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後発開発途上国における労働問題 (特集 WTOドーハラウンドは後発発展途上国に何をもたらしたか)

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Academic year: 2021

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アジ研ワールド・トレンド No.225(2014. 7) 後発開発途上国 ︵ Least Devel-oped Countries L D C ︶ で は 、 経済発展のための輸出促進を図る ために、グローバルな生産体制に 組み込まれることが重要であると 考えられている。サプライチェー ンの末端に位置付けられる生産現 場では、しばしば安価な労働供給 が比較優位の源泉となっている 。 しかし、労働力を低価格で提供す るには、労働者に配慮した労働基 準や労働環境の改善がおきざりに されることがほとんどである。一 方、グローバル企業製品の消費者 である先進国の消費者は、よりク リーンなサプライチェーンへの要 望が増している 。 L DC 諸国で あっても、劣悪な労働環境から生 産される低価格さでは、グローバ ル企業の生産拠点として成り立つ ことは難しいといった視点が生ま れつつある。本稿では、 W T O 体 制のなかで、労働基準問題がどの ように扱われてきたかを振り返る ことから、途上国の労働基準問題 に配慮した生産体制を作り出そう とするいくつかの試みを紹介す る。 TO での労働基準問題の 扱い W T O では伝統的に、人権や児 童労働といった労働基準に関連す る問題の扱いに消極的であった 。 一九九六年のシンガポール閣僚会 議宣言以来、労働問題の取り扱い は I LO との棲み分けを強調して きた。その時点でも多くの途上国 が、労働基準問題を社会条項とし て、いかなる W T O の合意や原則 文書に組み込むことも強く反対し た。その理由は主に、①社会条項 の要求は、先進国の国内産業保護 を目的とする偽装された保護主義 である、②途上国の労働コストを 上昇させ、国際貿易における途上 国の比較優位を損なう、③途上国 の労働基準を改善するには、社会 条項の押しつけでなく、輸出主導 の成長を通じて経済発展を進める ことにある。 反対理由②にあるように、労働 基準を貿易の条件にいれること は、途上国の労働コストを上昇さ せ、国際貿易の比較優位を損なう と言われてきた。しかし、グロー バルな企業がサプライチェーンの 監視やクリーン化を強化している 今日、労働基準はある水準を維持 していることが担保されなけれ ば、グローバルな生産ネットワー クに安定的に組み入れられること は難しくなりつつある 。それは 、 先進国のエシカルな市場が拡大し たためと、労働コストを抑えるた めに労働基準や職場環境を無視し て大きな事故などを引き起こす と、大きなリスクとして跳ね返っ てくるからである。カカオ市場の 持続可能性をもとめるチョコレー ト業界や、バングラデシュのラナ プラザビル崩壊事故後のアパレル 企業の対応などが、リスクへの対 応が必須になっている現状を示し ている。むしろ労働基準を改善す ることによって、輸出主導の成長 を積極的に促進していくビジネス モデルが模索されている。 貿易拡大と労働問題の関連性 労働基準問題は W T O ではア ジェンダとして扱われなかった が、二国間や地域の貿易協定で取 り組まれることが多くなってい る 。 アメリカや E U はこれまで にも 、地域自由貿易協定 ︵ F T A ︶や途上国との特恵的貿易プロ グラムにも、国際的基準も導入し ない国には貿易制限を発動するな ど、市場へのアクセスに労働基準 問題をリンクさせる方法をとって きた。こうした措置の影響を示唆 するように、貿易を通じた労働者 の権利意識に関するパネル調査で は、輸出相手国で労働者の集団的 権利が法律で守られているほど 、 輸出国の労働関連法の整備が進ん でいることが示された︵参考文献 ①︶ 。﹁底辺への争い﹂と称される 輸出業者による貿易相手の労働基

