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はじめに
遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic para-plegia, HSP)は,進行性の下肢の痙縮と筋力低 下を主徴とする遺伝性神経変性疾患である1)。 本邦の HSP の有病率は,人口 10 万人あたり約 0.2 人と推定されている2) 。これまでに SPG1 から SPG79 までの病型が報告されているが, そのうち半数以上で病因遺伝子が同定されてい る。REEP1(Receptor expression-enhancing protein 1)遺伝子を病因とする SPG31 は,常染色体優 性遺伝性 HSP(ADHSP)において二番目に多 い病型である。典型的には 20 歳以下の若年発 症であることが多く,時に末梢神経障害を合併 することがあるものの,基本的には下肢の痙縮 と筋力低下のみを主症状とする純粋型 HSP の 一型である。今回我々は,REEP1 遺伝子に新 規ミスセンス変異を有し,凹足(pes cavus)を 呈したまれな SPG31 の症例を経験した。 症 例 患者:46 歳,男性 主訴:歩きにくい 既往歴:胆管結石(2017 年に内視鏡治療), 高尿酸血症(20 代∼,痛風発作 1 ∼ 2 回 / 年) 家族歴:父,兄,甥に類症あり(図 1)。近 親婚なし。 現病歴:25 歳頃から「よく躓いている」「足 山梨医科学誌 33(2),63 ∼ 68,2018
新規 REEP1 遺伝子変異を認めた SPG31 の一例
下 園 啓 介
1),2),一 瀬 佑 太
1),南 海 天
1),諏 訪 裕 美
1),
佐 竹 紅 音
1),佐 藤 統 子
1),羽 田 貴 礼
1),土 屋 舞
1),
高 紀 信
1),長 坂 高 村
1),瀧 山 嘉 久
1)*
1)山梨大学医学部神経内科学講座 2)山梨大学医学部附属病院薬剤部要 旨:遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia, HSP)は,進行性の下肢の痙縮と筋力
低下を主徴とする遺伝性神経変性疾患であり,これまでに SPG1-SPG79 の病型が知られている。 その中で REEP1 遺伝子を病因遺伝子とする SPG31 は,常染色体優性遺伝性 HSP(ADHSP)にお いて二番目に多い病型であり,REEP1 遺伝子に変異があることでミトコンドリアや小胞体機能に 影響を及ぼすことが知られている。症例の多くは 20 歳以下の若年で発症し,時に末梢神経障害を 合併することがあるものの,基本的には下肢の痙縮と筋力低下のみを主症状とする純粋型 HSP の 一型である。本症例は凹足(pes cavus)を認めるものの下肢の痙縮が主症状であり,家族歴から 純粋型 ADHSP が疑われた。遺伝子解析により REEP1 遺伝子に新規ミスセンス変異(c.254C>A, p.S85Y) を 見 出 し,SPG31 と 診 断 し た。 我 々 が 渉 猟 し 得 た 限 り, 本 邦 で の pes cavus を 伴 う SPG31 症例は 1 例しか報告されておらず,本例は貴重な症例であると考えられた。
キーワード REEP1 遺伝子,新規ミスセンス変異,SPG31,凹足
症例報告
1)
〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 番地 * Correspondence should be addressed to Dr. Takiyama, Department of Neurology, University of Yamanashi, Yamanashi 409-3896, Japan
受付:2018 年 11 月 12 日 受理:2018 年 12 月 11 日
を引きずっている」と友人に指摘されるように なった。35 歳頃,階段を降りる際の脚の出に くさや突っ張り感を自覚するようになった。こ の頃から右小趾に鶏眼ができやすくなり,近医 に通院するようになった。40 歳頃から歩行時 の脚の突っ張り感が悪化し,階段を降りる際は 手すりを使うようになった。2017 年 1 月に再 度近医を受診したところ,家族歴や症状から HSP が疑われた。その後,HSP に関する精査 のために当科へ紹介となり,2018 年 8 月 13 日 に入院となった。 入院時現症:身長 160.0 cm,体重 49.0 kg,体 温 36.7℃,心拍数 86 bpm,血圧 177/107 mmHg。 