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情報 システム戦略 における組織能力

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(1)

情報 システム戦略 における組織能力

‑ プ ロセス ・イ ノベ ー シ ョンを視 野 に入 れて‑

松 田 昌 人

1 は じめに‑ 課題 と問題意識

今 日の企業競争力の源泉 として,生産設備や製品に代表 される有形資産 よ りも,知的資産,顧客資産, コーポ レー ト・ブラン ド等 の無形資産の方が注

目されている。伊藤邦雄 (2001)によると,企業の所有す る価値 を有形資産 と無形資産 に分類す ると,1978年 には有形資産が企業価値 を決定 していたが,

2) 20年後の1998年 にはむ しろ無形資産の方が企業価値 を決定 している。あるい

は,有形資産が企業価値 を生 んでいたのは1980年代 までであ り,それ以降は 3)

無形資産が企業価値 を決めているとも指摘 されている。 したが って,従来 は 有形資産の集積 によって大量生産 ・大量販売 を実現 して高い市場 占有率や収 益 を確保 して きたが,今 日では有形資産が必ず しも企業価値 を生む とは限 ら

ないのが実情である。

他方,戟略論や組織論 の領域では

,

「組織能力 (OrganizationalCapability)

4)

の概念が注 目されて きた。 とい うのは, この概念が,伝統的な戦略計画の議 論や産業組織論 を基盤 にす る戦略論 にはない視点 を提供 してい るか らであ る。例 えば,MichaelE.Porter(1980)に代表 される戦略論 は,企業が長期 的な競争優位 を実現す るには,新規参入企業の脅威,企業 間の競合 関係 ,代 替製品 ・サービスの脅威,サ プライヤー と顧客の交渉力, とい う要因を尺度 337

(2)

5)

に,収益性の高い業界 を選択 し参入する, とい う論理である。 したが って, 企業の競争力 は,産業構造 とい う企業の外部環境 に左右 されることにな り, 収益性の低いあるいは衰退 している 「魅力のない」産業では長期的な競争優 位 を得 られないことになる。 しか しなが ら, この論理では,低 いマージン, 多数の競合企業,サプライヤーや顧客か らの厳 しい圧力ゆえに,持続的な競 争優位 を達成するのが困難な業界で競争優位 を確立 している企業の現象 を説

6)

明することはで きない。そこで,企業内の組織能力の概念が注 目されて きた のである。

組織能力 とは,無形資産 と有形資産 との組み合わせあるいはそれ らを組み 7)

合わせ る能力 を意味す る。その概念 は多様であるが,楠木建 ・野中郁次郎 ・ 8) 永 田晃也 (1986)によると,多 くの研究は,つ ぎの点で共通 している。すな わち,組織能力は,①市場では簡単 に取引で きず,模倣す ることが難 しい と い う意味で企業特殊的な性格 を持 っている,②長期 ・継続的な学習 を通 じて 蓄積 されるものであ り,その意味でパス依存的な性格 を持 っている,③企業 にとって長期的に維持可能な競争優位の源泉 とな り得 る,のである。

このように,競争優位の源泉が有形資産か ら無形資産‑,企業の外部環境 か ら内部の組織能力へ移行 しているなかで,情報 システム戟略 における競争 優位の源泉 も組織能力 にあると考 えることがで きる。 とい うのは,競争優位 を確立 している企業 と同 じコンピュータやネ ッ トワーク,アプリケーシ ョン を利用 しているにもかかわ らず,競争優位 を確立で きない企業が多 く存在 し ているか らである。 さらに,インターネ ッ トに代表 される情報技術 は,産業

9)

の収益性 を悪化 させ る傾 向があることも指摘 されている。 したが って,情報 システム戦略 において も,情報技術 とい う有形資産ではな く,何 らかの組織 能力が企業価値 を決定 し,持続的な競争優位の確立 を可能にす ると考 えるこ

とがで きる。

本稿では,今 日の無形資産重視の傾向における情報 システム戦略 と組織能 力 との関係 について検討 している。 まず,

2

章では,競争優位 の源泉が組織

338 国際経営論集 No.23 2002

(3)

