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Opfer der Hexenverfolgung Yoshiko Noguchi Philosophische Fakultat, Anglistische Abteilung, Mukogawa Frauen-Universitat, Nishinomiya, Japan Die Hexenve

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Opfer

der

Hexenverfolgung

Yoshiko Noguchi

Philosophische Fakultat, Anglistische Abteilung, Mukogawa Frauen-Universitat, Nishinomiya, Japan

Die Hexenverfolgungen der Friihen Neuzeit in Europa sind in den vergangenen zwei Jahrzehnten in den Mittelpunkt des historischen und soziologischen Forschungs-interesses geriickt. Mit der Tatsache, daB vorwiegend Frauen der Hexerei angeklagt wurden, hat sich die neuere Hexenforschung allerdings nur unzureichend auseinan-dergesetzt. Bis jetzt gibt es deshalb nur wenige empirische Untersuchungen, die sich gezielt mit der Geschichte der Angeklagten unter Berucksichtigung des Geschlechts befassen. Dies versuchte beispielsweise Ingrid Ahrendt-Schulte in ihrer Fallstudie iiber die Hexenverfolgung in der Stadt Horn.

In dem vorliegenden Aufsatz wird versucht, auf der Grundlage der o.g. Dissertation reale Gestalten der Angeklagten naher zu betrachten. Die Dissertation untersucht an-geklagte Frauen zwischen 1554 und 1603 in der Stadt Horn in der protestantischen Grafschaft Lippe. Die Frauen wurden wegen Schadenzauber, der sowohl Krankheit, Tod, Armut, Unfruchtbarkeit als auch Zwietracht unter Eheleuten verursacht haben sollte, angeklagt und hingerichtet. Durch Schadenzauber einer Witwe war eine Frau krank geworden. Eine Nachbarin hatte eine Sau durch "uber den Riicken streichen" krank gemacht. Weil eine Frau mit einem Stein einem Paar das Kammerfenster einschlug, bewirkte dies beim Mann Impotenz. Es gibt hier eine Welt, in der man glaubte, ohne Hinrichtung der Hexe konne eigene Krankheit oder eigene Impotenz nicht geheilt werden. Die Furcht vor Folterungen veranlate fast alle Angeklagten, Schuld-bekenntnisse abzulegen, worauf sie durch Verbrennen hingerichtet wurden. Ein Mann machte Schulden bei einer Witwe. Als sie von ihm die Riickzahlung forderte, ver-weigerte er dies und wurde gewalttatig. Die Witwe rannte auf die StraƒÀe und drohte ihm dort. Das galt als Schadenzauber, da bei ihm Kiihe starben. Die Witwe wurde als Hexe hingerichtet. Dem Mann wurden seine Schulden erlassen. Daraus ergibt sich ein unglaubliches Drama, in dem das Gute und das Bose die Platze wechseln.

Damals war Schadenzauber jedem verstandlich. Er vererbte sich als Kunst unter den Frauen innerhalb der Familie. Das Paradigma nutzten die mannlichen Zauberer aus. Wenn z.B. ein Heiler einem Kind nicht mehr helfen konnte, bezichtigte er durch einfache Tricks eine bestimmte Frau des Schadenzaubers. Die Frau wurde als Hexe hingrichtet, wahrend der Mann unbestraft blieb. Der Zauber unterlag also je nach dem Geschlecht einem "double standard". Die Diskriminierung der Frauen im HexenprozeƒÀ war nicht das Ergebnis gezielter Frauenfeindlichkeit, sondern eines Denkens in

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魔女狩 りの犠牲者

野 口芳 子

武庫川女子大学文学部

1. 序 論 「魔 女 」 とい う言 葉 が持 つ イ メー ジ は実 に多 様 だ。 あ る人 に とって は ウ オ ル ト ・デ ィズ ニ ー が 描 く魔 女 、 邪悪 で長 い鉤 鼻 を持 つ 醜 い老 婆 で あ っ た り、 また 、 あ る人 に と って は絵 画 の 世 界 で デ ュー ラー や バ ル ドゥン ク が描 くよ うな 、裸 体 の若 い美 女 で あ った りす る。 な か に は、 テ レビ ドラマ の 影 響 で 「奥様 は魔 女 」 のサ マ ンサ の よ うな 、慌 て者 で コ ミカル な 美 しい妻 を 思 い浮 かべ た り、 人 気 ア ニ メ 「魔 女 の 宅急 便 」 や 「魔 女 っ子 メ グ ち ゃん」 の 主 人 公 の よ うに 、 可憐 で快 活 な美 少 女 をイ メ ー ジす る人 もい る。 い ずれ に しろ魔 女 は神 秘 的 で、 恐 ろ し く醜 い 、 ま た は優 し く美 しい存 在 、 フ ァン タス テ ィ ック な存 在 で あ る とい う捉 え方 が一 般 的 であ る。 今 日で は魔 女 は フ ィク シ ョンの 世 界 に登 場 す る架 空 の 人 物 で あ る。 しか し、 西 洋 で は現 実 に そ の 存 在 が 確 信 さ れ て い た時 代 が あ った 。 西 洋 の歴 史 を繙 く と、 様 々な文 献 が魔 女 の 実 在 を 明 らか に し て い る。 古代 の壷 や壁 画 は魔 女 の 存在 を現 実 の もの と して 訴 えて い る し、近 世 初 期 の 魔 女 狩 りで は 現 実 に多 くの女 性 が魔 女 と して 告 発 され、 処 刑 さ れて い る。 い った い ど うい う人 々が 、 この 魔 女 狩 りの 犠 牲者 で あ っ た のだ ろ う。 また 、何 故 この よ うな 悲 劇 が 起 こ り得 た の で あ ろ う。 16世 紀 か ら17世 紀 に か け て頂 点 を迎 え る魔 女裁 判 で は 、 被 疑 者 の8割 が 女 性 だ っ た とい う。1) あ との2割 は 男 性 と子供 で あ る が 、 い ず れ も魔 女 罪(Hexendelikte)と い う罪 状 で 処 刑 され て い る 。 男 も子 供 も包 括 す る魔 女 とは そ もそ も ど うい う存 在 な の か 。 魔 女 裁判 の被 告 人 に焦 点 を当 て な が ら、 空 想 の産 物 で は な く、 実在 す る人 物 と して 魔 女 を把握 し、 そ の 実 像 に迫 っ て い く。 と同時 に、魔 女 狩 り とい う社 会 現 象 を呼 ん だ そ の 背景 につ い て も考 察 して い く。 2.魔 女 狩 り の 概 況 魔 女 狩 りが頂 点 を迎 え る16世 紀 か ら17世 紀 とい う時 代 は 、 ル ネ サ ン ス芸 術 が 花 開 き、 近 代科 学 が 誕 生 した 時代 で あ った 。 理 性 重 視 の近 代 の夜 明け は、 魔 女 狩 りとい う狂 気 の曙 光 に染 ま って い た の で あ る。学 問 の発 展 や キ リス ト教 の普 及 に と もな って 、 迷 信 を排 除 し よ う とす る圧 力 が 強 ま り、 魔 女 狩 りの嵐 は ま す ます 激 し くな る。 魔 女 迫 害 がキ リス ト教 地 域 に特 定 さ れ る現 象 で あ るの は 、 キ リス ト教 が近 代 科 学 との 両 立 を最 も積 極 的 に推 し進 め た 宗 教 で あ った か らだ。 文 明化 、 倫 理 化 の 名 の 下 に 、 野生 の知 恵 や 自然 の 神秘 に生 きる人 間 を排 除 し、 摘 発 して い っ た の だ。 な か で も 「脱 魔 術 化 」 を ヨー ロ ッパ 近 代 に推 進 しよ う と した プ ロ テ ス タ ン トが率 先 して 、 「脱 魔 術 」、 「脱 呪 術 」 を 合

