目 次 Ⅰ はじめに 研究の背景 Ⅱ 先行研究のレビューと論文の目的 Ⅲ 労働時間 (残業時間) 管理の捉え方 Ⅳ 職場の管理・働き方の現状 Ⅴ 賃金不払残業の発生メカニズム Ⅵ おわりに 賃金不払残業の解決に向けて
Ⅰ
はじめに
研究の背景 日本企業の労働時間管理のなかで, 解決の迫ら れている最も重要な問題の一つは, 賃金不払残業 (所定労働時間外に労働時間の一部または全部に対し て所定の賃金または割増賃金を支払うことなく労働 を行わせることをいう。 いわゆる 「サービス残業」 のこと) が解決されないままに広く存在している ことである。 厚生労働省が 2007 (平成 19) 年 10 月に発表し た 「監督指導による賃金不払残業の是正結果」 ( 厚生労働省調査 と呼ぶ)1)によれば, 2006 年 4 月から 2007 年 3 月までの 1 年間に, 全国の労働 基準監督署の是正指導により不払残業代を 100 万 円以上支払った企業数は前年度比 1 割増の 1679 企業で過去最多となった。 また, 不払残業代の総 額は約 227 億 1485 万円に, 残業代が不払いであっ た労働者数は約 18 万 2500 名に達している。 こう した状況に対して厚生労働省は, 2001 年の 「労 働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措 日本企業の労働時間管理のなかで, 解決の迫られている最も重要な問題の一つは, 賃金不払 残業 (サービス残業) が解決されないままに広く存在していることである。 しかし, この問 題を解決するには, 労働時間管理にとどまらず 「職場の管理・働き方 (「どのような労働者 がどのような仕事の管理のもとで, どのように働いているのか」)」 まで視野を広げて原因を 考える必要がある。 こうした観点から分析を行った結果, 以下のことが明らかになった。 第 1 に実残業時間と賃金不払残業の発生メカニズムは異なり, 職場の管理・働き方の要因は主 に実残業時間の発生要因で, 実残業時間を通して賃金不払残業に間接的に影響していること が確認された。 第 2 に実残業時間がどの程度賃金不払残業になるかは, 職場の管理・働き方 に関わる要因よりも, 企業が全社的な観点から展開している全社的労働時間管理, とくに 「労働時間の長さの管理」 と 「残業手当の管理」 によって規定されている。 長時間残業の問 題を解決するには, 社員の労働時間の自己管理能力の向上をはかるとともに, 管理職に対し ては部下に対する時間管理能力の向上をはかることが必要である。 さらに, 賃金不払残業へ の対策として, 第 1 に残業の実施段階と残業時間の確定段階で, 会社, 管理職が社員の残業 時間の実態を正しく把握できる制度の整備と運用, 第 2 に廃止を含めた残業手当支払の目安 制度の抜本的な改善がそれぞれ必要である。 キーワード 人事労務一般, 労働時間・休日休暇, 雇用管理 ●論文 (投稿)「賃金不払残業」 と 「職場の管理・
働き方」・「労働時間管理」
賃金不払残業発生のメカニズム
大木 栄一
(職業能力開発総合大学校准教授)田口 和雄
(高千穂大学准教授)置に関する基準」 に続いて, 2003 年に 「賃金不 払残業総合対策要綱」 とそれに基づく 「賃金不払 残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する 指針」 を策定し, それらの周知をはかっている。 このように賃金不払残業は労働時間に関わる重 要な政策課題になっており, 効果的な政策を策定 するためには, 賃金不払残業の実態と背景を正確 に把握することが必要である。 本論のねらいはこ の点にある。 しかし, 賃金不払残業の背景は複雑であり, 労 働時間管理の範囲内で問題の解決をはかることは 難しい。 それは労働時間管理が実際の労働時間 (労働の結果としての労働時間) を監視することを 主な役割とし, 「どのような労働者がどのような 仕事の管理のもとで, どのように働いているのか」 (「職場の管理・働き方」) までさかのぼって原因を 探り, その是正をはかるための仕組みではないか らである。 したがって, 賃金不払残業の問題を抜 本的に解決するには, 労働時間管理にとどまらず 「職場の管理・働き方」 まで視野を広げて原因を 考える必要がある。 本稿の構成は次の通りである。 次節では, 賃金 不払残業の発生メカニズムに関する先行研究を概 観し, それを踏まえて, 考えられる発生要因の関 連性を整理したうえで, 本稿で明らかにしたいこ とを提示する。 さらに, 分析で使用するデータに ついても説明する。 つぎにデータ分析に基づいて, Ⅲでは労働時間管理の現状を, Ⅳでは職場の管理・ 働き方の現状を, Ⅴでは労働時間管理及び職場の 管理・働き方の観点から賃金不払残業の発生メカ ニズムを明らかにする。 最後のⅥでは, 以上の分 析結果を整理し, 賃金不払残業を解消するための 政策的課題を提示する。
Ⅱ
先行研究のレビューと論文の目的
1 どこで賃金不払残業が発生しているのか : 賃金 不払残業の現状 賃金不払残業の現状を把握するには, まず賃金 不払残業が 「どの程度の広がりで起きているのか」, 起きているとすると 「とくに, どこで起きている のか」 を明らかにする必要がある。 最近の代表的 な 調 査 研 究 で あ る ① 日 本 労 働 組 合 総 連 合 会 (2003) れんごう政策資料 143 (2002 年連合生活 アンケート調査報告)(以下, 連合調査 と呼ぶ)2), ②連合総合生活開発研究所 (2002) 働き方の多 様化と労働時間等の実態に関する調査研究報告書 (以下, 連合総研調査 と呼ぶ)3), ③労働政策研究・ 研修機構 (2005) 日本の長時間労働・不払い労 働時間の実態と実証分析 (以下, JILPT 調査 と呼ぶ)4)によると以下の点が明らかにされている (表 1 の 「賃金不払残業の現状」 欄を参照)。 第一に, 賃金不払残業が 「どのような社員のも とで」 発生しているのかについてみると, 残業時 間が長い社員ほど賃金不払残業も長くなっており, 長時間残業が賃金不払残業の背景になっている。 第二に, 「どこで起きているのか」 を業種の観 点からみると, 賃金不払残業の多い典型業種は金 融・保険・不動産業と卸売・小売業(商業・流通), 飲食店である。 つぎに職種の観点からみると, 共 通して賃金不払残業の多い職種は営業・販売であ り, 職場外への対応 (取引先・顧客への対応, 他部 門との連携) や打ち合わせが多く, 仕事の進め方 と時間配分を自律的に決められないという仕事特 性が影響していると考えられる。 2 なぜ賃金不払残業は発生しているのか : 賃金不 払残業の背景 つぎの賃金不払残業の発生要因については, 賃 金不払残業が①どのような労働時間管理のもとで 起こるのか, ②どのような管理職 (上司) のもと で (「管理職の管理行動」), どのような仕事に従事 する (「仕事特性」) 場合に起こるのか, ③どのよ うな社員 (「社員の働く意識・行動」) の場合に起こ るのか, という三つの観点を考える必要がある。 表 1 をみると, 管理者の管理行動に関わる面で は, 「所定労働時間内で片付かない仕事量だから」 「個人に課せられたノルマ達成のため」 といった ように仕事量を決める仕事配分の管理が (この点 は佐藤 (2008) も事例調査によって明らかにしてい る), 「上司が嫌な顔をするので残業手当を申請し にくいから」 「残業手当を請求しにくい雰囲気だ から」 などの部下に対する労働時間管理 (「職場の労働時間管理」 と略す) が賃金不払残業を生ん でいる。 仕事特性の面では, 「仕事の性格上, 所定外で ないとできない仕事があるから」 といったように, 業務上の理由から残業が生まれることが賃金不払 残業の背景になっている。 社員の働く意識・行動 の面では, 「自分の能力向上のため」 「自分が納得 する成果を出すために残業しているので, 残業手 当の申請をしていない」 などが発生要因である。 さらに, こうした社員の働く意識・行動が管理職 の部下評価と密接な関係にあることも明らかにさ れている。 三谷 (1997) は評価方法が業績に基づく職場で は, 賃金不払残業が発生しやすいことを明らかに したうえで, 企業が労働時間ではなく業績で賃金 を決定する場合, 労働者は労働時間を長くしてで も業績を上げようとし, その業績は将来の昇進・ 昇給等で補されるとしている。 