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期日前投票制度と投票率

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はじめに

2003年の公職選挙法の改正に伴い期日前投 票制度が創設され,選挙期日前の投票手続きが 大幅に簡素化された。選挙日に投票するのが難 しい場合,有権者は選挙人名簿登録地の自治体 が設置する期日前投票所において選挙日と同じ 手続きで票を投じることができるようになった。 図1の破線が示すように,衆院選の場合,期日 前投票所が初めて設置された2005年から2014 年にかけて10万人あたり期日前投票所数は増 加してきた。また,図2の破線は各衆院選にお ける期日前投票制度の利用率(=期日前投票所 利用者数/全投票者数)を示しており,選挙期 日前に投票する有権者も着実に増えていること がわかる。2014年の衆院選では利用率は24% に達したが,これは投票者約5500万人のうち 約1300万人が選挙日前に投票したことを意味 要旨:期日前投票制度の創設により投票率は変化したのだろうか。投票するタイミングや 場所の選択肢が増えたことにより普段は投票に行かない人々が参加するようになったので あれば,投票率は向上したはずである。一方,この制度を利用しているのが普段から投票 に行く人々であれば,投票率は大きく変化していないだろう。本稿は2005年から2014年 にかけての衆院選における市区町村パネルデータを用い,市区町村内の期日前投票所数の 増加により投票率が上昇したという暫定的エビデンスを提示する。この結果は,期日前投 票制度が普段は投票に行かない人々の参加を促した可能性を示唆する。さらに,選挙の投 票所数も投票率と密接に関連していることも示し,期日前投票所数と選挙日投票所数のど ちらの変化が投票率により大きな影響を及ぼすかを議論する。

松林哲也

選挙研究 33巻2号 2017年 〈投稿論文〉

期日前投票制度と投票率

6 5 4 3 投 票 所 数 2000 2005 2010 2015 選挙日投票所数(1万人あたり) 期日前投票所数(10万人あたり) 図1 衆院選における期日前投票所数と選挙日投票所数 備考:衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果調 (各回)に基づく。 割 合 80 60 40 20 0 2000 2005 2010 2015 投票率 期日前投票利用率 図2 衆院選における投票率と期日前投票利用率 備考:衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果調 (各回)に基づく。

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する。 期日前投票制度の創設の背後には,有権者が 投票しやすい環境を整備し投票率の向上を目指 そうとする政府の思惑がある。図2の実線が示 すように,2000年以降の衆院選では投票率が 60%を切ることが珍しくない。このような状況 を受けて,総務省は投票環境を改善するための 方策を探ってきた。総務省主催の「投票環境 の向上方策等に関する研究会」の報告書(2016, 14)は期日前投票制度の有効性について議論し ており,地域の実情に即した期日前投票制度の 活用が利用率の上昇につながったのではないか と述べている。さらに,「有権者の中には,政 治や選挙に関心があっても便利な場所に投票 所が設置されていないために結局投票に行か なかったという者も存在すると考えられるので, 柔軟性や機動性のある期日前投票を更に効果的 に活用することができれば,そのような有権者 に有効な投票機会を提供できる可能性がある」 と述べている。ここから,期日前投票制度の充 実が特に普段は投票しない・できない人々の投 票参加を促し,結果的に投票率を向上させるこ とにつながるのではという期待が見て取れる。 期日前投票制度の充実により投票するタイミ ングや場所の選択肢が広がる一方で,選挙日の 投票の利便性は低下している。図1の実線は選 挙日の1万人あたり投票所数を示すが,その 数が低下傾向にあることは明白である。さら に,最近の衆院選では選挙日の投票終了時刻 を18時や19時に繰上げる投票所が2∼3割に も上り,投票できる時間が短縮されている(茨 木 2016; 松林 2016)。2005年から2012年の衆院 選における市区町村パネルデータを用いた松林 (2016)の分析によると,選挙日投票所数や投票 所開閉時間の長さは投票率と正の関係にある。 よって,日本の多くの地域で見られる選挙日投 票所数の減少や投票時間の短縮は投票の利便性 を低下させ,結果的に投票率を低下させている 可能性が高い。 日本の有権者を取り巻くこのような投票環境 の変化は2つの重要な疑問を生み出す。1つ目 は期日前投票制度を充実させれば投票率は本当 に向上するのかという疑問である。前述の報告 書の期待通り期日前投票制度の充実により投票 の機会が増えることで,普段は投票に行かない 人々の機会コストが下がるのであれば全体の投 票率は上昇するだろう。一方,もし普段から投 票に行く人々のみが制度の充実による利便性の 向上の恩恵を受けているのであれば,何割かの 有権者の投票のタイミングは変化するが投票率 は大きく変化しない。利用率の高さから考える と,期日前投票制度の創設が投票の利便性を向 上させたことには疑いがなく,投票環境の整備 という点では重要な役割を果たしているだろう。 一方で,この制度が誰に影響を与えたのかとい うことや投票率にどの程度の影響を与えたかと いうことは実証的確認が必要な課題であり,投 票率向上を目的とする制度設計のためにはその 有効性についてのエビデンスが不可欠である。 期日前投票制度の効果についての確固とした エビデンスは不足している。日本では和田・ 坂口(2006)が2001年と2004年参院選における 横浜市と川崎市の期日前投票率(2001年の場合 は不在者投票率)を比較している。彼らの分析 結果によると,期日前投票所の増設がなかっ た川崎市では2004年参院選の期日前投票率が 0.08%ポイント増加したのに対して,区役所以 外に各区1箇所の期日前投票所が増設された横 浜市では期日前投票率が0.82%ポイント増加し ている(1)。この研究は利用率を結果変数とし て用いており,期日前投票所数の増加が利用率 を高めるという重要なエビデンスを提示してい る一方で,投票率が変化するかどうかまでは明 らかにしていない。 アメリカでは1990年前後から期日前投票制 度(early in-person voting)を採用する州が増加し ており,州間や選挙間の制度のばらつきを利用 した実証研究が数多く出版されている(2)。し

かしこれらの研究は一致した見解を示していな い。多くの研究はこの制度の採用によって投

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票率が上昇したというエビデンスを示していな い(例えばFitzgerald 2005; Rocha and Matsubayashi 2014)(3)。むしろ最近の研究(Larocca and

