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<翻訳>大韓民国法における運送人責任制限の排除 : 大韓民国大法院2006年10月26日判決の検討

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全文

(1)

Ⅰ. 事

複合運送の斡旋を業とする会社である原告 (第1の運送人) は, 2001年2月 22日に, LG電線との間で吸収式冷却器の輸出貨物を釜山港から台湾の基隆港 まで運送する海上運送契約を締結した(第1の運送契約)。原告はこれを自ら運 送するのではなく, 自らを元受運送人として下受運送人の甲(第2の運送人)と 運送契約を締結した(第2の運送契約)。甲は韓国の乙 (船舶所有者) 所有の船 舶を定期傭船して, 第2の運送契約を履行した。第1の運送契約の下で. 原告 は, 2001年3月5日に, 荷送人をLG電線, 荷受人を台湾の輸入会社とする船 翻 訳

大韓民国法における運送人責任制限の排除

大韓民国大法院2006年10月26日判決の検討

【翻 訳】 [概 要] 大韓民国商法によると, 海上運送人は運送品1包あたりの責任制限 (pack-age limitation) を受ける権利が与えられるが, 運送人自身の故意あるいは無 謀な行為がある場合には責任が制限されない。本判決の原審裁判所は, 安全 な船倉内に船積みすべき貨物を甲板の上に積載した場合に, その決定をした 会社の次長が損害発生のおそれがあることを認識しながら, 無謀な行為をし たと認定し, 運送人に責任制限を認めなかった。大法院は, 法人の代表機関 ではなくても, 当該事項に関して最終的な決定権を有している者があるなら ば, その者も運送人の範囲に含まれるとして, 本件で次長を運送人自身の範 囲に含めた。 本評釈は, 甲板積みに対する運送人の責任制限の排除に関し, 主観的 な要素としての無謀な行為と運送人自身の範囲について, 国際条約と各国 法の立場を検討し, 責任制限の排除がきわめて例外的に認められなければな らないことを主張する。

監訳

(2)

荷証券を発行した。第2の運送契約の下では, 荷送人を原告, 荷受人を原告の 台湾の代理店とする船荷証券が発行された。 運送人の甲は, 甲板積みの約定がないにもかかわらず運送品を甲板に積載し たため, 本件貨物が波により損傷を被った。荷主のLG電線は保険会社に保険 事故の発生を通知し, 輸出貨物の損傷について保険金を請求したが, 貨物が甲 板積み運送されたという理由で保険金支給を拒絶された。そこで, 原告はLG 電線に損害を賠償し, 第2の運送人である甲にそれを求償した。 一方, 甲はブリティッシュ・バージン・アイランドに設立されたペーパー・ カンパニーであり, 事実上の支配は韓国に事務所を置いている乙会社がしてい た。原告は, 甲でなく乙を被告として本訴を提起した。乙は, 1包あたりの責 任制限 (以下では, 「運送人の責任制限」 または単に 「責任制限」 という) の 利益を援用するために, 商法第789条の2の適用を主張した。これに対し, 原 告は, 運送人に“運送人自身の無謀な行為”があったので責任制限が排除され ると主張した。 原審のソウル高等法院 (2004年5月4日判決) は, 下記のとおり判示した。 被告適格に関し, 甲は被告の乙が設立したペーパー・カンパニーとして実際 に乙と同じ法人格のように運営されており, 法人としての形式をそろえている が, 実質上では完全に法人格の背後にある企業に過ぎない場合またはそれが背 後者に対する法律の適用を回避するための手段としてむやみに使われる場合に は, 会社はもとより背後者にも責任を問えるので, 乙も運送契約に伴う債務を 負う。 (1) 商法第789条の2に定める運送人責任制限の適用において, 運送人の 甲板積みをした行為は, 責任制限を排除する事由である“損害が生じるおそれ があることを認識しながら, 無謀にした行為”に該当する。運送人である甲会 社の代理人および次長が甲板積みに関する決定をし, たとえ次長の行為といっ ても, 彼が実質的な決定権限を持っているならば, 運送人自身の行為であると 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 (1) 被告は船荷証券裏面に記載した責任制限の利益を援用しようとしたが, 原審は, 第2 の運送契約当時, 本件貨物について, 船荷証券を発行せずに, いわゆる surrender 貨物と して処理することの合意が成り立ち, 船荷証券が発行されなかったし, このような趣旨を 現わす surrender 文言が表示された元地回収船荷証券のみが発行されたので, 船荷証券発 行を前提にする被告の主張は理由がないと判示した。

(3)

認定することができる。したがって, 甲の行為は運送人自身の無謀な行為であ るので, 商法第789条の2第1項但書きにより責任制限が適用されない。そこ で, 被告乙は大法院に上告した。

Ⅱ. 大法院の判示内容

大法院は法人格否認の認否について,「甲は, 被告乙と営業上の実質が同一 であるにもかかわらず, 海上運送における運送人の責任を不当に回避する目的 で, 形式上のみブリティシュ・バージン・アイランドに設立されて, 被告と同 じ法人格のように運営されてきた。本件の運送契約が外観上原告と甲の間に締 結されたといっても, 甲の背後者である乙は, 甲と別個の法人格であり, 本運 送契約にともなう債務が甲のみに帰属すると主張できないので, 乙も運送契約 にともなう債務を負担すべきだと判断した原審の措置は正当だ」と判示した。 商法第789条の2が定める責任制限の適用が排除されるのかどうかに関し, 大法院は次のとおり述べた。「条文の文言および立法の沿革に照らし, 但書き で述べている‘運送人自身’は運送人本人であり, 運送人の被傭者や代理人な どの履行補助者に帰責事由がある場合には, 同項但書きが適用されない。 しか し, 法人運送人の場合には, その代表機関の故意または無謀な行為のみを法人 の故意または無謀な行為と限定すると, 法人の規模が大きいほど運送に関する 実質的権限が下部の機関に委譲される場合が多いので, 但書きの排除事由は事 実上死文化され, 当法人が責任制限の利益を不当に享受するおそれがある。し たがって, 法人の代表機関のみでなく, 少なくとも法人の内部的な業務分担に より当法人の管理業務の全部または特定の部分に関して, 事実上の会社の意思 決定を行う権限を行使する者があるならば, たとえ取締役会の構成員または役 員ではなくても, その者の行為を運送人の会社自身の行為であると認めるべき である。 同じ趣旨で, 原審が, 本件において原告との合意なしに任意に輸出 貨物を甲板積みするように指示した乙の担当管理職は, 対外的に代表権を持つ 甲の代表機関ではないが, 本件運送契約の締結とその履行過程において会社の 意思決定などのすべての権限を行使する代表機関に準ずる地位にあったとし, 本件貨物を甲板積みした行為は運送人自身の行為に該当すると判断したのは 記録に照らして正当なことである。したがって, 上告を棄却する。」 (2)(3) 翻 訳

(4)

