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日本企業の経営戦略における「共有価値創造」の 達成を妨げる阻害要因

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(1)

1 はじめに

(1)はじめに

これまでの社会的課題は,環境汚染問題や国 際地域の紛争などが中心であったが,21 世紀 に入り日本においては,多極化する世界経済,

超高齢化と少子化による人口減少,資源の制約 によるエネルギー効率化,災害に対する抵抗力 や回復力の重要性,地方に限らない地域活性 化,社会的に排除される層の出現など社会的課 題はますます複雑になっている。

1980 〜 90 年代,企業の社会貢献活動は寄付 行為や文化的活動への資金提供などが主だっ た。2000 年代には雪印乳業の集団食中毒,雪 印食品の牛肉偽装,三菱自動車のリコール隠 しなど法令違反による企業不祥事が相次ぐの と同時期に規制緩和や撤廃があり,企業に対

して自己責任や社会に及ぼす影響に対する社 会的な責任が求められ始め,Corporate Social  Responsibility の頭文字を表記した CSR と呼ば れている。企業の社会的責任(以下,CSR)は 当初はっきりした定義が存在せず,所属する国 や地域の歴史,文化,宗教が反映され,企業の 関心や優先の度合いにより多様な概念が存在し ていた。

経済産業省(2015)によると CSR を経営戦 略,マーケティング戦略と関連づけ共通理解を 得ることが難しいとの声はあるが「それに取り 組まない企業は,ビジネス機会を喪失するリス クがあることや長期的な企業への足かせになり 得ることを,組織全体なかんずく経営層は認識 することが求められている」1)と強調する。

日本は社会的課題を生み出している先進国で あるが,未来に向けて人々が持続的に豊かで

日本企業の経営戦略における「共有価値創造」の  達成を妨げる阻害要因

Disincentive factors in the management strategy of Japanese companies for the achievement of “creating shared value”

楮本 朋代

KAZUMOTO, Tomoyo

日本は 21 世紀に入り人口減少やエネルギー資源制約,災害発生など社会的課題が複雑で多様 化してきている。持続的に豊かで安心した暮らしを目指すには,日本で経営をする企業は,社会 的課題の解決に取り組むことにより経済的価値を得る活動である共有価値創造(CSV:Creating  Shared Value)への取組みが必要なのではないかと考える。本論文では共有価値創造を達成する 過程において,ビジネスの現場で存在している阻害要因を明らかにすることを研究の目的とした。

研究方法は社会的課題の解決に事業として取り組んでいる企業 6 社へ半構造化インタビューを 行い,共有価値創造の実現を妨げる阻害要因を事例から抽出した。社会的使命を理念に取り込め ていないこと,組織のリーダーが自社の事業に関連する社会的目的を定めていないこと,事業価 値と社会的価値の評価を行わないこと,幅広いステークホルダーを巻き込むことが出来ていない こと,この 4 つが阻害要因にあてはまると示唆される。

キーワード: 共有価値創造(Creating Shared Value),社会的課題と経済的課題(Social and Eco- nomic Challenges),持続可能な経営(Sustainable Management)

(2)

安心して暮らせる社会を目指すには,公的機 関だけでは解決が難しい状態である。CSR は 慈善的な活動から社会に存在する企業として の CSR と,事業と社会的責任活動を結び付け た戦略的な CSR とに変遷した。そして戦略的 CSR は社会的課題を解決する事業を展開する ことにより,企業における経済的価値を求め競 争力を高める経営戦略へと移り変わる。日本企 業は本業で収益を上げると同時に社会的課題の 解決に繋がる事業を行うことがステークホル ダーから求められてきており,中長期的な視点 から社会的課題に取り組み経済的価値を同時に 解決する経営戦略を持つことで,企業にとって も持続可能な経営が実現するのではないか。本 論文では社会的価値と経済的価値の双方を同時 に創造する事業活動のことを共有価値の創造と 呼び CSV と表すことにする。CSV は Creating  Shared Value の頭文字を表記したものである。

本論文では日本企業を研究対象にインタ ビュー調査を実施し,CSR をうまく運営して おり,なおかつ CSV を実現している企業に対 して実務レベルで直面する阻害要因を事例比較 から定性的に明らかにしていく。また本論文で は,共通価値と共有価値は同義とし共有価値に 統一する。併せて社会課題と社会的課題も同義 とし社会的課題に統一する。

(2)問題意識

本論文では企業は CSR 活動を行い,かつ収 益を上げながら社会的課題を解決する必要が あると考える。背景には公的機関や NPO 等で 社会的課題の解決を行うには,人材や費用の不 足などの問題に直面し,持続可能性が低いこと が挙げられる。事業として社会的課題に取り組 むことにより,企業が既に保有している資源や 技術を活かすことで成果が出しやすい。その際 企業は支援・寄付・ボランティア活動の一環と いった第三者ではなく,事業として関わること が CSV の概念と捉える。

山田(2013)によると社会問題の解決ツール に企業経営やビジネス手法が注目されている。

経営環境の変化を背景として,社会問題の解決 に貢献しながら利潤を獲得すること,つまり営 利性と社会性を両立させる経営を確立すること が企業の課題となっている,と主張している。

社会的課題解決と経済的価値の両立の重要性 については,経済同友会(2014)「日本企業の CSR 自己評価レポート」経営者意識調査(図 1)

にも表れている。「社会課題解決の主体的役割 を果たすべき」と意識する経営者は 9 割以上,

その内「経営にも取り組んでいる」経営者は 58%に達する。半数以上の経営者は社会的課題 と企業経営を身近に捉えており,2010 年の前 回調査から増加傾向にある。

