経済成長と停滞を説明する 簡単なマクロ経済モデル

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(551) −87一

経済成長と停滞を説明する 簡単なマクロ経済モデル

馬 田 哲 次

 The purpose of this paper is to present a simple macroeconomic model which explains the economic boom and stagnation. One of the characteristics of this model is to use a modified Matthews s investment function. Using economic data, we shows the structural change of Japanese economy around l991.

1 はじめに

 日本経済は,1990年代からの停滞が続いている。アベノミクスの効果も限 られた範囲にとどまっているようである。

 1990年代から日本経済に構造的な変化が生じたように思われるが,そのこ とを理論的にも実証的にも示す必要がある。誤った認識の下では,正しい経 済性政策を行うことはできない。

 本稿では,簡単なマクロ経済モデルを用いて,それを示すことを試みた。

モデルの特徴は,投資関数に修正したマシューズの投資関数を用いたことで ある。加速度原理の投資関数を用いれば,経済発展と停滞を説明するモデル を作ることは容易であるが,その投資関数は制約がきつく,データをみて も,投資関数の当てはまりは良くない。マシューズの投資関数は簡単ではあ るが,1990年ごろまでのデータがよくあてはまり,1990年代から構造変化が 生じたことを理論的に実証的にも簡単に示すことができる。

 本稿の構成は,以下のとおりである。H説でマクロ経済モデルについて説 明し,皿節で,経済データを用いての理論の検証を行う。そして,最後のIV 節で本稿のまとめと今後の課題について述べる。

∬ モデル

海外との取引がなく,政府も存在しない経済を仮定する。

(2)

88−  (552) 山口経済学雑誌 第63巻 第6号

 財・サービス市場の需給一致を仮定すると,

 Y,=C,+1,      (1)

と書くことが出来る。ここで,YはGDP, Cは消費,1は投資であり,添え 字は期を表す。

 消費関数として,ケインズ型の消費関数の  CtニA+cY,

を仮定する。

 投資関数は,マシューズの投資関数を少し修正して,

 1[=oY,.1−∂Kt+B

を仮定する。ここで,K,は, t期首の資本ストックである。

 今期の投資が,前期のGDPの増加関数であることは,

れる。つまり,前期のGDPが大きいということは,

きく,

考えられる。

(2)

(3)

      次のように説明さ       前期の付加価値額が大 利潤も大きいと考えられる。利潤が大きいと投資も大きくなることが

 今期の投資が今期首の資本ストックの減少関数であることは,次のように 説明される。つまり,今期の資本ストックが大きくなれば,資本ストックが 過剰になる可能性が高まるので,投資を抑制するように作用する。

 最後の定数項は,現実のデータを見た時に,定数項の存在を仮定した方が いいと思われることと,モデルを集約したときに,定常状態を表すために は,独立投資の存在を仮定した方がいいと思われるからである。

 資本ストックと投資の関係式として,次のように書くことができる。

 K,+1=K,+1,一♂K,       (4)

ここで,4は資本減耗率である。

 モデルの内生変数は,Y, C,1, Kの4つであり,(1)〜(4)の4本の 方程式からなるマクロ経済モデルである。

 モデルを集約すると,次のようになる。

    (1−6)(1一δ一4)+o

      θ(1−4)

       (∂+4)、4+4B

       (5)

 K.1=

      K−

      K−1+

       1−0        1−0

       1−c

(3)

       経済成長と停滞を説明する簡単なマクロ経済モデル  (553)−89一

 これは,Yにつての2階の差分方程式である。

定常状態でのYをY零とおくと,

    (∂+4)、4+4B

      (6)

 y㌔

   (∂+4)(1−c)一α4

となる。もし,資本減耗率が0ならば,

      (7)

 rニ

   1−c

となる。限界消費性向と基礎消費の大きさで定常状態のGDPの大きさが決 まることになる。

 (5)が定常状態に収束するための条件は,

(1−・)(1−∂}4)+・一α(1−4)<1         (8)

      1−c

    1−o

−(1−・)(1+4)+・」1−4)<1     (9)

       1−c

     l−6

     α(1−4)

         <1       (10)

 −1<−

      1−c である。

 (8)より,

 α4<(∂+4)(1−c)      (ll)

を得る。

 (ll)より,

 (∂+4−2)(1−6) 〈α(2−4)       (12)

を得る。

 (10)より,

 一(1−c) <or(1−4) < (1−c)       (13)

を得る。

 (11)〜(13)より,(5)が定常状態に収束するためには,σの大きさがあ る一定の範囲になければならず,その範囲を超えて大きくなれば,経済は不

(4)

90− (554) 山口経済学雑誌 第63巻 第6号

安定に,つまり,上方または下方への発散運動をおこすことが分かる。

皿 データ

 ここでは,実際のデータを基に検討してみる。図1は,1956年度から1998

年度までの,横軸が1期前のGDP,縦軸が非金融法人企業の総固定資本形

成のデータをプロットしたものである。

    図1

GDP(1期前)一非金融法人企粟総固定資本形成  900DOO ・

 81.0000 ・

 70.㎜

ビ ヒ     顕覧。。。。

くむ 

禦,q㎜

 200000 陶

 100000 ・

  °oα;丁

出所:

1991

    100㏄00        2000QOO        301.0司00        400、0噸00

      GDP(1期前)

内閣府HPのデータを基に. Microsoft Excelを用いて筆者作成

500,㎝〕o 繭㎜。

 図1の中で1991と書かれている点は,1991年度の非金融法人企業の総固定 資本形成と1990年度のGDPに対応する点である。厳密な実証分析は行って

いないが,それ以降民間非金融企業の固定資本形成と一期前のGDPとの

間に,明らかな構造変化があったことが見て取れる。

(5)

経済成長と停滞を説明する簡単なマクロ経済モデル  (555)−91一

90ρDOO ・一..