両下腿の筋萎縮と両足の pes cavus を認め(図 2),両足関節はわずかに拘縮しており関節可動 域制限があった。その他,一般身体所見に異常 は認めなかった。神経学的には,四肢腱反射の 亢 進 を 認 め,Babinski 徴 候 と Chaddock 徴 候 が両側陽性であり,両下肢に著明な痙縮を認め た。四肢筋力は正常であった。脳神経や小脳, 感覚系,自律神経に異常はなかった。歩容はは さみ足歩行であった。 入院時検査所見:一般血液検査に異常はなく, 甲状腺機能,ビタミン B12,血清銅,極長鎖脂 肪酸,乳酸,ピルビン酸も正常であった。髄液 検査も異常はなかった。神経伝導検査では,下 肢の運動神経伝導速度の軽度の速度低下と後脛 骨神経の F 波の出現率の低下を認めた(表 1)。 図 2.患者の足 凹足(pes cavus)を認める. 図 1.家系図 3 世代にわたり患者が存在しており,本疾患は常染色体優性遺伝形式をとる. ■ 男性,患者,□ 男性,健常者,⃝ 女性,健常者, 発端者, 死亡
65 新規 REEP1 変異を認めた SPG31 頭部 MRI では白質病変や脳梁の菲薄化は認め なかった(図 3)。全脊椎 MRI では,第 5 腰椎 の前方辷り症の他に異常は認めなかった。 入院後経過:神経学的異常所見として主に錐 体路徴候のみを認める ADHSP であると考えら れ,純粋型の HSP が疑われた。ADHSP の中 で最も頻度の高い病型である SPG4(SPAST 遺 伝子)と,次いで頻度が高い SPG31 の遺伝子 解析を行ったところ,REEP1 遺伝子の exon4 に一塩基変異(c.254C>A,p.S85Y)を見出し た(図 4A)。これは,ヘテロ接合体変異であり, 遺伝形式としては常染色体優性遺伝であると考 えられる。 変異部位のアミノ酸は種を越えて保存されて
お り( 図 4B),in silico 解 析 で は,PROVEAN
Human Genome Variants で damaging,muta-tion tasting で disease causing,PolyPhen-2 で possibly damaging の判定であった。家系内共分 離の確認はできなかったが,上記より本変異は 病的変異であると思われ,SPG31 と診断した。 表 1.神経伝導速度検査 図 3.頭部 MRI 左:T1 強調像,糸状断,右:FLAIR 像,水平断を示す.白質病変や脳梁の菲薄化は認 めていない. R:右,L:左
本変異は,HGMD(The Human Gene Mutation Database),ExAC(The Exome Aggregation Consortium),gnomAD(The Genome Aggre-gation Database)には登録がなく,SPG31 にお ける新規のミスセンス変異であると考えられた。 考 察 ADHSP において最も多い病型は,約半数を 占める SPG4 であり,SPG31 と SPG3A(ATL1 遺伝子)がそれに次ぐが,いずれも純粋型の HSP である。海外では,SPG31 は HSP の 3.0% を占め,SPG4 および純粋型の HSP の中では 8.2%を占めている3) 。我々が事務局を務めてい る Japan Spastic Paraplegia Research Consor-tium(JASPAC)のデータによると,本邦では 欧米と同様に SPG31 が HSP の 3.7%を占めて いる4)。 SPG4 は 0 ∼ 60 歳代まで幅広く発症するの に対し,SPG31 と SPG3A は 20 歳以下の若年 発症が多いが,特に SPG31 に関しては,大部 分の発症が 10 歳までであり(71%),残りは 30 歳以上(31 ∼ 91 歳)で発症する二峰性の分 布を取ることが特徴である3)。 現 在,SPG31 は 世 界 で 44 家 系, 本 邦 で 17 家系の報告がある4–6)。変異形式はミスセンス 変異,ナンセンス変異,欠失,挿入,スプライ ス部位の変異など様々であるが,フレームシフ トを生じる変異が多い。本症例は新規のミス センス変異を認めたが,本症例のようにミス センス変異を呈する症例は比較的稀である3)。 REEP1 遺伝子は 7 つの exon からなり 201 の アミノ酸が翻訳される。変異のホットスポット は存在しないが,exon 2,exon 4,exon 5 に
比較的多い7)。
pes cavus は HSP に合併し得る症候である 図 4. A. Sanger 法による REEP1 遺伝子のシークエンシングを示すが,
exon 4 に一塩基変異(c.254C>A,p.S85Y)を認める(矢印). B.変異部位は種を越えて保存されている.
