海 洋 開 発 論 文 集, 第 24 巻, 2008 年 7 月
海 岸 の 安全 利 用 か らみ た静穏 時離 岸流 の現 地調 査
―研 究者
,実 務者 と海 岸 利用 者 との連 携 の 試み ―
FIELD MEASUREMENTS OF CRITICAL RIP CURRENTS UNDER CALM SEA CONDITION-COLLABORATIVE INVESTIGATION FOR WATER SAFETY
青 木 伸 一1・ 上 野 成 三2・ 西 隆 一郎3・ 小 峯 力4・ 石 川 仁 憲5・ 堀 口 敬 洋6 Shin-ichi AOKI, Seizo UENO, Ryuichiro NISHI, Tsutomu KOMINE
Toshinori ISHIKAWA and Takahiro HORIGUCHI
1正 会 員 工博 国 立 大 学 法 人 豊 橋 技 術 科 学 大 学 教 授(〒441-8580愛 知 県 豊 橋 市 天 伯 町 雲 雀 ヶ 丘1-1) 2正 会 員 大 成 建 設(株)土 木 技 術 研 究 所(〒245-0051神 奈 川 県 横 浜 市 戸 塚 区 名 瀬 町344-1) 3正 会 員 博(工)鹿 児 島 大 学 水 産 学 部 准 教 授(〒890-0065鹿 児 島 県 鹿 児 島 市 下荒 田4丁 目50-20) 4体 修 流 通 経 済 大 学 ス ポ ー ツ 健 康 科 学 部 准 教 授(〒301-8555茨 城 県 龍 ヶ 崎 市120) 5正 会 員 工 修(財)上 木 研 究 セ ン タ ー な ぎ さ 総 合 研 究 室(〒110-0016東 京 都 台 東 区 台 東1-6-4) 6正 会 員(株)ア イ ・エ ヌ ・エ ー 海 岸 部(〒112-8668東 京 都 文 京 区 関 口1-44-10)
An investigation team comprised of coastal researchers and engineers carried out field measurements of rip currents and experienced drift by the current on Sagara Sun Beach during August 23-24, 2007 with help of lifesavers and surfers. The waves and rip currents were observed near the breakwaters and the data were analyzed from the viewpoint of the safety of the beach users such as sea bathers and surfers. Various water safety problems related to the rip currents were discussed based on the field data, real experience of the drift and information of the lifesavers. A steady rip current around 0.25 m/s generated along a breakwater under calm sea condition yields dangerous situation to sea bathers and the degree of the dangerousness depends on the water depth as well as current velocity.
Key Words: Field observation, Rip current, Water safety, Sagara sun beach
