戦後アメリカのラテン・アメリカ政策
神尾昭男(舌幾塁鱸4A巽葱蝋雰…）
最近の米国投資材駐左をめぐるアメリカとチリ，ペルーの紛争は，アメリカの対ラテン・ アメリカ外交の転換期を象徴しているようにみえる。そこで，戦後のアメリカ外交政策の 移り変わりと関連させながら，この問題を意味付けてみようというのが報告の趣旨である。 緒臨的にいえば，アメリカの世界政策は１１６０年代注での冷戦期の対外＝ミプトメント 拡大の方向から，７０年代のニクソン政権登掲とともに始雀った世界政治の多極化に対応 ナるノン・コミットメント方針へと一大G旨換を遂げるカミ対ラテン・アメリカ政策もこの ような世界政策の転換に対応して，政府間ペースでは米州の盟主から相駿相手くらいの地 位へと退きつつあるのに応じて，民間投資#臨左の役割も再検討を迫られるに至ったわけで ある。 1．アメリカ外交の基本性格 アメリカの外〕覇【策は，歴史的にmmternationaﾕﾕＳｍ”が高揚する時期と，それか めだって退潮する時期が交互に訪れるといわれる。q8tl蝿一環して自由世界の盟主をもっ て任じてきたアメリカが１９６，年代末のベトナム戦争の失敗を契機として，オーバー＝ ミットメントの縮小へと伝摸したの15t，浅さにこの上うな１nternatﾕonaﾕﾕＳｍの退潮と 解釈され，る。 このようにjnternatﾕcnaﾕﾕＳｍに周期的に発現する原因は，革命以来のアメリカ外交 のｍ１ｓｓﾕonaryという基本性格に基因すると考えられる。つさり，莱命の成功とその後 のアメリカの発展は，アメリカ人の間に「偉大たるアメリカ」のセルフ・イメージを植え 付けた。そして，このAmer1canwayofユifeを人類の理想とし，これを他国に広め ることを崇高な使命とする。これが外交方針を規定して陛允。 ところでAmerlcanw石Ｌｙｏｆｌﾕｆｅの内容は，政治的にはdemocracyであり，経 済的には､freeenterpmsesystemであるとされている。HanBMorgenthanは 1５「ウィルソン（第２８代大統領）はアメリカの民主的賭制度を輸出すること.によって，他 の国々にアメリカの平和と秩序をもたらしたいと欲した。現代のウィルソンの継承者たち は，アメリカの資本と技術を輸出することによって，アメリカの宮と繁栄をもたらしたい と欲している」と指摘したカミとれは戦後のアメリカの対外投資や援助政策の哲学を｣E〈 説明している。 そうして，このような要素は冷政の激化とともに，国際共産主義に対する防波堤として 米外交の基本q戎路となった。１９６６年のアメリカにおける世強調査結果に上れば，対外 援助に焚成する理由として，「われわれに対する好意を植え付け，友好を促進する」，「 戦争の鴇合，われわれの側についてくれる」，「民主国家と資本主義のよいプロパガンダ となる」という答えが多かった。こうした国民的ムードは冷戦外交の中で地幅さねダレ スの「反共十字軍」という表現で，そのm1BBionaryの性格が極端な形であらわれた。 こうしたmlBB｣onaryな性格が強いために，援助は受け入れ国に大いに感謝されるだろ う，彼らはアメリカの政治経済諸制度を大いに文腰し踏襲するだろう。アメリカの冷戦 外交に協力するだろう，という期待も強い。そして，こうした期待がみたされないと，欲 求不満と失麺を招くことになる。１９５０年代のインドやアラブ連合などの非同盟路園に 対して，ダレス国務長官（当時）が，中立は非迦徳的だときめつけたの感戎さに，こう、､､も した、ﾕBBionaryな性格の裏返しの表現といえるだろう。 アメリカ社会は，taBkorientedBoo1etyであり，Ｃｌｅａｒｃｕｔを目標の成果が存 在すればｉ多少のコストやリスクは度ﾀl祝してもやり遂げようとする。