1 武蔵工業大学環境情報学部講師 2 国学院大学文学部助手 3 武蔵工業大学知識工学部講師
久保哲也1 園部 豊2 椿原徹也3
環境情報学部未成年者の喫煙に 関する現状と意識
―全面禁煙化にむけて―
調査報告 2-1
1.はじめに
喫煙が体に害を与えることは広く知られている。
なかでも未成年者の喫煙は低年齢で開始されるほど 体に与える影響が大きいと言われ[6]、中高生からの 禁煙教育が重要視されている。しかし、我が国には 未成年喫煙禁止法があるにも関わらず、未成年者に はすでに多くの喫煙者がいることが報告されてい る[7]。そのため平成20年7月より taspo(成人認識 IC カード)が全国で稼働を開始し、未成年者に対 し入手経路を断つものと期待されている。
一方、環境情報学部(以下、本学部)が所在する 神奈川県では全国に先駆けて、公共スペースでの喫 煙を規制する条例案を発表した[11]。これにより病 院や学校などの公共の場での喫煙が禁止され、反対 意見の根強いパチンコ店や居酒屋には3年間の猶予 期間が設けられた。
平成15年には「健康増進法」が制定され、その第 25条に規定されている「受動喫煙の防止」により、
公共の場所や多数の者が利用する施設の管理者には 受動喫煙防止義務があると規定された。これは、罰 則も強制力もない努力義務規定であるが、その意義 は極めて大きい。罰則規定がないこと、禁煙対策が 抜けているなどと問題はあるが、これを機に分煙化 が急速に進み、その有害性についての知識が広く一 般に知られるようになった。それを裏付けるかのよ
うに成人喫煙率も近年減少傾向をたどっている。と はいえ減少率も僅かであり、禁煙に向けた動きが急 速に広まっているとは言い難いのが現状である。禁 煙対策では日本は諸外国に比べて著しく遅れを取っ ている[10]。
これまでに喫煙に関する研究は数多くみられ、そ の中で大学生の喫煙に関する研究は、喫煙の実態に 関する報告[9]、喫煙習慣に影響を及ぼす諸要因に関 する報告[4]、女子学生の喫煙と生活習慣との関わ り[3]がある。
本学部は神奈川県に所在している。日本学術会議 より早急なキャンパス内全面禁煙化(以下、全面禁 煙化)の要請もあり、副学長から何らかのアクショ ンを起こすようにとの提案があった。本学部名には
「環境」と名前がつくところからイメージ的にも何 らかの対策をとらないといけない時期にきているの ではないであろうか。
そこで本研究では、本来喫煙が禁止されている未 成年者を対象とし、喫煙の現状と喫煙に対する意識 について明らかにするとともに、分煙化か全面禁煙 化が叫ばれているいま、全面禁煙化の可能性にむけ どのような対策をしていけばよいのかの一端を示す ことを目的とした。
2.調査方法
調査対象は平成20年度本学部自由科目「基礎体育
Ⅱ」「生活と健康」の受講者のうち、9月下旬の後 期第1回目の授業時に出席した学生とした。対象者 数は412人であり、これは本学部に在籍する学生の 22.1%であった。(10月1日現在 1,868人)
調査方法は、自己記入方式によるアンケート調査 を採用し、調査用紙はその場で回収した。有効回答 率は100%であった。回答は時間的制約から、あら かじめ質問ごとに用意された回答選択肢から一つを 選ぶ方法を採用した。
調査内容は、過去に我が国で行われた喫煙行動に 関する調査内容を参考にして決定した。まず、【共 通】の質問で回答し、続いて【喫煙者】、【非喫煙者】
の項目にそれぞれ進むよう指示をした。
【共通】喫煙経験、家族の喫煙状況、受動喫煙を知っ ているか、受動喫煙させられていると思う場所はど こか、喫煙が健康にあたえる影響、今後の大学内に おける喫煙対策について、環境情報学部に所属する 学生として喫煙をどう思うか、今後の喫煙の意志
【喫煙者】現在の喫煙状況、習慣的な喫煙の開始時 期とそのきっかけ、心掛けているマナーについて、
もし大学内が全面禁煙になったらどうするか、タバ コの入手経路
