流れ場と歩行者の相対速度が人体生理量・温熱快適性に及ぼす影響
INFLUENCE OF RELATIVE VELOCITY BETWEEN WIND FLOW AND WALKING PEDESTRIANS ON HUMAN PHYSIOLOGICAL RESPONSES AND THERMAL COMFORT
小林 炎1) 大場 優作2) 石田 泰之3) 後藤伴延4) 持田 灯5) En KOBAYASHI1), Yusaku OHBA2), Yasuyuki ISHIDA3), Tomonobu GOTO4) and Akashi MOCHIDA5)
ABSTRACT
The present authors have studied thermal comfort and heatstroke risk in urban street area based on the accumulated heat stress of walking pedestrians and their human physiological responses. This study focused the influence of relative velocity between wind flow and walking pedestrians on human physiological responses and thermal comfort. The wind environment to which pedestrians are exposed differs according to the direction of walking even in the same urban street. Thus, the direction of walking should change the human physiological responses, the thermal comfort and heatstroke risk of walking pedestrians. In this study, the influence of the wind environment to which pedestrians are exposed on the human physiological responses and the thermal comfort of walking pedestrians was quantitatively evaluated by the results of simultaneous measurement of the physical environment to which pedestrians are exposed and the amount of human physiological responses of walking pedestrians and numerically simulated by CFD analyses coupled with calculations of radiation and conduction. Moreover, the effects of countermeasures against urban warming introduced in the urban street were evaluated based on the accumulated heat stress of walking pedestrians.
Key Words: Walking pedestrian, Relative wind velocity, Human physiological responses, Thermal comfort 1.はじめに 屋外空間の温熱環境評価やこれに基づく温熱快適性評価を行う研究の殆どが、屋外空間のある 1 点における温 湿度や風速といった物理環境値や温熱環境指標、また、それらの空間分布に基づいて評価するものである文1,2,3等)。 しかし、屋外において人間は歩行していることが多く、ある特定の地点における熱ストレスが大きくても、そこを直ちに 通過すれば、温熱的な不快感や熱中症被害につながる可能性は低い。従って、歩行者の温熱快適性や熱中症リス クを評価するうえでは、歩行者が歩行経路に沿って経験する熱ストレスの蓄積と、それに伴う人体の生理量の変化に 基づいた評価を行うことが適当であると考えられる。