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い 言 葉 に 、 魔 女 を呪 術 の 世 界 に閉 じ込 め 、 迫 害 した とい う。2)自然 の 克 服 、 迷 信 の排 除 を 目指 す近 代 が 、 「魔 女 」 とい う新 た な迷 信 を生 む とい う矛 盾 を 内包 しつ つ、 立 ち 上 が って きた の で あ る。 「迷 信 は あ らゆ る悪 行 の 原 動 力 で あ り、 い ま だ に完 全 に根 絶 され て は い な い 」3)と い う言 葉 は 、 デ ィ レ ン ブ ル ク侯 国 内 の魔 女 火 刑 に関 す る論 文 の一 文 であ る。 そ こ には迷 信 に よ り悪 行 をな す 存 在 の 根 絶 を願 って 、 ひ た す ら魔 女 焚 殺 に血 道 を あ げ る 当局 側 の 焦 りが 泌 み 出 て い る。 ヨー ロ ッパ 中部 に数 次 に わ た って 深刻 な農 業 危機 が訪 れ るの は、1570年 か ら1690年 の 間 であ る。4) これ は魔 女 告 訴 の頻 発 時 期 と見 事 に重 な り合 う。 経 済 事 情 、 宗 教 規 制 、衛 生 問題 、 疫 病 流 行 、 医 療 事 情 な ど、生 活 の あ らゆ る方 面 に問 題 や変 革 が生 じて いた 激 動 の 時 期 に 、 人 々は不 安 と猜 疑 心 に苛 まれ 、 そ の心 は荒 み果 て て いた とい う。 魔 女裁 判 が頻 発 した地 域 は 、 フ ラン ス 、北 イ タ リア、 アル プス 地 方 、 ドイ ツ、 ベ ネル ク ス諸 国 、 ス コ ッ トラン ド、 ピ レネ ー 地 方 お よび 南 イ タ リア の カ トリ ック地 域 な どで あ る。 スペ イ ン半 島や ギ リシ ャ正 教 全地 域 な どで は魔 女 狩 りは 行 わ れ て い な い。 フ ィン ラン ド周 辺部 とア イ ス ラ ン ドで は 、 魔 術 はむ しろ 男性 の活 動 分 野 で あ っ た。1670年 に な っ て初 め て 、 ス ウ ェー デ ン、 フ ィン ラン ド、 ア メ リカ植 民 地 が魔 女 狩 りの 嵐 に巻 き込 まれ た 。 そ れ 以前 に魔 女 旋 風 に襲 わ れ た の は、 北 欧 で は デ ンマ ー クだ け だ 。 ハ ン ガ リー で は17世 紀 半 ば に吹 き荒 れ 、1730年 ま で続 い た。 魔 女 狩 りの 嵐 が 止 ん だ の は 、 オ ラ ン ダ で1600年 頃 、 フ ラ ン ス で17世 紀 半 ば 、 ドイ ツで1680年 頃 、 ポ ー ラ ン ドとボ ヘ ミ ヤ、 ハ ン ガ リー で は1700年 以降 、 イギ リスは1700年 以 降 で あ る。5) ヨー ロ ッパ 諸 国 の な か で も最 も激 し く魔 女 狩 りが行 わ れ た ドイ ツで は 、 新 旧両 教 と も こぞ っ て魔 女 撲 滅 に血 道 を あ げ 、1500年 か ら1749年 の 間 に3万 人 以 上 が 焚 殺 され た とい う。6)と くに、 ヴ ュ ル ツ ブ ル ク とバ ンベ ル ク で の 迫 害 は壮 絶 を 極 め た よ う だ。 ヴ ュル ツ ブル ク 司教 領 で は 、1616年6 月 か ら1617年6月 の1年 間 で300人 が死 刑 に さ れ、 バ ン ベ ル クで は1617年 の1年 間 で102人 が処 刑 さ れ 、 さ ら に、1659年 に は600人 の魔 女 を 火焙 り に した と伝 え る チ ラ シ(司 教 許 可 印付 き)が あ る。7)「そ の な か に は 、 庶 民 だ け で は な く医 者 、 市 長 、 聖 職 者 、 さ ら に は く司教 と一緒 に食 事 の 席 に つ いた>多 くの 身 分 の 高 い市 参 事 会 員 たち も入 って い た 」8)と い う。 農 村 で は じま った 魔 女 狩 りが 、 町 で猛 威 を奮 い 出す と、 名士 を巻 き込 ん だ ヒス テ リー 症 状 を呈 し 始 め 、 町 中 の 人 々が 告 発 の 恐 怖 に慄 きパ ニ ック状 態 に陥 っ た。 「明 日は 我 が身 」 とい う状 況 に な っ て 、魔 女 狩 りは初 め て 収 束 に 向 か う。 ドイ ツ最 後 の 魔 女 裁 判 は1775年 、最 後 の火 刑 は1749年(ヴ ュル ツ ブル ク)で あ る。ヨー ロ ッパ 最 後 の 火 刑 は1783年(ス イス)、 あ るい は 最 近 の 資 料 に よ る と1801年(ポ ー ラン ド)と言 わ れ て い る。9) 不 条理 な魔 女 処 刑 は近 世 初 期 の 事 柄 で は な く、 なん と前 世 紀 初頭 ま で続 い て い た こ とにな る。 3.「 魔 女 狩 り」 研 究 の 概 観 一 体 ど う して この よ うな 事 実 が 起 こ り得 た の で あ ろ う。 犠 牲 者 が 女 性 に集 中 した 「魔 女 狩 り」 は 、 西 洋 史 の恥 部 と して長 い間 触 れ られ ず 、 資料 の発 掘 や整 理 が 遅 れ て い る分 野 で あ っ た。 それ が 近年 にな って 急 に脚 光 を浴 び、 様 々な 分 野 か ら触 手 が の ば さ れ 「魔 女 」 研 究 の一 大 ブ ー ム が巻 き起 こ っ

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て い る。 そ の研 究 の概 況 につ い て 、 ま ず説 明 し よ う。 魔 女 狩 りの研 究 は、二 つ の 流 れ に 大別 で き る。す な わ ち 「魔 女 裁 判 を非 合 理 精 神 の産 物 、 した が っ て そ こで な さ れ た魔 女 の 自 白の 内 容 も拷 問 に よる で っち あ げ で 信 用 す るに足 りな い」 とす る合 理 的 ア プ ロー チ と、「民 衆 の 中 に 実 在 した 信 仰 世 界 へ 踏 み込 も う とす る」ロ マ ン 的 ア プ ロー チ で あ る。10) 魔 女 を妄 想 と捉 え る前 者 は 、 魔 女 現 象 を 引 き起 こ した 知 的 エ リー ト層 の魔 女 観 念 に焦 点 を当 て た 研 究 方 法 を、 魔 女 を実 在 とと ら え る後 者 は、 魔 女 狩 りの 犠 牲 にな った一 般 民 衆 の信 仰 に光 を当 て た 研 究方 法 を とる。11) W.G.ゾ ル ダ ンは 魔 女 観 念 は 古代 地 中海 世 界 、 特 に ロー マ の異 教 的観 念 がキ リス ト教 的 解 釈 を 施 さ れ て 出来 上 が った と説 き、J.ハ ン ゼ ン は教 会 が 異端 審 問 の 中 で発 達 さ せて きた 魔 女 観 念 が世 俗 裁 判 所 に入 り、 大 迫 害 の 時代 が始 ま っ た とい う説 を打 ち立 て た。12) ロ マ ン的 ア プ ロー チ の 代表 者 はJ.グ リム とJ.ミ シ ュ レで あ る。 グ リム は昔 の ゲ ル マ ン の信 仰 や慣 習 の 中 に、 魔 女 観 念 を見 よ う と し、 魔 女 を 「古 代 の 女 神 信 仰 々か ら派 生 した存 在 」 と見 る。13) 一 方、 ミシ ュレは 階 級 的搾 取 と性 差 別 とい う抑 圧 の 中 で 自然 人 と して生 き る女 性 を、 魔 女 と して捉 え て い る。 魔 女 被 疑 者 の無 罪 を確 信 し、 裁 判 記 録 を 見 直 す彼 の視 点 は、 フ ェミニ ズ ム ・ア プ ロ ー チ の先 駆 け と もい え る。14)キリス ト教 以 前 の 豊 饒 信 仰 の 存 続 を 魔 女 の 実 体 とす る見 解 で一 世 を靡 した の が、M.マ レー で あ る。 この見 解 はオ カル トブ ー ム に乗 って、 特 に英 米 圏 で 一 時 期 強 い 支持 を得 た が、 最 近 、C.ギ ン ス ブ ル グ が古 代 デー モ ン 儀 式 の存 在 を強 調 した こ とに よ り、 再燃 して い る観 が あ る。15) 戦 後 ドイツ の 魔 女 研 究 の主 流 は、 魔 女 を妄 想 の 産物 と考 え る合 理 的 ア プ ロー チ で あ る。 そ の代 表 がH.R.ト レヴ ァー=ロ ーバ ー であ り、 宗 派対 立 と魔 女 狩 りを関 係 づ け た 点 で 画期 的 な研 究 とい え る。16)魔女 と魔 女 裁 判 を民 衆 信 仰 とキ リス ト教 会 の対 立 と して捉 え る見 方 を覆 したの が、 イギ リ ス のA.マ クフ ァー レン で あ る。 彼 は 人 類 学 の成 果 を取 り入 れ、 魔 術 を村 落 共 同体 の社 会 機 能 と考 え る こ とに よ っ て 、方 法 論 的 大 転 換 を 促 した 。 「魔 術 は 民衆 生 活 に 内在 的 で 普遍 的 な もの と して 存 在 し、 魔 女 狩 りは む しろ社 会 経 済 的 変 動 期 に お け る村 落 共 同体 の 変 化 、 新 しい 行動 様 式 と伝 統 的 モ ラル の 葛 藤 の 中 で生 ま れ て くる現 象 」 と捉 え て い る。17) ギ ンス ブ ル グ に よる シ ャー マ ニ ズ ム 的 研 究 、N.コ ー ンの 魔 女 狩 りの 精 神 的起 源 に関 す る研 究 な ど と並 ん で 、1970年 代 に は 、H.C.E.マ イ デル フ ォー トの 実 証 的 研 究 が現 れ る。1562年 か ら 1684年 まで の 西 南 ドイ ツ を 中 心 とす る魔 女 狩 りの調 査 研 究 は 、 地 域 的 実 証 研 究 ブ ー ム を 引 き起 こ す 。 70年 代 は 同 時 に、 フ ェ ミニ ズ ム に よ る魔 女 解 釈 が な さ れ た時 期 で もあ る。 ア メ リカ のB.エ ー レン ム イ ク 、D.イ ン グ リ ッシ ュ共 著 『産 婆 ・魔 女 ・看 護 婦 』(1973年)が そ の先 駆 け で あ ろ う。 「自然 と近 くこれ に親 しみ な が ら人 々の 治療 を行 っ て きた 女 性 が 、 文 明 の 医学 で武 装 した 男 性 の 権 力 に よ って排 除 され 、屈 服 せ しめ られ る過 程 こそ が魔 女 狩 りの 歴 史 だ 」 とい う理 論 で あ る。18)この 主 張 は フ ェ ミニ ス トの 共 感 を呼 び、 魔 女=産 婆(自 然 に近 しい、治癒 す る賢 女)と い う理 解 が一 般 化 す る。 この見 解 を さ らに推 し進 め 、 フ ェ ミニ ズ ム的 研 究 と して 体 系化 した の が、 ドイ ツのC.ホ ー ネ ッ ガー で あ る。 著 書 『近 代 の 魔 女 』(1978年)は 、 魔 女 狩 りを ヨー ロ ッパ の 文 明化 に伴 う社 会 規