能力にあることを論 じかつ情報の観点か ら論 じている加護野忠男 (1998) と 伊丹敏之 (2001)の見解 をとりあげている。彼 らが展 開 している概念 は,級 織能力 を詳細 に説明 した もの といえる。つ ぎに,3章では,情報戦略 におけ る組織能力 として,物流 と情報 とを連動 させ る能力 と,データマイニ ングの 能力 について, ウォルマー ト・ス トアーズ社の事例 を中心 に分析 ・検討 して いる。 3章で とりあげている事例は情報戟略の成功例 であるが,その成功要 因が情報技術ではな く,む しろ組織能力 にあることを示 している。最後 に, 今 日的な経営課題 になっているビジネス ・プロセス ・イノベーシ ョンにおけ

る情報 システム戦略の特性 について若干述べている。

2

組織能力 と情報 との関係

2‑1 「事業システム」 と情報化パラ ドクス

加護野忠男 (1999)によると,企業の差別化競争 には,製品 ・サービスに 10)

よる差別化 と事業 システムによる差別化 とい う2つの レベルがある。製品 ・ サービスによる差別化競争 は,アサ ヒビールのスーパー ドライや ソニーのハ

ンディカムに代表 されるように,華々 しく成功することがあるとい う点では, 消費者や競合企業か ら見 えやすい。 しか し,ある企業が製品 ・サービスの差 別化 によって成功すると,それを模倣する企業が出て くる し, より価値のあ る新 たな差別化商品を開発する企業が現われる可能性がある。 したが って, 製品 ・サービスの差別化 による競争優位 は,必ず しも持続するとは限 らない。

加護野は,新 しい製品 ・サービスの開発 を通 じた競争が今 日目立つなかで, その背後で行 われている,事業 システムによる競争 を重視 している。

事業 システムによる差別化 とは,製品 ・サービス開発 のための要素技術 を うま く使 う仕組み,部品や原材料 を調達す る仕組み,生産 ・販売の仕組み, 流通 ・物流の仕組み,アフターサービスの仕組み等 を基盤 に した競争 と定義

11)

されている。 これ らの仕組みは,消費者や競合企業か らは見 えに くく,模倣

情報 システム戦略における組織能力 339

(4)

す ることが困難である。具体的には,事業 システムは,商品群 を選択す るこ と,企画 ・部品調達 ・製造 ・流通 ・販売等のなかで どの活動 を自社で遂行す るか を選択す ることと,部品会社や販売会社等 とどの ような関係 を構築する か を選択す ることを基盤 に,分業構造,イ ンセ ンティブ,モ ノ ・カネ ・情報 の流れ等 を設計す ることによって生み出される ものである。長期 にわたって トップの地位 を維持 して きた企業,例 えば,松 下電器, トヨタ,IBM等 の 企業 は,商品開発 で業界 をリー ドして きたのではな く事業 システムで リー ド

して きたのであ り, ソニー,ホンダ,デル コンピュータは,それ らの トップ 企業 とは異 なる事業 システムを作 って別の種 の競争優位 を生み出 して きた,

とい うのが加護野の見解 である。

この ような事業 システムは,知恵 を使 って各時代 の社会的要求や利用技術 を組み合 わせ ることによって革新 されて きた。事業 システムのイノベーシ ョ ンは,社会構造や生活習慣 の変化,製造技術 や輸送手段 の変化等が要因であ るが,今 日では, とりわけ情報通信技術の発達が大 きな影響 を与 えているこ

12)

とが指摘 されている。例 えば, フェデ ックス社 は,インターネ ッ トを利用 し た貨物発送 ・追跡 システムや電子商取引等 の情報技術 によって顧客サービス

13)

の大幅 な向上 を実現す ることがで きた。セブ ンイ レブ ンは,POS (Pointof

Sa l e s:

販売時点情報管理) システムに代表 され る情報技術 によって,商品

14) 納入時間を大幅 に短縮 し売れ筋商品の品揃 えを強化す るに至 った。

これ らの企業 は,情報 システム戦略の成功事例 として しば しば とりあげ ら れてお り,情報技術が なければこれほ どまで成功 しなか った事業 システムを 創 り出 した といえるか もしれない。 しか し, ここで注意すべ きは,情報技術 の発展 と普及ゆえに,情報技術 その ものが競争優位 の源泉 になることがな く