67 新規 REEP1 変異を認めた SPG31 が,SPG31 においては,これまで世界で報告 された 53 家系のうち 5 家系に pes cavus を呈 した患者の記載がある7–11)。臨床所見が詳細に 記載されていない文献もあるため,pes cavus を呈する SPG31 家系はもっと多い可能性があ るが,本邦において pes cavus を呈した SPG31 症例の報告は , 我々が渉猟し得た限り 1 家系 1 例 の み で あ る5) 。REEP1 遺 伝 子 の 変 異 は, SPG31 と は 別 に 遠 位 遺 伝 性 運 動 ニ ュ ー ロ パ チー(dHMN)の原因となることも知られて おり,これまでに上肢優位の V 型(dHMN-V) 3 名と下肢優位の II 型(dHMN-II)1 名を認 めた 1 家系の報告があるが12),この家系の患 者にも pes cavus が認められている。 REEP タンパク質は REEP1 ∼ 6 の 6 つが知 られており,構造的および配列相同性に基づい て 2 つのサブタイプ REEP 1-4 および REEP5-6 に分類することができる13)。REEP1 の機能は まだ明らかになっていない点が多いが,小胞 体形成タンパク質やミトコンドリアの機能に 関連しているとされる。REEP1 は,SPG4 の 病因遺伝子である SPAST 遺伝子がコードする Spastin や SPG3A の病因遺伝子である ATL1 遺 伝子がコードする Atlastin(GTPase 1)と小胞 体内で複合体を形成しているため,REEP1 の 機能異常は小胞体膜の湾曲や構造に影響を与 え,小胞体ネットワークの破壊に繋がる14,15)。 また REEP1 は,タウタンパク質によって誘発 されるニューロン変性に対し保護的な作用や, 小胞体中のミスフォールドタンパク質の蓄積 (小胞体ストレス)を低減するシャペロン様作 用を有する可能性があることも報告されてお り16),REEP1 遺伝子の変異は小胞体タンパク 質の機能を低下させることが予想される。実際 に,Reep1 遺伝子のノックアウトマウスにおい ても,リポソームサイズの減少に伴う小胞体機 能の低下や皮質脊髄路における軸索欠損が生じ ることが報告されている17)。また本症例にお けるミスセンス変異により,アミノ酸はセリン からチロシンへと変化している。セリンとチロ シンでは極性は同じではあるが,親水性 / 疎水 性という違いがある。またセリン残基のリン酸 化は非リン酸化ペプチドの構造に影響を及ぼさ ないが,チロシンのリン酸化は立体構造に大き な変化をもたらすことも報告されている18)。 SPG31 の 発 症 メ カ ニ ズ ム の 解 明 に 向 け, REEP1 遺伝子の変異型と表現型の相関性の検 討や REEP1 の機能についての更なる知見が必 要であり,今後もさらなる症例の蓄積が求めら れる。 本症例報告に関して患者から文書での同意を 得ている。 文 献
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Novel REEP1 Mutation in a Japanese Patient with SPG31
Keisuke SHIMOZONO1), 2), Yuta ICHINOSE1), Haitian NAN1), Yumi SUWA1), Akane SATAKE1), Toko SATO1),
Tokanori HATA1), Mai TSUCHIYA1), Kishin Koh1), Takamura NAGASAKA1) and Yoshihisa TAKIYAMA1)* 1) Department of Neurology, University of Yamanashi
2) Department of Pharmaceutics, University of Yamanashi Hospital
Abstract: Hereditary spastic paraplegias (HSPs) are a heterogeneous group of neurodegenerative disorders
char-acterized by progressive weakness and spasticity of the lower extremities. To date, the causative genes or gene loci of HSPs, from SPG1 to SPG79, have been reported. SPG31 is caused by a mutation of the REEP1 gene, and is the second most frequent form of autosomal dominant HSPs (ADHSPs). The mutation of the REEP1 gene infl uences
functions of endoplasmic reticulum and mitochondria. SPG31 is a pure form of spastic paraplegias, but occasionally associates with peripheral neuropathy. We report here a 46-year-old Japanese male with a novel missense mutation (c.254C>A,p.S85Y) in the REEP1 gene. He showed spastic paraplegia associated with pes cavus, which has been rarely reported. The present study expands the clinical and genetic spectrum of SPG31.