さらに、同じ歩行経路であっても、その歩行の向きによって歩行 者が曝される放射環境(人体がどちらから日射を受けるか)、風環境(歩行者に対して追い風か、向かい風か)が異な 1) 東北大学大学院工学研究科 大学院生 (〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-11) 2) 株式会社 竹中工務店 (〒541-0053 大阪市中央区本町 4 丁目 1-13) 3) 東北大学大学院工学研究科 助手 (〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-11) 4) 東北大学大学院工学研究科 准教授・博(工) (〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-11) 5) 東北大学大学院工学研究科 教授・工博 (〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-11) - 156 -
るため、これに伴い歩行者の人体生理量、さらに温熱快適性や熱中症リスクが変化すると考えられる。 本研究では、歩行者が曝露される物理環境と歩行者の人体生理量の同時計測、及び非等温 CFD 解析により、歩 行の向きに応じて変化する流れ場と歩行者の相対速度が人体生理量及び歩行者の温熱快適性に及ぼす影響を定 量評価した。さらに、街路空間に導入した種々の暑さ対策技術の影響を、歩行者が経験する熱ストレスの蓄積に基づ き定量的に評価した結果を報告する。 2.歩行者が曝露される物理環境と歩行者の人体生理量の同時計測 2.1 測定概要(図 1) 東北大学青葉山キャンパス内で2016 年 9 月 2 日に測定を実施した。安静室(気温、相対湿 度はそれぞれ26℃、60%に設定、MRT25℃~30℃、風速 0.05m/s~0.15m/s)において 60 分間座位で滞在した後に 屋外へ移動し、建物により陰が形成される場所を歩行した(図 1(1))。なお、歩行の向きによる日射の当たり方の差の 影響を取り除くため、建物陰の歩行を選択した。被験者は標準体型注1)の20 代男性 5 名である。 2.2 測定項目注 2)(図 1,2) 被験者が曝される物理環境条件は、図 1(2)に示すように測定機器を取り付けたカートを 用いて、温湿度、長短波放射量、相対気流速度を計測した注3)。なお、気流速度は歩行進行方向、歩行直交方向、 鉛直方向の3 成分を計測した。人体生理量は、図 1(3)に示すように測定機器を取り付けた衣服を用い、皮膚表面温 度(7 部位)、深部温度(耳内温度)、心拍数、血圧、発汗量(体重減尐量)を計測。計測スケジュールを図 2 に示す。 9/2 13:05~14:05 安静状態(座位)で測定 14:05~14:15 移動 安静室→日陰 14:15~14:55 屋外で測定(日陰歩行) 図2 計測スケジュール 3.測定結果 本稿では、特に放射量の変動が小さい時間帯であった20[min]~25[min]の歩行時の測定結果を報告する。 3.1 被験者が曝される物理環境(図 3) 温湿度、放射量ともに変化は小さい。実測地点が建物の陰に当たる場所 であるため、放射環境は短波の値が小さく、各方向成分とも概ね一定となっている。被験者の曝される気流速度は、 X1 成分(歩行進行方向)と X2 成分(歩行直交方向)が増加し、また殆どの時間帯で向かい風注3)となっていて、歩行 の向きによって向かい風の速度が増減していると考えられる。 3.2 被験者が曝される気流速度と皮膚表面温度との関係(図 4) 腕(図4(2))、手の甲(図 4(3))、太股(図 4(5))で は、被験者が曝される気流速度の変化による皮膚表面温度の変化がよく見られる。腕(図4(2))や手の甲(図 4(3))は、 衣服に覆われていない部位であるために気流の影響を直接受けやすく、曝される気流速度が概ね 1.5[m/s]を超える と皮膚表面温度が低下し、それ以下では皮膚表面温度が上昇する傾向が見てとれる。太股(図 4(5))も、腕や手の甲 と同様に、曝される気流速度の大小によって皮膚表面温度の変化が変わる傾向が見られる。太股は衣服に覆われて いるが、衣服と皮膚の間の空気層の厚みが尐なく、衣服が皮膚に接触していたことから風速の影響が現れたものと考 えている。 一方で、額(図4(1))、腹部(図 4(4))、すね(図 4(6))、足の甲(図 4(7))では腕(図 4(2))、手の甲(図 4(3))、太股(図 4(5))と比較して、気流の影響は小さい。額(図 4(1))と腹部(図 4(4))は、体温維持機能の高い脳や内臓に近い部位 であるため、被験者が曝される気流速度の変化による皮膚表面温度の変化が小さくなったと考えられる。すね(図 安静室 屋外へ 移動 安静室 日陰 歩行 日陰 歩行 日陰 歩行 日陰 歩行 日陰 歩行 日陰 歩行 10 min. 40 min. 0 min. -60 min. 座位 歩行 5 min. 5 min. : 深部温度、心拍、血圧、体重の測定
15 min. 20 min. 25 min. 30 min. 35 min.
