森川 洋
I はじめに 2011 年 の『 空 間 整 備 報 告 書 』(BBSR 2012; 森 川 2017)に次いで 2017 年 10 月に発表された新たな『空 間整備報告書』(BBSR 2017)は,これまでの報告書 とは違って,空間整備のうちの「生活基盤の維持」だ けを取り上げたものである.2016 年の空間整備閣僚会 議(MKRO)において,①競争力の強化,②生活基盤の 維持,③土地利用の抑制と持続的発展,④気候変化とエ ネルギー変化の 4 項目が今日的な重要テーマとして決定 され1),そのなかでまず「生活基盤の維持」について発 表したわけである.いうまでもなく,「生活基盤の維持」 は空間整備の最重要項目をなしており,残された 3 つの テーマについても数年間に BBSR(連邦建設・都市・空 間整備研究所)からそれぞれの報告書が発表されるもの と思われる2). ところで,本報告書で使用されている Daseinsvorsorge という言葉は新たにつくられた造語で,筆者の独和 辞 典(1989 年,1997 年 ) に は 掲 載 さ れ て い な い. Daseinsvorsorge という言葉が使用されるようになった のは以前のことと思われるが,「Daseinsvorsorge の維持 (Sicherung)」という目標が空間整備において初めて登 場したのは 2006 年のことであった(BBSR 2017:7). それは Dasein(生活)と Vorsorge(備え)とを合成し たもので,public service(公共サービス)という訳語 が当てられる場合もあるが,Daseinsvorsorge には公共 サービスだけでなく,買物施設をはじめ医療機関など民 間サービスも含まれるので(BBSR 2017:64),公共サー ビスに限定するのは不適当である.したがって,本稿で は森川(2017)と同様に,「生活基盤」と訳すことにす る.それは抽象的な意味だけでなく,生活基盤にかかわ るサービスや施設をも含めたものである. ドイツにおける連邦や州の空間整備政策は,「同等の 生活条件(gleichwertige Lebensverhältnisse)」の確立を 目標として,個々の専門計画(Fachplanung)を調整す ることを役目としており,わが国にはこれに該当する政 策はみられない.国土総合計画(全総から五全総)が基 本的な政策としてそれに近いが,専門計画の調整役を担 うものではなかった. 「同等の生活条件」の確立を目標とする空間整備政策 において特に注目されるのは,人口問題と地域格差であ る.人口流入がなければ旧西ドイツは 1970 年代から人 口減少がみられたはずであり,高齢化率が上昇してきた 点ではわが国と類似するが,国際移民の急増3)はわが国 とは大きく異なる.地域格差についても,わが国とは違っ て多極分散型国家であるため,大都市一極集中の影響で はなく,注目されるのは再統一後の新連邦州(旧東ドイ ツ)における社会経済構造の整備の遅れである.ドイツ においても都市・農村間の格差はあるが4),とくに不利 な条件をもつ辺地農村は主として新連邦州にみられ,旧 連邦州地域ではきわめて少ない(森川 2017).筆者は 旧連邦州地域の農村では人口減少も少なく,わが国とは 違っているとみていたが(森川 2016),将来について は発展を続ける都市と衰退に向かう農村という発想にお いてはわが国の場合とそれほど大差はないように思われ る. 本 書 の 分 析 の 資 料 は 2015 年 と 2016 年 の 統 計 と 2035 年の予測値(BBSR 2015)5)による.本文は 140 ペー ジからなり,その中には 49 葉のカラーの分布図をはじ め 13 図と 9 表が含まれる.章構成は次の7章からなる. 第1章 空間整備と生活基盤(4 ページ) 第2章 人口的・経済的発展傾向(4 節,17 ページ) 第3章 空間整備政策の担当分野としての生活基盤(4 節,22 ページ) 第4章 協力と参加(5 節,10 ページ) 第5章 専門計画と生活基盤 (4 節,46 ページ) 第6章 交通とデジタルインフラ(8 節,24 ページ) 第7章 空間整備政策の結論(3 節,8 ページ)II 内容の紹介 第1章 空間整備と生活基盤 『空間整備報告書(2011 年版)』では空間発展の現状 と傾向および連邦や EU の空間計画と措置について説明 し,生活基盤はその中の 1 つの章として扱われたが(森 川 2017),本報告書は「生活基盤の維持」が中心をなす ものである.生活基盤の維持は空間整備の基本的任務で あり,そのためには,公的資金による戦略的計画や対応 措置が必要となる.生活基盤に対する空間整備政策とし ては,①ある一定以上の質をもつこと,②正当な価格で もって供給されること,③一定の時間内に到達できるこ とが問題となり,上位中心地(Oberzentrum)や中位中 心地(Mittelzentrum)が重要な任務を果たす.しかし, 今日すでに人口希薄6)な辺地農村では生活基盤に対する 空間整備の対応が不十分なところがある.なお,国土の 基本的状況は地図上に示されている(Karte 1)7). 将来発展の評価は BBSR(2015)の人口予測によるが, これには 2015 年に増加した国際移民は含まれないとい う.国際移民はドイツ地域の縮小過程を遅らせることに はなるが,地域的生活基盤の維持を根本的に解決するこ とにはならないとみられている. 第2章 人口的・経済的発展傾向 本章でとりあげるのは,①人口の一般的傾向,②就業 の基本的傾向,③公的財政の発展,④結論である. ドイツの都市人口は 47.4%で,森川(2016)でも指 摘したように,先進国のなかではきわめて低い状況に ある.上述したように,国際移動により 1990 年以降約 500 万人が流入したが,1964 年以降出生率は著しく低 下し,年間 20 万人の流入によって人口の均衡を維持し てきた(Abb. 3).地域的には,新連邦州地域の縮小と 旧連邦州地域の成長とが著しい対照性を示す(Karte3). 統一直後新連邦州地域では出生率が著しく低下し,東西 移動の激化によって,ベルリン以外の市町村では経済的 にも衰退が続いた.旧連邦州地域ではルール地域は構造 変化によって 2000 年代半ば以降 14 万人を喪失したが, その他の大都市(地域)は成長した.一方,2005~2015 年には中都市の 37%,小都市の 52%は人口を減少して おり,辺地農村の半分以上が 10%以上の人口を喪失した. 激しい国際移動に比べると,国内移動は比較的安定し ており,最近では東西移動にも均衡がみられる.人口移 動には年齢による特徴があり,18 ~ 25 歳移動は大学進 学,25 ~ 30 歳移動は職業移動,30 ~ 50 歳は家族移動・ 転勤移動で,65 歳以上は退職移動といえる.