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TV-CM ソウキ ヲ タカメル ヒョウゲン シュホウ ノヨウイン

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

TV-CM ソウキ ヲ タカメル ヒョウゲン シュホウ ノ ヨウイン

吉田, 博則

九州大学芸術工学府デザインストラテジー専攻博士後期課程

https://doi.org/10.15017/20278

出版情報:Kyushu University, 2010, 博士(芸術工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

図.6-1    TV-CM における送り手と受け手の関係 

①  TV-CM 表現 

あ 

 

ア 

②  記憶のメカニズム

 

(  送り手  ) 

制作者   

(  受け手  ) 生活者 

結論   

   

1. 各章の概要 

  本研究では、TV-CM において、制作者が意図する表現要素が、生活者の記憶を促す要 因について検証した。 

①「送り手の TV-CM 表現」に関して 

制作者の具体的な事例をもとに、TV-CM 表現の創造的意図について考察した。 

②「受け手の記憶のメカニズム」に関して 

TV-CM を視聴した生活者がどのように TV-CM を想起しているのか、記憶のメカニズ ムについて認知心理学の知見のもとに明らかにした。 

③「送り手の TV-CM 表現」と「受け手の記憶のメカニズム」の関係について 

制作者が意図した TV-CM の表現手法が、記憶のメカニズムにどのように働きかけてい るか、一定の条件のもとに 3 つの実験・検証を通して明らかにした。(図.6-1) 

         

本研究は TV-CM の表現要素の一つひとつが、生活者の商品想起に影響を与えるとい う仮説に基づく。TV-CM の表現要素を、ストーリー要素と商品関連要素に分けることで、

それぞれのショットの役割を明確にする試みであった。 

ここで、本研究で取り組んだ研究内容について、各章単位に振り返ってみたい。

   

(3)

1-1.  第 1 章 

TV-CM 表現効果を検討するにあたり、TV-CM の基礎的な情報を取りあげた。そして、

TV-CM コンテンツを構成する要素をストーリー要素と商品関連要素に分けることを提 唱した。 

 

1-2.  第 2 章 

TV-CM の企画立案における表現コンセプトについて、認知心理学の知見をもとに、記 憶のメカニズムとの関連性を明らかにした。

表現コンセプトの中でも、「意外性表現」、「繰り返し表現」、「シンボリック表現」、「置 き換え表現」そして「隠れたコンセプト」について、具体的な事例を提示しながら、生 活者の TV-CM 想起に与える影響を考察した。 

1-3.  第 3 章 

  商品関連要素の中でも、商品ディスプレイショットに焦点をあてた。TV-CM 表現にお ける商品ディスプレイショットの表現手法が、生活者の商品想起を高める要因を明らか にする実験・検証であった。 

  既存の TV-CM は、表現の「変数」が多すぎで実験に用いるには難しい。そこで、表現 手法の「変数」を大幅に限定した商品ディスプレイショットを制作して実験の刺激とす る方法を選択した。そこには目印として無意味なカタカナ 2 文字の商品名が割り振られ ていた。そして比較する表現手法として、代表的な導入技法であるフィックス、フェイ ドイン、ワイプインを採用した。ここでの「変数」は、導入技法における画面上の明暗 だけであった。これらが被験者の商品想起にどのような影響を与えているか測定するた めに、本実験用の修正再認率を設定した。実験の結果、各表現手法の間に優劣があるこ とが分かった。 

 

1-4.  第 4 章 

  次に商品関連要素の中でも、商品ラベルショットに焦点をあてた。TV-CM 表現におけ る商品ラベルショットが、生活者の商品想起を高める要因を明らかにする実験・検証で あった。 

  ここでも同じく表現手法の「変数」を大幅に限定した商品ラベルショットを制作して 実験の刺激とする方法を選択した。そこには目印として無意味なカタカナ 2 文字の商品

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名が割り振られていた。そして比較する表現手法として、代表的な技法であるフィック ス、ズームイン、パンニングを採用した。ここでの「変数」は、画面のサイズの変化の みであった。これらが被験者の商品想起にどのような影響を与えているか測定するため に、本実験用の修正再認率を設定した。実験の結果、各表現手法の間に優劣があること が分かった。 

 