【非喫煙者】タバコで不快に思うこと、喫煙者のマ ナーについて、困った時や不快に感じる時に相手に 止めてほしいと言えるか
分析は学生と家族の喫煙状況の項目の比較に
χ
2 検定を行った。統計ソフトには SPSS12.0J for Win- dows を用いた。3.結果
3.1 本学部未成年者の喫煙の実態
表1は本学部未成年者の喫煙の実態を示したもの である。「今までにタバコを1本も吸ったことはな い」および「吸ったことはあるが、現在は吸ってい ない」を回答したものを「非喫煙者」、「ときどきタ バコを吸っている(毎日ではない)」および「習慣 的にタバコを吸っている(毎日)」を回答したもの を「喫煙者」とした。喫煙者数は43人であり対象者 の10.4%であった。
43(10.4)
29 (7.0)
習慣的にタバコを吸っ ている(毎日)
喫煙者
14 (3.4)
ときどきタバコを吸っ ている(毎日ではない)
369(89.6)
49(11.9)
吸ったことはある が、
現在は吸っていない 非喫煙者
320(77.7)
今までに タ バ コ を1本 も吸ったことはない
〔単位:人数(%)〕
表1 本学部未成年者の喫煙の実態
表2は習慣的にタバコを吸い始めた時期を示した ものである。「大学1年生の頃」32.6%が最も多く、
続 い て「高 校 生 の 頃」30.2%、「大 学2年 生 の 頃」
18.6%の順であった。
100.0 43
計
18.6 8
大学2年生
32.6 14
大学1年生
2.3 1
浪人時代
30.2 13
高校生
14.0 6
中学生
2.3 1
小学生
% 人数
回答
表2 習慣的に喫煙を始めた時期
表3は習慣的にタバコを吸い始めたきったけにつ い て 示 し た も の で あ る。「友 人 に す す め ら れ て」
34.9%が最も多く、続いて「その他」23.3%、「好 奇心から」14.0%の順であった。「その他」には「イ ライラしていたから」や「疲れたから」という記述 が多かった。
100.0 43
計
23.3 10
その他
9.3 4
わからない
0.0 0
CM や TV での喫煙シーンをみて
0.0 0
やせるため
7.0 3
大人の気分を味わいたくて
11.6 5
かっこいいから
14.0 6
好奇心から
0.0 0
先輩にすすめられて
0.0 0
家族にすすめられて
34.9 15
友人にすすめられて
% 人数 回答
表3 習慣的喫煙のきっかけ
表4はタバコの入手経路について示したものであ る。「コンビニなどの小売店」86.0%が最も多く、
続いて「友人」9.3%、「自動販売機」4.7%の順で あった。
図1 家族の喫煙状況
100.0 412 100.0 369 100.0 43 計
0.0 0 0.0 0 0.0 0 プラスだと思う
0.0 0 0.2 1 2.3 どちらかといえば 1
プラスだと思う
5.7 21 7.3 30 20.9 9 どちらともいえない
9.2 34 10.9 45 25.6 どちらかといえば 11
マイナスだと思う
85.1 314 81.6 336 51.2 22 マイナスだと思う
% 人数
% 人数
%
回答 人数喫煙者 非喫煙者 全体 表5 喫煙が健康にあたえる影響
100.0 43
計
0.0 0
その他
0.0 0
家にあるタバコ
9.3 4
友人
4.7 2
自動販売機
86.0 37
コンビニなどの小売店
% 人数 回答
表4 タバコの入手経路
図1は家族の中に喫煙者がいるかどうかを示した ものである。「学生の喫煙状況」と「両親の喫煙状 況」を
χ
2検定したところ、有意な人数の偏りは見 られなく、学生の喫煙の有無と両親の喫煙の有無と の関係は認められなかった。3.2 受動喫煙と健康についての意識
表5は喫煙が健康にどのような影響をあたえるか を示したものである。全体では「マイナス」だと思 うものが85.1%と最も多く、続いて「どちらかとい
えばマイナス」が9.2%であった。喫煙者自身も75%