大都市に おける郊外化は 2011 年以降再び強化され,とくにミュ ンヘン,ベルリン,ハンブルク近郊において盛んである. わが国と同様に,就業機会は都市に多く,大学卒業後農 村に帰郷する人はわずかである. このような人口的特徴は 2035 年にはさらに強化され るものとみられる.新連邦州では 3 大都市(ベルリン, ライプチヒ,ドレスデン)以外は人口が大幅に減少し, メクレンブルク・フォアポメルン,ザクセン・アンハル ト,ブランデンブルク州の一部では 2035 年までになお 20%以上の人口減少が予想される(Karte5).旧連邦州 でも人口成長は弱まり,ミュンヘン,シュトゥットガル ト,ハンブルクの周辺でわずかに増加・停滞がみられる だけである.ただし,ボーデンゼー地域やニーダーザク セン州西部はなお成長するとみられており,農村地域で 人口増加が予想される点ではわが国とは異なる8). 高齢化の進行につれて生活基盤の需要も変化する.旧 連邦州地域の大都市は人口流入によって年齢構成が比較 的安定しているが,郊外や農村地域は高齢化が進行する. 2035 年には 80 歳以上の人口は 700 万人に達するもの とみられる. 2015 年において移民や移民起源の人は全国で 1,710 万人(全人口の 21%)に達する.35 歳以下では 1/4 は 他国出身の人たちである.彼らは旧連邦州の大都市に多 く居住し,新連邦州地域には少ない(Karte7).移民は ドイツの人口減少を阻止し若返らせるが,教育,介護, 言語習得,住宅問題などドイツ社会への融合が問題とな る. ドイツでは 2016 年 10 月に就業者数 4,370 万人で過 去最高となり,若者失業率は EU で長らく最低を維持す る.EU の域内移動の自由によって就学・就業に来入す る若者が多いが,地域差もある.新連邦州では高い失業 率と専門職不足という問題があり,専門職不足は女子9) や老人の雇用と長時間労働によって補われている. 通 勤 距 離(2015 年 ) は 平 均 16.8km で, 都 市 で は 1/2 が通勤者に対して,農村では就業者の 2/3 が 通勤者である(Karte10).通勤者の中には国境通勤者 (Grenzpendler)も多い. 人口減少は原則として生活基盤を担う市町村の収入を 減少させる.事業所税は 2002 年の 230 億ユーロから 440 億ユーロ(2015 年)へと上昇したが,年次変動も あるし,地域差も大きい.フランクフルトでは事業所税 は人口当たり 2,412 ユーロに対して,ハレ(ザクセン・ アンハルト州)では 210 ユーロであった.しかし,高い 納税力がインフラや生活基盤の需要に足りるかどうかは
別の問題である.営業税収が多いと社会的な事業も増加 し,財政需要をさらに高めるからである. 第3章 空間整備政策の担当分野としての生活基盤 本章は,①州計画・地域計画10)における生活基盤, ②非公式的な用具,③中心地構想のさらなる発展,④結 論からなる. 州計画・地域計画において生活基盤として医療,教育, 文化・スポーツ,上水道,下水道,旅客交通,保安の項 目について検討するが,各項目の取り扱いは州や地域に よって異なる(Tab. 2).旅客交通はすべての州におい て重視され,教育,文化・スポーツ,上水道,医療も重 視されるが,下水道やごみ処理,保安についてはとりあ げない州が多い.州計画においては生活基盤の目標は明 確でないが,地域計画においては,全国 102 のうち 61 が生活基盤の目標を掲げる.しかし新連邦州では空間整 備の目標が明確に示されないところが多く,テューリン ゲン州の地域計画では空間整備の目標が放棄されてい る11). 最近 10 年間には,開発構想とかネットワーク,協力 関係など空間整備に非公式な用具の導入が増えてきた. 生活基盤のような専門化した幅広いテーマでは,これま での役割だけでなく,種々の担当者と積極的に共同作業 をしなければならない.12 州では州発展計画法のなか で開発構想や地域フォーラム,活動プログラムのような 非公式用具が用いられており,将来,非公式用具の利用 機会がますます増大するものと考えられている. 生活基盤の維持においては,中心地はインフラ供給 の地域的対応を示すものであり,生活基盤の空間組織 にとって集落構造の骨格をなすものといえる.しかし, 2005 年以降各州における中心地構想は種々な状況に対 応して変化している.中心地階層は通常 3 階層からなる が,バーデン・ヴュルテンベルク,ヘッセン,シュレス ヴィヒ・ホルシュタイン 3 州は 4 階層,ブランデンブル ク州は 2009 年以降 2 階層に定められている12).また,「上 位中心地機能の一部を持つ中位中心地」のように中間階 層の中心地を含む州もある.2005 年に比べると,小中 心地(Kleinzentrum)の減少により中心地数は 280 減少 した. 2015 年 に は 11,190 市 町 村 の う ち 1/3 が 中 心 地 に 認 定 さ れ て い る.127 が 上 位 中 心 地( 中 間 階 層 も 含 む),940 が中位中心地(中間階層も含む),下位中心地 (Unterzentrum)・基礎中心地(Grundzentrum)は約 2,190 からなり,これに 370 の小中心地が加わる(Karte12). なお,すべて単一自治体(Einheitsgemeinde)に合併し たノルトライン・ヴェストファーレン,ヘッセン,ザー ルラント3州では全市町村が中心地に認定されているの に対して,シュレスヴィヒ・ホルシュタイン,ラインラ ント・プファルツ,ブランデンブルク,メクレンブルク・ フォアポメルン州などでは中心地に指定されるのは 14% 以下である.したがって,空間構造や集落構造に対応し て中心地当たりの圏域人口は州によって著しく相違す る. 中心地の供給能力は一般的な人口閾値によって決めら れる.空間整備閣僚会議はこれまで何度も人口閾値を定 め,人口閾値は中心地の認定指標として使用された.各 州については 2005 年と 2015 年の中心地の人口閾値が 示されており,変更も認められる(Tab. 3).ザクセン州 では中位中心地や中位圏(Mittelbereich)の閾値人口が 小規模に変更され,ブランデンブルク州では上位中心地 や中位中心地の閾値基準が放棄された.また,各州では 基準値に達しない中心地でもすぐさま降格の措置はとら れていない.全国の中位圏の平均人口は 8.5 万人である が,バーデン・ヴュルテンベルク州の平均は 10.5 万人 となり,最小のブランデンブルク州では 5.3 万人である. しかも全国 783 の中位圏のうち約 3%は最低限要求され る 2 万人を下回る13). 空間整備閣僚会議は中位圏や近隣圏(Nahbereich)が 一定の方法によって設定されることを推奨する.供給圏 の調査には科学的な分析方法が導入されるべきであり, 計画的に等しく扱うためには,個々の中心機能の圏域評 価を綿密に行うことが求められる.ノルトライン・ヴェ ストファーレン州とザールラント州を除くすべての広域 州では,2 つの市町村に機能分化した双子中心地が認定 されている.これらの中心地は相互に競合するのではな く,相互補完の関係にあるべきである.これら計画され た機能分化が実際になされているかどうかを確認すべき である14). 中位中心地へのアクセスは,空間整備閣僚会議の決定 によれば自家用車で 30 分,公共交通機関で 45 分以内 とされているが,2015 年の各州の設定基準では7つの 広域州(2005 年には 6 州)だけがそれに適合する.ド イツでは中位中心地への平均アクセス時間は自家用車で 6 ~ 12 分,公共交通機関で 19 ~ 30 分で,2005 年と 2015 年とを比較すると,アクセス閾値を遵守する方向 にはある.一方,中心地の装備カタログについては,ノ ルトライン・ヴェストファーレン州以外の州空間整備計 画においては 14 項目の装備をあげているが,下位限界 は義務づけられていない.装備カタログが州によって著 しく異なるのは生活条件の同等性からみて適当とはいえ
