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アイスホッケーの失点の因果について : 不安全な行動と不安全な状態からの失点

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Academic year: 2021

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(1)Title. アイスホッケーの失点の因果について : 不安全な行動と不安全な状態か らの失点. Author(s). 宮崎, 晃行; 越山, 賢一; 奥田, 知靖. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 60(1): 227-237. Issue Date. 2009-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/1011. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第60巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.60,No.1. 平成21年8月 August,2009. アイスホッケーの失点の因果について 一不安全な行動と不安全な状態からの失点−. 宮崎 晃行・越山 賢一*・奥田 知晴*. 北海道教育大学札幌枚・岩見沢枚大学院 教育学研究科 *北海道教育大学岩見沢枚 スポーツ教育課程. AStudyofCauseandEffectforPointsLostinIceHockeyGames −PointsLostfromUnsafe Action andSituations−. MIYAZAKITeruyuki,KOSHIYAMAKenichi*andOKUDATomoharu† GraduateSchoolofEducation,HokkaidoUniversityofEducation. *DepartmentofSportsEducation,IwamizawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 本研究は,産業災害防止の分野における災害の因果理論をアイスホッケーの失点場面に応用して分析する ことで,ゴールキーパーの不安全な行動や不安全な状態が,失点の因果を構成しているのではないかという 仮説を立て,失点の因果における中心要因として,ゴールキーパーの不安全な行動および不安全な状態とゴー. ルキーパーの成績について分析を行った。分析の結果,不安全な行動を行うことで不安全な状態が起き,そ の状態が失点に結びつくことが示唆された。この結果ゴールキーパーの指導においては,失点の因果に基づ き中心要因となる不安全な行動の改善を図ることが,試合において失点を減らすために重要であるといえた。. 【キーワード;ゴールキーパー,分析,指導者】. Ⅰ はじめに アイスホッケーのゴールキーパーは失点を直接. らプレイオフの最優秀選手に贈られているコン・. スマイス・トロフィーを44年間で14人のゴール キーパーが受賞していることからも優れたゴール. 防ぐ役割を担っており,田名部(1973)や引木. キーパーがチームにおいて果たす役割の大きさが. (1985)も言及しているように最も重要なポジショ. わかる。. ンといえる。また,世界最高峰と言われている北. 米のプロリーグであるNHLにおいて,1965年か. 若林(1998)はゴールキーパーのプレーにおけ る,技術・戦術の発達とスタイルの変遷に関して. 227.

(3) 宮崎 晃行・越山 賢一・奥田 知暗. 述べている。そこではゴールテンデイングは大き. 専門的な指導を行っていく必要があるからであ. く分けて二つの歴史的なスタイルで論じられてき. る。. たとされている。1950年代から1970年代にかけて. 筆者はゴールキーパーとしてのプレーを通し,. 活躍したジャック・プラントがその確立に大きく. 多くのミスが重なり失点に結びつくことを経験し. 影響したスタンドアップスタイルと,1980年代後. た。そしてそれがハインリッヒの法則と呼ばれる. 半に名門モントリオール・カナディアンズのゴー. 災害防止論と類似した構造であることに着目し. ルキーパーになったパトリック・ロワとそのコー. た。その産業災害防止の分野における災害の因果. チであるフランソワ・アレールがケベックから登. 理論を応用してアイスホッケーの失点場面を見て. 場することにより急速に広まっていったバタフラ. みると,ゴールキーパーの不安全な行動と状態が,. イスタイル(ケベックスタイル)の二つのスタイ. 失点の因果となっているのではないかという点が. ルである。フランソワ・アレールが確立したバタ. 想起された。これまで,統計的分析に基づく技術. フライスタイルは,統計的データの分析をもとに. の改善というゴールキーパーの指導が重要視され. 失点の大部分を占めるローショットを効果的に. てきたが,失点の因果の枠組みからゲームを分析. セーブするバタフライセーブと,現代ホッケーの. し,それに基づく指導を行うべきではないかと考. 特徴である速いパス攻撃に対応する体系的なス. えた。. ケーティングにより構成されている。さらに,若. 林ら(2004b)はGKの守備について「新世代の スタイル」の登場を示唆している。