ソ フ トで あ り、 動 作 解 析 専 用 の もの で は な い。 先 述 の よ うに、 本 分 析 は、 正 確 な数 値 が 必 要 な 数理 解 析 ・因子 分 析 等 を 目的 と しな い た め 、 誤 差 が 出 る こ とは 避 け られ な い が 、 あ く まで も傾 向 を と らえ る 目安 と して結 果 を用 い る こ とを断 って お く。 次 項 よ り、松 尾 、 糸 崎 、 小 國 の 順 に、 そ れ ぞ れ の 祭 礼 の 概 要 、 身 体 運 動 学 的 分 析 結 果 、 独 自性 の考 察 を記 し、 そ の 後3つ の 仏 舞 の 共 通 項 を あ げ、 総 括 的 考 察 をす る。 3.  松 尾 の 仏 舞 の 動 作 特 性 と 演 出 意 図 3-1.  祭 礼 の 概 要(表4) 京 都 府 舞 鶴 市 は 、 日本 海 に 面 した府 北 東 部 、福 井 県 寄 りに位 置 す る。 港 町 で あ りなが ら、 か つ て 舞 鶴 城 を い た だ い た城 下 町 で 、 「小 京 都 」 と称 さ れ る よ う に、 道 が 碁 盤 の 目状 に並 ぶ 街 並 み が み られ る。 松 尾 地 区 は、舞 鶴 市 の 東 端 の 青 葉 山(標 高693m、 別 名 「若狭 富 士 」 と呼 ば れ る)の 中腹 一 帯 に あ る。 松 尾 地 区へ は、JR京 都 駅 か ら北 上 し、 舞 鶴 市 の 中 心 で あ るJR西 舞 鶴 駅 よ り2駅 離 れ た松 尾 寺 駅 で 下 車 後 、徒 歩 約50分 で 到 着 す る。 お よ そ20世 帯 が 暮 ら し(2000∼2005年 調 査 時)、 生 業 と して は、 農 業 が 主 で あ った が 、 現在 は会社 勤 め が 多 い 。 松 尾 寺 は 、松 尾 地 区 の 中 心 に建 立 す る。 中 国か ら 渡 来 した 唐 の 僧 ・威 光 上 人 が 青 葉 山の 山 中 で馬 頭 観 音 を 感 得 し、 和 銅 元 年(708)に 馬 頭 観 音 像 を ご本 尊 と して安 置 した のが 起 こ り と伝 え られ て い る 。真

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仏舞の伝承的身体表現 言 宗 醍 醐 派 に属 し、西 国 二 十 九番 の札 所 で あ る た め 、 境 内 で は巡 礼 者 を多 くみ か け る。 仏 舞 は奈 良 時 代 に唐 か ら伝 え られ た とい う 口伝 だ が 、 京 都 系 の 文 化 、 雅 楽 の 影 響 を受 け た と い う指 摘 が あ る28)。寺 所 蔵 の古 い 記録 は焼 失 して し まっ た が 、 江 戸 初 期(享 保 、 天 保 な ど)に 舞 われ て い た記 録 は 残 る。 か つ て 修 験 場 が 青 葉 山 山頂 に あ り、 仏 舞 は 、 修 行 を終 え て法 会 の た め に本 坊 ま で下 っ て きた僧 侶 を慰 む 意 味 もあ っ た とい う。 伝 承 形 態 につ い て は、 が く じん まい びと 松 尾 地 区 内 で 、 楽 人29)は 楽 人 、 舞 人 は舞 人 の 家 が 決 ま っ てお り、 長 男 の み に伝 え られ る世 襲 制 とさ れ た30)。彼 らは寺 の 門前 に住 み、 「松 尾 寺 仏 舞 保 存 会 」 と して伝 承 に努 め て い る。 奉 納 に際 して は、 以 前 は 「お寺 の お風 呂 で 身 を清 め、 正 装(和 装)で 精 進 料 理 を い た だ い て か ら本 堂 に あが っ た」 とい う。 こ れ に対 して現 在 は、 洋 装 で 来 て入 浴 は無 く、 食 事 だ け は精 進 料 理 の仕 出 しを と る。 つ ま り、 精 進 潔 斎 が省 略 され て い る。 ぶ っ しょ うえ 仏 舞 が 奉 納 さ れ る花 祭 りは 「仏 生 会 」と も呼 ばれ 、 松 尾 寺 で は 毎 年5月8日 に お こ な わ れ る31)。仏 生 会 とは、 釈 迦 の 誕 生 を祝 う法 会 で 、花 で飾 られ た屋 根 つ きの小 さな御 堂 に誕 生仏 の小 像 を安 置 し、 甘茶 を そ そ ぐ(写 真3)。 <花 祭 りの 前 日5月7日 「お こ も り」> 5月7日 の夜 、 檀 家 の 人 々 が 堂 内 に 集 い祖 霊 追 善 供 養 の 「お こ も り」 を お こ な う32)。参 列 者 は 、10 人 前 後 の僧 侶 と、 多 数 の檀 家 らで あ る 。祖 霊 追 善 供 養 が終 わ る と、 か つ て檀 家 は そ の ま まお 堂 に宿 泊 し て い た 。 しか し現 在 は 、 数 人 を残 して 大 多 数 は夜 の うち に 山 を 下 りる こ とが多 い 。 〈花 祭 り当 日5月8日 〉 正 午 近 くに な る と、 本 堂 内 の外 陣 は、 多 くの 参 拝 者 で う ま る。 笙 と鉦 の 音 を 合 図 に、10数 名 の 僧 侶 達 が 一列 に並 び 、 本坊 か ら本 堂 へ 続 く階段 を昇 って く る。彼 らは 内 陣 にあ が り、 本 尊 の 前 に並 んで 一 斉 に 経 を唱 え 始 め る。 10分 ほ ど た つ と、 僧 侶 らは 立 ち 上 が り右 に 向 き を変 え、声 明 を詠 じ なが ら図2の 右 方 向へ 進 み 、 座 し ちの ぼんご す 。 この声 明 は、 真 言 宗 の 《四 智 梵 語 》 で、 供 物 を 本 尊 に供 え る際 に唱 え る梵 語 の 讃 で あ り、 仏 の知 徳 を褒 め 称 え て い る33)。声 明 が 流 れ る 中、 僧 侶 の 後 写 真3.  花 御 堂(中 央 が 誕 生 仏 像) 写 真4.  行 道 写 真5.  舞 台 上 の 舞 人 と 楽 人