また, 高橋 (2005) は余暇選好 (有給取得率) の低いホワイト カラーほど自発的にサービス残業を行い, 自発的 にサービス残業を行うホワイトカラーほど, ボー ナス等によってサービス残業に対する対価が支払 われ年間報酬総額が大きくなることを明らかにし ている。 さらに労働時間管理も賃金不払残業の発生に影 響していることが明らかにされている。 労働時間 管理には二つの分野があり, 第一は 「社員にいつ 働いてもらうのか」 に関わる 「労働時間の配置の 管理」 である。 その主な役割は 「所定労働をいつ 行うのか」 を決める労働時間制度の設計にあり, 社員はこの制度のもとで仕事に従事することにな る。 第二は 「社員に何時間働いてもらうのか」 に 関わる 「労働時間の長さの管理」 であり, 所定労 働時間が就業規則などで決められていることを前 提にすると, 残業時間を管理することが主な役割 になる。 以上の労働時間管理と賃金不払残業との関連を みると, 労働時間の配置の管理の面では, 労働時 間の柔軟化と関係があり, とくに 「みなし労働時 間」 のもとで賃金不払残業が多く発生している。 表 1 先行研究レビュー : 賃金不払残業の現状と背景 連合調査 連合総研調査 JILPT 調査 賃 金 不 払 残 業 の 現 状 どのような社員のもとで 残業時間が長い者 残業時間が長い者 残業時間が長い者 ど こ で 起 き て い る の か 業種 「金融・保険・不動産」 「商業・ 流通」 「卸売・小売業, 飲食店」 「金融・ 保険・不動産」 「飲食店」 「卸売・小売業」 「金 融・保険・不動産業」 職種 「営業・販売・サービス職」 (男 性), 「専門・技術職」 (男性及 び女性) 「営業・販売・サービス職」 男性では① 「営業・販売」, ② 「医療・教育関係の専門職」 賃 金 不 払 残 業 の 発 生 要 因 ( な ぜ 起 き て い る の か) 職 場 の 管 理 ・ 働 き 方 管 理 者 の 管 理 行 動 仕事配分の管理 「個人に課せられたノルマ達成 のため」 「所定時間内で片付かない仕事 量だから」 「仕事の性格上, 所 定外でないとできない仕事があ るから」 (以上は残業発生の要因を示し ている) 「所定時間内で片付かない仕事 量だから」 「仕事の性格上, 所 定外でないとできない仕事があ るから」 (以上は残業発生の要因を示し ている) 職場の労働時間 管理 「残業手当を請求しにくい雰囲 気だから」 「上司が嫌な顔をするので手当 を申請しにくいから」 「上司が嫌な顔をするので手当 を申請しにくいから」 社員の働く意識・行動 「自分の能力向上のため」 「みん ながサービス残業をやっている から」 「自分が納得する成果を出すた めに残業しているので, 残業手 当の申請をしていない」 「自分が納得する成果を出すた めに残業しているので, 残業手 当の申請をしていない」 全 社 的 労 働 時 間 管 理 労働時間の配置の管理 (労働時間制度) 「事業場外みなし労働」 「裁量労 働制」 「裁量労働・みなし労働」 労働時間の長さの管理 「時間管理されていない」 出退勤管理が 「名札やホワイト ボードへの記入」 残業手当の予算管理 「勤め先の残業規制が厳しいか ら」 「あらかじめ定められた手 当による」 「残業手当を申請しても予算の 制約で支払われないから」 「残 業手当が実際の残業時間に関係 なく定額で支払われているから」 「残業手当を申請しても予算の 制約で支払われないから」 「残 業手当が実際の残業時間に関係 なく定額で支払われているから」 注 : 1) 「どこで起きているのか」 に示してある業種と職種は, 賃金不払残業の多い業種・職種である。 2) 「なぜ起きているのか」 に示してある項目は, 賃金不払残業の発生に影響を与えている要因を示している。 出所 : 連合調査は日本労働組合総連合会 (連合)(2003), 連合総研調査は連合総研 (2002), JILPT 調査は労働政策研究・研修機構 (2005)
他方, 労働時間の長さの管理の面では, 「時間管 理されていない」 「出退勤管理が名札やホワイト ボードへの記入」 といった不透明な時間管理が発 生要因となっている。 最後に, 労働時間の長さの 管理に関連して, 「残業手当を申請しても予算の 制約で支払われない」 「実際の残業時間に関係な く定額支給」 など 「残業手当の予算管理」 のあり 方も賃金不払残業を生む要因になっている。 3 賃金不払残業を捉えるフレームワークと論文の 目的 以上の既存研究の結果を踏まえると, 考えられ る賃金不払残業の発生要因の関係を図 1 のように 整理できる5) 。 第一の発生要因は企業が行う労働 時間管理 (以下では, 全社的労働時間管理 と呼ぶ) であり, それには労働時間の配置の管理と労働時 間の長さの管理がある。 とくに後者は, 残業の承 認と報告の手続き, 残業時間の把握方法などを定 め, 残業が適正に行われることを管理することが 主要な役割になるので, 残業時間と賃金不払残業 を規定する重要な要素の一つとなる。 第二は, 職場の管理・働き方の要因である。 管 理職は職場において, ある労働時間制度を前提に, ある組織構造のもとで 「部下に仕事を配分し, 仕 事の遂行を管理する」 という仕事の管理を展開し, 「仕事の遂行を管理する」 なかで部下の労働時間 を管理する。 この管理を 「職場の労働時間管理」 と呼ぶことにする。 この仕事の管理のもとで, 部 下は配分された仕事 (仕事特性) を遂行すること になるので, 既存研究から明らかにされているよ うに, 実労働時間と残業時間は 「仕事の特性」 と その背景にある 「管理者の仕事の管理」 に規定さ れる。 他方, 管理職が職場で行う評価等の人事管 理は, 「社員 (部下) の働く意識と行動」 に影響 を及ぼす。 たとえば, 管理者が遅くまで会社に残っ て働く部下を高く評価するという人事管理を行え ば, 部下はそれに合わせて 「長く働くことが大切 である」 という働く意識を醸成し, 残業時間を気 にせずに働くという行動をとることになろう。 部 下はこのような働く意識と行動をもって配分され た仕事を遂行することになるので, 社員の働く意 識・行動とその背景にある管理者の人事管理も実 労働時間と残業時間に影響を与えるだろう。 このようにして決まる残業時間のなかのどの程 度が賃金不払残業になるかは, まずは労働時間を 残業時間として認めるための労働時間の長さの管 理と残業時間を費用の面から管理する 「残業手当 の予算管理」 によって影響されると考えられる。 さらに, 部下が残業時間を申請することについて 管理者が一定の影響を及ぼしていること, 社員自 労働時間制度 仕事の遂行 実労働時間の決定と残業の発生 賃金不払残業の発生 全社的労働時間管理 に関わる要因 労働時間の配置 の管理 労働時間の長さの 管理 残業手当の 予算管理 社員の働く意識・行動 配分された仕事 (仕事特性) 管理者の管理行動 「職場の管理・働き方」に関わる要因 図1 賃金不払残業の背景を捉えるフレームワーク 《仕事の管理》 ○仕事配分の管理 ○仕事遂行の管理(職場の労働時間管理) 《人事管理》 ○評価 等