15)

なって きていることである。 とい うのは,情報技術 は,新 しい事業 システム を創 り出す手段 のひ とつではあるが,情報技術 だけを差別化の手段 に してい るのであれば,競合企業 は,同 じ情報技術 を導入 した り,同 じベ ンダーにア ウ トソーシング した りす ることがで きるか らである。実際の ところ,競争優

340 国際経営論集 No.23 2002

(5)

位 を確立 している企業 と同 じコンピュータやネ ッ トワーク,アプリケーシ ョ ンを利用 しているにもかかわ らず,競争優位 を確立で きない企業が多 く存在 している。 さらに,競争優位 を確立 している企業の方が他社 に比べて情報 シ ステムに経費 を多 く費やす とは限 らない し,情報技術が高度かつ最新である からといって決定的な競争優位 を確立 している企業はほ とんどない とい う実

16) 証結果 も,加護野の見解 を裏づけている。

したがって,情報化が進展すればするほど情報技術 で競争優位 を確立する ことが困難 にな り,情報技術以外の要素で競争優位 を確立することが重要な 意味 を持つ ようになるのである。情報技術 とい う見 える資産以外の ところで 何 らかの工夫 をすることが,模倣困難 な事業 システムを創 り出すために重要 となるのである。企業間の競争優位 の差が 情報技術でつかな くなっているこ

17)

のような現象 を,加護野は 「情報化のパ ラ ドクス」 と呼んでいる。 この よう なパラ ドクス現象 における競争優位の源泉 として,組織風土 ・文化 と,小 さ な工夫の積み重ねが挙げ られている。

18) 組織風土 ・文化 は,組織構成員間で共有 される価値,規範,信念である。

例えば,情報の大切 さとそれを共有することの意義 について末端の構成員 ま で理解 されているとい うような風土 ・文化や,現状 に満足す ることな く絶 え ず新 しい試みに全社的に挑戦 してい く風土 ・文化である。前者の風土 ・文化 は,情報が権力や財産 とみなされると簡単 には共有 されない可能性が高 く,

19)

浸透するのに時間がかかる。後者の風土 ・文化 も,組織が一定の歴史 を積 む に連れて,新 しい動 きに対 して保守的な姿勢が 目立つ ようになる傾 向がある

20)

ので,その浸透 も容易 とはいえない。 これ らの風土 ・文化が浸透す るために は,経営者が具体的な経営方針 を示 して リーダーシップを発揮す ることや, 教育 ・訓練 を充実 させ ることが重要 となって くる。 したがって,これ らの要 素 も,他社が容易 には模倣で きない という点で,競争優位の源泉 と考 えるこ

とがで きるのである。

小 さな工夫の積み重ね とは,ひとつひとつの工夫 をとりあげてみるとどこ

情報 システム戦略における組織能力 341

(6)

に企業でも取り組んでいるようにみえるが,その工夫が寄せ集められると独 自の大きな能力が構築されることである。突出した独自の能力のみならず,

小さな工夫の寄せ集めで特別な結果を生み出すことができれば,競争相手は

模倣が難しいという論理である。これは,システム特性,すなわち,企業は 相互に作用する要素の集合体であり,その集合体はその構成要素の相互作用 によって要素自体にはみられない行動や特性を示すこと,を意味すると考え ることができる。小さな工夫の積み重ねにおいては,経験と学習を通じてノ ウハウが蓄積されていくことが重視されている。とりわけ,他社よりも先行 して事業システムを立ち上げていれば,後発企業よりも早く学習して経験者 にしかわからないノウハウを蓄積することができる。

このように,情報技術ではなく,組織風土・文化,経営者の理念とリーダ ーシップ,教育・訓練,小さな苦労の積み重ね等の目に見えないものが競争

優位の源泉であれば,他社は簡単には模倣できないであろう。ただし,情報 技術では差別化はできないが情報で差別化することは可能であることに注意 したい。というのは,情報とは,特定の状況において意味を付与され,特定 の意思決定問題に関連して価値があると評価されたデータであるので,意味 の付与や評価という情報処理の行為は,それを実行する意思決定者の経験や 所属組織の歴史や風土・文化によるところが大きいからである。