後発開発途上国における

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アジ研ワールド・トレンド No.225(2014. 7) 準の押し下げ競争になる代わり に、輸入業者は集団的労働法や貿 易相手の労働慣行に影響をあたえ ることができることを示した。貿 易が特定の環境基準の普及を容易 にするのと同様の方法で、労働基 準に関する実践規範を普及するた めの導入役になると考えられてい る ︵前掲︶ 。各種の貿易協定と労 働基準の関係の現状からみても 、 途上国は、倫理的な配慮という以 上に、競争力の重要な要因になる ことを踏まえて、労働基準の遵守 や社会的責任を重視すべきである ︵参考文献②︶ 。 LDC からの輸入品目の多く は、継続的な取引をしていないこ とから、 LDC にとって安定的な 貿易相手がいないことがわかる 。 安定的な貿易相手がいない理由 は、⑴ LDC の製品を確実に販売 するための市場開拓が十分に行わ れていない、⑵安定的に LDC の 製品を売りさばく取引相手をみつ けられていないなどが考えられる ︵参考文献③︶ 。 L DC が長く取引 を続けられるパートナーを安定的 に得るには、企業の嫌うリスクを 最小限にし、安定的な貿易相手と なることが重要である 。しかし 、 狭い意味のフェアトレード概念で の市場では、手続きが煩雑で参入 しにくく市場規模も狭すぎる。 グローバルなバリューチェーン から価値を得るというとき、それ が L DC 諸国の人々の暮らしや社 会の向上のための価値になってい るかを考える必要がある。 つまり、 単にグローバルな生産ネットワー クに組み入れられるだけでなく 、 途上国自身に経済的な恩恵だけで なく、労働条件や労働環境の改善 を通じて暮らしを良くしていくよ うな開発的な価値を得ることが重 要である。 労働基準向上と競争力の両立 カンボジアでは二〇〇一年から ILO が中心となって ﹁ベター ファクトリーズプログラム﹂が展 開され、工場の定期的なモニター などを実施してきた。カンボジア には約四〇〇の縫製工場、四五以 上の製靴工場があり、これらの工 場で生産される縫製品や靴はカン ボジアの主要な輸出品となってい る。多くの雇用を創出してきた縫 製・製靴工場の労働環境を改善し ようと、当初は労働条件改善の見 返りに市場参入機会を拡大すると いう米国とカンボジアとの間の貿 易協定にこのプログラムはリンク していた。二〇〇四年に協定が失 効した後も、カンボジアの労働組 合、使用者団体、政府が共に、持 続可能な労働基準を順守する仕組 みを維持するように、 ILO と国 際金融公社︵ IFC ︶が手を組み プログラムを延長した。 その結果、 自社監査の負担の軽減、アパレル 産業の成長、雇用成長、国際的な バイヤー団体の参加、企業レベル の労働環境改善能力のアップ等の 成果を上げたことが報告されてい る。二〇〇四年の多角的繊維協定 ︵ M F A ︶撤廃により衣料品生産 国の多くで売り上げが激減した際 にも、カンボジアは逆に倫理的な 調達先としてグローバル・サプラ イ・チェーンを通じた産業成長が 達成され、衣料産業の就業者数も 増加した。 カンボジアでの経験をもとに同 様のプログラムが、二〇〇七年二 月に開始された。この IFC と I LO の共同事業﹁ベターワーク計 画﹂は、アパレル産業を対象にハ イチ、ヨルダン、レソト、ベトナ ムで実施された。この計画は、 I LO の中核的労働基準と国内労働 法を基礎とした労働基準が守られ た作業環境の確保に向けて参加製 造企業を支援することによって 、 グローバル・サプライ・チェーン の競争力と労働条件の改善の両立 を目指して、実施国は拡大中であ る。最近のカンボジアのアパレル 工場では、長時間労働や工場での 換気の悪化から労働者が集団失神 した問題などが報道されたが、速 やかに問題究明に乗り出し調査結 果を公表するなど、問題解決にベ ターワークの仕組みが活用されて おり、持続的な労働環境改善に役 立っていると考えられる。 ●エシカルフ ・イニ ティブ 国 際 貿 易 セ ン タ ー ︵ I T C ︶ の エ シ カ ル フ ァ ッ シ ョ ン ・ イ ニ シ ア テ ィ ブ ︵ Ethical Fashion Initiative E FI ︶は、途上国の 生産者の労働条件を良好に維持し ながら、これまでのフェアトレー ド市場が参入してこなかった、ハ イエンドマーケット向けの製品を 生産するという試みである。これ も、安価な労働力として途上国の 労働者を使うのでなく、高付加価 値を生む労働力として、小規模生 産者や工芸品生産者の輸出市場へ のアクセスを助け、国際貿易にお ける比較優位として活用している 事例である。