図 1 社会的課題と企業経営

出所:公益社団法人経済同友会「日本企業の CSR 自己評価レポート」経営者意識調査 2014 年,p.23。

0%

社会課題解決の主体的役割を果たすべきで,

経営にも取り組んでいる

社会課題解決の主体的役割を果たすべきだが,

経営に取り組んでいるわけではない 経済的価値の最大化に専念すべきで,

対応を期待されても難しい その他

20% 40% 60%

58%

44%

34%

42%

3%

8%

6%

6%

2014年(n=392)

2010年(n=445)

80%

(3)

しかし CSV の実現には様々な困難が存在し ているのではないか。ビジネスの現場では,

CSV に明確な概念がない,社会的目的が定ま らず CSV 活動が機能しない,CSV 戦略が立て られず成果が出ない等の難題が考えられる。実 務の実行プロセスにおいて CSV 活動は社内外 のステークホルダーとの連携に時間・コスト・

手間がかかると考えられるが,どのようすれば 生み出そうとする価値の理解や共有が円滑にで きるだろうか。

(3)リサーチクエスチョンと目的

問題意識で述べたとおり社会的課題の解決に は企業の力が熱望されているが,CSV 活動を 実務レベルへ落とし込む過程で様々な問題に直 面していると考えられる。

そこで本研究のリサーチクエスチョンを,

CSV 活動の達成を妨げる阻害要因が何か,と 設定し,CSV 活動を妨げている要因を明らか にすることを本研究の目的とする。

2 先行研究のレビューと仮説の形成

(1) 「共有価値の創造」への過程−関連概念と の関係

本節では CSV と関連概念であるソーシャル ビジネスと CSR について整理する。

1)ソーシャルビジネス

経済産業省ソーシャルビジネス推進研究会

(2011)ではソーシャルビジネスを,社会的課 題を市場として捉えその解決を目的とする事業 と定義している。収入構造は①事業収入,②政 府からの収入(助成,補助),③その他財源(増 資,寄附,会費)に分類される。ユヌス(2008)

はソーシャルビジネスを,会社が自己持続でき る価格で商売を行い,得た利益はビジネスに再 投資するため「損失もない代わりに配当もない ビジネスと定義されるかもしれない」2)と主張 しているが,人類を悩ます社会問題の解決とい う意味では NPO と変わらず,ビジネスの仕組 みを用いる点では CSV と変わらない(ユヌス

2015)と述べている。

上記の先行研究から本研究ではソーシャルビ ジネスを,取り組む社会的課題や成長段階,国 や地域により,収入構造や組織の成り立ちに違 いはあるが,利益より社会性を優先としたビジ ネスモデルである,と定義する。

2) 企業の社会的責任(CSR:Corporate Social  Responsibility)

水尾(2004)は CSR を社会と企業の健全な 成長を目的に,不祥事の発生を未然に防ぎ,積 極的に社会に貢献する企業の制度的義務と責 任としている。Porter and Kramer(2011)は 企業にとって社会問題は中心課題ではなく,評 判を高めるための必要経費で,池田(2014)は CSR の取組みにより企業がリスクを回避し,

企業の評判やブランド力,ひいては企業価値の 向上を期待していると主張している。

ISO26000『 社 会 的 責 任 に 関 す る 手 引 き

(JISZ26000)』(2010)では社会的責任が組織全 体に統合されており,法令を遵守した倫理的な 行動でなおかつ社会や環境に及ぼす影響に対し て配慮と説明責任を負うことにより持続可能な 発展に寄与し,ステークホルダーの利害に配慮 する,としており事業主体の組織の意思決定お よび責任が,社会,環境と大きく結びついてい ることを強調している。

上記から本研究では CSR を,企業組織が社 会に及ぼす自らの影響を認識し,社会の健全で 持続可能な発展に寄与するために,社会に対す る配慮を企業活動の意思決定に組み込み,説明 責任を負う組織の意欲であると同時に,それを 実現するには法令を遵守し,社会責任が組織全 体に統合されている状態のことと定義する。こ の定義がすべてあてはまる状態は,企業組織が 社会に対する影響を認識し社会責任が組織全体 に統合されていることであるため,不祥事や法 令違反などは発生しないと考え,保険やコスト などのマイナスの側面は定義に含めないことに する。

(4)

3) 共有価値の創造(CSV:Creating Shared  Value)

Porter and Kramer(2011) は CSV 概 念 を

「企業が事業を営む地域社会の経済条件や社会 状況を改善しながら,みずからの競争力を高め る方針とその実行」3)と定義している。このア プローチは企業の利己的な行為であり経済的に 成功するための新しい方法で,競争に勝つため の有望なモデルであると主張している。

岡田(2015)によるとポーターらの CSV 概 念は企業の社会的価値と経済的価値について異 なる因果関係を示唆する記述が登場するため曖 昧さが存在していると指摘する。ユヌス(2015)

もこれまで利益に注力していたところを,CSV は人と地球環境にベクトルを向けただけである ため CSR の域をわずかに広げる程度で終わる のでは,と懐疑的である。また競争戦略として の CSV に対する反論を名和(2015)は①コン セプト自体に新規性がない,②企業は社会の公 器で,社会的価値と経済的価値がトレードオフ 関係にある CSV は不要,③ CSV で社会的価値 を創出することは利益追求の隠れ蓑である,と 挙げる。

図 2 はポーターらの CSV 概念を,企業の事 業活動が収益と社会の双方に同時に与える影響 を評価し収益を上げながら社会変革を促す共創 プロジェクトとして整理した三菱 UFJ リサー

チ&コンサルティング株式会社(2015)の図を 一部修正したものである。ここでは社会と経済 の共有価値が創造できると考えられ,また本論 文では双方の価値の最大化を同時に追求するこ とが重要であると考える。

これらから CSV は様々な意見があるものの,

企業が本業を通じて独自の資源や専門性を活用 することにより,企業側から見て経済的価値が 認識でき,社会側から見て社会的価値を生み出 していると認識されている状況,と定義する。