身が残業時間の申請を自主規制する行動をとるこ と等が考えられることから, 管理者の管理行動と 社員の働く意識・行動も賃金不払残業の発生に何 らかの関係があろう。 図 1 に基づき前述した既存研究の成果をあらた めて整理すると, まず, 賃金不払残業が 「どのよ うな社員のもとで」 「どこで起きているのか」 に ついてはかなりの程度明らかにされている。 しか し, 「なぜ起きているのか」 (発生要因) について は, 職場の管理・働き方, 全社的労働時間管理と も賃金不払残業を生む要因であることは明らかに されているが, 以下の 3 つの点で問題が残されて いる。 ① 職場の管理・働き方については, 管理職の 管理行動と社員の意識と行動の影響を別々に 捉えているため, 両者を合わせたときにどの ような影響がでるのかについて体系的に分析 されていない。 ② これに対して, 全社的労働時間管理につい ては, 労働時間の配置の管理及び残業手当の 予算管理の影響については明らかにされてい るが, 残業時間を決定する最も重要な要因と 考えられる労働時間の長さの管理が検討の対 象から除外されている。 ③ さらに, 職場の管理・働き方と全社的労働 時間管理の影響を別々に捉えているため, 両 者を合わせたときにどのような影響がでるか について体系的に分析されていない。 加えて, どちらの要因がより賃金不払残業に大きな影 響を及ぼしているのかが明らかにされていな い。 4 分析のための使用データの説明 以上の既存研究の限界を踏まえて, 賃金不払残 業の背景要因を体系的に分析することが本論の目 的であり, 分析にあたっては, 著者らが参加した 日本能率協会総合研究所の 賃金不払残業と労働 時間管理の適正化に関する調査・研究 (厚生労働 省委託調査) (以下, 能率協会調査 と呼ぶ)6)に よって収集したデータを使用する。 能率協会調 査 は民間調査会社に登録している調査協力モニ ターの中から抽出された民間企業に勤務している 非管理職 3000 名を対象としている。 調査の実施 時期は 2005 年 2 月, 有効回収は 1884 人, 回収率 は 62.8%である。 ただし, 適用されている労働 時間制度として 「事業場外のみなし労働制」 及び 「裁量労働制」 と回答した者については, 集計か ら除外している。 その理由は, これらの制度のも とで働く労働者が本論で重要な変数と考えている 残業開始の決定 (命令, 申請), 残業の実施, 実施 した残業の上司への報告など残業時間と残業手当 を決定するための 「労働時間の長さの管理」 の対 象にならないからである。 この結果, 本論で分析 の対象にしているのは 1652 人である。 以上の分析を行うには, まず, 全社的労働時間 管理とくに残業と残業手当を決定する管理の仕組 み, 管理者の管理行動, 社員の働く意識・行動を 捉えるための分析枠組みと, それらの現状の特徴 について整理しておく必要がある。 5 実際に残業した時間・賃金不払残業時間の現状 能率協会調査 によれば, 2005 年 1 月に 「会 社からの残業手当の支払いの有無に関係なく, 実 際に残業した時間」 (以下, 実残業時間 と呼ぶ) は平均すると 25.4 時間で, 業種では建設業・鉱 業及び運輸業, 所属部門では配送・物流部門及び 営業・販売部門で多くなっている (表 2 を参照)。 他方, 同じ月で賃金が不払いになっている残業 時間は平均すると 9.2 時間である。 業種別にみる と, 賃金不払残業の多い典型業種は卸売・小売業, 飲食店, 少ない業種は電気・ガス・水道業であり, 所属部門別にみると, 賃金不払残業の多い典型部 門は営業・販売部門であり, 少ないのは研究・開 発部門及び配送・物流部門であり, 既存調査とほ ぼ同様な傾向が現れている。
Ⅲ
労働時間
(残業時間)管理の捉え方
1 残業と残業時間と残業手当を決定する管理の仕 組み 前述したように, これまでの調査研究によって, 全社的労働時間管理が賃金不払残業を生む背景に なっていることが明らかにされているが, それは主に労働時間の配置の管理についてであった。 し たがって, 残業時間を決定する労働時間の長さの 管理の影響について検討することが必要であり, ここでは残業手当の予算管理もそれとの関連で捉 えることにしたい。 図 2 は 「残業と残業時間と残業手当を決定する 仕組み」 (以下では, 残業等決定システム と呼ぶ) を整理したものである。 残業等は①残業の実施段 階 (残業開始の決定 (命令, 申請), 残業の実施, 実 施した残業の上司への報告), ②残業時間の確定段 階 (残業時間の申請と確定), ③残業手当の確定段 階 (残業手当の確定, 賃金不払残業の発生) の 3 つ の段階を経て決まる。 各段階の手順は対応する残 業関連の管理システムの下で実施され, 残業の実 表 2 実残業時間と賃金不払残業時間 有効数 実残業時間 賃金不払 残業時間 平均値 (時間) 平均値 (時間) 全 体 1628 25.4 9.2 業種別 建設業・鉱業 170 30.6 13.9 製造業 445 25.2 6.9 電気・ガス・水道業 31 22.3 3.6 卸売・小売業, 飲食店 249 26.9 15.6 金融, 保険・不動産業 70 23.6 8.9 運輸業 126 29.4 4.0 通信業 34 20.0 3.9 サービス業 491 22.8 8.5 所属部門別 管理部門 305 19.2 6.6 営業・販売部門 455 28.2 15.0 配送・物流部門 137 28.7 5.6 研究・開発部門 90 25.6 4.2 情報システム部門 80 27.6 8.5 製造・現業部門 399 26.9 7.5 その他 152 21.8 8.0 注 : 1) 実残業時間は会社からの残業手当の支払いの有無に関係なく, 実際に 残業した時間。 2) 件数が少ない国際部門は除外してある。 出所 : 日本能率協会総合研究所 (2005) 残業関連の管理システム 図2 残業と残業時間と残業手当を決定する仕組み (残業実施の管理システム) ○残業の決定と報告手続き ○36 協定の周知と遵守 (残業時間決定の管理システム) ○残業の申請手続き ○残業時間の把握方法 (残業手当支払いの管理システム) ○予算管理(目安制度) 残業の実施段階 残業開始の決定(命令,申請) 残業の実施 実施した残業の上司への報告 残業時間の確定段階 残業時間の申請 残業時間の確定 残業手当の確定段階 残業手当の確定 賃金不払残業の発生
施段階には残業実施の管理システム (残業の決定 と報告の手続き, 36 協定の周知と遵守から構成), 残業時間の確定段階には残業時間決定の管理シス テム (残業の申請手続と残業時間の把握方法), 残 業手当の確定段階には残業手当支払いの管理シス テム (残業手当の予算管理) が対応している。 2 残業等決定システムの現状 それでは残業等決定システムはどのような現状 にあるのか。 表 3 の残業の実施段階をみると, 残 業実施の手続き方法は 「自分自身の自主的な判断 によって」 が 6 割で最も多く, これに 「直属の上 司の指示によって」 と 「事前申請し, 直属の上司 の事前許可をもらってから」 が 2 割前後で続く。 残業を行ったのちの直属上司への報告は, 「毎日」 と 「1 カ月単位」 が中心であるが, 「報告しない」 者も 3 割弱に及んでいる。 さらに残業を行う場合 に問題になることは 36 協定の周知・徹底であり, 36 協定の 「説明を受けていない」 社員は 2 割強 であり, 残る 8 割弱は何らかの方法で説明を受け 表 3 残業等決定システムの現状 (N=1652 単位 : %) 内 容 項 目 構成比 残業時間の 長さの管理 残業の 実施段階 残業実施の 手続き方法 直属の上司の指示によって 23.4 事前申請し, 直属の上司の事前許可をもらって 16.2 あなたの自主的な判断によって 60.4 残業時間の直属 上司への報告頻度 毎日 35.5 1 週間単位 7.6 2∼4 週間単位 2.5 1 カ月単位 26.1 その他 1.3 報告していない 26.7 会社からの 36 協定 の説明状況 書面や社内メール, 社内 LAN 等のみで 28.1 口頭のみで 21.4 書面や社内メール, 社内 LAN 等と口頭の両方で 27.4 説明を受けていない 22.9 残業時間の 確定段階 申請残業時間の 自己判断の有無 はい 60.1 いいえ 39.9 労働時間管理方法 の透明度 タイムカード, IC・ID カード 47.0 勤務表 (出勤簿) 33.1 自己申告 13.1 パソコンの起動・終了などの記録 2.5 管理職がおおよその時間を確認 2.1 その他 0.6 把握する仕組みがない 1.6 直属上司の 実労働時間把握度 把握していると思う 42.7 ある程度把握していると思う 37.6 あまり把握していないと思う 13.5 把握してないと思う 6.2 残業手当の 管理 残業手当の 確定段階 残業手当支払い 目安制度 金額の目安がある 7.0 時間の目安がある 36.3 金額と時間の両方の目安がある 9.8 目安がない 26.6 残業手当がまったく支払われていない 9.3 目安達成の 困難度 (N=878) 難しくない 13.9 あまり難しくない 28.8 やや難しい 28.7 難しい 28.0 注 : 不明は記載していない。 出所 : 表 2 と同じ。