ない.空間整備閣僚会議は,義務的装備と推奨すべき装 備とを区別するのがよいという. サービスやインフラ供給の同等性を目標とする空間整 備の任務に対して,近隣供給は中心的任務に数えられる が,小売業は民間企業に属するため直接計画し,関与す ることはできない.しかし,郊外店舗の繁栄による都心 や地区中心の衰退は避けなければならない.小売業に対 する空間整備の目標は間接的で,土地消費の節減やスプ ロールの防止,自家用車交通の減少にあるという. ドイツでは EU 諸国に比べると大規模店舗が少ないと いう特徴があるが,最も近いスーパーまで直線距離 1,000 m以内に居住するのは全人口 72%で,28%はその圏外 に居住する(Karte13).それには旧東西ドイツ間の差が 大きく,都市・農村間の差もある. BBSR は,大規模小売店に対して収斂要請(売場面積 や商品種は計画に一致すること)や妨害禁止の要請に基 づく中位中心地の供給範囲の法的設定が必要であると主 張する.しかしながら,消費者の大規模店指向,高齢者 の日常品店へのアクセス問題,オンライン販売など,現 実には中心地の日常品供給を妨害する条件が少なくな い.さらに人口変化は空間的差異を強化する.それは市 町村単位よりも集落単位の問題であり,辺地における生 活基盤の維持が問題となる.こうした条件下で,空間整 備のモデル計画(MORO)では戦略的撤退計画を辺地集 落へ適用する構想を発表したのが注目される. 第4章 協力と参加 本章は,①空間整備のモデル計画,②協力と市町村間 共同作業,③市民参加,④国境を超えた生活基盤,⑤結 論の 5 節に分かれる. ①空間整備として新たな事態に対応するためには,ま ずモデル計画が試みられる.2 つのモデル計画「マス タープラン:生活基盤―地域の適合戦略」と「人口変化 ―地域が未来を創る」に関する 7 つのモデル地域の成果 は,2011 年にガイドライン「地域戦略・生活基盤」に まとめられ,同年発足した行動計画「地域的生活基盤」 の基礎となった.そこでは行政,企業,ボランティアの 協力による担当者ネットワークが必要とされた.さらに 2013 年 5 月には,全国 21 のモデル地域による小規模 なパイロット計画がスタートし(Karte14),多くの新た な知識や情報が集められている. ②協力と市町村間共同作業では,人口減少の進行は都 市や町村が個々の業務を独自に実施することを困難にす るという.地域住民が十分な生活基盤を維持するために は,同一レベルの中心地間の分業や市町村域を超えた需 要の充足が必要となる.市町村間共同作業は内容的にも ますます拡大し,専門化してきた.BBSR のモデル計画 によれば,協力と市町村間共同作業には全国どこにも通 用する最適の方法はなく,個々の内容や各地の条件に応 じて解決が求められるべきであるという. ③市民参加は生活基盤の問題にとって重要な関心事で あり,地域的な対応にとって不可欠の要素となる.住民 参加に対する統一的な解決策はなく,地元の条件や妥当 なテーマ,法的枠組み,資源に関係する.地元の生活基 盤の中心的担当者は市町村や専門家であるとしても,す べての担当者は相互に協力しなければならない.農村住 民はボランティアとして参加することに馴れているが, 最近農村地域でも個人化の風潮があり,市民的協力を要 求することは困難になりつつある.その一方で,市民参 加の幅広い形態の中には老人会と名付けられた近隣助け 合い(Nachbarschaftshilfe)の組織がある.老人会はバー デン・ヴュルテンベルク州で最初に設立され,バーデン・ ヴュルテンベルクやバイエルン,ヘッセン州に多く,全 国では 220 の組織が存在する. ④国境を越えた生活基盤の節では,国境地帯における 近隣諸国との共同作業によるインフラ整備について述べ る(Karte15).人口変化の激しい地域では国境を超えた 共同作業は効果的であるが,法的・行政的問題や財政問 題があるという15). ⑤結論においては,協力,市町村間共同作業や市民参 加は地域的生活基盤の維持にとって本質的な要素である ことが強調される.もちろん,それは自己目的ではなく, 具体的課題を設置したすべての参加者にとって利益ある ものでなければならない.コストや利用をめぐって対 立し分裂する場合には,市町村間共同作業にとって協力 空間内で種々の担当者間の均衡をはかる能力が要求され る.地域的協力の成功は地元の問題認識,政策的な支援, 成果の体験,物的枠組条件などの条件にかかっている. 第5章 専門計画と生活基盤 本章は,①空間整備付帯条項,②適応と標準,③生活 基盤の選ばれた分野の発展,④結論からなる. 空間的問題に関わる専門計画は,専門政策の目的に 従ってそれぞれの役目を演ずるが,専門計画は常に空間 整備の地域的目標と一致するわけではない.その場合に 空間整備の役目は,専門計画との共同作業において調整 機能を果たすことにある.生活基盤の実現には行政の計 画担当者が専門計画に基づいて行動し,空間整備が関与 するのは「どこに」だけであり,「するかどうか」の問 題ではない.専門計画の調整の場合には,種々の担当者