Ⅲ. 運送人の責任制限排除事由に関する検討

1. 序 本件の争点は, ①ペーパー・カンパニーの法人格が否認されて背後の実質的 な会社が運送責任の主体になるのかと, ②商法上の運送人の責任制限の排除事 由である 無謀な行為はどのような内容であり, 運送人自身の範囲はど こまでかという二点である。とりわけ, 韓国の大法院において海上運送人の責 任制限が排除されたのは初めてであり, 世界的にもこのような判例は珍しく, 本判決は非常に重要な意味を持つと思う。 複合運送の斡旋業者が荷主の立場でペーパー・カンパニーである運送人と運 送契約を締結し, 運送人が甲板積みした結果, 運送品が損傷を被った事案で, 原審と大法院は, 法人格否認論を適用して背後の船舶所有者に運送契約にとも なう債務を認め, 合意がなかったのに甲板積みを決めた次長の行為は運送人自 身の無謀な行為であるので, 運送人は責任制限を援用できないと判示した。 本評釈において取扱うのは二つ目の争点であり, 運送人の責任制限の排除に 関する点である。 (4) 2. 責任制限制度の一般論 海上運送法では, 船舶所有者と運送人を保護する制度として総体的責任制限 制度がある。この制度について廃止の論議もあるが, 沿革的な理由と運送人の 保険加入金額の決定に役に立つという理由で存在意義があるという意見が有力 である。 (5) 現在の傾向は, これを廃止するより, 責任限度額を増額して, 運送人 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 (2) 判例公報 (2006) 1966頁。 (3) 本判決の簡略な評釈として, 金仁顯 「運送人の法人格が否認されたとともに責任制限 が排除された事例」 法律新聞2007年3月26日 (第3540号) 15頁;金昌俊 「運送人の責任制 限排除事由」 2007年度韓国海法学会春期定期学術発表会資料 (韓国海法学会) 25頁以下 <韓国海法学会誌第29冊第2号 (2007年) 7頁以下>。 (4) 法人格否認論に関する論議は紙幅の関係上省略する。これについては, 金仁顯 「海上 事件関連の法人格否認論に関する韓国とアメリカの比較法的研究」 2007年度韓国海法学会 春期定期学術発表会資料 (韓国海法学会) 41頁以下<韓国海法学会誌第29冊第2号 (2007 年) 37頁以下>参照。

(5)

がさらに多い損害賠償額を支払うようにし, 他方において, 責任制限が排除さ れないようにするという方向にある。 (6) 船舶所有者と運送人および荷主のすべて に得になるからである。船舶所有者が負担する保険料の引き上げは荷主の保険 料の引き下げにつながる。 一方, 運送人が損害賠償責任を負う場合に, その責任を運送品の包装数によ り一定の金額に制限できる制度を運送人の責任制限制度という。ところで, 運 送人が故意に近い行為をし, 運送品に損傷を負わせた場合まで, 例外的な責任 制限制度を認める必要はない。商法は, 第789条の2第1項本文で, 海上運送 人が運送品の受取り, 船積みなどに関して損害賠償責任を負うときは, 1包あ たり 500SDR を限度として責任を制限することができると規定し, 同項但書 きで,“ただし, 運送品に関する損害が, 運送人自身の故意またはその損害が 生じるおそれがあることを認識しながら無謀にした作為または不作為によって 生じたことであるときはこの限りでない”と定める。同規定はハーグ・ビスビ 規則 (7) 第4条第5項e号に従ったものである。 (8) この責任制限排除事由は, 運送人 の責任制限の場合のみでなく, 総体的責任制限制度でも同一に規定されてい る。 (9) 同条項はワルソー条約第2の5条に基づいて作られた。 商法によれば, 運送人自身の故意または無謀な行為がある場合に, 運送人は 責任制限を援用することができない。2種類の要素, すなわち 運送人自身 および彼の 無謀な行為が訴訟で争点になり, この二つをすべて, 原告の荷 翻 訳 (5) 炳泰 「責任制限法改正案とその趣旨」 韓国海法会誌第11冊第1号(1990年) 50頁; 金昌俊, 前掲書26頁。 (6) 例えば, 油濁損害賠償のための国際条約と基金条約は, 結果的に船舶所有者の責任が 制限されないほどにまで責任制限の金額を増額し続けている。 (7) ハーグ・ビスビ規則とは, 船荷証券の統一に関する条約である1924年ハーグ条約と 1968年ハーグ条約改訂のためのビスビ議定書を合わせて呼ぶ用語である。すなわち, 1968 年ビスビ議定書の改訂内容を1924年ハーグ条約に追加したものをハーグ・ビスビ規則という。 (8) Neither the carrier nor the ship shall be entitled to the benefit of the limitation of liability

provided for in this paragraph if it is proved that the damage resulted from an act of omission of the carrier done with intent to cause damage or recklessly and with knowledge that damage would probably result.

(9) 商法第 746 条は“債権が船舶所有者自身の故意または損害発生のおそれがあるこ と を 認識しながら無謀にした作為または不作為により生じた損害に関するものであるときには, 船舶所有者は責任を制限できない”と規定する。

(6)

主が立証しなければならない。 (10) これについて順に論じようと思う。 (11) 3. 故意および認識ある無謀な行為 故意が責任制限排除事由に含まれる点には疑問の余地がない。これはハーグ ・ビスビ規則の “intent to cause damage” を翻訳したものとみられる。 故意に は, 確定的故意と未必の故意 (あるいは消極的故意) が含まれ,“無謀な行為” が未必の故意にも主張されているので, 故意でない“確定的故意”あるいは原 文と同じように“損害を引き起こす意図を持ち”と法文を修正することにより, 未必の故意を排除した方が良いと思う。故意を第1の主観的要素と呼ぶことに する。 “無謀に”そして“その損害を生じるおそれがあることを認識しながら” (recklessly and knowingly that the result probably occur) という2種類の要素 を統合し, 韓国では“無謀な行為“と言う。日本では“認識ある無謀な行為” と呼ぶ。“無謀に”を独自のことと見る余地もあるが, 後の“認識しながら” 以下の文章と “and” で連結しているので, 通説は両方を合わせ理解する。こ れを第2の主観的要素で呼ぶことにする。以下では, 論議になっている第2の 主観的要素の“無謀な行為”の概念について検討することにする。  韓国の場合 韓国の学説では, 重過失説, 故意に近い過失説 (準故意説。 認識ある重過失 説を含む), そして未必の故意説が対立している。 (12) ①重過失説 蔡利植教授は“改正商法は船舶所有者を保護する目的で排除 事由の範囲を縮小し, 損害を生じるおそれがあることを認識しながら無謀にし 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 (10) 立証責任を原告である荷主が負担すべき点には異論がない。蔡利植 商法 (下) (博 英社, 1992年) 714頁;金昌俊, 前掲論文34頁;大法院2006年10月13日判決。 (11) このテーマに関する国内の先行論文として, 金東勳 「改正商法上船主責任制限の喪失 事由」 韓国海法学会誌第15冊第1号 (1993年) 103頁以下;尹培慶 「商法第746条本文但書 き上の船舶所有者等の主観的責任制限阻却事由の解釈に関する小考」 韓国海法学会誌第18 冊第2号 (1996年);李昌熙 「商法第746条に表現された無謀な行為の解釈基準に対する考 察」 木浦海洋大学論文集第7集(Ⅱ) (1999年) 69頁以下。 (12) このような対立は1991年商法改正案を作成する当時よりあった。

(7)