肌゜°°°1..

7°・oqo°1一

ゼ㎜゜i..

ザ…セ

ヨ ロ リロむキ  線3α。・。叶..

20、0000事..

10戸000,0 辱一…L

  α゜6i

出所:

      図2

GDP(一期前)と非金融民間企業総固定資本形成(1956−1991)

         .−y・一畳・04709x■+911− 7.

       ...R3.=097

  50,αじD.0  100,0000  150,0CO、0  200、0000  Z50,DDD.0  301ρOG O  350.伽、0  400,000、O

      GDP(一潮薗)

内閣府HPのデータを基に, Microsoft Excelを用いて筆者作成

450ρ000D  500,DOO O

 図2のグラフは,図1のグラフの一部を用いて作成したものである。1956 年度から1991年度までのデータを用いている。なお,年度は,非金融法人企 業の総固定資本係数のデータで,GDPのデータはそれより一期前のデータ である。厳密な実証分析ではないが,決定係数が0.974と大きい。

(6)

92−  (556) 山口経済学雑誌 第63巻 第6号

     図3

GDP(一期前)一民聞固定資本形成(企桑設備)

100,㎝】.0 ・

1991 go.㎜oトー一

go.㎜o}

 7q鵬。1−−

1職

ll::}1三

一一. 馳1一馳

ゾ   ー一」

■一一L

1111馳馳一711

30.㎜.O r…………一一一』一

20脚ρ11T.

1叩ooo l−一一一一.一..

  00 L−一一一一   ..… 一一・一・・一一・一一・一一一・・一一・一一一一.一一一一一一一一一一一一一』一一一一一一一一一一一一一一幽一』』』一』一』 一 一一一』』一』』幽L 』一』一

  00    10[,㎜0   200.㎜O    鋤.〔mo   400.〔mo   細伽O        GDP(一期藺)

出所:内閣府HPのデータを基に, Microsoft Excelを用いて筆者作成

600,㎜0

 図3は,1981年度〜2009年度データで,横軸が一期前のGDP,縦軸が民

間総固定資本形成(企業設備)のグラフである。図中1991と書かれた点は,

1991年度の民間総固定資本形成(企業設備)と1990年度のGDPに対応する 点である。図1と同じような動きをしている。

(7)

経済成長と停滞を説明する簡単なマクロ経済モデル  (557)−93一

 図4は,1981年度〜1991年度のデータで,横軸は一期前のGDP,縦軸は

民間総固定資本形成(企業設備)である。決定係数が,0.9662と安定した関 係があることを示している。

         図4

GDP(一期前)一民間固定資本形成(企桑設賞)

120,α刃O r』』幽』』』』一一』一』幽一一−1冒丁7一 1−一 

_一≒三7掘驚磁顛三曜放烈灘,浜三1ξ

       廊遥q三9ぢ62,

 磁0,0噸0.O 争一…一一一一一一一一一一一一一一一

1…ト…際

 40,㎜・〇十一一一一一一一

・α㎜・÷一…一

     50r伽.0 100.㎜n 15[.㎜.0 200μ勘,0 2m,肌0 300脚0 390.㎜0 柳.㎜.0 柵伽0 500脚O       GOP 一鋼曹)

出所:内閣府HPのデータを基に, MicrosofヒExcelを用いて筆者作成

 }

°°

(8)

94− (558) 山口経済学雑誌 第63巻 第6号

 図5は,1993年度〜2009年度の一期前のGDPと民間総固定資本形成(企

業設備)の関係のグラフである。決定係数が0.1413と小さく,直線の傾きが 0.187と小さくなっている。

         図5

GDP(一期前)一民間企桑設備投資(1993−2009)

90,0匹00 ・

80,0Doo

70,㎜0・.

y・一・一……

50、㎝)0・

郎50、0100、

巨40・㎜01

 30・㎜0 .

20.㏄ゆ0−..

10,00唾}0−.

  004      .一.. ..