本論文は CSV の概念に着目しているが企業 の状況を鑑みると,概念はあてはまるが CSV の言葉を使用していない企業も見受けられた。

先行研究によると CSV と同義の概念として共 有価値という言葉が用いられている。よって,

ここでは共有価値と CSV は双方とも最終目的 が「企業側から見て経済的価値を認識してお り,かつ社会から見て社会的課題の解決に貢献 していると認識されている状況を生み出すこ と」であるため類似している概念と考え,同義 のものとして扱うこととする。

(2)CSV を創出する要因に関する先行研究 Pfitzer, Bockstette and Stamp(2014)によ ると「社会問題は事業遂行を妨げるやっかいな 要因であると同時に,非常に大きな成長のチャ ンスでもある」4)と主張しているが,CSV の具

図 2 CSV の考え方

出所:三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社(2015)p.6,一部筆者修正。

CSV 1Action

連鎖 経済

経済 Value 社会

Value 社会

共有価値(2Value)が

創出できる

(5)

体化に多くのリーダーが悪戦苦闘しているとし て,共有価値を創出する 5 つの要素を挙げてい る。①社会的使命を企業文化に取り込み,社会 問題解決イノベーションの開発に資源を向ける

(社会的な目的),②リーダーは事業上の課題を 定量化しビジネスモデルを設計,明確な社会的 目的を内外に公表し戦略立案や予算作成などに 組み込み,日常的な活動とする(明確なニー ズ),③事業価値と社会的価値を見積り,こま めな進捗管理と生み出された共有価値を評価す る(測定方法),④正しいイノベーションとし て,中核事業との統合や部門の設立,慈善団体 や政府の支援を得る,外部の起業家に資金提供 する(正しいイノベーション構造),⑤幅広い ステークホルダーを巻き込みあらゆる角度から 問題を検討し,他者の能力を活用するソリュー ションを設計・実行する(共創),である。共 有価値のポテンシャルがどの程度予測でき,企 業の財務基準にどの程度適合するかによって,

その社会的事業に最適なイノベーション構造が 決まる,と主張している。

3 仮説の導出

これまでの先行研究では,CSV を創出する 要因を議論してきた。CSV では社会的課題を 扱うため,一般事業とは異なる社会的な視点 や理念など思想的な側面がある一方で,一般事 業と同じように戦略に組み込み KPI を設定し て評価する視点を持つ必要があることが分かっ た。さらにこの両面に基づけば,内容は以下の 4 つに整理できる。

①  明確な社会的目的を持つこと(社会的使 命を理念に取り込む,組織のリーダーが 自社の事業に関連する社会的目的を定め る)

②  CSV を経営戦略に組み込むこと(戦略 策定や予算策定に CSV を組み込む)

③  事業の目標設定および評価を行うこと

(事業価値と社会的価値の評価を行う)

④  社内及び社外の連携を行うこと(社内の 他部署や,NGO,NPO などの外部団体 と連携,幅広いステークホルダーを巻き 込む)

本研究は CSV 活動の阻害要因を明らかにす ることを目的としている。しかし,これまで CSV の阻害要因に関する先行研究は筆者の知 る限り存在しないことから,CSV を創出する 要因に基づき 6 要素を仮説として導出する。

仮説 1  社会的使命を理念に取り込めていな いと,CSV 活動が機能しない 仮説 2  組織のリーダーが自社の事業に関連

する社会的目的を定めていないと,

CSV 活動が機能しない

仮説 3  戦略策定や予算策定に CSV を組み 込んでいないと,CSV 活動が機能し ない

仮説 4  事業価値と社会的価値の評価を行っ ていないと,CSV 活動が機能しない 仮説 5  NGO,NPO などの外部団体と連携 して活動を行っていないと,CSV 活 動が機能しない

仮説 6  幅 広 い ス テ ー ク ホ ル ダ ー(NGO,

NPO などの外部団体を除く)を巻 き込むことができていないと,CSV 活動が機能しない

4 リサーチデザイン

CSV 活動を妨げる阻害要因は重要な研究分 野にも関わらず,これまでの先行研究では検討 が乏しい。企業からみると CSV は企業経営に とって重要だと感じられているが,理念や考え 方ではなく経営戦略に盛り込んだ実務レベルに おいて困難や課題が多いと考えられ,この問題 意識が本研究につながっている。

(1)研究方法

社会的課題の解決に事業として取り組んでい

(6)

る企業に半構造化インタビューを行う。

(2)対象企業

調査対象とする企業選択の第一要件は,東洋 経済新報社の『CSR 企業総覧 2015 年度版』(回 答協力数計 1305 社)に CSR 活動の評価が掲載 されており,第二要件を「CSR 総合ランキン グ」の 200 位以内の企業とする。第三要件はこ れらの企業からインターネット検索により企業 ホームページ(商品ブランド専用を除く)に

「CSV」「shared value」「戦略的 CSR」「社会的 課題」やこれに準ずる単語が含まれていること とする。表 1 に対象企業 6 社を整理する。

5 事例の分析

対象企業 6 社にインタビュー調査を実施した 結果から,各社で共通している CSV の実現を 妨げる阻害要因を事例から抽出していく。

(1)A 社

A 社は CSV 戦略を経営戦略の基盤に掲げて 2 年になるが以前より「住宅は社会的課題の中 心テーマ」と捉えて新しい価値を社会に提案 し,利益を出しながら持続的成長をする経営戦 略が機能している。インタビュー内容と公表資 料から仮説の検証を行う。

仮説 1 は企業理念から構築したビジネスモデ ルが社会的課題解決を事業で実現している事実 が発見できたことから,A 社は社会的使命を 理念に取り込めていると確認できる。

仮説 2 は共有価値の創造を,住宅を媒介にし て CSV に取り組んでいる事実が発見できたこ とから,組織のリーダーが自社の事業に関連す る社会的目的を定めていると確認できる。

