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日銀の異次元緩和策の副作用

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Academic year: 2021

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1. 異次元緩和策の変遷 (1)マネタリーベースの拡大戦略 日銀の黒田東彦・総裁は 2013 年 4 月 4 日に従 来とは量的にも質的にも次元の違う異次元緩和策 を打ち出した。日銀が供給するマネタリーベース を拡大させることで,消費者物価の対前年比上昇 率を 2 年で 2% まで引き上げることを目標とし た。 具 体 的 に は マ ネ タ リ ー ベ ー ス を 2012 年 末 の 138 兆円から 2 年後の 2014 年末までにほぼ倍の 270 兆円に増大させる。これにより人々の予想が デフレからインフレに変わり,日本経済が大きく 好転することが期待された。日銀が 2% のインフ レ目標を達成する強い意思を宣言すれば人々の間 に予想インフレの上昇が根付き,バブル崩壊後の 長期にわたるデフレ経済から脱却できると考え た。 マネタリーベースを 2 年間で倍増させるには年 間 60 兆円から 70 兆円の増加が必要である。その 目標を実現する量的金融緩和策の中心となる手段 が年間 50 兆円規模の長期国債の購入である。ま た,質的金融緩和策として国債の平均残存期間を 従来の 3 年弱から 7 年程度に伸ばしている。その ほかにも上場投資信託(ETF)の年間 1 兆円規 模の購入や不動産投資信託(J-REIT)の年 間 300 億円規模の購入も実行している。 2014 年 10 月 31 日には異次元緩和策がさらに 強化され,マネタリーベースを年間 80 兆円規模 にまで引き上げている。また買入国債の平均残存 期間は 7 年から 10 年程度に延長している。金融 緩和策が強化されたのは当初に想定していた 2%

Side Effects of Bank of Japan’

s Quantitative and Qualitative Monetary Easing

Senshu University, School of Commerce

Yasuo Kofuji

日銀の異次元緩和策の副作用

専修大学商学部

小藤康夫

日銀は 2% のインフレ目標を目指して異次元緩和策を 2013 年 4 月から続行している。当初は 2 年間で達成できると想定していたが, 依然として目標に到達できないままである。一方で金融緩和の副作用が目立つようになった。超低金利の影響から金融機関の利 が縮 小し,経営の悪化が目立つようになった。これでは金融システムが不安定化し,経済活動の低迷からデフレ経済に戻ってしまう。本論 文ではこうした金融緩和の副作用がどのような状況で発生するのかを簡単なモデルを用いて示していきたい。単にマネタリーベースを 拡大し続ければよいのではなく,ある一定の規模を超えると,金融緩和の効果を抑制する恐れがあることを指摘したい。このことから 日銀の異次元緩和策の限界が見えてくるのではないだろうか。 キーワード:日銀の異次元緩和策,マネタリーベース,金融緩和の副作用,金融機関の利

The Bank of Japan has been implementing various measures since April 2013, aiming to achieve an inflation target of 2%. At first, it was expected to be achieved in two years, but the goal has not yet been achieved. On the other hand, the side effects of monetary eas-ing have become conspicuous. As interest margins at financial institutions have shrunk due to the impact of ultra-low interest rates, business conditions have deteriorated. This would destabilize the nation’s financial system and lead to a return to a deflationary econ-omy. In this paper, we use a simple model to show the circumstances under which the side effects of monetary easing occur. Rather than simply continuing to expand the monetary base, we would like to point out that the effects of monetary easing could be curbed if the monetary base exceeds a certain level. This may indicate the limits of the Bank of Japan’s Quantitative and Qualitative Monetary Easing.