た行為による損害債権に限り責任制限の適用を排除した。ここで‘無謀にした 行為’と言うのは, 損害の発生を認識しながらした行為のみでなく, 重大な過 失により損害が生じないと信じ, あるいは重大な過失により損害発生の可能性 を認識せずに行ったすべての行為をいう”と説明する。 (13) 蔡利植教授は, 未必 の故意, 重大な過失+認識ある過失, 重大な過失を順次説明している。し たがって, 少なくとも重過失まで含むので重過失説と呼ばれる。 (14)(15) この学説の立 場は, 故意はもとより, 未必の故意を含み, 重大な過失の場合にまでも船舶所 有者あるいは運送人の責任制限が排除されることになるので, 運送人に最も不 利であるし, 荷主に最も有利になる。この学説は, 刑法上の概念を借りること なく, 現在の民商法上の概念として無謀な行為を解釈する長所がある。しかし, 条約の趣旨と異なるという問題点がある。 ②故意に準ずる過失あるいは認識ある重過失を含む準故意説(有力説) 金 東勳教授は, 改正商法上の無謀な作為または不作為という文言が, 該当する国 際条約の文言をそのまま翻訳し受け入れたという立法趣旨を尊重する限り, 翻 訳 (13) 蔡利植, 前掲書713頁。ただし, 2003年度改訂版669頁では,“この規定により排除さ れる帰責事由は, 重過失よりもっとその範囲が縮まったものと解釈される。”という。 (14) 蔡利植教授のこのような見解は, 無謀 (recklessness) に対する英国法の立場を反映 し, これを排除事由の独自的な主観的要素と理解したものと考えられる。金東勳教授の見 解を借りると, 少なくとも英国法では無謀さに重過失も含まれる。金東勳, 前掲論文116 頁。なお, 英国法において, 無謀とは, 主観的な見解によれば, 行為者が自分の行為によ り損害が発生する危険を現実的に予見したことを意味し, 客観的な見解によれば, 行為者 が認識する行為より生じる有害な結果の危険を無視することを決めただけでなく, また危 険が生じうる状況の存否を無視することも含むことを意味する。英国の学説と判例は, 無 謀さを客観的に解釈し,“認識しながら (knowingly)”以下を主観的に解釈する。 朴容燮, 海商法 (蛍雪出版社) 1998, 239頁。したがって, 客観的に無謀さを理解する英国では, 重過失も含む概念になる。しかし, 後で述べるのと同様に, 無謀さではなく“無謀な行為” を解釈するのにあっては, 無謀なことで要求する損害発生の認識の程度は,“認識しなが ら”以下の高い程度のものに代替されるので, 英国法において重過失も“無謀な行為”に 含まれることは (認識ない重過失が含まれるので) 誤りであると思う。重要なことは, 単 独としての“無謀”ではなく,“認識しながら”以下の要素も一緒に考慮した“無謀な行 為”の意味である。 (15) 尹培慶弁護士は, 1976年責任制限条約が軽過失の場合に責任制限が排除される状況を 阻止する趣旨であったので, 重過失であるならば充分だという立場である。尹培慶, 前掲 論文47頁;李宙興判事も, 重大な過失を意味すると言う。海上運送法 (博英社, 1992) 92 頁。

(8)

“損害発生のおそれがあることを認識しながら”行為をするということは, 刑 法上の概念を借用して説明すると, 未必の故意と認識ある過失を包含するとい え,“無謀に”行為をするとはその非難可能性(帰責性)が高いということを 意味するので, 重大な帰責事由であるという。なお, 責任制限の排除事由をき わめて狭く限定しようとする76年条約とビスビ規則の立法意図を考慮すると, 認識ある過失の場合は一般的な重過失よりはるかに重い過失, すなわち故意に 近接する過失を意味すると考える。 (16) 金東勳教授は, 無謀な行為が損害発生に関 する未必の故意および故意に準ずる (認識ある) 過失にあたると主張する。 (17) 未 必の故意と認識ある過失の中で, 重過失以上の主観的な要素がある場合に, 運 送人の責任制限は排除されるとする。この見解は重過失説を否定し, 未必の故 意を含みながら, これより若干低い段階の故意に近い認識ある過失までも責任 制限の排除事由とする。 (18) ③未必的故意説 (多数説) 林東教授は,“無謀な行為”とは重大な過失 というよりは, 消極的故意の場合をいうと解釈すべきであるという日本の谷川 教授の学説を引用しながら, 運送人の主観的要素として規定された“損害を起 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 (16) 金東勳, 前掲論文121頁。そして, 一般の故意・過失が結果 (事故) の発生に対する 認識を前提にするに対し, これは損害の発生に対する認識であるという点に差がある。 (17) 宋相現教授と金弁護士も, 無謀さというのは故意に準する高度の怠慢な状態なので, 重過失より重い過ちだと言う。したがって, 危険の存在を不合理に認識することができな かったということだけでは, 責任制限を喪失しない。宋相現=金, 海商法原論 (博英社, 2003) 142頁;同旨;鄭燦亨, 商法講義 (下) (博英社, 2005) 799頁。 鄭東潤教授は, 損 害発生のおそれがあることを認識するとは, 運送人などが現実に認識していることを意味 するので, 善良な管理者の注意義務を基準とし, 抽象的に過失の有無と軽重を判断する重 過失とは異質的なことであり, また損害発生に関する単純な蓋然性の認識に過ぎない認識 ある過失とも違うという。これは損害の発生を意欲すること (ここでの故意) ではないが, 損害発生のおそれがあることを現実に認識しながらも無謀に行為をすることなので, 故意 に近い概念とみる。鄭東潤, 注釈商法 (海上編) (司法行政学会, 2001) 342頁。 (18) 一方, 崔鍾賢教授は, 無謀な行為を認識ある重過失と解釈し, 重過失説は認識ない重 過失を含み, 未必的故意説は重過失を排除するので誤りであるという。実際に発生した損 害を認識しながら行った重大な過失行為と, 損害の発生を認識しながらこれを惹起した未 必の故意がこれに該当するという。崔鍾賢 「船舶による汚染損害の全補に関する研究」 (ソウル大学校法学博士学位論文, 2001) 89頁。 金昌俊弁護士も無謀な行為には未必の故 意を含み, 認識ある重過失を意味するとされる。前掲論文, 38頁。このように, 認識ある 重過失説も広く見ると, ここに含むことができると思われる。

(9)

こすことを意図として”というのは, 積極的加害の意図が含まれた積極的故意 の場合であると主張した。なお, この条項と, 英国のダイヤモンド弁護士が説 明し, 英国法でも多くの判例で使われている意図的な非行 (willful misconduct) との間に差を見つけられるという点を根拠とし, (19) この条項の無謀な行為が重過 失に該当すると考える見解には賛成しがたいという。 (20) 李均成教授は, 無謀な行 為とは重過失というよりは, 消極的な故意(いわば刑法上の未必の故意)を指す という。 (21)(22) 彼らの立場は, 認識ある過失や重過失を排除し, 未必の故意が行為者 にある場合にのみ運送人の責任制限が排除されることになるので, 運送人に最 も有利な学説といえる。 “無謀な行為”の原典であり, ハーグ・ビスビ規則の母法になった航空運送 に関するワルソー条約第2の5条の解釈と関連し, 大法院 (2004年7月22日判 決) (23) は,「損害が生じる可能性があることを認識しながら無謀に行った作為ま たは不作為”とは, 自身の行動が損害を発生させる可能性があるということを 認識しながら, その結果を無謀に無視した意図的行為をいい, その立証責任は 責任制限条項の適用排除を求める者にあり, (中略) 損害発生の可能性に対す る認識がない限り, いくら過失が重くても無謀な行為とは評価されない」と判 示した。要するに, 大法院は, 損害発生の可能性に関する認識とその結果を無 謀に無視する心的状態を要件として, 刑法上の概念で少なくとも認識ある過失 がなければならない点を明確にした。本判決の以後にも, 大法院は, 何回も航 空運送人の責任制限排除の事由について判断したが, 学説で議論されている主 観的な要素に関する具体的な説明はなかった。 (24) 翻 訳

(19) Anthony Diamond Q. C., “The Hague-Visby Rules”, [1978] 2 LMCLQ 245. (20) 林東, 海法国際運送法研究 (眞成社, 1999) 107108頁。 (21) 李均成, 国際海上運送法研究 (三栄社, 1984) 245頁;同旨, 崔, 保険・海商法 (三知院, 2005) 377頁;金履修“船舶所有者の責任制限海商保険法に関する諸問題(裁 判資料第52集, 法院行政処, 1991) 89頁;李昌熙, 前掲論文12頁。 (22) 一方, 朴容燮教授は, 行為者が損害発生の蓋然性を現実的に分かっていることを意味 し, 故意の法的構成を有すると見ることが妥当だと言い, 海法と国際海事債権条約の責任 制限阻却原因が故意あるいは故意に近い過失であると言う。したがって, 朴容燮教授は無 謀な行為を未必な故意と理解すると解される。朴容燮, 前掲書238239頁。 (23) 当該事案では, 航空運送人が荷受人に確認しないまま, 偽造された輸入貨物引渡し承 諾書と引換えに, 貨物を引渡した。

(10)