1. は じ め に 我 が 国 の 海 浜 事 故 の 上因 の 一つ は 離 岸 流 で あ る 1)2).こ の 離 岸 流 に つ い て,海 岸 工学 を 専 門 とす る 研 究 者 や 実 務 者 の 多 くは 文献 や 基 準 書 等 で 理 解 す る こ とは あ っ て も,自 らが 体 験 した 上で 理 解 す る機 会 は 少 な い.ま た,安 全 な 海 域 利 用 に 関 して 実 務 的 に 利 用 で き る 知 見 も少 な い.一 方,海 岸 を 活 動 の 場 と して い る ラ イ フセ ー バ ー や サ ー フ ァ ー な ど は,経 験 的 に 離 岸 流 の 発 生 箇 所,強 さな どを把 握 し,水 難 事 故 を 未然 に 防 ぐ と と もに,時 に は 離 岸 流 を 活 用 して い る が,離 岸 流 の 定 量的 な 取 り扱 い に つ い て は 経 験 が 少 な い.本 研 究 は こ の よ う な 背 景 を ふ ま え て, 図-1に 示 す 静 岡 県 相 良 サ ン ビー チ に お い て,研 究 図-1 対 象海 岸(静 岡 県 相 良 サ ン ビー チ: 相 良 港 海 岸)と 離 岸 流 発 生 箇 所
図-2研 究 者,実 務 者 と海 岸 利 用 者 が 連 携 した 現 地 調 査 の 参 加 者 者 や 実 務 者 を 対 象 に,地 元 ライ フ セ ー バ ー との 交 流, 離 岸 流 体 験,簡 易 調 査 を 行 う機 会 を 設 け,ラ イ フ セ ー ビ ン グ ・レ ス キ ュ ー とい う実 務 的 な 活 動 と海 岸 工 学 と い う学 術 的 な 知 見 を 結 ぶ 試 み を 行 い,現 場 に即 した 調 査 結 果 ・知 見 を と り ま と め,そ の 結 果 を 参 考 に海 岸 工 学 に お け る 今 後 の 課 題 を抽 出 した. 2. 調 査 内 容 国,大 学 の研 究 機 関,コ ン サ ル タ ン ト,日 本 ラ イ フ セ ー ビ ン グ協 会 か ら 計12名 が 参 加 し,相 良 サ ー フ ラ イ フ セ ー ビ ン グ ク ラ ブ の 協 力 を 得 て ,2007年 8月23,24日 に現 地 調 査 を行 っ た(図-2).調 査 内 容 は,主 ず 意 見 交 換 会 を 実 施 し,経 験 に 基 づ く 対 象 海 岸 に お け る 水 難 事 故 の 実 態 とそ の 要 因,波 浪 や 潮 位 と離 岸 流 の 関 係 な ど事 細 か な 部 分 に つ い て まで も情 報 の 共 有 化 を 図 った.次 に 入 水 現 地 踏 査 に よ り 水 面 下の 地 形 条 件 を把 握 し,参 加 者 全 員 が離 岸 流 に 流 され る 体 験 を 行 っ た.ま た,定 常 的 に 離 岸 流 が 発 生 す る 海 岸 北 端(図-1のA区 域)に お い て,水 圧 式 波 高 計 と電 磁 流 速 計 に よ る 定 点 観 測,定 点 カ メ ラ と染 料 お よび 被 験 者 に よ る 漂 流 実 験,GPSフ ロ ー ト に よる 流 況観 測 に よ り定 量 的 な デ ー タを 取 得 し,一 連 の 調 査 結 果 の と り ま と め を 行 っ た. 3. 調 査 結 果 (1) ヒ ア リ ン グ ラ イ フ セ ー バ ー の 経 験 を も と に,対 象 海 岸 に お け る 水 難 事故 の 実 態 を 整 理 した.対 象 海 岸 で は,水 難 嘱故 は 上に離 岸 流 箇 所 で 発 生 し,相 良港 外 郭 施 設 南 側 と離 岸 堤2-3号 間 の2箇 所(図-1のA,B区 域) に特 定 され る.さ ら に離 岸 流 の 流 速 は 経 験 的 に 上げ 潮 時 に 大 き い との こ とで あ っ た.