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範 と文 化 価 値 の変 動 とい う文 脈 の な か で捉 え、 女 性 を魔 女 と して 迫 害 す る の は、 結 局 、 制 御 力 に欠 け る衝 動 的 行 動 を女 性 に 自制 させ る とい う こ とに、 エ リー ト男 性 が 関心 を抱 い た か らで あ る と説 い て い る。19)自らの歴 史 を書 き残 して い な い被 疑 者 の 実 態 を、 文 書 資 料 を残 した 男 性 の 視 点 に よ る研 究 で 実証 して い くこ との 限 界 を 指摘 さ れ つ つ、フ ェ ミニ ズ ム的 研 究 理 論 はG.ハ イ ゾー ン、とO.シ ュ タイ ガ ー に継 承 さ れ て い く。その 共 著 『賢 女 の 抹 殺 』(1985年)は 、「近 世 の 国 家 は そ の 人 口政策 の た め 女性 の 出産 管 理 能 力 、特 に産 婆 の持 つ 中 絶 技 術 を魔 女 迫 害 に よって 根 絶 や しに す る必 要 が あ っ た」 と主 張 す る。 この 説 は多 くの 人 々の支 持 を得 、 産 婆=魔 女 の ス テ レオ タ イ プ が 一人 歩 きす る。20) 80年 代 以降 、 史 料 に即 した 実 証 的 な 研 究 が 女 性 の 歴 史 学 者 に よ っ て行 わ れ、 従 来 の机 上 の研 究 理論 か ら脱 却 した、 実 証 的 フ ェ ミニ ズ ム理 論 が打 ち 出 され る よ うに な る。H.ヴ ン ダー は プ ロイ セ ン を 中心 に した ドイ ツ北 部 の 実 証 研 究 を行 い、 魔 女 像 の な か に男 性 の性 交 能 力 へ の不 安 と夫 婦 関 係 にお け る主 導 権 争 い との 関 連 を見 る。 女 性 の無 秩 序 さや諍 い 好 きに対 す る非 難 は、 女 性 が性 役 割 の 境 界 を越 え た こ とに対 す る批 判 を 暗示 し、 そ こに は夫 婦 関 係 の 葛藤 と魔 女 告 訴 の関 連 が見 え隠 れ し て い る。21)また 、 イ ギ リス のC.ラ ー ナ ー は キ リス ト教 化 に伴 って 、 女 性 に対 す る社 会 的 抑圧 が 強 化 され た 結 果 、 逸 脱 した 行 為 、 す な わ ち、 子 殺 し、 淫 行 、姦 通 な どの 女 性 犯 罪 が16世 紀 以 降 急 増 す る とい う文 脈 の な かで 、 魔 女 狩 りを理 解 す べ きだ と主 張 す る。C.カ ー ル ソ ン も同様 に魔 女 告 発 を ジ ェン ダ ー規 範 違 反 に対 す る制裁 手 段 と捉 え、 魔 女 告 発 を促 す 葛藤 状 況 を分 析 して い る。 土 地 の 不 足 、相 続 規 定 の変 更 、 結 婚 年 齢 の上 昇 に伴 う未 婚 女 性 の 増 加 、 宗 教 的理 由 に よ る女 性 の 自立 な ど の 諸 要素 が魔 女 迫 害 の 機 運 を もた ら した とい うの だ。22) 一 定 の地 域 の裁 判 記 録 を丹 念 に読 む作 業 に よっ て 、 魔 女 被 疑 者 の 実 像 に迫 る研 究 が待 た れ て い た こ ろに現 れ た の が、M.ク ン ツ ェの博 士 論 文 で あ る。 便 所 掃 除 人 パ ッペ ン ハ イ マ ー が無 実 の 罪 を き せ られ て 、1600年 に魔 女 と して処 刑 さ れ る顛 末 を克 明 に 描 い た クン ツ ェの 博 士 論 文(1981年)は 出 版 され、 一 躍 ベ ス トセ ラー とな る(1982年)。 『火 刑 台 へ の 道 』は実 証 的 研 究 の 先 駆 的 著 書 とい え る33) た だ 、この裁 判 で処 刑 さ れ た6人 の魔 女 は 男 性4人 、女 性1人 、男 児(11才)1人 とい う内 訳 で 、 魔 女 裁 判 で は少 数 派 の男 性 被 疑 者 に焦 点 を 当 て た研 究 とい え る。 そ こで は 、 非 定住 の放 浪 人 を魔 女 と し て 公 開 火刑 に処 す こ とで 、 頻 発 す る犯 罪 阻止 を狙 った 行 政 側 の 政 策 と して 、魔 女 狩 りが位 置 付 け ら れ て い る。 魔 女 狩 りの 犠 牲 者 は 大 多数 女 性 で あ っ た こ とが 知 られ て い る今 日、例 外 的 裁 判 では な く、 一般 的裁 判 を扱 っ た実 証 的 調 査 に よ って 、 な ぜ、 女 性 が処 刑 され た の か とい う疑 問 に答 え る研 究 が 待 た れ る と ころ だ。 パ ッペ ンハ イ マ ー裁 判 は 例 外 的 にそ の記 録 が完 壁 な形 で 残 され て い るが 、一 般 に魔 女 裁 判 資 料 の 残 存 状 態 は極 め て悪 い。 しか し、 一 つ の村 や 町 に おけ る魔 女 被 疑 者 の 姿 が 鮮 明 に浮 か び上 が って く る研 究 が 出 て来 な け れば 、 魔 女 狩 りの犠 牲 者 の実 像 はぼ や け た まま で あ る。 そ の研 究 に挑 んだ の が I.ア ー レン ト=シ ュル テ とJ.コ ッペ ン ヘ ー フ ァー で あ る。 ア ー レン ト=シ ュル テ は リ ッペ 伯 爵 領 国 ホ ル ン市 に お い て、 コ ッペ ン ヘ ー フ ァー は ナ ッサ ウ侯 国 で 、 各 々そ の 地域 で の魔 女 裁 判 記 録 を 綿 密 に調 べ、 そ の結 果 を分 析 し、 考 察 した。 そ こに は、 両 地 域 の 最 盛 期 の魔 女裁 判 事 例 が紹 介 され て い る。 す な わ ち、 ホル ン市 が1556年 か ら1603年 の 間 、 ナ ッサ ウ 侯 国 が1559年 か ら1687年 の 間 で あ る。裁 く側 の文 献 を 中心 に した 研 究 で は な く、 裁 かれ る側 の 資 料 を 中 心 に した実 証 的 研 究 を通