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う に つ い た 仏 舞 の 演 者(舞 人 と楽 人)が 、 一 列 で 行 道 す る(写 真4)。 演 者 ら は、 内 陣左 脇 の小 部 屋 で 準 備 を整 え、 そ こか ら1人 ず つ 登 場 す る の だ。 扮 す る仏 の 種 類 は、 大 日如 来 、 釈 迦 如 来 、 阿弥 陀如 来 の 3種 で 、 そ れぞ れ2人 ず つ 、 合 計6人 に な る。 並 ぶ 順 番 は 、僧 侶 の 後 ろ に 、 舞 人6人(釈 迦 如 来1人 ・ 大 日如 来2人 ・阿 弥 陀 如 来2人 ・釈 迦 如 来1人 の 順)、 楽 人(竜 笛 、靱 鼓 、 大 太 鼓(釣 太 鼓))が 続 く。 舞 人 は そ の ま ま本 尊 の 前 す な わ ち 参 拝 者 の 眼 前 を す り足 で ゆ っ く り歩 き、 舞 台 上 に立 つ 。 楽 人 はそ の 脇 に座 す 。 この 間、参 拝 者 は仏 舞 を観 賞 す る た め に 、 本 尊 で は な く舞 台 の 方 向 に向 き をか え る。 以 上 の そ れ ぞ れ の 位 置 と経 路 を示 す と、 図2の よ うに な る。 楽 が 奏 され る と仏 舞 が 始 ま る(写 真5)。 楽 曲 に ひ ょう じょう ば ん しきち ょ う つ い て は 、 《 五 常 楽 》(平 調 、 盤 渉 調)、 《越 天 楽 》 お うし きち ょう いち こつ ち ょう (平 調 、 盤 渉 調 、 黄 鐘 調)と 《菩 薩 》(一越 調)が 混 在 す る こ とが 指 摘 さ れ て い る34)。現 在 の 仏 舞 に か か る時 間 は約15分 間で あ る35)。 舞 が 終 わ る と、無 音 の 中 、 出 て きた の と逆 の順 お よび経 路 で 舞 台 か ら下 が り、内陣 左 奥 に入 っ て い く。 楽 人 も 同様 で あ る。 僧 侶 達 が 再 び 本 尊 の 前 に並 び、 数分 間 読 経 す る。 そ の あ と僧 侶 達 は鉦 を な ら し なが ら外 縁 に置 か れ た 花 御 堂 の 周 りに移 動 し、 誕 生 仏 像 に甘 茶 をか けて 経 を あ げ る。 そ して僧 侶 達 が 、1列 に並 んで 本 坊 へ 戻 る と、 す べ て の次 第 が 終 了 し参 拝 者 も山 を下 りる。こ こ まで で1時 間 強 の 法 会 で あ る。 〈 舞 台 構 造 〉 松 尾 寺 の舞 台 は本 堂 内部 に設 置 され て お り、 支 度 所(=楽 屋)か ら入 退 場 に か か る 道筋 が つ け られ て い る 。舞 台 上 に は 、畳2畳 分 の 「うす べ り(薄 縁)」 む しろ とい う筵 が 敷 か れ 、 この 上 に6人 の 舞 人 が 立 つ 。 また 、 入 退場 の 道 筋 に注 目す る と、 支 度 所 は ご本 尊 の す ぐ脇 にあ り、 ま るで ご本 尊 の 奥 か ら舞 人 らが 登 場 す るか の よ う に見 え る。 信 仰 の象 徴 的局 所 か ら 諸 仏 が 現 れ 、1列 で ゆ っ く り歩 む場 面 を あ え て見 せ る形 式 は、 一 種 の行 道 で あ る。 な お松 尾 寺 で は 、前 夜 の 「お こ も り」 か ら仏 舞 ま で、 同一 空 間 内 で お こ な わ れ る。 〈仮 面 ・衣 裳 ・持 ち物 〉(写 真6・7) 仮 面 は、 各 仏 が 同 じ造 形 で あ る。 全 体 が 金 色 で、 輪 郭 が 丸 み をお び 、頭 髪 は 渦 を巻 い て 、 頭 頂 部 が 盛 り上 が っ て い る。 眉 間 に 丸 い 盛 り上 が りが あ り、 耳 と眉 が 長 く、 口 は 閉 じる 。 面 の サ イ ズ を阿 弥 陀 如 来 の例 で記 す と、顔 をあ て る部 分 の全 長 は26×17cmで 、 目の 穴が0.6×1.1cm、 鼻 の 穴 が0.3×0.5cmで あ った 。 衣 裳 は、 白 い 法 衣 と袴 、 朱 色 の 光 沢 の あ る袈 裟 、 黄 色 の 手 袋 、 白い 足 袋 を身 につ け、 黒 い布 で頭 頂 部 か ら首 ま で を 覆 い 、 素 肌 が 見 え な い 。 法 衣 、 袈 裟 、 足 袋 は、 僧 侶 の衣 装 と同様 で あ る。 装 飾 品 は、お も に頭 部 に集 中 して い る。 仮 面 に は、 図2.  舞 台 構 造 と演 者 の 経 路

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仏舞の伝 承的身体表現 花 と梵 字 が 描 写 さ れ た金 色 の宝 冠 と瓔珞 、 五 色 の瑞 雲 が 描 か れ た 丸 い 光 背 を装 填 す る(写 真6)。 宝 冠 の梵 字 は、 大 日如 来 、釈 迦 如 来 、 阿 弥 陀如 来 を そ れ ぞ れ示 して い る36)。 一 方 、持 ち物 については、大 日如 来 ・釈迦如 来が ばち 腰 に 靱 鼓 を巻 きつ け、 大 日如 来 は 手 に振 り鼓 と撥 、 釈 迦 如 来 は2本 の撥 を持 つ 。 振 り鼓 は約30cm、 撥 は 約20cmの 長 さで あ る。 阿 弥 陀 如 来 は手 に 何 も持 た な い 。 教 義 に よ る と、 楽 を奏 す の は菩 薩 で あ り、 如 来 は奏 さな い 。 以上 の よ うに 、3種 類 の 仏 が登 場 す る もの の 、 外 見 上 の造 形 は似 て お り、相 違 が 認 め られ るの は 宝 冠 に 記 され た梵 字 と手 に携 え る楽 器 で あ った 。 3-2.  身 体 運 動 学 的 分 析 に よ る 特 性(写 真5) 松 尾 の 仏 舞 に 登 場 す る3種 類 の 仏 は 、 そ れ ぞ れ 異 な る 動 作 を す る(表6)。 表 中 に は モ チ ー フ と な る 運 動 の 軌 跡 も示 し た 。 大 日如 来 ・釈 迦 如 来 に は そ れ ぞ れ2種 類(表6の 大 日A・B、 釈 迦A・B)、 阿 弥 陀 如 来 に は1種 類(同 阿 弥 陀A)の フ レ ー ズ が あ る 。 ま た ポ ー ズ は 、 大 日 如 来 に1種 類(同 大 日a)、 釈 迦 如 来 に2種 類(同 釈 迦a・b)、 阿 弥 陀 如 来 に5種 類(同 阿 弥 陀a∼e) が あ る 。 な お 、 入 退 場 に つ い て は 、 す べ て の 演 者 は 前 方 を 向 い た ま ま す り足 で 進 む 。 手 は 、 そ れ ぞ れ の ポ ー ズaの 構 え を と る 。 大 日 如 来 は 、 フ レ ー ズ に 要 す る 時 間 が 合 計 で12 分22秒 、 ポ ー ズ が5分2秒 で あ る 。 釈 迦 如 来 は 、 フ レ ー ズ が8分52秒 、 ボ ー ズ が8分32秒 で あ る 。 阿 弥 陀 如 来 は 、 フ レ ー ズ が3分30秒 、 ポ ー ズ が13 分54秒 で あ る 。 フ レ ー ズ を 動 の 状 態 、 ポ ー ズ を 静 の 状 態 と み な し 、 そ れ ぞ れ を 動:静 の 概 ね の 比 率 で あ ら わ す と 、 大 日 如 来 が7:3、 釈 迦 如 来 が9:8、 阿 弥 陀 如 来 が1:4と な る(表1)。 し た が っ て 、 大 日如 来 は 動 、 釈 迦 如 来 は 動 ・静 折 半 、 阿 弥 陀 如 来 は 静 、 の 傾 向 に あ る 。 全 体 構 成 に お け る 各 種 フ レ ー ズ ・ポ ー ズ の 組 み 合 わ せ に は 、 そ れ ぞ れ の 仏 で 以 下 の よ う な パ タ ー ンが み ら れ た(ア ル フ ァ ベ ッ トの 大 文 字 は フ レー ズ 、 小 文 字 は ポ ー ズ)。 大 日如 来:AaAaAaBの パ タ ー ン を9回 繰 り返 す 。 釈 迦 如 来:AabAaBの パ タ ー ン を9回 繰 り返 す 。 阿 弥 陀 如 来:AdebとAdebcの パ タ ー ン を 交 互 に4回 繰 り返 す 。 大 日 如 来 の パ タ ー ン は 、"AaAaAaB"の よ う に 、 フ レ ー ズ と ポ ー ズ が 交 互 に3回 ず つ あ ら わ れ る 。 釈 迦 如 来 は 、"AabAaB"の よ う に 、 フ レ ー ズ ・ポ ー ズ ・ポ ー ズ ・フ レ ー ズ ・ポ ー ズ ・フ レ ー ズ と な る 。 阿 弥 陀 如 来 は 、"Adeb"と"Adebc"の よ う に 、1 つ の フ レ ー ズ の 直 後 に3∼4つ の ポ ー ズ を 連 続 し て 行 う 。 い ず れ の 仏 も 、 フ レ ー ズAが モ チ ー フ と な り、 上 肢 の 肘 関 節 屈 曲 位 の ま ま 肩 関 節 を 屈 曲 ・伸 展 させ る こ と に よ り、 手 指 先 で 曲 線 的 か つ 求 心 的 な 軌 跡 を 描 写 真6.  仮 面 と装 飾 品 写 真7.  衣 装 と鼓 ・撥 を身 につ け た状 態