その反面）ひとた び目額や成果に疑念が生ずると，激しい拒絶反応を示すのもアメリカ的な姿勢である。 次にアメリカ外交と《にその経済外交の面に見せる－つの特色にふれておこう。それ は共和党のよりorthodo工を経済哲学と民主党のよりlibera1なそれとの違いである。 両者は，わが国の経済体制をめぐる考え方の対立などから比べればｂどちらが「ＪＥｂｏｒ‐ thodo工力、ユユberaユか」といった比較上の問皿にすぎたい。承アメリカの対外援助 や対外投資などに及ぼす影唇はきわめて大きい。たとえIdqfreeenterprﾕBeByBCem を原則として伯竃する点では両者とも同じだが，orthodo工ｙはliberalsよりもそれ に固執する傾向が強く，それが対外援助政策の運営面で決定的な対立点になることが多い。 orthodo工を経済哲学についての詳臨は省くが，後に述べるラテン・アメリカ政策と の関連でいえば，その基本性格は，①freeentorprlsesyBtemとZreemarket 1６
mechan1Bm，②非インフレ的な健全な財政金融政策③多角的無差別，互恵の自由貿 易原則へのあくなき個奉である。これは被援助国における企業の国有化経済統弧イン フレを嫌わぬ経済開発などとことごとに対立する宿命にあった。 １９５０年代のアメリカはほぼ共和政梱下にあり，orthodo工を経済政策はラテン・ アメリカ外交にも強く反映した。そして，１１６０年代はケネディ，ジョンソンにエる民 主党のllberaユな経済政策が遂行されたBきり99であり，ラテン・アメリカ政策では野心的 な「進歩のための同盟」構想が打ち出された時期であった。そして０１９７０年代は，ニ クソン図繭の丑掲によって再びorbhodoxyへの復帰という色彩が強いが，７０年代は， ちとうど冷戦外交から多極化時代のlesscommmmenC外交への転換期にもあたってお ｂ，その意味で，全く新しい経験といえる。 2．戦後のラテン・アメリカ外交 １９５０年代まで 戦後のアメリカとラテン・アメリカ諸国の関係は，第二次世界大戦中に青く戎れ尤米州 連帯ムードの統酋で，きわめて良好であった。それはヨーロプパの復興需要で，ラテン.・ アメリカ諸国の原料輸出が活発であり，外賀準伽が潤沢であったことも，有力な一因であ ったといえる。１９４７年に米州相互援助条約が鯛印され，それに基いて１ワ４８年に米 州機構（ＯＡＳ）が発足したことは，後食の米州関係に大きな影恕を及ぼすことになるが， 当時はアメリカはヨーロジパの復興に気を奪われており，裏庭のラテン・アメリカに対し てはほとんど目已慰がなされていなかった。 したがって，アメリカ政府の基本的な立鍋は，援助は経済より、＄優先であり，ラテン ・アメリカ蹄国が十分な開発資本を必要とするなら，民間資本の樋益を尊逓し，投資意欲 を削ぐような税制やインフレ政策を是正し，政府の叶画化統ＩＭＬ国有化などを慎むこと が先決である，ということであった。こうしたアメリカの感度の背後に，今日のアメリカ の繁栄をもたらしたのは，彼らが信奉する自由企業旧IHI【であるという砿固たる自信があっ た。公共資本の導入は民間資本の投資機会をそれだけせばめることにたるし政府の統制 や国営企業の育成も同じように投資機会をせばめる。こうした理由から，アメリカは従来 の援助機関であるワシントン輸出入銀行（ＥｘＩＭ）と開発借款基金（ＤＬＦ）と，国際 通貨基金（エMIP）と国際奴輿開発（ＩＢＲＤ）に主ろ公共資本援助で十分であるとし， 1７