以上の学生が「マイナス」「どちらかといえばマイ ナス」だと感じていた。
表6は受動喫煙が健康に影響するということを 知っているかどうかを示したものである。全体で
「知っている」と回答したものが98.1%を示し、喫 煙者でも93.0%のものが健康に害を与えることを認 識していた。
100.0 412 100.0 369 100.0 43 計
1.9 8 1.4 5 7.0 3 知らない
98.1 404 98.6 364 93.0 40 知っている
% 人数
% 人数
%
回答 人数喫煙者 非喫煙者 全体 表6 受動喫煙が健康に影響するということを知っているか
また、表7は主に受動喫煙をさせられていると思 われる場所はどこかを示したものである。全体で「レ ストラン/喫茶店」52.7%が最も多く、続いて「大 学内」15.3%であった。「その他」13.8%では「ゲー ムセンター」や「パチンコ店」の娯楽施設、「駅」や
「路上」などの公共の場で受動喫煙をさせられてい るという回答が多くあった。
100.0 412 100.0 369 100.0 43 計
13.8 57 12.7 47 23.3 10 その他
52.7 217 52.6 194 53.5 23 レストラン/喫茶店
8.7 36 8.7 32 9.3 4 友人宅
9.5 39 10.6 39 0.0 0 自宅
15.3 63 15.4 57 13.9 6 大学内
% 人数
% 人数
%
回答 人数喫煙者 非喫煙者 全体 表7 主に受動喫煙をさせられていると思われる場所はどこか
3.3 喫煙者のマナーについて
表8は喫煙者の喫煙マナーで気になることを示し たものである。「歩きながら吸う」39.6%が最も多 く、続いて「吸殻のポイ捨て」32.2%、「煙を人に 向かって吐く」7.9%の順であった。
100.0 369
計
0.3 1
その他
1.9 7
特にない
2.2 8
吸殻の始末が汚い
3.8 14
吸わない人の許可を得ずに喫煙す
5.1 19
禁煙の場所で吸う
7.0 26
飲食店、飲食場所での喫煙
7.9 29
煙を人に向かって吐く
32.2 119
吸殻のポイ捨て
39.6 146
歩きながら吸う
% 人数 回答
表8 喫煙者のマナーで気になること
一方、表9は喫煙者がどのようなマナーに気を付 けているかを示したものである。「吸殻のポイ捨て をしない」37.2%が最も多く、「喫煙所以外では吸 わ な い」14.0%、「携 帯 灰 皿 を 持 ち 歩 い て い る」
11.6%、「吸わない人に許可を得てから吸う」9.3%
であったが、「特にしていない」14.0%が2番目に 多かった。
100.0 43 計
0.0 0 その他
2.3 1 歩きながら吸わない
4.7 乳幼児や子どもが近くにいたら、絶対に 2
吸わない
7.0 3 吸わない人の前では吸わない
9.3 4 吸わない人に許可を得てから吸う
11.6 5 携帯灰皿を持ち歩いている
14.0 6 喫煙所以外では吸わない
14.0 6 特にしていない
37.2 16 吸殻のポイ捨てをしない
% 人数 回答
表9 喫煙者が気をつけているマナー
また、表10はタバコで不快に思うことはどんなこ とかを示したものである。「煙の臭い」47.7%が最 も多く、続いて「健康が害されている気持ちになる」
17.3%、「髪の毛や衣服に臭いがつく」16.0%、「口 臭」6.8%の順であった。
100.0 369 計
0.3 1 その他
1.1 4 目に対する刺激
2.7 10 吸殻の始末が汚い
3.5 13 髪の毛や衣服から悪臭がする
4.6 17 不快に思わない
6.8 25 口臭
16.0 59 髪の毛や衣服に臭いがつく
17.3 64 健康が害されている気持ちになる
47.7 176 煙の臭い
% 人数 回答
表10 タバコで不快に思うことはどんなことか