このようなス タイルとそこで用いられる技術・戦術の変遷は,. Ⅰ 失点の因果について ハインリッヒら(1982)は「産業安全の原理」. ゴールキーパーに指導する技術に関しても劇的な. を碇喝し,その原理は産業安全の分野においては. 変化がもたらされたと言える。. 今日でも重要な役割を担っている。産業安全の原. スポーツにおける技術について佐藤(1994)は, 「ある運動種目における課題をより合理的に(合. 理と関係が深いものに,現在「ドミノ理論」と名 づけられている災害の因果理論がある。このドミ. 目的性・経済性の原理に合放して)解決する運動. ノ理論においては,表1に示す五つの要因がドミ. の仕方」としており,陸上のクラウチングスター. ノの列と同じ構成になっており,最初のドミノが. トの登場とその発展を例にとり,選手やコーチに. 倒れるとその列のすべてが倒れるように,お互い. よる技術の改良とその変化について述べている。. に依存し,起因する連鎖を構成するとしている。. アイスホッケーにおけるゴールキーパーが試合中. ハインリッヒは五つの要因の中で中心をなして. に用いる技術やスタイルも同様に選手やコーチの. いるのは不安全行動と不安全状態であるとし,そ. 研究,練習,用具などの改良により変化していく. の中心要因を取り除くことで災害も傷害も無くせ. のは,技術の定義に見られる課題の合理的な解決. る,という結論を導き出した。. という性質上当然のことであると思われる。. 若林(2001)はゴールキーパーの合理的な育成 のために,ゴールキーパーコーチの存在とゴール キーパー. の専門コーチングの必要性を説いてい. 産業安全やリスクマネージメントの分野におい て,不安全行動に類似した用語としてヒューマ ン・エラーがある。ヒューマン・エラー(人間の 錯誤)についてもさまざまな定義がなされてきた。. る。また,コストカ(1975)が指摘しているとお. 正田(1988)は,「あらかじめ課せられた機能を. り,情報の収集とその分析はトレーニングに対し. 人間が果たさないために生じるもので,その人間. て大きな価値を持っている。どのようなスタイル. を含むシステムの機能を劣化させる可能性がある. であったとしても,ゴールキーパーの指導におい. もの」と定義した。これらの災害の因果理論にお. て,指導者はゲームを分析し,合理的で体系的で. ける不安全行動やヒューマン・エラーをアイス. 228.

(4) アイスホッケーの失点の因果について 表1 災害発生の要因 ハインリッヒほか(1982)より引用 災 害 要 因. 要 因 の 説. 明. 1 家系および社会環境. 無謀,頑固,食欲,その他件格上の好ましくない特徴は遺伝によって受け継がれ るかもしれない。環境は,性格上好ましくない特徴を助長し,教育を妨害するであ ろう。遺伝および環境はともに人的欠陥の原因となる。. 2 人的欠陥. 無謀,激しい気性,神経質,興奮性,無分別,安全集団に対する無知などのような, 先天的または後天的な人的欠陥は,不安全行動をおかし,または機械的・物質的危 険性が存在するためのすぐ近い理由を構成する。. 3 不安全行動および/ または機械的または 物質的危険性. 吊り下げられた荷の下に立つ,警報なしに機械を起動する,ばか騒ぎ,および安 全装置を取外すなどのような人間の不安全行動,ならびに防護されない歯車,防護 されない作業点,手すりの未設置,不十分な照明などのような機械的または物質的 危険性は直接に災害の原因となる。. 4 災害. 人間の墜落,飛来物による打撃などのような事象は傷害の原因となる典型的な災 害である。. 5 傷害. 挫傷,裂傷などは直接に災害から生ずる傷害である。. 失点の中心要因 図1 失点の因果モデル. ホッケーの失点場面において応用することで,. いる。さらにあらゆる課題を着実に修練する必要. ゴールキーパーの不安全な行動,不安全な状態を. があると述べている。田名部(1973)は,(a)スケー. 含む失点の因果についてモデル(図1)で説明で. ティング能力,(b)日,反射神経,直観力にすぐれ. きる。また表2はハインリッヒのドミノ理論を参. ていること,(C)自身に満ちた態度,の三つを挙げ. 考に著者が定義した失点の因果を構成する五つの. ている。コストカ(1975)は,(ア)すばやい反応,. 要因を失点から逆算して見たものである。それぞ. け)スケーティング・テクニック,(ウ)敏捷さ,回勇. れの要因についてさらに詳細に考察すると次の様. 気と大胆さ,の四つが要求される能力としている。. になる。. ①,(彰,(b),(ア)および(ウ)は主に身体条件に起因す. (1)遺伝および環境要因. る能力である。一方,性格に関係する能力は,③,. 遺伝および環境要因は,選手の形質や性格に影. ④,(9,(C)およ弼である。本研究ではどのよう. 響を及ぼす遺伝や環境による要因であり,人間の. な性格および身体的特性がゴールキーパーに適し. 欠点の原因となるものである。. ているかを明らかにすることを目的としていな. 大室(1998)はゴールキーパーに適しているプ. い。また,コストカが挙げているような,勇気や. レーヤーの条件として,①反射神経が鋭い,②身. 大胆さが時として無謀なチャレンジにつながる可. 体が柔軟,③冷静沈着であること,(もIノーダー・. 能性も考えられることから一概に性格とゴール. シップがある,(9克己心がある,の五つを挙げて. キーパーへの向き不向きを論じるつもりもない。. 229.