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アジ研ワールド・トレンド No.225(2014. 7) 従来のフェアトレードの工芸品 とはちがい、 EFI は初めから先 進国の高付加価値市場で販売でき る製品を、生産することに主眼が おかれている。そのためには、デ ザインや品質管理に関しての援助 が重要な役割を果たしている。ま た労働環境の監査も受けて、フェ アな労働力の活用を基本としてい る。 ﹁チャリティーでなく、仕事を﹂ というスローガンのもと 、ケニ ア、ウガンダ、ハイチなどの国で EFI は 、貧困層の人々に現金 給付を行うのではなく 、ファッ ションで仕事をして自らお金を稼 ぐ機会を与えてきた。適切な賃金 や働きやすい労働環境、そして職 人たちがフェアな立場で仕事がで きるような体制を作り、技術訓練 や商品開発だけではなく、職人の 生活環境の改善やライフスタイル を尊重し、将来的な職人の独立や 起業を推奨するため小規模融資制 度とも連動している。 図 1 に示すように、 EFI のビ ジネスモデルでは、 EFI がブラ ンド側のバイヤーから注文を受 け 、共同で商品開発に取りかか る。製品の生産は、主にアフリカ やハイチの現地コミュニ ティに住む女性職人たち が、現地で行なっている が、ナイロビなど三都市 に ハブ と呼ばれる拠 点を設け、生産状況や品 質を管理している。バイ ヤーと製品開発センター の協働のもとで、製品の デザインや品質管理、技 術訓練も行われる。途上 国現地の共同体組織を活 かして、生産者のグルー プを通じて、伝統的な手 工芸品の趣を残しながら も、先進国消費者の嗜好 に合った製品を製造できるよう に、きめ細やかなサポート体制を とっている。 ヴィヴィアン ・ ウエストウッド、 ス テ ラ ・ マッカートニ ーなど欧米 のデザイナーとの協働で開始した EFI は 、協業するファッション ブランドを拡大中である 。 日本の アパレルでも 、 ユナイテッド・ ア ローズが今春 、 EFI とコラボ レートした新ブランドを発表し た。 EFI と従来のフェアトレード 商品との違いは、積極的なマーケ ティングの姿勢にあるといえる 。 ファッションの世界にもエシカル を求める消費者や企業は増えてお り、従来のフェアトレード商品よ りも、より多くの付加価値を途上 国の生産者にもたらすビジネスモ デルとして、 EFI の活動は注目 される。 ●持続可能なカカオ生産を求 めて 人件費を削減するために労働条 件や労働基準を無視して生産活動 を続けると、原材料の不足や作業 環境の安全性の問題などがリスク となり、雇用者や管理者は対応を 求められることになる。より公正 な労働チェーンを築くための様々 な業界の努力と活動には、これら のリスクを回避するために、企業 や使用者団体だけでなく多くの利 害関係者が携わってきている。 カカオ生産現場での児童労働が 問題となった菓子製造業界でも 、 カカオ生産現場の労働環境を無視 し続けるわけにはいかなくなっ た。世界の主要なチョコレート製 造会社は近年、社会的に持続可能 なカカオ生産の構築を追及してい る。 新興国市場の拡大により、 チョ コレートの需要そのものが大きく 拡大したことに加え、製品の背景 にある社会的環境的製造プロセス にまでこだわり、エシカルやオー ガニックを求めるチョコレート消 費市場の存在も大きくなってきた からである ︵参考文献④︶ 。ソー シャルネットワーキングの進んで いる近年、新興国市場でも、製品 の品質や背景にこだわる消費者が 現れ始め、キャドバリーは二〇一 一年から南アフリカ共和国でも フェアトレード認証のあるチョコ レートの販売を開始した。 一方でカカオの需要はひっ迫し てきている 。カカオ生産は労働 集約的で生産技術の革新も乏し く、カカオ農民は安定的な収入を (国際貿易センター) バイヤー 図 1 EFI のビジネスモデル (出所)ITC での聞き取り調査より筆者作成。