表11は非喫煙者が困った時や不快に感じた時に喫 煙者に止めてほしいと言えるかを示したものであ る。「ときどき言う」53.4%が最も多く、続いて「言 えない」26.3%、「いつも言う」16.3%の順であっ た。「その他」4.1%には「あえて言わない」が多かっ た。
100.0 369
計
4.1 15
その他
16.3 60
いつも言う
53.4 197
ときどき言う
26.3 97
言えない
% 人数
回答
表11 困った時や不快に感じた時に相手に止 めてほしいと言えるか
3.4 分煙化か全面禁煙化か
表12は今後、大学内における必要と思われる喫煙 対策について示したものである。全体では「今まで 通り、喫煙場所のみ喫煙可能とする(分煙化)」74.3%
が最も多く、続いて「大学敷地内を全面禁煙とする」
23.5%、「どこで吸ってもよい」2.2%の順であった。
「大学敷地内を全面禁煙とする」では非喫煙 者 が 26.4%に対し、喫煙者は0%であった。
100.0 412 100.0 412 100.0 369 100.0 43 計
3.2 13 1.6 6 16.3 7
吸ってもよい 0 0.0 6 1.6 6 1.5 19 4.7 どちらかといえば吸ってもよい
21.4 88 21.4 88 19.8 73 34.9 15 何とも思わない
30.8 127 30.9 114 30.2 13
どちらかといえば吸わないほうがよい吸わないほうがよい 8 18.6 170 46.1 178 43.2 305 74.0
% 人数
% 人数
% 人数
%
回答 人数喫煙者 非喫煙者 全体
表14 環境情報学部に所属する学生として考えた場合、タバコを吸うことについてどう思うか 100.0
412 100.0 369 100.0 43 計
2.2 9 1.4 5 9.3 4 どこでも吸ってよい
23.5 97 26.3 97 0.0 大学敷地内を全面禁煙 0
とする
74.3 306 72.4 267 90.7 今まで通り、喫煙場所のみ 39
喫煙可能とする(分煙化)
% 人数
% 人数
%
回答 人数喫煙者 非喫煙者 全体 表12 今後、大学内における必要と思われる喫煙対策につ
いて
また、表13は喫煙者のみに対し、もし、大学内が 全面禁煙になったらどうするかの質問を行ったとこ ろ、「大学の敷地から外に出ていって吸う」53.5%
が最も多く、「これを機会に禁煙する」25.6%、「大 学敷地内で隠れて吸う」16.3%の順であった。
100.0 43 計
4.7 2 その他
16.3 7 大学敷地内で隠れて吸う
53.5 23 大学の敷地から外に出ていって吸う
25.6 11 これを機会に禁煙する
% 人数 回答
表13 もし、大学内が全面禁煙になったらどうするか
3.5 喫煙と環境情報学部所属という意識
表14は環境情報学部に所属する学生として考えた 場合、タバコを吸うことについてどう思うかを示し たものである。全体 で は「吸 わ な い ほ う が よ い」
43.2%が最も多く、続いて「どちらかといえば吸わ ないほうがよい」30.8%であり、ここまでを「(ど ちらかといえば)吸わないほうがよい」としてまと
めると74.0%を示した。
3.6 今後の喫煙の意思について
表15は喫煙者に対し、今後の喫煙をどうしようと 考えていますかを示したものである。「特に考えて いない」30.2%が最も多く、続いて「今後も吸う」
「可能であればやめたい」25.6%、「数量を減らす」
18.6%の順であった。
100.0 43
計
0.0 0
その他
30.2 13
特に考えていない
0.0 0
絶対にやめようと思っている
25.6 11
可能であればやめたい
18.6 8
数量を減らす
25.6 11
今後も吸う
% 人数 回答
表15 今後の喫煙について
また、表16は非喫煙者に対して今後吸ってみたい 気持ちはあるかを示したものである。「全くない」
91.6%が最も多く、「少しある」7.3%、「ある」1.1%
の順であった。
100.0 369
計
91.6 338
全くない
7.3 27
少しある