 外国の場合 ① 英 国 英国の学者らは, 航空運送に関するワルソー条約第2の5条の解釈を参考す べきだとして, (25) “第2の5条で要求されるのは, 結果発生の可能性に関する認 識である。 彼の行動の結果として損害が生じることを知なければならないと いうことの立証のみでは不足する”というダイスン判事の判示内容を (26) 紹介す る。 (27) 英国判例の立場によると, 原告の荷主が立証するのはとても難しいことと いわれる。 “無謀に”の要件に関する英国の判例である R. v. Caldwell (29) では, 危険が存 在することと危険な結果を認識することはもとより, そういう危険が存在する かどうかを考えないことも含まれると述べた。ところで, 責任制限条約の排除 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 (24) 航空機装置に故障が発生したため中間寄着地で修理をし, 離陸後に爆発事故が発生し た事例 (大法院2005年9月29日判決) において, 大法院は,“航空機を運行する機長など の過失は重大だと言うが, そうだとしても, 認められた事実だけからは, 彼らが自分たち や仲間たちの生命まで奪いとられる事故発生の蓋然性を実際に認識したと思うことができ なく, むしろ諸般の事情に照らして見ると, 出航乗務員たちはこの事故の直前まで事故発 生の危険を現実的に認識することができなかったと見えるので, 被告所属機長等が損害を 発生する蓋然性を認識しながらその結果を無謀に無視した意図的な行為により事故が発生 したとは見られないと判示した。”これに対する判例評釈には, 金“航空における責任 制限排除事由 (大法院2005年9月29日判決), 法律新聞2007年1月15日記事がある。一方, 大法院2006年10月13日判決において, 原告の金装飾棒を乗務員が引き受け保管しておいた が, これを中間寄着地であるパリ空港で捜すことができずに紛失した事案において, 原告 は航空会社の職員たちに無謀な行為があると主張し, 航空運送人は責任制限ができないと 主張した。大法院は前記の2004年7月22日判決の判示内容をそのまま引用した上, それに 追加して“原審が, 損害を加える意思, または損害の生じる蓋然性があることを認識しな がらも, 無謀に行った作為または不作為があったと思えなく, 他にこれを認めるに値する 証拠がないという理由で, 責任制限条項の適用が排除されるという原告の主張を排斥した ことは正当である”と判示した。これに対する判例評釈では, 金“航空運送人の責任制 限排除事由 (大法院2006年10月13日判決) 法律新聞2007年5月7日記事がある。 (25) Diamond, op. cit., pp. 224, 225.

(26) 知らなければならないとは, 知らないことについて注意義務違反の過失があるという 趣旨である。

(27) John F Wilson, Carriage of Goods by Sea (5th ed.), Pearson Longman, 2004, p. 205. (28) Ibid ; “the burden of proof on the claimant will be a formidable one” という文章におい

てみるとおり, formidable という用語を使っている。 (29) [1982] A. C. 341(HL).

(11)

事由は, このような無謀な行動に加え, 損害発生の可能性の認識も要求してい るので, これらを共に考慮しなければならないという主張がある。 (30) この見解に よると, 第2の主観的要素の“無謀な行為”は, 単純な重過失でなく, これに 追加される要件として損害発生の現実的な認識がなければならないことを意味 すると理解される。ダイヤモンド弁護士は, ビスビ議定書の“無謀な行為”の 解釈として,“無謀に”という要件の要素には, 正しくない事が行われている ことに関する主観的な認識と, 結果に対する無関心が要求され, また主観的な 認識は,“損害発生の可能性に関する認識”という要素として確認されるので, 判例のいう意図的な非行と差がないという。 (31) この説明は, 無謀さから要求され る主観的認識が, 第2の主観的要素において ‘and’ で連結される“認識しなが ら”以下により補充されるということを強調するのである。すなわち,“無謀 に”の要件には, 主観的要素として損害発生に関する認識が含まれているが, これは“認識しながら”以下の損害発生の可能性に関する認識で補充されると いうことである。 (32) ② 米 国 米国はハーグ規則を受け入れ, ビスビ議定書を受け入れていないので, 海上 物品運送法 (COGSA) には“無謀な行為”に関する法文がない。また, 船主責 任制限も同じように独自の制度を持っている。したがって, これに関する議論 は比較的わずかであると言える。 米国で最も代表的な 不法行為法 (Torts) の著者であるキトン (Keeton) 学長によると, 重過失は一般的な不注意よりもっと深刻な過失であるが, 結果 に対する無謀な無視には至っていないとして, 結果に対する意識的な無関心 よりは低い段階であると説く (gross negligence falls short of a reckless disre-gard of the consequence)

(33)

。結果に対する無謀な無視と結果に対する意識的な 翻

(30) Ozcayir, Liability for Oil Pollution and Collisions, LLP, 1998, p. 359. (31) Diamond, op. cit., p. 245.

(32) ダイヤモンドが紹介する判決は,危険が存在することは認識したが, その危険を避 けられるかに対し関心を持たないことが無謀さという (it must at least reckless, that is to say, made with actual recognition by the insured himself that a danger exists, not caring whether or not it is averted)” とする。

(12)

無関心はいずれも, 無謀さである。 (34)

ドブス (Dobbs) 教授は, reckless, willful および wanton は同じ概念であると説きながら, これを重過失と別に取り扱う。 無謀さになるためには, 重過失において非難を受ける心的な状態が要求さ れるという。 (35) ちなみに, 彼は“無謀さには危険が大きかったり, 非常に深刻な 損害の脅威を受けていたり, 危険を避けるための費用支弁が非常に低い状態に あるのに加え, とりわけ重過失の成立には要求されない心理的な要素が要求さ れる。被告が危険を認識し, または, これを認識できる特別な理由を持ってい るのにもかかわらず, 他の人の安全に対し関心を傾けないで行為を継続するの である。行為者は他の者を故意に害しないけれど, そういう行為をする相当な 理由なしに非常に深刻な危険を故意に (intentionally) あるいは意識的に (con-sciously) 行う。裁判所の表現を借りれば, この場合に, 行為者には意識的な 無関心という誤りがあるといえる。 無謀さの状態になると, 懲罰的な損害賠 償が加えられるという点で重過失と区別する実益がある”と説明する。 (36)

一方, ブラック法律辞典 (Black’s Law Dictionary) はケニーの 刑 法 要 約 集 (Kenny’s Outlines of Criminal Law) を引用している。 故意は予想なしでは存 在しえない。しかし, 予想は故意なしに存在することができる。ある人が自分 の行為を原因として可能性がある結果が予想したが, その結果が発生しないこ とを希望する場合を前提しよう;それにもかかわらず, その行為をわざわざ継 続すれば, 彼は希望しない結果を発生させる危険を分って, 行動したことにな る。このような状態を最もよく現わす用語が無謀さである。” (37)(38) 同辞書はまた, 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除

(33) Page Keeton, Torts, West Publishing, 1984, p. 212.

(34) キトンは, willful, wanton, reckless について “the actor has intentionally done an act of an unreasonable character in disregard of a known or obvious risk that was so great as to make it highly probable that harm would follow, and which thus is usually accompanied by a con-scious indifference to the consequence” と表現する。Keeton, op. cit., p. 213.

(35) 多くの裁判所が重過失を無謀さと等しく見る場合もあるという。Dan B. Dobbs, The Law of Torts, West Group, 2000, p. 351.

(36) Dobbs, ibid, p. 350.

(37) Intention cannot exist without foresight, but foresight can exist without intention. For a man may foresee the possible or even probable consequences of his conduct and yet not desire them to occur ; nonetheless if he persist on his course he knowingly runs the risk of bringing about the unwished result. To describe this state of mind the word reckless is the most appro-priate. Black’s Law Dictionary, Thomson West, 2004, p. 1298.