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じて 初 め て 、魔 女 狩 りの 実 体 を正 確 に把握 す る こ と も、 魔 女 狩 りを ジ ェン ダー視 点 か ら冷 静 に考 察 す る こ ともで きる の で あ る。 その 意 味 で 、 画期 的 な地 域 実 証 研 究 を重 ね る女 性 の研 究 者 が ドイ ツ に 続 出 して い る現 状 に は、 目を見 張 る もの が あ る。 こ こで は上 記2地 域 にお け る実 証研 究 の うち、 ジ ェン ダー 視 点 を持 つ 最新 の研 究 と もい え るア ー レン ト=シ ュル テ の博 士 論 文 を中 心 に 、 ホ ル ン市 の資 料 に 当 りなが ら、 魔 女 狩 りの犠 牲 者 の姿 を見 て い く。 そ の うえ で、 魔 女 狩 りの 実 体 とそ の 背 景 に つ い て ジ ェン ダー 視 点 か らの考 察 を試 み る。 4.魔 女 狩 りの 犠 牲 者 ― ホ ル ン市 の 場 合 ― 1)ホ ル ン市(1554年-1603年)の 概 況 ア ー レン ト=シ ュル テ の 博 士 論 文 『ホ ル ン市 に お け る魔 女 』24)に そ って 、 ま ず ホ ル ン 市 の 場 合 を見 て い こ う。 ホ ル ン 市 は リ ッペ伯 爵 領 に あ る 町 で、16世 紀 末 の 人 口は1600人 で あ る。 宗 教 は ル ター 派 中 心 の プ ロ テ ス タ ン トで 、 ノ ル トライ ン=ヴ ェス トフ ァー レン 州 の 魔 女狩 りの 中心 地 の 一 つ と して 、 主 に女 性 に魔 女 判 決 を下 した 町 で あ る。25) 1554年 か ら1603年 の 間 に 、 ホ ル ン市 で は20人 の 女 性 が 魔 女 と して 告 発 され た 。 そ の うち の17 人 が 刑 に処 され 、1人 は 獄 死 し、2人 は 自 白 しな か った の で釈 放 さ れ た。 被 告 人 か ら同 罪 者 と して 名 前 を挙 げ られ た うち 、13人 が嫌 疑 事 実 不 十 分 で 不 起 訴 処 分 とな った 。 そ の な か に は 男性1人 と 子 供2人 が 含 ま れ て い た。他 に捜 査 手 続 きが 開 始 され るや 否 や 、町 か ら脱 出 した 女 性 が1人 い た 。26) 処 刑 され た者 は す べ て女 性 で 全 員 火 刑 、男 性 と子 供 の被 疑 者 は不 起 訴 処 分 止 ま り とい う事 実 は 、ジ ェ ン ダー 問題 で な くて なん で あ ろ う。 魔 女 や害 悪 魔 術 を女 性 の もの と捉 え る共 同体 の コ ン セ ンサ ス が あ った か ら こそ で は な いの か 。 2)害 悪 魔 術 で告 訴 され た 魔 女 被 疑 者 ホ ル ン 市 に残 って い る最 も初 期 の裁 判 記 録 は1554年10月17日 の グ レー テ.ム ラー の 裁 判 で あ る。 彼女 は左 官 ザ ン ダー ・ム ラー の寡 婦 で 、 息子2人 は共 に結 婚 して 同 市 に住 ん で い た。 年 齢 不 詳 だ が 、 息 子 の 歳 か ら見 て 、 少 な く と も40才 以 上 で あ った と思 わ れ る。 裁 判 当 日、彼 女 は 閉 じ込 め られ て い た城 塔 の牢 獄 か ら中 央 広 場 ま で 、粉 屋 の車 に乗 せ られ て 連 行 され た 。粉 屋 は 自殺 者 を始 め 不 名 誉 な行 為 を した人 の 運 搬 人 と決 め られ て い た。 魔 女 は地 面 に触 れ る と不幸 を招 く と信 じ られ て い た の で 、 必 ず 粉 屋 の 車 で 市 中 引 き回 しの上 、 処 刑 場 に運 ば れ た 。 彼 女 は 自分 の 罪 状(害 悪 魔 術 で 人 や 家 畜 を病 気 に した り、 殺 した り した)を 否 定 せ ず 全 て 認 め、 悪 魔 の イ ン ス ピ レー シ ョン に よ っ て 悪 事 を働 か さ れ る羽 目に陥 った と主 張 す る。 制 御 力 に欠 け る 「女 性 の 弱 点 」 と 「罪 深 さ」 を強 調 す る こ とに よっ て、 自分 が 犯 した 罪 を悪 魔 に仕 組 ま れ た 「罠 」 と し、 温 情 判 決 を期 待 した。 火 刑 で は な く、追 放 刑 を望 んだ 故 の 罪 状 認 定 で あ っ た。 しか し、 悪 魔 との 関 わ りを持 ち 出 して の弁 論 は 説 得 力 に欠 け、 結 局 、 魔 女 と化 した 体 は 灰 に して甦 りを断 つ 意 味 で も火 刑 が 相 応 で あ る とい う判 決 が 下 され た 。27)身に覚 えの な い 罪 を認 め、 焚 殺 を逃 れ る た め必 死 の弁 明 を試 み た に もか か わ らず 、 グ レー テ ・ム ラ ー は火 刑 に処 され た 。 罪 状 を否 認 し、 自 白 を拒 否 して も、拷 問 に よる 自白 が強 い られ 、

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どの み ち 火刑 に処 さ れ る運 命 にあ るの な ら、拷 問 で痛 め つ け られ な か った だ け、 ま だ幸 せ だ った の か も しれ な い。 1587年 、 ア ン ナ ・シ ュ トル クは 夫 に対 して 不 貞 を働 き、 魔 女 と して訴 え られ た。 彼 女 は罪 を認 め 、 グ レー テ 同様 、 女 性 の 弱 さ、 罪 深 さ か ら、 悪 魔 の 誘 惑 に負 け て姦 通 を犯 した と主 張 し、 温 情 判 決 を待 っ た。 期 待 どお り彼 女 は 悪 魔 の誘 惑 の犠 牲 者 と認 定 され 、魔 女罪 で は な く姦 通 罪 が 適 用 され た 。 グ レー テ の場 合 との 相 違 は 、 ア ン ナ が犯 した罪 は姦 通 で あ り、 害悪 魔 術 で は な い とい う こ とだ 。 そ れ が この場 合 、 裁 判 の 明 暗 を 決 した とい え る。28) 1603年12月22日 、 寡 婦 ア ン ネ ッケ ・グ ロー ネ が 害 悪 魔 術 で人 を病 気 に した罪 で、 火 刑 に処 さ れ た 。 訴 えた の は墓 堀 人 リヒ トで 、 彼 の 妻 イ ル ゼ ・リヒ ト(30歳 代)を 中 傷 し、 病 気 に した罪 で告 訴 した の で あ る。 イル ゼ は 自分 の 病 は魔 女 ア ン ネ ッケ を処 刑 しな け れ ば 治 らな い と確 信 し、 彼 女 を 処 刑 して病 と貧 困 か ら解 放 され る こ とを切 望 す る。 当局 は 真 偽 の鑑 定 を マ ー ル ブル ク大 学 法 学部 に 依 頼 し、 自白 が必 要 とい う鑑 定 結 果 を得 る。 拷 問器 具 を見 せ られ る と、 ア ン ネ ッケ は怯 えて 罪 を 告 白 し、害 悪 魔 術 行 使 に よ る魔 女 罪 が確 定 す る。29) 害悪 魔 術 とは い か な る もの か とい う と、人 や家 畜 に病 気 、 怪 我 、 死 を もた らす 魔 術 、 嵐 、雹 、 水 害 な どの災 害 を呼 び、 作 物 に害 を 与 え る魔 術 、 夫 婦 に不 和 、 不 能 、不 妊 、 貧 困 を もた らす 魔 術 を さ す 。 害悪 魔 術 に使 う秘 薬 の 作 成 と使用 法 に 関 して は、 被 告 人 プ ラス グ レー テ が詳 述 して い る。 魔 術 の秘 薬 は 「薬 草 に イモ リ と蛇 とひ き蛙 を焼 い て粉 末 に した もの を入 れ て作 り、 この 秘 薬 を穀 倉 や 家 に投 げ 入 れ た り、 牛 の 餌 や 水 に混 入 した り、 人 が飲 む ビー ル の 中 に 入 れ た り」 す る そ うだ 。 そ う し て病 気 や死 や貧 困 を招 くの だ とい う。30) プ ラス グ レー テ は 、1563年7月12日 、 市 の 財 務 部 長 ニ ー ベ ッ カー に よ り、 彼 の 妻 が 病 気 に な っ た の は彼 女 の魔 術 の せ い だ と告 訴 され た。 反 論 して も無 駄 で 、 彼 女 は捕 縛 さ れ監 獄 に拘 置 され た 。 裁 判 の と き彼 女 は起 訴 事 実 を認 め よ う と しな か っ た が、 拷 問 器 具 を 見 せ られ る と恐 くな り、 害 悪 魔 術 の 使 用 を認 め た 。 彼 女 は 魔 女 仲 間 の名 前 を4人 挙 げ 、魔 術 を習 っ た の は この 人 々か らだ と言 い 張 った。 彼 女 の挙 げ た名 前 は ポ イ ゼ ン ダ ー ル家 の女 性 た ち で 、 市 参事 会 員を務 め る名 門 一 家 の 女 性 た ち で あ った 。 町 の噂 に詳 しい プ ラス グ レー テ は エ リー ザ ベ ト ・ポ イゼ ン ダー ル(60∼70歳)を 魔 術 の 先生 と して告 発 した 。 エ リー ザ ベ トに は 次 の よ う な魔 女 の 噂 が 立 って い た。 エ リー ザ ベ トの 娘 が 結 婚 した 相 手 は 、 妻 の 死 後18週 間 しか 経 って いな い の に再 婚 した。 これ は死 後6ケ 月後 とい う 規 定 を無 視 して い る。 彼 の 前 妻 が 死 ん だ の は 、実 は エ リー ザ ベ トが 彼 を娘 の婿 に す るた め 、 前 妻 の 死 を 願 った か らだ。 他 に も、 伯 爵 の 犬 が エ リー ザベ トの 犬 を襲 った と き、伯 爵 に呪 いの 言 葉 を 吐 い た 。 伯爵 が死 ん だ の は彼 女 の 呪 い の せ い で あ る、 とい う よ うな 噂 で あ る。31) この告 発 で、 裁 判 は一 挙 に、 町 の 上層 部 を巻 き込 んだ 政 争 が らみ の誣 告 へ と発 展 す る様 相 を呈 し 始 め た。ポ イゼ ン ダー ル 家 側 は 有能 な弁 護 士 を雇 って 、必 死 の弁 論 作 戦 に 出た 。弁 論 が功 を奏 し、害 悪 魔 術 に よる被 害 が具 体 的 に挙 が って い な い との理 由 で、 エ リー ザ ベ トに は釈 放 の判 決 が 出 され る。 市 の 有 力者 で あ り富 裕 層 の 女 性 と、 貧 しい下 層 の女 性 に対 す る裁 判所 の扱 い の相 違 に憤 った プ ラス グ レー テ は、 火刑 台 の上 か ら裁 判 の 不平 等 を声 高 に訴 えて 果 て た とい う。32) プ ラス グ レー テ は記 録 に名 が な く、姓 の み の記 載 で済 ま され て い る。彼 女 の 出 自に関 す る記 録 は