(5) 宮崎 晃行・越山 賢一・奥田 知暗 表2 失点の要因 要 因 の 説 明. 失 点 要 因 (1)遺伝および環境. 遺伝によって受け継がれる可能件のある件格や形質。さらに練習環境,人間関係 などの環境。遺伝および環境はともに人間の欠点の原因となる。. (2)人間の欠点. 失点の中心要因を引き起こす,怠惰,無謀,失点防止に対する無知などの先天的 または後天的な性格上の欠点,絶対的な形質上の特性および技術・体力の不足など の要素。. (3)技術・体力不足/不. 相対的な移動のスピードや手足のスピードといった身体能力(体力)の不足や, 技術の未修得,未習熟,発揮におけるミスなど,シュート場面における技術・体力 不足。ゴールキーパーやほかのプレーヤーにより構成されている失点を防ぐための システムの機能を低下させる可能性があるゴールキーパーの行動である不安全な行 動。失点を防ぐためのシステムにおいて,ゴールキーパーを含む各プレーヤーが課 せられている機能を果たさないために生じる,失点を防ぐためのシステムの機能が 低下した状態である不安全な状態。これら三つが中心要田となる。. 安全な行動/不安全. な状態. (4)シュート. 枠内シュート,枠外シュートがある。直接失点の原因となる。. (5)失点. 失点はシュートから生じる。. ここで述べたいのは,性格や形質が遺伝により影 響を受けるということである。 日常的に使えるリンクの有無や指導者の存在と. 技術・体力の不足も人間の欠点と考える。 このように,人間の欠点要因とは,試合中にお いて失点を引き起こす要因として,怠惰,無謀,. いった練習環境,チームメイトとの人間関係と. 失点防止に対する無知などの先天的または後天的. いった環境は,選手の量的,質的な取り組みに大. な性格上の欠点,絶対的な形質上の特性および技. いに影響を与えるだろう。まわりに励まし合いな. 術・体力の不足などの要素である。. がら練習に取り組めるような仲間がいることで熱. (3)中心要因. 心にアイスホッケーに取り組めるようになる環境. 中心要因は以下の3つの要素から構成されてい. が選手としての成長には重安な役割を果たすと思 われる。また,生活環境も選手のアイスホッケー への取り組みに大きな影響をもっている。. これらの遺伝および環境要因は,それが良いも. る。 (a)技術・体力不足. 移動のスピードや手足のスピードといった身体 能力(体力)の不足や,技術の未修得,未習熟,. のであろうとなかろうと,選手の性格上の特徴を. 発揮におけるミスなど,シュート場面における技. 醸成し,形質的な特徴となってあらわれる。そし. 術・体力不足が中心要因の一つを構成する。. てスポーツに適したものは長所として表れ,欠点. 人間の欠点要因においても技術・体力不足を挙. となるものは失点の因果の一部を構成する人間の. げたが,ここでの技術・体力不足とは相対的なも. 欠点を形成ことになる。. のとして挙げている。つまり,技術・体力ともに. (2)人間の欠点要因. 極めて高いレベルの(人間の欠点要因が小さい). 産業安全の分野においてハインリッヒは,無謀. 選手が,試合中に最高の技術を発揮しても,わず. や無分別などとして挙げている人的欠陥が不安全. かであってもそれを上回るシュートが来た場合に. 行動を犯し,不安全状態が存在するための理由を. は失点してしまうこともある,といった例で考え. 構成するとしている。アイスホッケーの失点場面. るとわかりやすいと思われる。シュートの場面に. においても同様に性格上の特性が,不安全な行動. おいて,ゴールキーパーは常に相手シューターと. につながると考えられる。また,身体的な特性,. の相対的な関係の中でプレーしている。同様に技. 形質も人間の欠点になりうる。さらに,絶対的な. 術上のミスがあっても,相手シューターがそれ以. 230.