ま た,海 水 浴 客 は 波 高 に よ り安 全 性 を 確 認 す る傾 向 が あ り,特 に 対 象 海 岸 の よ うに 離 岸 堤 な どの 消 波 施 設 が 沖 合 に設 置 さ れ て い ろ 海 岸 で は,子 供 な ど泳 力 の 乏 しい 海 水 浴 客 図-3 離 岸 流 体 験 の 様 子 表-1 波 高 ・流 速 計 観 測 概 要 は 周 囲 に 比 べ て 静 穏 な 施 設 背 後 の 波 高 が 小 さい 場 所 を 好 ん で 海 に 入 る 傾 向 が あ る.し か しな が ら,こ の よ うな場 所 は 静 穏 で あ っ て も強 い 流 れ が 発生 して い る こ とが 多 く,こ れ に よ っ て 流 され,事 故 に つ な が る こ と が 問 題 と して 挙 げ られ た.こ の ほ か,強 い 陸 風 の 場 合 に 遊 泳 者 が 沖 に 流 され や す い こ とか ら,安 金 利 用 の 啓 発 に は,波 流 れ 以 外 に 風(向 き)の 影 響 に つ い て も示 す 必 要 が あ る こ とが わ か っ た. (2) 離 岸 流 体 験 調 査 時 は 波 高 も小 さ く,静 穏 で あ っ た が,後 述 の 調 査 結 果 よ り0.2∼0-3m/s程 度 の 離 岸 流 が 相 良 港 の 外郭 施 設 に 沿 っ て 発 生 して い た.そ こ で,フ ロー トを 用 い て離 岸 流 の 体 験 を 行 っ た(図-3).こ の 結 果,こ の 程 度 の 離 岸 流 で あ っ て も,離 岸 流 に 逆 ら っ て 泳 ぐ こ とは 困 難 で あ る こ と を 体 感 した.ま た,離 岸 流 体 験 は 干潮 時 と 上げ 潮 時 の2回 行 っ た が,水 深 が 大 き く な っ た 上げ潮 時 の 方が 強 い 流 れ を感 じ,流 れ に 対 す る 被 験 者 の 危 険 感 に 大 きな 違 い が あ っ た. (3) 波 高,流 速,水 深 の 定 点 観 測 図-1 に 示 す 観 測 地 点 に お い て 干 潮 時 か ら の 上げ 潮 時 に 調 査 を 行 っ た.観 測 概 要 を 表-1に 示 す.図-4に は,取 得 した 水 圧 デ ー タお よ び そ の1分 移 動 平 均 値 の 経 時 変 化 を 示 す.こ れ よ り,観 測 期 間 中 の 平 均 水 深 は,上 げ 潮 に よ り1.2mか ら1.6m程 度 に変 化 した.水 圧 計 の デ ー タを20分 毎 に 分 割 して 求 め た 有 義 波 高,有 義 波 周 期 の 経 時 変 化 を 図-5に 示 す. 観 測 期 間 中 の 有義 波 高 はH1/3=0.3m程 度 で あ っ た.
※ 被 験 者 お よ び 染 料 に よ る 漂 流 実 験(第2回)は12:35∼12:40に 実 施 図-4 水 深 の 経 時 変 化 と調 査 実 施 状 況 図-5 有 義 波 高 と有 義 波 周 期 の 経 時 変 化 図-6 水 位 変 動 の ス ペ ク ト ル 図-7 1分 平均1流速 の 絶 対 値 の 変 動 な お,有 義 波 高 は0.26∼0.32mで 漸 減 傾 向,有 義 波 周 期 は5.7∼6-8sで 漸 増 傾 向 で あ る が,こ れ は圧 力 波 形 を 直 接 解 析 して い る た め で あ る と 思 わ れ る. 図-6は,観 測 期 間 中 の 全 水 圧 デ ー タを 用 い て 求 め た 水位 変 動 の ス ペ ク トル で あ る.砕 波 帯 内 で あ るた め ス ペ ク トル 形 状 が フ ラ ッ トに な っ て お り,比 較 的 長 周 期 の 変 動 成 分 の エ ネ ル ギ ー が 大 き い.