Kleman-ski 2011; Rigby and Springer 2011; Burden et al. 2014)は,期日前投票制度の創設が投票率の低 下につながっているのではという結果を示して いる(4)。Burden et al.(2014)は,多くの有権者 が選挙日前に投票するようになったことで政党 などが選挙終盤の動員活動を重視しなくなった ことやイベントとしての選挙日の重要性が薄れ たことが普段は投票しない人々の参加確率を下 げたのではないかと論じている。その一方で, Fullmer(2015)は州ごとに期日前投票制度の運 用方法が異なることに注目して,期日前投票所 数が増えると投票率が上昇することを明らかに している。 投票環境の変化がもたらすもう1つの重要な 疑問は選挙日前と選挙日の投票利便性の相対 的な影響力である。松林(2016)の分析結果から, 選挙日の1万人あたり投票所数が1つ増える と投票率は約0.2%ポイント上昇することがわ かっている。では選挙日投票所数の減少による 負の影響は期日前投票制度を充実させることで 相殺されるのだろうか。設置コストが同程度で あると仮定した場合,選挙日前か選挙日のどち らの利便性を高めることが投票率向上のために より効率的な方策なのだろうか。投票所設置に 必要な費用や労力の負担を考慮すると,期日前 投票制度と選挙日の投票環境の両方を充実させ ることは難しいかもしれない。よって,なにを 優先すべきかを決めるためには,それらの相対 的効果を理解することが重要になる。 本稿はこれら2つの疑問に答えるために市区 町村パネルデータを用いた実証分析を行う。実 証分析には2005年以降の衆院選における各市 区町村の期日前投票制度の充実度と投票率を用 いる。公職選挙法は,各市区町村の選挙管理委 員会が選挙の公示日またはその翌日から選挙期 日の前日までの間に期日前投票所を最低1ヶ所 設置することを義務付けている。この1ヶ所に 加え,選挙管理委員会は追加の期日前投票所を 設置することができ,これら追加の投票所につ いては設置期間や投票時間を自由に設定できる。 よって自治体ごとや選挙ごとに期日前投票所 の数やその開設日数には差が出やすくなる。な お,設置場所としては市役所や町村役場が多い が,それ以外に選挙管理委員会が指定した場所 にも設置が可能である。本稿では市区町村内の 期日前投票所の数やその設置日数が多いほど特 に普段投票に行かない人々にとって投票の利便 性が高まると仮定し,期日前投票所数が増える と投票率が上昇するという仮説を検証する。な お,この仮説は期日前投票制度が充実しても普 段から投票に行く人々の投票参加確率は変化し ないという前提に基づいている(5) 実証分析の対象は2005年から2014年の4回 の衆院選における市町村と東京23特別区であ る。各都道府県の選挙管理委員会を通じて各衆 院選時の市区町村内の期日前投票所数やその設 置日数,そして選挙日投票所数やその開閉時間 のデータを入手し,それを市区町村の投票率や 社会経済変数のデータと結合した。市区町村内 の投票環境に関するデータの整理状況が都道府 県の選挙管理委員会ごとに異なるため,全ての 市区町村や4回全ての衆院選を含めたパネル データを構築することは難しい。そこで分析対 象となる市区町村や衆院選が異なる複数のパネ ルデータを構築し,それぞれを別個に使って市 区町村固定効果や選挙年固定効果を含めた回帰 分析を行った。13都府県内の442市区町村につ いては,2005年から2014年の全4回の衆院選 のパネルデータを構築することができた。なお 2種類の固定効果を用いることで,時勢効果や 市区町村の社会経済的属性の影響を排除した上 で市区町村内の期日前投票制度の充実度の変化 が投票率に与える影響を推定している。 主要な分析結果は,市区町村内の期日前投票 所数の増加により投票率が上昇した可能性があ ることを示している。有権者1万人あたり期日 前投票所数が1つ増えると,投票率は約0.5%

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ポイント上昇する。少なくとも7日間は開設さ れた期日前投票所数のみを考慮すると,その 効果はさらに大きく投票率は1%ポイント前後 上昇する。また市区町村内の10km2あたり期日 前投票所数が1つ増えると,投票率は1.6%ポ イント上昇する。ただしこれらの推定効果やそ の統計的有意度は対象とする市区町村や選挙年 により変化するため,結果の頑健性はそれほど 高くない。一方で,選挙日投票所数の効果も正 に推定されており,その推定値はサンプルを問 わず安定しており統計的に常に有意である。有 権者1万人あたり選挙日投票所数が1つ増える と,投票率は少なくとも約0.2%ポイント上昇 する。10km2あたり選挙日投票所数が1つ増え ると,投票率は少なくとも0.75%ポイント上昇 する。 1万人あたり期日前投票所数と選挙日投票所 数の効果を比較するためには,その設置コスト を考慮することが重要になる。例えば,期日前 投票所1つを7日間開設するのに必要なコスト と選挙日投票所を7ヶ所設置するコストが同程 度だと仮定しよう。この場合,7日間開設の期 日前投票所数が1つ増えると投票率は1%ポイ ント前後上昇するが,選挙日投票所を7ヶ所増 やした場合には投票率は1.5%ポイント増える 可能性がある。この解釈に基づけば,選挙日投 票所の効果のほうが大きいと言える。また,選 挙日投票所数の効果に関する推定結果はかなり 頑健であり,投票率向上のための確実な効果を 求めるのであれば選挙日投票所を1ヶ所増やす という選択肢は重要になる。 本稿の分析結果は,期日前投票制度の充実が 投票率向上のための有効な政策手段となる可能 性を示している。ただしこの結論は暫定的であ り,さらなる効果検証が必要である。また,設 置コストや介入効果を考慮すると,期日前投票 制度の充実は選挙日の投票所設置と関連付けて 検討すべき課題であると言える。なお,本稿が 示す推定結果は期日前投票制度の真の因果効果 をある程度は正確に捉えている可能性が高いが, 差の差分析法には限界もあり因果的な解釈をす ることには注意が必要である。