(1) 測定場所 (2) 物理環境測定用カート注3) (3) 生理量測定用衣服 図1 被験者が曝される物理環境の測定 N 安静室 日陰 温湿度 風速 長短波 放射量 +X1 -X1 +X2 -X2+X3 -X3 血圧・心拍数 皮膚表面温度 (額、腕、手の甲、 腹部、太股、すね、 足の甲) 深部温度 (耳内温度) - 157 -
4(6))と足の甲(図 4(7))に関しては、靴や靴下の存在により他部位よりも着衣抵抗が大きいため、気流の影響をほとん ど受けず、また、歩行中に活発に活動する下半身の部位であるため血流量が増加し文5,6)、皮膚表面温度が上昇した と考えられる。平均皮膚温度注5)(図 4(8))から、被験者の曝される気流速度の値に応じた平均皮膚温度の変化が現 れていることがわかる。 以上のことから、被験者の曝される相対気流速度の変化に応じて、風速変動の影響を受けやすい部位である腕、 手の甲、太股の皮膚表面温度に変化が生じ、この結果、平均皮膚温度も変化する。則ち、同じ街路空間であっても 歩行の向きによって人体が曝される風速が変化し、これに伴い歩行者の人体生理量が変化することで、温熱快適性 や熱中症リスクが変化すると考えられる。 これを踏まえて、次章では、RANS を用いた非等温 CFD 解析と大場ら文8)が改良した人体生理量予測モデルを用 いて、歩行の向きで歩行者の相対気流速度が変わることによる、人体生理量の差異、また、温熱快適性の差異を評 価する。さらに、街路空間に導入した種々の暑さ対策技術の影響を定量的に評価する。 (1) 温湿度 (2) 放射量 (3) 0.1s 間隔の風速 3 成分 (4) 0.1s 間隔のスカラー風速 (5) 平均風速 注4)(前後0.5 秒区間平均) 図3 被験者が曝される物理環境の時間変化(横軸:歩行時間[min]) (1) 額 (2) 腕 (3) 手の甲 (4) 腹部 (5) 太股 (6) すね 皮膚表面温度 相対気流速度(平均風速 注4)) 皮膚表面温度低下 皮膚表面温度上昇 (7) 足の甲 (8) 平均注5) 図4 相対気流速度と皮膚表面温度の関係(横軸:歩行時間[min]) 20 30 40 50 60 70 80 90 22 24 26 28 30 32 34 36 0 1 2 3 4 5 相対湿度 [%] 気温 [℃ ] 歩行時間[min] 気温 相対湿度 0 200 400 600 800 1000 0 1 2 3 4 5 放射量 [W/m 2] 歩行時間[min] +X1(短波) -X1(短波) +X1(長波) -X1(長波) +X2(短波) -X2(短波) +X2(長波) -X2(長波) +X3(短波) -X3(短波) +X3(長波) -X3(長波) -4 -2 0 2 4 0 1 2 3 4 5 相対気流速度 [m/s ] 歩行時間 [min.] X1成分 X2成分 X3成分 0 1 2 3 4 0 1 2 3 4 5 相対気流速度 [m/s] 歩行時間[min] 0 1 2 3 4 0 1 2 3 4 5 相 対 気 流 速度 [m /s] 歩行時間[min] 風速(向かい風) 風速(追い風) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 34.7 34.8 34.9 35.0 35.1 35.2 35.3 0 1 2 3 4 5 相対気流速度 [m/s] 皮膚表面温度 [℃ ] 歩行時間[min] 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 32.1 32.2 32.3 32.4 32.5 32.6 32.7 0 1 2 3 4 5 相対気流速度 [m / s ] 皮膚表面温度 [℃ ] 歩行時間[min] 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 31.5 31.6 31.7 31.8 31.9 32.0 32.1 0 1 2 3 4 5 相対気流速度 [m / s] 皮膚表面温度 [℃ ] 歩行時間[min] 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 35.15 35.25 35.35 35.45 35.55 35.65 35.75 0 1 2 3 4 5 相対気流速度 [m / s ] 皮膚表面温度 [℃ ] 歩行時間[min] 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 32.40 32.55 32.70 32.85 33.00 33.15 33.30 0 1 2 3 4 5 相対気流速度 [m / s] 皮膚表面温度 [℃ ] 歩行時間[min] 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 33.65 33.85 34.05 34.25 34.45 34.65 34.85 0 1 2 3 4 5 相対気流速度 [m / s ] 皮膚表面温度 [℃ ] 歩行時間[min] 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 35.8 35.9 36.0 36.1 36.2 36.3 36.4 0 1 2 3 4 5 相対気流速度 [m / s ] 皮膚表面温度 [℃ ] 歩行時間[min] 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 33.6 33.7 33.8 33.9 34.0 34.1 34.2 0 1 2 3 4 5 相対気流速度 [m / s] 皮膚表面温度 [℃ ] 歩行時間[min] 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 33.6 33.7 33.8 33.934 34.1 34.2 0 1 2 3 4 5 ative W ind V el ocity [m/s] Skin T em pera tu re[ ℃ ]
Exposed Time [min.]