1.1 4
ある
% 人数
回答
表16 今後、吸ってみたい気持ちはあるか
4.考察
4.1 本学部未成年者の喫煙の現状
喫煙者数は43人、対象者全体の10.4%であった。
喫煙者のみに行った質問で、習慣的に吸い始めた時 期は「大学1年生」と「高校生」が多く、そのきっ かけは「友人にすすめられて」が多かった。
本来、未成年者の喫煙は未成年者喫煙禁止法によ り禁止されている。未成年者はタバコの害の影響を 受けやすく、喫煙開始時期が早ければそれだけ喫煙 期間が長くなることからも若い頃の喫煙習慣は非常 に健康への影響が大きい。
今回の調査内容に直接関わりのないことである が、学生の多くは喫煙が体に及ぼす影響について、
正しい知識を果たしてもっているかどうかが問われ ねばならない。
直接タバコの煙を吸い込む能動喫煙には、主流煙 といいタール、ニコチン、ベンゾ a ピレンを始め とする約40種類の発がん性物質が含まれている。ま た、直接タバコの煙に触れることで、声帯、口腔粘 膜、気道、肺の組織に局所的に起こる反応や、煙の 成分が血中に吸収されて生じる全身的な反応があ る。局所、全身とも長期的に煙の成分の影響を受け ることで、様々な疾患のリスクが上昇する[6]。
WHO によると世界では10人に1人が喫煙が原因 で死亡しており、口腔、咽頭、食道を始めとする様々 ながんは喫煙との因果関係があるとされている。
体育の実習のなかで、または講義の形で、このよ うな事実についてリアルな実例を示しながら実証的 に説明し、より一層理解納得させることが必要であ ろう。
また、家族の中に喫煙者がいるかでは、本学部生 の家族の35%以上が喫煙しており、その多くは父親 であった。身近にいる家庭内の親が喫煙しているこ とが子供もタバコを吸いやすい環境になっていると の報告もある[2]。今回の調査では統計的な差はな かったが、これは非喫煙者において親が吸っている ので、身近で煙の被害にあっていることにより、む しろタバコが嫌いになったということも考えられ
る。
さらに、喫煙者のタバコの入手経路をみると、大 多数が「コンビニ/小売店」であることより、対面 販売場面での未成年への販売禁止を徹底させる必要 がある。また、現在は taspo の導入により自動販 売機では購入することができないが、これにも抜け 道があると考えられ、未成年喫煙防止の観点からは 完全撤廃しかないと考えられる。
4.2 受動喫煙と健康の意識について
受動喫煙は、タバコの先から立ち上がる煙(副流 煙)と、喫煙者が吐く息の中に含まれる煙(呼出煙)
とを周囲の非喫煙者が本人の意志とは関係なく吸わ されることであり、これは喫煙している状態に近く なると言われている。副流煙とは主流煙に比べてニ コチンは2.6倍、一酸化炭素は4.7倍、アンモニアは 46倍、発がん性物質のニトロソアミンは52倍と有害
物質の濃度が濃い煙である[6]。
今回の調査では、喫煙者、非喫煙者ともに喫煙は 健康に悪い影響を与えるという意識は持っていた。
また、受動喫煙させられていると思う場所は「レス トラン/喫茶店」が最も多く、続いて「学校」であっ た。現在、レストランや居酒屋でも禁煙化の動きが あり、そうではない所は、仕切りや空調の設備投資 をして煙が非喫煙者に流れないような工夫をしてい る所もある。香りを楽しむお店では、タバコの臭い により一瞬で台無しになってしまう。しかし、カウ ンターしかないお店は分煙が困難であるという問題 を抱えている。
また、非喫煙者の中には「自宅」と回答したもの が10.6%もいた。家族の中に喫煙者がいるわけだが、
最近では換気扇の下で吸う、ベランダに出て吸うな どで気を遣っていると主張する親もいる。これは、
受動喫煙が健康にあたえる影響をよく認識していな いと言わざるを得ない。通称ホタル族と言われ、家 族に配慮しているつもりでも、完全に肺から煙が出 るには約200秒以上かかると言われ[10]、呼気に含ま れるタバコの煙が原因となって、部屋の空気が汚染