レベルの間の調停者(Mediator)として地域計画に関与 するだけである. それぞれの専門計画は連邦や州のような上位機関にお いて決定され,原則として全国全域に隈なく適用される. 都市の要求水準を農村地域にも適用することによって経 済的・人口的な成長が求められるが,農村地域の大部分 は著しい人口減少に曝らされており,都市と同等な質を 維持することは費用面においても困難である. 生活基盤の整備は「同等の生活条件」の確立にとっ て重要であるが,これまで概念の正確な規定はなされ てきたとはいえない.保育所や学校など 11 項目16)に ついて生活基盤の基準に関する包括的概観がなされた のは,2014 年以降の研究においてである(Institut für Stadtforschung und Strukturpolitik u. a. 2014). 公共でも民間でも生活基盤の供給能力は利用者数によ るので,人口規模が問題になる.将来の施設能力は人口 予測 2035 年に基づく.それによると,成長都市はそれ ほど重要でないが,人口縮小地域が問題となる.各項目 の状況は以下のようになる. ①保育所:2015 年には 3 ~ 6 歳児の保育所利用率 は 95%と高いが,3 歳までの育児需要は 43.2%に対 して実際の利用率は 32.9% であった.しかしこれには 地域差が大きく,3 歳未満児の利用率は新連邦州地域 の 50% 以上に対して,旧連邦州地域は 24%であった (Karte16)17). 2035 年には,経済的に強い大都市とその郊外におい ては幼児数が増加するのに対して,幼児数が著しく減 少して将来が危険な地域も存在する(Karte17).1 施設 67 人以上を維持するには,全国的には 1/10 の施設が危 険なものとなるが,新連邦州地域では 1/2 が危険となる. 人口希薄地域では保育所の廃止や規模縮小もありうる. すでに小規模化に対応している州もあるし,市町村間共 同作業や教会・市町村協力による対応もみられる.地域 的にはいろいろな制度的試みがある. ② 一 般 学 校: 基 礎 学 校(Grundschule) や 中 学 校 (Sekundarstufe Ⅰ ) は 居 住 地 近 く に あ り, 高 等 学 校 (Sekundarstufe Ⅱ)は中位中心地や上位中心地に立地す る.学校にとって問題となるのは高学歴化の傾向,州に よる学校制度の差異,公立・私立間の競争激化,住民の 国際化などの変化である.大学進学資格をとる生徒の比 率は最近 25%から 35% へと上昇しているが,バイエル ン州やバーデン・ヴュルテンベルク州では基幹学校・実 科学校(Haupt-u. Realschule)の卒業者が多い.基幹学 校中退比率は新連邦州地域で高い(Karte18). 2035 年には生徒数や学校数について都鄙間格差が著 しくなる(Karte19).中学生の徒歩通学は新連邦州の農 村地域だけでなく,全国のほぼすべての農村地域で 3㎞ 以内の規定が通用しなくなり,大都市以外の地域ではバ ス通学が増大するものと考えられる(Karte21). ③職業教育:2014/2015 年現在全国にある 8,858 の 職業学校では,通学者の 2/3 が 2 つの職業学校に通学 する.地域的な職業教育の市場は人口変化や経済構造に よって新連邦州の方が低い傾向がみられる(Karte22). 職業訓練の職種が少ないところでは装備が劣るので,遠 方の職業学校に通学することになる.農村地域では需要 減少のもとで,職業教育を長期にわたって維持するため のパイロット計画もみられる. 2035 年までには 18~24 歳人口は 17%減少するので, 職業教育の需要はさらに減少する(Karte23).旧連邦州 地域では 20%減少するのに対して,新連邦州地域は 5% の減少にとどまるであろうが,アクセスの悪い地域が広 がることになる(Karte25).この年齢層の人口減少によっ て,企業は職業教育の提供を減少するものと考えられる. ④薬局と診療所医療:これらの施設は徒歩で利用で きる近隣供給の中心をなすものである.Karte26 は自宅 から直線距離 1,000m 以内で利用できる人口比率の分 布を示したもので,郡独立市の住民の 90%が利用でき るが,北東部の農村(メクレンブルク・フォアポメル ン,ブランデンブルク,ザクセン・アンハルト州)や旧 連邦州の人口希薄地域などでは 1/3 の住民がこの条件 を充たすことができない.辺地では処方箋共同受取所 (Rezeptsammelstelle)が設置されているところもある. 2016 年末には全国 378,607 人の医師のうち 150,106 人は外来診療に従事する.家庭医は人口 1,771 人に 1 人 の割合で設定されているが18),その供給には地域差がみ られる(Karte27). 医療環境としては人口数による供給度以外に医院への アクセスも重要であり,家庭医から直線距離 1,000m 以 内に生活する住民の比率は大都市で高く,新連邦州地域 で低い(Karte28).メクレンブルク・フォアポメルン, ザクセン・アンハルト,テューリンゲン,ラインラント・ プファルツなどの州では 1,000m 以内に家庭医がいない 地域が 20%を超える.これには,バス利用の問題も加 わる. 外来診療医にとって魅力的条件の構築には,地域の支 援体制の強化をはじめ優れた不動産の準備,イメージ キャンペーンの実施など,幅広い措置が必要である.医 師の同伴者にとっての就業場所を探す援助も重要なもの になっている. ⑤入院病院と救急病院:2015 年には全タイプを含め
て 1,956 の病院があった.1991 年に比べると 1/5 の病 院が廃止され,民間病院は 15%から 35%に増加したが, 病床数は 1/4 減少して 499,351 になった.平均入院日 数が半減して 7.3 日となったため,稼働率も 84.1%から 77.5%へと低下し,最近,状況はますます悪化している. 最近では診療科目は増加し,複雑化し,構造変化もみ られる.通常の診療科目をもつ病院は中位中心地に集中 しており,全国人口の 95%は最近隣病院に 20 分以内 で到達できるが,新連邦州の人口希薄地域では 30 分以 上のところもある(Karte30).地域によっては高齢者 の増加にもかかわらず,2035 年までに需要が減少する ところもある.新連邦州地域では今日すでに高齢者が多 いが,将来高齢化率はそれほど高くならないとみられる (Karte31). ⑥外来介護と入院介護:1999 ~ 2015 年間に介護需 要は 200 万人から 290 万人に増加したが,将来はさら に著しい増加が予想される.とくに大都市郊外で急増す る.2015 年には 50 ~ 65 歳の予備軍人口 100 人に対 して,80 歳以上の高齢者は 26 人だったが,20 年後に は 47 人に増加する.ベルリンを除く新連邦州では介護 需要者の増加は比較的少ないが(Karte33),予備軍人口 に対する高齢化率は高くなる(Karte34).今日でも介護 職員は不足しており,収入増加や外国人採用などによっ て対応している. ⑦救急サービス:2012/2013 年には全国で年間 1,200 万件(人口 1,000 人当たり 147 件)の救急事件があった. 農村地域では高齢化,病院への距離,少ない家庭医など によって,さらに件数比率が高く,輸送距離は長くなる. また医師不足が救急医療をより困難にする.心臓病死亡 率については顕著な地域差がみられ,新連邦州地域で高 くなる(Karte35). ⑧消防:大都市や大規模上位中心地以外では,消防は ボランティア活動によって支えられ,その一部が行政に よって支援される(Karte36).消防は技術支援所や他 の組織と協力して災害防御の支柱を形成しており,大部 分の災害防御も住民のボランティアや名誉市民の活動に よって行なわれる.