1-5.  第 5 章 

  次にもう一つの 2 大表現要素であるストーリー要素に焦点をあてた。TV-CM 表現にお けるストーリー関連ショットが、生活者の商品想起や商品好感度に与える影響を明らか にする実験・検証であった。 

  ここでも同じく表現手法の「変数」を大幅に限定した商品関連ショット群を制作して 実験の刺激とする方法を選択した。そこには目印として無意味なカタカナ 2 文字の商品 名が割り振られている。そして比較する表現モチーフとして、人物群(現場監督・ビジネ スマン・ジョガー)、食事群(カレー・ハンバーガー・サラダ)、動物群(犬・猫・アヒル)を 採用した。これらがオーバーラップで商品外観映像につながったものであった。ここで の「変数」は、表現モチーフのみであった。画面のサイズの変化、明暗の変化などはな かった。 

  これらが被験者の商品想起にどのような影響を与えているか測定するために、本実験 用の修正再認率を設定した。実験の結果、各表現手法の間に優劣がないことが分かった。   

  次にこれらが被験者の商品好感にどのような影響を与えているか測定するために、本 実験用の商品好感度を設定した。その結果、各表現手法の間に優劣があることが分かっ た。食事群(カレー・ハンバーガー・サラダ)が、人物群(現場監督・ビジネスマン・ジョ ガー)より、後続する商品映像の商品好感度を高めることが分かった。 

  この章の実験で、一つの視聴課題を見たあとで被験者は、2 つの認知テストを受けた。 

商品想起を測定する再認テストと、商品好感度を測定する嗜好テストである。この実験 方法では、提示された刺激と被験者の実験環境が同一なので、被験者の内面で商品想起 と商品好感度がどのような関係にあるか測定可能となった。 

 

 

 

 

(5)

2.  結論   

2-1.  表現コンセプト 

  TV-CM の制作者は、視聴した生活者が後で TV-CM の情報を想起することを目的とし て、企画立案する。そのために考案された表現コンセプトには、記憶に TV-CM の情報を 保持させるための創意工夫がなされていた。 

 

(1)「ながら視聴」を想定した表現コンセプト「意外性表現」 

  日常生活の他の行為と平行してテレビを視聴している生活者に、注意を喚起する表現 コンセプトが「意外性表現」である。意外性の要素として、登場人物のサイズ、状況設 定、ストーリー展開、素材感などがある。「意外性表現」は、感覚貯蔵庫に入ってきた TV-CM の情報を選択的注意により短期記憶へと移行させるための有効な手段である。 

 

(2)  商品情報の想起を狙った表現コンセプト「繰り返し表現」 

  商品情報の想起を主たる目的にした TV-CM において、表現コンセプト「繰り返し表現」

が用いられることが多い。これは、心理学の維持リハーサルを応用した表現コンセプト である。商品名やキャッチフレーズを繰り返し伝えることで、生活者の想起を促す有効 な手段である。 

 

(3)  購買層の生活者像を象徴化する表現コンセプト「シンボリック表現」 

  商品の魅力を凝縮して生活者に伝えるために、登場人物、状況設定、ドラマ展開にお いて、「シンボリックな表現」を用いることが多い。この「シンボリック表現」は主に、

TV-CM から生活者が感覚貯蔵庫に受け取った情報を的確にコード化して、短期記憶に移 行することをスムーズにする働きを担っている。そして後に生活者が商品の情報を正確 に想起するための有効な手がかりになる。 

 

(4)  記憶を促す表現コンセプト「置き換え表現」 

    他社の TV-CM と違いを意識した表現コンセプトに「置き換え表現」がある。これは、

TV-CM の前半部分において、スキーマの構築がなされていることが前提である。先行す るスキーマが、「置き換え表現」を際立たせて、TV-CM の情報が視聴する生活者の短期 記憶から長期記憶へと移行する可能性が高まる。 

(6)

(5)  ヘビーユーザーを意識した表現コンセプト「隠れたコンセプト」 

  TV-CM の制作者は、企業が伝えたい情報に、ヘビーユーザーが好む要素を付加して企 画を立案することが多い。このことは心理学の精緻化との関連性が高い。企業の情報に 的確な表現要素を加えることで、その情報を短期記憶から長期記憶へと移行することが 可能となる。 

   