ラテン・アメリカ側の切望する米州地域金融機関の設立を拒否した。また，メキシコの ＰＥＭＥＸ，アルゼンチンのＹＰＦ，ブラジルのPetrobrasなど石油資源の開発，輔 製販売の国家独占企業に対して，アメリカ政府借款の供与を拒否した。さたラテン・ア メリカが要求した原料商品の価格安定化沼定や「ラテン・アメリカ共同市掲」樽想は，自 由貿易の原則にそむくとして反対した。 こうした米州関係が先鋭化し始めたのは１１５０年代に入ってからである。１１５０年 の朝魁掴力乱のぼっ発で，冷戦が激化すると，アメリカの関心はいっそうヨーロッパとアジ アに傾斜しねその反面）ラテン・アメリカ側は，国際商品市況の悪化によって外貨枯渇 をきたし単作経済からの脱塵そのための開発資本の鯛逮がより切実な問題にたってい た。 しかしアメリカは１９５４年の米州蔵相会函（リオデジャネイロ），１９５７年の米 州機19i経済会議（ブエノスアイレス）にわいて，一貫して瞬定の方針をとり艇けﾌﾟﾋ。 これに対して，ラテン・アメリカ諦国の不満はうっ積し１１５８年のニクソン囚bに統 領の南米肋間に対して，激しい反米デモとなって爆発した。これを契機として，アメリカ のラテン・アメリカ政策の転換が飴さった。そして，キューバの社会主義革命の成功で， 転換は促進されたのである。 キューバ革命は，当初は独裁者パチスタに対する民族主譲革命の色彩が温厚であった。 したがって，アメリカも最初はカストロ派に同1W的であり，革命政枢への支持を惜しまな かった。しかし，キューバ革命がしだいに社会主義革命へと進むにつれてアメリカとカス トロ政府との関係は遷化しキューバは共産圏との関係を深めていった。キューバ事件は アメリカとラテン・アメリカ諸国の宿命的な対立関係を象徴していたといえる。それはケ ネディ大統領の「進歩のための同盟」計画が抱えていた矛屈でもあり，それは最近のペル ーの一連の改革についてもいえる。ペラスコ大統領が「われわれは「進歩のための同盟」 の稲神に即して改革を進めただけだ」と皮肉たつぶりに述べたとき，アメリカ側は一言の 反騰もできたかったのは印象的である。つ宙D，問題の襖bは，ラテン・アメリカにおけ る経済開発の実効をあげるためには，封延的な大土地所有制や非民主的なB[拾体側】を改革 しなければならない。しかし，それを行なえば，ラテン・アメリカに圧倒的な比正で根を 題るアメリカ資本の経済#畦主と寡向うから衝突することにたるわけである。「進歩のため の同盟」の失敗は古さにここにあったといわなければたらない。
３．１９６０年代のラテン・アメリカ外交一進歩のための同盟を中心として－ １１６０年代のアメリカのラテン・アメリカ政策はケネディによって創始され，ソ画ン ソンによって引き継がれた「進歩のための同盟」と呼ばれる大規模左援助計画に尽きてい ると思う。 １９５８年５月，ブラジルの時の大統領クピチニプクが，パン・アメリカン．オペレー シロン（PanAmerﾕcanOperatﾕ。、）と称する野心的な開発錘助計画を提案した。と の提案は手詰左D状態にあったアメリカにとって救いの神となり，１９５８年９月，米州 外相会議（ワシントン）で，クピチェプク提案は米州機榊に委託されることに決定。同じ くこの会議で，アメリカは米州金融機関の設立を承魑１９５１年４月，米州開発銀行（ エＤＢ）の設立協定が調印され，６０年１０月に営業開始にこぎつけた。さらに，１１６ ０年には，国際復興開発銀行（エＢＨＤ）を補完するソフト・ローン専門の国際開発鰹会 （ＩＤＡ）を発足させた。また，ラテン・アメリカ自由貿易迎合（ＬＡＦＴＡ）の霞ウを 支持し，国際商品協定への反対を柔げるなど，この時期にアメリカはあらゆる面でラテヱ ・アメリカ政策を転換させ始めた。 １１６０年，月，ボゴタにおける米州機榊代表者会議において，アメリカは「パン・ア メリカン・オペレーシコンのワク内において，社会改善と経済開発のための協力針画を進 める」ために５億ドルを拠出して米州開発特月哩座金を設けることを提案ボゴタ条約（ ＡｃｔｏｒＢｏｇｏｔａ）が締結された。ボゴタ条約は，①アイゼンハワー共和党政樋にと って推進されたこと，②ラテン・アメリカ側の自助原則を前提として援助を与えること を約束したこと，③社会改革を目標として掲げたこと，の５点で画期的であり，堂尤， 「進歩のための同盟」のひな型として注目されてよい。 さて，「進歩のための同盟」は，１９６１年５月，就任したばかりのケネディ大統領に よって提唱された。提案の骨子は．ラテン・アメリカ諸国が，民主的な選挙で選ばれた政 府を持ち，大土地所有制などの封建的な社会・土地制度を改革することを条件として，ア メリカは１０年間に総額200侭ドルの外貨資金援助を導入し，「米州の人向の住宅仕 事》土地，保健ｂ教育をどの基本的な必要をみたそう」というもので，当驍ヨーロッパ への大規模な復興援助（マーシャル・プラン）になぞらえて，マーシャル・プランの中南 米版と評された。 １９
なお２００億ドルの内訳は，ａ）アメリカ公共賢本（ワシントン輸出入銀行，国際開発 局，社会進歩信託遊金）平和のための食極など）１１０億ドル，ｂ）世銀クループ，米州 開銀などの国際槻関５０億ﾄﾞﾙ，ｃ）アメリカ民Ｍ資本５０億ﾄﾞﾙ，。）ヨーロッパ及び 日本の官民資本５ｏ低ドルと左っている。 この「進歩のための同盟」椛想は，１９６１年８月，ブンタデルエステの米州外相会議 で承認された。したがって，この同盟の憲法ともいうべきプンタデルエステ憲法（Oharter o全Ｐｕｎｔａｄｅ１Ｅｓｂｅ）に工れ{角同盟は次の１２の点を骨子としている。、１）民主的 制度の改善強化２）経済社会開発の促進５）都市農村の住宅計画の推進４）土地改 革の遂行，５）文盲の追放，６）保健衛生計画の遂行７）全労働者に対する公正な武金， 十分な労働条件の保証，８）税制改菜，）インフレを阻止する財政金融政策１０）民 間企業の奨励，１１）ラテン・アメリカの輸出原料市況の安定１２）経済統合の促進の １２点である。 従来のアメリカの援助は，独裁政権や－部の特樋階級の私腹を肥やすだけで，民生向上 にはいっこうに役に立たないとしばしId(非難されてきたが，ラテン・アメリカ諸国に対する 曇助もその例外ではなかった。そのために民衆の反米ナシコナリズムの感hｻﾞか高左，，ア メリカ企業の投賢活動を伽肘してきた。「進歩のための同盟」は民主的左政府を樹立し， 社会・土地改革を進めることを条件として援助を与えることにしたわけである。また，ケ ネディ政椛下のリベラル派の経済哲学のもとでは，公共資本と民間資本とは顔合するもの ではなく，補完し合うものであるとされていたし）経済統合や計画化や国営企業の育成も それらが経済成長に寄与するかぎり，現地国民の附叉力を高め，結局はアメリカ資本にと ってプラスになると考えられたわけである。 しかし，「進歩のための同盟」は当初の理想どおりにはいかたかつれそれは第一に， 民主的な政治とか社会・土地改鑿という目標はラテン・アメリカ諸国で現に支配階級を形 成している人とに直接矛先を向けるものだったので，彼らの激しい反対に会ったし，これ ら諸国に膨大な梅益を布するアメリカ資本の側にも反対の声があがった。第二に，援助供 与の条件として鮫格左プロジェクト方式を打ち出したために，錘助を受ける資格のある国 が限られたことである。ケネディ時代はこうした条件を厳しくしたために，撰助そのもの はあ費D進展していをかつ泡そしてジ画ンソン時代に入ると，軍事政権の樹立にも目を つぶらざるをえたかったし，社会・土地改革も徴湛的ならざるをえたかつだ 邪
