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Academic year: 2021

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通信制美大生の展覧会が生み出す新しい知識共創

Knowledge Co-Creation through Exhibition Made

by Distance Learning Art University Students

井出温美1),真鍋淳朗2)

IDE Atsumi 1),MANABE Junro 2) [email protected], [email protected]

1) 武蔵野美術大学,2) 認定 NPO 法人金沢アートグミ 1) Musashino Art University, 2) NPO Kanazawa Artgummi 【キーワード】知識創造,通信制美術大学,展覧会,創造都市 1. 研究の背景と内容 アートマネジメントの研究が進むにつれて,芸術文化振興は単なる知識層への娯楽提供という意味合 いを越え,新しい価値として市民に認識されつつある.創造都市論の観点からは,芸術文化のプロモー ションはまちづくりや経済波及効果として語られることが多いのであるが,今回筆者らは金沢の NPO 法人を舞台として,日本美術史上初となる通信制美術大学の関係者を軸に展覧会を企画・運営してみた ところ,当初の思惑とは全く異次元の知識共創の出現を目撃することが出来た.本報告では,今回の展 覧会の概要を示すとともに,具体的にどのような知識共創が実現されたのかという点について,多面的 に考察してみたい. 2. 展覧会の構想 インターネット環境が改善されるに従い,現代の日本において通信制の大学で学ぶ学生は増加しつつ ある.しかしながら,実習や制作が必須となる美術系に関しては,通信制のシステムを提供している大 学はあるものの,その学習は困難を極める.にもかかわらず,経済的事情はもちろんのこと,地元を離 れられない様々な制約や,逆に個人のペースで学びたいという需要もあり,美術の高等教育を通信制大 学で受けている学生は相当数存在する. 2018 年 5 月の時点で,全国にある「通信制の美術大学」(注)は,大阪芸術大学・京都造形芸術大学・ 武蔵野美術大学の3 校となっており,学生数は,大阪芸術大学 853 人,京都造形芸術大学 7,206 人,武 蔵野美術大学2,092 人で,全国で 10,151 人存在する.しかしながら,どの大学も卒業率は 2 割ほどで, 途中退学者が多いのが現状である.背景には,通信教育という特性上,レポートや作品制作を自宅で行 うことが多く,対面授業が少ないために学生同士の繋がりが薄いことが挙げられる.また,学生の居住 地も幅広く,勤めながら学んでいる者も多いことから,学業に対するモチベーションの維持にも課題が ある. そこで通信制大学で学ぶ学生たちの孤独感を癒やし,大学を超えた交流を実現するために,筆頭著者 は認定 NPO 法人金沢アートグミにおけるプロジェクトの公募に応じ,通信制美術大学の関係者を軸と した展覧会を企画した.この構想は無事に採択され,2018 年 12 月 15 日〜2019 年 1 月 13 日に渡っての 実施が決定した. 3. 展示者の募集 展覧会に向け,北陸三県に在住,または所縁のある方を中心に募集を集った.会場となった金沢アー トグミは,地域に根ざした芸術文化活動を支援しており,今回の実験的な企画にあたっても地域性を重 視した募集を軸にすることは自然な流れであった.また,今回対象とした通信制美術大学は,全国に 1 万人以上在学生がおり,卒業生も含めるとその人数は膨大なものになってしまうため,現実にハンドリ ング可能な人数に募集を限定したかった. その後,実際に応募者を募ってみたのだが,予想に反して当初はあまり集まらなかった.プロモーシ ョンのために,それぞれの大学の広報媒体での募集告知をお願いしたが,学内誌への記載や校内の掲示