2-2.  商品ディスプレイショット 

最も一般的な商品ディスプレイショットの導入技法 3 タイプについて、商品想起に対 する優位性を明らかにするために、これら 3 タイプを比較する再認実験をおこなった。

そして3つの結果を得た。   

  結果(1)。フェイドイン導入の方が、フィックス導入よりも、商品想起に有効であった。

フェイドイン導入は、導入部分の 0.5 秒間を段々画面が明るくなるというエフェクトを 使っている。その間、商品が序々に見えてきて、商品がはっきり見えるのは、残りの 0.5 秒間だけである。それに比べフィックス導入は、1 秒間しっかり商品が見えている。つま り、フェイドイン導入よりも 2 倍の時間、商品が見えている。一般的に商品を長い時間 見せた方が商品想起に有効と思われているが、ここでは全く逆の結果であった。商品が 見えている時間が短くても、映像の導入部分で、商品を隠すことが商品想起に有効であ ることがわかった。  

  結果  (2)。フェイドイン導入の方が、ワイプイン導入よりも、商品想起に有効であった。

どちらの導入技法も、導入部分の 0.5 秒間で商品を隠したところから、序々に商品が見 えてくるという点で共通している。残りの 0.5 秒で商品を見せている点も共通している。

この 2 タイプの導入技法の違いは、映像上の暗部と明部の境界にある。フェイドイン導 入は、暗部と明部の境界は無く、商品全体が暗い状態から明るい状態に変化する。ワイ プイン導入はくっきりとしたライン状の境界が徐々に開いていきながら商品が部分的に 見えてくる。このくっきりした境界線のコントラストに注意が喚起されて、ラベルの商 品名に目がいかなかった。 

  結果  (3)。ワイプイン導入とフィックス導入に商品想起に差がないことがわかった。こ こで興味深いのは、商品を 0.5 秒間見せているワイプイン導入と、商品を 1 秒間見せて いるフィックス導入に差がないという点である。つまり、商品を 0.5 秒見せても、1 秒見 せても変わらないという結果である。 

  このように一定の条件下の実験で得た結果より、商品ディスプレイショットの商品想

(7)

起を高める表現手法について、次のような仮説を導くことができる。すなわち、TV-CM の終盤に登場する商品ディスプレイショットでは、商品を最初隠しておいて序々に見せ る方が効果的である。隠れていた商品の画面全体が明るくなることによって見る人の視 線を商品へと誘導できる。 

  第 1 章で紹介した TV-CM「アサヒビール・ウィル・心までスムース篇」において、

商品ディスプレイショットは、フィックス導入であった(図.6-1  ショット 3)。 

  それを、この仮説から、商品ディスプレイショットをフェイドイン導入にしたら(図.6-2  ショット 3)、商品想起において有利であったであろう。 

2-3.商品ラベルショット

最も一般的な商品ラベルショットの表現手法 3 タイプについて、商品想起に対する優

ショット 表現要素 映像 オーディオ

1 商品関連要素 (飲むショット)

2 商品関連要素

(商品内容ショット)

3 商品関連要素 (商品ディスプレイ

ショット)

ナレーション

「心までスムース

ウィル・

スムースビア 新発売」

図.6-1 TV-CM「アサヒビール・ウィル・心までスムース篇」  従来型 

ショット 表現要素 映像 オーディオ

1 商品関連要素 (飲むショット)

2 商品関連要素

(商品内容ショット)

3

フェイドイン導入 商品関連要素 (商品ディスプレイ

ショット)

ナレーション

「心までスムース

ウィル・

スムースビア 新発売」

図.6-2 TV-CM「アサヒビール・ウィル・心までスムース篇」  改良型 

(8)

位性を明らかにするために、これら3 タイプを比較する再認実験をおこなった。そして 2 つの結果を得た。 

  結果  (1)。フィックスのほうが、パンニングよりも、商品想起において有効な傾向がみ られた。フィックスは、1 秒間、商品ラベル部分を見せていて全く動きがない状態である。

それに比べパンニングは、同じ 1 秒間に商品が画面左の位置から画面センターに移動し てくる。パンニングの始点と終点の距離を視角度に換算すると、7 度前後であった。商品 名の文字を読み取ることが可能な移動である。それにもかかわらず、フィックスより、