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な く、姓 か ら推 測 す る と、 近 郊 の 村 か ら女 中奉 公 の た め町 に来 た 貧 しい 下 層 農 民 出 身 と思 わ れ る。 家 族 や親 戚 関係 に 関 す る記 述 もな い 。 結 婚経 験 の有 無 も不 明 で、 告 訴 時 点 は 一 人暮 ら しで あ っ た。 魔 女 で あ る とい う噂 が町 に広 ま って お り、過 去 に魔 女 裁 判 で告 訴 され た 経 験 が あ る とい う、 魔 女 の 典 型 ともい え る条 件 を備 え て い た。33)なぜ な ら 「魔 女 罪 を決 定 す る最 も重 要 な判 断 の基 準 は、 魔 女 被 疑 者 の素 姓 で あ っ た」34)か らだ 。 3)害 悪魔術 は女性の間で伝達 される技 過 去 に親 戚 関係 か ら魔 女 被 告 が 出て い る場 合 、告 発 さ れ る と裁 判 で 火 刑 を免 れ る こ とは ま ず な い。 とい うの は 、魔 術 は女 性 か ら女 性 へ 伝 達 され る とい う、 共 通 認 識 が あ った か らだ 。主 に家 の 中 で伝 え られ 、血 縁 関係 が な い姑 か ら嫁 へ の 伝 達 もあ る し、 母 か ら娘 、 孫 、 姪 な どへ の伝 達 もあ る。 秘 薬 の 作 り方 を見 て もわ か る よ う に、 一 種 の 職 人技 で、 魔 術 が技 術 と して 認 識 され て お り、家 計 に寄 与 す る とい う役 割 も担 って いた 。 主 婦 と魔 女 は共 通 の能 力 を持 つ。 煮 る、 醸 造 す る、保 存 す る な ど、 料 理 は変 化 さ せ る とい う点 で 、 魔 術 と似 通 って い る。 牛 乳 か らバ ター へ 、 パ ン か らビ ー ル へ、 生 か ら煮 物 へ 、腐 敗 食 品 か ら保 存 食 品 へ の 変 化 は一 種 の魔 術 で あ る。 また 、 女 性 の体 液 は変 化 や腐 敗 を 阻 止 す る能 力 が あ る とされ 、 現 実 に も女 性 の 体 は変 化 を遂 行 す る容 器 にな った り(妊娠)、 食 料 そ の もの にな った り(授乳)す る。変 化 を 引 き起 こ し、 調 節 す る女 性 の 能 力 が、 魔 力 を引 き起 こす 、35)と 考 え られ た の だ。 この 頃 の女 性 は料 理 だ け で は な く、 食 料 の 生産 、 管 理 全 般 に携 わ って い た 。 女 性 の仕 事 は多 岐 に わ た り、 馬 以外 の家 畜 の 世 話 、 乳 絞 り、 餌 付 け 、放 牧 、 家 畜 小 屋 の 掃 除 、 バ ター や チ ー ズ な ど乳 製 品 の 生産 、販 売(市 場 で)、 菜 園 作 り と野 菜 の 販 売(市 場 で)、 家 畜 取 引 な どだ 。市 場 で の販 売 活 動 で 収 入 が あ る女 性 は、 家 庭 経 済 に お いて 重 要 な 役 割 を演 じ、 そ の労 働 力 は 家 計 を支 え る うえ で不 可 欠 な もの とみ な さ れ て い た。36) ビー ル やバ ター な ど女 性 の 製 造 品 は 、 主 と して家 族 の需 要 を満 た す た め の もの で あ った が、 市 場 で の 販 売 は黙 認 さ れ て いた 。 女 性 の 生 産 技 術 は 次第 に 向上 し、 職 人 並 み の 腕 前 の者 も出現 し、 技 術 の 細 や か さで 男性 を上 回 る者 も現 れ た 。 市場 で 売 られ る商 品 に人 気 が 集 ま る と、商 店 の 品物 の売 れ 行 きが 落 ち 、売 上 が減 少 す る。 思 わ ぬ ライ バ ル の 出現 に、 男 性 の 職 人 は 身 構 え、 女性 が職 人 の世 界 に参 入 す る こ とを拒 否 し、 競 争 か ら締 め 出 そ う と躍 起 に な っ た。 そ こか ら、 女性 が醸 造 した ビー ル を飲 む と病 気 に な っ た り、 死 ん だ りす る。 魔 術 で毒 を混 入 して い るか らだ 、 とい うス テ レオ タ イ プ の 非 難 が繰 り返 さ れ る こ とにな る。 これ は ビ ー ル醸 造 業 ツ ン フ トが 、 競 争 相 手 で あ る女 性 を 中傷 し た もの と解 釈 で きる。37) 14世 紀 頃 、 人 口に 占 め る女 性 の 比 率 が 過 剰 とな る と扶 養 問題 が起 き、 女 性 は 手 に職 を持 つ よ う にな った。 紡 績 業 を初 め 多 くの 職 業 に 女 性 が就 き、 女 性 マ イ ス ター まで 出現 し、 ツ ン フ トも女 性 を 受 け 入 れ た 。 染 物 師 、 仕 立 て業 、 木材 業 、金 属 業 、 小 売 り業(バ ター 、 チ ー ズ 、 牛 乳 、 卵 、 鶏 、 果 物 な ど)、教 師 、 楽 士 、 医 者 な ど各分 野 に女 性 が進 出 した 。 そ れ が15世 紀 に入 る と早 々に、 女 性 は 公 的 領 域 か ら締 め 出 され た 。 女 性 に脅 威 を 感 じた 男性 が女 性 の職 業 活 動 を制 限 し、 マ イ ス ター や ツ ン フ トか ら女 性 を締 め 出 して しま う。 不 況 を迎 え、 女 性 に よ っ て男 性 の 経 済 利益 が侵 害 さ れ る こ と

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を恐 れ た の だ。 女 性 の 労 働 を制 限 す る法 律 が増 え、1600年 頃 に は 女 性 は ほ ぼ 完 全 に職 業 生 活 か ら 姿 を消 して しま った とい う。38) ホル ン市 の場 合 、 労働 市 場 か らの女 性 の 締 め 出 しは16世 紀 半 ば に起 こ って お り、 ドイ ツ 全 土 で 15世 紀 か ら17世 紀 にか け て 展 開 され た女 性 排 除運 動 と時 期 的 に も合 致 して い る。 女 性 の 労 働 制 限 が法 制 化 され て い く流 れ の な か で、 魔 女 罪 とい う汚 名 を着 せ て女 性 を抹 殺 す る とい う卑 劣 な手 段 で 、 経 済 活 動 か ら女 性 を締 め 出 そ う と した もの と も考 え られ る。 4)男 の暴 力、 女 の 魔 術 女 性 の協 力 の有 無 が即 、 家 計 の 命運 に つ な が る との 認 識 は 、 ア ー デル ハ イ ト ・シ ュテ ッカ ー の裁 判 事 例 に端 的 に現 れ て い る。1572年4月 、 夫 ヨー ハ ン は2度 目の妻 で あ るア ー デ ル ハ イ トを魔 女 罪 で 告 訴 す る。 彼 は ビー ル醸 造 者 で、1558年 ま で 市 参事 会 員 を務 め て い た。 す な わ ち 当時60歳 前 後 の 夫 ヨーハ ン は市 の有 力 者 で あ った 。 逮捕 さ れ る前 、 彼 女 は 夫 を 見捨 て て お り、 夫 か ら殴 られ た と市 議 会 に訴 え た。 夫 を 「見 捨 て た とい う悪 行 」 は 噂 とな り、 「婚 姻 の破 綻 は神 の秩 序 に対 す る造 反 を意 味 す る」 と告 発 さ れ た。 教 会 長 老 会 が 動 き、婚 姻 破 綻 に関 して 夫 が 事情 聴 取 さ れた 。 彼 は 、 ビー ル 醸 造 の とき妻 は協 力 を拒 否 し、 共 に働 くとい う夫 婦 間 の経 済 協 力 が 成 立 しな い と主 張 した 。 彼 が鶏 に穀 物 を与 えた と き、 餌 の与 え方 が 不 適 切 で穀 物 を無 駄 に した こ と、 妻 の領 域 の仕 事 に割 り 込 ん で きた こ と、 妻 が集 め た薪 に 火 をつ け た こ とな どに つ い て妻 が激 し く非 難 し、 呪 い の言 葉 を吐 い た。 そ れ で妻 を 殴 った の だ 。 妻 は 家 か ら逃 げ 出 し、 「戸 外 で ゴ ミの よ う に死 ね 」 と再 び 呪 い の 言 葉 を 吐 い た と陳 述 した 。 妻 は捕 らえ られ、 裁 判 の 結 果 、 婚 姻 破 棄 だ け で は な く、 呪 い の 言葉 が害 悪 魔 術 と判 断 され 、 魔 女 罪 が 確 定 して 火刑 に処 され た 。39) 互 い の仕 事 領 域 を侵 す こ とや 、 仕事 上 の協 力 が得 られ な い こ とは夫 婦 間 の不 和 、 喧 嘩 の 原 因 とな り、婚 姻 破 棄 を導 くこ とに もな る。夫 の領 域 侵 犯 を怒 った 妻 が 、 仕事 の協 力 を拒 否 した こ とか ら夫 婦 不 和 が始 ま り、 夫 の暴 力 、 妻 の 暴 言 、妻 の家 出 に発 展 す る。 裁 判 で は夫 の暴 力 は不 問 に付 され 、 妻 の 家 出 と暴 言 の み が重 視 され る。 体 力 的 に 弱 く暴 力 で刃 向か えな い 女 性 は 、 しば しば 夫 の 暴 力 に 対 して 、 言葉 に よる応 酬 を行 う。 そ れ を 「呪 い 」 と読 み換 えて 、 責 任 の す べ て を女 性 に転 嫁 して し ま う。 夫 婦 の不 和 や不 妊 は 魔 術 の 結 果 で あ る と信 じ られ て い た社 会40)な らで は の論 理 で あ る。 そ して 、 す べ て は 「呪 い」 とい う害 悪 魔 術 の せ い に し、 魔 女 を火 刑 に処 す こ とで決 着 を み る。 呪 い の 魔 術 を行 使 した廉 で 魔 女 罪 に 問 わ れ た 女 性 は、 こ の 他 に も多 数 い る。 寡 婦 カ トリー ネ ・ ア ッシ ャーハ イ デ は1583年 、 害 悪 魔 術 行 使 の 罪 で 告訴 され た 。 彼 女 は ヨー ハ ン ・ホ ル テ ノ ッセ ン が結 婚 の 約 束 を破 棄 して 、他 の女 と結 婚 した の を怒 り、 結婚 式 の夜 、 新 郎 新 婦 の 部 屋 に 投 石 して窓 を壊 した 。この 行 為 が 魔 術 で の 仕 返 し と認 定 され 、「魔 術 の石 」 を 入 れ て 、不 能 、不 妊 、不 和 に な る よ う呪 っ た と解 釈 され た 。 新郎 は怒 っ て、 斧 を持 って 彼 女 を 追 い か け た が、 追 い つ け な か った。41) 一 般 に、 ワ イ ン に毒 を入 れ る と不作 、 不 妊 を、 家 に物 を投 げ 込 む と不 能 、 夫 婦 喧 嘩 、 不 和 を 引 き 起 こす と信 じ られ て い た。42)婚約 破 棄 を した 男 を魔 法 で 復 讐 した 女 性 は 他 に も多 くい た よ うだ 。 名 誉 を 傷付 け られ た とき、 男 性 は 武 器 を と って暴 力 に訴 え るが 、 女 性 は 見 え な い魔 術 で 攻 撃 す る。