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についても,一学生の企画にすぎないことから難しい旨の返事をいただいた.唯一,それぞれの大学内 のホームページに募集要項の掲載をして頂けることになったが,2 ヶ月間募集をかけて,web を通じて の応募は0 であった.また,Facebook などの SNS のグループを探し,告知も行なったが,展示のコンセ プトに関しては共感頂いたものの,学生の割合が少ない北陸三県を主として作家を集ったことや,時期 や地域が合わないなどの理由から,ここでも展示者は集まらなかった. 通信制美術大学の学生が集った展示として,大阪芸術大学には塊展,武蔵野美術大学には通信十色展 が存在しており,それぞれの代表者に話を聞いた所,展覧会の出展者を集めるにも,対面で人を集める ことが多く,知り合いを辿っていかないと難しい旨の知見を得た.最終的に,地元の美術館や絵画教室 に問い合わせる他,教授や学生に一人ずつ連絡をとりつつ出展者を探し,2 ヶ月半をかけ,12 人の作家 が参加することとなった. 4. 実際の展示 本展は,作品展示だけでなく,作家の人となりを紹介す るパネルを作成した.通信制の大学の特徴として,年齢層 が 10 代から 80 代にまたがることから,学びたい背景や 経歴も多様なことが挙げられる.本展でも,定年退職者や 主婦に加え,SE やネイリスト,そして専業アーティスト などが集っている.こうした多様性を紹介するにあたっ て,「なぜ入学したのか」や,「入って良かったこと」を パネルとして展示したところ,「親に入学を反対された気 持ちが消えず,63 歳で入学した」という事例や,「ディ スレクシアで文字の読み書きができず,長らく苦しんで いたが,ICT 機器を使用し,53 歳で大学の門を叩いた」 という事例が来館者の関心を集めた. その他にも,通信制美術大学の紹介,それぞれの大学の 特色,卒業までの実体験や,大学で作成した作品の紹介パ ネルも,本人のコメントとともに展示した. 5. 得られた効果 当初,大阪芸術大学・京都造形芸術大学・武蔵野美術大学の通信制大学の学生や卒業生の交流が実現 されるのであれば意義深いのではないかという意識で計画を立案したのであるが,展覧会を終えてみる と意外な波及効果があったことが確認できた. 一般市民に対しては,いわゆる「日曜画家」の立場で,趣味の一環としてアートに関わる他に,美術 の高等教育を受ける機会が身近にあるということを伝えることが出来た.また,作家たちが社会人とし ての多彩なキャリアを積んだ上で生み出す制作は,20 歳前後の通学部の一般学生とは異なる問題意識を 有していることもアピールでき,通信制美術大学が通学部より劣る存在であるかのようなイメージの払 拭にも寄与することが出来た. さらに,各大学の教員・在学生・卒業生に加え,金沢に住む芸術文化活動の実践者たちが今回の展示 の趣旨に賛同し,ワークショップやセミナーの講師として登壇することとなったため,会場ではこれま でになかったアートを楽しむ時間と空間が共有されるとともに,アカデミアと市民社会の新たなるコラ ボレーションが実現した. 北陸中日新聞や,NHKFM,HAB 北陸朝日放送でも展示のことを紹介していただいた他,開催日前日 には,山野之義市長にも来ていただくことになり,新しい人間関係のネットワークが生まれた. 実際に展示に足を運んでいただいた方の中には,通信制の美術大学があると改めて知ることになり, 入学を検討する方や,年を重ねても学ぶ意義を感じ取ることができたという声もあった. 6.今後の課題 本展では,ワークショップや展示のアンケートを集計していなかったのが反省点である.次回開催する 時はデータの集計にも気を配り,今回の反省を踏まえた展示としたい. 図 1:展覧会の全景

