危機的状況 を呈 した女子学生 に対 する学生相談 の一例

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西 村 優 紀 美

Yukirrli Nishilnura:A Case Study of Crisis lntervention in a Fellrlale Student 一Frorn the Standpoint of a Student Counselor一

< 索 引用語 : 学生相談, 危 機介入, 女 子学生 >

<Keywords:student counseling,crisis intervention,female student>

I は じめ に

青 年 期 が不安 と混乱 に満 ちた危 機 的時 期 で あ る とい うことは,多 くの研究家が明 らか に して いる。

心 理 社 会 的 見 地 か ら ライ フサ イ クル を と らえ た Erikson,E.H.(1959)は ,青 年 期 の発達 課題 を ア イデ ンテ ィテ ィの確立 で あ ると考 え,多 くの人が この時期 にアイデ ンテ ィテ ィの危機 に直面 す ると して い る。 アイデ ンテ ィテ ィの確立 は,青 年期 に な され る といわれ るが,そ の基 本 的要素 は乳幼 児 期 か らの発達過程 を通 して形成 され る もので あ る。

青 年 期 以前 の発達 課 題 が適 切 に達 成 され て い な け れ ば,青 年期 の アイデ ンテ ィテ ィの確立 はそれだ け困難 とな る (下山,1998)。 大学 は, ま さに こ の時期 の人 々が学生 と して学 び,対 人 関係 を取 り 結 び,将 来 につ なが る自己意 識 を確立 す る場 で あ る。学生 は大学生活 の中で,さ まざまな悩 みや不 安 に直面 し,危 機 的 な状 況 に陥 る こと も多 い (馬 場 ,1997)。 青 年 期 の精 神 病 理 的 問題 は,そ れ ま で の様 々な発達段階 にお け る課題 を積 み残 しに し て きた結果 で あ る とい う一面 も否定 で きない。

本 研究 で は,卒 論指 導教 官 に対 して過 度 の恐 怖 心 を抱 くとと もに,自 虐 的 な観念 をつ の らせ て 日 常 的 に 自傷 行 為 を繰 り返 す に至 った女 子学 生 の事

例 の面 接経 過 を述 べ る。 その なか で は,教 員 との トラブルを き っか けに,幼 少 時 か ら現在 に至 る未 解決 の ままの両親 への葛藤が顕在化 す ることとな っ た。 ク ライエ ン トは面談 開始 の初期 には防衛 的 で あ ったが, カ ウ ンセ リングを通 して アイデ ンテ ィ テ ィ確立 の問題 に向 き合 って い くことにな った。

その経過 を述 べて い きたい。

Ⅱ 事 例 の 概 要

クライエ ン ト :A子 (仮名)22歳  大 学 4年 生 主訴 :指 導教官 が怖 い ・自傷 行為 をす る 家族 :会 社 員 の父,専 業主 婦 の継 母 は,同 県 で 暮 ら して い る。 2歳 上 の姉 は首 都 圏 で フ リ ー ター を して お り,実 家 とは音信 不通。 本 人 は高校卒業 後 ,一 人暮 ら しを して い る。

両 親 は A子 が 10歳の ころ に離 婚 し,A子 と姉 は 父親 の元 に引 き取 られ る。 父親 はA子 が大学 に入 学 後,再 婚 す る。 実母 (以後,母 親 と表 す)は 現 在 は一 人暮 ら し。 A子 と母 親 は入学 後 ,何 度 か連 絡 を取 り合 って い るが,そ の ことを父親 は知 らさ れ て いな い。

生育歴 :A子 は家族 の ことや生育環境 につ いて, あ ま り憶 え て い な い とい う。 保 育 所 の頃 か ら,

著者所属 :富 山大学保健管理 セ ンター,The Department of Health Services,Toyama University

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「テ レ ビで見 るよ うな仲 の良 い家庭 はあ り得 な い と思 って いた。 私 の家 は,誰 かが包丁 を振 り回 し て もおか しくないよ うなムー ドが あ った」 とい う。

また,幼 い頃 の両親 との関係 につ いて,A子 は母 親 に可 愛 が られ,姉 は父親 に可 愛 が られ た とい う 印象 を持 って い る。 それ は,姉 の記 憶 と一 致 して い るとい う。 A子 は父親 に叱 られ るたびに叩かれ, 母 親 に は可 愛 が られ た もの の,そ の時 の母親 の気 分 で猫 か わ いが りされ たか と思 え ば,拒 絶 され た

りと一 貫性 のな い扱 いを受 けた。

姉 は しっか り者 で,思 春 期 に は父 親 に対 して よ く反抗 して いた。 A子 は反抗心 や嫌悪感 を表 に出 さず に,嫌 な ことが あ って も笑 って その場 を しの いで い た。 「笑 う ことが 自分 に と ってSOSの 手 段 だ った」 が,大 学生 にな って その ことを父親 に告 白 した と ころ,「 A子 は いつ も笑 って い たか ら大 丈夫 だ と思 って いた」 と言 われ た。

両 親 の離 婚 の際,A子 は母親 と一緒 にいた い と 思 って いたが,姉 とと もに父親 の元 に残 され る こ とにな った。 A子 は,大 好 きだ った母親 が 自分 の 元 か ら突 然 去 って い ったの は父親 のせ いで,母 親 は 自分 と一緒 にいたか った と信 じて いた。 しか し, 大学 に入 ってか ら母親 にその ことを確 か め る と,