ている。 その説明の方法は 「書面や社内のメール, 社内 LAN 等」 28.1%, 「書面や社内メール等と 口頭の両方」 27.4%, 「口頭のみ」 21.4%の構成 である。 残業時間の確定段階についてみると, 残業時間 の申請には自己申請 (申請する残業時間を自分の判 断で決める方法) とそうでない方法があり, 前者 の自己申請者が約 6 割に上る。 それでは, 直属上 司 (あるいは会社) はどのような方法で部下の労 働時間を把握しているのか。 「タイムカード, IC・ ID カード」 が半数弱を占め, 「勤務表 (出勤簿)」 が 3 割強で続いている。 このような方法のもとで, 上司は部下の労働時間をどの程度把握できている か。 「把握していると思う」 とした社員が 4 割強 と最も多いが, 「ある程度把握していると思う」 が 4 割弱であるとともに, 約 2 割は 「あまり把握 していないと思う」 あるいは 「把握していないと 思う」 としている。 最後に, 残業手当の確定段階の予算管理につい てみると, 残業手当の 「目安がある」 が半数を超 える。 その主要な目安制度は 「時間による目安」 (36.3%) であり, 残りは 「金額の目安」 (7.0%), 「金額と時間の両方の目安」 (9.8%) である。 ま た, この目安に対する社員の評価については, 目 安内に仕事を終わらせることが 「難しい」 あるい は 「やや難しい」 と感じる者が約 6 割である。
Ⅳ
職場の管理・働き方の現状
1 管理職の管理行動特性 つぎに職場の管理・働き方について前掲図 1 で 示したフレームワークにしたがって, 管理職の管 理行動, 社員の働く意識・行動, 仕事特性につい ての現状を確認する。 まず管理職の管理行動は職場でのリーダーシッ プの視点からみており, 金井 (1991)7) を参考にし て表 4 に示した 10 項目の選択肢を用意した。 各 項目について上司を評価してもらう方法をとり, その回答を 「当てはまる」 4 点, 「やや当てはま る」 3 点, 「あまり当てはまらない」 2 点, 「当て はまらない」 1 点として得点化した。 表 4 に, 各 項目の平均得点と因子分析の結果を示してある。 平均得点の結果を確認すると, 「社員間の仕事量 の平準化を図っていない」 (平均得点 2.51 点), 「仕事の指示に計画性がない」 (同 2.34 点), 「指 表 4 管理職の管理行動特性 (得点化と因子分析) 項 目 第 1 因子 第 2 因子 第 3 因子 得点化 (平均値) 仕事の指示に計画性がない 0.858 0.168 0.174 2.34 指示の仕事内容が明確でない 0.816 0.214 0.172 2.23 社員間の仕事量の平準化を図っていない 0.511 0.360 0.163 2.51 つきあい残業をさせる 0.192 0.609 0.151 1.60 残業することを前提に仕事の指示をする 0.199 0.583 0.199 2.10 終業時刻直前に仕事の指示をする 0.375 0.538 0.210 2.02 評価を行う際, 残業時間の長さを考慮している 0.097 0.519 0.110 1.64 働きぶりによって残業手当が支払われる時間を変えている 0.105 0.504 0.112 1.38 必要以上に資料の作成を指示する 0.175 0.210 0.754 2.04 必要以上に会議を行う 0.186 0.232 0.702 1.86 初期の固有値 合計 4.081 1.241 1.078 分散の% 40.812 12.411 10.779 累積% 40.812 53.223 64.002 仕事計画能力 欠如型上司 時間管理能力 欠如型上司 過剰業務指示 型上司 注 : 1) サンプルサイズは 1652 件。 2) 因子負荷量はバリマックス回転後の値である。 3) 因子負荷量 0.3 以上のみを採用する。示の仕事内容が明確でない」 (同 2.23 点) といっ た社員に指示する仕事の計画能力を問題視する項 目が最も高く, 「残業することを前提に仕事の指 示をする」 (同 2.10 点), 「終業直前に仕事の指示 をする」 (同 2.02 点) の管理職の時間管理能力を 疑問視する項目, 「必要以上に資料の作成を指示 する」 (同 2.04 点) といった過剰な業務を指示す る管理行動の項目がこれに続く。 これらに比べ, 「働きぶりによって残業手当が支払われる時間を 変えている」 (同 1.38 点) は低い。 さらに因子分析によって 3 つの因子が抽出され, それぞれの因子を以下のように命名した。 ① 第一因子は, 仕事の指示が計画性のないう えに明確でなく, 社員間の仕事の平準化が図 られていないという項目に関連が深いことか ら 「仕事計画能力欠如型上司」 とする。 ② 第二因子は, つきあい残業をさせる, 残業 前提に仕事の指示をする等残業を前提に仕事 の指示をする管理者に関わる項目と関連して いることから 「時間管理能力欠如型上司」 と する。 ③ 第三因子は必要以上の資料作成や会議を行 うといった無駄と思える仕事の指示をする管 理者に関わる項目と関連していることから 「過剰業務指示型上司」 とする。 2 社員の働く意識・行動特性 つぎに社員の働く意識・行動は組織コミットメ ントの視点からみている。 鈴木 (2002)8)を参考に して表 5 に示した 10 項目の選択肢を用意し, 各 項目について自己評価してもらう方法をとった。 選択肢と得点化は前述の管理職の管理行動と同様 である。 平均得点の結果を確認すると, 「仕事に 対する責任感が強い」 (平均得点 3.41 点), 「仕事 を頼まれると断れない」 (同 3.15 点), 「協調性が ある」 (同 3.03 点) といった仕事への責任感や職 場での協調性の高さなどの項目が最も高く, これ に 「てきぱき仕事する」 (同 3.15 点) が続く。 こ れらに比べ, 「上司が退社するまで帰宅しない」 (同 1.77 点) は低い。 さらに因子分析によって 3 つの因子が抽出され, それぞれの因子を以下のよ うに命名した。 ① 第一因子は, 自己管理能力が高く, 効率よ く仕事をこなす人事評価の高い, 出世志向の 強い社員という項目と関連していることから 「キャリア志向型社員」 とする。 表 5 社員の働く意識・行動特性 (得点化と因子分析) 項 目 第 1 因子 第 2 因子 第 3 因子 得点化 (平均値) 自己管理能力が高い 0.719 0.211 −0.062 2.78 てきぱき仕事する 0.500 0.421 −0.210 3.15 出世志向が強い 0.438 −0.037 0.349 2.12 人事評価は高い方だと思う 0.388 0.289 0.157 2.62 専門職志向が強い 0.289 0.235 0.098 2.80 仕事に対する責任感が強い 0.279 0.668 −0.031 3.41 協調性がある 0.088 0.482 0.094 3.03 仕事を頼まれると断れない 0.088 0.340 0.212 3.15 上司が退社するまで帰宅しない 0.039 0.048 0.485 1.77 生活費に残業代を組み込んでいる −0.001 0.051 0.236 2.16 初期の固有値 合計 2.631 1.272 1.084 分散の% 26.307 12.720 10.836 累積% 26.307 39.027 49.863 キャリア志向 型社員 八方美人型 社員 上司依存型 社員 注 : 1) サンプルサイズは 1652 件。 2) 因子負荷量はバリマックス回転後の値である。 3) 因子負荷量 0.3 以上のみを採用する。
