「女性アスリートの三主徴」を組み込んだ性教育・人権教育の一提案 : 地域連携におけるエビデンスフィードバック教育からの事例報告
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(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第71巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Humanities and Social Sciences)Vol. 71, No.2. 令 和 3 年 2 月 February, 2021. 「女性アスリートの三主徴」を組み込んだ性教育・人権教育の一提案 ― 地域連携におけるエビデンスフィードバック教育からの事例報告 ―. 寅 嶋 静 香 北海道教育大学岩見沢校芸術スポーツ文化学科. A Proposal for Sex Education and Human Rights Education that Incorporates the “Female Athlete Triad” ― Case Report by Evidence Feedback Education in Regional Collaboration Project ―. TORASHIMA Shizuka Department of Arts and Sports Culture, Iwamizawa Campus, Hokkaido University of Education. ABSTRACT The purpose of this study is to conduct a finding survey on the background factors related to the FAT experience and the situation at that time, targeting university students who have been involved in sports activities, and clarify it as a case report from adolescents including FAT. The target was one fourth-year university student. When the subject’s narrative was categorically analyzed from the sections obtained in the semi-structured interview, three categories were generated. The first was〈background factors of FAT〉,and various pressures and restrictions centered on “the absolute existence of leaders” were mentioned. The second was〈body and behavior when suffering from FAT〉,and all three symptoms of FAT were mentioned. In the third 〈heart when suffering from FAT〉, regret for intimidating words that corresponded to human rights violations of leaders and fear of FAT itself were confirmed. In this study, “exercise of authority at a level that violates human rights by the leader” not only causes stress to the athletes, but may also lead to depression, so penalties for the leader. We should proceed with the provisions. Leaders should always stay close to the athletes, not forget about learning about health education, and strive for proper coaching.. 161.
(3) Torashima, S. もその後遺症に苦しめられるような体験である。. 1.はじめに. これらは,勿論大多数ではないものの,この現状. 北海道教育大学岩見沢校では,地域に貢献でき. を見過ごすわけにはいかないレベルにあり,彼女. る人材育成をアドミッションポリシーの中で掲. たちの苦しみは,母親になった今でも消えること. げ,様々な地域連携事業を展開し,随時そこに関. がないのである。. わる教員らの研究報告やケーススタディ等が「芸. 上述した,スポーツ活動の中-特に「強豪校」. 術スポーツ文化学研究1~3」の中で紹介されて. と呼ばれる場で,スポーツ活動を長きに渡って取. きた(地域文化研究領域・複合文化研究領域・芸. り組んできた母親の中には,近年日本国内でも問. 術スポーツビジネス研究領域) 。筆者は,とりわ. 題視されている「女性アスリートの三主徴5)」に. け地域行政(官),各種法人(産)との連携を伴. 