「は じめ か らA子 を引 き取 るつ も りはなか った」

と告 げ られ て しま う。

Ⅲ 面 接 経 過

X年 9月 〜 X+1年 3月 まで の 7ヶ 月 間,27回 (1回 60分)の 面 接 を,A子 本 人 の 内面 の変 化 を 中心 に, 3期 に分 けて報 告 す る。 「 」 はA子 の 言 葉 を表 し,〈  〉 は カ ウ ンセ ラー (Co)の 言 葉 を表 す。

初 回 :問 題 の発生 とそれ まで の経過

A子 は, 3年 次 に 自 ら希望 して B教 授 の ゼ ミに 所 属 す る。 当初 , B教 授 に対 して特 別 の感情 はな く,気 分屋 だが気 さ くな人 とい う印象 を持 って い た。 6月 に C大 学 の大学院 に進学 す る ことを決 め, B教 授 に報 告 した と ころ,「 こ この大 学 院 に進 学 す る と思 って,特 別 の配慮 を して あ げた。 私 に相

談 な く, 進 路 を決 め るとは何 ごとだ」 と叱 られた。

それ以 降,話 しか けて も返事 を して も らえず,明 らか に他 の学生 と異 な る態度 を され た。毎 日の休 憩 時間 にはA 子 に話 を向 けず,   コ ンパ で も完全 に 無 視 され た。 他 の ゼ ミ生 もそ の こ とに気 づ き,

「B 教 授 は気分 屋 で ヒステ リック。 いつ も誰 か を ターゲ ッ トに して い る人 だか ら」 と慰 めて くれ る が,自 分 が その ターゲ ッ トにな ったか と思 うと, い っそ う怖 くて た ま らな い とい う。 B教 授 の声 を 聞 くの も嫌 で,   3 月 の卒 業 まで耐 え られ な い, 退 学 した い ほ どだ とい う。

C o は ,教 員 に よ るゼ ミ生 へ の支 配 的 な関係 が 原 因 の ア カデ ミック ・ハ ラス メ ン トを想 定 し, カ

タル シス と して の定期的 な面談 を提案 した ところ, A 子 は了承 し週一 回,昼 休 み に面接 に くる約束 を した。

第 一期 : 2 回 〜 1 0 回

教 授 への恐怖 心 で身動 きで きな い状態 家 族 の問題 は無 関係 と主 張

A 子 は恐怖心 か らB教 授 の一挙一動 にび くび く して,体 がす くんで しまい, B教 授 に話 しか け ら れ る と,話 に耳 を傾 け るど ころで はな く,「私 は 何 か悪 い ことを しただ ろ うか。何 を叱 られ るのか」

と緊張 した。 Coが ,〈 B教 授 の対 応 に も問題 が あ るの で は ? 〉 と投 げか け る と,A子 は,「 B教 授 に問題 が あ るので はな く,全 部,私 の中 の問題 な のです。 私 の中の B教 授 へ の恐怖心 を取 り除 きた いのです」 と,非 が あ るの は 自分 で あ り, B教 授 に は問題 が な い とい う言葉 に終始 した。

この時期, B教 授 との接点 が あ るた びにA子 は 自傷 を繰 り返 し, 左 前 腕 の内側 に カ ッター によ る 無数 の切 り傷 が認 め られ た。

第 一 期 の最 終 回 ( 1 0 回目) に , A 子 は突 然 ,

「 私 は親離 れで きて いな いのか も しれ な い」 と語 っ た。首都 圏 で一人暮 ら しをす る姉 が情緒 不安定 に な り, よ く電話 をか けて くる。姉 は父親 に対 して 非常 に攻 撃 的 な ことを言 ったか と思 うと, 幼 い頃 の可愛が られ た思 い出を懐 か しそ うに話す とい う。

A 子 は,「 そ の よ うな姉 の姿 を見 て い る と, 自分

は逆 に母親 に可愛 が られ た ことを思 いだ し, 自分

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は母親 の愛情 を求 めて い るので はな いか と思 う」

と泣 きなが ら話 す のだ った。 「母親 に会 いたい し, 甘 え たい。母親 の ことを考 え る と心 が揺 れ る」 と, い ままでか た くなに封 じ込 めて きた感情 が こばれ 出 す か の よ うに, 家 族 の こ とを語 りは じめ た。

C o が ,〈 A子 さん は,お 母 さん に可 愛 が られ た思 い出が今 も心 に残 って い るのですね〉 と続 けると, A 子 は,「 幼 い と きの母 親 の印象 は,弱 い け ど優 しか った イ メー ジ。大学 に入 ってか ら会 ったが, 私 の思 うよ うな人 で はなか った。 母 親 はま るで子

ど もの よ うで,大 人 にな りきれて いな い感 じが し た。 ノイ ローゼで,無 理 や り入院 させ られ た こと もあ る とい う。離婚 す る ときに, 私 は母親 と一 緒 に住 み たい と言 ったの に,ど う してで きなか った の か と尋 ね る と, ̀はじめか ら引 き取 るつ も りは なか った ' と 言 わ れ た」 と話 す のだ った。

これ までC o は ,家 族 の ことは関係 な い と強 く 主 張 す るA 子 の意志 を尊重 し, 面 接 は もっぱ ら研 究室 内で の具体 的 な対応 に絞 って続 け られ たが,