商品想起において劣っていた。 

  結果  (2)。ズームインとパンニングの間で有意傾向はみられなかった。パンニングが被 験者に対して左右の動きであるのに対して、ズームインは、商品ラベル部分の商品名が 序々に大きくなって被験者に迫ってくる前後の動きである。被験者に対する縦と横の動 きが商品想起において、優劣がないことが分かった。 

  このことから、商品ラベルショットの商品想起を高める表現手法について、次のよう な仮説を導くことができる。すなわち、TV-CM の前半に登場する商品ラベルショットは、

パンニングでカメラの動きがあるよりも、画面のサイズが変化しないフィックスの方が 有効である。 

  TV-CM「霧島酒造・赤キリ白キリ黒キリ・あなたはどれ篇」において、商品ラ ベルショット(図.6-3)のショット 1、ショット 2 はいずれもパンニングでフィック 

ショット 表現要素 映像 オーディオ

1 商品関連要素 (商品ラベルショット)

横のパンニング

2 商品関連要素 (商品ラベルショット)

縦のパンニング

ナレーション

「赤か」

「白か」

図.6-3    TV-CM「霧島酒造・赤キリ白キリ黒キリ・あなたはどれ篇」  従来型 

(9)

スはなかった。それを、仮説に従って商品ラベルショット(図.6-4)のショット 2 を 商品ラベルの商品名が見える状態のフィックスにしたら、商品想起には有利に働い たであろう。 

2-4.  ストーリー関連ショット  (1)第一段階・再認テスト 

  最も一般的なストーリー関連ショットの表現モチーフ 3 グループについて、商品想起 に対する優位性を明らかにするために、これら 3 グループを比較する再認テストをおこ なった。そして次の結果を得た。 

  ストーリー関連ショットの人間群、食事群、動物群の間で、後続する商品外観映像の 商品想起において有意差はみられなかった。ストーリー関連ショットは、後続する商品 の想起に影響を与えていなかった。 

  このことから、ストーリー関連ショットの商品想起を高める表現手法について、次の ような仮説を導くことができる。 

  すなわち、ストーリー関連ショットは、後続する商品の想起に影響を与えていない。

よって、ストーリー関連ショットの表現モチーフのみで商品想起を狙うことは望ましく ない。商品につながる物語の文脈を組み立てることが不可欠である。 

(2)第二段階・嗜好テスト 

最も一般的なストーリー関連ショットの表現モチーフ 3 グループについて、商品好感 度に対する優位性を明らかにするために、これらを比較する嗜好テストをおこなった。

ショット 表現要素 映像 オーディオ

1

商品関連要素 (商品ラベルショット)

横のパンニング

2

商品関連要素 (商品ラベルショット)

ナレーション

「赤か」

「白か」

図.6-4    TV-CM「霧島酒造・赤キリ白キリ黒キリ・あなたはどれ篇」  改良型 

(10)

そして次の結果を得た。 

  ストーリー関連ショットの人間群、食事群、動物群の間で、後続する商品外観映像(  飲 料  )の商品好感度において有意差があることが分かった。表現モチーフ食事群が人物群よ り有意であった。食事群に続く商品映像(  飲料  )が、人物群に続く商品映像(  飲料  )より も、商品好感度を高めていた。実験で用いた商品が飲料であるため、「人物から商品」よ り、「食事から商品」のほうが意識の中で流暢につながった。 

 

  このことから、ストーリー関連ショットの商品好感度を高める表現手法について、次 のような仮説を導くことができる。 

  商品映像(  飲料  )に先行するストーリー関連ショットは、一般的な人物の映像と食事の 映像を比べた場合、食事の映像のほうが、見る人にとって興味の対象になりやすい。よ って、商品が飲料で、それに先行するストーリー要素を人物にするか食事にするか迷っ た場合は、食事の映像にした方が効果的である。人物をストーリー要素に使う場合は、

出演者の魅力をアップする創意工夫が必要である。 

  この仮説を、焼酎の TV-CM にあてはめてみると、焼酎を飲む人々が主人公の表現モチ ーフ  (図.6-5)  より、食事が主役の表現モチーフ(図.6-6)の方が、商品好感度において有 利である。 

ショット 表現要素 映像 オーディオ

1 商品関連要素 (飲むショット)

2 商品関連要素

(飲むショット)

3 商品関連要素

(飲むショット)