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5)魔 女 罪 確 定 で 損 す る 女 、 得 す る 男 1579年 か ら1580年 に か け て 、 リ ッペ 領 は 凶作 に よ りひ どい イ ン フ レ とな り、 ス ケー プ ゴー トを 処 罰 す る必 要 が で て くる。 そ こで 、 金貸 しの女 性 が そ の ター ゲ ッ トに され た 。 1583年 ベ レケ ・ミ ュン ス テ リン グ は 市 参 事 会 員 ジ ー モ ン ・フ ォン ・デ ア ・リッ ペ に100タ ー ラー の金 を6%の 利 子 で 貸 す が 、 返却 を巡 っ て争 い が生 じた。 利 子 を 受 け取 りに きた と き、 彼 は 支 払 えず 、延 期 を 申 し出た 。 怒 った 彼 女 は 公道 で 大声 で彼 の不 払 い をな じ り、 害悪 魔 術 で脅 した。 彼 女 を殴 ろ う と彼 が箒 を持 つ と、 彼 女 は 通 りに 逃 げ 、大 声 で彼 を呪 った 。 彼 の 娘 と牛 が 死 ん だ た め、 彼 女 は捕 らえ られ 、魔 女 と して処 刑 され た 。 ジ ー モ ン の牛 が死 ん だの はベ レケ の 呪 い の せ い で、 娘 が 死 ん だ の は ベ レケ が 毒 を 盛 った か らだ 、 とい うの が判 決 理 由 で あ る。43)ベレケ が魔 女 罪 で処 刑 さ れ た の で 、 ジ ー モ ン の多 額 の借 金 は返 済 義 務 を 免 れ 、棒 引 きに な っ た。 金 を貸 して 返 済 を迫 っ た女 性 は 魔 女 と して 処 刑 さ れ、 借 りて返 済 もせ ず 、 利 子 も払 わ ず 、暴 力 で追 い返 した 男 は 、逆 に被 害 者 と して 扱 わ れ 、 お 筈 め な しの うえ、 借 金 も帳 消 しとな る。 男性 に とっ て な ん とも都 合 が い い話 で は な い か。 ジー モ ン ・フ ォン ・デ ア ・リ ッペ は 伯 爵 の 前秘 書 官長 の息 子 で、 リ ッペ 伯 爵 の 非 嫡 出子 で もあ る。 ベ レケ は ハ イ ン リ ッヒ ・レム ケの 妻 で 、 金 持 ち で は あ る が、 夫 の職 業 は 不 明 だ 。 市参 事 会 員 な ど市 の 有 力 者 で なか った こ とは 確 か だ 。44)この 家 柄 の 相 違 も また 、 彼 女 の判 決 に影 響 を与 え た。 素 姓 の違 い とい う社 会 的 ヒ エ ラル ヒー と性 別 に よ る ヒエ ラル ヒー とい う二 重 の ヒ エ ラル ヒー の 、彼 女 は犠 牲 者 と言 え よ う。特 筆 す べ きは、 係 争 中妻 の 弁 護 を 全 くしな か っ た夫 が、 処 刑 後 「自分 の 」 金 を取 り戻 す た め 、 公 に 交 渉 を 開始 した とい う こ とで あ る。 だ が 、結 局 そ れ は、 魔 術 で 殺 され た 牛 の弁 済 金 と して 相 殺 され て しま う。45) これ に味 を しめ 、 町 の 有 力 者 た ち は金 持 ち の寡 婦 か ら借 金 を重 ね る 。 ア ン ナ ・ロ ッテル ダム の 一 件 も同様 の経 過 を辿 る。 ア ン ナ は靴 職 人 の寡 婦 で、 彼 女 の 夫 は 市 の 有 力 者 で 、市 参 事 会 員 で もあ っ た 。 市 参 事 会 員 ヴ ィネ ケ ・バ ッ クハ ウ ス は彼 女 か ら借 金 して 、17年 間 返 済 も しな け れ ば 、利 子 も 未払 い で あ っ た。 他 の3人 も彼 女 か ら金 を借 りた が 、 元 金 も利 子 も返 済 して い な い。 返 済 を巡 って 、 彼 女 は4人 と争 う こ とに な り、 逆 に彼 女 が魔 女 罪 で 訴 え られ て しま う。46)借金 の 棒 引 き を狙 う魔 女 誣 告 で は、 地 位 あ る男 性 が金 持 ち の寡 婦 を告 訴 す る とい うパ ター ン が 一 般 的 だ。 手 工 業 の世 界 か ら 締 め 出 さ れ た女 性 が、 遺 産 を元 手 に細 々 と営 ん で い た金 貸 し業 は、 寡 婦 た ち に と って は 限 られ た生 活 の 手段 、職 業 で もあ っ た。 そ の 成 立 を 危 う くす る とい うこ とは、 零 細 金 融 業 の世 界 か ら も女 性 の 締 め 出 しが 図 られ、 女 性 の 自立 の 道 が ま す ま す狭 め られ た とい う こ とで あ る。 要 す るに 、 金貸 し、 遺 産 相 続 、 結 婚 な ど重 要 な事 項 に 関 して、 女 性 が 自分 の 利 益 、 関 心 、意 思 を 貫 くこ とは 、 以前 よ り困難 に な っ た とい え る。 6)隣 人 愛 に 満 ち た町 や 村 、家 族 愛 に満 ち た 大 家族 とい う幻 想 他 人 に無 関 心 で ドライ な人 間 関係 を形 成 す る現 代 の都 市 住 民 の な か に は、 隣 人 愛 に満 ち た 「古 き 良 き時 代 」 の村 落 共 同体 の 生 活 に 、 憧 れ と郷 愁 の よ う な もの を抱 く人 が い る。 そ の 際 、 「古 き良 き 時 代 」 とは い つ を指 す の か、 具 体 的 に時 期 を特 定 す る こ とは な い。 た だ、 漠 然 と 「昔 は 」 とい う言