こ こで一 気 にA子 本人 の 口か ら家族 に関す る核心 の部 分 が語 られ る こ とに な った。 しか しなが ら C o は ,A子 が まだ家 族 の こ とを直視 した くはな い とい う姿勢 を見 せ たので,そ の気持 を尊重 し面 接 を続 けた。

同 じ日に, 「 腕 を切 るの が減 って きた」 とい う 報 告 が あ った。 C o が , 〈 ど う してか な ? 〉 と尋 ね る と,「 B教 授 の機 嫌 が い いか ら。 まだ,い つ B 教 授 の機 嫌 が変 わ るか わか らな いので落 ち着 か な

い けれ ど」 と言 う。

第二 期 : 1 1 回〜 1 7 回

B 教 授 の言動 を客観化 し,怒 りを持 つて 表 出す る

家族 の問題 を語 り始 め る

B 教 授 の言動 が,A子 だ けで はな く他 のゼ ミ生 に も同様 に向 け られ,精 神 的 に傷 つ け られて い る 状況 が報 告 され て い く中で, A 子 は 自分 とB教 授 の関係 も客観的 に表現で きるよ うにな って い った。

「プ ライ ベ ー トな こ とまで 口出 しされ る」 な ど, これ まで の A子 とは一 変 して多 くの不満 が語 られ た。 Coは ,A子 の攻 撃 的 な 口調 に とま どいを覚

え なが らも,か た くな に 自分 の非 を主 張 して きた A子 が,今 ,吐 き出す よ うに B教 授 を批判 す る こ とに意 味 が あ る と感 じ,A子 の気持 を受 け入 れつ つ耳 を傾 けた。 A子 はさ らに次 の よ うに話 し始 め た。 「 ̀こ

れ は,セ クハ ラ じゃないわ よ 'と

前 置 きす れは 何を言 ってもセクハラにならないんですか?」 〈 た とえ ば ど うい う こ と ?〉 と聞 き返 す と,「 B教 授 は,̀A子 さん の趣 味 は何 ?男 漁 り ?'と 言 う。 ま た,ゼ ミ生 や他 の教 員 の うわ さ話 をみん なの前 で 平 気 です る。 ノイ ローゼだ った卒 業生 が い る とい う こと も,実 名入 りで話 す。 だか ら,ゼ ミ生 は, 自分 が席 を外 して い る ときに, B教 授 が 自分 の悪 口を言 って い るので はな いか と疑心 暗鬼 にな って い る」 と話 した。

A子 は 自分 の話 に客 観 性 を持 たせ,Coの 共 感 を引 き出そ うと一生懸命 にな って いた。客観 的 な 事 実 を引 き合 い に出 しなが ら相 手 の共 感 を得 よ う とす る姿 は, こ れ まで情緒 的 な反応 を あ りの まま 受 け止 めて も らうこ とが なか ったで あ ろ うA子 の 過 去 を街彿 とさせ た。

Coは 話 に出て きた卒 業生 の事例 を知 って お り, 現 在 カ ウ ンセ リングを継 続 して い る学 生 の ケ ー ス も B教 授 の うわ さ話 にな って いた ことか ら,〈 大 学 の教 員 と して,言 って はい けな い こ とが あ りま す ね。 A子 さん は, B教 授 の言動 が納得 で きない し,言 って はいけな い ことだ と思 ったのです ね〉

と共 感 的 に返 した。 A子 は,「 これ まで に もた く さん の先生 に出会 って きたが, こ こまで ひ どい人 はいなか った し, こ こまで嫌 いにな った人 もいな か った」 と,は じめて嫌悪感 を口に した。

こ こで は, B教 授 に対 す るA子 の厳 しい超 自我

が反映 され, B教 授 自身 の言動 が大学 の教授 と し

てふ さわ しい もの に改 め られ るべ きだ とい う考 え

が,怒 りを持 って話 され た。 しか し, B教 授 が 自

らその ことに気 づか な いか ぎ り,困 難 で あ る こと

も次第 に認識 され,A子 の攻撃性 は緩和 しは じめ

て い った。 さ らに, B教 授 の言動 が客観 的 に整理

されて い くうちに,教 授 のパ ー ソナ リテ ィーの問

題 が A子 の関心 の中心 にな り,「 B教 授 と私 は理

解 し合 え な い。 違 う種 類 の人 間 なん だ」 と語 られ

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た。 そ して,「 それ は幼少 時 に,自 分 の SOSを 受 け止 め られなか った父親 と私 の関係 と同 じだ」 と 話 し,   B 教 授 と父 親 のパ ー ソナ リテ ィーを重 ね合 わせ る ことで,   B 教 授 へ の恐怖心 を払拭 す る こと が で きた。 この面接 と前後 して,13回 目の面接 で は,「 ほ とん ど (腕を)切 らな くな った」 と報 告 され た。

第二 期 : 1 8 回〜2 4 回

母親 へ の愛情 希求 と見捨 て られ感 を言 語 化 す る

1 7 回目の面接 で,「最近,(腕 を)切 って いない。

も う切 らないよ うな気 がす る」 とい うA 子 の言葉 に,Coは それ まで の週 一 回 の面 接 を各 週 に変 え る提 案 を した。 しか し, 次 の週 に きた A 子 は,