図-7は, 流 速 計 の 東 西 方 向,南 北 方向 流 速 成 分 を それ ぞ れ1 分 で 移 動 平均 し,そ れ らを 合 成 して 求 め た 平均 流 速 の 絶 対 値 の 経 時 変 化 で あ る.流 速 の 大 き さは,数 分 ∼10分 程 度 で の 変 動 は あ る もの の ,0.23m/sを 平均 値 と し て 比 較 的 安 定 し た 流 れ と な っ て い る.図-8 は,東 西 方 向 お よび 南 北 方 向 の 流 速 成 分 の1分 移 動 平均 を 位 相 面 上に プ ロ ッ ト した もの で あ る.こ れ よ り,港 外 郭 施 設 に 沿 う方 向 で 流 向 が 安 定 して い る こ とが わ か る. (4) 被 験 者 と染 料 に よ る漂 流 実 験 離 岸 流 を 視 覚 的 に 捉 え る こ と を 目 的 と して,外 郭 施 設 に カ メ ラ を設 置 して 被 験 者お よ び 染 料 に よ る ト レー サ 調 査 を 実 施 した.定 点 カ メ ラ の 観 測 概 要 お よ 図-8 流 れ の 方 向 分 布 図 び 設 置 状 況 を 表-2お よ び 図-9に 示 す.定 点 カ メ ラ で 取 得 し た 画 像 内 の 距 離 と 撮 影 時 間 の 関 係 よ り,ト レ ー サ 調 査 時 間 に お け る 平 均 流 速 を 求 め る と,被 験 者 に よ る 調 査 時(図-10)は 約0.25m/s,染 料 に よ る 調 査 時(図-11)は 約0.3m/sで あ っ た.こ の 結 果 は,前 述 の 流 速 の 定 点 観 測 結 果 と ほ ぼ 同 じ数 値 で あ る.一 方,被 験 者 に よ る 調 査 時 に 比 べ て0.4m程 度
表-2 定 点 カ メ ラ観 測 の 概 要 ※1:波 高 計 観 測 デ ー タ(水深 デ ー タ)の期 間 平均 ※2:波 高 計 撤 去 後 の 観 測 の た め 波 高 計 観 測 最 後 の1分 間 平均 値(12:19び)観 測 平均 値) 図-9 定 点 カ メ ラ の 設 置 状 況 図-10 定 点 カ メ ラ 取 得 画 像(被 験 者 ト レー サ 調 査) 水深 が 増 加 した 染 料 トレー サ 調 査時 の 方 が や や 流 速 が 速 い 結 果 で あ り,こ れ は 被 験 者 が 上げ 潮 時(染 料 トレー サ 調 査 時)の 方が 強 い 流 れ を 感 じた 結 果 と 一 致 して い る.な お,流 速 計 の 定 点 観 測 終 了後 で あ っ た た め,定 点 流 速 観 測 に よ る 定 量的 な 評 価 ま で は で き て い な い. (5) GPSフ ロー トに よ る流 況 調 査 調 査海 域 は,前 面 に 離 岸 堤 群 が そ して 左 側 端 部 に 相 良 港 外 郭 施 設 が 設 置 され た 半 閉 鎖 的 な 海 水 浴 場 で あ る.構 造 物 の 設 置 状 況 か らは,各 離 岸 堤 の 間 を 沖 に抜 け る離 岸 流 と,離 岸 堤 背 後 を 左 向 きに 流 れ る 図-11 染 料 に よ る ト レー サ 調 査 の 状 況 図-12 GPSフ ロ ー トに よ る 流 況(移 動 軌 跡,広 域) 図-13 GPSフ ロ ー トの 移 動 軌 跡(A区 域 拡 大 図) 沿 岸 流 が 漁 港 を 迂 回 す る よ う な 形 で 生 じ る 離 岸 流 の 発 生 が 予想 さ れ た.そ こ で こ の よ う な 流 況 を 把 握 す る た め,GPSを 組 み 込 ん だ フ ロ ー トに よ る 漂 流 調 査 を 行 っ た. 