しかし，「進歩のための同盟」は多くの矛盾をはらみながら米州の連帯と自助の糖神を 高めるうえで大きた役割を果たした。蛮尤，米州開銀の発展を側面から支援したことも， 高く評価されてよいであろう。 ４．７０年代の米州関係 １，６９年のニクソン政権の発足は，アメリカとラテン・アメリカの関係にさらに新し い振換をもたらした。その方向は依然としてはっきりしていたいエうにみえる。 ニクソン画｡粗の発足に前後して，ペルー，チリ，ボリビアなどの米系資本の国有化が相 次ぎ，左た，ニクソン大統領が派還したロックフェラー・ニューヨーク州知事ら－行はラ テン・アメリカ各地で激しい反米デモに見舞われ，アメリカとラテン・アメリカの関係が １１５０年代末に劣らぬほど悪化していることを印象付けた。 ニクソン政枢のラテン・アメリカ政策の基調は必ずしも明らかではないが，１１７０年 ２月１８日の「１１７０年代のアメリカ外交政策一一平和のための新戦略」と題する外 交教書を発表した。その中で注目されるのは，アメリカはラテン・アメリカ諸国のことを 「気にかけている」が，米州での建設的な関係を築き上げるために，「新たな精神と新た なアプローチが必要」であるとして，「父親としての約束や万能薬よりも，むしろ協力的 行動を提供する進歩のための行動計画」をⅢ祝することを明らかにした。これは，１１６０ 年代にリベラルなケネディの登場でいっそうmsslonary化したアメリカ外交全般に対 する反省の結果であることは明らかである。ニクソンは大統領選挙戦の殿中から，こうし た声高に理想を瓢いあげるケネディ型のアプローチに反対であり，その意味で「進歩のた めの同盟」に対しても厳しい批判を浴びせていた。本教瞥の中でも，「指示的､教割り的ス タイルは，他の西半球諸国に高さりつつあった自己主張やナショナリズムと衝突した」と 明らかに「進歩のための同盟」を批判するエゥな表現を盛り込んでいる。これに対するニ クソンの新しいアプローチは次の５つの基本原則の上に立っている。すなわち，第１に， 米州体制とそれを形成している諸盟約を堅持する，第２に，梅利と責任が独立諸国の共同 体によって共有されているパートナーシプズ第５に，西半球開発のためにアメリカの援 助継続，第４に，ラテン・アメリカのイニシアチブとそれに対するアメリカの支持という 形の援助方式，第５に，新しい世界における生活の質を向上させるための献身，である。 以上のようにニクソン政権は，米州体制の基本的な骨組みを急に変えるようなことは避 2１
けたから。ラテン・アメリカ側の自助とパートナーシップを強調することによって，邸実 上はアメリカの干与を縮小していくことを明らかにしている。 米系企業の接収や反米デモの続発がこのよう左米外交の変化を背景として生じている点 が注目させる。ラテン・アメリカの自助と連帯，アメリカの干渉的な姿勢を正すことを胆 っている点は。たしかに■k迎されているが，同時に，とのアメリカの憩度は無関'[ｈ冷淡 にも通じるものであり，ラテン・アメリカ諸国の欲求不溜をつのらせている。こうした態 度は矛面している力ｉアメリカとラテン・アメリカの長い歴史の中でつちかわれたもので ある。 ペルーの米系石油会社エＰＣ接収とそれに続く一連の国有ｲｂチリの銅山国有化などの 一連の事件は古だ曲折がありそうであり，ただちに結闘めいたことはいえたい。反米ナシ 画ナリズムの感傭が強いが．アメリカ企業の資本と技編アメリカ市場に依存をせざるを えないラテン・アメリカ諸国と，現地の悪感情と自立化の必然性は寵めつつも，なんとか それに対応して生遇ていかねばならない米系企業とは新しい関係での定着をめざして，一 進一退を<ｂ返していくてあろう。 2２