4 商品関連要素

(商品ディスプレイ ショット)

ナレーション

「福岡の夜に

赤の木挽

黒の木挽

その品質はうまい。

さつま木挽」

図.6-5    TV-CM「雲海酒造・赤の木挽、黒の木挽・居酒屋篇」   

(11)

 

3. 商品関連要素の表現セオリー

本研究から得た仮説から、商品想起の表現セオリーを導くことができる。 

① TV-CM の途中で挿入される商品関連要素の表現手法は、フィックスが好ましい。 

② 商品ディスプレイショットの導入技法はフェイドインが好ましい。 

  これらは、商品関連要素を TV-CM の構成要素として挿入する際に、一定の判断基準を 示していると思われる。 

例(1)。静的な表現構成の場合 

「登場人物がゆっくり視線をあげる表情の映像に、商品ラベルショットがフィックス で挿入される。その後、登場人物がじっと立っている全身像が映しだされる。そして 商品ディスプレイショットがゆっくりフェイドインする。」というシナリオが考えられ る。 

例(2)。動的な表現構成の場合 

「登場人物が走る、走る、走る、勢いあまって転倒した直後の表情の映像に続き、商 品レベル映像が挿入され、そして、走る、走る、走る遠景の後、商品ディスプレイシ ョットがゆっくりフェイドインする。」というシナリオが考えられる。 

ショット 構成要素 映像 オーディオ

1 ストーリー要素: 茹でた後の黒豚をポン 酢につける様子。 

2

ストーリー要素: 

しゃぶしゃぶ用に切っ た黒豚の鮮やかな質 感。 

3 商品関連要素: グラスの氷に、焼酎が 注がれる。 

4

商品関連要素: 

黒豚の隣にロックとその 後ろに黒霧島の一升瓶が ディスプレイされてい る。

ナレーション   

「鹿児島の黒豚は  繊維が細くて  身が柔らかい。 

   

しゃぶしゃぶで  そのうまさを  噛み締めよう。 

   

九州の味とともに、 

    トロッと  キリッと  黒霧島」

    図.6-6    TV-CM  「薩摩酒造・黒霧島・黒豚しゃぶしゃぶ篇」 

(12)

  本研究は、商品関連要素の中でも、商品ディスプレイショットと、商品ラベルショッ トに限定した実験・検証であった。これ以外の表現要素として、商品の機能解説や、商 品の使用場面などの要因を実験・検証すれば、ショットの役割に応じた表現セオリーが それぞれ発見できると思われる。こうして見つかった表現セオリー群は、TV-CM の制作 過程において指針として活用すると、商品想起に効果的な表現手法を生み出すきっかけ となるであろう。 

 

4. ストーリー要素と商品関連要素の連携による表現セオリー

  TV-CM の企画立案において、商品を基準にどのように手順でストーリー要素を決めた らいいか、今後の展望を考えたい。 

①ストーリー要素を決定する基準は、商品関連要素にある。 

まず、TV-CM で紹介したい商品関連要素(  商品ラベルショット、商品使用場面、商品 ディスプレイショットなど  )を決定する。 

②ストーリー要素を決定する基準は、表現コンセプトにある。 

次に①で決めた商品関連要素を最も効果的に登場させるために、ストーリー要素(登場 人物、ドラマ設定、ストーリー展開など)を表現コンセプト基準で検討する。 

 

  例として、「商品  :  ビール、商品コンセプト  :  天然素材、飲み心地  :  繊細、切れがい い」というケースを取りあげる。 

  ①まず、商品ディスプレイショットは、「テラスの白いテーブルに商品があり、木漏れ日 が差し込んでいる。」、商品内容ショットは、「液体のクローズアップ:きめ細やかな泡 と、小粒な炭酸の上昇」と設定する。 

  ②-1.  上記の商品関連要素を基準に表現コンセプトが「シンボリック表現」の場合、「テ ラスに干された白い T シャツが風に揺れている。そこへ、シャワー直後のスッピンの 自然派の女性が現れてビールを飲む。」といったシナリオが考えられる。 

  ②-2.  上記の商品関連要素を基準に表現コンセプトが「意外性表現」の場合、 

「テラスの白いテーブルに商品があり、木漏れ日から小さな妖精が現れて持ち去ろう とすると、次の瞬間、女性はうたた寝から目を覚ました。」といったシナリオが考えら れる。   