「先生 (Co)に 面接 の間隔 をあ けるよ うに言 われ, i も う, 来 な くて いい : と い う意味 に聞 こえ, シ ョッ クで また (腕を)切 って しまった」 と元気 な く語 っ た。 Coは ,A子 の 自傷 行 為 が な くな って lヶ 月 半 にな り, 教 授 へ の恐怖 心 も消失 して, 面 接 目的 が ほぼ終了 した こと,そ して新 しい年 にな り卒論 発 表 の準 備 で忙 しいだ ろ うと考 え, 面 接 の枠 組 み を立 て直す時期 で あ る と感 じて いた。 しか し,   こ の と きの A子 の反応 は Coの 思 いを は るか に越 え る極端 な もので,そ の解釈 の飛躍 に A子 の見捨 て られ感 の強 さを感 じた よ うな気 が した。 ここで は C O の 真 意 を伝 え,話 し合 いの結 果 これ まで通 り の面接形態 を続 け る ことにな った。 す ぐに, 自傷 行為 は消失 した。

この時期,A子 の話 は B教 授 へ の恐怖 よ り も, 研 究 室 の先輩 に関 す る もの に な って い った。 B 教 授 の ゼ ミに は大学 院 1 年 の女 子 学生 D 子 が お り, A 子 の指導 に当 た って いた。 同 じ学科 の院生 の中 で も優秀 な学生 で,A子 もB 教 授 の指導 を受 け ら れ な い分,D子 を頼 りに卒論 を進 めて いた。 D子 はA 子 の指導 を よ くして くれ たに もかか わ らず, B 教 授 は D子 に対 して,「 いつ 自分 の研 究 をや っ て い るの ? 」 と言 う一 方 で,「 後輩 の指導 もち ゃ ん とや りな さい」 と注意 して い る とい う。 その D 子 が,   この時期 , 大 学 を休 みが ちにな り, つ い に

は長期 に休 む ことにな った。 しか し,A子 は, D 子 が毎 日 B教 授 が帰 宅 した後 に研 究 室 に きて い る

と ころを見 て,「 D子 先輩 もB教 授 との ことでつ らいん だ と思 う」 と,と ヽ 配 をつ の らせ て いた。

予 約 な しに A子 が突然 来 室 し (20回目),「 B教 授 が私 の と ころ に来 て,̀D子 さん が大 学 に来 る

とス トレスが た まるとい って, しば らく休 み たい ら しい。研究 も進 んで いない し困 るが, こん な時 に いろいろ言 って もプ レッシャーにな るの も心配 だ か ら黙 って い る。 あ な たの時 み た い に 'と

言 っ た。私 の心配 を して いた と言 うけ ど,私 に は無視 され て い る と しか とれ な か った。 話 しか けて も

̀後 で 'と

拒 否 され た。 それ なの に B教 授 の中で は, 私 の ことを心 配 して そ っと して お いて あ げ た こと にな って い る。 D子 先輩 の ことも, B教 授 本人 の 言動 は棚 上 げ にな って い る。 D子 先輩 がり 心配 で な らない」 と,せ っぱ詰 ま った表情 で一気 に語 った。

そ して,高 ぶ る感情 を抑 え られ ないよ うに泣 きな が ら,「十年前 の A家 (自分 の家族 )の よ うです。

B教 授が父親 で,D子 先輩が母親。母親が大変だ っ たの に,ま わ りは何 も気づ か ないふ りを して,私 も何 も して あ げ られ な くて,母 親 は病気 にな った し,家 を出 る羽 目にな った。父親 は人 の心 がわか らない人。 B教 授 も同 じ。 自分が何 を したかわか っ て いな い。 今,研 究室 でみん なが D子 先輩 が大変 だ とわか って い るの に,何 ごと もな いか の よ うに 振 る舞 って い る。私 も何 もで きな い。何 か して あ げな くて はいけないの に何 もで きない」 と話 す の だ った。

ま もな く復帰 して きた D子 は, これ まで通 りA 子 に親 切 に教 えて くれ た。 思 い切 って声 をか けた A子 に,D子 は 2月 の卒論 発表 が終 わ った ら大学 を辞 め ると告 げた。 大学 院が まだ 1年 残 って い る が, も うこの研究室 で はや って い けない とい うの が理 由だ った。 ち ゃん と見 て あげ られ な くて ごめ ん な さい と謝 るD子 に, A子 は,「 私 は何 の力 に もなれ な い。 母親 の時 と同 じです」 と, う なだれ るのだ った。

卒業 を 目の前 に した 3月 半 ば に,A子 は,D子

が大学 院 を中退 す る とい う結論 を出す まで に とて

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も苦 しん だ経 緯 を聞 いて, 「 その苦 しみ をわか っ て あげ られ なか った 自分 が情 けない。 私 が思 って いた以上 にD子 さん は苦 しんで いた。 D子 さん は 私 に, ' 教 えて あげ られ な くて ごめんね 1 と あや ま っ て くれ た。私 は これ ほど他人 か ら思 われ た ことが な い。 それ なの に,私 は何 も してあ げ られ ない。

D 子 さん が ,̀A子 さん はち ゃん と卒 業 して ね ' と 泣 きなが ら言 って くれ るの に, 私 はただ, は い と 素 っ気 な く言 うだ け。 ま っす ぐ向か って くる相 手 の思 いに,ど う した らいいのか とまど って しま う。

