2010 年度 修士論文要旨
Sagittarius A*の静穏時の放射スペクトル
関西学院大学大学院理工学研究科
物理学専攻 楠瀬研究室 中川 優子
宇宙に存在する電波源の中でも、未知なものとして有名なのがブラックホールである。このブラ
ックホールについて、現在ではかなりの理論的研究や観測が進められており、私たちの住む天の
川銀河の中心にも、このブラックホールが存在することが分かっている。このブラックホールが
Sagittarius A*という電波源であり、この電波源から放射される電波-X 線の放射過程について、新
しく観測された結果をもとにどのように行われているものなのかを考察した。実際の観測結果と
今回の計算結果を図 1 に合わせて示す。この図 1 から、スペクトルは 1011
Hz 付近で傾きが異な
っていることや、1013
Hz を境に傾きが右上がりから右下がりに変化していることが読み取れる。
この放射過程は、今までにいろいろと考えられてきた降着円盤モデルや RIAF モデルでは説明で
きない部分があるため、今回は、非熱的電子による放射のみが関与すると考えたモデルでのシミ
ュレーションを行い、このスペクトルが説明できないかを試みた。仮定として、磁場や電子密度
の値が中心から外側へ向かいスムーズに変化し、共に等方的であるとした。この条件のもとで、
現在までに得られている Sagittarius A*に関連した値などを使用して、放射過程として考えられる
シンクロトロン放射や逆コンプトン散乱を考慮して、スペクトルのグラフを得た。その結果と実
際に観測されたスペクトルを比較することで、Sagittarius A*の放射は非熱的放射のみで説明がで
きるのか、考察を行った。その結果、非熱的放射過程のみを考えると、逆コンプトン散乱で説明
ができると予測される 1018
Hz 付近のスペクトルが観測値よりも強い強度となり、このモデルで
は説明ができないとの結論に至った。
図 1 Sagittarius A*の観測スペクトル