その際,農村地域においては消防団 員の多くは居住地で就業していないため,日中出動態勢 の維持が困難である.さらに,高齢者の退役に対して若 者の投入が少ないという問題もある.消防技術教育への 要求は高まるのに対して,専門教育を受けた団員が不足 するところが多い.消防は市町村界を超えた任務である ので,市町村間の規則や協力を通して,地元事情を考慮 した計画がより強化されねばならない. ⑨上水道の供給と下水処理:市町村の義務的任務であ り,若干の例外を除いて,全国隈なく行なわれる.2013 年には全人口の 97%が公共下水道に接続しているが, その 30%は 50 年以上経過して老朽化したものである. 1 人当たり水使用量は 1990 年の平均 147 リットルか ら 2013 年の 121 リットルへと減少した.新連邦州地 域は旧連邦州地域よりも約 10%少ない(Karte37).10 ~ 20%の稼働率低下は企業努力によって対応できるが, 30 ~ 50%も減少すると施設の撤去が要求される.上水・ 下水の稼働率低下による利用者負担の増加は数年前から 始まっている.使用料と関係する基本料金にも地域差が あり,ノルトライン・ヴェストファーレン州で高い.将 来の水使用量と稼働状況や料金への影響予測は不確実な ものとなる. ⑩ごみ処理:ごみ処理もこれまで全国的に処理されて きた.人口減少にもかかわらず人口当たりごみの量は増 加しており,2015 年には年間 1 人当たり平均 452㎏で, 東西比較でみると旧連邦州地域が多い.人口減少との関 連に加えて,高齢化率,経済状況,人口密度などの集落 構造が関係する(Karte41). 第6章 交通とデジタルインフラ 本章は,①地域における移動性と交通,アクセス,② 地域的移動性と交通アクセス,③実際の移動性とバー チャル・モビリティとの関係,④ブロードバンドの地域 的供給,⑤試験段階にあるデジタル生活基盤,⑥生活基 盤のデジタル化の条件,⑦デジタル化の空間的影響,⑧ 結論からなり,将来に向けてデジタル用具の発展に注目 する19). 交通は近代社会の活動にとって重要な前提条件であ る.最近数 10 年間に近代的情報技術の発達によって新 たな選択が生じ,空間克服を補足したり代替することが できるようになった.インターネットは多様なオンライ ンサービスと結合してバーチャル・モビリティを可能に し,種々の活動にとって具体的場所の意義を変化させる からである. ①地域における移動性と交通,アクセス:自家用車は 社会の近代的移動需要に応じて普及したが,最近 20 年 についてみると,それほど大きな変化はない.自家用車 所有率は全人口の 76%と高く,その利用は多くの地域で 支配的である(Abb.12).通学にはどこでも公共交通 が多く利用されるが,通勤交通では大都市を除くと自家 用車が多い(Abb.13)20).2030 年の交通予測によると, 人口変化に基づいて交通量はこれまでよりも 2%減少す る.農村地域では 8%減少し,とくに通学では 20%減少 する.公共交通や徒歩交通は 1/4 が減少するだろう.
は医師の電子カルテのオンライン利用がどこでも導入さ れることになる.人口希薄地域の学校教育では電話学習 (Tele-Lernen)の導入も検討されている.デジタルサー ビスは人口希薄地域の交通供給の最適化やコスト低下に 貢献するだろう. ⑥生活基盤のデジタル化の条件:今日生活基盤の種々 の分野でデジタル化の可能性について,パイロット計画 や研究計画が実施されているが,幅広い評価はまだ得ら れていないので先に進むのは困難な状況にある.人口希 薄地域における生活基盤の維持のために,多様なポテン シャルがあると考えられているが,ブロードバンドの整 備だけでなく,利用者の増加が必要である.今日デジタ ル機器の操作をマスターしている人は全国で 50%以下 である.農村には老人が多く,高学歴者,高所得者が少 ないし,インターネット教習所(Interneterfahrungsorte) も上位中心地・中位中心地に立地し,農村部ほど利用機 会が少ないという問題もある. ⑦デジタル化の空間的影響:多くのサービスは発展途 上の中にあって,デジタル化が進行した分野もある.多 くの銀行・貯蓄銀行支店が―まずは小規模な場所から― 閉鎖している.ミュンヘン中心部ではオンライン買物の 比率は 3 ~ 4%に対して,農村郡の最高では 19%となる. オンライン買物はこれまでの買物構造を変化させ,店舗 販売を弱体化させる.とくに魅力の乏しい中小中心地は インターネットへの購買移転によって打撃を受け,危機 的状況にある. 第7章 空間整備政策の結論 本章の要点は「主要な経験的成果」14 と「基本的な推奨」 28,「今後の研究問題」7の箇条書きにまとめられている. 「主要な経験的成果」はこれまでの説明と重複するので 省略するが,次の 2 項目についてはとくに重要な要点だ けを取り上げる. 「基本的な推奨」22):①人口減少時代には経済的基盤 の維持が重要であり,連邦や州には全体経済の成長に関 する枠組の維持が求められる.そこでは中心的インフラ への投資強化とともに教育,研究開発の振興が必要であ る.②全体的な経済戦略に対して地域的な側面攻撃も必 要であり,共同任務「地域経済構造の改善」(GRW)は 構造弱体農村や都市地域の経済基盤の維持に集中すべき である.インフラ振興の分野では,これまで以上に―ブ ロードバンドを中心に―地域的生活基盤の観点が重要で ある. ③共同任務「農業構造と海岸防御の改善」(GAK)の指 定地域は,人口減少の結果生活基盤が施設能力やアクセ ②地域的移動性と交通アクセス:生活基盤の公共施設 の利用にとって自家用車を利用しない人が,公共交通機 関でもって妥当な時間内に到達できるとき,アクセス基 準が維持できたといえる.その点でとくに問題になるの は,生徒数の減少による農村地域の通学バスである.交 通需要の乏しい農村地域では需要の大きい中心地に比べ て,公的支援が必要となる.需要の少ない地域における バス運行計画の第 1 の目標は,運行拡大のほかに,呼び 出しバスや乗り合いタクシーの導入などによって資金の 効率的利用をはかることにある. ドイツでは 7,000 万人以上(全人口の 88%)はバス・ 電車の停留所が徒歩圏内にあり,運行回数からみても良 好な状況にあるが,900 万以上の人は徒歩では到達でき ない(Karte44).大都市では 99.5%の人が徒歩で到達で きるのに対して,人口希薄地域では 8%の人は今日でも 公共交通機関を利用できないか,利用するとしてもきわ めて長い道を歩かねばならない. 上位中心地は通勤,買物,レクレーションなどの日常 の交通目的地として重要である.