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く。 ま た、 フ レ ー ズ の 所 要 時 間 を み る と、16∼21 秒 か け て 、 これ らの 曲 線 的 ・求 心 的 な 軌 跡 を描 い て い る こ とが わ か る。 さ ら に、 上 肢 の 動 き に比 べ て 下 肢 は 隊 形 移 動 の す り足 と片 足 を1歩 出 す 姿 勢 との2 種 類 の み で あ り、 パ ター ンが 少 ない 。 手 の ポ ー ズ をみ る と、 合 計8種 類 の ポ ーズ が 抽 出 され た(図3、 全 身 の ポ ー ズ との対 応 は 図14)。 ポ ー ズ か らポ ーズ へ の変 化 以 外 で、 た とえ ば手 指 関節 を 屈 曲 ・伸 展 す る動 の状 態 は見 い だせ な い。 手 関節 よ り も遠 位 に 限 れ ば、3つ の仏 は そ れ ぞ れ上 記 の ポ ー ズ の いず れ か を保 持 す る 。 また 、抽 出 した8種 類 の ポ ー ズ の うち 、5種 類 が 阿 弥 陀 如 来 の も の で あ っ た。 そ の うち3種 類 は 、 親 指 と人 差 し指 の 指 先 をつ け た ポ ー ズ で あ る。 隊 形 変 化 をみ る と、 時 間 の 経 過 に 伴 い、 図11の よ う に変 化 して い く(文 末 に 添 付)。 移 動 に伴 い 、 隊 列 は 内 方 向 → 斜 め 方 向 → 外 方 向 とい う方 向 転 換 を、 東 西 南 北 の 各 方 角 を正 面 に据 え て規 則 的 に繰 り 返 す 。 また 、 仏 に扮 した6人 の 舞 人 の 対 人 関 係 は、 3人 ず つ が 等 間隔 で対 称 的 に並 ぶ隊 列 を保 つ 。移 動 は隊 列 全 体 が 同時 に行 う。 個 別 の 身体 方 向性 は、 基 本 的 に隊 列 が斜 め2列 で な い 場 合 、 隊 列 の 位 置 は 変 化 せ ず に5フ レー ズ 分 、 方 向 を変 え な が ら舞 を舞 う(図11の 灘 内)。 舞 人 を 個 別 に み た 空 間移 動 は 、 隊型 移動 に伴 い 、 舞 台 の 四 方 のへ り際 を1周 す る軌 跡 を描 く。1人 の 舞 人 に焦 点 をあ て る と、 図4の よ う に円 周 上 を1周 して も と の 位 置 に戻 る こ とが わ か る。 音 量 と動 作 パ タ ー ンの 関 連 をみ る と、 テ ンポ は 45∼48拍/分 とお お む ね 一 定 で、 旋 律 は 一 定 の繰 表1.  フ レー ズ と ポ ー ズ の数 と従 事 す る 時 間 図3.  両 手 の ポ ー ズ 松 尾