皮膚温 風速
4.実市街地空間を対象としたメソ・ミクロ一貫解析による流れ場と歩行者の相対速度が人体生理量・温熱快適性に 及ぼす影響の分析 4.1 解析概要(図 8,9) WRF によるメソ気象解析の結果注6)を境界条件として使用して、新橋の街区モデルを対象 とする都市表面の非定常熱収支解析(解析範囲:図8 青枠)、CFD 解析を実施。CFD 解析では 2 段階の nesting 手 法を用いて広域の1 次領域で等温解析(図 8 の表示範囲全域)、狭域(2 次領域)で非等温解析(図 8 赤枠)を実施し た。街路空間に導入する対策技術は、遮熱舗装(図9 青枠内車道)、街路樹(図 9 緑枠内歩道)を取り上げた。解析ケ ースを表1 に示す注7)。 4.2 解析条件注 8)~10)(図 10) 解析対象日は2011 年 8 月 8 日。非定常熱収支解析に気温、絶対湿度、下向き短 波・長波放射量の1 時間ごとの WRF 解析結果を与えた(図 10)。この結果を引き継いで 13 時における CFD 解析を 実施。樹木Canopy モデルは吉田ら文3)が提案し、岩田ら文11)によって空力抵抗モデルが最適化されたものを使用。計 算条件は注11)参照。 4.3 解析結果(図 11) 図11(1)~(5)に各ケースの風速、気温、絶対湿度、MRT の空間分布をそれぞれ示す。風速 に関して、図11(1)に示すように、上空風向は南南東であるが、歩行者高さでは、対策なし、遮熱舗装のケースで東西 歩道の西側で一部西から東に向かう気流がみられるのに対し、街路樹のケースでは樹冠の空力抵抗によって気流分 布が変化し、東から西へ向かう風がみられる。また図 11(2)に示す、A-A’断面内の鉛直面内空間分布をみると、街路 樹のケースでは樹冠部分で風速が低減していることが確認できる。気温(図 11(3))に関しては、遮熱舗装のケースで は地表面温度の低下により、車道面で気温の低下が見られる。絶対湿度(図 11(4))は、街路樹のケースでは歩道の 周囲に高い値が生じている。MRT(図 11(5))をみると、遮熱舗装のケースでは道路表面からの反射日射の影響で MRT は上昇し、街路樹のケースでは樹冠が日射を遮蔽することによる MRT の低下が確認できる。 図11(6)に各ケースの定常 SET*の結果をそれぞれ示す。定常 SET*はΔt を 1 分として各地点の物理環境を 60 分 間一定で与えた場合の生理量予測値から算出した注12)。対策なしの場合、交差点の西側建物の中央と交差点の東 側に値が高い領域が現れ、遮熱舗装ではこの領域がさらに拡がる。一方、街路樹ではMRT の低い樹冠下で値が低 下している。 ①対策なし ②遮熱舗装 ③街路樹 (1) 風速の水平面内分布(高さ 1.5m) (0 3[m/s]) (図中赤矢印は、上空200m の風向) ①対策なし ②遮熱舗装 ③街路樹 (2) 風速の鉛直断面(A-A’断面)内分布 (0 3[m/s]) ①対策なし ②遮熱舗装 ③街路樹 ①対策なし ②遮熱舗装 ③街路樹 (3) 気温(高さ 1.5m) (28 38[℃]) (4) 絶対湿度(高さ 1.5m) (14.2 15.2[g/kg’]) ①対策なし ②遮熱舗装 ③街路樹 ①対策なし ②遮熱舗装 ③街路樹 (5) MRT(高さ 1.5m) (25 65[℃]) (6) 定常 SET*注12) (高さ 1.5m) (28 38[℃]) 図11 物理環境値の空間分布(2011 年 8 月 8 日 13 時) N X2 X1 A A’ 上空風向 A A’ 上空風向 A A’ 上空風向 [℃] X3 X1
A A’ A A’ A A’
[℃] [℃] [℃] [℃] [℃] 表1 解析ケース (1) 温湿度 (2) 放射量 図8 解析領域 図9 評価領域及び対策箇所 図10 非定常熱収支解析の入力条件 新橋駅 N 1次領域(等温CFD解析) 非定常熱収支解析 2次領域(非等温CFD解析) S w E 街路樹配置箇所 遮熱舗装設定箇所 評価領域 N S w E ケース名 対策内容 対策なし -遮熱舗装注7) 車道(図9青斜線部分)に 遮熱舗装 街路樹注7) 歩道(図9緑斜線部分)に 街路樹を14m間隔で配置 0 200 400 600 800 1000 0: 00 3:00 6:00 9:00 12 :0 0 15 :0 0 18 :0 0 21 :0 0 0: 00 放 射 量 [W /m 2] 短波 長波 - 159 -