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下がり過ぎたために十分な利 が確保できにくく なったからである。これでは企業の投資需要に対 して銀行は十分に対応できないであろう。 日銀は銀行をはじめとする金融機関から国債を 買い取り,マネタリーベースを拡大させている。 その結果,貸出金利は下がり続け,銀行の経営を 難しくしている。まさに日銀による異次元緩和策 の副作用が現実の問題として発生していると言え る。こうした現状を顧みればマネタリーベースの 拡大に一定の限界が見えてきたように感じる。 (2)曖昧な予想インフレ率の形成メカニズム 日銀の異次元緩和策が発表された当初,予想イ ンフレ率が目標の 2% にそれほど時間をかけずに 到達できると思われた。これが実現できていたな らば,名目貸出金利をそれほど引き下げなくても 実質貸出金利は名目貸出金利以上に下落したであ ろう。 そうであれば企業の貸出需要は実質貸出金利の 下落から増大し,さらに銀行の貸出供給は名目貸 出金利が下落しても一定の利 が確保できるので 貸出需要に応じることができる。ところが,日銀 の思惑と異なり予想インフレ率は低迷状態が続い たため,マネタリーベースの引き上げから名目貸 出金利が下がり続けた。これでは利 の確保がま すます難しくなり,企業の貸出需要が増えても銀 行は十分に対応できないであろう。 こうして見ていくと予想インフレ率の上昇がす ぐに実現できていれば日銀の異次元緩和策は成功 したように思える。それができなかったためにマ ネタリーベースを拡大させ,さらにマイナス金利 政策まで打ち出してしまった。その結果,名目貸 出金利は一層下落し,悪循環に陥ってしまった。 異次元緩和策の波及経路として最初に 2% のイ ンフレ目標が予想インフレ率に反映されるように 描かれている。その場合,マネタリーベースの増 大が予想インフレ率の上昇に繫がることが大前提 になっているからだ。だが,そのメカニズムは極 めて曖昧である。 マネタリーベースを増大させると,なぜ予想イ ンフレ率が上昇するのであろうか。確かに名目貸 出金利の引き下げが民間投資を誘発し総需要を拡 大させることで,超過需要が間接効果として予想 インフレ率に影響を及ぼすが,必ずしも総供給を 上回るほどの総需要が発生するかどうかはわから ない。まして瞬時に予想インフレ率に反映される 直接効果の根拠は曖昧である。 異次元緩和策が成功するには初期段階において 予想インフレ率が上昇する必要がある。日銀はマ ネタリーベースを拡大さえすれば予想インフレ率 はすぐに上昇すると想定していたが,その大前提 がうまく展開しなかった。 成功するにはマネタリーベースの増大が予想イ ンフレ率を直接引き上げるメカニズムを人々に明 確に説明する必要があった。多くの人たちを納得 させることができれば異次元緩和策は期待通りの 成果を収められたと思われる。そうであれば銀行 に副作用をもたらすこともなかったであろう。 <参考文献> 岩田規久男(2013)「量的・質 的 金 融 緩 和」の ト ラ ン ス ミッション・メカニズム─!第一の矢"の考え方─」 日本銀行『京都商工会議所における講演』 岩田規久男(2013)「!量的・質的金融緩和"の目的とその 達成のメカニズム」日本銀行『中央大学経済研究所創 立 50 周年記念公開講演会における講演』 黒田東彦(2017)「!量的・質的金融緩和"と経済理論」日 本銀行『スイス・チューリッヒ大学における講演の邦 訳』 齊藤壽彦(2016)「日本銀行のマイナス金利政策とその影 響―副作用を中心として―」『千葉商大論叢』第 54 巻 第 1 号 齋藤雅士・法眼吉彦(2014)「日本銀行の国債買入れに伴 うポートフォリオ・リバランス:銀行貸出と証券投資 フローのデータを用いた実証分析」日 本 銀 行『Re-ports and Research Papers』

齋藤雅士・法眼吉彦・西口周作(2014)「日本銀行の国債 買入れに伴うポートフォリオ・リバランス:資金循環 統計を用いた事実整理」日本銀行『日銀レビュー』 塩路悦朗(2015)「ゼロ金利下における信用創造」『ワーキ ングペーパー』 中島将隆(2017)「非伝統的金融政策と国債金利の低下に ついて」『証券経済研究』 第 97 号

Markus K. Brunnermeier and Yann Koby(2017), “ The Reversal Interest Rate: An Effective Lower Bound on Monetary Policy,” mimeo

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付録 マクロ経済モデルの方程式 変数 単位 定義 □ 予想インフレ率の変動 TJPY 0〈〈TJPY〉〉 前期超過需要 TJPY 予想インフレ率の変動 超過需要 TJPY 総需要−総供給 ○ マネタリーベース増加 TJPY GRAPH(日銀の金融緩和策,0,1,{0〈〈TJPY〉〉,10〈〈TJPY〉〉,20〈〈TJPY〉〉,

30〈〈TJPY〉〉,40〈〈TJPY〉〉,50〈〈TJPY〉〉,60〈〈TJPY〉〉,70〈〈TJPY〉〉,80〈〈TJPY〉〉,

90〈〈TJPY〉〉,100〈〈TJPY〉〉//Min : −1 ; Max : 11//})

参照

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