うろたえて しま う」 と言 う。 A 子 は, 引 き続 き母 親 につ いて も語 り始 め た。 「今 で もお母 さん に会 いた い。甘 え たい。 で も,会 って も私 が思 うよ う な人 で はないか ら,会 わない方が いい と思 う」 と, 両 価 的 な感 情 を表 現 した。 くお母 さん は,   自分 の ことで精一 杯 なのか も しれ な いね〉 と答 え ると,

「そ う思 わ な けれ ば い けな い こ とはわか るけ ど, 本 当 の母 親 だか らわか って あ げた くな い。 ど うで

もいい人 だ った らそ う思 え るだ ろ うけ ど, 私 のお 母 さん だ か らそ う思 い た くな い」 と語 った。 「家 族 の つ な が りは必 要 な い と否 定 して い るの に,

( 心の) ど こか で, 最 後 に はつ なが って いた い, 助 けて くれ るので はな いか と期 待 して しま う」 と 続 け, そ の よ うな母 親 像 を持 ち続 け, そ れ を支 え に しつつ,時 にはそれ を否定 しなが ら生 きて きた これ まで の A子 の葛 藤 と孤 独 を Coも み た思 いが した。

Ⅳ  考  察

1.A子 の問題 と面接過程

第一 期 の面 接 の中 で,A子 はか た くな に 「問題 が あ るの は自分で,B教 授 にはま った く非 が ない」

と主張 し続 けた。 B教 授 が 自分 に冷 た くす るの は, 自分 の能 力 が 足 りな いせ い だ とい うの だ った。

Coは 教 員 に よ る学 生 へ の ア カ デ ミック ・ハ ラス メ ン トの可能性 もあ るので, この ケースの見立 て を慎重 に しな ければな らない と感 じて いた。 また, 学 生 は 自傷 行為 と抑鬱 感 を あ らわ し,他 大学 の院 に進学 が決定 して いるに もかかわ らず退学 を考 え

て い る危機 的状況 で あ るとい う認識 に立 ち,ま ず は ク ライエ ン トの言葉 に慎重 に耳 を傾 けなが らも, 面接 で は卒 業 を 目標 にお いた現 実 的 な対 応 に話 の 焦点 を絞 って い った。

自傷 行 為 に至 った き っか け は指導 教官 との トラ ブルで あ り,や りと りが あ る前後 にその恐怖心 を 紛 らわ す た め に腕 を傷 つ け るよ うに な った。 「怖 さが痛 み にま ぎれて気持 ちが落 ち着 く」 とい うの で あ る。 A子 には自傷行為 の経歴 はな く,む しろ,

「他 人 とは深 くつ きあわ な い よ うに」,「 本心 を隠 して」 人 と付 き合 って きたので,傷 つ け られ る こ とが なか った とい う。 ほどほ どの距離感 を もった 対 人 関係 で, 傷 つ くことか ら自分 を守 って いた と い う。

C o が A 子 の恐 怖 心 に耳 を傾 け, 当 面 の行動 を 一 緒 に考 えてい くうちに,A子 は少 しずつ家族 の ことを話 しは じめた。 A 子 が最初 に話 し始 めたの は父親 の ことだ った。 母親 が家 にいた1 0 歳頃 まで は, A 子 は叱 られ るたびによ く父親 に叩かれ た。

心 の中で は納得 いか な くて も, 怖 いので黙 ってや り過 ご して しま うこ とが多 か った とい う。 家 の中 で争 い ごとが起 きる と, A 子 はその嵐 が通 り過 ぎ るの を黙 って待 つ しか なか った。 「姉 は 口答 え を したが, 私 は̀ 争い事 は止 めて'とい う気持 ちを, に こに こ笑 うことで表現 す る しか なか った」 とい

う。

この よ うな 自己防衛 的 な思春期,青 年 期前期 を 送 って きた A 子 に と って,   自傷 行 為 をす る 自分 を どの よ うに受 け止 めて よいのか戸惑 ったにちが い な い。 『自分 はなぜ 自傷 行為 をす るのか』 と自分 に問 いか け る中で, これ まで封 じ込 めて いた家族 の問題 に直面 せ ざ るを得 な くな って い ったので あ る。 10回目の面 接 で,A子 は,「母 親 と姉 は情 緒 不安 定 な人。 自分 は母親 と同 じよ うに精 神異 常者 なので はな いか」 と泣 きなが ら話 す のだ った。

自分 は母 親 に可愛 が られ たが, 父 親 に よ って引

き裂 か れ た とい う幼 い頃 の記憶 が, 大 学生 にな っ

て母親 と連絡 を取 る大 きな動 因 にな った に もかか

わ らず, 実 際 に会 った母親 はA 子 の思 い描 く母親

像 とはか け離 れ た ものだ った。 は じめか らA 子 を

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引 き取 るつ もりはなか った とい う母 親 の言 葉 は, A 子 に は受 け入 れが た く, 認 めが た い ことだ った にちが いない。

この よ うな家族 病理 の中で,A子 はその渦 の中 に巻 き込 まれ まい とす るか の よ うに,短 大 か ら 4 年制 の大学 に編入 し,さ らに大学 院 へ の進学 を決