(6) アイスホッケーの失点の因果について. 上のミスを犯せば失点することはないだろう。. れる。 不安全な行動も直接失点の原因となり得る。. (b)不安全な行動. 不安全な行動に関して考察するために,まずこ れまでの文献において,ゴールキーパーの特定の. (C)不安全な状態. 若林ら(2002)は,失点に関するデータを検討. 行動を抑制するような記述を検討したところ以下. したうえで,失点の73%はゴールキーパーが. のような記述が見られた。. シュートに正対していなかったときに打たれた. 「足を前方につき出してスライディングするべ. シュートであると述べている。さらに,失点の90%. きではない。」(コストカ,1975)。「ゴール・ネッ. 以上はチェックされていないシューターが打った. トをはずれるシュートには手を出さないこと。」. シュートから生まれているという報告もある(若. 「パックがゴー. ル裏へ回ったとき,パックを見る. ために,体を後方へ回転させてはならない。」「目. 林ら,2004a)。. これらからわかるように,失点しやすい状態と. をパックから離さない。」(田名部,1973)。「前進. いうのは,ゴールキーパー自身の不安全な行動に. したまま戻らず,ゴール前でパックを奪取しよう. より生じる状態であり,さらには,味方のプレー. としてはいけない。」(コストカ・ボール,1988)。. ヤーがマークやカバーといった自分に課せられた. 「すべてのシュートをスティックで止めようとし てはいけない。」(タラソフ,1974)。「腰を極端に 曲げてはいけません。」「ブロッカーをゴーリー. 守備の課題を果たしていないことによって生じる と言える。. つまり,不安全な状態は“失点を防ぐためのシ. パッドの前に構えてはいけません。」「ブレードを. ステムにおいて,各プレーヤーが課せられている. 極端に手前に傾けてはいけません。」「お尻を落と. 機能を果たさないために生じる,失点を防ぐため. してバタフライをしてはいけません。」「手が届く. のシステム機能が低下した状態’’と定義できる。. ところにあるパックをスティックで突いて,ス. この様にゴールキーパーの不安全な行動は,不安. ロットなどへ出してはいけません。」(若林ら,. 全な状態と密接に関係していると考えられる。 具体的には,不正対,ゴールキーパーからパッ. 2002)。 これらは一部であり,“∼しなければならない”. クが見えていない,スロットエリアでカバーされ. という指摘の部分は,これだけに止まらない。以. ていない相手選手がいる,数的不利,などといっ. 上のように,ゴールキーパーの行動を矯正するも. た状態である。. のや抑制するものの多くは,その行動を取ること. 不安全な状態も直接失点の原因となる。. による失点の危険性を低くするための合理的な説. (4)シュート要因. 明ができるという点で共通してい. 失点の因果において,シュートまでのすべての. る。このような. 抑制され,矯正されるような行動は,ゴールキー. 要因が作用し,失点しやすい状況ができあがった. パーの不安全な行動であり,ヒューマン・エラー. としても,シュートを打たれることがなければ失. であると言える。そこで,前述のヒューマン・エ. 点することはない。そういう意味では失点の因果. ラーの定義を応用し,その行動と危険性の増大の. において,失点に至る不可欠な要因がシュート要. 合理的な関係に着目し,本研究では不安全な行動. 因である。. を“失点を防ぐためのシステム機能を低卜させる 可能性があるゴールキーパーの行動’’と定義する。. 具体的な例として,ゴールクリーズから出すぎ. シュートには,枠内シュートと枠外シュートが ある。アイスホッケーの試合においては通常,枠. 内シュートのみが数えられ,それがゴールキー. る,ゴールクリーズ内に下がりすぎる,スケーティ. パーの成績(セーブ率)と結び付いているが,枠. ング技術の選択ミス,静止しないでセーブする,. 外シュートにも枠内シュートと同様に上述の三つ. バタフライセーブ後の立ち足が逆,などが考えら. の要因が作用しており失点の因果においては同様. 231.