推定式とデータ

期日前投票制度の充実度が投票率に与える影 響を推定するために以下の回帰式を用いる。 (1) 式(1)において, は衆院選の選挙年 の市区町村 における投票率を示す。 は期日前投票所の充実度を意味する。さらに, 選挙年 の市区町村 における有権者1万人あた り選挙日投票所数を意味する と選 挙日の全投票所のうち投票時間が短縮された投 票所の割合を表す を投入する。 は選 挙年 の市区町村 の社会経済的変数を含むベク ターである。 , , ,そして は各変数の係 数を示す。また, は市区町村固定効果, は 選挙年固定効果,そして は各選挙年の市区 町村特有の誤差項を意味する。なお,2005年 9月から2014年12月までに合併をした市区町 村については,合併後の市区町村を分析の単位 としている。 式(1)の2つの固定効果項は重要な役割を果 たす。市区町村固定効果 は各市区町村の特 徴のうち,時間とともに大きく変動しない要因 の影響を吸収する。面積や山間部の割合といっ た地理的特徴,地域特有の政治文化や歴史,イ デオロギーなどが含まれる。市区町村固定効果 を式に含めることにより,各市区町村内の時 系列変動を用いて推定を行うことになる。選挙 年固定効果 は各選挙年における時勢効果を吸 収する。選挙ごとの政治状況や重要争点の影響, また国全体の経済状況などの影響を含む。選挙 年固定効果を含めることにより,国全体での政 治経済状況の変化を考慮した上で期日前投票制 度の影響を推定することが可能になる。 結果変数である は2005,2009,2012, 2014年の衆院選における投票率を指す。この

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期間中に合併をしていない自治体や合併後の自 治体の場合,衆院選ごとに投票者数を当日有 権者数で割り投票率を求めた(6)。合併をした 自治体の場合,合併前の投票率は合併前の各 自治体の投票者数を足し合わせそれを合併前 の各自治体の総有権者数で割ることで求めた。 投票率は0から100のパーセンテージの値をと る。市区町村・衆院選ごとの投票者数と当日 有権者数は水崎・森のJEDS-Mデータ(各年)よ り入手した。 主要な説明変数である は3つの方法 で市区町村内の期日前投票制度の充実度を測定 している。1つ目は1万人あたり期日前投票 所数である。市区町村内の期日前投票所数を当 日有権者数で割ることにより求めた。解釈のた め,単位を有権者1万人あたりに変換した。2 つ目は10km2あたり期日前投票所数である。市 区町村内の期日前投票所数を総面積で割ってか ら10をかけることにより求めた(7)。3つ目の 方法は期日前投票所の開設日数を考慮している。 市区町村が複数の期日前投票所を設置する場 合,その開設日数はその市区町村が自由に決め ることができる。そのため,極端な場合,1日 のみしか投票をうけつけない期日前投票所が設 置されることもある(8)。利便性を考慮した場 合,期日前投票所ができるだけ長く設置されて いたほうが有権者の機会コストが下がると考え られるので,ここでは開設日数が7日間以上の 期日前投票所数と6日間以内の期日前投票所数 を数えてそれぞれを回帰式に投入する(9)。こ れらの変数も有権者1万人あたりに変換されて いる。千葉県と鳥取県からは期日前投票所の開 設日数の情報を得られなかったため,開設日数 別の期日前投票所数を使う分析ではこれらの県 の市町村を除外する。 式(1)内の の測定には1万人あ たり選挙日投票所数,あるいは10km2あたり選 挙日投票所数を使う。 の作成には,公 職選挙法40条が定める7時から20時という投 票時間よりも短い投票時間を設定している投票 所の数を用いた。市区町村内で投票時間が短縮 された投票所数を集計し,それを全投票所数で 除し割合を求めた。以下ではこの変数を短縮投 票所割合と呼ぶ。 市区町村の投票所関連のデータは各都道府県 の選挙管理委員会から入手した。全47都道府 県の選管に対し2005年以降の4回の衆院選に 関するデータ提供の依頼を行い,そのうち44 都道府県の選管からデータの提供を受けた。た だし,選管によってデータの保管状況が異な り,4回全ての衆院選の期日前投票所数や選挙 日投票所数の情報を入手できたのは13都府県 の442市区町村である。これらの市区町村を対 象として,観察数が1768(=4回の選挙×442 市区町村)のパネルデータ(サンプル1)を構築 した。また,25都府県の837市区町村について は2009年から2014年の3回の衆院選の投票所 情報を,31都府県内の998市区町村については 2012年と2014年の2回の衆院選の投票所情報 を入手できた。これらの市区町村を使ったパネ ルデータの観察数はそれぞれ2511(サンプル 2)と1966(サンプル3)である。回帰分析では, これら3つのパネルデータを別々に用いた推定 を行う。なおそれぞれのパネルデータでは分析 対象の都府県内の全市区町村の情報が含まれる (10) 表1は分析対象期間における期日前投票所 の推移をまとめている。最上部のパネルでは 全47都道府県の期日前投票所数を示し,下部 のパネルでは各パネルデータに含まれる市区町 村内の期日前投票所数をまとめている。期日前 投票所数は増加傾向にあるが,公示日の翌日か ら7日間以上開設された期日前投票所数は大き く変化していない。衆院選では一部の例外を除 いて期日前投票所は最長で11日間開設されて きたが,その数は減少傾向にあることもわかる。 なお表1では各パネルデータに含まれる都府県 のリストもまとめている。 図3は13都府県の442市区町村のパネルデー タを使い,2005年衆院選と2014年の衆院選に