されるのである。それに加え、髪の毛や衣服に付着 した煙の影響により、喫煙していない子供の尿から も高い濃度のニコチンが検出されているという報告 がある[10]。子供の健康を害していい理由などある わけがなく、家族禁煙の重要性も叫ばれる。
4.3 喫煙者のマナーについて
非喫煙者が喫煙者のマナーに関して感じているこ との多くは、「歩きながら吸う」および「吸殻のポ イ捨て」であった。また、不快に思っているのは「煙 の臭い」「口臭」「髪の毛や衣服に臭いがつく」とい うように「臭い」に関する回答が多かった。煙の臭 いがまず不快感を与えているのである。このタバコ の臭いの中には、ホルムアルデヒドやアンモニアな ど、シックハウス症候群の原因となる物質が含まれ ている[6]。つまり、タクシーの車内に染み付いたタ バコの臭いは、シックハウス症候群と同じ症状を引 き起こすのである。また、ポイ捨てを排水溝にする ことで水質汚染の原因になることは容易に想像がつ くし、火のついたままのポイ捨ては火災の原因にも なる。
本学部においても、本来、健康増進や体力向上の ために行っているスポーツの施設内(テニスコート、
バスケットコート)でもタバコの吸い殻が落ちてい ることがある。このようなマナーの悪い学生が存在 するのは大変嘆かわしいことで、運動を積極的に 行っている学生が、喫煙場所でスパスパと煙を出し ている姿は本末転倒である。健康増進法の面からも 体育施設に煙が流れてくるような場所にある吸い殻 入れは撤去することが望まれる。
一方、喫煙者が気を付けているマナーとして、「吸 殻のポイ捨てをしない」をあげているのが37.2%い たが「特にしていない」が14%もいるのは残念であ る。マナーを守れないのであれば、喫煙する資格は ない。歩行喫煙やポイ捨ては喫煙率が低下するなら ば、自然に減少していくだろう。
また、困った時や不快に感じた時に相手に止めて ほしいと言えるかという質問に対し、「言えない」と
い う 回 答 が26.3%で あ っ た。「と き ど き 言 う」が 53.4%であり、非喫煙者は「言いたくても」いつで も「言える」わけではないのである。学校では友人 であるため言えるかもしれないが、教員やバイト先 等の目上の人には言いづらいとの回答があった。
4.4 分煙化か全面禁煙化の問題
学生全体では「今まで通り、喫煙場所のみ喫煙可 能とする(分煙化)」が74.3%、「大学敷地内を全面 禁煙とする」が23.5%であり、70%以上の学生が現 在の分煙のままでもよいとの回答であった。
「もし、大学内が全面禁煙になったらどうするか」
に対しては、「大学の敷地から外に出ていて吸う」が 最も多かった。このことは、学外の路上などでの喫 煙が増加すること、そのことによる受動喫煙や吸い 殻のポイ捨てなどで近隣への迷惑がより一層かかる ことが予想される。現在でも中川駅と学校との間を 喫煙しながら歩いている学生がおり、学校が近くな ると火のついたままのタバコをポイ捨てする姿も見 られる。また、「隠れて吸う」と答えたものもいる ことで、隠れて吸うということは、そこには灰皿が 設置されているはずもなく、火の不始末による火災 の危険性がある。本学部の周りは自然林で囲まれて おり、隠れて吸う場所であるだけに、火災も発見さ れにくい場所であろう。
包括連携協定を締結した室蘭工業大学では2008年 4月より施設内全面禁煙に踏み切った[5]。現在の状 況やどのような問題点が現れているかわからない が、他大学では全面禁煙に踏み切ったことにより、
トイレで喫煙する学生も現れ、洗面台の排水口が詰 まることが度々発生したことや、学外で喫煙するこ とによるマナーの悪さに対する近隣からのクレーム が相次ぎ、全面禁煙を撤廃したという例もある。今 回の調査では全面禁煙が23.5%で、大多数はまだそ こまでしなくてもということであった。しかし、分 煙しても煙は流れてくる。前述したように喫煙して から煙が肺からなくなるには数分以上かかると言わ れており、すぐに戻ってきたものの呼気には教室内