(7) 宮崎 晃行・越山 賢一・奥田 知暗. の危険性を持っていると考えられる。. (1)シュート時に静止していない. 若林ら(2004a)は,静止セービングの原則と. (5)失点. すべての要因が作用することで失点は起きやす. して,動作中のセービングについてシュートの速. くなると考えられる。しかし,失点までの要因が. さや方向など視覚からの情報が不正確になること. 極めて小さいときにも失点が起こる可能性はあ. と,次の動作の準備の難しさを挙げている。 分析では,ゴールキーパーの不安全な行動の中. る。. 重要なのは,失点が起きた時にどのような要因 の作用が大きかったのか,その要因はどのように. でも,この「シュート時に静止していない」に着 目した。. 改善するべきなのかという分析を行い,指導に活. (2)不正対. かしていくことであると考えられる。. 正対について若林ら(2004b)は,「ゴールキー. 本研究では失点の因果を構成するこれら五つの. パーが,パック・ゴールマウス中心線上に立ち,. 要因の中で,(3)中心要因の中にある不安全な行動. パック/ショットに胸を向けて基本姿勢で構え. と不安全な状態に焦点をあてて,ゴールキーパー. る」ことと述べている。. の成績との関係について分析を行い,ゴールキー パーの指導において不安全な行動と不安全な状態. 不安全な状態の中でも,ゴールキーパーに起因 するものとして「不正対」を抽出した。. の改善の重要性を明らかにすることを目的とし. (3)スクリーン. た。. 若林ら(2002)は,ゴールキーパーが多くの シュートをセーブできるのは,シューターが打つ パックが見えているからであり,セーブするのが. Ⅱ 研究方法. 難しいシュートの一つとして,ゴール前にプレー. アイスホッケーの試合をビデオで撮影し,ゴー. ヤーがいることでパックが見えていない時に打た. ルキーパーの不安全な行動および不安全な状態を. れるスクリーンシュー. セーブ率から検討し,ゴールキーパーの不安全な. のスクリーンとなるゴール前のプレーヤーは相手. 行動および不安全な状態が失点においてどのよう. 選手に限らず,味方の選手である場合も含まれる。. な因果があるのか考察を行った。. スクリーンに入ってきたアタッカーを押し出す. トを挙げている。この場合. ボックスアウトはディフェンスプレーヤーの仕事 であると言える。. 1 撮影対象. 平成20年8月12日から8月17日まで苫小牧市で. 以上の三つの要素の有無によるセーブ率と平均. 開催された,第3回全国高等学校選抜アイスホッ. セーブ率に関して,二群の比率の差の検定を行っ. ケー大会において,メイン会場となった白鳥ア. た。. リーナで行われた1回戦から決勝までの11試合に ついて撮影をおこなった。. セーブ率については,アジアリーグのシーズン. 記録と同様の算出方法で求めた。計算式は次のと おりである。. 2 分析対象 撮影を行った11試合で記録された全枠内シュー. セーブ率=. ゴールキーパーによるセーブ数 枠内シュート数. トにおいて,本研究で定義した不安全な行動と不 ら三つの要素が含まれるプレー. なお,分析した11試合において枠内シュート数. を著者が抽出し分析を行った。三つの要素につい. は852本(1試合平均,約77.5本),それによる得. ては次のとおりである。. 点は糾点(1試合平均,約7.6点)であり,平均セー. 安全な状態の中か. ブ率は.901であった。. 232.

(8) アイスホッケーの失点の因果について. ■  ̄▲. Ⅳ 結 果. シュート時に静止し ていない. 分析にあたって,全枠内シュート852本を不安 全な行動および不安全な状態の有無によって分類. a. したのが図2である。国中の記号は以下のとおり である。. 全枠内シュート. =a+b+C+d+e+f+g+h =852本(84失点). a シュート時に静止していない 61本(4失 図2 枠内シュートの分類. 点). b 不正対 28本(23失点) C スクリーン 45本(11失点). d シュート時に静止していない,かつ不正対 10本(7失点). e シュート時に静止していない,かつスク リーン 5本(1失点). しかし,どちらも有意差は見られなかった。 (2)不正対の場合について. 不正対の場合については,図2のb,d,fと gの領域で表される部分である。dとfとgにつ いては,シュート時に静止していない場合やスク. f 不正対,かつスクリーン 0本(0失点). リーンとの論理積になっている。不正対の場合と. g シュート時に静止していない,かつ不正対,. 正対の場合のセーブ率は表4のようになった。. かつスクリーン 0本(0失点). h シュート時に静止している,かつ正対,か つスクリーンではない 703本(38失点). 不正対の場合のセーブ率は,平均セーブ率より も有意に低かった(p<0.001)。一方,正対の場 合のセーブ率は,平均セーブ率よりも有意に高 かった(p<0.05)。. (1)シュート時に静止していない場合について. (3)スクリーンの場合について. シュート時に静止していない場合については,. スクリーンの場合については,図2のC,e,. 図2のa,d,eとgの領域で表される部分であ. fとgの領域で表される部分である。eとfとg. る。dとeとgについては,不正対やスクリーン. については,シュート時に静止していない場合や. との論理積になっている。シュート時に静止して. スクリーンの場合との論理積になっている。スク. いる場合,シュート時に静止していない場合の. リーンの有無によるセーブ率は表5のようになっ. セーブ率は表3のようになった。. た。. シュート時に静止していない場合のセーブ率. スクリーンの場合のセーブ率は,平均セーブ率. は,平均セーブ率よりも低かった。静止している. よりも有意に低かった(p<0.01)。スクリーン. 場合のセーブ率は,平均セーブ率よりも高かった。. でない場合のセーブ率はわずかに高かったが,有. 表3 シュート時に静止している/していない場合における平均セーブ率との比較 枠内シュート数(本) 失点数(点). シュート時に静止していない(a十d十e十g) シュート時に静止している(b+C+f+h). セーブ率. 有意差. 76. 12. .842. n.s.. 776. 72. .907. n.s.. 233.