図-12 にGPSフ ロ ー トに よ り 求 め た 観 測 時 の 流 況 を 示 す.離 岸 堤 群 背 後 で は フ ロ ー トが 沿 岸 流 に 乗 っ て 港 側 に 漂 流 し て い る こ と が 分 か る.観 測 時 に お い て は,波 浪 が 静 穏 状 態 で あ る こ と も 一因 で,離 岸 堤 群 を 沖 に 抜 け る よ う な 離 岸 流 は 観 測 さ れ な か っ た. 方,港 周 辺 のx=0m辺 り で 沿 岸 流 が 外 郭 施 設 に 沿 う よ う な 形 で 向 き を 変 え て,沖 向 き の 流 れ が 生 じ て い る こ と が 分 か る.図-13に は,港 近 く で5回 投 入 し たGPSフ ロ ー トの 軌 跡 を 示 す.図 中x=140∼ 160m付 近 に 離 岸 流 頭 が あ る が,Run5の 軌 跡 で 示 さ
れ る よ うに 流 れ の 一部 は 港 を 迂 回 す る よ うな形 で 下 手側 に 流 れ て い る こ と が 推 測 され る. 漂 流 時 間 とGPSフ ロー トの移 動 距 離 か ら沿 岸 流 と 離 岸 流 の 平 均 的 な 速 度 を 算 出 し た 結 果,と も に 約 0.15m/sで あ っ た. 4. ま と め 調 査 結 果 よ り,以 下の 知 見 が 得 られ た. ・ 対 象 海 岸 の 離 岸 流 の 発 生 箇 所 は ,沖 合 の 離 岸 堤 群 と相 良 港 外 郭 施 設 に よ りほ ぼ 固 定 され て い る. ・ 調 査 時 は,波 高H1/3=0.3m程 度 と比 較 的 静 穏 で あ っ た が,港 外 郭 施 設 に 沿 っ て 離 岸 流 が 発 生 し て い た. ・ 沿 岸 流 の 平 均 速 度 は0 .15m/s程 度 で あった. ・ 離 岸 流 の 平均 速 度 は0 .2∼0.3m/s程 度 で あ っ た. この 程 度 の 離 岸 流 で あ っ て も,流 れ に 逆 ら っ て 泳 ぐ こ とは 困 難 で あ り,遊 泳 者 に と っ て 危 険 な 条 件 で あ っ た. ・ 現 地 調 査 は,上 げ潮 に よ り水深 が0.4m程 度 増 加 す る 条 件 で 実 施 した が,体 感 で は,水 深 増 加 時 の 方 が 離 岸 流 に よ る流 れ を強 く感 じ た.実 際 に 漂 流 実 験 に お い て も沖 に 向 か う速 度 が わ ず か に 速 か っ た.こ れ は,対 象 海 岸 の ラ イ フ セ ー バ ー が 経 験 的 に 得 て い た 「流 速 は,上 げ 潮 時 に 大 き い.」 とい う意 見 と も 致 した. 5. 考 察 調 査 結 果 よ り,同 程 度 の 波 高,流 速 で も潮 位 が 上 が る(水 深 増 加)こ とで 水 難 者 は 離 岸 流 を強 く感 じ, 実 際 に 被 験 者 の 移 動 速 度 が 速 くな る 結 果 が 得 られ た (図-14).こ の 理 由 と して は,足 が 海 底 に 着 く 浅 海 域 で は,流 圧 面 積(水 面 下の 体 の 面 積)お よ び 浮 力 が 大 き くな り,離 岸 流 の 力 を 強 く感 じ るた め で あ る.こ の よ うな 足 の 着 く水 中 部 に お け る 人 体 に 受 け る 抗 力 と水 深 の 関 係 は 須 賀 ら3)の 実 験 に お い て も 同 様 の 結 果 が 得 られ て い る.一 方,足 が 付 か な い 沖 合 で は,海 底 面 付 近 の 流 速 が 同 程 度 で あ っ て も流 速 は 水 深 方 向 に 分 布 を もつ た め,表 層 の 流 速 が 大 き く な っ て い る こ とが 考 え られ る.