仮説 3 について,サステナビリティレポート から CSV 戦略が組み込まれている事実が発見 できたことから,A 社は戦略策定や予算策定 表 1 インタビュー対象企業の一覧

No 対象企業 事業内容

1 A 社 戸建住宅事業,都市再開発事業,等 2 B 社 リーフ・ドリンク関連事業,等 3 C 社 車載音響・通信機器事業,等 4 D 社 コンシューマープロダクツ事業,等 5 E 社 建設事業,開発事業,等

6 F 社 オフィスプロダクト・プリンター事業,等

仮説 インタビューを含めた分析からの抜粋

仮説 1

企業理念は「人間愛」。「真実・信頼」「最高 の品質と技術」「人間性豊かな住まいと環境 の創造」の 3 要素で構成されている。社会 的課題の解決を事業で実現するビジネスモ デルを構築している。

仮説 2

中期経営計画によると「住宅は社会的課題 の中心」と捉えている。S 氏は「住宅を媒介 にして社会的課題の解決に取り組んでいる。

地震に対して安全性,温暖化に対して断熱 効率,高齢化に対してお年寄りに優しい住 宅が課題である。」と強調している。

仮説 3

2014 年度中期経営計画に CSV 戦略が組み込 まれており,この他に経営戦略は存在して いない。エネルギー政策の燃料電池事業に 住宅メーカーで初めて,戸建住宅商品向け の事業展開をしたことが事例で挙げられる。

仮説 4

S 氏の部門では売上,利益に加え「5 本の樹」

による植栽本数と取扱金額で事業価値評価 を行っている。また,社会的価値は外部機 関から評価を得ることで社内の評価に用い ている。

仮説 5

地球規模で環境問題に取り組む国際環境 NGO と連携し,サプライヤー経由で持続可 能な木材調達を可能にしている。これは将 来,サプライヤーが NGO の攻撃にさらされ ない予防策でもある。

仮説 6

S 氏は事業を行う上で「顧客はもちろん,顧 客が住まう社会や地域,環境,サプライヤー に対して共有する社会的価値を考慮してい る。自分のメリットだけでなく経済価値や 市場に対してどうかを考える」と主張して いる。

(7)

に CSV を組み込んでいると確認できる。

仮説 4 では,事業価値は財務の実績,社会的 価値は外部機関の評価を活用している事実が発 見できたことから,事業価値と社会的価値の評 価を行っていると確認できる。

仮説 5 について,NGO,NPO などの外部団 体と連携し活動を行っている事実が発見できた ことから,NGO,NPO などの外部団体と連携 して活動を行っていると確認できる。

仮説 6 はステークホルダー以外にも地域・サ プライヤーを巻き込んだ事業を行っている事実 から,幅広いステークホルダーを巻き込んで活 動していると確認できる。

(2)B 社

B 社は社会的課題を持つパートナー企業や組 織と組むことにより,自社の強みを作り上げて きた。CSV 経営を戦略に掲げているが,CSV 単体ではなく基本的 CSR,明日の人材を作る ESD5)の概念を組み合わせた「 3 S」を柱とし ている。インタビュー内容と公表資料から,以 下で仮説の検証を行う。

仮説 1 について,経営理念には社会的な使命 を盛り込んでいる,という事実が発見できたこ とから,B 社は社会的使命を理念に取り込めて いると確認できる。

仮説 2 において,社会的目的を定めずに事業 展開をした結果が社会的課題解決に繋がる成果 だった事実を発見できたことから,組織のリー ダーが自社の事業に関連する社会的目的を定め ていないと確認できる。

仮 説 3 は イ ン タ ビ ュ ー 調 査 か ら,CSR / CSV 経営を目指している事実が発見できたこ とから,B 社は戦略策定や予算策定に CSV を 組み込んでいると確認できる。

仮説 4 では,事業価値は財務状況が,社会的 価値は社外の賞に応募して評価を得ている事実 が発見できたことから,事業価値と社会的価値 の評価を行っていると確認できる。

仮説 5 について,外部団体と連携を試みてい る事も発見できたが CSV にはあてはまらない ことから,NGO,NPO などの外部団体と連携 して活動を行っていないと確認できる。

仮説 6 では持たざる経営の B 社は,パート ナーと新しい価値を生み出している事実が発見 できたことから,幅広いステークホルダーを巻 き込んで活動を行っていると確認できる。

(3)C 社

担当役員からのトップダウンにより CSV 活 動を取り入れて 2 年経つが,CSV は出来てい ないと言う。市場やステークホルダーにどのよ うに CSV を提供するか,また社内の CSV 理解 の浸透にも難儀している。インタビュー内容と 仮説 インタビューを含めた分析からの抜粋

仮説 1

経営理念に「お客様第一主義」を掲げてい る。N 氏によるとこの理念の原点には「パー トナーと組んで価値を生み出しなさい」の 意味があるという。お客様とは,関わりを 持つすべての人・社会・環境が含まれる。

仮説 2

「事業が成功する確率の高い取組み,そして パートナー企業にもプラスになる事は何か,

を考えるとパートナーの要求事項が社会的 課題であった。」と N 氏は強調する。事業展 開の結果が社会的課題の解決に繋がってい た。

仮説 3

CSR / CSV 経営を目指している。「社会に おける自社の在り方を考えた時に,社会と の価値を共創していくことにも重きを置い た考えである Values と複数形で表し CSV を独自に CSVs と作っている。」と N 氏は述 べている。

仮説 4

社会的価値の評価について N 氏は「自社が 紡いできた取組みにきちんと値段がつくの か,社会に問うている。」と有識者から意見 や,内外の賞に応募して評価を得ている。

事業価値は,企業の財務状況が成績である。

仮説 5 埼玉県との連携であるロードレポーター,

神奈川県下での NPO と企業のマッチングに 参画しているが,CSV に至っていない。

仮説 6

「いかに企業競争力を効かせるか,パート ナーと作ってきたことが B 社の競争力の源 泉」と N 氏が強調する。創業当時からパー トナー(工場・製造企業)と共に新しい価 値を作っており,CSV を実施するには社内 だけは成し得ない。