罹患した事例と,時に出会うことがある。. いながら,地域の母親や乳児の健康を支える形態. これは,女性がスポーツを懸命に行うあまり,. 作りに参与している。特に長年携わっている「産. アスリートたちが陥りやすい健康障害として,近. 後の母子のための子育て支援(健康支援)講座」. 年注目されるようになってきた,いわゆるスポー. は,2015年度より少子化対策として厚労省から掲. ツ障害の一名称である。この3つの徴候とは, 「利. 1). げられた「健やか親子21(第二次) 」に則った. 用可能エネルギー不足(摂食障害含む)」・「視床. 取り組みである。そして,それぞれの地域特性に. 下 部 性 無 月 経( 3 か 月 以 上 に 渡 る 月 経 不 順 含. 2). 応じた子育て支援の一端を担っている 。. む)」・「骨粗鬆症(骨密度の低下含む)」が連関し. この講座展開時に,毎年200名前後の母親と乳. ているというものである。摂取エネルギーが消費. 児と接することになるのだが,実に多様なバック. エネルギーを下回ることで,女性ホルモンの原料. グラウンドを持つ母親らと出会うことがある。な. であるエストロゲンやプロゲステロンが作られ. ぜ故に背景を知ることになるかは,この講座展開. ず,分泌力が低下し,結果,月経困難に陥る。同. が,ほぼ研究対象となっているためである(全て. 時に,エストロゲンは骨の生成へ多大に関わるこ. の取組には倫理申請がなされており,講座開始前. とから,分泌の急激な低下による骨粗鬆症のよう. にはその説明を必ず実施している) 。そして健康. な症状が起きてしまう,というものである。先駆. 講座提供のみで終始するのではなく,そこへ参加. 的にまずアメリカスポーツ医学会によって2010年. した母親らの身体的体力調査や,心の健康度,出. に「Female Athelete Triad」と定義されるよう. 産前の健康状態,産後期に至るまでの様々な生活. になったことから,頭文字をとって通称「FAT」. 状況など,質問紙にて調査3)し,希望があれば. と呼ばれることもある5)。. フィードバック機会も提供している。そして,次. 彼女たちからは,その取り組むスポーツ競技の. なる子育て支援に活かすための調査活動として,. 特性に携わる体重制限を強いられた経験,体重が. 様々な形で報告会等を行い,地域の要望へ応えて. 思うように落ちないことから,極度の摂食障害に. 4). きた 。この調査時には,時に半構造化面接調査. 陥るまで指導者らから言葉や態度で追い詰められ. (インタビュー調査)も展開することがある。そ. た体験,長時間に渡る練習によって月経不順に陥. の中で,大変残念ではあるが,嘆かわしい事例と. り,疲労骨折を度々繰り返した体験など,実態は. 出会うことが時折ある。それは,妊娠出産時に思. あまりにも過酷である。さらにそこに付随するよ. 春期~青年期時代の健康不備が大きく影響してい. うに,男女の恋愛を禁止された体験や,指導者に. るような事例である。それらを紐解いていくと,. よる性的強制の行為に近い体験など,人権侵害に. 思春期の時代からスポーツ活動に携わる中で,長. 該当するような事例とも向き合ってきた。過酷な. 期的な人権侵害やセクシャルハラスメントを受け. 体験を涙ながらに話す母親は,. るような経験談や,青年期・成人期を超えてから. 「こういう体験を語れる場があってすっきりし. 162.
(4) A case report of “Female Athlete Triad” in university students. た。 」. た背景についての事例報告を行い,FATを含め. 「誰にも言えず,一人抱えていた。嫌な体験はや. た思春期~青年期教育に対する性教育の提案と,. はり悶々と抱えないほうがいいと思った。」. 人権教育を背景とした性教育の必要性を警鐘する. 「子育て中にいつか自分の学生時代の嫌な体験が. 目的で,本稿を論じたい。. 頭に浮かんでくる気がして,どこかで話したいと 感じていた。話せてよかった。」 といった,ある種ポジティブなメッセージを頂く こともある。よって,このように半構造化面接調. 2.方 法 1)研究期間及び調査対象者. 査を自ら志願し,前向きにとらえている母親の事. 研究期間は,2019年2月であった。対象は,岩. 例を,大学の性教育や臨床スポーツ教育の中で活. 見沢校スポーツ文化専攻学生(女性)1名である。. かすことが可能ではないか,と筆者は捉えた。. 対象者へは,研究の目的・意義・方法・期間・研. これから社会人となる学生にとっては,上述の. 究協力者の自由意志の尊重・匿名性の厳守・デー. ような「女性の一生涯の健康」の背景にある「FAT. タの管理等を説明し,倫理的配慮を行った(北教. 問題・人権侵害に関する問題」は,重要な内容で. 大研倫;2018025001)。この1名が選ばれた経緯. あろう。なぜなら,特に岩見沢校では「スポーツ. は,以下が背景となる。. 推薦制度」も設けている点より,強豪校という場. ①学 生へ「スポーツ活動とFAT関連に纏わる記. でスポーツ競技を行ってきた学生が,毎年のよう. 述」自記式質問紙票への記載を例年依頼してい. に一定数存在するからである。そこで,5年前よ. る。. り講座対象者から許可を頂いた数名の母親の事例. ②こ の①に関し,過去5年間「FAT経験有」と. をベースとし, 「臨床スポーツ医学」の講義の一. の回答学生に対し,半構造化面接調査の依頼を. 