上位中心地を発着する 大部分の交通は 50km 以下の近隣交通であり,ドイツ人 の約 2/3 は自家用車で 30 分以内(97%は 1 時間以内), 公共交通機関では 1/3 だけが 30 分未満でもって上位中 心地に到達できる(Karte45)21). ③実際の移動性とバーチャル・モビリティとの関係: バーチャルな交通は実際の交通の一部を代替し,交通事 故の減少を期待することができる.しかしそれは非常に 複雑なメカニズムで,経験的成果は明確にはいえない. ④ブロードバンドの地域的供給:有能なデジタル・イ ンフラは重要な立地要因とみられるので,連邦政府は全 国隈なく有能なブロードバンドを適当な価格で供給する ことを計画しており,2018 年までに 50Mbit/s のブロー ドバンドの全国への供給に努力している.現在すでに都 市を中心に全国 75%の世帯が利用できる.不足地域は 新連邦州地域や旧連邦州でもアイフェル,ヘッセン北部, ニーダーバイエルン,シュレスヴィヒ北部などの辺地に 広がる(Karte48).辺地農村では,高い料金で接続した 地域と需要不足地域とが対照性をなしている. ⑤試験段階にあるデジタルによる生活基盤:医療,介 護,教育,行政サービス,交通など種々の分野において, 農村地域のデジタル化の可能性が注目されるようになっ た.最終的には,生活基盤への新たなデジタル成分の導 入によって,生活基盤には実際の立地分布とは別の要求 が生ずるだろう.もちろん,すべての分野で同じように 存在するわけではないが,実際のアクセスがオンライン・ アクセスによって置き換えられる.2018 年半ばまでに
ス問題に曝られている地域と空間的に重なる.生活基盤 の維持にとっては農村地域が重要課題であり,GAK は連 邦全域の指導的プログラムになるべきである.④同時に, 経済の強い地域の発展問題も無視できない.国際移民の 流入の結果,教育,統合,住宅建設など生活基盤への特 別な要求がある.⑤人口流入に関する地域的管理は基本 的にはできるだけ少なく,できるだけ自由にとどめるべ きであるが,農村地域の中心地が強化され再活性化され るような戦略は発展させるべきである. ⑦各州の中心地構想は国内の生活基盤の維持にとって 空間的骨格を形成するので,中心地とその勢力圏につい てそれぞれの条件を十分に満たしているかどうかについ て具体的な調査が必要である. ⑩辺地集落や孤立集落の戦略的撤退に関する論議は, 有能な集落核の維持のための地域的全体戦略と結びつけ て考えるべきであり,それによって中位中心地や基礎中 心地の安定を図るべきである. 人口変化の現状において,多くの議論や対応がすでに なされている.連邦,州,市町村は種々の問題を起こす だろう人口的な適合過程における第 2 の波23)に対して 準備している.それには,地域的生活基盤の基本的要素 やその資金調達に関する社会政策的コンセンサスが必要 である.国際移民もドイツ各地域の将来の人口発展・経 済発展にとって大きなテーマになるだろう. 今後の研究課題:①人口の地域分布や発展および社会 経済的構造によって生活基盤の需要が決定されるので, 将来の人口予測が研究課題となる.②行動計画「地域的 生活基盤」を通して,全国 21 のモデル地域が地域的生 活基盤の適合の下で支援されたが,これらの地域にとっ ては,さらなる発展と措置の実施を追跡するために今後 も監視が行われ,地域間のネットワークを構築して知識 の交換に利用すべきである.③「地域的生活基盤の行動 プログラム」に関するネットワークも実践や空間科学に 利用されるべきである.その際,都市・農村間や中心・ 周辺間における地域的生活基盤の維持において,いかな る共通性や差異に注目すべきかが問題となる. ④学問的には,地域的生活基盤において標準の新定義 が要求される.生活基盤に対する一定の措置によってい かなる結果が起こるかが問題であるので,結果との関係 から投入分野を定めるために,さらなる研究が必要であ る.⑤必要な最低限の需要や財・サービスの供給圏に関 する現実の経験に基づく発言が不足している.能力限界 に関する調査は,供給圏限界にとって基本的で,地域の 財政的に可能な生活基盤を維持するのに役立つ.将来緊 迫するであろう経済資源からみても,この調査はますま す重要なものとなるであろう. ⑥ずっと以前から多くの州では,中心地の階層区分や 概念的なさらなる発展が必要との認識を持ってきた.異 なる政策レベルによるこれまでの実施不足の理由が明か にされ,同時にあらゆる担当者を含めて,効果的な今後 の発展過程が促進されるような途が求められるべきであ ろう. ⑦生活基盤の維持のためのデジタル化のポテンシャル は,今後も追及されるべきである.生活基盤の維持のた めの可能な投入分野や限界が学問的に調査されるべきで ある.地元民のデジタル化の受け入れも重要なことであ る. III 読後感 ドイツは国際比較においてみると生活基盤がよく整備 されているが24),2035 年までの人口変化によって生活 基盤の地域格差は強化されるものとみており,本報告書 には実態の把握と対策に関する真剣な取り組みがみられ る.それにしても,再統一後多額の財政支援や公共投資 により四半世紀が過ぎた今日でも,新旧連邦州間に生活 基盤の種々な面において著しい格差がみられるのは注目 すべきことといえる. 冒頭で述べたように,本報告書は「生活基盤の維持」 を中心としており,これまでの報告書のようにすべて の項目について考察したものではない.とはいえ「生 活基盤の維持」は空間整備政策の中心をなすだけに25), 2011 年版の『報告書』(BBSR 2012)とも類似した内容 が多い.最も大きな関心事は将来の人口変化の影響と人 口希薄地域(農村地域)における生活基盤の維持にある. 将来人口については 2035 年の人口予測によるが,それ には国際移民の流入は含まれていない.もっとも,国際 移民が今後どの程度流入するかは予測困難である.移民 や移民起源の人は全人口の 21%を占め,旧連邦州の都 市部に多く居住する.移民はドイツの人口減少を阻止し 若返らせるが,教育,介護,言語習得,住宅問題などド イツ社会への融合が問題となると第 2 章で述べており, 第 7 章の「基本的な推奨」でもその重要性を強調している. ところで,ドイツの空間整備政策の目標は—最近では 成長目標が重視されるようになってきたが—「同等の 生活条件」ないしは「生活条件の同等性」の確立にあ る.連邦と州の空間整備閣僚会議(MKRO)による取り 決めに基づいて政策が実行されるが,実施権限は州にあ るため,実際の政策は州ごとに異なる.第 3 章の説明に おいて述べたように,中心地の人口や階層区分,圏域の