(8)

公表資料から仮説の検証を行う。

仮説 1 において,インタビューから企業理念 に社会への貢献が含まれているという事実が発 見できたことから,C 社は社会的使命を理念に 取り込めていると確認できる。

仮説 2 は,マネージャーの U 氏が社会的目 的を定めていない事実を発見できたことから,

組織のリーダーが自社の事業に関連する社会的 目的を定めていないと確認できる。

仮説 3 について,中期経営戦略から CSV が 組み込まれていない事実が発見できたことか ら,C 社は戦略策定や予算策定に CSV を組み 込んでいないと確認できる。

仮説 4 はインタビューから,まだ評価基準を 設けるまでには至っていない事実が発見できた ことから,C 社は事業価値と社会的価値の評価 を行っていないと確認できる。

仮 説 5 は,CSV 活 動 は 主 に 社 内 の 普 及 活 動である事実が発見できたことから,NGO,

NPO などの外部団体と連携して活動を行って はいないと確認できる。

仮説 6 について,社内から CSV 活動の理解 を得られていないこと,顧客やサプライヤーと の CSV 活動が行われていない事実から,幅広 いステークホルダーを巻き込んで活動を行って

いないと確認できる。

(4)D 社

D 社は誰もが内容物の識別が出来るように,

容器に刻みを入れることで社会的価値を生み出 した。しかもこの取組みを国際基準へと働きか けた社会性に対する高い意識が根底にある。S 氏によると,これまでは社会性が優先される経 営理念が基盤であったが,近年は事業性が求め られているという。インタビュー内容と公表資 料から仮説の検証を行う。

仮説 1 において,創業者作成の企業理念であ る D 社ウェイに社会的使命が表されている事 実が発見できたことから,社会的使命を理念に 取り込めていると確認できる。

仮説 2 はリーダーのみならず,社内全体で社 会的課題の目的を定めて取り組んでいる事実か 仮説 インタビューを含めた分析からの抜粋

仮説 1 企業理念に「価値の相続」「社会への貢献」が含まれている。

仮説 2

マネージャーである U 氏は CSV 活動に取り 組むにあたり,「どのような社会性のある価 値を付加していけばよいのだろう。」と悩み を持っている。

仮説 3 中期経営戦略(2014 年)に,CSV は組み込んでいないことが確認できた。

仮説 4

2015 年度が CSV 活動の初年度であり,どの 事業が CSV に当てはまるか区別が出来てお らず,評価基準を設けるまでに至っていな い。

仮説 5 現在の活動は社内向けの CSV 普及活動で,外部団体との連携はしていない。

仮説 6 CSV 活動において,従業員を巻き込むこと に苦心しており,顧客やサプライヤーとの CSV 活動はまだ行われていない。

仮説 インタビューを含めた分析からの抜粋

仮説 1

創業者の想いは基本価値観である「ものづ くり」の思想が根本にあり,事業や仕事を 行う上で社会貢献の考え方が根付いている,

と S 氏は強調している。

仮説 2

S 氏はリーダーではないものの,社内全体で

「お客様にとって本当に価値あるものを考え た時に,自然と理念が入ってきている」と いう。また社会的課題を解決させるために 研究を重ねて商品化している。

仮説 3 創業当初から社会的課題の解決を行い,近 年においては収益性を求めているが CSV の 言葉を社内では使用していない。

仮説 4

事業価値は会社の事業成績と考えられる。

社会的価値評価は環境への取組み活動の売 上比率,環境負荷は削減成果が数値として 表される一方,持続可能性に配慮した原料 調達部門では,ガイドラインを目標に設定 している。

仮説 5

海外の NGO から叩かれることがあるもの の,日本においては環境保全団体の NPO / NGO からアドバイスや意見を得るなどの協 業,共創をしている。

仮説 6

従業員やサプライヤーのみならず消費者に も社会的課題へ意識が向くように啓蒙活動 を行っている。企業が環境に配慮した社会 的価値がある商品を販売しても,消費者が その価値に問題意識を持たなければお金を 出さない。

(9)

ら,組織のリーダーが自社の事業に関連する社 会的目的を定めていると確認できる。

仮説 3 について,D 社では CSV という単語 は社内では使われていない事実が発見できたこ とから,戦略策定や予算策定に CSV を組み込 んでいないと確認できる。

仮説 4 について事業価値は事業成績から,社 会的価値は環境負荷の削減効果数値などの目標 を定めている事実が発見できたことから,事業 価値と社会的価値の評価を行っていると確認で きる。

仮説 5 において,NGO,NPO など協業・共 創の活動を行っている事実が発見できたことか ら,NGO,NPO などの外部団体と連携して活 動を行っていると確認できる。

仮説 6 は,従業員やサプライヤーだけでなく 消費者にも環境問題へ意識が向くように啓蒙活 動を行っている事実が発見できたことから,幅 広いステークホルダーを巻き込んで活動を行っ ていると確認できる。

(5)E 社

環境に関する社会的課題解決事業の部門長で ある Y 氏は,過去に収益を出さない社会貢献 活動がほとんど廃れたことから,継続的な活動 に育てるにはステークホルダーを明確に捉え,

収益が出る事業にする必要があると考えた。そ のため,他事業と同様に顧客から対価を得て,

経営層には他事業と同じ基準の評価を求めた。

これにより 10 年後の現在はビジネスとして成 立し本業の付加価値を生み出している。インタ ビュー内容と公表資料から,以下で仮説の検証 を行う。

仮説 1 については,経営理念に社会的使命が 表されている事実が発見できたことから,社会 的使命を理念に取り込めていると確認できる。

仮説 2 では,社会的目的は事業によって変化 するが事業展開の軸となっている事実から,E 社は組織のリーダーが自社の事業に関連する社 会的目的を定めていると確認できる。