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仏舞の伝 承的身体表現 り返 しで あ る。 動 作 との対 応 関係 に つ い て は 、3種 の仏 が そ ろ っ て フ レー ズ状 態 の場 合 、 あ る い は い ず れ か の仏 が フ レー ズ状 態 で そ れ以 外 の仏 が ポ ー ズ状 態(た と え ば大 日如 来 が フ レー ズA、 釈 迦 如 来 が ポ ー ズb、 阿 弥 陀 如 来 の ポ ー ズcの よ う な状 態)の 場 合 、 太 鼓 は細 か く打 た れ 、徐 々 に テ ンポ が加 速 して音 量 が弱 くな っ て い く(図14の 上 図)。 そ の 際 、太 鼓 の テ ンポ が一 度 加 速 した の ち、3打 ほ ど間 隔 をあ け て 打 た れ 、再 び テ ンポ が加 速 す る とい っ た リズ ム を繰 り返 す 。 3種 の仏 が そ ろ っ て ポ ー ズ状 態 で い る場 合 と、 隊 列 が 斜 め に移 動 す る 場 面(3歩)で は、 同 様 に10 秒 間 に3打 程 度 の 長 い 間 隔 で打 楽 器 が打 た れ る(図 14の 下 図)。 そ の うち ポ ー ズ の 時 は、吹 物(篳 篥 ・笙 ・ 龍 笛 な ど)が 鳴 る こ とが あ る が 、 そ れ 以外 は 太 鼓 の み で あ る 。 以 上 の結 果 に よ り、松 尾 の仏 舞 の 身体 運動 特 性 を 整 理 す る と、 以 下 の よ うに な る 。 移 動 運動 を伴 う動 き を動 の状 態 、伴 わ な い 動 き を 静 の状 態 とす る と、体 幹 は 終 始 静 の状 態 で 、 下 肢 は す り足 の移 動 の ス テ ッ プ以 外 は 静 の 状 態 で あ っ た。 フ レー ズ ・軌 跡 と照合 す る と、体 幹 と下肢 は 直 立 に 近 い 姿 勢 を保 ち 、 屈伸 ・回 旋 運 動 が ほ とん どみ られ な い 。 そ れ に対 して 、 上 肢 は肩 関 節 ・肘 関 節 と も に 屈 伸 お よび 回 旋 運 動 が み られ た 。 また 、 日本 の 民 俗 舞踊 に 頻 出 す るナ ンバ や 反 閑 な どが 用 い られ て い な い 。したが っ て、直 立 の 立 位 姿 勢 で 、手 関節 は掌 屈 位 、 肘 関節 は屈 曲位 の ま ま、 肩 関 節 の 動 き を中 心 に上 肢 を動 か す 運動 を多 用 す る とい う、 上 肢 に動 作 を集 中 させ た 舞 踊 で あ る こ とが 判 明 した 。 ダ イナ ミ ッ ク な 回転 運動 や跳 躍 運 動 を伴 わ ず 、 フ レー ズ ・ポー ズ の 一 定 の組 み合 わ せ の パ ター ン を繰 り返 す ス タ テ ィ ッ ク な舞 踊 とい え る 。 上 肢 の動 作 軌 跡 をみ る と、 大 日如 来 は鼓 を打 つ 動 作 を所 作 化 させ た もの で あ り、 阿 弥 陀 如 来 と釈 迦 如 来 は 上肢 を胸 の 前 に収 束 させ て い く円描 の 求 心 的 な 動 作 で あ った 。 音 との 関 連 をみ る と、 こ の求 心 的 な 上肢 の 動作 の リズ ム は、段 階 的 に速 くな る太 鼓 の リ ズ ム に 連 動 し て 収 束 し て い る こ と が 明 らか に な っ た 。 これ に よ って 、動 作 と音 の リズ ム の連 動 に よ り、 求 心 的 な 上 肢 の 動作 が 強 調 され 、直後 の 「静 」の ポ ー ズ が よ り印象 的 に顕 示 され る とい った 表 現 上 の 効 果 が推 察 され た 。 手 の 形状 に注 目す る と、 肩 お よ び肘 関 節 が 動 い て い て も、 手 指 の 形 に よ る何 種 類か の ポ ー ズ は動 作 中 も保 持 され た 。 仏 の 種 類 か ら手 の 形 をみ る と、 大 日 如 来 が1種 類 、 釈 迦 如 来 が2種 類 で あ る の に対 し、 阿 弥 陀 如 来 に は5種 類 の ポ ー ズ が あ り、 最 も多 い。 隊 形 変化 を鳥 鰍 的 にみ る と、等 間 隔 で2列 に並 び 、 隊 列 全体 で 内 → 斜 め → 外 方 向 と い う方 向転 換 を、 東 西 南 北 で 規 則 的 に繰 り返 す 。各 舞 人 の 身体 方 向性 は 、 隊 形 変化 に伴 い 、 舞 台 の ヘ リ に沿 っ て 円周 上 を1周 して い る こ とが 判 明 した 。 3-3.  演 出 意 図 の 考 察 松 尾 の 仏 舞 にお い て 、高 い重 心 の 直 立 姿勢 を保 ち 、 掌 と肘 を 曲げ た 状 態 で 、 肩 を軸 に して腕 を動 か す 動 作 を多 用 す る。 これ に よ り、 上 肢 に動 きを集 中 させ た 舞 踊 で あ り、 上 肢 の 軌 跡 お よ び形 状 が 要 に な っ て い る と考 え られ よ う。 動作 軌 跡 をみ る と、 大 日如 来 と釈 迦 如 来 に鼓 を打 つ 運 動 が み られ る。 釈 迦 如 来 と阿 弥 陀如 来 に は、 円 を描 き なが ら上 肢 を胸 の前 に収 束 させ て い く求 心 的 運 動 もあ る。 こ の よ う な求 心 的運 動 は、 段 階 的 に速 くな る太 鼓 の リ ズ ム に連 動 して 収 束 す る傾 向 が あ る。 これ に よ っ て、 動 作 軌 跡 と リズ ム の連 動 で 求心 的 運 動 を強 調 し、 直 後 の 「静 」 の ポ ー ズ が よ り印象 図4.  舞 人 の 空 間 移 動