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おける期日前投票所数の増減を示している。正 の値は2005年に比較して2014年の衆院選では 期日前投票所数が増加したことを,負の値は減 少したことを意味する。約15%の自治体では 期日前投票所が増加しており,また約5%の自 治体では減少していることがわかる。以下の分 析では市区町村内のこの変動を用いた推定を 行っていく。 式(1)の は各選挙年における市区町村の社 会経済的属性を表し,合併の有無,財政力指 数,一人あたり課税所得,人口規模,65歳以 上人口の割合を含む。市町村合併は投票所数や 投票時間と相関していることがこれまでに示さ れており(茨木 2016; 茨木・河村 2016a, 2016b), また投票率にも影響を及ぼす可能性がある(矢 野・松林・西澤 2005; 堀内 2009)。合併の有無 は0か1の値を取り,合併後には1の値をとる。 合併前や分析対象期間中に合併を経験していな い市区町村は0を取る。編入合併と新設合併の 影響の違いを考慮するため,それぞれの合併形 式のダミー変数を作った。合併情報は総務省の 市区町村合併資料集(2015)に基づく。財政力指 数は基準財政収入額を基準財政需要額で割るこ とで得られる値の過去3年間の平均値で,値が 大きいほど市区町村財源に余裕があることを意 味する。一人あたり課税所得は課税対象所得 の総額を納税義務者数で割った値であり,自然 対数に変換されている。財政力指数,課税対象 所得額,納税義務者数は内閣府が作成する「市 区町村別人口・経済関係データ」より入手した。 2005 2009 2012 2014 47都道府県の期日前投票所数 4451 4572 4755 4861 サンプル1: 4つの選挙,13都府県内の442市町村パネルデータ  全ての期日前投票所数 1295 1336 1389 1409  7日間以上開設の期日前投票所数 1080 1041 1053 1055  11日間開設の期日前投票所数 893 784 722 690 サンプル2: 3つの選挙,25都府県内の837市町村パネルデータ  全ての期日前投票所数 2398 2503 2541  7日間以上開設の期日前投票所数 1997 2004 1990  11日間開設の期日前投票所数 1604 1518 1468 サンプル3: 2つの選挙,31都府県内の998市町村パネルデータ  全ての期日前投票所数 2988 3029  7日間以上開設の期日前投票所数 2347 2335  11日間開設の期日前投票所数 1805 1758 サンプル1に含まれる都府県:山形県,千葉県,東京都,神奈川県,富山県,愛知県,三重県,滋 賀県,島根県,岡山県,高知県,大分県,鹿児島県 サンプル2に含まれる都府県:サンプル1+岩手県,宮城県,茨城県,栃木県,新潟県,福井県, 山梨県,岐阜県,大阪府,兵庫県,香川県,沖縄県 サンプル3に含まれる都府県:サンプル2+青森県,群馬県,京都府,鳥取県,愛媛県,長崎県 表1 分析対象期間の期日前投票所数の推移 400 300 200 100 0 −5 0 5 10 15 2014年の期日前投票所数∼ 2005年の期日前投票所数 図3 市町村内の期日前投票所数の変化 備考:13都府県内の442市町村パネルデータに基づく。

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人口規模は市区町村の総人口に基づき,自然対 数に変換した。65歳以上人口割合は,市区町 村の総人口に占める65歳以上人口の割合を意 味する。人口のデータは総務省統計局の住民基 本台帳人口移動報告(各年版)より入手した。表 2は各変数の記述統計を示している。

推定結果

はじめに各市区町村内の1万人あたり期日前 投票所数を説明変数として使った推定結果を見 ていこう。表3にその結果をまとめている。結 果変数は衆院選における各市区町村の投票率 である。期日前投票所数に加えて,1万人あた り選挙日投票所数,短縮投票所割合,そしてそ の他の社会経済変数も回帰式に含まれる。回帰 式には,市区町村固定効果が含まれているので, 各市区町村内の変数の時系列的変動を推定に用 いていることになる。また選挙年固定効果を含 めることにより,国全体でのトレンドの影響を 排除している。表のカッコ内の数値は標準誤差 を意味し,不均一分散と系列相関の影響を考慮 するために市区町村を単位としてクラスター処 理されている。 表3の各列では4つの異なるパネルデータに 基づく推定結果を示している。列(1)では2005 年から2014年の4回の衆院選における13都府 県内442市区町村のパネルデータを用いている。 一方,列(2)は2009年から2014年の3回の衆院 選における837の市区町村,列(3)は2012年と 2014年の衆院選における998の市区町村,そし て列(4)は2005年から2012年の3回の衆院選に おける955の市区町村のパネルデータを用いて いる。列(4)は松林(2016)の推定結果との比較 を目的としている。 各パネルデータを用いた推定結果を比較する と,1万人あたり期日前投票所数の推定係数は 分析対象となる市区町村や衆院選によって大き く変化することがわかる。表3の列(1)による と期日前投票所数の係数は0.081で正と推定さ れているが,標準誤差も同程度のサイズであり サンプル1: サンプル2: サンプル3: 2005年∼ 2014年衆院選データ 2009年∼ 2014年衆院選データ 2012年と2014年衆院選データ 平均 標準偏差 最小値 最大値 平均 標準偏差 最小値 最大値 平均 標準偏差 最小値 最大値 投票率 65.984 9.060 42.633 93.528 63.773 9.237 42.633 96.284 59.461 7.766 37.805 93.617 期日前投票所数 2.001 6.564 0.049 127.389 1.794 5.026 0.034 71.429 1.800 4.702 0.045 69.930 (1万人あたり) 期日前投票所数 0.486 0.906 0.008 6.863 0.382 0.727 0.005 6.863 0.350 0.685 0.005 6.863 (10km2あたり) 7日間以上開設の期日前 1.931 6.099 0.029 71.429 1.662 4.890 0.029 71.429 1.652 4.423 0.029 69.930 投票所数(1万人あたり) 6日間以下開設の期日前 0.319 2.243 0.000 63.694 0.262 1.381 0.000 19.557 0.272 1.359 0.000 19.557 投票所数(1万人あたり) 選挙日投票所数 11.879 16.288 1.019 151.515 10.866 13.935 0.714 151.515 11.452 14.038 0.714 151.515 (1万人あたり) 選挙日投票所数 4.034 5.658 0.047 31.514 3.449 5.132 0.033 31.514 3.134 4.837 0.033 31.514 (10km2あたり) 短縮投票所割合 33.103 45.108 0.000 100.000 31.221 43.761 0.000 100.000 33.367 44.140 0.000 100.000 合併:編入ダミー 0.053 0.224 0.000 1.000 0.076 0.265 0.000 1.000 0.082 0.275 0.000 1.000 合併:親切ダミー 0.235 0.424 0.000 1.000 0.267 0.442 0.000 1.000 0.288 0.453 0.000 1.000 財政力指数 0.602 0.357 0.050 2.770 0.588 0.314 0.050 2.770 0.543 0.289 0.050 2.130 一人あたり課税所得 (ログ) 8.007 0.206 7.632 9.447 7.960 0.179 7.599 9.447 7.930 0.173 7.599 9.447 人口規模(ログ) 10.485 1.544 5.056 15.128 10.446 1.464 5.056 15.128 10.373 1.456 5.136 15.128 65歳以上人口割合 26.646 7.376 9.032 53.843 26.732 6.592 11.264 53.843 27.742 6.599 11.696 57.751 観察数 1768 2511 1966 脚注:7日間以上開設及び6日間以下開設の期日前投票所数についての記述統計は千葉県と鳥取県を除いた数値と示している。 表2 記述統計