② 第二因子は, 仕事の責任感が強く, 周りと の協調性を大切にするために仕事を断れない タイプの社員であることから 「八方美人型社 員」 とする。 ③ 第三因子は, 「上司が退社するまで帰宅し ない」 と密接なので 「上司依存型社員」 とす る。 3 仕事特性 最後に仕事特性については, 金井 (1991)9)を参 考にして 2 つの設問を用意した。 第一の設問は 「タスク不確実性」 であり, 表 6 に示した 7 項目 を用意した。 各項目について自己評価してもらう 方法をとり, 選択肢と得点化は前述の管理職の管 理行動と同様である。 同表の平均得点の結果を確 認すると, 「業務の繁閑が激しいから」 (平均得点 3.38 点), 「仕事の内容や目標が変更されるから」 (同 3.12 点), 「仕事の締め切りや納期にゆとりが ないから」 (同 2.98 点) といった仕事の計画的な 進め方の困難性に関する項目が高く, それらに比 べ, 「非正社員の指導や育成を担当しているから」 (同 1.63 点), 「後輩の指導を担当しているから」 (同 1.84 点) といった指導育成に関わる仕事は低 い。 さらに因子分析によって 2 つの因子が抽出さ れ, それらを以下のように命名した。 ① 第一因子は, 仕事量が多い業務であるこ とともに, 納期にゆとりがない, 仕事の目標 が変更される, 繁閑が激しいといったように 仕事を計画的に進めることが難しい業務であ ることから 「過大・計画困難型業務」 とする。 ② 第二因子は, 部下等の育成に関わる業務で あることから 「指導育成型業務」 とする。 第二の設問は 「タスク依存性」 であり, それに ついては表 7 に示した 7 項目について自己評価し てもらう方法をとった。 選択肢と得点化の方法は 管理職の管理行動と同様である。 同表の平均得点 の結果を確認すると, 「仕事の範囲や目標がはっ きりしている」 (平均得点 3.29 点), 「自分で仕事 のペースや手順を変えられる」 (同 3.20 点), 「一 人で進める仕事が多い」 (同 3.03 点) といった仕 事の裁量性に関する項目が最も高く, それらに比 べ, 「会議や打ち合わせが多い」 (同 2.14 点), 「企画・判断を求められる仕事が多い」 (同 2.39 点) といった会議や打ち合わせに関わる仕事は低 い。 さらに因子分析によって 2 つの因子が抽出さ れ, それらを以下のように命名した。 ① 第一因子は, 企画・判断が求められること とともに, 会議・打ち合わせ, 社内の他部門・ 社外との連絡調整等の対応の多い仕事特性に 関連していることから 「連絡調整型業務」 と する。 ② 第二因子は, 仕事の範囲・目標が明確で, 表 6 仕事 (タスク不確実性) 特性 (得点化と因子分析) 項 目 第 1 因子 第 2 因子 得点化 (平均値) 仕事の締め切りや納期にゆとりがないから 0.690 0.057 2.98 仕事量が多いから 0.588 0.186 2.63 仕事の内容や目標が変更されるから 0.580 0.149 3.12 予定外の仕事が突発的に飛び込んでくるから 0.457 0.061 2.67 業務の繁閑が激しいから 0.445 0.186 3.38 後輩の指導を担当しているから 0.220 0.822 1.84 非正社員の指導や育成を担当しているから 0.127 0.815 1.63 初期の固有値 合計 2.697 1.318 分散の% 38.527 18.830 累積% 38.527 57.357 過大・計画 困難型業務 指導育成型 業務 注 : 1) サンプルサイズは 1652 件。 2) 因子負荷量はバリマックス回転後の値である。 3) 因子負荷量 0.3 以上のみを採用する。
一人で進める仕事が多く, 自分でペース・手 順を変えられるとの項目と関連し, 総じて裁 量性の高い業務であると考えられることから 「裁量型業務」 とする。
Ⅴ
賃金不払残業の発生メカニズム
1 実残業時間と賃金不払残業の発生要因 これまで全社的労働時間管理, 職場の管理・働 き方 (管理職の管理行動, 社員の働く意識・行動, 仕事特性) の現状について明らかにしてきた。 そ れでは, これらの要因は賃金不払残業にどのよう な影響を与えているのか。 まず, 前掲図 1 で示し たフレームワークと長時間残業が賃金不払残業を 生む温床であるとの既存研究の成果を踏まえて, 実残業時間が職場の管理・働き方と全社的労働時 間管理に, 賃金不払残業が実残業時間, 職場の管 理・働き方, 全社的労働時間管理にどの程度規定 されるのかを確認する必要がある。 それを検証するために, ここでは以下のトービッ ト分析を行うことにする。 分析により説明される 変数は①「実残業時間数」, ②「賃金不払残業時間 数」 である。 説明する変数は表 8 に示してあるよ うに, 職場の管理・働き方では, 管理職の管理行 動, 社員の働く意識・行動, 仕事特性 (それぞれ 前述した因子分析の因子得点を用いる) である。 さ らに, 残業の発生は 「実残業時間」, 労働時間の 配置の管理は 「主な労働時間制度」, 労働時間の 長さの管理は, 図 2 にしたがって, 残業実施の管 理システムとして 「残業実施の手続き方法」 「残 業時間の直属上司への報告頻度」 「会社からの 36 協定の説明状況」, 残業時間決定の管理システム として, 「申請残業時間の自己判断の有無」 「主な 労働時間管理方法」 「直属上司の実労働時間の把 握状況」, 残業手当支払いの管理システムとして 「残業手当支払いの目安達成の状況」 を用いた。 さらに, コントロール変数として, 個人属性の 「性別」 と 「年齢」, 勤務先特性の 「業種」 と 「従 業員規模」, 役割の特性の 「所属部門」 と 「職位」 を用意した。 各変数に対応するデータの扱いにつ いては, 表 8 の 「変数の説明」 の欄を参照してほ しい。 表 9 は 7 つのトービット分析のモデル式におけ る対数尤度 (Log likelihood) 値を示している10)。 モデルⅠ∼Ⅲは実残業時間を説明するモデル式で あり, Ⅳ∼Ⅶは賃金不払残業時間を説明するモデ ル式である。 まず実残業時間についてみると, コ ントロール変数からなるモデルⅠの対数尤度値は −6820.247 であり, それに職場の管理・働き方を 加えたモデルⅡ(a)では対数尤度値が−6380.110 に増加する。 しかし, 全社的労働時間管理を加え 表 7 仕事 (タスク依存性) 特性 (得点化と因子分析) 項 目 第 1 因子 第 2 因子 得点化 (平均値) 企画・判断を求められる仕事が多い 0.769 0.095 2.39 会議や打ち合わせが多い 0.706 0.000 2.14 社内の他の部門との連絡・調整が多い 0.618 0.100 2.55 取引先や顧客との対応が多い 0.505 0.108 2.54 自分で仕事のペースや手順を変えられる 0.107 0.875 3.20 一人で進める仕事が多い 0.046 0.494 3.03 仕事の範囲や目標がはっきりしている 0.056 0.383 3.29 初期の固有値 合計 2.418 1.532 分散の% 34.541 21.880 累積% 34.541 56.421 連絡調整型 業務 裁量型業務 注 : 1) サンプルサイズは 1,652 件。 2) 因子負荷量はバリマックス回転後の値である。 3) 因子負荷量 0.3 以上のみを採用する。表 8 実残業時間と賃金不払残業時間を説明する変数 発生要因等 内 容 変数の説明 コントロール 変数 個人属性 性別 「男性」 がダミー変数。 レファレンスグループは 「女性」。 年齢 実年齢 勤務先の特性 業種 「建設業・鉱業」 「製造業」 「電気・ガス・水道業」 「卸売・小 売業, 飲食店」 「金融・保険・不動産業」 「運輸・通信業」 が ダミー変数。 レファレンスグループは 「サービス業」。 規模 「100∼300 人未満」 「300∼500 人未満」 「500∼1,000 人未満」 「1,000 人以上」 がダミー変数。 レファレンスグループは 「100 人未満」。 所属部門と職位の特性 所属部門 「管理部門」 「配送・物流部門」 「研究・開発部門」 「情報シス テム部門」 「製造・現業部門」 「その他の部門等」 がダミー変 数。 レファレンスグループは 「営業・販売部門」。 職位 「係長等クラス以上」 がダミー変数。 レファレンスグループ は 「一般社員」。 職場の管理・ 働き方 どのような管理職のもとで 管理職の管理行動 因子分析に基づく変数と因子得点を用いる。 どのような社員のもとで 社員の働く意識・行動 どのような仕事のもとで 仕事特性 残業の発生 実残業時間数 2005 年 1 月時点の実数値 (残業手当の支給の有無に関係な く, 実際の残業時間) 全社的 労働時間管理 労働時間の配置の管理 主な労働時間制度 「変形労働時間制」 「フレックスタイム制」 がダミー変数。 レ ファレンスグループは 「一般的な労働時間制」。 労働時間の長さ の管理 残業実施の 管理システム (残業の実施段階) 残業実施の手続き方法 「事前申請し, 直属の上司の事前許可をもらってから」 「あな たの自主的な判断によって」 がダミー変数。 レファレンスグ ループは 「直属の上司の指示によって」。 残業時間の直属上司への報告頻度 「1 週間単位」 「2∼4 週間単位」 「1 カ月単位」 「報告していな い」 がダミー変数。 レファレンスグループは 「毎日」。 会社からの 36 協定の説明状況 「説明を受けていない」 がダミー変数。 レファレンスグルー プは 「説明を受けている」。 