(13)

無謀さの特徴として,“他の人に, 正当化されることなく, 相当な傷害の危険 を引き起こし, そういう危険に対する意識的な(時には意図的な) [conscious (and sometimes deliberate)] 無視あるいは無関心であると述べている。

(39) このような米国法の立場を解釈すると,“無謀さ”は意思的要素の観点にお いては未必の故意と認識ある過失の中間に位置し, 行動の観点においては重過 失以上に該当すると判断される。したがって, 第2の主観的要素である無謀な 行為を解釈するためには,“無謀に”には“損害発生の可能性を認識しながら” が含まれるものと解釈しなければならない。これにより,“無謀さ”から認識 されるべき損害可能性の程度が相当高い水準に達することになる。無謀さは, 重過失と比べ, 行動的な要素はそのまま維持されながら, 意思的な要素はさら に故意に近いものに代替されるといえる。 (40) ③ ド イ ツ ドイツの場合は, HBG 660条第3項が運送人責任制限の排除事由を, HGB 487d 条が総体的責任制限の排除事由を定めている。認識ある重過失と未必の 故意の中間に位置すると把握するのが一般的である。 (41) 英米法の概念における意 図的な非行の概念を採用したと説明される。 (42) ④ 日 本 ハーグ・ビスビ規則を国内法化した日本は, 韓国と同じ文言の規定を持って 翻 訳 (38) 無謀さには, 意思的要素において, 少なくとも甘受するという意思が必要であると考 えられる。これは未必な故意には至らない。

(39) Black’s Law Dictionary, op. cit., p. 1298.

(40) 一方, カナダのゴールド教授も, 無謀な行為において,“無謀”は重過失であるが, 認識しながら”以下の要素とともに考慮されなければならないと主張する。Edgar Gold and Others, Maritime Law (Irwin Law, 2003) p. 732.

(41) 受川環大 「国際海上物品運送人の責任制限阻却事由」 海事法研究会誌 1999年12月号 (No. 153) 28頁。 (42) フランスにおいても, 傭船契約及び海上運送に関する1966年6月18日の法律を改正す る1986年12月23日の法律第28条第5項は“損害を発生させる意図を持ち, または無謀に, そして損害発生のおそれがあることを認識しながら行った運送人の作為または不作為によ る損害が発生したことを立証した場合”には, 運送人は責任制限されないと定めた。中村 眞澄・海上運送責任の諸問題(成文堂, 1998) 228頁。

(14)

いる (船主責任制限法第3条第3項;国際海上物品運送法第13条の2)。日本 でも,“無謀な行為”について, これを単純に行為が無謀なことのみでなく, 同時に損害発生の可能性を認識することが要求される。したがって, 無謀な行 為は, 日本法の故意, 重過失または認識ある過失では解釈できない概念で, 損 害発生の可能性 (possibility) を超え, 蓋然性 (probability) を認識するべきで あって, 損害発生の可能性が不発生の可能性より大きい場合を意味する。 (43) 無謀 さの意味について, 不注意の程度が単純な過失および重過失より大きいと解釈 される。 (44) 落合教授は,“無謀な行為“について, 結果発生の可能性に関する認 識はあるが, 結果発生の意思はないので, 未必の故意とは異なり, 認識ある過 失の場合は認識の程度を問わないが, 無謀さでは可能性の認識を要求するので, 認識ある過失とも違うという。 (45)(46)  解 釈 論 韓国商法上,“無謀な行為”という用語は, 1991年改正時に1968年ビスビ規 則の文言どおりに立法しようという見解により規定されたものである。 (47) ワルソー条約第25条第1項は,“運送人は損害が運送人の意図的な非行によ り発生したとき, または訴が係属される裁判所が属する国家の法律に従い意図 的な非行に相当すると認められる過失により発生したときは, 運送人の責任を 排除あるいは制限する規定を援用する権利を行使できない”と定めた。 (48)(49) 意図的 な非行と類似する過失について, フランスではこれをと言い, ドイツで は重過失であると理解される。 (50) このように解釈がそれぞれであるため, 条約は, 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 (43) 重田晴生 「船主責任制限制度」 海法大系 (商事法務, 2003) 68頁。 (44) 重田, 上掲論文69頁。 (45) 落合誠一, 運送法の課題と展開 (弘文堂, 1994) 90頁。 (46) 中国の海商法も, ハーグ・ビスビ規則と同一の用語を使用している (第59条)。 (47) 同旨:金東勳, 前掲論文121頁;孫珠, 商法 (下) (博英社, 1996) 974頁。 (48) The carrier shall not be entitled to avail himself of the provisions of this convention which

excluded or limit his liability, if the damage is caused by his willful misconduct or by such de-fault on his parts as, in accordance with law of the court to which the case is submitted, is con-sidered to be equivalent to willful misconduct.

(49) 故意に相当すると認められる過失は重過失に該当するという見解がある。孫珠 「航 空運送契約に関する立法事項」 韓国海法学会誌第11冊第1号 (1990)323頁。

(15)

新しい主観的要素として, 故意と認識ある無謀な行為を定めた。これがハーグ 議定書で改正されたワルソー条約第25条である。 (51) したがって, 無謀な行為は, 英米法における意図的な非行と同じ概念として理解してもかまわないという。 航空運送に関する注釈書は, 重過失を, 認識ある重過失 (    ) と認識ない重過失 (   ) に区分し, 認識ない 重過失は“認識ある無謀な行為”に含まれないとする。 (52) ‘無謀に’は行動 (  ) の側面と,‘認識して’以下は引き起こされた損害の側面と関連す るという。 (53)(54) 英米法上,“無謀に”という要件は, 結果発生の可能性の認識面において刑 法上の“認識しながら (あるいは事情を知りながら)”より低い段階と判断さ れる。 (55) この解釈によると,“認識しながら”と“無謀に”は, 結果発生の可能 翻 訳 (50) 1929年ワルソーにおいて条約草案を審議したとき, ドイツの代表は重大な過失 (gross negligence) を故意と等しく責任制限排除事由に入れることを主張したが, 英国の代表は 責任制限排除事由が非常に拡がることに憂慮を表明しながら反対した。このような論議の 過程を経りながら, 条約起草者たちの共通的な見解は, 運送人の責任制限排除事由は故意 及び故意よりちょっと広いが重過失は含まない概念を念頭に置き, このような概念に適合 する用語が英米法上の willful misconduct だったと言う。崔, 国際航空運送法 (三栄 社, 1987) 125頁。

(51) The limits of liability specified in Article 22 shall not apply if it is proved that the damage resulted from an act or omission of the carrier, his servants or agents, done with intent to cause damage or recklessly and with knowledge that damage would probably result; provided that, in the case of such act or omission of a servant or agent, it is also proved that he was act-ing within the scope of his employment.

(52) Elmar Giemulla and others, WARSAW CONVENTION, Kluwer Law International, 2002, p. 15. (53) この点に関する詳細な紹介及び解釈には, 孫珠, 航空契約法(博英社, 1989) 121頁 以下がある。 (54) 英米刑法においていう‘故意に (purposely) あるいは意図的に (intentionally)’は, 結果発生を認識しながら結果を意識的に惹起させることなので, 認知的要素と意思的要素 を有する。金日秀教授はこれを意図的故意と言う。金日秀, 刑法総論講義 (斗星社, 1994) 132頁。 (55) 英米刑法において, 認識しながらは特別な結果の発生がほとんど確実であること を認識して行為することである。金日秀教授は, 故意を認知的要素と意思的要素に分け, 認知的要素を確実性, 蓋然性, 充分な可能性の三段階で区分する。また, 意思的要素を意 慾的意思, 単純意思そして甘受意思で区分する。 意図的故意は構成要件の実現を目的 にする最強度の意思を内容にする故意をいう。目的志向的意思または第1級の直接故意で

(16)