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的 に顕 示 さ れ る。 こ う した 「動 」 か ら 「静 」へ の 収 束 は対 極 を 意 味 し、 反復 す る こ と に よ って 、循 環 を 示 唆 す る の で は な い か と考 え る。 じよ ういん 手 の ポ ー ズ をみ る と、釈 迦 如 来 で 「定 印 」 が 抽 出 され た 。 定 印 と は、 智 を悟 るた め に心 を静 め て静 寂 に 保 つ た め の 「手 印 」 で あ る37)。 また 阿 弥 陀 如 来 で は、3種 の 「来 迎 印 」 が 抽 出 され た 。 来 迎 印 と は、 死 に臨 んで 、 極 楽 浄 土 か ら二 十 五 菩 薩 を伴 い 阿弥 陀 如 来 が 迎 え に くる とい う教 え を あ ら わす38)。 どの 指 を結 ぶ か で、 極 楽往 生 に9つ の 等級 が つ け られ る じ ょうぼ ん じょう し ょう じょうほ んげ しょう が 、 こ こ で み ら れ る の は 、 「上 品 上 生 」 「上 品 下 生 」 げ ほ ん げ し ょ う 「下 品 上 生 」 とい う手 印 で あ る。 最 高 の 等 級 「上 品 上 生 」 で は 、 経 文 をそ らん じ るほ どで なけ れ ば な ら な い が 、 あ との2つ の 等 級 は、 日頃 か ら道 理 をわ き ま え、 因 果 を信 じ、 教 え を重 ん じる人 々が 迎 え られ る こ と を意 味 す る。 この 阿 弥 陀 如 来 の 来 迎 院 は、 寺 院 の法 会 に集 ま って くる 熱 心 な檀 家 た ち に とっ て 、 相 応 な極 楽 へ の約 束 を意 味 す る と解 さ れ る 。 隊 形 を鳥 鰍 的 に み る と、 等 間 隔 で2列 に並 び、 隊 列 全 体 で 内→ 斜 め→ 外 方 向 とい う方 向転 換 を、 東西 南 北 で規 則 的 に繰 り返 す 。 つ ま り、均 等 な8方 向 を 踏 ん で い く こ とに な る。 こ の 「8」 とい う数 字 は 、 密 教 系 に とっ て 重 要 な意 味 を持 つ 。 そ れ は仏 教 世 界 を端 的 にあ らわ す 胎 蔵 曼 茶 羅 の 中核 を なす 数 字 だか ち ゅうだ いは ちよ うい ん らで あ る。 曼 茶 羅 の 中核 を支 え る 「中 台 八 葉 院 」は 、 蓮 の 花 弁 を8つ に広 げ、そ れ ぞ れ の 上 に 諸 仏 が 座 す 。 そ して 花 弁 の 中 央 に は、 大 日如 来 が 座 す の で あ る 39)。 大 日如 来 を登 場 させ 、8方 向 を均 等 に 向 く とい う仏 舞 の表 現 は、 こ の曼 茶 羅 を な ぞ っ て い る と思 え て な らな い。 つ ま り、仏 の 世 界 を顕 示 す る と とも に、 曼 茶 羅 世 界 を な ぞ る こ とで仏 の 世界 へ の接 近 を意 図 して い る と考 え る 。 終 わ りに 、祭 礼 の全 体 構 造 か ら松 尾 の 仏 舞独 自の 表象 を検 討 して み た い 。 松 尾 の 祭 礼 に は、 「死 」 に ま つ わ る要 素 が 多 い。 山 に登 り、 寺 に 一 晩 こ も る とい う 時 点 で 、 す で に 檀 家 の 人 々 は 下 界 か ら異 界 へ と足 を踏 み 入 れ て い る。 死 者 を供 養 し、 お こ も りを経 た 人 間 は、 釈 迦 如 来 と とも に一 年 に一 度 の 「誕 生 」 を経 験 す る 。 こ う して醸 成 さ れ た死 へ の思 い は 、極 楽往 生 に 集約 され る と考 え る 。松 尾 の 身 体 運 動 特 性 は、 図 画 や 経 典 な どの 「仏 」 の 意 匠 に きわ め て 近 か った 。 狭 い本 堂 の 中 、 僧 侶 ら に よ って 法 会 が 進 め られ 、 観 客 の眼 前 に す え られ た 舞 台 で 、 金 色 を基 調 と した容 色 の仏 が雅 楽 にあ わせ て抑 制 の きい た舞 を舞 う。 三 者 三 様 の存 在 意 義 を もつ 各 如 来 の表 現 に よっ て、 死 後 の安 泰 と い うご利 益 を視 聴 覚 に訴 え る と同 時 に 、死 を意 識 す る こ とに よっ て現 在 の 生 を戒 め る役 割 を、 この 仏 舞 は担 っ て い る と考 察 され る。 4.  糸 崎 の 仏 舞 の 動 作 特 性 と 演 出 意 図 4-1.  祭礼 の概 要(表4) 福 井 県 の 県 庁 所 在 地 で あ る福 井 市 は、 日本 海 に面 した 北 部 に位 置 す る。 奈 良 時 代 か ら大 きな荘 園 を有 し、戦 国 時代 に は 、福 井 城 を い た だ い た城 下 町 で あ っ た。 糸 崎 地 区 は、 福 井 市 の北 西 部 、 海岸 か ら小 高 い 山 の稜 線 へ 続 く一帯 に あ る 。 糸 崎 地 区へ は、福 井 市 の 中 心 で あ るJR福 井 駅 で 下 車 後 、 バ ス で 約50分 で 到 着 す る。 お よ そ40世 帯 が 暮 ら し(2000∼2005 年 調 査 時)、 漁 業 で は な く農 業 を お も な生 業 と して きた 。 昭 和 初 期 の 記 録 で も、 周 辺 に は水 産 業 の地 区 が 多 い 中、 糸 崎 の み 漁 家 が な く、 大 部 分 が 農 家 とい う特 殊 な地 区で あ る こ とが 指 摘 さ れ て い る40)。 糸 崎 寺 は、 眼 前 に海 、 背 後 に 山 を い た だ く糸 崎 地 区 の 中心 に建 立 す る。 海 を見 下 ろ す よ うに して 山 側 に建 ち、か つ て の 七 堂 伽 藍 の う ち、観 音 堂 と雷 神 社 、 そ して本 房 を残 す の み で 、尼 僧 が 一 人 で 守 っ て い る 。 糸崎 寺 は 、 も とは 天 台 宗 で あ っ た が 、 戦 乱 の 時 代 に現 在 の真 言 宗 智 山 派 に 改 め た 。 寺 に伝 わ る 『糸 崎 寺縁 起 書』(写 真81403年 書 写 の 署 名;糸 崎寺 所 蔵) に よ れ ば 、 養 老 年 間(717-723)に 高 僧 泰 澄 大 師 に よ っ て 開 か れ、 そ の 後 天 平 勝 宝8年(756)に 唐 僧 禅 海 上 人 が 草 房 を開 い た 。 そ の 頃 に海 中か ら十 一 面 千 手 観 世 音 菩 薩 像 が あ らわれ 、 禅 海 上 人 に よっ て 安 置 、 糸 崎 寺 の本 尊 と な っ た 経 緯 が 記 さ れ て い る。 仏 舞 は、 こ の十 一 面 千 手 観 世 音 菩 薩 像 を安 置 した観 音 堂 を 開 く際 に天 か ら諸 仏 が 現 れ舞 っ た様 子 を再 現 して い る と語 り継 が れ て お り、 糸 崎 の 人 々 には 「歓 喜 の 舞 い」 とい う共 有 認 識 が あ る。 糸 崎 の 仏 舞 は 、