残業時間決定の 管理システム (残業時間の確定段階) 申請残業時間の自己判断の有無 「はい」 がダミー変数。 レファレンスグループは 「いいえ」。 主な労働時間管理方法 「勤務表 (出勤簿)」 「管理職がおおよその時間を確認及び自 己申告」 「把握する仕組みがない」 がダミー変数。 レファレ ンスグループは 「タイムカード, IC・ID カード及びパソコ ンの起動・終了などの記録」。 直属上司の実労働時間の把握状況 「ある程度把握していると思う」 「あまり把握していないと思 う」 「把握していないと思う」 がダミー変数。 レファレンス グループは 「把握していると思う」。 残業手当の 予算管理 残業手当支払いの 管理システム (残業手当の確定段階) 残業手当支払いの目安達成の状況 「残業手当支払制度の有無」 と 「目安達成の困難度」 を用い てダミー変数を作成。 「目安があり, かつ目安内に仕事を終 わらせるのがあまり難しくない」 「目安があり, かつ目安内 に仕事を終わらせるのがやや難しい」 「残業手当は全く支払 われていない, 及び目安があり, かつ目安内に仕事を終わら せることが難しい」 がダミー変数。 レファレンスグループは 「目安があり, かつ目安内に仕事を終わらせるのが難しくな い及び目安がない」。 表 9 実残業時間・賃金不払残業時間の発生の規定要因の対数尤度の比較 (トービット分析) 実残業時間数 賃金不払残業時間数 モデルⅠ モデルⅡ (a) モデルⅡ (b) モデルⅢ モデルⅣ モデルⅤ モデルⅥ (a) モデルⅥ (b) モデルⅦ 変数群 コントロール変数 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 職場の管理・働き方 ○ ○ ○ ○ 残業の発生 ○ ○ ○ ○ 全社的労働時間管理 ○ ○ ○ ○ トービット 分析 サンプルサイズ 1,613 1,544 1,577 1,509 1,607 1,607 1,390 1,538 1,327 Log likelihood −6820.247 −6380.110 −6640.241 −6205.202 −3565.643 −3324.819 −2760.983 −3154.576 −2628.512 注 : 1) ○印はモデルに投入された変数群を示している。 2) 全社的労働時間管理の 「残業手当の予算管理」 は実残業時間に影響を与えないため, モデルⅢでは全社的労働時間管理の 「残業手当支払い の目安達成の状況」 を説明変数から外している。 3) 実残業時間数では 「モデルⅠ」 を基準に 「モデルⅡ(a)」 「モデルⅡ(b)」 「モデルⅢ」 と, 賃金不払残業時間数では 「モデルⅣ」 を基準に 「モデルⅤ」 「モデルⅥ(a)」 「モデルⅥ(b)」 「モデルⅦ」 とそれぞれ尤度比検定を実施。 P 値は, いずれも 「p<0.001」。
たモデルⅢでは−6205.202 とモデルⅡとほぼ変 わらず, 実残業時間は全社的労働時間管理では なく, 職場の管理・働き方から大きな影響を受 けていることがわかる。 さらにコントロール変 数からなるモデルⅠ (対数尤度値 : −6820.247) に 全社的労働時間管理を加えたモデルⅡ(b)では −6640.241 に対数尤度値は増加し, 実残業時間 は全社的労働時間管理からも影響を受けているこ とが確認できるものの, 影響の大きさ (対数尤度 値の増加幅) は職場の管理・働き方よりも小さい。 この点からも実残業時間は全社的労働時間管理で はなく, 職場の管理・働き方から大きな影響を受 けていることが確認できる。 同様に賃金不払残業時間についてみると, コン トロール変数からなるモデルⅣの対数尤度値は −3565.643 である。 それに残業の発生 (「実残業 時間数」) を加えたモデルⅤでは対数尤度値が −3324.819 に, 全社的労働時間管理を加えたモ デルⅥ(a)では−2760.983 に増加する。 しかし, 職場の管理・働き方を加えたモデルⅦの対数尤度 値 (−2628.512) はモデルⅥ(a)とほぼ同じであり, 賃金不払残業時間は職場の管理・働き方よりも 全 社 的 労 働 時 間 管 理 か ら 大 き な 影 響 を 受 け て いることがわかる。 さらにコントロール変数と 残業の発生からなるモデルⅤ (同 : −3324.819) に職場の管理・働き方を加えたモデルⅥ(b)では −3154.576 へと対数尤度値は増加し, 賃金不払 残業時間は職場の管理・働き方からも影響を受け ていることが確認できるが, 影響の大きさ (対数 尤度値の増加幅) は全社的労働時間管理よりも小 さい。 この点からも, 賃金不払残業時間は職場の 管理・働き方ではなく, 全社的労働時間管理から 大きな影響を受けていることが確認できる。 2 実残業時間・賃金不払残業時間の発生メカニズ ム (1)実残業時間の規定要因 以上のように, 職場の管理・働き方は主に実残 業時間の発生要因であり, 賃金不払残業に間接的 に影響する要因であること, さらに, 実残業時間 がどの程度賃金不払残業になるかは, 職場の管理・ 働き方の要因よりも全社的労働時間管理によって 規定されることが明らかにされた。 そこで, 実残 業時間と職場の管理・働き方との関係, 賃金不払 残業と全社的労働時間管理との関係をより詳細に 分析する必要がある。 まず実残業時間の規定要因についてトービット 分析により検証する。 分析により説明される変数 は 「実残業時間数」, 説明する変数は表 10 に示し た職場の管理・働き方に関わる変数である。 コン トロール変数はこれまでと同様である。 同表の結 果によると, 実残業時間は第一に, 管理職の管理 行動特性では, 仕事の指示の計画性がない仕事計 画能力欠如型上司や無駄と思える仕事の指示をす る過剰業務指示型上司の下で働く社員ではなく, 残業を前提に仕事の指示をする, あるいは評価を 行う際, 残業時間の長さを考慮するというような 時間管理能力欠如型上司の下で働く社員ほど長く なる。 第二に, 社員の働く意識・行動特性では, 自己管理能力が高く効率よく仕事をこなすキャリ ア志向型社員ではなく, 仕事に対する責任感が強 く, 周りとの協調性を大切にする八方美人型社員 と上司が退社するまで帰宅しない上司依存型社員 ほど長くなる。 第三に, 仕事特性では, 仕事の範 囲・目標が明確で, 1 人で進める仕事が多く, 自 分でペース・手順を変えられる裁量型業務ではな く, 連絡調整型業務, 過大・計画困難型業務, 指 導育成型業務を担当している社員ほど, 実残業時 間が長くなっている。 さらに, コントロール変数について確認すると, 実残業時間は個人属性では女性に比べ男性と年齢 の若い者ほど, 勤務先の特性では 100 人未満に比 べ 500∼1000 人未満, 1000 人以上の規模が大き い企業に勤める者ほど長くなる。 所属部門・職位 の特性では, 一般社員に比べ責任や権限が増す係 長等クラス以上の者が長く, 営業・販売部門に比 べ自分で仕事をコントロールできる研究・開発部 門に所属している者ほど実残業時間が短くなる。 (2)賃金不払残業時間の規定要因 同様に賃金不払残業時間の規定要因についても トービット分析により検証する。 分析により説明 される変数は 「賃金不払残業時間数」, 説明する 変数は表 11 に示したように, 残業の発生, 労働 時間の配置の管理・労働時間の長さの管理・残業