4.4 非定常状態の人体生理量・温熱快適性の算出(図 12,13) 評価領域内(図 9 黒枠)を西から東へ歩行するケ ースと、東から西へ歩行するケースの2 通りを設定した。図 12 に人体生理量予測モデルに入力する物理環境値(風 速、気温、相対湿度、MRT)をそれぞれ示す。なお、風速は、人体の歩行方向と歩行速度を考慮した相対気流速度注 12)としている。図 12(1)から、西から東に歩行したときの方が、歩行中の多くの時間帯で相対気流速度が大きくなること が分かる。歩行中の人体生理量及び非定常SET*の算出結果を図 13 に示す。なお、非定常 SET*はΔt を 1 秒とし て歩行経路上を3600 秒繰り返し歩行した後、さらに評価領域を歩行した際の、歩行経路上で曝露される物理環境条 件とそれに伴って逐一変化する(非定常状態の)生理量から算出した。図 13(1)から、いずれの対策ケースも、相対気 流速度が比較的高い(図 12(1))西から東へ歩行した場合の方が、東から西へ歩行した場合よりも 0.2~0.3[℃]程度平 均皮膚温度が低くなることが分かる。これは、第 3 章で確認した実測と同様の傾向である。相対気流速度の変化に伴 う生理量変化によって、非定常 SET*(図 13(2))は、西から東へ歩行した場合の方が、東から西へ歩行した場合よりも、 歩行時間中の平均値が約0.6~0.8[℃]程度低くなる。なお、気温が皮膚表面温度よりも高い環境条件下では、当然風 速が早いほど、顕熱の受熱量が増加するため、本稿とは異なる結果となりうる文15)。 4.5 暑さ対策技術の評価(図 14) 4.5.1 既往の手法に基づく評価 弓野ら文16)の手法に倣い、歩道上の評価領域内(図9 黒枠)で定常SET*が許容 値35[℃]注13)を下回る面積率(以下、許容面積率)に基づいて評価する。街路樹により許容面積率が増加するのに対 して、遮熱舗装の場合、許容面積率が著しく低下する。 4.5.2 歩行者が経験する熱ストレスの蓄積に基づく評価 非定常SET*が歩行時間内で許容値 35[℃]注13)を下回 る割合(以下、許容時間率)に基づいて評価する。西から東へ歩行する場合、街路樹の許容時間率が高く、一方、遮 熱舗装では低く、対策技術間の大小関係は許容面積率の結果に等しい。しかし、対策なしでは許容面積率 38.6[%] に対し、許容時間率は 60.9[%]と、20[%]以上高い。次に、東から西へ歩行する場合、西から東へ歩行する場合と比 べ、全ケースで許容時間率は半分以下の値となる。また、許容面積率では対策なしよりも街路樹の方が20[%]以上高 くなるのに対し、東から西へ歩行する場合の許容時間率に関しては対策なしと街路樹の差はほとんどない。 (1) 相対気流速度 注12) (2) 気温 (3) 相対湿度 (4) MRT 図12 人体生理量予測モデルに入力する物理環境値(横軸:歩行時間[sec]) ① 対策なしと遮熱舗装 ② 対策なしと街路樹 (1) 平均皮膚温度 ① 対策なしと遮熱舗装 ② 対策なしと街路樹 図14 許容面積率と 許容時間率の比較 (2) 非定常 SET*注12) 図13 生理量及び非定常 SET*の計算結果(横軸:歩行時間[sec]) 0 0.51 1.52 2.53 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 相対気流速度 Ve s[m/ s] 歩行時間[s] 対策なし(西から東) 遮熱舗装(西から東) 街路樹14m(西から東) 対策なし(東から西) 遮熱舗装(東から西) 街路樹14m(東から西) 0 1 2 3 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 相対気流速 Ve s,walkin g [m / s] 歩行時間[s] 29 31 33 35 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 