性の認識の程度において差があるにもかかわらず, 第2の主観的要素では両者 をで連結し併置しているので, 解釈の困難が発生する。 英米法の立場は, 次のように整理される。“認識ある無謀な行為” (56) は, 2種 類の用語が結合されているのである。すなわち,“無謀に”と“損害が発生す るおそれを認識しながら”という要素である。無謀さの要素には, ‘重過失 (   )’という要素と, 重過失にはない‘非難される心理的な状態’ が必要である。この心理状態は, 結果の発生を認識しながら(あるいは英国 法の立場においては認識せずに), 他人の権利の保護に対し無関心なことを いう。したがって, 無謀さを“損害発生の蓋然性を認識しながら”と一緒に考 慮すれば, 無謀さのの要素は“認識しながら”という要素と重複することに なる。 後者が結果の発生に対する蓋然性という重い要件を要求するので, の 要素は後者によって代替される。したがって, 無謀さは, 結果の防止のために 要求される注意を少ししたならば避けられたにもかかわらず, 結果防止のため の措置をとらなかったことであり, また主観的な心理状態は事故発生の結果 に対し無関心であること, その結果を甘受することである。第2の主観的要素 の解釈のためには, ここに商法第789条の2後段の認知的要素(損害が発生す るおそれを認識しながら) を追加しなければならない。このとき, 結果発生の 認識についての程度は可能性でなく蓋然性でなければならない。 (57)(58) 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 ある。認知的要素の中で確実性, 蓋然性, 十分な可能性のいずれもが意慾的意思と結合す る。 指定故意は, 行為者の最高段階の認識を前提として事情の存在または結果の発生 を確実に認識した場合の故意をいう。 韓国法においては‘その事情を知りながら’と表 現される。これは意図的故意と反対に, 意思的要素はかかわらず, 認知的要素だけが最高 の認識段階である確実性ならばよい。これを直接故意または第2級の直接故意という。ア メリカ法の knowingly という表現がこれにあたる。 行為者は客観的構成要件の実現が 充分にできると認識したが, これを甘受しようとする場合の故意を未必の故意という。結 果発生を目標とし, これを意図的に追求するのではなく, ただそれを甘受するという意思 だけを持っているのである。したがって, 故意の意思的要素の程度が(一段階)低い。こ れを条件付き故意という。金日秀, 刑法総論講義 (斗星社, 1994) 132134頁。 (56) 第2の主観的要素は“無謀な行為”よりは“認識ある無謀な行為”がより正確なので, 以下では“認識ある無謀な行為”という用語を使うことにする。 (57) 尹培慶弁護士は,無謀に というのは,‘損害発生のおそれがあることを認識しなが ら’と同義語なので, これを追加する必要がなく, 英米法の概念なので韓国法に敢えて持 って来る必要がないという。尹培慶, 前掲論文49頁。しかし, 筆者のように解釈する限り,

(17)

したがって, 第2の主観的要素としての“認識ある無謀な行為”は, 重過失 と関連して説明される甚だしい (程度の) 不注意を必ず含んでおり, 結果発生 の可能性を超えた蓋然性を認識するにもかかわらず, その結果に無関心であり, その結果を甘受したことをいう。 (59) すなわち, 蓋然性の認識ある重過失 (未必の 故意を含む) になるというだろう。したがって, 運送人自身の行為が確定的故 意である場合はいうまでもなく (これは第1の主観的要素に包摂される), 未 必の故意を含む認識ある重過失まで責任制限排除事由となる。これに対し, 単 純な重過失や認識ある過失は責任制限排除事由でないことになるだろう。 (60) 単純 な認識ある重過失でなく, 損害発生の蓋然性を認識する高い程度の認識ある重 過失でなければならない。 (61) その点において, 重過失を含むとする見解とは異な る。重過失には事故発生の認識がなくてもかまわないが, ここでは結果発生の 可能性に対する認識を要求しているからである。 (62)(63) 認識ある行為のみでなく, 重 過失で説明される深刻な不注意が要求される。未必の故意より低い段階の重過 失までをも含む概念であるので, 未必の故意説とも違う。ただし, 大法院は, この概念を法律用語の解釈として解決するより, 条約および商法の法文により 事案を解決する傾向を見せている。 (64) 翻 訳 ‘無謀な’は特別な意味を持つ。すなわち, 損害発生のおそれがあることを‘認識しなが ら’という他の要素を追加し, 責任制限排除事由をより厳格なものとする。

(58) Goldman v. Thai Airways 事件における Eveleigh 判事の判示も同様な意味であると解 される。 (59) 結果を惹起した段階では未必の故意になるはずであるが, これは認識ある重過失より 故意に近い概念であり, 第1の主観的要素である確定的故意と認識ある重過失の中間に位 置するので, 当然に排除事由にならなければならない。未必の故意を第2の主観的要素に 含ませることができると思う。このとき, 未必の故意には 認識しながら以下の損害発 生のおそれに対する蓋然性の認識が要求されると解釈される。同旨:崔鐘賢, 前掲学位論 文90頁。 (60) 同旨:金東勳, 前掲論文121頁;崔鐘賢, 前掲学位論文89頁;金昌俊, 前掲論文33頁。 (61) 筆者の見解は, 上記の学説の中で金東勳教授, 崔鐘賢教授, 金昌俊弁護士の見解に近 接すると考えられる。 (62) 蔡利植教授の重過失説において,“重大な過失として損害発生の可能性に対する認識 なしに行ったすべての行為をいう”の意味が“無謀に”のみを評価したものであるならば, 後の 認識しながら以下において損害発生の可能性に対する認識が要求されているので, 結局筆者と同様の見解になる。 (63) 同旨:落合誠一, 前掲書90頁。

(18)

 本件事案の場合 甲板積みと認識ある無謀な行為 甲板積みは, 貨物が船倉でなく甲板上に積載されて運送されるので, 波と風 に露出され, 事故の危険が高まる。 (65) 通常は船倉で運送すべき貨物を, 荷主との 合意なしに甲板積みする場合には, 運送人は少なくとも運送中に損害が発生す るおそれがあることを認識しているものと思われる。しかし, 運送人が甲板積 みを決定した当時に, これによる損害発生の可能性が51%以上になるというこ と (蓋然性) が分かっていたとは簡単に認めにくい。貨物に損傷が発生しても 良いとする心理的状態を持っているという未必の故意は, さらに一層認定しに くい。しかも, これらの立証責任は原告の荷主が負うから, 認定され難いこと と考えられる。天気も良く短距離の航海であるから, 甲板積みをしても事故が 発生しないと思う場合が通常であろう (本件の場合は釜山から台湾までの航海 で, 低緯度の航海として海上状態があまり悪くなかった状況であろう)。もし 悪天候が報告されたにもかかわらず, 甲板積みをするように決めたとすれば, 損害発生の可能性を認識したと認定すべきである。 これは認識ある無謀な行為 であるので, たとえ心理状態に未必の故意がなくても, 責任制限排除事由とな ると思われる。 英米法でも甲板積みをした運送人は責任制限ができないという法理が確立さ れてきた。その理論的な根拠は, 甲板積みはいわゆる基本的な契約違反 (fun-damental breach of contract) であるというものである。(66) 米国においても, 運送 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 (64) 損害発生のおそれに対する認識を, 主観的に運送人が現実的にした認識自体とするか (主観説), それとも周辺状況を考慮し客観的に認識の可否を判断するか (客観説) につい て論議がある。金昌俊弁護士は客観説の立場である。金昌俊, 前掲論文34頁。 (65) 船舶で貨物が積載される空間 (場所) は, 甲板 (deck) の下にある船倉 (hold) であ る。船倉に載せられた貨物は船倉の蓋で密閉され, 波と雨風から遮られて安全に運送され る。ところが, 特殊な貨物は, 甲板上に積載する場合がある。原木やコンテナ貨物などで ある。原木は雨風にあっても問題がない貨物で, コンテナはボックス自体が船倉のように 密閉されていて雨風の影響を受けない。このような特別な貨物を除き, 船倉に積載しなけ ればならない。そうではなく甲板上に積載したら, 貨物が損傷を被る危険性が増大される。 (66) 甲板積みと係わる英国の Chanda 事件において, 裁判所は, 甲板積みは運送契約の基 本的な内容に違反するという理由で, 運送人の責任制限を否認した。[1989] 2 Lloyd’s Reports, 494. ニュージーランドの甲板積み事例である Pembroke 事件においても, 甲板 積みによる貨物損傷に対しては責任制限が排除されると判示された。 [1995] 2 Lloyd’s Reports, 290.