手当の予算管理に関する変数である。 コントロー ル変数はこれまでと同様である。 表 11 は, 上記のトービット分析の結果である。 まず, 労働時間の配置の管理 (みなし労働時間制 を除く労働時間制度) には規定されず, 労働時間 の長さの管理に規定されていることがわかる。 さ らに, 労働時間の長さの管理のなかでは, 残業の 実施段階では, 残業報告を頻繁に行っていない者, 36 協定の説明を受けていない者ほど, 残業の確 定段階では, 申請残業時間の自己判断を行ってい る者, 主な労働時間管理方法では, タイムカード, IC・ID カード及びパソコンの起動・終了などの 記録の者に比べて, 勤務表 (出勤簿) の者, 管理 職がおおよその時間を確認及び自己申告の者, あ るいは把握する仕組みがない者ほど, 直属上司に よる実労働時間の把握状況では, 把握していると 表 10 実残業時間の規定要因 (トービット分析) 被説明変数 : 実残業時間数 係数値 標準誤差 コントロール変数 個人属性 性別 女性 男性 15.807 1.644** 年齢 −0.362 0.088** 勤務先の特性 業種 サービス業 建設業・鉱業 2.850 2.213 製造業 0.887 1.760 電気・ガス・水道業 −7.446 4.837 卸売・小売業, 飲食店 1.385 1.988 金融・保険・不動産業 3.328 3.138 運輸・通信業 2.642 2.496 従業員数 100 人未満 100∼300 人未満 3.298 1.765 300∼500 人未満 3.376 2.298 500∼1000 人未満 5.648 2.186* 1000 人以上 4.480 1.614** 所属部門・ 職位の特性 所属部門 営業・販売部門 管理部門 −1.193 1.900 配送・物流部門 1.726 2.693 研究・開発部門 −7.418 3.016* 情報システム部門 −1.732 2.987 製造・現業部門 −2.224 1.942 その他の部門等 0.253 2.405 職位 一般社員 係長等クラス以上 3.657 1.411** 職場の管理・働き方 管理職の 管理行動特性 仕事計画能力欠如型上司 0.077 0.689 時間管理能力欠如型上司 3.345 0.821** 過剰業務指示型上司 −1.732 0.828* 社員の働く意識・ 行動特性 キャリア志向型社員 −0.935 0.835 八方美人型社員 2.246 0.857** 上司依存型社員 5.381 1.043** 仕事特性 過大・計画困難型業務 6.738 0.829** 指導育成型業務 2.052 0.746** 連絡調整型業務 3.224 0.888** 裁量型業務 −0.331 0.717 定数項 21.321 3.770** sigma 23.344 0.454 サンプルサイズ 1544 Log likelihood −6380.110 注 : **は 1%, *は 5%水準で有意であることを示す。
思う者に比べてある程度把握している者, あまり 把握していない者, 把握していない者ほど, 残業 手当の確定段階 (残業手当支払いの目安達成の状況) では, 目安があり, かつ目安内に仕事を終わらせ るのが難しくない及び目安がない者に比べて, 残 業手当支払の目安があり, かつ目安内に仕事を終 わらせるのがあまり難しくない者, 残業手当支払 の目安があり, かつ目安内に仕事を終わらせるの がやや難しい者, 残業手当は全く支払われていな い, 及び目安があり, かつ目安内に仕事を終わら せることが難しい者ほど賃金不払残業時間がそれ ぞれ長くなっている。 表 11 賃金不払残業時間の規定要因 (トービット分析) 被説明変数 : 賃金不払残業時間数 係数値 標準誤差 コントロール 変数 個人属性 性別 女性 男性 1.972 2.028 年齢 0.024 0.107 勤務先の特性 業種 サービス業 建設業・鉱業 1.003 2.464 製造業 0.899 2.105 電気・ガス・水道業 −6.315 5.677 卸売・小売業, 飲食店 6.181 2.160** 金融・保険・不動産業 0.409 3.550 運輸・通信業 −7.546 3.017* 従業員数 100 人未満 100∼300 人未満 −4.039 2.108 300∼500 人未満 −0.283 2.607 500∼1000 人未満 −0.721 2.516 1000 人以上 −4.829 1.935* 所属部門・職位の特性 所属部門 営業・販売部門 管理部門 −2.935 2.138 配送・物流部門 −9.440 3.244** 研究・開発部門 −12.235 3.623** 情報システム部門 −4.708 3.362 製造・現業部門 −9.305 2.174** その他の部門等 −0.230 2.733 職位 一般社員 係長等クラス以上 1.753 1.554 残業の発生 実残業時間数 0.622 0.029** 全社的 労働時間管理 労働時間の配置の管理 主な労働時間制度 一般的な労働時間制 変形労働時間制 −1.838 2.090 フレックスタイム制 −1.361 1.921 労働時間の 長さの管理 残業の 実施段階 残業実施の手続き方法 直属上司の指示 事前申請, 事前許可 5.355 2.672* 自主的判断 4.008 2.220 残業時間の直属上司への報告頻度 毎日 1 週間単位 3.325 2.912 2∼4 週間単位 0.180 4.626 1 カ月単位 1.710 2.007 報告していない 8.482 2.090** 会社からの 36 協定の説明状況の有無 説明を受けている 説明を受けていない 3.093 1.749 残業時間の 確定段階 申請残業時間の自己判断の有無 いいえ はい 6.185 1.631** 主な労働時間管理方法 タイムカード, IC・ID カード及びパソコンの起動・終了などの記録 勤務表 (出勤簿) 6.193 1.644** 管理職がおおよその時間を確認及び自己申告 6.374 2.097** 把握する仕組みがない 14.204 5.157** 直属上司の実労働時間把握状況 把握していると思う ある程度把握している 4.811 1.720** あまり把握していない 7.905 2.250** 把握していない 12.167 2.881** 残業手当の 予算管理 残業手当の 確定段階 残業手当支払いの目安達成の状況 目安があり, かつ目安内に仕事を終わらせるのが難しくない, 及び目安がない 目安があり, かつ目安内に仕事を終わらせるのがあまり難しくない 1.238 2.372 目安があり, かつ目安内に仕事を終わらせるのがやや難しい 6.733 2.140** 残業手当は全く支払われていない, 及び目安があり, かつ目安内に仕事を終わらせることが難しい 20.974 1.836** 定数項 −42.654 5.462** sigma 20.432 0.649 サンプルサイズ 1390 Log likelihood −2760.983 注 : **は 1%, *は 5%水準で有意であることを示す。
さらに, コントロール変数について確認すると, 賃金不払残業時間は勤務先の特性ではサービス業 に比べ卸売・小売業, 飲食店に勤務している者ほ ど長くなるのに対し運輸・通信業, 100 人未満に 比べ 1000 人以上の規模の大きい企業ほど短い。 所属部門・職位の特性では営業・販売部門に比べ 配送・物流部門, 研究・開発部門, 製造・現業部 門に所属している者ほど賃金不払残業は短い。 こ れに対して, 賃金不払残業時間は個人属性には規 定されていない。
Ⅵ
おわりに
賃金不払残業の解決に向け て 1 残業の発生のメカニズム 賃金不払残業の背景を明らかにするには, それ が 「どのような労働時間管理のもとで」 「どのよ うな管理職 (上司) のもとで」 働く 「どのような 社員のもとで」 で起こるのかという三つの観点を 考える必要がある。 こうした観点から分析を行っ た結果, 以下のことが明らかになった。 第一に, 職場の管理・働き方の要因は主に実残 業時間の発生要因であり, 実残業時間を通して賃 金不払残業に間接的に影響する要因である。 第二 に, 実残業時間がどの程度賃金不払残業になるか は, 職場の管理・働き方に関わる要因よりも, 企 業が全社的な観点から展開している全社的労働時 間管理によって規定される。 したがって, 残業時間を削減するための対策を 打つことが賃金不払残業を解決するための第一歩 になり, 残業の発生はつぎのような職場の管理・ 働き方が適切に機能していないために発生してい る。 第一に, 管理職の管理行動では, 仕事の計画能 力が欠如している上司, 無駄な仕事を指示する上 司ではなく, 残業前提に仕事の指示をする, 評価 を行う際に残業時間の長さを考慮するような時間 管理能力が欠如している上司の下で働く社員ほど 実残業時間が長くなっていることから明らかなよ うに, 仕事の計画と配分の管理行動より, 部下へ の時間管理行動が適正に行われないと実残業時間 は長くなりやすくなる。 第二に, 社員の働く意識・行動では, キャリア 志向型社員ではなく, 八方美人型社員と上司依存 型社員ほど実残業時間が長くなっていることを明 らかにしたが, このことは労働時間を自己管理で きない社員ほど実残業時間は長くなりやすいこと を示している。 第三に, 配分された仕事 (仕事特性) では, 裁 量型業務ではなく, 連絡調整型業務, 過大・計画 困難型業務, および指導育成型業務を担当してい る社員ほど実残業時間が長くなっていることから 明らかなように, 仕事の範囲・目標が明確で, 自 分でペース・手順を変えられる仕事であれば実残 業時間は長くはならない。 