  480,㎜0       485.伽0       49【,㎜0       495,伽0       ㎜㎜0       獅.㎜0       510.㎜O

       GDP

出所:内閣府HPのデータを基に, Microsoft Excelを用いて筆者作成

515.㎜0     520,㎜0

(9)

       経済成長と停滞を説明する簡単なマクロ経済モデル  (559)−95一

 図6は,1980年度〜2009年度のデータで,横軸がGDP,縦軸が民間最終

消費支出である。

 投資関数に比べると安定した関係にあるが,2000年度前頃から消費関数も 構造変化を起こしたように見える。

       図6       GDP一民間最終消費支出

3脆㎜゜

鋤㎜゜ じー−T

ぎ::::tll[

 100.㎜.0 卜..』』馳…

トー

   幽 . 1繭6幽』』幽 2繭iδT 3⑳。。。・  痂葡       GDP

出所:内閣府HPのデータを基に, Microsoft Excelを用いて筆者作成

・・

。16

..5蒔薦δ...  』幽』6面.㎝o

(10)

96− (560) 山口経済学雑誌 第63巻 第6号

 図7は,1980年度〜1992年度のGDPと民間最終消費支出のデータをグラ

フにしたものである。決定係数が0.998と非常に安定した関係を持っている。

    図7

GDP一民聞最終消費支出

300脚・or

25qα顕10 

 200、㎜.O P・……・

萎1阻㎜・...一一...

 100.00001−.一.一一.

y=q.5034x+12413

   .F蓼..α998一

50.㎜O

  00 ・ ..一一一. ....   一...一.  .  一...一..  .一.一...一.一....一... 一一一. 「 ..一.... 一一一. . .  一 一一一..

   00    100.㎜0   200,㎜0   鋤.伽0   400,㎜0   500.伽O

      GDP

出所 内閣府HPのデータを基に, Microsoft Excelを用いて筆者作成

600.0000

(11)

経済成長と停滞を説明する簡単なマクロ経済モデル  (561)−97一

 図8は,1992年度〜2009年度のGDPと民間最終消費支出のデータを図示

したものである。決定係数が,α3981とそれ以前に比べてかなり小さくなっ

ている。

 全体として,当てはめた直線の傾きはあまり変わらないので,GDPと民

間最終消費支出の関係は,全体としてあまり変化していないようであるが,

プロットした点がほぼ水平に動いているときもある。これは限界消費性向が ほぼゼロに等しいことを意味し,乗数効果が働かないことを意味する。

       図8

GDP一民間最終消費支出、1992−2009

300㎜0 −一一一一L」」・ 一・・

晒㎜OF………

290伽O r−一  一一 一

285・㎜O 言■『1−一 一

髪一・レ…

箋,1

 1

2η㎜ 叶』一一…

265.㎜0←一一

2範㎝゜r…1一一

  470ρ頓〕0

出所:

y鷺0.5091x+

1−一一一一1111■1−1−一一一一一一一一一一一11「

       2=      1      一

    、一/一

1一馳1−

255.㎝〕.0←一一一一一一一一』一』』一一一1−『τ

    475伽0 柵仰O 鱗㎝ρ 欄.〔㎜0 495.㎝0 500.鵬0 獅鋤0 510,㎜0 515.㎝0 5⑳㎝O

       GDP

  内閣府HPのデータを基に, Microsoft Excelを用いて筆者作成

(12)

98− (562) 山口経済学雑誌 第63巻 第6号

 図9は,1970暦年〜1998暦年の純固定資産と非金融法人企業の総固定資本

形成をプロットしたものである。両者の関係は図1とほぼ同様である。マ

シューズの投資関数によれば,資本ストックは,設備投資にマイナスの影響 を及ぼすが,このデータを見る限り,そのような関係は見られない。設備投 資がなされると資本ストックは増加するので,そのような関係が示されてい ると思われる。

     図9

純固定資産一総固定資本形成

90、㎜0 ・

80.㏄00

70ρDOO ぼのじ   

るうむ  の ド 塁舶,㎜。

簑3卿゜

ZαODO。

10rOOOO L

 oo

  OO      ユ00昌㎜O        ZDO.脚0        3DOr㎜0        蜘.㎜0        500r㎜0        ㎜r㎜0        700ρ㎜O

      純国定資度

出所:内閣府HPのデータを基に, Microsoft Excelを用いて筆者作成

】V まとめと今後の課題

 本稿では,修正したマシューズの投資関数を用いて,経済の発展と停滞を 説明する簡単なマクロ経済モデルを構築し,現実の経済データを用いて1991 年頃に経済構造が生じたことを示した。

 そのころまで安定していた投資関数と消費関数が不安定化し,GDPに民

間消費と民間設備投資があまり反応しなくなったことが,日本経済が停滞を

(13)

経済成長と停滞を説明する簡単なマクロ経済モデル  (563)−99一

続けている大きな原因だと思われる。

 マシューズの投資関数によれば,設備投資に,前期のGDPはプラスの効

果を,今期首の資本ストックはマイナスの効果を持つが,データを見る限

り,前者の効果は確認できたが,後者の効果はあまり見られない。

 不安定化した投資関数と消費関数の分析を進めることが今後の課題であ

る。

参考文献

マシューズ,R. C。 O 海老沢道進訳(1961)『景気循環』至誠堂 村田光義(1998)『基本マクロ経済学 改訂版』税務経理協会 森田優三・久次智雄(1993)『新統計概論』日本評論社 山本拓(1988)『経済の時系列分析』創文社

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