気温 [℃ ] 歩行時間[s] 40 45 50 55 60 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 相対湿度 [% ] 歩行時間[s] 40 45 50 55 60 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 MRT [℃ ] 歩行時間[s] 0 0.51 1.52 2.53 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 相対気流速度 Ve s[m/ s] 歩行時間[s] 対策なし(西から東) 遮熱舗装(西から東) 街路樹14m(西から東) 対策なし(東から西) 遮熱舗装(東から西) 街路樹14m(東から西) 34.5 34.7 34.9 35.1 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 平均皮膚温度 [℃ ] 歩行時間[s] 対策なし:35.00℃ 遮熱舗装:35.02℃ 対策なし:34.77℃ 遮熱舗装:34.81℃ 平均値 34.5 34.7 34.9 35.1 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 平均皮膚温度 [℃ ] 歩行時間[s] 対策なし:35.00℃ 対策なし:34.77℃ 街路樹:34.95℃ 街路樹:34.63℃ 平均値 0 10 20 30 40 50 60 70 80 対策なし 遮熱舗装 街路樹14m 許容面積率、 許容時間率 [% 」 許容面積率 許容時間率 (西から東へ歩行) 許容時間率 (東から西へ歩行) 33 34 35 36 37 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 SET *[ ℃ ] 歩行時間[s] 対策なし:35.6℃ 遮熱舗装:35.8℃ 対策なし:35.0℃ 遮熱舗装:35.2℃ 平均値 33 34 35 36 37 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 SET *[ ℃ ] 歩行時間[s] 対策なし:35.6℃ 対策なし:35.0℃ 街路樹:35.4℃ 街路樹:34.6℃ 平均値 - 160 -
5.まとめ 1) 歩行者が曝される物理環境と歩行者の人体生理量の同時計測を行い、人体が曝される気流速度の違い が、皮膚表面温度に及ぼす影響を分析した。 2) 非等温 CFD 解析と人体生理量予測モデルを用いて、歩行の向きで歩行者の相対気流速度が変わること による、人体生理量、温熱快適性の差異を分析し、暑さ対策技術の効果についても評価を行った。 注釈 注1) ボディマス指数(BMI)が 18.5 以上 22.5 未満を標準体型とした。 注2) 温湿度は、温湿度センサ付小型データロガー(TR-72U, T&D)と日射遮蔽付 二重通風管を用いて、1 分間隔、高さ 1.5m で測定。長短波放射 量は、長短波 放 射 計(MR, 英弘精機)3 台を用いて、歩行進行方 向、歩行直交方向、鉛 直方向の 3 方向 6 成分を、1 秒間隔 、高さ 1.5m で測定。風速は、3 次元 超音 波 風 速 計(CYG-81000, Climatec)を用いて、0.1 秒間隔、高さ 1.5m で測 定。皮膚表面 温度は熱電 対を用いて 1 秒間隔で 7 部位(額、腕、手の甲、腹部、 太 股 、すね、足 の甲 )を測 定 。深 部 温 度 (耳 内 温 度 )は深 部 温 度 計(MC510, OMRON)を、心拍・血 圧はデジタル血圧 計 (UA-622, A&D)を、発汗量(体重 減 尐 量 )は分 銅 内 臓 重 量 級 天 秤(GP-100K, A&D)をそれぞれ用いて、5 分間隔で測定。 注3) 被験者が曝される放射量/風速の成 分と正負は次のように定義。X1 成分 は歩行進行方向で、被験者が前面で受ける放射量/風速を正、X2 成分は歩行直 交 方 向 で、被 験 者 が左 面 で受 ける放 射 量/風速を正、X3 成分は歩行直交 方向で、被験者が上面で受ける放射 量 /風速を正とした。