人口やアクセスの基準については州間の隔たりが大きい (Abb. 9,Tab. 3).したがって,各州内での同等の生活 条件の確立に努力し,州内の各地域において同等性が確 立されたとしても,ドイツ国内全域の同等性を維持する ことにはなりえず,全国的な「生活条件の同等性」目標 に抵触しないのかと疑問に思われる. また,中心地の認定における詳しい調査の必要性は『報 告書(2011 年版)』(BBSR 2012)においてすでに指摘 されていたが(森川 2017),それほど進展しているよう にはみえない.学校プールの閉鎖,図書館の開館時間の 短縮,劇場の処分,学校の衛生状況の悪化,スポーツ連 盟への助成金廃止など,2011 年版に記されていた深刻 な状況については説明が見当たらない.しかし,2013 年 5 月には全国 21 のモデル地域による小規模なパイロッ ト計画がスタートしており,行政,企業,ボランティア の担当者ネットワークによる行動計画が実施されてい る.本報告書では行政,企業,ボランティアの共同作業 を重視する方向性が現れている.第 7 章の「結論」には, 「主な経験的成果」をはじめ今後の「基本的な推奨」,「今 後の研究課題」がまとめられている. 2011 年版の『報告書』(BBSR 2012)と比べると,た しかに生活基盤に関する記載は詳しい.第 5 章では空間 整備に関係する児童保育,学校,職業教育,医療介護, 消防,救急,上下水道,ごみ処理などの専門計画が逐一 取り上げられ,将来の問題にも言及している.ただし, 民間企業に属する大型小売店の立地については,収斂要 請(中心地装備の標準への収斂)と妨害禁止の要請に関 する説明があり,郊外の「緑の牧場(grüne Wiese)」へ の進出によって都心や地区中心の弱体化を避けるべきと するにとどまる.さらに第 6 章ではデジタル・インフラ をより大きく取り上げているのが注目される.それは生 活基盤を助けるものと考えられるが,とくに人口希薄地 域の中心機能施設を破壊する存在でもある.その研究は まだ試験段階にあり,今後の進展が注目される. なお『報告書(2011 年版)』(BBSR 2012)では「成 長とイノベーション」との関連において強調された 「 大 規 模 責 任 共 同 体(grossräumige Verantwortungs-gemeinschaften)」については本報告書では触れていない. それは未刊行であり,おそらく別冊『競争力の強化』に おいて取り上げられるものと期待される. 『報告書(2011 年版)』では,人口減少率の高い農 村地域の地域計画では,秩序あるコンパクトな集落の 形成によるサービスの合理的供給が必要であるとして いるが,辺地の小規模集落の戦略的撤退まで含めたも のではなかった.本報告書では空間整備のモデル計画 (MORO)において戦略的撤退計画を辺地集落へ適合さ せる構想を発表している.それは費用対効果に適合しな い小規模集落の移転を意味するものであり,消極的再 開発(passive Sanierung)について考察したのは初め てである.ただし,これまでの地域とは違って,Aring (2010)が説くような,同等性を否定した自己供給空間 (Selbstversorgungsräume)に関する論議には触れてい ない. わが国のいくつかの白書と比較してみると,いずれの 白書にも現状分析も将来予測も全くなく,森川(2017) でも触れたように,詳しい分布図26)はひとつも掲載さ れていない.白書は行政活動の現状や対策・展望などを 国民に知らせるためのものであるが,現状説明を欠く状 況の下では国民が行政活動を理解することはできない. 『平成 28 年度国土交通白書』(国土交通省 2017)の「は じめに」には,「人口減少や少子高齢化,激甚化する災害, 加速するインフラ老朽化,きびしい財政状況など多くの 課題を抱えている」とあるが,それらの実態は全く示さ れていない.人口減少はすべての地域で一様に進んでい るわけではなく,国民は地域的に異なる人口減少の現実 を知ってはじめて行政活動の実態や意義を理解できるは ずである.『平成 20 年度国民生活白書』(内閣府 2009) には「国民の幸福度」の項があるが,インフラ装備の不 足する過疎地域の「地域の幸福度」については触れてい ない.『平成 29 年度文部科学白書』(文部科学省 2018) には「東日本大震災からの復興・創生の進展」はあるが, 人口激減地域における教育活動の問題点や対策は示され ていない.ついでにドイツの統計資料についてみると, 通勤距離や停留所(鉄道駅)までの距離,中心都市まで の距離など,わが国ではみられないものがあり,国民の 日常生活に重点を置くものが多い. わが国の白書には空間的な観点は皆無といってもよ い.このような状況と比較すると,ドイツの空間整備報 告書の内容がいかに優れているか,説得力のあるものか が感じられる.日本でも国民に国土の整備状況を正しく 知ってもらうために,白書の類とは別に『国土整備計画 アトラス』のようなものを政府が継続的に刊行すること を望みたい. 注
1)Deutscher Bundestag 18.Wahlperiode 2017.10.23 Stellungs-nahme der Bundesregierung は,第 18 期通常国会において報 告した『空間整備報告書(2017 年版)』の要約である.その S. 3(dip21:bundestag.de/dip21/btd/18/137/18137100. 2018 年 5 月 13 日閲覧 ) による.なお,『空間整備報告書 2011 年版』に
は6つの重要項目が掲げられていた(森川 2017). 2)注 1)の S.17 による. 3)注 1)S.4 によると,1990 ~ 2015 年間に約 500 万人が国外 から流入したといわれる. 4)再統一以来,旧西ドイツにおける都市と農村間の小地域的な差 異は東と西の大地域的発展傾斜によって覆い隠され,最近人口変 化によって先鋭化している(Deiters 2016). 5)『空間整備報告書(2011 年版)』では 2030 年が予測値として 使用された. 6)注 1)S.4 によると,全市郡 401 のうち人口密度 100 人未満の 68 を人口希薄の地域とする.2035 年には旧連邦州の 1/7(51 市郡)が人口希薄,新連邦州では 1/2(45 市郡)が人口希薄と なるという. 7)以下,本稿では重要な図表名のみを掲げることにする.実物は 文献(BBSR 2017)を参照されたい. 8)わが国では,最近都市化の影響を受けずに独自に人口増加した 農村地域があるとは思えない. 9)ただし,新連邦州では女性就業者は社会主義国であった再統合 以前から多く,今に始まったことではない . 10)多くの広域州では州内がいくつかの地域(Region)に区分さ れている.それぞれの地域の計画が地域計画(Regionalplanung) である. 11)空間整備の目標が重視されないのは,今日すでに空間整備の 標準値から外れたところが多く,目標達成が困難なためではない かと思われる. 12)ラインラント・プファルツ州のように,3つの上位中心地を 地域極(Regionpole)に選定して新たな道を進むところもある (Deiters 2016). 13)1965 年の空間整備法においては,後進地域の生活基盤を維 持するために中心地の認定が必要とされたが,各州で作成され た空間整備計画では州内のすべての地域に中心地が認定された (Deiters 2016)。