し か しな が ら,こ れ は 複 雑 な 波 流 れ 場 で の 浮 遊 物 体 に 作 用 す る 流 体 力 の 問 題 で あ り,今 回 の 調 査 で は十 分 な検 討 を 行 うに 足 る デ ー タを 取 得 で き な か っ た た め,今 後 の 調 査 課 題 で あ る.ま た,漂 流 速 度 の わ ず か な増 大 に 比 べ て, 被 験 者 の 危 険 意 識 が 大 き く増 大 し た こ と に つ い て は, 水 深 が 大 き く な っ た こ と に よ る 不 安 感 な ど心 理 的 な 面 も影 響 して い る と思 わ れ る. ラ イ フ セ ー バ ー か らの ヒア リン グ結 果 や 現 地 調 査 の 結 果 よ り,対 象 海 岸 の 水 難 事 故 の メ カニ ズム は 以 図-14 調 査 結 果 の イ メー ジ 下の よ うに整 理 で き る. (1) 水 難 者 は,沿 岸 流 か ら離 岸 流 に つ な が る 一連 の 流 れ に よ っ て 岸 近 くか ら 沖 合 へ 流 され る.こ こ で,水 難 者 は 岸 か ら離 れ た 時 点 で 自分 が 流 され て い る こ と に 気 づ く こ と が 多 く,陸 側 に 戻 ろ う と す る が 離 岸 流 に よ り戻 れ ず に パ ニ ッ ク に 陥 り, 体 力 を 消 耗 し,水 難 事 故 に つ な が る. (2) 対 象海 岸 の よ うに 港 や 離 岸 堤 な ど構 造 物 が 周 辺 に あ る場 合,構 造 物 周 辺 の 局 所 的 な 流 れ が 水 難 事 故 を 助 長 す る. (3) ま た,離 岸 堤 背 後 で は,波 高 は 小 さ く て も離 岸 堤 群 の 開 口部 に 向 か う流 れ が 発 生 す る こ と が あ り,海 岸 利 用 者 自 身 に よ る 波 高 の 視 認 情 報 と安 全性 が一 致 しな い こ とが 水 難 事 故 に つ な が る. (4) この ほ か,水 難 事 故 は 浮 き 輪 な ど フ ロー トを 使 用 した 場 合 に 流 され や す く,波 流 れ の ほ か に, 吹 送 流(陸 風)の 影 響 に よ り リ ッ プヘ ッ ドよ り も沖 合 に 流 され る 事 例 も多 い. 6. 今 後 の 課 題 海 岸 法 改 正 を 受 け,こ れ か らの 海 岸 保 全 に は, 「環 境 」 や 「利 用 」 に も配 慮 して い く必 要 が あ る が, 利 用 に配 慮 した 施 設 設 計 に つ い て,具 体 的 な 要 求 性 能(基 準 や 設 計 指 針),照 査 方法(検 討 方法)は な い の が 現 状 で あ る.例 え ば,本 調 査 の 対 象 海 岸 の 結 果 で は,同 程 度 の 波 高,流 速 で も水 深 が 大 き くな る こ とで 水 難 者 は 離 岸 流 を強 く感 じ,か つ 移 動 速 度 も 速 くな る と い う結 果 が 得 られ た.こ れ は 言 い換 え れ ば 同 じ流 速 で も深 さに よ り危 険 度 が 変 わ る と い うこ とを 示 唆 して い る.つ ま り海 岸 利 用 の 安 全 性 照 査 に お い て,平 均 流 速 に よ り指 標 を 設 定 す る場 合 は,水 深 との 対応 を 考 慮 す る 必 要 が あ る.ま た,子 供 や 大 人 な ど体 型 に よ っ て も危 険 度 が 変 わ る た め,人 間 工