め た。 ア ンナ ・フロイ トの い う禁欲主義 的 な生 き 方 に固執 す る こ とで防衛 し,自 己愛 の充 足 を求 め

た と考 え られ る (小此木,1999)。

この よ うな一 見,A子 に と って精神 的 に均衡 の とれ た状 態 が,B教 授 との トラブルを き っか けに くず れ, 自傷行為 とい う行動化 によ って 自分 を見 つ め直す,つ ま リアイデ ンテ ィテ ィの問題 に立 ち 向 か う必要性 が 出て きた と解釈 で きる。

第二 期 で は,Coは B教 授 へ の恐怖 心 と自傷 行為 を して しま うA子 をそ の まま受 け止 め た。 絶対 的 な上下 関係 のなかで, う ま く動 けな くな った A子 の恐怖心 は, 自傷行為 とい う行動化 を もって しか や り過 ごす ことが で きな くな って い る。 Coは , A子 の心 身 の反 応 に,「 そ うな って も仕 方 が な い 理 由が あ る。 そ う感 じて もいいのだ」 とい うA子

自身 の存在 の後 ろ盾 にな るよ うな受 容 的 な態度 を と り続 けた。 そ うい うCoと 同一 化 す る ことで, A子 は自分 自身 を責 め ることが な くな って い った。

そ して さらに,Coが 感 じるB教 授のパ ーソナ リティー の問題 につ いて も,A子 は同様 の反応 を し,堰 を 切 った よ うに次 々 と B教 授 の言動 につ いて怒 りを

もって話 し始 めた。

研 究 室 に お け るB教 授 は,父 親 の よ うに,「 人 の心 がわか らない人」であ り,「私 の SOSが キ ャッ チで きない無神経 な人」 だ った。 そ して,D子 は 十年前 に家 を出 された母親 のよ うに,B教 授 によ っ て研究室 か ら出 されて しま う結 果 とな った。 A子 に と って,「 十 年 前 の私 の家 の よ うな」 力動 的関 係 が再現 され た と感 じるの はたやす い ことだ った (Fig.1)。B教 授 へ の恐 怖 心 は父 親 像 を重 ね合 わ せ る ことで消失 して い った ものの,D子 の存 在 は A子 の母親 へ の愛着 と依存 を意識化 させ る結 果 と な った。 その一方 で,現 実 の母親 は 自分 を見捨 て た人 で あ り,精 神 的 な病気 を抱 え る人 で もあ る と

い う陰 の部 分 も重 くの しかか って きた ( F i g . 2 ) 。 D 子 は B 教 授 に対 して恐怖心 を持 ちお どお ど して い るA 子 に気 づ き, 間 に入 って細 か な指導 を して くれ た。 D 子 は, 院 生 の中で も優 秀 な人 で, 学 部 生 の指導 も丁寧 で, 教 授 か らの期待 も裏切 らない 学 生 で あ り, A 子 の理想 の女性像 に近 い ものだ っ た。 弱 い立場 で も自分 を守 り, 自 分 が頼 りに した と きに裏切 る ことな く守 って くれ た D 子 と,   自分 を肯定 的 に受 け入 れ, 見 捨 て られ る ことのない関 係 を保 ったC o は ,   A 子 が思 い描 く理 想 化 され た

Fig.1

甘 え られ な か つ た 私 を 見 捨 て た 精 神 的 な病 気 だ つ た 会 うと、 裏 切 られ る

好 きな人 可愛 が られ た 傍 にいてほ しい

立場 の弱 い人 依存 (したか った)人

Fig。2

(自分が望む人 ではない)1

(7)

母親 像 を具 象化 し, い っそ うA 子 の母 親 へ の愛 着 を意識化 させ る ことにな った ( F i g . 3 ) 。

2 . 青 年期 の発達課題 と病理

堤 ( 1 9 9 9 ) は , 幼 児期 に親 子 の間 で貧 しい情 緒 交 流 が認 め られ る思春 期症 例 に, 手 首 自傷 や解離 反 応 を示 す ものが み られ る とい う。 その精神 力動 的 特 徴 は, 多 くの点 で A 子 と重 な り合 って い る。 そ れは,① 幼児期の心理的虐待や愛情剥奪が思春期 まで引 きず られていること,② そのため,感 情面 で統合的な自己所有感が もてないこと,③ 愛情 を 求め るとき, 怒 りや憎 しみを持つ人格側面が解離 され,そ れが,特 に女性 に手首 自傷 などの行動化 とな って現れ る。 その間の ことに健忘がみ られ る こと,④ しば しば,苦 痛 な感情 に仮面 をかぶせ, 本心 とは異 なった自己表現を行 って きていること,

⑤ その奥 には, 強 い見捨て られ感が存在す ること,

⑥前思春期 に母子 の再接近 の修正 に失敗 している ことが多い こと,⑦ 第 2の 個体化 に失敗 して,そ のため自我同一性 の確立が うま く進んでいないこ と, とい う七項 目で表 されている。 A子 の 自傷行 為 は,「怖 さを痛 みで ま ぎ らわせ るため」 に行 う