(9) 宮崎 晃行・越山 賢一・奥田 知暗 表4 不正対/正対の場合における平均セーブ率との比較 枠内シュート数(本) 失点数(点). 不正対(b+d+f+g) 正対(a+C+e+h). セーブ率. 有意差. 38. 30. .211. ***. 814. 54. .934. *. *:p<0.05,***:p<0.001. 表5 スクリーン//スクリーンではない場合における平均セーブ率との比較 枠内シュート数(本) 失点数(点). スクリーン(C+e+f+g) スクリーンではない(a+b+d+h). セーブ率. 50. 12. .760. 802. 72. .910. 有意差 **. n.s.. **:p<0.01. 表6 複合的な要因の場合における平均セーブ率との比較 枠内シュート数(本) 失点数(点). シュート時に静止していない,かつ不正対(d+g) シュート時に静止していない,かつスクリーン(e+g) 不正対,かつスクリーン(f+g) シュート時に静止している,かつ正対,かつスクリーン ではない(h). セーブ率. 10. 7. .300. 5. 1. .800. 0. 0. 703. 38. 有意差 ***. n.s.. .946. **. **:p<0.01,***:p<0.001. 意差は見られなかった。. Ⅴ 考 察. (4)複合的な要因について. 表6は複合的な要因による場合のセーブ率であ. 1 不安全な行動及び不安全な状態について (1)シュート時に静止していない場合. る。. 複合的な要因とは,「シュート時に静止してい. 本研究で撮影を行った11試合における平均セー. ない,かつ不正対」などのように二つ以上の要因. ブ率(.901)と,不安全な行動,不安全な状態の. が同時に起こっている場合である。. 有無によるセーブ率をそれぞれ比較した。その結. 平均セーブ率と,複合的な要因のセーブ率をそ れぞれ比較した結果,「シュー. ト時に静止してい. 果,不安全な行動である「シュート時に静止して いない」場合のセーブ率(.842)は低かったが有. ない,かつ不正対」の場合のセーブ率は有意に低. 意差は見られなかった。一方シュート時に静止し. かった(p<0.001)。「シュート時に静止してい. ている場合のセーブ率(.907)は平均セーブ率と. ない,かつスクリーン」の場合のセーブ率は低かっ. 有意な差はなかった。. たものの有意差は認められなかった。「不正対,. 不安全な行動の中で今回取り上げた「シュー. かつスクリーン」の場合は,今回分析対象とした. 時に静止していない」場合に関しては,セーブ率. 試合では抽出されなかった。不安全な行動や不安. に大きな影響を持っていなかった。しかし,シュー. 全な状態が全くなかった「シュー. ト時に静止していないことで,セーブしたあとの. ト時に静止して. いる,かつ正対,かつスクリーンではない」の場. パック処理やリバウンドへの対応が遅くなること. 合のセーブ率は有意に高かった(p<0.01)。. が考えられる。次のプレーが遅れることで新たな 不安全な状態を招く危険性は否定できない。. 234. ト.