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仏舞の伝承的 身体表現 この 縁 起 譚 に ち な み 、4月18日(隔 年)の 千 手 観 世 音 菩 薩 の縁 日の 法 要 で 舞 わ れ る。縁 日 と は、 特 定 の仏 菩 薩 と縁 を結 び ご利益 を得 る 日の こ とで 、 特 に 観 世 音 菩 薩 の縁 日は 平 安 時代 か ら民 間 で 知 られ て い た41)。 伝 承 形 態 につ い て は 、 演 者 は糸 崎 の 湧 き水 を産 湯 に した 糸 崎 地 区 の 男 性 で な けれ ば な ら ない とい う決 ま りを守 って きた 。 以 前 は長 男 に限 って い た が 、 現 在 は 上 記 の 条 件 を満 た せ ば 長 男 以 外 で も資 格 を得 ら れ る。 また 、1週 間 前 か ら魚 肉 酒 色 を断 ち 、 本 房 で の稽 古 に励 む 。 当 日 は、 前 日 に持 ち 帰 った 道 具 一 式 を持 参 し、 塩風 呂 で 身 を清 め 、 同 じ 山 にあ る天 満 神 社 で の 祈祷 を経 て 、 仏 舞 奉 納 に臨 む 。 水 に関 す る事 柄 が 多 い の は、 糸 崎 地 区 に 「水 間 」 姓 が 多 い こ とか ら も伺 い 知 る こ とが で き る。 〈十 一 面 干 手観 世 音 菩 薩 の 縁 日 当 日 〉 仏 舞 の 舞 台 は、 観 音 堂 の 正 面 に設 置 され た 屋 外 の 石 舞 台 で 、 観 音 堂 か ら は石 畳 の 通 路 で つ なが って い る。 舞 台 上 で は、 まず 午 後1時 過 ぎ∼2時 過 ぎ くら い ま で の 問 に、 約30分 間、 僧 侶 に よる 読 経 が お こ な わ れ る。 そ の 後 、 舞 台 上 に ご詠 歌 和 讃 の 女 性20 名 ほ どが あ が るが 、 この 部 分 は昭 和 に入 って か ら新 た に加 え られ た もの で あ る。 この 後 、 半 鐘 が 打 ち鳴 ら され る と、 仏 舞 の 演 者 ら が 内 陣 奥 か ら現 れ1列 に並 んで ゆ っ く り行 道 し、 舞 台 に上 が る(図5)。 そ の 並 び順 は、 先 導 → 僧 侶 → か どまも り ねん 楽 人 → 角 守(幼 稚 園 か 小 学 低 学 年 男 児2人)、 念 菩 薩(小 学 校 高 学 年 男 児2人)、 舞 人(成 人男 性8人; ま いぼ とけ 「舞 仏 」 と 呼 ば れ る)で あ る 。 そ の 間 、 笙 、 竜 笛 、 え て ん ら く 篳 篥 の 楽 人 に よる 《 越 天 楽 》(平 調)が 奏 さ れ る。 だ こ ぼ と け は しぼ とけ なお 、 舞 人 が 扮 す る仏 の 種 類 は、 打 鼓 仏2人 、 撥 仏 てぼ と け 2人 、 手 仏4人 で 合 計8人 に な る。 図5の よ う に、 一 行 は観 音 堂 の 内 陣 裏 か ら現 れ 、 外 陣 を通 り抜 け て廊 下 を横 切 り階 段 を下 りる。 そ し て 正 面 の 舞 台 へ との び る石 畳 の 道 を ゆ っ く り歩 い て 進 む 。 石 舞 台 に到 着 す る と、 舞 仏 、 角 守 、 念 菩 薩 は 舞 台 へ とあ が り、 順 に正 面 の本 尊 に 向か っ て一 礼 し た あ と、 舞 人 は、4名 ず つ 両 側 に別 れ、 そ れ ぞ れ 向 か い 合 わせ に立 つ 。 なお 角 守 と念 菩 薩 は、 合 掌 を し なが ら四 隅 に立 つ 。 一 方 、 僧 侶 と越 天 楽 を奏 す る楽 人 は、 舞 台 の 奥 につ く られ た席 に座 す 。 そ の脇 に や ぐ らが 設 置 さ れ て お り、 そ の 上 に は 長 胴 太 鼓(「 道 太 鼓 」 と呼 ばれ る)と 鉦 鼓 が 置 か れ る。 仏 舞 の伴 奏 は、 この 長 胴 太 鼓 と鉦 鼓 の み で あ り、 笙 ・竜 笛 ・篳 篥 は行 道 にの み 奏 さ れ る。 全 員 が 位 置 につ く と、 長 胴 太 鼓 が 打 ち 鳴 ら され る な か、 舞 人8人 が 内 側 に 歩 み 寄 り、 円 形 を つ くる。 写真8. 糸崎寺伝来の縁起書 写 真9.  行 道 写 真10.  舞 台 上 の 舞 人

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そ して 舞 が 始 ま る。 糸 崎 の 仏 舞 は、4つ の 場 面 に大 別 され 、 そ れ ぞ れ に名 称 が つ い てい る。 そ れ は順 に 「一 番 太鼓 の 舞 」→ 「二 番 太 鼓 の舞 」→ 「念 菩 薩 の 舞 」 → 「三 番 太 鼓 の舞 」 とい う よ うに、 お もに太 鼓 を冠 した名 称 で呼 ば れ る。 こ れ らの うち 「念 菩 薩 の舞 」 だ け は、 舞 踊 とい う よ りは マ イ ム で あ る 。 「二 番 太 鼓 の舞 」 が 終 わ る と、 8人 の舞 人 た ち は い っ た ん 舞 をや め て 、 舞 台 の 両 側 に 別 れ 、 最 初 と同 じ よ う に立 つ 。 す る と念 菩 薩2名 はす が 中 央 に進 み 出 て 、 蓮 の 花 を分 け持 った り、 拝 礼 を 繰 り返 した りす る。 これ を終 え る と念 菩 薩 は も との 舞 台 隅 に戻 り、 合 掌 して立 つ 。 そ して舞 人 が 中央 に 歩 み 出て 円形 に な り、 「三番 太鼓 の 舞 」 が 始 ま る。 「三番 太鼓 の 舞 」で は、舞 人 は 順 に 舞 うの をや め て 、 一 礼 した の ち脇 に下 が る。 こ れ は最 後 の1人 に な る ま で続 き、最 終 的 に はベ テ ラ ンの 舞 人1人 が 舞 う(最 後 の1人 を 「舞 残 り」 と呼 ぶ)。 「舞 残 り」 が 舞 を終 え 、脇 に 下 が る と仏 舞 は 終 了 す る。 そ して登 場 し た と き と同様 に《 越 天 楽 》(平 調)が 流 れ る なか 、 演 者 らは 一 列 縦 隊 で 行 道 し観 音 堂 へ 入 って い く。 以 上 の 一 連 の 仏 舞 の所 要 時 間 は、 約30分 で あ る。 し か し、 も と も と は こ の倍 近 くか け てお こ な っ て い た の を、 約 半 分 に省 略 して い る とい う。 仏 舞 を終 え る と、 こ の縁 日の行 事 は終 了 とな る 。 図5.  舞台 構 造 と演 者 の経 路