すなわち、向かい風は 風 速 のX1 成分(歩行進行 方向)が正の値となるとき(身体の前面で風 を受け、額・腹部・太腿・すねにつけたセンサが風に正対する)で、追い風は風速の X1 成分が負の値となるとき(身体の背 面で風を受け、額・腹部・太腿・すねにつけたセンサが風に正対しない)である。 注4) 平均風速 文4)は式(1)より算出。 √ (1) ただし、 :歩行進行成分, :歩行直交成分, :鉛直成分, :瞬間風速の3 成分 [m/s], < >:時間平均 注5) 平均皮膚表面温 度は Hardy&DuBois文7)の7 点法に基づき、式(2)より算出。 ̅̅̅̅ (2) ただし、̅̅̅̅:平均皮膚表面 温度[℃], :額 の温 度[℃], :腕 の温 度[℃], :手 の甲 の温 度[℃], :腹 部 の温 度[℃], :太 股 の温 度[℃], :すねの温 度[℃], :足 の甲 の温 度[℃] 注6) メソ気象解析に関しては、河西ら文9)の解 析 結 果 を用 いた。 注7) 壁面日射反射率 は 0.2 とした。車道 の日射反射率は遮 熱舗装で 0.4、その他のケースで 0.1。歩道は日射 反射率 を 0.2 とした。 街 路 樹 形 状 は新 井 ら文10)の検 討 を参 考 にイチョウ型 のモデルを用 いた。 注8) 解析対象日は夏季の標 準気象日として選定。2010~2019 年 8 月の東京 管区気象台の AMeDAS による気象データから,降水がなく海陸風 循 環と判断され る日 を抽 出 。このうち,日 平 均 ・日 最 高 ・日 最 低 気 温 、相 対 湿 度 、風 速 および日 照 時 間 の1 時 間積算値の平 均値 が月平均値に最も近い日とした。 注9) 非定常熱収支解 析、等温 CFD 解析 、非等温 CFD 解析の解 析領域(x [m]×y [m]×z [m])はそれぞれ 800×764×200,1166.8×1028×650,341.8×179.8×500, またメッシュ分 割 (x [-]×y [-]×z [-])はそれぞれ 69×63×9,111×94×57,246×57×46 とした。 注10)非 定 常 熱 収 支 解 析 では前 日 の気 象 条 件 で1 日分の助走期間を設け、計 2 日の解析を実施。地中境界条件は 500mm で伝導 熱フラックスを 0 とした。また, 本 解 析 では物 体 表 面 は完 全 拡 散 面 を仮 定 した。 注11)乱 流 モデルは、1 次領域では標準 k-εモデル、2 次領域では Durbin 型k-εモデルを用いた。移流項スキームは 1 次領域では一次風上差分、2 次領域では QUICK を用いた。流入境界については、WRF の解析結 果より得られた鉛 直分布文9)を与 えた。流 出 境 界 については、 , , , 𝑘𝑘, 𝜀𝜀の法 線 方 向 の 勾 配 を0 とした。上 空境 界については 、 とし、 , , 𝑘𝑘, 𝜀𝜀 の鉛直勾配を 0 とした 。 地 表 面/壁面の境 界条件に 関しては 、風速 𝑝𝑝 については滑面 の対数則 を 使用し、乱流 エネルギ ー 𝑘𝑘について は法線方向の 勾配 を 0 とし、 地 表 面 / 壁 面 第 一 セ ル の 粘 性 消 散 率 に つ い て は𝜀𝜀𝑝𝑝 𝐶𝐶𝜇𝜇3/4𝑝𝑝3/2 𝜅𝜅ℎ𝑝𝑝/ と し た 。 温 度 に つ い て は 非 定 常 熱 収 支 解 析 の 顕 熱 フ ラ ッ ク スℎ 𝛼𝛼𝑐𝑐( 𝜃𝜃 − 𝜃𝜃𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟 )、 湿 度 に つ い て は 非 定 常 熱 収 支 解 析 の 潜 熱 フ ラ ッ ク スℎ 𝐿𝐿 ∙ 𝛼𝛼 𝛽𝛽 ( 𝑓𝑓 − 𝑓𝑓𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟 )を使用。 た だ し 、 𝑝𝑝:地 表 面 / 壁 面 第 一 セ ル の 接 線 方 向 風 速 [m/s], ℎ𝑝𝑝:地 表 面 / 壁 面 第 一 セ ル の 鉛 直 方 向 の 幅 [m],𝑘𝑘𝑝𝑝, 𝜀𝜀𝑝𝑝:地 表 面 / 壁 面 第 一 セ ル の𝑘𝑘 [m2/s2], ε [m2/s3],𝐶𝐶 𝜇𝜇:経験定数(=0.09)[-], 𝜅𝜅:カルマン定数(=0.4)[-],𝛼𝛼𝑐𝑐:地 表 面 / 壁 面 の 対 流 熱 伝 達 率 [W/m2K](地表面:Hagishima文12), 壁 面 :Blocken文13)の 式 を 使 用), 𝜃𝜃 : 地 表 面 / 壁 面 温 度 [℃], 𝜃𝜃 𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟: 流 入 風 温 度(非定常 熱収支解 析におけ る 13 時の気温)[℃], 𝛼𝛼 : 地 表 面 / 壁 面 の 湿 気 熱 伝 達 率( × − 𝛼𝛼𝑐𝑐)[kg/m2skPa],𝑓𝑓:地 表 面 / 壁 面 の 水 蒸 気 圧(𝜃𝜃 の 関 数 )[kPa], 𝑓𝑓 𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟:流 入 風 の 水 蒸 気 圧(𝜃𝜃𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟の 関 数 )[kPa], 𝐿𝐿:水の蒸発潜 熱( × )[J/kg], 𝛽𝛽 : 蒸 発 効 率[-] 注12)代謝量は3.2 [km/h]の歩行を想定して 2.0 [met]、着衣量は半袖シャツ+スラックス着用を想定して 0.47 [clo]とした文14)。入力条件の気温、相対湿度、MRT には 2 次領域 における解析結果を用いた。また入力条件の平均風速には、定常 SET*算出時は 𝑟 文4)(式(3))を、非定常 SET*算出時は歩行速度を考慮した相対気流速度 𝑟 (式(4))を用いた。 𝑟 √ (3), 𝑟 √ ( ′ − ) (4) ただし, :歩行進行成分, :歩行直交 成分, :鉛直成分, :瞬 間 風 速 の3 成 分 [m/s], : の変 動 成 分 [m/s], : 成分の歩行速度 [m/s], < >:時 間平均 注13)許容値は安藤ら文17)の研究を参考に35℃とした。 参考文献 1) 赤川他:日本建築学会環境系論文集,623,pp.85-91,2008.1 2) 渡邊他:日生気誌,54(2),pp.75-86,2017 3) 吉田他:日本建築学会計画系論文集,536,pp.87-94,2000.10
4) H. Kikumoto et al:Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics 173, pp.91-99, 2018.2 5) 大貫他:日生気誌,16(1),pp.36-41,1979
6) 加賀谷淳子:体育学研究,46,pp.429-442,2001
7) J.D. Hardy et al:Journal of Nutrition, 15,pp.461-475,1938 8) 大場他:日本建築学会大会学術講演梗概集,2020.9
9) 河西他:第 25 回風工学シンポジウム論文集,第 25 巻,pp.223-228,2018.12 10) Arai et al.:ICHES2016 NAGOYA,2016
11) 岩田他:第 18 回風工学シンポジウム論文集, 2004
12) Hagishima et al.:Building and Environment, 38,pp.873-881,2003 13) Blocken et al.:Building and Environment, 119,pp.153-168,2017 14) ASHRAE:2013 ASHRAE Fundamentals Handbook,CHAPTER9,2013 15) 吉田伸治:日本風工学会誌, 第 45 巻, 第 3 号, 2020.7
16) 弓野他:日本流体力学会年会,2016.9
17) 安藤他:日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.897-898,2013.7