(10) アイスホッケーの失点の因果について. した。逆にスクリーンではない場合のセーブ率. (2)不正対の場合. 不安全な状態の中から,ゴールキーパーに起因 するものとして「不正対」の場合を取り上げたが, そのセーブ率(.211)は,平均セーブ率を大きく. (.910)は平均セーブ率との間に有意な差は見ら れなかった。. 不安全な行動の場合よりも不安全な状態の場合. 下回る結果となった。0.1%水準で有意差が見ら. のほうがよりセーブ率が低かったことから,不安. れた。逆に正対できている場合のセーブ率し934). 全な行動が直接ゴールキーパーのセービングを困. については,平均セーブ率よりも5%水準で有意. 難にするものではないが,不安全な行動は不安全. に高かった。. な状態を招きやすく,不安全な状態になることで. 正対に関する今回の結果は,失点の73%はゴー ルキーパーがシュー. 失点に結びつくと言える。. トに正対していなかった時に. 打たれたシュートによるものであるという若林ら (2002)のデータを支持するものであると言える。. 2 不安全な行動の原因について 今回撮影したプレーの中で,最も注目したプ. また正対できているときのセーブ率が有意に高. レーが枠外へのシュートをバタフライスライドで. かったことから,ゴールキーパーが試合中に正対. セーブするものであった。バタフライスライドと. し続けることの重要性を物語っている。. は,基本姿勢など立った状態から横へバタフライ. パック・ゴールマウス中心線上で構える正対に. の姿勢で滑る技術であり,横移動してからでは間. よってゴールキーパーは,ゴールマウスの大部分. に合わない状況で近くからシュートを打たれる. をカバーすることができる。プロであれば時速. ショートプレーで多用されるものである。この技. 160kmにも達するパックを,大きな動きで正確. 術は横へ滑りながらセーブすることになるため,. にキャッチするのは困難な作業であると言える。. シュート時に静止することが困難である。しかし,. また,現代の展開の速いアイスホッケーにおいて. ゴールキーパーにきわめて近い位置へパスやリバ. は,正対によってゴールマウスの大部分をカバー. ウンドが出てしまった場合や,ゴールキーパーを. することで,最小の動きによってセーブするシン. かわす動きへ対応する場合には必要となる技術で. プルで堅実なプレーが求められていると言えるだ. もある。. ろう。. 図3は枠外シュートをバタフライスライドで. (3)スクリーンの場合. セーブする場面の連続写真である。3−1で左下の. 不安全な状態の中でも,主にプレーヤーに起因. 選手が放ったシュートはゴールキーパーに向かっ. するものとして,「スクリーン」に着目した。ス. て左側の枠外へ飛んだが,ゴールキーパーは横へ. クリーンプレーは,ゴール前に相手プレーヤーや. バタフライスライドしながらセーブした(3−4)。. 味方プレーヤーがいる時にシュートが打たれるた. その結果,ゴール前ががら空き(3−6)になって. め,ゴールキーパーからパックが見えない。その. いるのがわかる。. ためシュートに対しての反応が遅くなる,シュー. 田名部(1973)が枠外シュートに手を出さない. トコースを特定しづらい,といったゴールキー. ように指導しているのは,守る必要のない枠外. パーに不利になる状況ができやすいと考えられ. シュートヘ千を伸ばすことで危険な場面にかえて. る。また,ゴールキーパーの目の前に相手プレー. しまう叶能性があるからである。また,枠外シュー. ヤーがいることから,セーブした直後の短いリバ. トに手を出すということはシュートコースの見極. ウンドをそのままゴールに押し込まれる可能性も. めの向上につながらないとも言える。. 高くなると考えられるが,これらの状況を裏付け. このバタフライスライドで枠外シュートを止め. る様に,スクリーンの場合のセーブ率(.760)は. るプレーはシュート時に静止していないうえに,. 平均セーブ率よりも1%水準で有意に低い値を示. 滑りながら横へ移動することでゴールキーパーの. 235.