仮説 3 はインタビューから,CSV の言葉は 使われていない事実が発見できたことから,戦 略策定や予算策定に CSV を組み込んでいない と確認できる。

仮説 4 において,社会的価値を認めて対価を 支払う人の存在が事業価値の評価である事実が 発見できたことから,E 社は事業価値と社会的 価値の評価を行っていると確認できる。

仮 説 5 は, 本 研 究 の 内 容 に 関 し て NGO,

NPO と連携した活動の事実は発見できないこ とから,NGO,NPO などの外部団体と連携し て活動を行っていないと確認できる。

仮説 6 について,建設事業という特徴から従 業員や協力会社に対しては苦心しているもの の,顧客や地域社会を巻き込んでいる事実が発 見できたことから,幅広いステークホルダーを 巻き込んで活動を行っていると確認できる。

仮説 インタビューを含めた分析からの抜粋 仮説 1 経営理念に「社業の発展を通じて社会に貢献する」という一文がある。

仮説 2

部門長である Y 氏は,自然の恵みを活かし た街づくりを通して社会的課題に取り組ん でおり,事業ごとに社会的目的は変化する が常に考える社内ポリシーが「様々な議論 において軸になっている」と強調する。

仮説 3

CSV の言葉は使用していない。しかし,事 業における社会的意義や社会的インパクト の大きさによる収益性の確保,投資費用の 回収期間など,社会的価値と経済的価値の 共有を実現させる考えが存在している。

仮説 4

Y 氏によると「社会貢献的な事業だからと いって特別視扱いされることは一切ない」

という。事業価値は企業にとって事業継続 の判断に使われ,社会的価値はそれに対し て費用を払う人がいることが評価される。

仮説 5 NGO,NPO 等の外郭団体との連携は,CSR 活動の場面では見受けられたが,本研究の 内容に関しては認められなかった。

仮説 6

Y 氏は建設会社の特徴は世界中に現場を保 有していること,4 次下請けまである重層構 造を挙げ,直接対話の難しさや協力会社を 巻き込む苦心があるという。一方,ビルオー ナーやビル周辺地域を含む行政に対して,

街づくりの新しい社会価値提案を行いビジ ネスとして成り立たせている。

(10)

(6)F 社

企業が存続するためには長期的な視野を持 ち,いま何をするべきなのか経営判断をする必 要がある。F 社の場合,東日本大震災の復興支 援から社会的課題を発見し,自社の課題である BCP(事業継続計画)と結び付けたことにより,

他社に先駆けた取組みを実現している。すぐに 成果が出るものではないが,長期的視点で見る と有事下では他社との差別化と優位性を生み出 すだろう。インタビュー内容と公表資料から,

以下で仮説の検証を行う。

仮説 1 は,経営基盤は CSR であり理念やフィ ロソフィーに社会的使命が盛り込まれている事 実が発見できたことから,社会的使命を理念に 取り込めていると確認できる。

仮説 2 について,震災復興という目的におい て取り組むべき社会的課題を現場で発見した事 実を確認できたことから,組織のリーダーが自 社の事業に関連する社会的目的を定めていると

確認できる。

仮説 3 では,CSV は F 社内では使用されて いない事実が発見できたことから,戦略策定や 予算策定に CSV を組み込んでいないと確認で きる。

仮説 4 は,半期に一度の CSR 会議で事業価 値と社会的価値の評価を受けている事実が発見 できたことから,F 社は事業価値と社会的価値 の評価を行っていると確認できる。

仮説 5 について,行政と連携した活動はして いるが,NGO,NPO とは連携していない事実 から,NGO,NPO などの外部団体と連携して 活動を行っていないと確認できる。

仮説 6 は,地域住民および販売会社を含めた 地域社会を巻き込んでいる事実が発見できたこ とから,F 社は幅広いステークホルダーを巻き 込んで活動を行っていると確認できる。

6 仮説検証と結果

前章で分析した仮説を下記の比較表(表 2)

から検証していく。6 つの仮説の内,仮説 1,

仮説 2,仮説 4,仮説 6 の 4 つについて 6 社中 4 社以上から支持された。一方,不支持が多い 仮説は仮説 3,仮説 5 の 2 つであった。

仮説 1 は全社にあてはまり,社会的使命を理 念に取り込めているため CSV 活動が機能して いると考えられる。創業者や経営層の想いが込 められた経営理念,経営哲学を介して企業の社 会的使命を明確にすることで,従業員を始め とするステークホルダーに伝わりやすく,CSV 活動が機能していると示唆される。

次に仮説 4 では,6 社中 5 社で事業価値と社 会的価値の評価がされている事実が発見された ことにより,CSV 活動が機能していると考え られる。事業価値において,CSV 活動は特別 視されず収益性や継続可能性の評価を受けてい た。社会的価値では KPI の設定が難しく各社 悩んでいたが,省庁など第三者機関からの表彰 や,社会的商品の売上高比率で評価をする企業 があった。あてはまらない 1 社は CSV 活動が 仮説 インタビューを含めた分析からの抜粋

仮説 1

フィロソフィーや理念に社会の一員として の企業の在り方が示されており,基盤となる CSR 経営を表している。創造した価値の成 果が社会的課題の解決に繋がるという「社会 的課題の解決と事業成長の両立」を掲げてい る。

仮説 2

リーダーである H 氏は「F 社が取り組むべ き震災復興という社会的課題が見えてきた ので,我々が次にやることが決まってきた。」

と述べている。

仮説 3

現在は社内では CSV の単語は用いられてい ない。H 氏は「社内では復興支援だからと いって特別視されることなく,他のプロジェ クトと同じ扱いをされている。」と強調して いる。