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表1:作品展示者一覧 作者名 出身・在籍校 作品名 井出温美 大阪芸術大学短期大学部通信教育部卒業.現在,武 蔵野美術大学通信教育課程在学中. 通信制美大の作品展が有する社会的意 義 井上智 大阪芸術大学短期大学部通信教育部卒業. ディスレクシア 岡島克子 京都造形芸術大学大学院通信教育学部卒業. 猫Ⅰ,猫Ⅱ 木村涼子 武蔵野美術大学通信教育課程在学中. 地方における世代間交流型音楽アート 活動の実践と課題について 黒田学 武蔵野美術短期大学通信教育部卒業. 時の形象 高下雅子 大阪芸術大学短期大学部通信教育部卒業. 赤ちゃんねつけ,所有権,胎蔵界曼荼羅 小坂孝志 京都造形芸術大学通信教育学部卒業. 水雲 野田哲平 大阪芸術大学短期大学部通信教育部出身. 陽瞳娘,静瞳娘, 看板娘"サン" 伏黒由利子 京都造形芸術大学大学院通信教育学部,武蔵野美術 大学通信教育課程卒業. 祈り幻想 前川結佳 武蔵野美術大学通信教育課程在学中. 星屑001,少女 A,習作 山下三佳 大阪芸術大学副手 TUNÉ 他2 名 本人の希望により掲載なし 表2:イベント・ワークショップ一覧 イベント名 登壇者・インストラクター 生きる絵画ー私とあなたのコラボレー ションー 大阪芸術大学副手 山下三佳 通信制美術大学教授座談会 大阪芸術大学 高田光治,武蔵野美術大学 清水恒平, 金沢美術工芸大学 真鍋淳朗 格闘技×アート 武蔵野美術大学通信教育課程卒業生 斉藤俊一 粘土で彫像を作ろう 大阪芸術大学短期大学部通信教育部出身者 野田哲平 通信制美大のギモン 金沢21 世紀美術館館長 島敦彦,出展者 5 名 レジンで根付を作ろう 大阪芸術大学短期大学部通信教育部卒業生 高下雅子 自由に書道を楽しもう 京都造形芸術大学通信教育学部卒業生 小坂孝志 日常における美の涵養と創造への意識 金沢美術工芸大学 大高亨,金沢大学 井出明 (注)ここでいう「通信制の美術大学」とは,全国にある通信制大学の35 校の内,美術やデザインを 主体とした学部を保有する大学を指す. 図3:準備段階における金沢市長の訪問の 様子 図2:メディアでの紹介の例 (HAB スーパーJ チャンネル,HAB 北陸朝 日放送,2018 年 12 月 17 日放送)

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参考文献 大阪芸術大学通信教育部 (2017) 『7ARTSー面白いを学ぶ 2018』 川崎賢一,佐々木雅幸,河島伸子 (2002) 『アーツ・マネジメント』放送大学教育振興会 京都造形芸術大学通信教育部 (2017) 『2018 京都造形芸術大学通信教育部芸術学部 入学案内』 公益財団法人私立大学通信教育協会 (2018) 『2019 大学通信教育ガイド』 徳山詳直 (2017)『まだ見ぬわかものたちにー瓜生山学園設立の趣旨ー』 武蔵野美術大学通信教育課程 (2017) 『武蔵野美術大学通信教育課程入学案内 2018』 読売新聞教育ネットワーク事務局 (2018) 『大学の実力 2019』中央公論新社. 連絡先 住所:〒920-0907 石川県金沢市青草町 88 北國銀行武蔵ヶ辻支店 3 階金沢アートグミ気付 名前:井出温美 E-mail:[email protected]

表 1 :作品展示者一覧 作者名 出身・在籍校 作品名 井出温美  大阪芸術大学短期大学部通信教育部卒業.現在,武 蔵野美術大学通信教育課程在学中.  通信制美大の作品展が有する社会的意義  井上智  大阪芸術大学短期大学部通信教育部卒業.  ディスレクシア  岡島克子 京都造形芸術大学大学院通信教育学部卒業.  猫Ⅰ,猫Ⅱ  木村涼子  武蔵野美術大学通信教育課程在学中.  地方における世代間交流型音楽アート 活動の実践と課題について  黒田学 武蔵野美術短期大学通信教育部卒業.  時の形象  高下雅子

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