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アジ研ワールド・トレンド No.225(2014. 7) 得るのが難しかった。カカオ生産 の後継者が減り、持続可能な生産 体制が脅かされつつある。次世代 のカカオ農家を育てるには、単に 収穫量を上げ価格を高くするだけ ではなく、カカオ農家がより繁栄 し、持続可能なカカオ栽培コミュ ニティを維持できなくてはならな い。そのため、品質向上のための 技術支援、マイクロファイナンス 等の支援による生計の安定、安全 な飲料水の確保などのコミュニ ティ開発への投資等が必要であ る。キャドバリー、ネスレ、ハー シー 、マースなどの大手チョコ レートメーカーも、それぞれ独自 にあるいは世界カカオ財団等の業 界団体を通じて、カカオの持続可 能なサプライチェーンの維持と生 産農家の生計向上のため、カカオ 生産地域の開発等に支援と投資を 行っている。農産品の労働環境改 善には、技術支援やそれを支える 生産者組合等の組織化など、共同 体を通じたきめ細かい息の長い支 援が必要となる。 ●ラナプラザの悲劇を乗り越 えて 労働環境の安全管理を怠ると 、 重大な事故につながり、生産の危 機に直面することになる。二〇一 三年四月二四日に起きた、バング ラデシュ・ダッカの縫製工場の集 積したラナプラザビルの倒壊事故 では、一一三三人の犠牲者と二五 〇〇人以上のけが人を出した。事 故から一年、この悲劇を忘れない ようにすることを目的に、国際的 なキャンペーン ﹁ファッション ・ レボリューション・デー﹂がイン ターネット上で開催された。 この事故以前にも工場での事故 が相次いでいたバングラデシュ は、労働者の安全と基本的権利に 関する業界の認識の低さを露呈 し、世界的に注目を集めることと なった。事故後一部のグローバル ブランドはサプライチェーンのリ スクを軽減するために、バングラ デシュから撤退しようとする動き もあったが 、世界のメディアは 、 バングラデシュからの撤退を批判 し、彼らはむしろ安全管理と労働 条件を改善するために努力すべき であるとの見解が広まった。こう した動きから輸出縫製業企業団体 や国際協力機関、国際 NGO など が議論に参加し、縫製工場の建築 基準、安全対策等の改善に協力す る協定が結ばれ、多くのグローバ ルアパレル企業がこの協定に参加 した。この協定により加盟するア パレル企業は工場の作業安全状況 の検査と改善義務、そのための訓 練や投資を支援することが求めら れる。 一方でバングラデシュ政府は 、 ILO の主導で労働法改革を約束 し、二〇一三年七月には労働法改 正を実行した。かつては労働組合 の登録はほとんど認められなかっ たが、同時に ILO 条約第八七号 ︵結社の自由および団結権保護条 約︶と、同第九八号︵団結権およ び団体交渉権条約︶を批准したの で、 労働組合の結成が容易になり、 政府は両条約に記された労働者権 利を保護する義務を負った。法的 枠組みが整ったことで、世界第二 位の衣類輸出国であるバングラデ シュで、労働者の権利のモニタリ ングと保護が実際にどのように行 われるか今後も世界の目が注がれ る。 サプライチェーンに組み入れら れていく LDC 諸国の労働者たち の労働基準や労働環境改善の問題 は、貿易拡大、グローバルなネッ トワークの広がりとメディアの多 様化、エシカルな市場と企業の社 会的責任の重視などを通じて、先 進国の消費者にとっても見過ごせ ない問題となっている。 ︵なかむら   まり/アジア経済研究 所   貧困削減 ・ 社会開発研究グルー プ︶ ︽参考文献︾ ①

Greenhill, Brian, Layna Mosley

and Aseem Prakash 2009. Trade-based Diffusion of Labor Rights: A Panel Study, 1986-2002 , American Political Science Review , Vol. 103, No. 4, November. ②

Grandi, Pablo Lazo 2009.

Trade Agreements and their Relation to Labour Standards: The Current Situation , Issue Paper No. 3, International Centre for Trade and Sustainable Development. ③ 増田耕太郎 [二〇〇五] ﹁何を 後発開発途上国は輸出している のか?﹂ ﹃季刊 国際貿易と投資﹄ №六 〇 ㈶国際貿易投資研究所。 ④ Barrientos, S., Gereffi, G., & Rossi, A. 2011. Economic and social upgrading in global production networks̶ challenges and opportunities . International Labour Review , 150 (3‒4), 319‒340.

参照

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