部で,この女性アスリートの三主徴(今後この呼. 行ってきた経緯がある。. び名をFATと略することとする)について伝達. ③面接可能な学生から,聞き取りの内容の詳細提. し,スポーツの過活動がもたらす健康不備や,一. 示許可を頂けた学生の無作為抽出を行い,本研. 生涯に渡る妊孕性への影響を伝えている。そして,. 究の事例研究対象者とした。この学生を今後A. そのFATの背景にある人権侵害などを含めた人. 氏(調査当時;22歳)と記載する。. 権教育へも触れ,解説を行っている。 このように,地域連携活動にて発せられたエビ. 2)調査内容:事例報告. デンスが,大学教育の中へフィードバックされる. 1)-①で記載した「スポーツ活動とFAT関. 形態を展開していく中で,様々な授業レポートを. 連に纏わる記述」について自由に語ってもらう形. 獲得するに至っている。そして,このFAT及び. 式(半構造化面接)を採用した。A氏の語り最中. 人権教育を含めた臨床スポーツ医学講義の中で,. は,内容に対する制限を行わず,内容確認や促し. 女子学生に対する自記式質問紙調査を例年実施し. 程度に留めている。. てきたところ(FATの体験の有無,体験を有し た場合のその背景要因等) ,経験を有する者の割. 3)分析方法. 合が毎年一定数存在していたことが明らかとなっ. 対象者の語り内容を整理した分類7)及びFATの. た6)。そこから,半構造化面接調査を依頼してい. 背景要因に焦点を当てた,意味内容の類似点から. るが, 例年数名の学生が許可を申し出る形となり,. の分類8)を行った.得られたデータは,逐語記録. 様々な体験談を得る機会も頂いている。. として筆者及び分析の専門家である他1名が作成. 本研究では,その聞き取りの調査から得られた ある学生のFAT体験,その体験に至ってしまっ. した。A氏の語りを,「FATの体験状況やその背 景要因の一つの意味内容を表す文章」毎に区切り,. 163.
(5) Torashima, S. 意味内容の類似性からカテゴリー分類した。その. 1)-2 指導者の特徴とA氏との関連. カテゴリーから,さらにサブカテゴリーへと分類. ・指導者は絶対的存在であり,威圧的な態度は日. 7). し,A氏の語りを質的帰納的に分析した 。分析. 常のことであったという。選手たちの多くは,. 過程では,その信頼性及び妥当性確保のため,筆. 指導者から何をいわれても「はい」という返事. 者以外の専門家2名と共に女性の健康問題と. をすることが,常に求められていた。. FAT問題,人権問題にかかわる内容について,. ・ (その指導者へ)逆らうことは,活動を終了す. 極端な乖離の有無を客観的立場から検討した上. ることに等しいとされ,A氏がキャプテンを. で,整理した。. 担っていた時期は,常に選手との間に立ち,精 神的に追い込まれてしまったという。. 3.結 果 1)基本情報 本研究の事例報告対象者の年齢は半構造化面接 当時,22歳であった。とあるスポーツ競技に長年. ・プレー中にミスをすると「死ね」「もう辞めて しまえ」などの文言を浴びせられることが常で あった。試合中も,興奮すると怒りが静まらず, A氏はこの状況をただ受け止めることしかでき なかったという。. 携わっており(競技名は伏せることを本人より依. ・時 折体重測定があり,前回の体重よりも重く. 頼されているため,無記載) ,強豪校にて中学か. なっている選手がいると「痩せるように」など. ら高等学校時代を過ごしてきた経緯がある(約10. と発言することもあったという。. 年間一つのスポーツ活動を継続)。以下,FAT体. ・上述の内容に対し,苦痛で辞めてしまった選手. 験をした高等学校時代の活動団体の状況,指導者. をA氏は何名かみてきたことから,とても辛い. の特徴等を,箇条書きにて列挙する。. 気持ちに陥ったという。 ・自身も体重が増えないよう,時折食事を制限や. 1)-1 活動団体の状況とA氏との関連 ・部員数が多く,強豪校であった。例年,全国大 会出場は必須の団体であった。 ・常にレギュラー争いが存在し,時に足の引っ張 り合うような事象がみられたことがある。この. 断食をし,水だけ摂取することもあった。 ・女子の健康問題には気を使うことはなく,罵詈 雑言が絶えない状況であった。やめようと何度 か考えた。 ・しかし取り組んでいるスポーツ活動そのものが. 状態に対してA氏は心を痛めていたという。. 好きであることや,スポーツ活動に纏わる各種. ・キャプテンなどの重要な任務を任された経験も. 大会では,ほぼ上位の成績を収めることができ. あり(任務を担った学年は伏せることを本人よ. る体験を心地よく感じ,活動が報われる感覚を. り依頼されているため,無記載),プレー以外. 失いたくなかったという。. の作業が多くなった。これよりA氏は,精神的 な疲労が増えるようになった。. A氏はキャプテン時代にFATのような状況に. ・練習時間は常に長く,授業終了後から基本3~. 陥り,前脛骨疲労骨折(2回経験あり),月経不. 4時間は通常状態で,土日の練習や長期休業期. 順(無月経時期含む)がエネルギー不足(指導者. の練習は,一日7~8時間が定石であった。. から痩せるように指示があったとき)から生じて. ・A氏がキャプテンの時代では,体力の消耗に加. しまった。. え,団体をまとめることに必死であり,非常に 苦労をした。. 2)半構造化面接の概要及び面接から得られたカ テゴリー・サブカテゴリー抽出 本研究の対象者より,FATの困難な状況や苦. 164.