   

(13)

  このように商品関連の映像を先に思い浮かべて、逆算するような思考を制作者は無意 識的に辿っているケースが多いと思われる。これら恣意性が高い制作者の思考回路を明 らかにすることが本研究のねらいの一つであった。この点に関しても一定の基準が今後 示せると考える。 

   

5.  本研究の総括   

 

  本研究は、今までにない制作者の視点から TV-CM の表現効果を捉えたもので、研究手 法もおいて 3 つの大きな特徴をもっている。 

 

(1)  表現要素を 2 つに分けて明瞭化 

  TV-CM を構成する表現要素を、ストーリー要素と商品関連要素という 2 つの種類に分 けたことが、TV-CM の表現効果の解明につながった。本論文序論の先行研究で紹介した 浅井優美(2009)1は、TV-CM を「視聴印象」として、20 種類の因子から分析した。川村 洋次(2004)2は、論文「広告映像の修辞の分析」においで、TV-CM を構成するストーリー 要素を、「生産流通」「商品機能」「消費状況」「商品受容」「消費効果」に分類した。これ らの分類は TV-CM を視聴する受け手からの視点であり、お互いの関係性に研究は及んで いない。 

  これに比べ本研究は、TV-CM を商品関連要素とストーリー要素という2つの要素に分 類してそのお互いの関係性を、制作者の視点で解き明かしたことに意義がある。 

 

(2) TV-CM の「表現コンセプト」と「表現手法」 

  実務の世界で TV-CM の品質を高める要因は、多岐にわたり特定するのは難しい。企業 の理念、企業担当者の資質、広告代理店のチーム編成、クリエイティブ担当者の企画能 力、TV-CM ディレクターの演出能力などの要素がお互いに影響を受け合って、統合され て TV-CM コンテンツの品質が決定される。どの視点からどこに着目するかによって TV-CM の表現効果についての論点が変わってくる。 

  本研究は TV-CM の品質を決定する要因を、企画立案における「表現コンセプト」と制

1  浅川雅美「テレビ CM の視聴印象の多次元的特性の分析」『行動計量学』(36), 2009, pp.47-61

2  川村洋次「広告映像の修辞の分析--広告映像制作支援情報システムの構築に向けて」『広告科学』45,  日本広

(14)

作過程における「表現手法」に絞り込んで、制作者の視点で論を進めている。具体的な TV-CM の事例から、そこに凝縮された制作者の創造的な意図を解き明かしている。これ は、表現効果を解明するための方法論として、今後の新しいメディアが連合するクロス メディアの研究にも活用可能だ。 

 

(3)  最小単位の表現手法と TV-CM 想起の関係性 

  本研究の実験検証は、次のような視点からスタートしていた。「生活者の TV-CM の記 憶は全体像より断片的なものである。TV-CM 全体の印象というより、最小単位の表現要 素が、記憶の断片に影響を与えているのではないか。」という仮説である。 

  その上で、TV-CM コンテンツの最小単位として、ショットの導入技法や、画面のサイ ズの変化が、見る人の商品想起や商品好感度に与える影響を実験・検証した。複合的な 映像コンテンツを検証する際に表現の変数を最小にすることが肝心である。本研究は、

その点において明確な仮説で望んだことが実験の成果につながったと思われる。 

  今後、本研究の延長で取りあげるべきテーマとして、ストーリー要素と商品想起の関 係性、映像と音響(  台詞、ナレーション、音楽  )の関係性、キャッチフレーズと商品想起 の関係性などである。また、この研究が他の研究と連携することによって、広い意味で の「表現と認知」に関わるメカニズムの解明が期待できるであろう。 

 

6.  残された課題   

6-1.  商品関連要素の新たな検証課題 

 

本研究では、商品想起を高める表現手法の要因について、変化する要素を最小限に抑え て実験検証した。商品ディスプレイショットにおいては、導入部分の明暗のみの変化で あり、商品ラベルショットにおいては、画角の変化のみであった。 

  商品に注意を促す表現手法として今後、検証すべき課題に言及する。 

 