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仏舞 の伝承 的身体表現 〈舞 台 構 造 〉 糸 崎 の 仏 舞 は 、 前 述 の とお り、 観 音 堂 の 正 面 に設 置 され た屋 外 の 石 舞 台 で 舞 わ れ る。 観 音 堂 と舞 台 を 結 ぶ 通路 に は 、 舞 台 よ りも低 い欄 干 が つ け られ 、橋 の よ うに み え る。 仏 舞 の 演 者 は 、 観 音 堂 か ら 出 て、 まず この橋 の よ うな 通 路 にの ぼ り、 つ きあ た りを右 に まわ っ て 舞 台 にあ が る。 舞 台 は、 約4m四 方 の 広 さで 、 観 客 は 石 舞 台 を囲 む よ う に して 仏 舞 を見 物 す る。 しか し舞 台 自体 が 石 垣 の 上 に載 せ られ た 高 い 舞 台 で あ るた め 、観 客 は舞 人 を見 上 げ る か た ち に な る。 また 、 入 退 場 の 道 筋 に注 目す る と、 支 度 所 は ご本 尊 の す ぐ裏 にあ るた め 、 ま るで ご本 尊 の 奥 か ら舞 人 らが 登 場 す るか の よ う に見 え る。 信 仰 の 象 徴 的 局 所 か ら諸 仏 が 現 れ 、1列 で ゆ っ く り歩 む 場 面 をあ えて 見 せ る形 式 は、 一 種 の 行 道 で あ る。 仮 面 につ い て は、 現 在 使 わ れ るの は昭 和 初 期 につ くられ た 金 色 の 面 だ が 、 鎌 倉 時 代 の 作 と して 保 管 さ れ て い る面 は褐 色 が か った 漆 塗 りで 、 輪 郭 が 丸 み を お び 、 鼻 腔 と額 が 広 く、 まげ の よ う な頭 頂 部 の 盛 り 上 が りが あ る。 眉 が 長 く、 口の 脇 と顎 に は髭 が 描 か れ て い る。 目の 穴 は約1.3×0.8cm、 鼻 の 穴 は約0.2 ×0.4cmで あ っ た(撥 仏 の面)。 表 情 はそ れ ぞ れ 弱 冠 異 な るが 、 造 作 は ほ ぼ同 一 で あ る。 衣 裳 は、 黒 い 法 衣 と 白袴 に、 金 色 の 光 沢 の あ る袈 裟 、 白い 手 袋 、 白い 足 袋 と わ ら じを は き、 濃 紺 の 布 で 頭 頂 部 か ら首 まで を覆 い、 襟 元 が 弱 冠 露 出す る も の の 、 素 肌 は ほ とん ど見 え な い。 袈 裟 の模 様 は舞 人 ご と に弱 冠 異 な る。 法 衣 、 袈 裟 、 足 袋 は、 僧 侶 の衣 装 と 同様 で あ る。 装 飾 品 は、 頭 上 に金 色 の 宝 冠 を載 せ 、 打 鼓 仏 と撥 りんぽ う 仏 の 頭 上 に は、 仏 教 で い う とこ ろ の 「輪 宝 」 とい う 車 輪 をか た ど った もの をつ け る。 そ の 中央 に は極 楽 浄 土 お よ び 諸 仏 の象 徴 で あ る 蓮 の 花 が 描 か れ て い る。 一 方 、 手 仏 は理 路 を た ら した宝 冠 をつ け、 先 端 に は半 月 をか た どっ た よ う な形 象 が つ い て い る。 持 ち物 につ い て は、 打 鼓 仏 は輻 鼓 の よ うに胴 が くび れ た 鼓 を腰 に巻 きつ け て、 手 に振 り鼓 と撥 を持 つ 。 撥 仏 は胴 が くびれ てい な い鼓 を腰 に巻 きつ け て、 両 手 に撥2本 を持 つ 。 振 り鼓 は約30cm、 撥 は約50cmの 長 さで あ る。 手 仏 は何 も携 え な い。 以 上 の よ う に、3種 類 の仏 が 登 場 す る もの の、 外 見 上 の 造 形 は似 て お り、 大 きな相 違 が 認 め られ る の は宝 冠 と携 え る道 具 類 で あ っ た。 4-2.  身 体 運 動 学 的 分 析 によ る 特 性(表5) 糸 崎 の 仏 舞 に登 場 す る各 仏 の フ レーズ とポ ー ズ を 抽 出 す る と、 表7の よ う に な っ た(文 末 に添 付)。 また 、 モ チ ー フ とな る動 作 の軌 跡 も示 した。 なお 、 糸 崎 の 仏 舞 の 全 体 構 成 は前 述 の よ うに4段 階 に別 れ てい るが 、3段 目に 当 た る部 分 は、 子 ど も が扮 す る仏 に よ るマ イ ム で あ る。 そ れ以 外 が 舞 踊 の 部 分 で あ るた め 、 こ れ らを 「第1部 」 「第2部 」 「第 3部 」 と して 分 析 した。 3種 類 の 仏 で 、 そ れ ぞ れ 異 な る動 作 を行 い、 各2 種 類 の フ レー ズ(表7の 打 鼓 仏A・B、 撥 仏A・B、 手 仏A・B)と1種 類 の ポ ー ズ(同 打 鼓 仏a、 撥 仏 a、 手 仏a)が 抽 出 さ れ た(表2)。 な お 、 入 退 場 に つ い て は、 す べ て の演 者 は前 方 を 向 い た ま ま、 右 足 を一 歩 踏 み 出す ご とに膝 関節 と股 関節 を屈 曲進 展 さ せ て重 心 を上 下 動 させ 、 左 足 を引 き寄 せ て進 む 。手 は、 そ れ ぞ れ ポ ーズaの 構 え を とる。 い ず れ の仏 も、全 体 時 間約18分 間 に対 し、フ レー ズ が 占 め る 時 間 は14分23秒 、 ポ ー ズ が3分37秒 で あ る。 フ レー ズ を動 の状 態 、 ポ ー ズ を静 の状 態 と み な し、 動:静 を概 ね の比 率 で あ らわす と、4:1 とな る(表2)。 した が っ て 糸 崎 の 仏 舞 は、 動 の傾 写 真11.  仮 面 ・衣 裳 ・持 ち 物 (左=打 鼓 仏(手 前)と 撥 仏(奥)、 右:手 仏)

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向 に あ る と い え よ う。

全 体 構 成 に お け る 各 種 フ レ ー ズ ・ポ ー ズ の 組 み 合

わ せ に は 以 下 の よ う な パ タ ー ン が み ら れ た(ア ル

フ ァベ ッ トの 大 文 字 は フ レ ー ズ 、 小 文 字 は ポ ー ズ)。

打 鼓 仏 、 撥 仏 、 手 仏:第1部aAAB AAAB

AAAB AAAB AAAB… …

第2部A' A' A' B' A' A' A' B' A' A' A' B' A' A' A' B'… … (念 菩 薩 の マ イ ム の 場 面 は 、 ポ ー ズaで 待 機) 第3部A'' A' A' B' A' A' A' B' A' A' A' B' A' A' A' B'… …a 以 上 か ら 、"フ レ ー ズA×3+フ レ ー ズB"と い う 組 み 合 わ せ パ タ ー ン の 反 復 が 、 ポ ー ズ 時 を 除 き不 変 的 に 続 く こ と が わ か る 。 フ レ ー ズAとBは 、 足 踏 み を し な が ら肩 関 節 を屈 曲 ・伸 展(A:い わ ゆ る 腕 を 前 後 に 振 る 動 作)、 水 平 外 転 ・水 平 内 転(B:い わ ゆ る 顔 の 前 で 腕 を 左 右 に 振 る 動 作)す る 動 作 で あ る 。 こ の こ と か ら 、 糸 崎 の 仏 舞 で は 、 い ず れ の 種 類 の 仏 に お い て も 、 フ レ ー ズAが モ チ ー フ で あ る と考 え ら れ る 。 舞 い 始 め か ら3分8秒 ま で の パ タ ー ン は 、 フ レ ー ズABの 組 み 合 わ せ で あ る の に 対 し、 そ れ 以 降 の パ タ ー ン は 、 肩 関 節 の 屈 曲 ・伸 展 あ る い は 水 平 外 転 ・ 水 平 内 転 の 回 数 が 増 長 さ れ た フ レ ー ズA' B'(ま た はA" B')が 舞 わ れ る 。 フ レ ー ズAB:フ レ ー ズA'