仮説 4

事業価値と社会的価値の評価は,半期に一度 の CSR 会議において報告が求められている。

そこでは復興支援が特別視されることなく 成果および社会貢献についての評価を受け ている。

仮説 5 今回の事例では,政府や自治体などの行政機関との連携が認められる。

仮説 6

次の大地震発生時に自社中核事業を素早く 復旧するために,平時には地方の後方支援可 能地域が抱えている社会的課題を助けるこ とにより,有事に BCP を実現させる取組み は,時間軸を超えて共有価値を生み出す。

(11)

初年度で評価基準を設けるまでに至っていな い。

仮説 6 は 6 社中 5 社で幅広いステークホル ダーを巻き込んでいることから,CSV 活動が 機能していると考えられる。CSV 活動はステー クホルダーから社会的価値を理解し共感を得て 協業することで機能すると推察される。残る 1 社は,CSV 活動に従業員,顧客,サプライヤー を巻き込むことに苦心している事実が発見で き,あてはまらないと示唆される。

続いて 6 社中 4 社にあてはまる仮説 2 では,

組織のリーダーが自社の事業に関連する社会的 目的を定めている事実が発見できたことから,

CSV 活動が機能していると思われる。リーダー が事業に対し強い社会的目的を定めることで事 業の軸が出来上がると推察される。残りの内 1 社は,社会的使命がパートナー組織との協業か ら生まれていること,もう 1 社はリーダーに迷 いがあり社会的目的が定められないことからあ てはまらないと示唆される。

仮説 3 は,6 社中 CSV 戦略を掲げている 2 社において,戦略策定や予算策定に CSV を組 み込むことにより CSV 活動が機能していると 思われる。残る 4 社は CSV 活動が他の事業と 同等に扱われているため,あてはまらないと示 唆される。

仮説 5 は 6 社中 2 社で海外から持続可能な 方法で原材料を調達しなければ世界の NGO,

NPO から攻撃を受けるため,事前に外部団体 と連携することにより CSV 活動が機能してい ると考えられる。残る 4 社の外部団体との連携

は,CSR の範疇である事が確認できた。CSV 活動が機能するために,NGO,NPO などの外 部団体と連携した活動を行うことは重要ではな いが,企業の業態や事業規模により重要度が異 なると推察される。

こ の 仮 説 検 証 に よ り, 以 下 4 つ の 仮 説 が CSV 活動を妨げる阻害要因と考えられる。

仮説 1 の社会的使命を理念に取り込めていな いことにより,CSV は実務レベルで機能しな いと考えられる。企業理念に社会的使命が取り 込めていなければ,実務において役割が不明瞭 になると考えられ,社会的使命を理念に取り込 むべきであると示唆される。

仮説 2 の組織のリーダーが自社の事業に関 連する社会的目的を定めていないことにより,

CSV は機能しないと考えられる。リーダーが 経済的価値のみを求め,事業の社会的目的を定 めていないと,その事業は CSV とは言えない と考えられる。よって,リーダーは自社と関連 する社会的目的を定めることにより CSV 活動 が円滑に機能すると示唆される。

仮説 4 の事業価値と社会的価値の評価を行わ ないことにより,CSV は機能しないと考えら れる。CSV は片方の価値だけでは成り得ない ことから,実務レベルで成果を出すために,事 業価値と社会的価値の評価を行うべきであると 示唆される。

仮説 6 の幅広いステークホルダーを巻き込む ことが出来ていないことにより,CSV 活動は 機能しないと考えられる。CSV は社会的価値 の目的をステークホルダーと共有し,共創,協 表 2 比較表

仮説 A 社 B 社 C 社 D 社 E 社 D 社 支持 不支持

仮説 1 6 0

仮説 2 × × 4 2

仮説 3 × × × × 2 4

仮説 4 × 5 1

仮説 5 × × × × 2 4

仮説 6 × 5 1

(12)

業することで活動すると示唆される。

一方,阻害要因として示唆されにくい仮説は 以下の 2 つである。

仮説 3 では CSV を戦略に掲げていない企業 において,事業そのものが社会的価値を創出し ているために CSV を戦略や予算策定に組み込 む必要はないと示唆される。

仮説 5 は CSV の実務レベルでは NGO,NPO と 連 携 し た 活 動 ま で 至 っ て お ら ず,NGO,

NPO などの外部団体と連携しなくても活動出 来ると考えられる。しかし事業の規模や内容に より今後変化する可能性も示唆される。

7 結論とディスカッション

本研究の問題意識は,企業が社会的課題の解 決を期待されており企業には CSV の実現が求 められているが,その定着プロセスにおいて 様々な問題が存在しているのではないかという 点にあり,本研究の目的は CSV 活動の達成を 妨げる阻害要因を探ることにあった。実証分析 の結果,インタビュー企業の 6 社中 4 社以上に 支持された 4 つの仮説が CSV 活動の達成を妨 げる阻害要因であることが分かった。

本研究の意義は,これまでは創出要因に焦点 が当たってきた CSV の研究に対して,阻害要 因という視点を見出したことにある。

実務的インプリケーションに繋げると,事業 価値と社会的価値の評価を行わないと CSV 活 動が機能しないことを防ぐには,CSV 活動を 他の事業と同等に扱うことで目標の設定や成果 が求められ,事業の改善や受託に繋げる工夫が 起こると考えられる。よって,CSV を戦略策 定や予算策定に組み込み評価を行うことは重 要である。そして幅広いステークホルダーを巻

き込むことができないと CSV 活動が機能しな いことを防ぐには,社会的価値をステークホル ダーが関わる市場とどのように共有するか,と いう視点を持ち企業の経済的価値へと繋げるこ とが大切となる。

加えて,本研究で検証した仮説以外に阻害と なりうる要因として,現代に合わない法律や法 規制が存在していることが E 社のインタビュー から示唆された6)