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業 で理 解 さ れ る 「古 き良 き時 代 」 な の で あ る。 そ の 昔 の 一 例 と して、16世 紀 後 半 の ホ ル ン の 町 の 生 活 を具 体 的 に見 て み よ う。 1566年 に イ ン フ レ とペ ス トが ホ ル ン市 を襲 う。1579年 に は さ らに極 端 な イン フ レが 起 こ り、 貧 乏 人 と金 持 ち の 反 目が激 し くな る。 りん ご、 ホ ッ プ泥棒 が 多発 し、 他 人 の 草 原 に 家畜 を放 牧 させ た り、他 人 の牛 の乳 を無 断 で 絞 って 盗 む 者 が 続 出 し、 隣 人 に 対 す る不 信 感 が生 ま れ る。47)家畜 や家 族 が 死 ぬ と、 隣人 の呪 い と考 え る者 が跡 を絶 た な い。 前 述 の 話 で も、100タ ー ラー の借 金 を返 さ な い 市 参 事 会 員 ジ ー モ ン が、 返 済 を迫 った寡 婦 を逆 に魔 女 と して 告 訴 した の は、 自分 の 娘 と牛 が 死 ん だ か らで あ る。 困 っ た とき に金 を貸 して くれ た 隣人 に感 謝 す る どころ か 、逆 恨 み を し、 魔 女 の 罪 を着 せ て 殺 して しま う とは、 なん と 「美 しき隣 人 愛 」 で あ ろ う。 墓 掘 人 リヒ トの妻 は、 自分 の 病 気 は 隣 人 の 寡 婦 が 自分 と喧嘩 した とき呪 った か らだ 、 と確信 す る。 そ して 寡 婦 を 魔女 罪 で処 刑 す る よ う要 求 す る。 瓶 を盗 ん だ と隣 人 を非 難 した だ け で 魔 女 に さ れ た り、 雄 豚 の 背 を 撫 で て豚 を病 気 に した と 魔 女 告 発 され た り、48)まさに壮 絶 な 隣人 関 係 が展 開 す る。 豚 殺 しで訴 え られ た 女性 は 、仕 立 屋 ガ ブ リエル ・ トゥ レマ イ ヤー の 妻 だ 。 しか し記 録 書 に は彼 女 は姓 名 で は な く、「シ ュタ イ ンハ ウア ー シ ェ(石工 の妻)」 とい う呼称 で記 載 され て い る。証 人 に立 っ た 隣 人 も皆 、 「石 工 の妻 」 とい う呼 称 で 呼 び か け て い る。 彼 女 が 再 婚 で 、 亡 き前 夫 が領 内 の他 の 町 で 石 工 と して 働 い て いた か らだ 。 仕 立 屋 の夫 と再 婚 した の が16年 以 上 前 で 、 そ の 後 ず っ とホル ン に住 ん で い るに もか かわ らず で あ る。彼 女 は リ ッペ 領 内で は な く、 パ ー ダ ー ボル ン司 教 領 ノ イ エ ソ ヘ ー ル ゼ 村 出 身 の よそ者 で 、 しか も再婚 者 で あ る。 ホル ンの 町 の 住 民 に とっ て、 彼 女 は二 重 の意 味 で よ そ者 で あ った 。別 の領 地 とは別 の 王 国 、 す な わ ち外 国 に当 る。 彼 女 は 外 国人 で、 再 婚 とい うマ イ ナ ス要 素 を2つ も持 って い た の だ。16年 以 上 も住 み な が ら、 姓 名 は お ろ か、 現 夫 の職 業 名 で す ら呼 ば れず 、 亡 くな った前 夫 の職 業 名 で 呼 ば れ る とい う こ とは、 隣 人 が よそ 者 で あ る彼 女 を受 け 入 れ ず 、 差 別 して い た こ とを端 的 に物 語 って い る。 彼 女 は1603年12月6日 に拘 束 さ れ 、22日 に処 刑 さ れ た。49)その審 議 の迅 速 さ と、 記 載 名 の 異 常 さ に、 よそ 者 に 対 す る 隣 人 の冷 酷 さ が痛 切 に感 じ られ る。 夫 婦 間 の不 和 や喧 嘩 か ら妻 を魔 女 と して訴 え た夫 が多 数 い た こ とは、 既 述 の魔 女 告 訴 で も明 らか だ 。 ア ン ナ ・シ ュ トル クの 夫 は 姦 通 した 妻 を 、 ア ー デル ハ イ ト ・シ ュテ ッカ ーの 夫 は 暴 力 か ら逃 げ 出 した 不 従 順 な妻 を魔 女 罪 で 訴 えた 。 夫 婦 間 だ け で は な く、 親 子 、 兄 弟 、親 戚 な どの 間 で も争 い は 絶 え な か った 。 遺 産 相 続 を 巡 る係 争 で ア ガ タ ・ム ラー は義 理 の 兄 の 妻 か ら魔 女 と して 告 訴 さ れ る (1584年)。 自分 の 夫 の 死 は彼 女 の 害 悪 魔 術 の せ い だ とい うの が そ の理 由だ 。 ア ガ タ ・ム ラー は2 度 結 婚 して お り、 最 初 の夫 は 以前 、 魔 女 罪 で 処 刑 され た グ レー テ ・ム ラー の 息子 で あ っ た。 夫 の 死 後 、 現 夫 ヘ ル マ ン ・ジ ー レマ ン と再 婚 した。 彼 は 父 が 市参 事 会 員 を務 め た ほ どの 名 門 の 出 で、 市 の 役 人 で あ る。 彼 女 の 条 件 の 良 い 玉 の輿 的 再 婚 は、 前 夫 の親 戚縁 者 に不 審 感 を抱 か せ る。嫉 妬 と猜 疑 心 か ら、彼 女 が相 続 した前 夫 の 財 産 を前 夫 の 兄 弟 が 取 り戻 そ う とした とい うの が真 相 で あ ろ う。50) 夫婦 の み な らず兄 弟 との 間 も愛 憎 半 ば す る複 雑 な感 情 が 渦 巻 い て い る の が わ か る。 母 親 が 魔女 容疑 で捕 ま って も、 釈 放 しよ う と奔 走 す る子供 は稀 で、 裁 判 経 費 を抑 え るた め、 早 期 の 処 刑 を望 む場 合 が 多 い 。魔 女 裁 判 の経 費 負 担 は 余 裕 の な い 大 多数 の家 族 に とって 、 経済 的破 綻 を意 味 した か らだ 。

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母 親 救済 に走 る美 しい親 子 愛 が 感 じられ る行動 は稀 で、 経 費 の支 払 い に窮 々 とす る夫 と息子 の姿 の み が 浮 きた つ 。 そ もそ も、 「子 供 はや さ し く育 て られ て い な い の で 、 両 親 に対 して 愛 情 を感 じな い し、 また 、 兄 弟 や異 母 異 父 兄 弟 に対 して も、 兄 弟 と して の連 帯 感 よ り、 む しろ競 争 相 手 とい う気 持 ち を持 つ 。」要 す る に、 我 々が 知 って い る 「家 族 間 の愛 情 や精 神 的 結 束 は 、 通 常 な い 」 とコ ッペ ン ヘ ー フ ァー は 分析 す る。51) 「古 き良 き時 代 」 の美 しい家 族 愛 や 隣 人 愛 は い った い ど こに あ る の だ ろ う。 そ れ は 、 た だ現 代 人 の 心 の 中 に の み に存 在 す る幻 想 で はな い の か 。 5.結 論 ア ガ タ ・ム ラー が魔 女 罪 で殺 さ れ て か ら、 現 夫 は 役 人 と して順 調 に昇 進 し、 市 参 事 会 員 に並 ぶ 町 の 特 権 階 級 に ま で 上 り詰 め る。 家 族 の 中で 魔 女 が 出 て も、 男 性 の 人生 に支 障 を もた らす こ とは な い が 、 女 性 の 家 族 は そ の後 、告 発 の不 安 に悩 ま され る。 す で に 述 べ た よ うに魔 術 は 女 性 に よ って 家族 の 間 で 伝 達 され る もの とい う一 般 認 識 が あ った か らだ 。 「石 工 の 妻 」 も姑 か ら魔 術 を 習 っ た とい う。 秘 密 の 術 で 家 計 を安 定 させ る こ とが で き る と説 得 され た そ うだ 。52)夫の 稼 ぎを補 うた め 、姑 か ら嫁 へ と秘 術 が 伝 授 され る。 血 縁 で は な く、 性 別 に よ って 魔 術 は 家庭 内 で伝 達 さ れ る。 そ の な か には 有 益 魔 術 も含 まれ て い た が 、 次 第 に害 悪 魔 術 の み に焦 点 が 当 て られ 、女 の魔 術=害 悪 魔 術 とい うス テ レオ タ イプ の 捉 え方 が 、 男 性 支配 を強 め て い く社 会 で 一 般 化 され る。 魔 女 裁 判 の初 期 に は、 魔 術 の 道 具 や毒 の 作 り方 や 使 用 法 が詳 述 され て い た が、16世 紀 後 半 に な る と女 の 魔 術 の 先 生 が 、悪 魔 と の接 触 を謀 る仲 介 者 の 役 割 を は た す とい うパ ター ン に移 行 す る。 女性 が 家計 の安 定 を 図 るた め に、 熟 練 技 術 を獲 得 して も職 人 と して稼 げ な い社 会 で は、 女 性 の 経 済 力 の 源 と して、 悪 魔 との結 託 が 想 定 さ れ る。 悪 魔 は立 派 な服 装 を した男 で 、 結 婚 仲 介 人 また は 売 春 仲 介 人 と して 娘 の 前 に現 れ る、53) な ど とされ るの で あ る。 魔 女 が女 性 で あ る理 由は2つ あ る。 女 性 の生 活 圏 が 魔 法 を使 う魔 術 と密接 な 関係 に あ っ た こ と と、 害 悪 魔 術 迫 害 に対 す る住 民 と当 局 相 互 の 関心 が一 致 した とい う こ とで あ る。 か く して、 病 気 、 死 、 貧 困、 夫 婦 の 不 和 に対 して 、 女 性 が 全責 任 を 問 わ れ る こ とにな るの で あ る。54) 1580年 頃、 イ ン フ レ と疫 病 が 発 生 し、 市 参 事 会 員 層 が 困窮 し、 市 の権 力 者層 か ら脱 落 す る男 性 が多 く現 れ た。 そ こか ら上 部 指 導 層 の 入 れ替 わ りが起 こ り、 没 落 した 一 族 が 紛糾 を 引 き起 こ した 。 魔女 訴 訟 件 数 が危 機 に多 くな るの は 、地 位 や食 料 を巡 る戦 い に女 性 が 積 極 的 に参 加 した こ とを示 し て い る。55) 男 性 の性 交 能 力 への 不 安 や 役 割 の 境 界 侵 犯 に対 す る批 判 な ど、 夫 婦 関 係 の 葛藤 や 主導 権 争 い が魔 女 告 発 を誘 発 した とい う ヴ ン ダー の 指 摘 は 的 を射 て い る。 プ ロ イセ ン を中 心 に北部 ドイ ツ で の実 証 研 究 を踏 ま え た結 論 と、 ノル トラ イン ・ヴ ェス トフ ァー レン の小 都 市 ホ ル ンで の 実証 研 究 を経 た結 論 とが 図 らず も一 致 した こ とにな る。 ま た 、 コ ッペ ン ヘ ー フ ァー もヘ ッセ ンで の 実 証 研 究 か ら、 魔 女 狩 りの犠 牲 者 に は産 婆 の 例 は一 件 もな く、 産 婆=魔 女 の ス テ レオ タ イ プ は、 近世 初 期 の魔 女 狩 り メ カニ ズ ム の 犠 牲 者 の 姿 で は な い こ と、 キ リス ト教 以 前 の 宗 教 儀 式 に関 す る供 述 が 、 サ バ ト(魔女