B'(ま た はA"B'の1回 を 含 む)の 概 ね の 時 間 的 比 率 は 、1:4で あ る 。 し た が っ て 、 最 初 の5分 の 1は 短 い フ レ ー ズ の 組 み 合 わ せ で 舞 い 、 残 りの5分 の4は 動 作 の 回 数 が 増 え た フ レー ズ の 組 み 合 わ せ で 舞 う構 成 に な っ て い る 。 繰 り返 さ れ る フ レ ー ズABは 、 膝 関 節 を 屈 曲 ・伸 展 さ せ な が ら、 左 右 交 互 に 足 踏 み す る よ う な 動 作 を 含 む 。 フ レー ズABは 断 続 的 に繰 り返 さ れ る た め、 仏 舞全 体 を 通 して この弾 む よ うな 動作 が お こ なわ れ る こ とに な る 。 動作 軌 跡 に つ い て は 、 上 肢 の 軌 跡 をみ る と、 打 鼓 仏 と撥 仏 の フ レー ズA・Bは 、 ど ち ら も肘 関 節 屈 曲 位 で 肩 関 節 を動 か す こ と に よ り、 曲線 的 か つ 求 心 的 な軌 跡 を示 す 。 そ れ に対 して手 仏 は肘 関節 伸 展 位 で 肩 関 節 を動 か し、上肢 で 直 線 的 な軌 跡 を描 い て い る。 フ レー ズAで は 、 い ず れ の 仏 も上 肢 の 動 き に あ わ せ て 体 幹 が 左 右 交 互 に側 方 回 旋 す る。 フ レ ー ズB で は、 後 方 に1歩 下 が る と きに体 幹 が 前屈 す る。 ま た、 動 作 抽 出 時 の 一 連 の動 作 の所 要 時 間 を参 考 にす る と、 一 曲線 あ るい は 一 直 線 を描 くの に1秒 ほ どで あ る。 手 の ポ ー ズ につ い て は、 合 計7種 類 が 抽 出 さ れ た (図6)。 両 手 また は携 帯 物 が 重 な っ た り交 差 した り し て い る ポ ー ズ は 、(イ)(ハ)(ホ)(ヘ)(ト)の 5種 類 が あ り、 す べ て の仏 でみ る こ とが で きる 。 な お 、手 仏 で 抽 出 され た3種 類 の ポ ー ズ(ホ)(へ)(ト) は、 いず れ も両 手(あ る い は手 首)が 重 な り合 う。 隊 形 変 化 を み る と、 時 間 の経 過 に伴 い 、 図12の よ うに 隊列 全 体 が右 回 りの 円周 方 向 に 移 動 す る。 仏 に扮 した8人 の 舞 人 の対 人 関 係 は 、 等 間 隔 の 円 形 の 隊列 をつ くる 。 また 、 個 別 の 身体 方 向 性 は、 円 の 中 心 を向 い た ま ま保 た れ る。 舞 人 を個 別 にみ た空 間移 動 につ い て は、 隊 型 移 動 に伴 い 、 円周 上 を舞 人 の 身 体 正 面 か ら み て 左 方 向 に周 回 す る。 例 と して 、 図 12中 の ● で 示 した1人 の 舞 人 に 焦 点 をあ て て 鳥 瞰 的 にみ る と、右 回 り(時計 回 り)と な る こ とが わ か る。 音 量 と動 作 パ タ ー ンの 関連 を み る と、舞 の 最 中 は、 長 胴 太 鼓 と鉦 鼓 の伴 奏 とな り、第1部 で は太 鼓 の 腹 ・ 胴 お よ び鉦 鼓 を打 ち、第2部 と第3部 で は太 鼓 の腹 ・ 表2.  フ レー ズ と ポー ズの 数 と従 事 す る時 間

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仏舞 の伝承 的身体表現 胴 と 鉦 鼓 を 打 つ が 、 両 者 の タ イ ミ ン グ は ほ ぼ 一 致 す る 。 ま た 、 第3部 で は 長 胴 太 鼓 と 鉦 鼓 の タ イ ミ ン グ が 一 致 す る 。 第1部 は テ ン ポ57∼60拍/分 、 第2 部 は テ ン ポ60∼61拍/分 、 第3部 は テ ン ポ57∼ 60拍/分 で あ り、 第1部 か ら 第2部 に か け て は テ ン ポ が 増 加 し、 第3部 で は 第2部 と ほ ぼ 同 じだ が リ ズ ム が 複 雑 化 す る 。 な お 、 打 点 に つ い て は 、 第1部 で は10秒 間 に4 打 く ら い の ペ ー ス で 打 た れ る 。 太 鼓 の 胴 の 強 い 打 点 を 「ドー ン 」、 弱 い 打 点 を 「ド ン」、 太 鼓 の 腹 の 打 点 を 「カ ッ」 で あ ら わ す と、 「カ ッ … … カ ッ … … カ ッ … … カ ッ … … カ ッ … … カ ッ… … カ ッ ド ン ドー ン」 と な る 。 鉦 鼓 は 「カ ッ ド ン ドー ン 」 の 部 分 に 重 な る よ う に 打 た れ る(図15の 上 図)。 第2部 に な る と 、 長 胴 太 鼓 の リ ズ ム の 間 隔 が 狭 ま る 。 言 葉 で あ ら わ す と、「カ ッ カ ッ 、カ ッ カ ッ 、 ド ン 、 ドー ン 」 と な る(図15の 中 図)。 第3部 に な る と 、 太 鼓 の 腹 を 強 く2回 打 つ 問 に 太 鼓 と 鉦 鼓 を 弱 く打 つ パ タ ー ン と な る 。 言 葉 で あ ら わ す と 、 「ドー ン 、 ド ン ド ン ド ン 、 ド ン、 ド ン 、 ドー ン 」 と な る(図15の 下 図)。 こ の よ う に し て 、 長 胴 太 鼓 と 鉦 鼓 だ け の 伴 奏 で あ り な が ら、 後 半 に 向 か っ て 打 点 の 強 弱 お よ び リズ ム パ タ ー ンを複 雑 化 して い く構 成 が 明 らか に な っ た。 以 上 の 結 果 に よ り、 糸 崎 の仏 舞 の 身体 運 動 特 性 を 整 理 す る と、 以 下 の よ うに な る。 重 心 を比 較 的 高 い位 置 に据 え、 背 筋 を伸 ば した立 位 姿 勢 で 舞 う。 上 肢 は、 左 右 交 互 に肩 関節 を屈 曲 ・ 伸 展 、 あ る い は水 平 外 転 ・水 平 内転 させ 、前 後 あ る い は左 右 に振 る よ うな動 作 をす る。 下 肢 は股 関節 と 膝 関節 を屈 曲 ・伸 展 させ な が ら左 右 交 互 に足 踏 み の よ う なス テ ップ を踏 む こ とが判 明 した 。 ダ イ ナ ミ ッ ク な 回転 運 動 や 跳 躍 運 動 を行 わ な い 、等 速 的 な 運動 で あ る。 全 体 構 成 と して は、 舞 人 が 舞 わ な い部 分 を 除 く と 3部 構成 に な っ て い る。 テ ンポ は徐 々 に 速 くな る傾 向が あ り、 伴 奏 の打 楽 器 の 強弱 お よび リズ ム が複 雑 化 して い く。 そ れ に伴 い、 モ チ ー フ とな る動 作(各 仏 の フ レー ズA)の 反 復 回数 が 増 え る。 隊 形 は 、 各 演 者 の 正 面 を 舞 台 中 央 に とる 円 形 で、 一 定 の所 作 を繰 り返 しな が ら円周 上 を右 回 り(時 計 回 り)に1周 す る。 な お 円形 は 、 中央 に 収 束 し拡 散 す る とい う変 化 もみせ て い た 。 4-3.  演 出 意 図 の 考 察 糸 崎 の仏 舞 に お い て は、 上 肢 は 一 定 の 形 を保 ち な 図6.  両 手 の ポ ー ズ 糸 崎

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