(11) 宮崎 克行・越山 賢一・奥田 知暗 3−1. 3−2. 二」 −▲トムLこ. 3−3. 脚岬竺. 3−4. 鵬. 鵬 3−5. 3−6. 卿■l嬰. L_」二= ̄ ̄ ̄. 図3 枠外シュートをバタフライスライドでセーブ. 体がゴール前から大きく外れてしまうため,次の. めのシステムの機能を低下させ,失点の危険性を. ゴール前でのプレーへの対応が遅くなってしまう. 増大させる。ゴールキーパーの指導においては,. という二重の危険性を内包している。. 指導者がゴールキーパーのプレーに不安全な行動. 本研究の分析対象である高校生のゴールキー. とみなされるものや,不安全な行動につながるよ. パーは,よいポジショニングを取ることで少し足. うな動きがないかを,日常の練習や試合において. を延ばすだけで多くの低いシュートをセーブする. 観察する必要があるだろう。このような観察を通. ことができるようなサイズ(身長等)を備えてい. して発見された不安全な行動の改善や,不安全な. るにも関わらず,枠外シュートをバタフライスラ. 状態を招かないために不足している技術・体力を. イドでセーブするプレーが見られた。. 補うことが指導者の役割と言えるだろう。ただし,. 枠外シュートをバタフライスライドで止めるプ. 長山(1988)が指摘するように,不安全な行動と. レーに関して,これまで小学生のゴールキーパー. はこのようなものであるという固定観念がある. を観察してきた中で,その原因となっていると感. と,同じパターンのプレーに関する情報しか収集. じられるプレーが見られた。/ト学生はまだ体も小. されない可能性があるなど,収集した情報の歪み. さいため,スコアリングアングルが大きくゴール. については十分な考慮が必要であると思われる。. マウスの隅に飛んできたシュートに足が届かない. また,失点の因果における中心要因として,ゴー. ことが多い。ここから,ゴールマウスの隅やゴー. ルキーパーの不安全な行動と不安全な状態が実際. ルマウスから外れるシュートに対してバタフライ. の試合の場面で多くの失点を招いており,失点の. スライドを用いる。/ト学生の頃から自動化されて. 因果の中心となっていることが明らかになった。. きた動きに加え判断力不足によりこのようなプ. この結果からゴールキーパーの指導において,失. レーが表出するものと思われる。. 点の因果に基づき中心要因となる不安全な行動の. このように不安全な行動の持つ危険性を選手や. 指導者が認識していない場合は,悪い癖となって. 改善を図ることが,試合において失点を減らすた めに重要であると言える。. 残ってしまうと思われる。これが試合における失 点の危険性を増大させることにつながると考えら 引用・参考文献. れる。. 1)ハインリッヒほか:総合安全工学研究所訳(1982) ハインリッヒ産業災害防止論.海文堂:東京,pp18−59. Ⅵ まとめ. 2)引木孝夫(1985)アイスホッケーー技術と戦法.講 談社:東京,pp95−106. ゴールキーパーの不安全な行動や,ゴールキー. 3)コストカ:大竹国弘訳(1975)最新アイスホッケー. パーを含むプレーヤーが課せられた役割を果たさ. 戦法.ベースボール・マガジン社:東京,pp88−110,. ないことで生じる不安全な状態が,失点を防ぐた. 289−297. 236.

(12) アイスホッケーの失点の因果について 4)コストカ・ボール:大竹囲弘訳(1988)少年のため のアイスホッケー・トレーニング.ベースボール・マ. ガジン社:東京,pp251−275 5)正田亘(1988)不注意現象の心理的特性.三隅二不 二ほか編 応用心理学講座2 事故予防の行動科学. 福村出版:東京,pp2−20 6)長山泰久(1988)原因分析を通しての事故予防.三. 隅二不二ほか編 応用心理学講座2 事故予防の行動 科学.福村出版:東京,pp260−280. 7)大童広一(1998)図解コーチ アイスホッケー.成 美堂出版:東京,pp192−223 8)佐藤徹(1994)技術の運動学的認識.金子明友・朝 岡正雄編著 運動学講義.大修館書店:東京,pp67−75 9)田名部匡省(1973)アイスホッケー人門.講談社: 東京,pp71−82 10)タラソフ:山名政宏訳(1974)アイスホッケー入門. ベースボールマガジン社:東京,pp144−160 11)若林弘紀(1998)アイスホッケーマガジン,24(12) :pp74−75 12)若林弘紀(2001)アイスホッケーマガジン,27(5): pp74−75 13)若林三記夫・若林弘紀(2002)新世代のアイスホッ. ケー 技術編(第4版).HockeyLabJapan若林雅子 :大阪,pp176−244 14)若林三記夫・若林弘紀(2004a)新世代のアイスホッ. ケー 個人戦術編(第2版).HockeyLabJapan若林 雅子:大阪,pp223−300 15)若林三記夫・若林弘紀(2004b)“めざせトッププレー. ヤー!”最新アイスホッケー.HockeyLabJapan若 林雅子:大阪,ppl19−150 16)アジアリーグ公式HP http://www.alhockey.com/popup/11/gksp.html. (宮崎 晃行 札幌校・岩見沢校大学院生) (越山 賢一 岩見沢校教授) (奥田 知晴 岩見沢校講師). 237.

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参照

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