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集 会)以 外 皆 無 で あ る こ とな どを 明 らか に して い る。56)また 、 魔 女 罪 を決 定 す る最 も重 要 な判 断 基 準 は、 被 疑 者 の 素 姓 で あ る とい う彼女 の指 摘 は、57)ホル ン市 の デ ー タ か ら もその 正 当 性 が 立証 さ れ て い る。 さ ら に、 暴 力 を奮 う夫 が妻 と息 子 か ら 「人 狼 」 と して告 発 され た が 、却 下 さ れ た判 例 を挙 げ、 男 の 被 疑 者 は 扱 い が甘 く、 処 刑 され に くい とい う こ とを証 明 して い る。58) 家 族 か らの 魔 女 告 発 は 、夫 か息 子 か ら告 発 され るパ タ ー ン が一 般 的 で あ る。娘 か らの告 発 は な い 。 とい うの は母 親 が 告 発 さ れ る と、 娘 も無 事 で は い られ な い か らであ る。 家 庭 経済 の な か で魔 術 を獲 得 す る こ とは、 性 別 に結 び つ い て い た。 復 讐 した い 隣 人 の家 畜 の餌 に毒 を入 れ た 女性 は、 魔 女 パ ラ ダ イ ム を持 ち 出 して 、 火 刑 に処 さ れ た の に、 暴 力 を奮 って女 性 に重 傷 を負 わ せ た 男 性 は 、罰 金 刑 で 罪 を 免 れ た。 不 平 等 な 話 で あ る。 男 性 の魔 術 使 用 は女 性 の 害 悪 魔 術 とは対 照 的 に、 魔 女 とは結 び つ か な い。 男 性 の 魔 術 は神 に反 す る行 為 、死 に値 す る行為 とは見 做 され な か った か らだ。59)それ を い い こ とに、祝 福 者 、治癒 者 とい っ た 男 性 の魔 術 師 は、 子 供 や 牛 の 病 気 回復 祈 願 に失 敗 す る と、 別 の女 の害 悪 魔 術 の せ い して 、彼 女 を 魔 女 と して 告 発 し、責 任 を逃 れ る とい う姑 息 な手 段 を取 った 。60)男性 の 魔 術 師対 女性 の 魔女 、 有 益 魔 術 対 害 悪魔 術 とい う構 図 は 、 同 じ魔 術 を行 使 して も性 別 に よ って 、 一方 は善 、 一 方 は 悪 とい う、 ジ ェン ダー に よる 明確 な ダ ブル ス タン ダー ドが存 在 す る こ とを立証 して い る。 ホ ル ン 市 の よ うな初 期 の魔 女 裁 判 で は 、 魔 女 は毒 物 混 入 や 死 亡 魔 術 の エ キ スパ ー トと して 罰 せ ら れ た 。 害 悪 魔 術 は 家 の 中 で女 性 間 で 伝 達 され る とい う共 通 認 識 が あ った の で、 男 性 は嫌 疑 を免 れ た。 この 性 別 ス テ レオ タイ プ の思 考 が、 犠 牲 者 の 女性 へ の集 中 を もた ら した の で あ る。 疫 病 、 天 災 、 不 作 、 不 況 な どか ら くる社 会 問題 や経 済 問 題 を害悪 魔 術 に起 因 す る もの とみ な し、 女 性 迫 害 を断 行 し た。 要 す る に、 初 期 の魔 女 裁 判 に おけ る女 性 に対 す る偏 見 は、 社 会 構 造 上 の産 物 な の で あ る。 注

1) Klaits, Joseph: Servants of Satan . Indiana University Press 1985, p.52.

2) 上 山安 敏 『魔 女 とキ リス ト教 』 人 文 書 院 、 1993、 359頁 。 上 山安 敏 牟 田和 男 編 著 『魔 女 狩 り と悪 魔 学 』 人 文 書 院 、 1997、 7頁 。

3) Hauptstaatsarchiv Wiesbaden(Handschriftliche Quellen), Bestand 369, Nr.8. In:

Kop-penhofer, Johanna: Die mitleidlose Gesellschaft . Frankfurt a.M. 1995, S.13. 4) Ebd . S.15.

5) Ebd . S.15.

6) 池 上 俊 一 『魔 女 と聖 女 』 講 談 社 、 1992, 23頁 。

7) Schmolzer, Hildegard: Phdnomen Hexe-Whan und Wirklichkeit im Laufe Jahrhunderte-.

Wien 1986. 邦 訳 本 、 ヒ ル デ ・シ ュ メ ル ツ ァ ー 著 、 進 藤 美 知 訳 『魔 女 現 象 』 白 水 社 、 1993、 189-190頁 。

8) 同190頁 。

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10) 上 山 安 敏 牟 田 和 男 編 著 『魔 女 狩 り と悪 魔 学 』 人 文 書 院 、 1997、 315頁 。 11) 同316頁 。

12) 同316-317頁。

13) Grimm, Jacob: Deutsche Mythologie , Frankfurt a.M. 1985(1.Aufl. 1835). S.593. 14)ミ シ ュ レ 、 ジ ュ ー ル 著 篠 田 浩 一 郎 訳 『魔 女 』 上 ・下 巻 現 代 思 潮 杜1967。

15) Koppenhofer, a.a. O., S. 13.

16) 前 掲 、 上 山 安 敏 牟 田 和 男 編 著321頁 。 17) 同321-322頁 。

18) 同327頁 。

19) Honegger, Claudia:Die Hexen der Neuzeit, Frankfurt a.M. 1978, S.21-151. 20) 前 掲 、 上 山 安 敏 牟 田 和 男 編 著328頁 。

21) Wunder, Heide: "Er ist die Sonn, sie ist der Mond". Frauen in der Friihen Neuzeit, Miinchen 1992, S.200.

22)Karlson, Carol: The Devil in the Shape of Woman. Witchcraft in Colonial New England,

New York/London 1987.

23) Kunze, Michael: Strafie ins Feuer . Miinchen 1982.

24) Ahrendt-Schulte, Ingrid: Zauberinnen in der Stadt Horn(1554-1603). Frankfurt a.M. 1997. 25) Ebd. S.13 26) Ebd. S.126. 27) Ebd. S.126-131. 28) Ebd. S.134. 29) Ebd. S.200-204. 30) Ebd. S.143. 31) Ebd. S.149-154. 32) Ebd. S.136-142. 33) Ebd. S.142-144. 34) Koppenhofer a.a.O., S.80. 35) Ahrendt-Schulte, a.a.O., S.226-229. 36) Ebd. S.38-39. 37) Ebd. S.227-229. 38) 前 掲 、 シ ュ メ ル ツ ァ ー 、 112-116頁 。 39) Ahrendt-Schulte, a.a.O., S.156-160. 40) Ebd. S.217 41) Ebd. S.173-177. 42) Ebd. S.219. 43) Ebd. S.162-167.

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44) Ebd. S.162-163. 45) Ebd. S.165. 46) Ebd. S.167-169. 47) Ebd. S.26. 48) Ebd. S.205. 49) Ebd. S.204-207. 50) Ebd. S.183-186. 51) Koppenhofer a.a.O., S.117. 52) Ahrendt-Schulte, a.a.O., S.229. 53) Ebd. S.232. 54) Ebd. S.237. 55) Ebd. S.240. 56) KoppenhOfer a.a.O., S.10-13. 57) Ebd. S.80. 58) Ebd. S.114. 59) Ahrendt-Schulte, a.a.O., S.242. 60) KoppenhOfer a.a.O., S.121-122.

参照

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