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係数は統計的に有意な水準にはない。列(2)で は期日前投票所数は正で有意な係数となってお り,1万人あたり期日前投票所数が1つ増える と投票率は0.5%ポイント上昇することを示し ている。ところが列(3)では期日前投票所数の 係数は列(1)よりも大きいが,統計的に有意で はない。列(1)から(3)の結果は期日前投票所数 が投票率と正の関係にある可能性を示唆するが, 関係の強さや統計的有意度はサンプルにより大 きく変動するため頑健な関係を見出すことはで きない。 対照的に,選挙日投票所数の推定結果は安定 している。表3の列(1)では係数は0.230となっ ており1%水準で有意である。1万人あたり選 挙日投票所数が1つ増えると投票率が0.230% ポイント上昇することを意味する。この係数は 2005年から2012年の1152市区町村を対象とし た松林(2016)の推定係数(=0.167)よりもやや 大きい。列(2)から(3)でも係数のサイズや有意 度は大きく変化しない。列(4)では松林(2016) が分析の対象としている2005年から2012年 の衆院選のパネルデータを使っている。松林 (2016)の分析では34都府県1152市区町村を分 析対象としているが,ここでの分析では期日前 投票所数を考慮しているためデータに含まれる のは30都府県955市区町村である。松林(2016) の分析では期日前投票所数の影響が考慮されて いなかったが,もしその影響を統制しても選挙 日投票所数の係数は大きく変動しないことが列 (4)の結果からわかる。 短縮投票所割合については,期日前投票所数 と同様に推定結果が安定していない。2005年 を含むパネルデータを使った列(1)や列(4)の結 果を見ると,係数は負で10%水準では有意で ある。短縮投票所割合が1%増えると投票率 が0.01%ポイント低下することを意味しており, その係数は松林(2016)の推定係数よりも若干大 きい。しかし2009年以降のデータを使った列 (2)や(3)の結果を見ると,係数は有意ではなく なっている。 次に,10km2あたり投票所数を使った推定結 果である表4を見てみよう。列(1)では2005年 から2014年の4回の衆院選の市区町村パネル データ,列(2)は2009年から2014年の3回の衆 院選の市区町村パネルデータ,列(3)は2012年 と2014年の衆院選の市区町村パネルデータを (1) (2) (3) (4) 期日前投票所数(1万人あたり) 0.081 (0.080) 0.518 ***(0.177) 0.311 (0.344) 0.038 (0.066) 選挙日投票所数(1万人あたり) 0.230 ***(0.044) 0.326 ***(0.095) 0.244 ** (0.112) 0.183 ***(0.042) 短縮投票所割合 −0.012 * (0.007) −0.001 (0.007) 0.011 (0.009) −0.012 * (0.006) 合併:編入ダミー 0.729 (0.484) 1.365 (0.840) −0.365 (0.741) 合併:新設ダミー −1.809 ***(0.564) −3.041 ** (1.467) −1.573 ***(0.472) 財政力指数 −2.577 * (1.406) 0.605 (1.605) 1.366 (5.603) 0.411 (1.414) 1人あたり課税所得(ログ) 2.043 (3.698) −7.401 (6.036) 6.613 (5.680) −6.281 (6.117) 人口規模(ログ) −0.291 (2.349) −1.540 (4.153) −30.544 ***(6.511) 6.537 ** (3.001) 65歳以上人口割合 −0.206 (0.125) −0.490 ***(0.172) −0.771 ***(0.274) −0.151 (0.127) 調整済みR2 0.926 0.915 0.918 0.912 データ サンプル1 サンプル2 サンプル3 松林(2016)との比較 市町村数 442 837 998 955 都道府県数 13 25 31 30 選挙年 2005 2009 2012 2005 2009 2012 2014 2009 2012 2014 2012 2014 観察数 1768 2511 1966 2285 表3 1 万人あたり期日前投票所数と投票率 備考:表中の数字は回帰分析の推定値を示す。結果変数は衆院選での各市町村の投票率である。標準誤差は市町村でクラスターされており,す べてのモデルに市町村固定効果と選挙年固定効果が含まれている。***は1%水準,**は5%水準,*は10%水準で有意。