CSV の実現方法は各社によって異なりアプ ローチ方法は一様ではない。これまで企業は必 要に迫られて CSR を行い,現在はより戦略的 なアプローチをとり焦点を絞って慈善活動を事 業目標と目的につなげるように取り組んでいる

(Kotler, Hessekiel and Lee 2014)。企業は持続 可能性を求めており,それを実現させるために は社会的課題を解決する一翼を担わなければ実 現しない。社会的課題の解決と事業の存続の両 立を実現しようとしている企業が生き残ると推 察される。CSV が実現することは社会的課題 を解決するため,その課題が消滅しない限りは 社会に必要とされ続ける企業であり,継続して 経済的価値が得られると見込める。また取り組 む社会的課題が他の企業では解決が難しい場合 や,他社よりいち早く政策に対応した結果,先 行者優位がもたらされる場合は,差別化が形成 され持続可能な経営が実現できると考えられ る。では CSV 活動がうまく機能している企業 は,何か特徴を持っているのだろうか。

今回の研究対象とした企業 6 社の創業年数

(表 3)の平均を調べると 85.6 年であった。東 京商工リサーチ(2015)によると,2014 年に 倒産した法人企業の平均寿命は 23.5 年であり,

インタビュー企業はその 3.6 倍も長く続いてい

表 3 インタビュー企業の創業年数

A 社 B 社 C 社 D 社 E 社 F 社 創業年 1960 年 1966 年 1967 年 1887 年 1840 年 1962 年 創業年数 56 年 50 年 49 年 129 年 176 年 54 年 出所:2016 年現在,各企業のホームページより引用し筆者作成。

(13)

る。今回の実証研究では 6 社中全社が社会的使 命を理念に取り込めており,CSV 活動が機能 している仮説にあてはまった。これは CSV を 行っている企業は持続可能な経営をしていると も考えられ,名和(2015)も長きにわたって存 続している企業は,社会的価値と経済的価値の 双方が両立しているからであろうと主張してい る。

8 本研究の限界と今後の研究課題 CSV に取り組んでいる企業数は少なく,イ ンタビュー協力を得られた企業は限られた。今 回の阻害要因は,CSV 活動を実現している企 業の定着プロセスを実証研究したものである。

このような背景から本研究の限界点を 2 点挙げ る。第一に,CSV が実現に至っていないと思 われる企業だけを研究対象とした場合には,今 回の実証結果と異なることは否めない。第二 に,CSV 活動に取組んでいる期間やフェーズ,

企業規模や業種別,取扱製品や顧客別などから 分析することで,一様な阻害要因が抽出できな い可能性があることが考えられる。

今後の研究課題は 3 点ある。第一に,今回の 調査対象 6 社は CSV 活動がうまくいっている ことを前提としたが,より精緻な設定が必要だ と思われる。第二に,今回明らかにした阻害要 因について,各要因に対する解決方法の提示は できていないため,今後の研究課題として挙げ ておく。第三に,社会的課題解決に経済的価値 の共有を目指している企業は,持続可能性を求 めると同時に,企業価値の向上を目指す企業も 少なくないと思われる。CSV がうまく機能し ないと企業価値にどのような影響を与えるの か,定量的な検証も今後の課題として必至にな るだろう。

【注】

1) 経済産業省(2015)p.3.

2) ユヌス(2008)p.58.

3) Porter and Kramer (2011) p.11.

4) Pfitzer, Bockstette, and Stamp (2014) p.112.

5) ESD は,Education  for  Sustainable  Develop- ment の略。持続可能な開発のための教育と訳さ れ,環境,経済,社会の統合的な発展の取組み である。

6) 一例としてヤギの除草事業を請け負う際に,昭 和 23 年に制定された「化製場等に関する法律」

により,特定地域では持込頭数制限が存在して いるという。化製場とは獣畜の肉,皮,骨,臓 器等を原料とした皮革,肥料,飼料などの製造 施設のこと。臭気や昆虫の発生があるため法律 で届け出が定められている。

【参考文献】

International Organization for Standardization (2010)

ISO26000 .(日本工業標準調査会審議訳(2012)

『社会的責任に関する手引き JISZ26000』日本規 格協会発行)

Marc Pfitzer, Valerie Bockstette, and Mike Stamp 

(2013) Innovating for shared Value ‒Compa- nies that deliver both social benefit and busi- ness value rely on five mutually reinforcing ele- ments.  Harvard Business Review, pp.2-9.(編集 部訳(2014) 社会問題への深い理解がイノベー ションを促す「共通価値」を創出する 5 つの要 素 『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レ ビュー』2014 年 1 月号 pp.110-121.)

Michael  E.  Porter  and  Mark  R.  Kramer (2011) 

Creating  Shared  Value,  How  to  reinvent  capitalism − and unleash a wave of innovation  and growth , Harvard Business Review, pp.2-17.

(編集部訳(2011) 経済的価値と社会的価値を 同時実現する共通価値の戦略 『ダイヤモンド・

ハーバード・ビジネス・レビュー』2011 年 6 月 号 pp.8-31.)

Muhammad  Yunus (2007)  Creating  a  world  without poverty , Public Affairs( 猪 熊 弘 子 訳

(2008)『貧困のない世界を創る ソーシャルビ ジネスと新しい資本主義』早川書房 pp.54-61.)

Philip  Kotler,  David  Hessekiel,  and  Nancy  R.  Lee 

(2012),  Good Works! Marketing and Corporate  Initiatives That Build a better world … and the  bottom line , Wiley Publishes, pp.21-23.( ハ ー バード社会起業大会スタディプログラム研究会 訳(2014)『グッドワークス!』東洋経済新報社  pp.26-29.)

池田幸代(2014)「企業による環境 CSR の方向性―

植樹活動を行う企業の事例から―」『東京情報大 学研究論集』Vol.17 No.2 pp.21-40.

岡田正大(2015)「新たな企業観の行方 CSV は企 業の競争優位につながるか」『ダイヤモンド・

参照

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