もので,堤 のい う特徴 との違 いはみ られ るが,自 傷 をす ることで自分を保 とうとす る心性 は共通す

る もので あ る と考 え られ る。 また,A子 の状態像 を DSM― Ⅳ の基準 に照 ら し合 わせ る と,① 不安 定 な 自己イ メー ジ,② 過剰 な理想 化 と過小評価 の両 極 端 を揺 れ動 く不安 定 な対 人 関係 ,③ 自傷 行為 の 繰 り返 し,④ 見捨 て られ る ことを さけよ うとす る, な ど,字 句 の上 で は境 界性 人格 障害 の基準 に当て は ま る部 分 が多 い。 しか し,A子 の心性 は理解可 能 で あ り,共 感 で きる範 疇 の もので,従 来 の社 会 適 応 に も大 きな破 綻 が なか った こ と も考 え合 わ せ る と,A子 の状 態 は正常範 囲 の一 次 的 な社 会適応 の失敗 と考 え られ る。 つ ま り,A子 は幼児期 お よ び前思春 期 の危機 を うま く乗 り越 え られず,そ れ ぞ れの発達課題 を達 成 させ るにた る基 盤 のな い ま ま,青 年期 の危機 に直面 した といえ るだ ろ う。

Erikson,E.H.(1959)の アイ デ ンテ ィテ ィ論 で は,青 年 期 は,「 自分 とは何 か」 とい う自己へ の 問 い とそれ に続 く心 理 的葛 藤 を通 して獲 得 され る とい う(下山,1998)。 A子 は,誰 に も心 を許 す こ とな く,禁 欲主義 的 な考 えで 自分 を守 りつつ,専 門性 の高 い学 問 の道 を選 ん で きた。 人 との関係 は

もろいが,学 業 の達成 は 自他共 に満足 で きる評 価 を呼 び込 む。 自分 を傷 つ けない,防 衛 的 な 自己愛 の満足 の ため に,A子 はか りそめの アイデ ンテ ィ テ ィの確立 を保 って いたので はないだ ろ うか (島 村 ,1991)。 研 究 室 で の B教 授 と D子 を め ぐる出 来事 は,A子 が理想 とす る自己像 に 自分 自身 を近 づ けた い と努 力 して い るさなか に,A子 の防衛 的 な 自己愛 を揺 るがす ものだ ったに違 いな い。 その 結 果,い ったん はA子 の アイ デ ンテ ィテ ィは,葛 藤 の中 に引 き込 まれ た もの の,受 け止 め られ る体 験 や裏 切 られ な い関 係 を D子 や Coと の間 で体 験 す る こ とに よ って,先 送 りにな って いた アイデ ン テ ィテ ィの再形成 に向か って い くこととな った。

卒業 とい う時 間 的制 約 の あ るなか で,は か らず もA子 の幼少 時 か らの両親 に対 す る葛藤 を意識化 して しま うことにな った。 危機 的状 況 を切 り抜 け るための面接過程 が,A子 自身 もな るべ くな ら気 づ きた くなか ったで あ ろ う内面 を浮 き彫 りに させ て い った といえ る。

大学 とい う時間的 ・空 間的 に制 限 の あ る人 間関

頼 りにな り守 つて くれた 真 面 日で正 しい 裏切 られ るこ とのない信頼

理想化 され た母親像

肯定的 な受 け入れ 見捨 て られ ない 自己中心的考 え

人の心に無頓着 教育者 ・研 究者 らしくない言動 父親 と重ね合 わ

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74

係 の 中で はあ るが, A子 は信頼 感 ・見守 られ感 を 得 て, と りあえず の 自律 感 を持 ち卒 業 を迎 え た。

しか しなが ら,A子 の家族 にあ る病理 は依然 と し て解決 され な いままで あ り,A子 が本質 的 な アイ デ ンテ ィテ ィの確立 を得 た とはいいに くい。今後, A子 が新 しい環境 で新 たな人 間関係 を築 き上 げ る 過 程 で,周 囲 の人 たち と適度 な距離 感 を保 ちなが ら,信 頼 関係 を深 めて い く作業 が はた してで きる だ ろ うか。 A子 が望 む理想化 され た母親像 を相手 に求 め,そ れが適 わ なか った ときA子 はそれ を ど の よ うに 自身 の なかで受 け止 めて い くだ ろ うか。

人 と人 をつ な ぐ基 本 的 な信頼感 ・安 定感 は,何 度 も積 み上 げ られ くず され なが ら,そ れで も確実

に少 しずつ積 み上 げ られて い くもので あ る。 A子 が大学 で得 た, と りあえず の信頼感 ・安定 感 を信

じ,新 たな人 間関係 の なかで育 み,親 か らの精神 的独立 を経 て, 自立 的 な アイデ ンテ ィテ ィを築 い て い って くれ る ことを願 う。

3.学 内 にお ける学生相談 の役割

A子 の ケ ー ス は,指 導教官 との トラブルが き っ か けで あ るが, 自傷行為 お よび抑鬱 感 を伴 い,退 学 の可 能 性 もあ る危機 的 な状 況下 で の早 急 な対応 が求 め られ た。 さ らに,セ ク シュアル ・ハ ラス メ ン トの問題 も含 ん でお り,当 初 か ら対 応 の難 しさ を感 じざ るを得 な いケースで あ った。