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使っている。列(1)と列(2)によると,10km2 たり期日前投票所数の係数は正であり1%水準 で有意となっている。同様に10km2あたり選挙 日投票所数の係数も正であり1%水準で有意と 推定されている。列(1)に注目すると,10km2 あたり期日前投票所数が1つ増えると投票率は 約1.63%ポイント上昇し,10km2あたり選挙日 投票所数が1つ増えると投票率は0.75%ポイン ト上昇する。これらの係数を比較すると,期日 前投票所数の係数は選挙日投票所数の係数の 2倍ほど大きい。ところが,2012年と2014年 の衆院選データを使った列(3)の結果によると, 10km2あたり期日前投票所数の係数は有意では ないが,10km2あたり選挙日投票所数は正で有 意である。表3の結果と同様に,期日前投票所 数の影響は分析対象となる市区町村や衆院選ご とに異なるが,選挙日投票所数の影響はサンプ ルにかかわらず安定している。 表5は期日前投票所の開設日数を考慮した分 析の結果をまとめている。前述のように追加で 期日前投票所を設置する場合,それらの期日前 投票所の開設日数は自由に設定できる。開設日 数が長いと利便性がより高まることを想定し, ここでは各市区町村で7日間以上開設された期 日前投票所数を用いる。表3の分析と同じく 1万人あたり期日前投票所数と選挙日投票所数 を回帰式に投入する。表5の推定結果を見ると, 2009年から2014年の3回の衆院選のデータを 使った列(2)と2012年と2014年の2回の衆院選 のデータを使った列(3)で7日間以上開設され た期日前投票所数の係数が正で有意となってい る。選挙日投票所数については用いるサンプル に関わらず正で有意な係数を示している。 ここまでの結果の頑健性を確認するために, 追加の分析を複数行った。1つ目の分析では各 市町村の人口規模が大きく異なることを考慮し て2009年時点の市町村人口で重み付けをした 推定,2つめの分析では期日前投票所数や選挙 日投票所数が内生的に決まること,とくに前回 選挙の投票率が投票所数に影響を及ぼす可能性 を考慮して前回衆院選での投票率を投入した推 定を行った。3つめの分析では投票所数,1万 人あたり投票所数,そして10km2あたりを自然 対数に変換して推定を行った。いずれの分析で (1) (2) (3) 期日前投票所数(10km2あたり) 1.633 ***(0.557) 3.376 ***(0.937) −0.644 (1.403) 選挙日投票所数(10km2あたり) 0.731 ** (0.368) 1.898 ***(0.606) 1.442 ** (0.580) 短縮投票所割合 −0.012 * (0.007) −0.002 (0.007) 0.010 (0.010) 合併:編入ダミー 0.985 * (0.504) 1.694 ** (0.855) 合併:新設ダミー −1.799 ***(0.561) −2.871 * (1.483) 財政力指数 −2.711 ** (1.375) 0.311 (1.672) 0.753 (5.606) 1人あたり課税所得(ログ) 0.342 (3.750) −8.655 (6.296) 6.248 (5.639) 人口規模(ログ) −2.698 (2.510) −7.499 * (4.424) −32.485 ***(6.551) 65歳以上人口割合 −0.207 (0.131) −0.563 ***(0.170) −0.769 ***(0.273) 調整済みR2 0.924 0.914 0.925 データ サンプル1 サンプル2 サンプル3 市町村数 442 837 998 都道府県数 13 25 31 選挙年 2005 2009 2012 2009 2012 2014 2012 2014 2014 観察数 1768 2511 1966 表4 10km2 あたり期日前投票所数と投票率 備考:表中の数字は回帰分析の推定値を示す。結果変数は衆院選での各市町村の投票率である。標準誤差は市町村で クラスターされており,すべてのモデルに市町村固定効果と選挙年固定効果が含まれている。***は1%水準,**は5% 水準,*は10%水準で有意。

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も表3から表5と実質的に同じ結果が得られて いる。これらの追加の分析結果は付録の表にま とめる。

考察

ここまでの結果から,期日前投票所数の増加 により投票率が上昇する可能性があること,そ して期日前投票所数の影響を統制しても選挙日 投票所数と投票率の間には強い正の関係がある ことの2点が明らかになった。ただし,分析の 対象とする市区町村や衆院選により,期日前投 票所の推定係数が大きく変動することには注意 しなければならない。 期日前投票所の推定係数がサンプルごとに大 きく変動する主要な理由は二つ考えられる。1 つは短期間では期日前投票数が大きく変動しな いため,2つの選挙を対象としたサンプル3で はその影響を捉えるのが難しいという可能性で ある。その意味でより多くの選挙を対象とした サンプル1やサンプル2は期日前投票所数の効 果をより正確に推定する可能性を高めてくれる。 もう1つは,期日前投票所の効果が地域ごとに 異なるので,異なる都府県を対象としたサンプ ルが違った推定値を生み出すという可能性であ る。サンプル3はより多くの市町村を対象とし ており,そのデータを使った分析は期日前投票 所の平均的な効果を測定しているかもしれない。 一方でサンプル1は13都府県のみを対象とし ており,この地域のみに見られる推定値を示し ていることも考えられる。いずれにせよ,より 多くの選挙と地域を対象としたさらなる効果検 証が不可欠である。 冒頭で,「期日前投票制度の創設が普段は投 票に行かない人々に影響を与えたのであれば投 票率は上昇する」という可能性と「期日前投票 制度の創設が普段から投票に行く人々に影響を 与えたのであれば投票率は変化しない」という 可能性の2つに言及した。分析結果は期日前投 票所数と投票率には正の関係があることを示し ており,ここから期日前投票制度が普段は投票 に行かない人々の参加を促した可能性が高いと いう解釈を導ける。期日前投票制度は「投票に 行かない人たちの参加を促す」という期待通り の効果を発揮していると言えるが,誰に影響を (1) (2) (3) 7日間以上開設の期日前投票所数(1万人あたり) 0.299 (0.310) 1.371 ***(0.437) 0.796 ** (0.361) 6日間以下開設の期日前投票所数(1万人あたり) 0.095 (0.070) 0.274 ***(0.094) 0.055 (0.137) 選挙日投票所数(1万人あたり) 0.231 ***(0.043) 0.282 ***(0.085) 0.402 ***(0.131) 短縮投票所割合 −0.008 (0.007) 0.000 (0.007) 0.011 (0.009) 合併:編入ダミー 1.341 ***(0.513) 2.600 ***(0.263) 合併:新設ダミー −2.203 ***(0.590) −2.676 * (1.464) 財政力指数 −2.820 * (1.486) 0.409 (1.665) 0.841 (5.713) 1人あたり課税所得(ログ) 0.196 (3.409) −9.776 * (5.499) 3.665 (3.751) 人口規模(ログ) 0.896 (2.478) −0.799 (4.100) −26.449 ***(6.607) 65歳以上人口割合 −0.315 ** (0.137) −0.609 ***(0.175) −0.677 ** (0.291) 調整済みR2 0.925 0.917 0.918 データ サンプル1 サンプル2 サンプル3 市町村数 382 783 925 都道府県数 11 23 29 選挙年 2005 2009 2012 2009 2012 2014 2012 2014 2014 2349 観察数 1552 2511 1850 表5 7日間以上開設の期日前投票所数と投票率 備考:表中の数字は回帰分析の推定値を示す。結果変数は衆院選での各市町村の投票率である。標準誤差は市町村でクラスターされてお り,すべてのモデルに市町村固定効果と選挙年固定効果が含まれている。***は1%水準,**は5%水準,*は10%水準で有意。