(6) A case report of “Female Athlete Triad” in university students. 労について,以下のような内容が,背景要因と共. をしないと罰則がある,など)強制的に活動を停. に語られていた。. 止させられることもあったという。全く反論をす. A氏は基本情報にあるように,中学校~大学時. ることができなかったため,ストレスは次第に増. 代の約10年間とある競技に携わっていた。その地. え,大会が終了した後には通常量の何倍もの食事. 域では,高等学校時代に全国大会など,数々の大. をし,吐いた経験もしたことを語った。. 会に出場経験を果たしたことなどをはじめに笑顔. FATの存在を知ったときは,一時指導者を恨. で語った。この時代は,ほぼ毎日練習があり,非. んだりもしたが,自身の知識不足も原因があると. 常に厳しいトレーニングと長時間練習により,多. 内省し,今後はこのようなことが起こらないよう. くの選手が途中で脱落していったという。しかし. に,社会にでて,多くの人に伝えたいと語った。. その活動に明け暮れている時代は,月経が長期的. 本研究にて「FAT体験とその背景要因」の語. に不規則な状態であったが,疲れているだけ,な. りに際し,その困難や苦労などのストレスを感じ. いほうがラクである,という認識が強かったとい. る語りは,全体で43の切片として分類された。そ. う。キャプテン時代は,団体をまとめることに苦. して,半構造化面接の中から3カテゴリーが抽出. 心はしたものの,やりがいも同時に感じていたと. され,其々のカテゴリー内に,3~5つのサブカ. いう。しかしながら,基本情報にあるように,心. テゴリーが確認された。. を痛めた体験が強かったため,ストレスはとても 大きかったと語った。 この時期に疲労骨折へ罹患した際,指導者より. 本研究におけるその切片は, 〈FATの背景要因〉 〈FAT罹患時の身体・行動〉 〈FAT罹患時の心〉 に関する3カテゴリーに分類された。その分類の. 「疲労骨折は練習の成果」 「もっとトレーニング. カテゴリー・サブカテゴリーを下記へ示した。. を強化し,丈夫になれば復活はすぐ」 「体重が重. ・カテゴリー①〈FATの背景要因〉. いから脛に負担がきたんじゃないか?」と言われ. →サブカテゴリー:. たことを語り, (このことに対して)あまり疑問. 「指導者による体重制限指導」. を抱かなかったと語った。この時代,実は疲労骨. 「指導者の怪我に対する認識不足」. 折を2度経験し,2度目の骨折で母親と共に整形. 「指導者の女性の健康問題への無関心」. 外科へ向かったところ, 「これは実は婦人科の領. 「A氏自身の健康に対する知識不足」. 域である」ことを告げられ,驚いたという。. の4点。. 基本情報にて述べたように,体重制限も関連が. ・カテゴリー②〈FAT罹患時の身体・行動〉. あることが原因だったことを医師から告げられ,. →サブカテゴリー:. その実態に対して恐怖感を抱き,1週間ほど競技. 「月経不順・無月経体験」. 活動を中止した。その後,引退を迎えたが,その. 「体重制限に対する過剰対応(断食・嘔吐等)」・. 時の恐怖感は未だに記憶から抜けることはなく,. 「疲労骨折の罹患(2回)」. 自身で身体を壊してしまったことに後悔の念を抱. 「婦人科への受診による知識獲得」. いたという。大学の講義を聞いて,改めて「あの. 「キャプテンの仕事への邁進」. ときはFATだったのだ」と再認識し,自身のよ. の5点。. うな状態に二度と後輩たちはなってほしくないと. ・カテゴリー③〈FAT罹患時の心〉. の思いから,今回面接へ応じたという。. →サブカテゴリー:. 高等学校時代の指導者は,特に絶対的存在であ. 「月経不順時代の油断」. ることを語り,彼の指示を守らない場合(体重が. 「疲労骨折罹患(1回目)への誤認識」. 増えている,恋愛禁止のルールを破る,集合時間. 「疲労骨折罹患(2回目)のFATに対する恐怖感」. に数秒でも遅刻しないこと,必ず大きな声で返事. 「FATより自身を痛めつけた後悔」. 165.