2 賃金不払残業の発生のメカニズム 実残業時間がどの程度賃金不払残業になるかは, 主に全社的労働時間管理, それも労働時間の配置 の管理ではなく, 労働時間の長さの管理と残業手 当の予算管理に規定されていることが明らかになっ た。 したがって, 長時間残業が発生しても, 労働 時間の管理体制が適切に行われていれば賃金不払 残業の発生を防ぐことができると考えられ, 次の ような管理の不備が賃金不払残業を生んでいる。 第一に, 残業の実施段階では, 36 協定の社員 への説明, 部下による労働時間の報告の面で体制 が整備されていないと賃金不払残業が起こりやす くなっている。 第二に, 残業時間の確定段階では, 残業時間の 決定を社員に任せる, 残業時間の把握が制度的に 未整備であるために, 管理職による部下の労働時 間の把握が不十分であるときに, 賃金不払残業は 起こりやすくなっている。 第三に, 残業手当の確定段階では, 残業手当の 支払いについて目安制度が設定され, かつ, その 目安の困難度が高いほど, 賃金不払残業が起こり やすくなっている。 3 賃金不払残業の解決に向けて これまで明らかにしてきたように, 実残業時間 と賃金不払残業の発生メカニズムは異なっており, それぞれを解消するための政策的な対応は異なる。まず長時間残業の問題を解決するには, 社員の 労働時間の自己管理能力の向上をはかるとともに, 管理職に対しては, 部下に対する時間管理能力の 向上をはかり, 長時間労働が成果の証と考える意 識を払拭することが必要であろう。 こうした対策を踏まえて, 賃金不払残業に対応 する対策を考えると以下のようになる。 第一には, 残業の実施段階と残業時間の確定段階では, 社員 に多くを任せることなどによって管理職が部下の 残業時間を十分に把握していないことが賃金不払 残業の背景にあるので, 会社, 管理職が社員の残 業時間の実態を正しく把握できる制度の整備と運 用が必要である。 第二には, 残業手当支払の目安 制度が賃金不払残業の原因にあるので, 廃止を含 めた目安制度の抜本的な改善が必要である。 *本稿を作成するにあたり, 本稿の匿名レフェリーから有益な コメントを頂き, 謝意を表したい。 また, 今野浩一郎学習院 大学教授, 篠崎武久早稲田大学准教授には多くの有益な助言・ 支援及び様々な点について指導をして頂いた。 記して謝意を 表したい。 しかしながら, 本稿に関する責任はすべて著者ら にある。 1) 詳しくは厚生労働省のホームページ (www.mhlw.go.jp/ houdou/2007/10/h1005-1.html) を参照。 2) 連合調査 は連合傘下の労働組合員を対象に 1998 年以降 隔年で実施されている。 2002 年調査は 2002 年 6∼9 月に実 施され, 調査票配布枚数は 4 万 3860, 有効回答数 2 万 3260 (有効回収率 53.0%) であった。 3) 連合総研調査 は首都圏, 中京圏, 関西圏に居住する 20∼50 代の民間企業に勤める正規従業員を対象として, 2001 年 11 月に実施され, 調査票配布枚数は 1003, 有効回答 数は 735 (有効回収率 73.3%) であった。 4) JILPT 調査 は民間調査会社に登録している調査協力モ ニターの中から, 3000 人を選定。 居住地は日本全国とし, 2000 年の 国勢調査 (総務省) による性別・年齢階層別分 布に合わせて, 20∼59 歳の正社員 (「部長」 以下を含め 「役 員」 は除外, そのほか 「公務員」 を 1 割抽出) を抽出した。 2004 年 7 月に配布し, 8 月に回収。 有効回収数は 2557 票, 回収率は 85.2%であった。 5) こうした賃金不払残業を捉えるフレームワークの作成に際 しては, 既存研究に加えて, 今野 (2007) 第 2 章の 「労働時 間管理をみる視点」 及び著者らが参加した日本能率協会総合 研究所の 賃金不払残業と労働時間管理の適正化に関する調 査・研究 (厚生労働省委託調査) を実施するために招集さ れた研究会の企業側委員からの研究会での発言・討議を参照 した。 研究会委員は今野浩一郎 (座長)(学習院大学), 佐藤 厚 (法政大学), 茂呂成夫 (連合総合生活開発研究所 : 当時), 西山昭彦 (東京ガス(株) : 当時), 藤原弘之 (JFE ス チール(株) : 当時), 広田薫 (日本能率協会総合研究所), 宮 川準 (日本能率協会総合研究所) と著者らである。 6) 調査の結果は日本能率協会総合研究所 (2005) としてまと められている。 7) 金井 (1991) によれば, 職場での管理職のリーダーシップ には, 部下のアイディア・考え方の尊重, 部下の気持ち・感 情への心配りなどによって特徴づけられるリーダー行動を言 う配慮的リーダーシップと, 部下が目標の達成に向けて効率 的に職務を遂行するのに必要な構造や枠組みをもたらすリー ダー行動を言うタスク中心のリーダーシップがある。 表 4 の 選択肢のなかの 「つきあい残業をさせる」 「残業することを 前提に仕事の指示をする」 「終業時刻直前に仕事の指示をす る」 「評価を行う際, 残業時間の長さを考慮している」 「働き ぶりによって残業手当が支払われる時間を変えている」 は配 慮的リーダーシップに, 「仕事の指示に計画性がない」 「指示 の仕事内容が明確でない」 「社員間の仕事量の平準化を図っ ていない」 「必要以上に資料の作成を指示する」 「必要以上に 会議を行う」 はタスク中心のリーダーシップに関連する。 8) 鈴木 (2002) によれば, 組織コミットメントは, 組織への 一体化と組織への好意的感情の 2 つの側面からなる組織との 感情的なつながりを意味する情緒的コミットメントと, 「見 合った報酬が得られる」 などの組織との物質的, 合理的な関 係を意味する功利的コミットメントに分かれる。 表 5 の選択 肢のなかの 「仕事に対する責任感が強い」 「協調性がある」 「仕事を頼まれると断れない」 「上司が退社するまで帰宅しな い」 は情緒的コミットメントに, 「自己管理能力が高い」 「て きぱき仕事する」 「出世志向が強い」 「人事評価は高い方だと 思う」 「専門職志向が強い」 「生活費に残業代を組み込んでい る」 は功利的コミットメントに対応する項目である。 9) 金井 (1991) によれば, 仕事特性はタスク不確実性とタス ク依存性 (直接的な指揮下・権限下にはないユニット外部の 関係者に依存している程度) の 2 つから構成される。 「予定 外の仕事が突発的に飛び込んでくるから」 「仕事の内容や目 標が変更されるから」 「仕事の締め切りや納期にゆとりがな いから」 「仕事量が多いから」 「業務の繁閑が激しいから」 「後輩の指導を担当しているから」 「非正社員の指導や育成を 担当しているから」 がタスク不確実性 (表 6 を参照) に, 「仕事の範囲や目標がはっきりしている」 「自分で仕事のペー スや手順を変えられる」 「一人で進める仕事が多い」 「取引先 や顧客との対応が多い」 「社内の他の部門との連絡・調整が 多い」 「企画・判断を求められる仕事が多い」 「会議や打ち合 わせが多い」 がタスク依存性 (表 7) に対応している。 10) 対数尤度はモデル式の当てはまりの良さを示す値であり, 値が大きいほどモデル式の当てはまりが良いことを示す。 ま た, 尤度比検定はいくつかのモデル式の間の対数尤度の差が 有意なものであるかを尤度比を用いて検定する方法である。 参考文献 今野浩一郎 (2001) 「イシュー労働研究 ホワイトカラーの労 働時間管理」 日本労働研究雑誌 No. 489. (2007) ビジネスキャリア検定試験標準テキスト 労 務管理 3 級 社会保険研究所. 今野浩一郎・佐藤博樹 (2002) 人事管理入門 日本経済新聞 社. 小倉一哉・坂口尚文 (2004) 日本の長時間労働・不払い労働 時間に関する考察 (JILPT Discussion Paper Series 04-001).
小倉一哉・藤本隆史 (2007) 長時間労働とワークスタイル (JILPT Discussion Paper Series 07-01).
金井壽宏 (1991) 変革型ミドルの探求 白桃書房.
木村大樹 (2006) サービス残業 Q&A 全国労働基準関係団 体連合会.