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及ぼしたのかをより厳密に明らかにするには個 人レベルデータの分析が不可欠である。 期日前投票所数と選挙日投票所数の充実はそ れぞれ独立して投票率に影響を及ぼすようであ るが,では選挙日前か選挙日かどちらの投票所 数の増加のほうが投票率に大きな影響を与える のだろうか。表3から表5の期日前投票所数と 選挙日投票所数の係数(ここでは有意な係数の み)を比較すると,多くの推定結果で前者の係 数は後者の係数より1.5倍以上大きい。もし期 日前投票所数を1つ増やすコストと選挙日投票 所数を1つ増やすコストが同程度であれば,期 日前投票所設置のほうがより効果の大きい方法 だといえる。表5の結果に基づくと,開設日数 の長い期日前投票所設置の効果は特に大きいの で,設置数だけではなくその日数も重要だと推 測できる。 もちろん期日前投票所と選挙日投票所の設置 コストが同程度であるという仮定はかなり乱暴 である。例えば,1つの期日前投票所を7日間 開設するのに必要なコストは,選挙日投票所を 7ヶ所設置するコストと同等かもしれない。表 5の列(2)や(3)の推定結果によると,7日間以 上開設の期日前投票所数が1つ増えると投票率 は1%ポイント前後上昇する。一方で,表5の 結果に基づくと,選挙日投票所を7ヶ所増やし た場合には投票率は1.5から3%ポイント増え る可能性がある。この場合,選挙日投票所の効 果のほうが大きい。 さらに,選挙日投票所数の推定効果は頑健で あり信頼度が高い。どのパネルデータを使って も選挙日投票所数の効果は安定的に推定されて おり,選挙日の1万人あたり投票所数が1つ変 化すると投票率は少なくとも0.2%ポイントほ ど増減するという結果が出ている。冒頭でも示 したように近年の衆院選では統廃合などを通じ て投票所の総数が減っている。その原因として 有権者数の減少,財政環境の悪化,市町村合併, 期日前投票制度の創設などの影響が指摘されて いるが(茨木・河村 2016a, 2016b),本稿のデー タを使った追加的分析ではこれらの要因が選挙 日投票所数に影響を与えていることを確認でき なかった(11)。背後にあるメカニズムは明らか ではないが,投票所数が減っていることは事実 であり,それが投票率の低下につながっている 可能性がある。よって,選挙日投票所数を増や さないまでも減らすことを止めれば,投票率低 下の一部を食い止める事ができるかもしれない。 選挙日投票所数を維持したままで期日前投票所 数を増やせば,投票率への影響はさらに大きく なるだろう。 本稿の分析にはいくつかの限界がある。1つ は対象とする選挙の範囲が限られていることで ある。松林(2016)の分析では短縮投票所割合が 増えると投票率が下がるという結果が得られて いたが,2014年のデータを加えた本稿の分析 ではその関係は見られなかった。よって分析か ら得られる知見を一般化するためにはより大規 模なデータ収集が必要であることは明らかであ る。期日前投票所の効果を正確に理解するため には,今後の衆院選のデータを集め,推定効果 がどのように変化するかを確認する必要がある だろう。また参院選や地方選では結果が異なる 可能性があることにも留意が必要である。例え ば参院選の場合は選挙日が前もってわかってい るため,期日前投票所を設置するための場所を 確保しやすいだろう。結果的に期日前投票所数 の変動が大きくなり,推定結果に影響を及ぼす 可能性がある。 次に,本稿の分析では期日前投票所の設置場 所や開設時間が考慮されておらず,有権者に とって利便性の高い場所に設置された期日前投 票所や開設時間の長い期日前投票所は投票率に より大きな効果を与えるという可能性を検証で きていない。最近の選挙では多くの有権者が利 用する商業施設や駅などに期日前投票所が設置 される事例もあり,それらの期日前投票所はよ り効果が大きいかもしれない(12)。また,巡回 型期日前投票所や移動期日前投票所の設置,投 票所への移動支援なども行われている(総務省

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2017)。期日前投票所の開設時間を延長する市 区町村もあることから,これらの新しい取り組 みの効果を調べることも重要である。 また,本稿で用いている差の差分析には因果 効果を測定する上で限界があり,推定結果が期 日前投票制度の真の因果効果を捉えているかは わからない。期日前投票所数は内生的に決定さ れるので,例えば過去数回の選挙での投票率が 次の選挙での期日前投票所数に影響を及ぼして いる可能性もある。従って,推定値の因果的解 釈には注意が必要であることを強調しておく。 最後に,期日前投票所と選挙日投票所の設置 コストについての情報が分析結果の解釈に反映 されていない。「設置コストが同程度であれば」 といった仮定を置いたが,当然のことながらこ の仮定は現実的ではない。設置や運営コストは 期日前投票所と選挙日投票所で異なるはずであ り,また地域的要因も大きい。よって,設置コ ストの情報を収集した上で,どちらの投票所の 設置がより効率的かを考えることが大切になる。 このように本稿の分析には様々な限界もある が,暫定的とはいえ明らかになったことは多 い。期日前投票所数や選挙日投票所数は投票率 に影響を与える可能性が高いという知見は今後 の制度設計に役立つはずである。冒頭でも述べ たように投票率の向上を目指して,総務省はど の対策が効果的かを模索している。どのような 対策を選ぶにしても,その導入には費用や労力 といった負担が必要になる。よって負担に見合 うだけの効果を得られるかを事前に把握するた めには,さらなるエビデンスの蓄積が重要にな るだろう。 謝辞:データ収集にご協力を頂いた各都道府 県選挙管理委員会,そして本稿へ有益なコ メントを下さった3名の査読者に感謝を申し 上げる。 付録表1 1万人あたり期日前投票所数と投票率,人口で重み付け 備考:表中の数字は回帰分析の推定値を示す。結果変数は衆院選での各市町村の投票率である。標準誤差は市町村で クラスターされており,すべてのモデルに市町村固定効果と選挙年固定効果が含まれている。***は1%水準,**は5% 水準,*は10%水準で有意。 (1) (2) (3) 期日前投票所数(1万人あたり) 0.478 ***(0.174) 0.710 ** (0.330) 0.431 (0.576) 選挙日投票所数(1万人あたり) 0.228 ***(0.082) 0.279 ** (0.116) 0.216 (0.145) 短縮投票所割合 −0.022 ** (0.009) 0.003 (0.008) 0.011 (0.010) 合併:編入ダミー 0.597 (0.580) 0.476 (1.145) 合併:新設ダミー −1.210 (0.819) −3.750 ***(1.371) 財政力指数 −2.606 (1.718) −0.651 (2.188) 0.008 (9.256) 1人あたり課税所得(ログ) 0.168 (4.864) −10.959 ** (4.990) 3.913 (5.210) 人口規模(ログ) 16.275 ***(3.544) 24.472 ***(5.484) −13.415 (13.002) 65歳以上人口割合 −0.166 (0.128) −0.153 (0.214) 0.028 (0.405) 調整済みR2 0.924 0.919 0.901 データ サンプル1 サンプル2 サンプル3 市町村数 442 837 998 都道府県数 13 25 31 選挙年 2005 2009 2012 2009 2012 2014 2012 2014 2014 2511 観察数 1768 2511 1966