(7) Torashima, S. 「指導者に対する悔恨」. による,人権を侵害するレベルの権限行使」は,. の5点。. 選手たちへストレスをもたらすだけではなく,抑 うつ状態へと追い込むこともある11)。特に,痩. 4.考 察. 身体像への強い要求は,競技特性も強く反映する 場合もあるため12),指導者は常に女性の健康と. 半構造化面接による対象者A氏の語りから3つ. 競技との関連を学ぶべきであろう。体重を目の前. のカテゴリー:〈FATの背景要因〉・〈FAT罹患. で計測させられ,かつ痩身になることを指導者か. 時の身体・行動〉・〈FAT罹患時の心〉が存在し,. ら要求されていたことは,FATサイクルに入る. 其々に4~5つのサブカテゴリーが得られた。. 準備が必然的にあったものと推察された。そして,. 〈FATの背景要因〉カテゴリーに関しては, 「指. 月経異常や骨粗鬆症レベルの疲労骨折は,長時間. 導者による体重制限指導」・「指導者の怪我に対す. 練習や激しいトレーニングでも生じるが,そのこ. る認識不足」 ・ 「指導者の女性の健康問題への無関. とのみならず,極端な食事制限や食行動の異常に. 心」が挙げられ, 「指導者の絶対的な存在」が大. より,発症リスクがより高まる12)。. きな背景要因になっていることが示唆された。そ. 研究対象のA氏は,キャプテンを担ったストレ. して, 「A氏自身の健康に対する知識不足」もあ. スも同時に重なったことで,摂食障害のような過. げられ,健康教育の不備が垣間見えた。. 食・嘔吐体験がこの月経不順や疲労骨折という状. この①のカテゴリーに付随する形で,ネガティ. 態へ拍車をかけた13)ものと考えられた。このよ. ブな体験とも読み取れる月経不順や無月経体験,. うな状態が,平成や令和の時代という昨今でもや. 二度に渡る疲労骨折,断食経験,時には過食と嘔. むことがなく,非常に由々しき事態であるといえ. 吐があるといった摂食障害のような体験が,カテ. るのではないか。今後,このような指導者へ向け. ゴリー②のサブカテゴリー4項目へと示された。. た更なる啓発の充実化,例えば研修の義務化や,. そして,そのカテゴリー②の身体状況や行動に対. 罰則規定の策定などに向けた,指導者チェックリ. し,様々な負の心理状態(恐怖感や悔恨等)がカ. ストの開発など,継続的に求めていきたい旨をこ. テゴリー③のサブカテゴリーの5項目にて,確認. こに明記したい。 また,本研究における指導者の誤った(行き過. された。 このような,学校という限定的な組織の中での. ぎた)指導内容は,大変遺憾である。指導者の学. 指導者による圧力や,女子選手に対する体重制限,. びの研鑽は,ある意味責務であろう。身体を,何. 痩身体像への要求,無月経に至るようなトレーニ. かしらのトレーニングにて酷使することは,身体. ング要求は,大きな心理的ストレスを帯びてしま. メカニズムそのものを激変させてしまう可能性が. い,国外では既に1980年代にWilliansらが報告を. ある事実は,否定できないのである。指導者たち. 9). している 。その後,関連リスクが継続的に明文. は,常にこの視点を忘れてはならないだろう。そ. 化されており,アメリカスポーツ医学学会では,. してコーチングへ丁寧にあたることが求められる。. 指導者やコーチ陣へ,FATの厳罰化が成される までに発展してきた10)。 一方,国内では同じような罰則は全く存在しな. 5.おわりに. い。ここ数年にわたり,特に女性研究者らがこの. 本研究から,A氏の多大なる協力により,FAT. FATによる危険性に警鐘をならす状況にはある. の罹患の身体状況や行動,さらにはその背景要因. ものの,学校領域の指導現場へ深く根付いた報告. と罹患時の心の痛みに至るまで,事例報告明示が. は,未だ見られていない。しかし,鳴らし続ける. 可能となった。これまで,様々なFAT研究報告. ことは重要である。本研究対象のような「指導者. がなされてきたが,語りによる分析は寡少サイズ. 166.