特 に,筆 者 に と って教 員 一学生 間 の ケース は, 過去 のい くつかのケースを思 い起 こさせ るものだ っ た。 平 成 X‑3年 に学 内 で起 きた教 員 に よ る学 生 へ の セ ク シュアル 0ハ ラス メ ン ト事件 は,学 生相 談 の枠 を越 え た対 応 を迫 られ,そ の後 2年 を経 て 事 実 の一 部 に対 す る処 分 が教 員 に科 せ られ,最 終 的 に は当該 教 員 の依 願 退 職 とい う形 で一 応終結 し た。 しか し,そ の 2年 間 に学 生 の名誉 と人権 は大 き く傷 つ け られ,保 健管理 セ ンターの教員 もまた 同様 の被 害 に あ った。 「教 員 が加 害 者 の場 合,大 学 当局 は公正 な判 断決 定 が で きるか ど うか」 とい

う指摘 (高橋,1997)が ま さに現実 にな った感 が あ った。学生 とセ ンター教員 は心身共 に疲 れ果て, 憤 りと不 全感 だ けが残 った重 い記 憶 で あ る。

大学 院生 の増加 や社会人選抜 によ る学生 の増加 に と もな い,教 員 と個別 に長 時間 にわ た って関 わ る ことが 多 くな り,教 員 の人格 や教育者 と して の 資質 が学 生 に ダイ レク トに伝 わ るよ うにな った。

学 生相 談 を受 け る立場 か ら見 る と, A 子 の ケース が特殊 な もの と片づ け られ ない面 が あ る。教員 に 対 す る教 育者 ・研究者 と して の基 本 的 な モ ラルの 徹 底 と, 人 権意識 の啓蒙 を図 る こと も,   これか ら の学生相談 の重要 な役割 にな って きて い るよ うに 思 う。

これ までの教員 一学 生 間 の トラブルが原因 とな るケー スで は,面 談 の始 め にA子 の よ うな身体症 状 を訴 え て くる学 生 が 多 か った。 あ る学 生 は,

「そ の教 員 とい る と, 自分 が核 に して きた考 え方 や判断 の軸 がず れて しま うよ うな気 がす る。今 ま で の 自分 に 自信 が もて な くな り,間 違 って い るの は 自分 の方 で はないか と思 って しま う」 と表現 し た。傷 つ き体験 は,学 生 の アイデ ンテ ィテ ィを根 底 か ら揺 り動 かす ほどの影響 力 を持 ち,学 生 を心 身 共 に追 いつ めて い く。 しか し,彼 らには大学 以 外 で は健 康 な家庭 生 活 が あ り,傷 つ いた心 と体 を 守 って くれ る家族 が いた。 また,友 人 との親密 な つ なが りもカ タル シス とな った。 つ ま り,家 族 や 友 人 が学生 の後 ろ盾 とな って正 当性 を保 障 し,学 生 の アイ デ ンテ ィテ ィを安 定 させ る役割 を担 うこ

とが で きた。 しか し,A子 の ケースで はその よ う な役割 が学生相談 のCoに 委 ね られ たので あ る。

危機 介入 に直面 した ときには,学 生 へ の対応 に 加 えて さま ざ まな関係者 へ の対応 が同時 に学生相 談 に求 め られ る。一 つ の訴 えか ら得 られ る情報 の なか か ら本質 を探 り,関 係者 とチ ー ムを組 み なが ら対 策 に あ た る と と もに,Coと して 目の前 の学 生 の語 りに耳 を傾 けて い く姿勢 を と り続 け る こと が大切 で あ る。

〔 付  記 〕

本論 文 は第 19回学 生 相 談 学会 にて □頭発表 した

ものを もとに,加 筆修正 した もので あ る。 発表 当

日,貴 重 な ご助言 を いただ いた座長 の山崖俊子先

生 に深 く感謝 申 し上 げ ます。 また, この論 文 につ

(9)

期青年期精神医学  9 ( 2 ) : 1 3 1 ‑ 1 4 4 , 1 9 9 9 . いて ご指導 いただ いた中村   岡 1 先生 に も, 稿 を終

4 ) 島 村二重子 : 青年期における同一性の葛藤 とその え るにあ た り感謝 申 し上 げます。

病理 ―社会文化的移動 と治療者の役割 ―. 思 春期青 年期精神医学, 1 ( 1 ) : 6 7 ‑ 7 7 , 1 9 9 1 .

クハ ラ対策の落 とし 5 ) 高 橋 りりす : キ ャンパ ス ・セ

〔 引用文 献 〕

1 ) 馬 場 證 子 : ラ イ フサ イ クルの臨床心 理 学   培 風 館 ,         穴 . 上 野 千 鶴 子 編 『キ ャ ンパ ス性 差 別 事 情 ― ス トッ ハ ラ』 所 収 , 三 省堂 , 1 9 9 7 .

プ ・ザ ・ア カ 1997.

2 ) E r i k s o n , E . H . : I d e n t i t y   a n d   t h e   L i f e   C y c l e . I n t e r ‑       6 ) 下

山 晴 彦 : 教 育 心 理 学 Ⅱ。 東 京 大 学 出版 会 , 1 9 9 8 . 7 ) 堤   啓 : 1 9 9 9   青 年 期 にみ られ る解 離   一 自己存 national Universities Press,1959.

( 小此 木 啓 吾 ( 編訳 ) 1 9 7 3 『 自我 同 一 性 』. 誠 信 書

        在 を め ぐ る情 緒 発 達 ―. 思 春 期 青 年 期 精 神 医 学 , 9 (1): 2‑11, 1999.

房 . )

3 ) 小 此 木 啓 吾 : 精 神 分 析 か ら見 た思 春 期 心 性 . 思 春

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参照

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