の汚染源が含まれているのである。
表14は環境情報学部に所属する学生として考えた 場合、タバコを吸うことについてどう思うかを示し たものであり、学生全体では「吸わないほうがよい」
43.2%が最も多く、続いて「どちらかといえば吸わ ないほうがよい」30.8%であった。
現在、地球の環境問題に人々の関心が集まってい るが、環境とは地球の健康問題でもある。タバコの 問題はまさに人類の健康問題、環境問題でもあると 考えられる。
環境情報学部のクリーンで地球環境にも優しいと いうイメージとタバコは似合わない。本学部で環境 教育を受けている者としては、自己の健康管理、体 力管理はもとより、ポイ捨てや煙に含まれるダイオ キシン等の環境に与える影響や他者の健康への配慮 の観点からも喫煙は好ましいものではないと考えら れる。本学部から全面禁煙化にむけ取り組んでいく 時期にきているのではなかろうか。
4.5 全面禁煙化にむけての今後の対策
今後の喫煙の意志では、非喫煙者では「まったく ない」が91.6%を占めた。この学生達には今後とも 吸わないことを望みたい。また喫煙者の中に、「可 能であればやめたい」と回答している学生が25.6%
いることがわかった。これらの禁煙を希望する学生、
さらに教職員に対する支援も必要となってくる。ニ コチンパッチの無料提供や禁煙指導、禁煙教育、禁 煙外来の紹介など保健室を中心としたサポート体制 を検討してもよいと思われる。喫煙の開始時期は20 歳が最も多く、20代後半になると吸い始める人が激 減するという報告がある8)。すなわち、大学時代を 喫煙しないで乗り切れば、生涯にわたって喫煙しな いで済むであろう。このことは社会全体の喫煙率を 劇的に低下させる重要な要因である。
また、高校でも禁煙教育、受動喫煙による健康被 害を多く発信する必要がある。そうすることで、入 学者の中に喫煙習慣のあるものがいなくなり、現在 喫煙習慣をもつ学生が禁煙、あるいは徐々に卒業し
ていくことで、喫煙習慣をもたない学生が大多数に なる頃には全面禁煙化がスムーズに行われるであろ う。それまでは今後も受動喫煙の危険と全面禁煙化 の重要性を呼び掛けていく必要がある。
5.まとめ
本研究は、本来喫煙が禁止されている未成年者を 対象とし、喫煙の現状と喫煙に対する意識について 明らかにするとともに、分煙化か全面禁煙化が叫ば れているいま、全面禁煙化の可能性にむけどのよう な対策をしていけばよいのかの一端を示すことで あった。調査方法は自己記入方式によるアンケート 調査を実施した。その結果、以下のことがわかった。
1.本学部未成年者の喫煙の現状は約10%であった。
2.吸い始めの時期は大学1年生の頃が最も多く、
そのきっかけは友人のすすめであった。
3.タバコの入手経路は「コンビニ・小売店」が86.0%
を占めた。
4.ほとんどの学生が喫煙は健康にとってマイナス であるという意識があった。
5.分煙化か全面禁煙化の問題では、今まで通り喫 煙所のみ喫煙可能とする分煙化が74.3%を示し、
全面禁煙化は23.5%であった。
6.非禁煙者が最も気になっているマナーは歩行喫 煙であり、不快に思っているのは煙の臭いであっ た。
7.喫煙と本学部所属という意識では、「吸わないほ うがよいと」「どちらかといえば吸わないほうが よい」をあわせると74.0%であった。
今回対象とした未成年が高学年になる数年の期 間、家庭や高校での禁煙教育の徹底、タバコを入手 させないよう社会の協力を得て、その間に喫煙者へ の禁煙支援を行うことで、近い将来、全面禁煙化に スムーズに移行できる可能性は十分にあると思われ る。
本学部は「環境」という名のつく学部である。キャ ンパス内全面禁煙であることが ISO 活動と並ぶ大 きなアピールになるのではないであろうか。
参考文献
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