ノルトライン・ヴェストファーレン州などで は圏域を持たない勢力圏を欠く中心地(Selbstversorgerorte)が 多く存在する。Pütz・Spangenberg(2006)によると,中位中 心地は全国 400 くらいに減少させることができるという。また, 各州間には圏域人口の著しい差異があり,いかに連邦制とはい え,「生活条件の同等性」目標に抵触し,中心地構想に基づく空 間整備政策は十分に機能しているとはいえないように思われる. 14)2015 年には中心地は 1/7 がその機能を他と分割所有している. 2005 年よりも機能分化した中心地の比率は 2.8 ポイント上昇し ている.中位圏の機能分化が特に高いという(Tab.4). 15)この問題については 2011 年版の『報告書』の方が詳しい説 明がある. 16)保育所,学校,消防・防災,救急,上水道供給,下水道排水, ごみ処理,エネルギー供給,郵便,情報通信,公共交通の 11 項 目である.本文中に示す①~⑩の説明は本文中に示す番号と対応 していない.なお,2011 年版の『報告書』でみられた空港利用 の利便性やヨーロッパ横断交通網(TET-T),大学などに関する 説明が本報告書では欠けているのは,日常的な生活基盤に含まれ ないためだろうか. 17)女性労働が盛んな社会主義国では保育施設が完備している. 再統一後4半世紀を経過したドイツにおいて,今日でも新連邦州 の保育施設がより充実しているのは驚きである. 18)『2011 年版報告書』(BBSR 2012:46)には人口 1,629 人当 たり1医師とあり,家庭医の密度は低下している. 19)『2011 年版報告書』(BBSR 2012:71-72)においてもブロー ドバンドに関する記述があるが,重要度は大きく前進しているよ うにみえる. 20) Abb.13 は,『空間整備報告書(2011 年版)』にみられるよう に(BBSR 2012:15;森川 2017),中核都市,周辺密集郡, 農村的周辺郡,農村郡に4地域に区分して通学,通勤,買物の際 の利用交通機関(徒歩,自転車,電車,バス,自家用車)の比率 を示したものである.わが国ではこのような図はみたことがな い. 21)公共交通機関による上位中心地・中位中心地へのアクセスは 全国の近隣交通データとドイツ鉄道の遠距離交通データ(時刻 表)から測定した . その場合に,全国 23 万の停留所を対象とし て次の 4 つの規準を設けた . ① 2016 年 6 月 7 日の 8 ~ 12 時ま でに到着した中心地を捜す,②到達時間まで 3 時間以上を要す る停留所は制限する,③上位中心地や中位中心地についてはそれ ぞれの市役所を目的地点とする,④出発地・目的地の停留所まで に要する時間はこのアクセス分析では考慮しない. 22)28 のうち省略した項目の中には,専門計画の問題や政策実施 における協力関係の強化を求めるもののほか,筆者の理解不能な ものも含まれる.以下,本文中では理解可能な項目についてのみ, 当該項目番号を付けて説明している. 23)第 1 の波が国内出生率低下による人口減少を指すのに対して, 第 2 の波は国際移民の流入を指すものと考えられる. 24)注 1)S.14 の Fazit(結論)による. 25)ドイツの空間整備の目標変化の中では「生活基盤の維持」と ともに,ヨーロッパ諸国との競争における成長牽引車としての 11 の大都市圏を中心とする「成長とイノベーション」が考えら れており(Deiters 2016),その比重は次第に高まっているよう にみえる。 26)全国の分布図が掲載されていたとしても都道府県単位(表も ある)であり,それ以上の詳しい分布図は皆無である. 文 献 国土交通省編 2017『平成 28 年度国土交通白書』,国土交通省. 内閣府編 2009『平成 20 年度国民生活白書』,内閣府. 森川 洋 2016「人口減少への転換期における日本の中小都市― ドイツとの比較において―」,地理科学,71-1:1-17. 森川 洋 2017「ドイツ『空間整備報告書 2011 年版』の紹介」, 都市地理学,12:119-136. 文部科学省編 2018『平成 29 年度文部科学白書』,文部科学省. Aring, J., 2010, Grossräumige Verantwortungsgemeinschaften (http://bfag-aring.de/.../Aring_2010_Verantwortungs
gemeinschaften:2016 年 10 月 20 日閲覧).
BBSR(Bundesinstitut für Bau-, Stadt- und Raumforschung), 2012, Raumordnungsbericht 2011. Bonn: BBR.
BBSR, 2015, Die Raumordnungsprognose 2035 nach dem Zensus. Bonn: BBR. (未見)
BBSR, 2017, Raumordnungsbericht 2017―Daseinsvorsorge sichern. Bonn: BBR(www.bbsr.bund.de/BBSR/DE/.../2017/ rob.2017.html:2017 年 11 月 10 日閲覧).
Deiters, J., 2016, Der lange Abschied von der Theorie und Politik zentraler Orte. zum Buch von Karl R. Kegler "Deutsche Raumplanung. Das Modell der 'zentralen Orte' zwischen NS-Staat und Bundesrepublik". Berichte. Geographie und Landeskunde 90-2, 157-176.
Institut für Stadtforschung und Strukturpolitik u.a., 2014, Untersuchung zur Anpassung von Standards im Bereich der Daseinsvorsorge vor dem Hintergrund der demografischen Entwicklung, Gutachten im Auftrag der Beauftragten der Bundesregierung für die neuen Bundeslander. Berlin: ISS. (未 見)
Pütz, T. u. Spangenberg, M., 2006, Zukunftige Sicherung der Daseinsvorsorge. Wie viele Zentrale Orte sind erforderlich?, Informationen zur Raumentwicklung 6/7-2006, 337-344.