(1) 商品に視線を送る。 

登場人物が商品に視線を送ることで、見ている人の視線を商品に誘導する手法である。 

例として、3つの TV-CM のショット(図.6-7)を紹介する。いずれも、手に持った商品 に視線を送っている。今後の実験における材料として「視線が商品の場合」「視線がカ メラの場合」「視線はなく商品のみの場合」の 3 タイプを制作して、商品想起に与える

(15)

影響を比較検証する。 

   

  その他にも次のような注意喚起の表現セオリーの実験検証である。 

(2)商品に強い光をあてる。 

(3)商品の背景をシンプルにする。 

(4)商品が登場したときに、音響効果で注目を促す。 

 

  これらの TV-CM 表現は、今日のテレビでオンエアされる頻度は少ないが、効果的に取 り入れて実践している TV-CM は見受けられる。TV-CM の構成要素の中で、これら一つ ひとつの表現手法を積み重ねることが、見る人の商品想起を促すことにつながる。 

 

6-2.  ストーリー関連ショットの新たな検証課題 

  本研究で、ストーリー関連ショットが「商品好感度」に与える影響を実験検証した。

しかし、今後の研究で「商品好感度」を掘り下げて捉える必要がある。TV-CM の調査や 社会調査において、「好感度」は「好き」と答えた人の割合で算出するのが一般的である が、「好き」という基準と対になる要素が存在するかもしれない。例えば「親しみ」とい う基準が対になる要素だとしたら、①「親しみ」があって「好き」、②「親しみ」があっ て「嫌い」、③「親しみ」がなくて「好き」、④「親しみ」がなくて「嫌い」という4つ のケースが考えられる。このように TV-CM を評価するのに座標軸を2つ用いれば、今日 行なわれている単一の軸による好感度の基準より精度を上げることができる。 

    このような好感度に対する視点は、広告における新しい評価軸を作るであろう。 

これらは、今後の課題として取り組んでいきたい。 

 

     

TV-CM「オリンパス・小さなオリンパスと

大きなよろこび比較広告」  TV-CM「花王・ビオレ・ともさかりえ」  TV-CM「ニッスイ・大きな焼きおにぎり」 

図.6-7  登場人物が商品を見る場合 

(16)

7.  おわりに   

  TV-CM は、テレビでオンエアされて効果があったかなかったかを常々評価される。

マーケティングの視点から捉えると評価の基準は、その商品を多くの生活者が購入 することにある。「TV-CM の表現は優れていたが、商品購入には結びつかなかった」

という評価では、その TV-CM は役割を果たさなかったことになる。そこで行動を起 こすためのきっかけとして生活者の「商品想起」を促すことが TV-CM 表現のテーマ となる。 

  本研究は、TV-CM の表現効果について、生活者の「商品想起」を基準に取り組ん だものである。TV-CM における一つひとつの表現手法が、生活者の記憶に影響を与え ているという仮説に基づき、「商品想起」を高める表現手法について個々に検証を重ね た。そして一定の条件下で、「フェイドイン」や「フィックス」などの基本的な表現が 効果をもたらすことを明らかにした。 

  700 事例を上回る TV-CM 表現に基づきテーマを絞り込んで検証をスタートしたが、本 研究の結果は実務経験からは導けないものであった。  限られた時間で最大の効果を求め られる TV-CM においては、他との差別化を図るあまり、ややもすると技巧に走った表現 方法を多用する傾向にあるが、一定の条件下で、最も素朴で単純な表現手法の効果を明 らかにしたことは、この傾向に注意を喚起することができたと考える。 

  今日、TV-CM の効果測定が注目されている。しかし、その大半が、完成した TV-CM 映像コンテンツに対する測定であり、次回作の参考となることを主たる目的としている。

企業のコミュニケーション戦略において求められるのは、現在進行形の TV-CM の制作過 程において、商品想起を高める効果を、より高い精度で実現することである。本研究は、

この点においても指針を示すことができた。 

  今後、さらに複雑なメディアの組み合わせが予想されるクロスメディア3時代に、再確 認すべき基本的な商品アイデンティティの表現手法は数多く存在する。これらについて の検証は今後の課題としたい。 

   

3 クロスメディア(cross-media)とは、複数のメディアを組み合わせて、相互作用を狙うこと。携帯電話をク ロスの要としたメディアの組み合わせを指すことが多い。引用文献:日経広告研究所編『広告用語辞典』日本

参照

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