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(1) (2) (3) 前回投票率 0.107 ***(0.039) 0.160 ***(0.051) −0.097 (0.064) 期日前投票所数(1万人あたり) 0.080 (0.077) 0.465 ***(0.175) 0.382 (0.363) 選挙日投票所数(1万人あたり) 0.207 ***(0.043) 0.305 ***(0.089) 0.249 ** (0.122) 短縮投票所割合 −0.011 (0.007) −0.001 (0.007) 0.011 (0.010) 合併:編入ダミー 0.693 (0.457) 1.371 ** (0.662) 合併:新設ダミー −1.729 ***(0.549) −2.836 ** (1.425) 財政力指数 −2.495 * (1.343) 0.839 (1.516) 0.055 (6.231) 1人あたり課税所得(ログ) 1.884 (3.804) −5.969 (5.857) 5.487 (4.895) 人口規模(ログ) −2.836 (2.395) −3.066 (4.052) −28.747 ***(6.457) 65歳以上人口割合 −0.262 ** (0.129) −0.439 ***(0.160) −0.838 ***(0.277) 調整済みR2 0.927 0.917 0.919 データ サンプル1 サンプル2 サンプル3 市町村数 442 837 998 都道府県数 13 25 31 選挙年 2005 2009 2012 2009 2012 2014 2012 2014 2014 2511 観察数 1768 2511 1966 付録表2 1万人あたり期日前投票所数と投票率,前回投票率を統制 備考:表中の数字は回帰分析の推定値を示す。結果変数は衆院選での各市町村の投票率である。標準誤差は市町村で クラスターされており,すべてのモデルに市町村固定効果と選挙年固定効果が含まれている。***は1%水準,**は5% 水準,*は10%水準で有意。 付録表3 自然対数変換した投票所数と投票率 備考:表中の数字は回帰分析の推定値を示す。結果変数は衆院選での各市町村の投票率である。標準誤差は市町村で クラスターされており,すべてのモデルに市町村固定効果と選挙年固定効果が含まれている。***は1%水準,**は5% 水準,*は10%水準で有意。 (1) (2) (3) 期日前投票所数(1万人あたり) 0.934 ***(0.336) 1.072 * (0.568) 0.945 (0.916) 選挙日投票所数(1万人あたり) 2.759 ***(0.814) 4.635 ***(1.119) 4.400 ** (1.978) 短縮投票所割合 −0.012 * (0.007) −0.001 (0.007) 0.011 (0.009) 合併:編入ダミー 1.238 * (0.659) 2.065 (1.423) 合併:新設ダミー −1.758 ***(0.564) −2.829 * (1.457) 財政力指数 −2.498 * (1.397) 0.325 (1.602) 1.421 (5.472) 1人あたり課税所得(ログ) 1.494 (3.692) −7.756 (6.037) 6.500 (5.674) 人口規模(ログ) 0.026 (2.398) −3.707 (4.191) −30.447 ***(6.452) 65歳以上人口割合 −0.221 * (0.130) −0.584 ***(0.166) −0.787 ***(0.272) 調整済みR2 0.928 0.914 0.917 データ サンプル1 サンプル2 サンプル3 市町村数 442 837 998 都道府県数 13 25 31 選挙年 2005 2009 2012 2009 2012 2014 2012 2014 2014 観察数 1768 2511 1966

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(1) 和田・坂口(2006)によると,川崎市で はもともと市内6箇所の区役所以外にも出 張所を利用した増設不在者投票所を持って おり,2001年の選挙での不在者投票率は横 浜市に比べて1.12%ポイント高かった。 (2)Larocca and Klemanski (2011)によると,20

10年の時点では33州で期日前投票制度が 採用されている。不在者投票や郵送投票は 含まない。選挙期日前に用意された投票所 に赴いて票を投じることができるという制 度を採用している州を数えている。また, Gronke et al. (2007)は,2004年大統領選挙で は10以上の州で期日前投票制度の利用率が 30%を超えていることを報告している。 (3) Gronke et al. (2007)やStein and Vonhahme

(2010)が先行研究の実証結果をまとめてい る。

(4) Rigby and Springerは低収入層の有権者 の投票率が下がることを示している。また, Rocha and Matsubayashiは期日前投票制度の 採用が中南米系有権者の投票率のみに負の 影響を与えることを示している。 (5) 繰り返しになるが,これらの人々の投 票のタイミングは変化すると考えられる。 (6) 小選挙区における投票者数を用いた。 (7) 総面積ではなく居住地面積でも分析を 行ったが結果は変わらなかった。 (8) 総務省主催の「投票環境の向上方策等 に関する研究会」第2回資料によると,2013 年の参院選時には4801の期日前投票所が開 設されたがそのうち約20 %の開設日数は6 日間以下だった。 (9) 期日前投票所の開設日数の分布を見た ところ,11日間に続いて頻度の大きかった 日数が7日間であった。1週間という区切 りのいい数字であることから,7日間以上 と6日間以下という分割を行った。 (10) 2014年 度 4 月 時 点 で の 市 区 町 村 数は 1741だったので,本稿で使うパネルデータ は全国の約25%から50%の市区町村を分析 対象としている。 (11) 1人あたり選挙日投票所数を結果変数 とし,続いて式(1)に含めたすべての変数を 説明変数とした固定効果モデルを推定した が,どのサンプルを使った場合でも当該変 数について統計的に有意な結果が見られな かった。 (12) 本稿で用いたデータの中にも商業施設 や駅に設置された期日前投票所があった。 そのような期日前投票所の数を使った推定 も行ったが,数が少ないためか有意な結果 は得られなかった。 参考文献

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参照