(19)

人は責任制限の利益を享有できない。しかし, ハーグ・ビスビ規則の制定によ り運送人の認識ある無謀な行為のみが運送人の責任制限の排除事由に該当され るという判例もある。 米国はビスビ議定書を批准していないので, 相変らず準 離路の法理が適用され, 甲板積みは責任制限排除事由になる。 しかし, ハーグ ・ビスビ体制を採っている国家あるいはこれを国内法化した国家においては, 他の解釈が可能である。したがって, 伝統的な理論が挑戦を受けている状況と いえる。 (67) 甲板積みの場合には責任制限は絶対的にできないという米国法の影響 を受けるより, 商法上の具体的な責任制限排除事由があるかどうかを検討すべ きだというのが筆者の私見である。 甲板積みについて決定を下した会社の次長が, 認識ある無謀な行為をしたと 自白したか否かは分からないが, 原審が, 認識ある無謀な行為の主観的な心理 的状態に関する具体的な説明なしに, (68) 第2の主観的要素が満たされたとして, 責任制限を排除する決定を下したことは, 中間の過程の判断を省略した点に不 満が残り, 被告も大法院でこれを大きく争わなったと見られる点は残念であ る。 (69) 翻 訳

(67) 英国控訴院の The Kapitan Petko Voivoda 事件において, ヘーグ規則第4条第5項に よると, いかなる場合にも運送人の責任が制限される点を根拠として, 甲板積みにもかか わらず運送人の責任制限が認められた。[2003] 2 Lloyd’s Reports, 1. (68) 原審の判示内容は次の通りである。弁論全体の趣旨から, 甲板積みの運送は船倉内 の船積みに比べ, 強い波により貨物が破壊されるとか, 海水, 雨水により濡れるとか, 太 陽熱により腐敗されるなどの危険が大きいので, 従来の慣習または特約がある場合を除い 禁止されてきた事実が認められ, この事件の輸出貨物は釜山港から台湾の基隆港まで6日 間にわたり運送された事実, 荷主であるLG電線が甲板積みと倉内積みとの危険の差のた め, 保険金の支払いを受けられなかった事実などによれば, 上記のように木箱に包装され たローウシエルを6日間甲板積み運送することは, 倉内積みにより避けられる海水の浸水 などによる損害発生の危険を甘受する行為として, 特別な事情がない限り, 無謀な行為で あると評価すべきである。このような原審の立場は, 損害発生の蓋然性の認識において 客観説の立場をとるものと判断される(参照脚注(64))。 (69) 有力説及び筆者の見解によると, 未必の故意と蓋然性の認識ある重過失の場合にだけ 運送人の責任制限は排除される。したがって, 単純な重過失の場合には運送人は責任制限 が可能なので, 運送人を保護する立法政策的な理由があるのかという疑問が生じる。しか し, 認識ない重過失の場合には, 責任制限はできるが, それよりもっと有利な運送人の免 責が認められないこともある。例えば, 運送人自らが分からなく, 新しい海図を船舶に提 供することができなかったので, 座礁事故が発生し, 貨物にも損傷が発生した場合を考え

(20)

4. 運送人自身の範囲 責任制限排除事由に該当するためには, 認識ある無謀な行為とともに, これ に対する運送人自身の行為が存在することが要求される。これは, 運送人に故 意に近いほどの非難可能性がある場合には, 例外的な責任制限を認める合理的 な理由がないためである。ワルソー条約と異なり, 代理人および被傭者の行為 は条文から削除されたので, 船長などの認識ある無謀な行為がある場合は, 運 送人の責任制限を排除させることができないということには異論がない。 (70) とこ ろで, 法人の場合には, どの段階の経営陣までを運送人自身とするのかが問題 になる。代表機関または業務執行機関までの経営陣とするのが伝統的な見解で あるが, (71) 他の見解も提示されている。 運送人自身の概念が商法で問題になるのは, 責任制限排除事由に限らず, 運送人の火災免責や, (72) 海上保険における英国保険法上の運送人自身の認識 (privity) (73) でも同一である。  韓国の場合 商法第746条および第789条の2第1項の規定は, それぞれ1976年船主責任制 限条約および1968年ビスビ議定書によるので, (74) 韓国でもこれらに合わせた解釈 論が支配的である。 (75) 林東教授は“英国のダイヤモンド弁護士の見解を受け入 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 て見よう。これは運送人の重過失による事故である。少なくとも認識ある重過失を要求す る立場においては, この事故は結果発生の蓋然性を認識しなかったので責任制限排除事由 にならず, 運送人は責任制限ができる。しかし, 運送人は堪航能力ない船舶を出港させた ことになる(商法第787条)。 ハーグ・ビスビ条約の立法者は, 重過失の場合には堪航能力 欠如について免責主張ができないようにすることにより運送人の責任を問う一方, 責任制 限の金額を上方に調整しながら, 運送人が排除されにくい責任制限の利益を享受できるよ うにしたと解される。 (70) 朴容燮, 前掲書237頁;大法院1995年3月24日判決。 (71) 金履修, 前掲論文89頁。 (72) 商法第788条第2項。 運送人の火災免責は運送人自身の故意あるいは過失がある場合 には免責が許容されないので, 運送人自身の範囲が重要な意味を持つ。 (73) 英国の海上保険法において, 期間船舶保険は, 船舶が出港当時被保険者自身の不堪航 に対する認識がある場合には, 保険者を免責する。したがって, 被保険者自身の範囲が重 要になる。不堪航の事実を出港の時に船長が認識したことでは不足である。 (74) 孫珠, 前掲書974頁。

(21)

れると, 会社の頭脳と神経の中心といえる人 (alter ego) の行為が運送人の行 為となる。実際に, 役員が運送と関連ある職能を有しないと判断される場合に は, 管理職が運送人に該当する。しかし, 単純に管理監督機能のみを有する運 送担当課長や海務監督などの被傭者を運送人とするわけではない”という。 (76) 上級管理職(例えば部長)は含まれるとする見解もある。例えば,炳泰博士 は, 火災免責について“このとき, 運送人の故意または過失とは, 運送人自身 の故意・過失をいい, 船長, 海員, 水先人その他運送人の使用人の故意・過失 は含まない。ただし, 今日の運送人の多くは株式会社の形態となっているので, 株式会社の誰の故意・過失を運送人自身の故意・過失とみるべきかという問題 がある。 会社の代表取締役とその者の指揮下で船舶の整備などの責任を負って いる上級管理級の使用人(例えば, 部長または監督)の過失は会社の過失と認め るのが妥当であろう”と説明する。 (77)  外国の場合 外国の判例と学説は, 法人の場合にあって運送人自身というのは, 運送人の 分身 (alter ego) に該当する者という。 (78) ① 英 国 ハーグ・ビスビ規則を国内法化した英国の1971年海上物品運送法 (COGSA) の解釈において, 会社の場合には, 運送人は, 会社の分身すなわち頭脳ある いは神経の中枢にある者をいう。例えば, 沈在斗弁護士は,“海上運送人が法 人の場合には, その法人の意思を決める地位にいる者, すなわちその法人の意 思決定者または分身といえる者が直ちにその法人自身と認定される。例えば, 法人の社長と業務執行取締役, 船舶の運航管理会社の業務執行取締役は直ちに 法人自身と認定される反面, 船舶の一等航海士は法人自身と認定されないとい う判例があると紹介した。 (79) 1989年の European Enterprise 号事件において, 翻 訳 (75) 朴容燮, 前掲書237頁。 (76) 林東, 前掲書107頁。 (77) 炳泰, 注釈海商法(司法行政学会, 1981) 209頁。 (78) 沈在斗, 海商運送法(吉安社, 1997) 428頁。