学 的 な 考 え 方 も入 れ る必 要 が あ ろ う.以 下 に,本 研 究 に よ り得 られ た 知 見 を 参 考 に,海 岸 工 学 に お け る 課 題 を 述 べ る. a) 保 全 施 設 へ の 要 求 性 能 施 設 に よ る海 岸 保 全 と安 全 な 海 岸 利 用 の 場 の 提 供 は トレー ドオ フ の 関 係 に あ る.例 え ば,前 述 した よ う に,水 難 事 故 の 要 因 の ひ とつ と して,波 高 が 小 さ い が 循 環 流 が 発 生 して い る 離 岸 堤 背 後 で は,海 岸 利 用 者 自 身 に よ る波 高 の 視 認 情 報 と安 全性 が 一致 しな い こ とが 挙 げ られ た.し か しな が ら,海 岸 保 全 上 ト ンボ ロ の 形 成 を 図 る 場 合 は,循 環 流 の 発 生 が 望 ま し く,循 環 流 の 発 生 を 抑 え る こ と は保 全機 能 の 低 下 に つ な が る. 海 岸 の 安 全 利 用 に 関 す る保 全 施 設 の 要 求性 能 を 検 討 す る に は,対 象 海 岸 の 特 性,水 難 事 故 の メ カ ニ ズ ム を 把 握 す る こ とが 必 要 で あ る.現 地 で は,新 聞 記 事 に な る よ うな 死 亡 事 故 等 の 重 溺 事 故 以 外 に,安 全 移 送(自 ら安 全 な位 置 や 浜 に移 動 す る こ とが で き な い 者 の 移 送)等 の 事 故 が 多 く 発 生 して い る.課 題 解 決 の 方 策 の ひ とつ と して,例 え ば,ラ イ フ セ ー バ ー が 記 録 して い る レス キ ュ ー ロ グや パ トロ ー ル ロ グ を 海 岸 工 学 的 な視 点 か ら分 析 し,外 力(波 ・風)と 水 難 事 故 の メ カ ニ ズ ム の 関係 を把 握 す る 方 法 が 考 え ら れ る. b) 外 力 条 件 現 在 の 施 設 設 計 に お け る 波 浪 条 件 は,設 計 波,年 数 同 波,エ ネ ル ギー 平均 波 で あ り,海 水 浴 利 用 等 を 考慮 した 小 さ い 波 は 考 え られ て い な い.ま た,海 岸 利 用 を 考 慮 した 流 速 に つ い て,基 準 書 等 に 明 確 な 指 標 等 は 示 され て い な い.設 計 にお い て 参 考 に な る 安 全 性 に 関 す る 資 料 は,例 え ば,「 ビー チ 計 画 ・設 計 マ ニ ュ ア ル 改 訂 版 」4)が あ る.こ れ に よれ ば,海 水 浴 可 能 波 は0.5m,遊 泳 可 能 流 速 は0.2∼0.3m/s以 下 と提 案 され て い る が,本 調 査 で の 離 岸 流 体 験 よ り 0.2∼0.3m/s程 度 の 離 岸 流 で あ っ て も,流 れ に 逆 ら っ て 岸 に 戻 る こ と は 困 難 で あ っ た.波 流 れ を 総 合 的 に 評 価 した 指 標 や,海 岸 特 性 を 考 慮 した 指 標 が 求 め られ る. c) 解 析 ・設 計 手 法 侵 食 対 策 や 高 潮 対 策 の た め の 海 岸 構 造 物 の 検 討 に お い て は,現 状 で は,構 造 物 を 設 置 す る こ とに よ る 波 浪 ・海 浜 流 の 平面 的 な 変 化 に よ る 地 形 変 化 へ の 影 響 と い う観 点 か ら,年 数 回 波 の 条件 で構 造 物 設 置前 の 測 量 成 果 よ り作 成 した 現 地 形 に構 造 物 を配 置 した 場 合 の 計 算 を 実 施 して い る の が一 般 的 で あ り,利 用 へ の 配 慮 と い う観 点 で は ほ とん ど検 討 され て い な い の が 実 情 で あ る.