(8) A case report of “Female Athlete Triad” in university students. であり, 指導者へ踏み込んだ考察は皆無に等しい。 本研究では教育現場にて,女性の心身の変化を 伴った性教育の展開や,その教育内容へFATの. 6)寅嶋静香,ほか(2018) .大学生アスリートの月経実 態調査. (日本体力医学会北海道地方大会) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/67/ 3/67_257/_pdf/-char/ja.. 知識(危険性含む)をあわせた「女性の一生涯の. 7)藤由美子,ほか(2020) .訪問看護師が捉えた精神障. 健康教育」と, 「スポーツに関わる三主徴の伝達」. 害をもちながら子育てをする母親の成長.日本精神保. をぜひお願いしたい。そして今一度,女性の生徒. 健看護学会誌,29⑴:51-59.. や学生に対し,スポーツ指導を行っている指導者 (男性も女性も)らはこれらの内容を見直して頂 ければ幸いである。. 8)荒木奈緒,ほか(2016) :出産病院で実施される産後 1~3か月の母親を対象とした子育て支援活動の効果. 母性衛生,:183-190. 9)Willians, J. M,et al. (1986). Effects of levels of. 指導者という権限を最大限利用した強制や厳 罰,さらには権力の誤った履行は,決してあって はならないのである。これは人権侵害である。さ らに,FATのような状態になる,つまりは摂食 障害や月経不順等に罹患することは決してあって はならない。そういった体験は,将来的にも妊孕. exercise on psychological mood states, physical fitness, and plasma beta-endorphin. Perceptual and Motor Skills. : 1099-1105. 10)Van. Baak, et al. (2016). The Female Athlete Triad Current Sports Medicine Reports. 15⑴: 7-8. 11)煙山千尋,ほか (2013) .女性スポーツ選手のストレッ サーとストレス反応,Female Athlete Triadとの関連. ストレス科学研究,280:26-34.. 性へ影響する可能性が考えられることが,近年の. 12)目崎登(2005) .女性アスリートにおけるオーバート. 報告では明らかになりつつある(必ずしもFAT. レーニング症候群.日本臨床スポーツ医学会誌,13⑶:. 14). ではなく,類似した症状について) 。 女性の一生涯の健康は,思春期時代の月経と共 に大きくうねりをみせ,様々な心身の発達が健全 に進むべきであろう。性教育の中へ月経教育を伝 える手段としても,このFATのリスクを用いて, わかりやすく解説をして頂ければ幸いである。 なお,この研究における利益相反はない。. 371-376. 13)土肥美智子(2018) .女性アスリート三主徴(FAT) とは(特集:産婦人科医も知っておきたい.女性アス リートのヘルスケア:基礎知識から治療指針まで)産 科と婦人科,85⑷:387-392. 14)坂本美和ほか(2017).生殖補助医療で妊娠しNIPT を受検した妊婦における心身的な特徴に関する検討. 女性心身医学 22⑶:266-270.. . (岩見沢校准教授). 引用文献 1)厚生労働用.子ども・子育て支援,地域子育て支援 拠点事業.地域子育て支援拠点事業とは.http://www. mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dl/kosodate_sien.pdf/ (2020年8月1日閲覧). 2)寅嶋静香,ほか(2018).単回の健康講座が心身に及 ぼす影響:子育て早期にある女性を対象とした実証的 研究.北海道体育学研究.:15-26. 3)寅嶋静香,ほか(2018).産後2~9か月にある女性 の身体的健康問題に対する健康運動プログラム介入の 影響 (第2報)高齢出産群と他年齢出産群との比較から. 母性衛生.59⑵:449-459. 4)科学研究費助成事業データーベース.https://kaken. nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-17K12520/. (2020年8月1日閲覧). 5)Van. Baak, et al. (2016). The Female Athlete Triad Current Sports Medicine Reports. 15⑴: 7-8, 2016.. 167.
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