(22)

英国の商事裁判所は, 責任制限排除事由の運送人の範囲に運送人の使用人も含 まれるかという問題を扱った。同裁判所は, 運送人とは運送人自身あるいはそ の分身のみを意味すると判示した。 (80)(81) 海上保険の事例である Star Sea 号判決において, 英国の海事裁判所は, 被 保険者自身というのは, 会社の営業と関連した部分を事実上管理して指揮・監 督する者が誰かという問題であるので, ある作為・不作為に対して完全な裁量 権あるいは専決権を誰が持っているのかが被保険者確定の基準となると判断し た。本件は, 船員の非適格性と機関室の火災装備の不適切な使用により問題が 発生した事案であり, (82) 担当取締役は, 船員の適格性の判断, 安全装備の状態な らびに保守問題に対して特別な責任とともに十分な専決権を持っていた。 たと え会社の経営陣である社主が不堪航について認識しなかったと言っても, 取締 役自身の不堪航に対する認識のみで足りると判示された。 (83)(84) ② ド イ ツ ドイツでも HGB 487d が類推適用され, 運送人の代表機関の構成員や代表 権者の故意あるいは認識ある無謀な行為があれば, 責任制限が排除されるとい う。 (85) 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 (79) 沈在斗, 前掲書428頁。

(80) The European Enterprise, [1989] 2 Lloyd’s Report, 185.

(81) 狭く解釈する理由として, 一応, 出航してからは運送人は使用人あるいは代理人の 行為を監督するのが難しい。責任制限により運送人は運送という商行為に必須不可欠な 保険に安く加入することができるので, 責任制限排除事由を狭く解釈しないと, 商業的な 目的に合致しない。 改訂ワルソー条約第25条は, 運送人, その使用人あるいは代理人の 認識ある無謀な行為を責任制限の排除事由としているが, 1968年議定書の立法者はその使 用人あるいは代理人の文言を削除したことを考慮しなければならない。相原隆・海上運送 人責任法の展開(成文堂, 1999) 106頁。 (82) 英国期間船舶保険において, 被保険者の不堪航に対する認知があれば保険者は兔責さ れる。これに関する事案として, 被保険者自身の範囲について論争があった。経営陣は不 堪航に対する内容が分からなかったが, 担当の取締役はこれを分かっていた。

(83) The Star Sea, [1995] 1 Lloyd’s Report, 660. 本件の詳しい評釈は, 金仁顯 「海上保険 (期間保険) における人的堪航性欠如と被保険者の認識 (英国海上保険法第39条第5項)」 海洋韓国1997年10月号, 140頁参照。

(84) この判例は, 取締役等ではなくても, 問題の事案に対し専決権を持った場合には中級 の管理職も会社の分身になることができるという根拠を提示した。

(23)

③ 日 本 使用人や履行補助者の故意あるいは認識ある無謀な行為は, 運送人自身の責 任制限を排除しない。法人の場合に, ドイツ HGB 487d と同様な明文の規定 はないが, 解釈により代表機関あるいはこれに準ずる権限を持つ者を含むとす るのが一般的な見解であるという。 (86) しかし, 運送人を保護するために阻却事由 を例外的に扱う立場に対して, 実質的に決定権限を持つ者あるいは管理者の地 位にいる者も含められるとする見解もある。 (87) さらに, 特定業務を委任された者 の行為も含むべきであるとする見解もある。 (88)  解 釈 論 ハーグ・ビスビ規則は, ワルソー条約とは異なり, 船長などの運送を直接行 う被傭者の行為を立法的に除いたので, 被傭者は運送人自身に含まれないこと には争いがない。 問題になるのは, 陸上の経営陣あるいは管理職の場合に, どの段階までを法人自身とみるのかである。 原則的に, 運送人自身には, 法人の神経や脳に該当する者として会社の経営 に参加する業務執行機関の役員級までがその範囲に含まれると理解するのが, 伝統的な見解と判断される。しかし, 最近の英国 Star Sea 号判決の立場と日 本の多数の見解から見ると, 組織により法人の経営に対する判断が下部に委任 される場合においては, 必ずしも役員にかぎらず, 管理職にある者の行為も法 人自身の行為と判断される。ところで, このように役員から専決権を委任され た管理職の範囲が無制限的に下部に拡大すると, 責任制限制度が適用されない 場合が非常に多くなり, 法的不安定が発生するという問題がある。 責任制限制度は, 船舶所有者あるいは運送人が責任制限の利益を安定的に享 受する一方, 船主あるいは運送人と荷主の間の合意による責任制限額の引き上 げを伴って発展して来た。 (89) なお, 条約上の立法趣旨も責任制限が排除される場 翻 訳 (85) 受川環大, 前掲論文27頁。 (86) 前掲論文30頁。 (87) 前掲論文30頁。 (88) 重田晴生, 前掲論文70頁。 (89) 相原, 前掲書164頁。

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合を極度に限定するものであり, (90) 商法もこれと同様に立法された点を考慮して 解釈すべきだと思われる。これは, 全世界的に運送人の責任制限が排除された 事例を見つけるのが難しいということでも確認される。 (91) 最近, 船舶安全経営において, 船舶安全経営コード (ISM Code) が国際条約 (SOLAS) の内容になり, 一定規模以上の船舶と船舶会社の経営体制にはこの 条約が適用されることに決まった ( (92) 海上交通安全法第10条以下)。 船舶会社に おいては, 安全管理責任者 (Designated Person) として部長あるいは取締役が 指定され, この者が船舶安全に関する重要な事項を最高経営陣とコミュニケー トする。したがって, 最高経営陣とコミュニケートした安全管理責任者が責任 制限排除事由に相当する認識ある無謀な行為をした場合に, 安全管理責任者を 運送人自身と認定して, 責任制限を排除することにより, 運送人自身に対する 適用の予測可能性を高め, 法的安定性を確保した方が良いと考える。 (93)  本件の場合 原審判決によると, 代理人と次長が甲板積みの決定を下した。代理人と次長 が運送人自身に該当するのか。原審と大法院の判示内容からみると, 部長や取 締役の中で他に意思決定者がない場合には, 次長といっても役員と同様に扱わ れると理解できる。このような場合に, 常に代表機関のみを運送人自身とする と, 責任制限が排除される場合がなくなり, 責任制限阻却規定は事実上死文化 大 韓 民 国 法 に お け る 運 送 人 責 任 制 限 の 排 除 (90) 1976年条約において責任制限阻却事由の主観的要件を1957年条約に比べ厳格に制限し た理由は, 責任の限度を合理的な保険料で付保することができる最高限度まで引き上げる 一方, 責任制限が排除される機会を極度に限定しようとしたのである。なお, 責任制限主 体の故意または故意に準ずる行為により損害が発生したことを立証する責任は, 請求者に あるので (条約4条), 責任制限が阻却される場合は極めて珍しい。炳泰 「海上企業主 体の責任制限法改正案とその趣旨」 韓国海法会誌第11冊第1号 (1990) 50頁。 (91) 留意すべきことは, 航空運送において, 国外では機長等の使用人の認識ある無謀な行 為があっても責任制限が排除されるという内容の事例が相当蓄積されている点である。こ の点は, 使用人の認識ある無謀な行為が立法的に削除され, 責任制限排除事由ではなくな った海上運送とは異なる。 (92) 例えば, 国際運送に携わる総トン数500トン以上の船舶。 (93) 船舶衝突, 汚染事故などは言うまでもなく, 船舶の堪航性と係わる事項はすべて安全 管理体制の対象になり, 貨物を甲板積みする場合は船舶の安全性が悪くなるので, 甲板積 みも堪航性と係わる。

参照

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