一 方,実 際 の 海 浜 事 故 が 静 穏 時 お よ び 高 波 浪 時 と もに 発 生 して い る現 状 を 考 えれ ば, 海 域 利 用 を 図 る海 岸 で は,入 射 波 浪 の 小 さい 条 件 で も流 れ の 計 算 を 行 い,海 域 利 用 上注 意 が 必 要 と な る 0.2m/s以 上の 流 れ の 発 生 状 況 を 設 計 の 段 階 で 確 認 し て お く べ き と 考 え られ る. 7. お わ り に 本 研 究 で は,研 究 者,実 務 者 と 海 岸 利 用 者 が 連 携 した 現 地 調 査 を 行 っ た こ と で,よ り現 地 海 岸 の 状 況 に 即 し た 調 査 を 行 う こ と が で き,研 究 者,実 務 者 に お い て は 現 地 の 状 況 を 体 で 感 じ る こ と で 離 岸 流 に 対 す る 理 解 が 進 ん だ.今 後 も研 究 者 と 実 務 者 の 連 携 に よ る 多 様 な フ ィー ル ドで の 調 査 機 会 を 設 け て い き, そ こ で 得 ら れ た 調 査 結 果 等 を 反 映 し て,利 用 に 配 慮 した 施 設 設 計 に お け る 要 求 性 能,そ の 性 能 を 照 査 す る 方 法 な ど に つ い て も検 討 を 進 め る 予定 で あ る. ま た,調 査 で 確 認 で き た 対 象 海 岸 の 沿 岸 流 や 離 岸 流 に よ る 特 徴 的 な 流 況 に 対 し て,現 地 の ラ イ フ セ ー バ ー は 経 験 と 体 感 に よ り そ の 流 れ を 把 握 しな が ら ラ イ フ セ ー ビ ン グ 活 動 を 行 っ て お り,海 水 浴 場 の 適 切 な 管 理 体 制 が 実 現 さ れ て い る よ う で あ っ た. 謝 辞:本 調 査 は 土木 学 会 海 岸 工 学 委 員 会 ・沿 岸 域 研 究 連 携 推 進 小 委 員 会 の 活 動 の一 環 と して 行 っ た も の で あ る,現 地 調 査 で は,筆 者 ら 以 外 に(独)港 湾 空 港 技 術 研 究 所 の 栗 山 善 昭 氏,国 上 技 術 政 策 総 合 研 究 所 の 加 藤 史 訓 氏,パ シ フ ィ ッ ク コ ン サ ル タ ン ツ (株)の 五 味 久 昭 氏,(株)INAの 佐 々 木 崇 雄 氏, (株)建 設 技 術 研 究 所 の 細 井 寛 昭 氏,日 本 ラ イ フ セ ー ビ ン グ 協 会 の 風 間 隆 弘 氏,そ し て 地 元 相 良 サ ー フ ラ イ フ セ ー ビ ン グ ク ラ ブ の 副 代 表 名 取 芳 和 氏 を は じ め ラ イ フ セ ー バ ー の 方 々,地 元 サ ー フ ァ ー の 方 々 に 参 加 し て 頂 き,海 岸 の 安 全 利 用 と 海 岸 保 全 施 設 の 設 計 や 管 理 上の 課 題 な ど に つ い て 活 発 な 意 見 交 換 を 行 っ た.こ こ に 謝 意 を 表 し ま す. 参 考 文 献 1) 西 隆 一郎:海 岸 の 安 全 利 用-離 岸 流 そ の2-,季 刊 水 路 第137号,pp.27-33, 2006年. 2) 西 隆 一郎 ・マ リ オ デ レ オ ン ・村 井 弥 亮.高 江 洲 剛 ・占 賀 幸 夫:リ ー フ カ レン トに よ る 事 故 状 況 と海 浜 の 安 全 利 用,海 洋 開 発 論 文 集 第23巻,pp .673-677, 2007年. 3) 須 賀 堯 三,上 阪 恒 雄,吉 田 高 樹,浜 口 憲 一郎,陳 志 軒:水 害 時 の 安 全 避 難 行 動(水 中 歩 行)に 関 す る 検 討, 水 工学 論 文 集,第39巻,pp.879-882, 1995年. 4) 社 団 法 人 日本 マ リー ナ ・ビー チ 協 会:「 ビー チ 計 画 ・ 設 計 マ ニ ュ ア ル 改 訂 版 」,p.229, 2005.