22

r

見えざる資産」とその情報的特性

伊丹敬之 (2001) によると,今日,事業活動として収益を上げられるもの が,ハードとしてのモノよりもサービスやソフト商品に変わってきており,

ハードしてのモノを売る競争においても,競争相手との差別化を図るために は,ハード的価値よりもソフト的価値をつける方が大切になってきている。 この「ソフト化」傾向は,製品・サービスの市場競争における企業競争力の 源泉が,ハードからソフトへ,見えるモノから見えないモノに移行している ことを意味している。見えないモノとは 技術者や現場の従業員が身につけ

342  国際経営論集 No.23 2002 

(7)

た技術や ノウハ ウの蓄積 ,顧客 によって担 われている企業 ブラン ドやイメー ジ,細やかな業務 を トータルに実行 で きるシステム九 サー ビス供給九 従

24)

業員のモ ラールの高 さ,組織風土 ・文化等が考 えられる。 これ らは,蓄積 さ れるのには時間がかか り,金銭的代価 を支払 うだけで確実 に蓄積で きる性質 の ものではないので,競争相手 との差別化 の源泉 にな りやすい資源である。

この ような 「見 えざる資産」 を企業が所有 ・蓄積 していることが,競争優位 の源泉 にとって重要 になって きている。それ らを組み合 わせ ることによって, 成果の上が る事業活動 をもた らす源泉 となるのである。

例 えば,ヤマ ト運輸 は,荷物の集荷 ・配達 ネ ッ トワークを管理す る情報 シ ステム と,集荷 .配達 を現場で行 なうセールス ドライバ ー とが連携す ること によって,低料金 の全 国システムが事業 として成立 し,競合企業 とのサー ビ

25)

スの違いを生み出 してい る。伊丹 による と,その真 の競争力 の源泉 は, トラ ックや荷捌 きセ ンター等 の,単 に資金 を投入す るこ とに よって準備 で きる

「見 える資産」 ではな く,その ような物 的資源 を有効 に利用 で きるシステム と人材 の質 を絶 えず維持 ・改善す るノウハ ウや経営管理力等 にあ るのであ る。

この ような伊丹 の見解 を裏づ けている状況 として,つ ぎの ような事例 も挙 げ られる。 自動車,家電,パ ソコンのメーカーは,製品の販売のみ な らず, アフターサービス を充実 させ て顧客満足 を長期 間維持す ることによって企業 への信頼 を獲得 し,買換 え需要期 に多 くの販売機会 を得 ることに力 を注いで

26)

いる。 とりわけ自動車 メーカーは,単 に自動車 を製造 ・販売す るだけでは差 別化がで きない状況 にある。 フォー ド ・モーターズ社 のジャック ・ナ ッサー 社長兼最高経営責任者 による と,ある顧客が 自動車 を購入 して

5

年間乗 る場 令,購入代金 はその顧客が5年間 自動車 に費やす総費用 の20%にす ぎず,ほ

27)

とんどの出費 は自動車 を購入 した後 に発生す る。 したが って, 自動車 メーカ ーは, 自動車の販売 よ りも部品販売や修理等のサー ビス を創 り出す ことによ って利益 を得 てい くことになるのである。実際 に, 自動車が販売 されること

情報 システム戦略 における組織能力 343

(8)

によって, 自動車会社 よ りも保険会社 の方が多 くの利益 を得 てい る とい う現 28)

象が生 じてい る。それゆえ, 自動車会社 に とっての見 えざる資産 とは,競合 企 業 と差別化 で きる ようなサ ー ビス を絶 えず創 り出 してい くサ ー ビス供給 力, ノウハ ウや知恵 であろ う。無論 , これ らは, 自動車,パ ソコンや家電の

メーカーに限 った ことではない。

伊丹 は,企業が製 品 ・サー ビス を開発 ・生産 し,それ を販売す る とい う多 様 な業務 活動 のひ とつ ひ とつ には,何 らかの情報が流れた り蓄積 された りす ることが伴 うことか ら,企業 とい う組織体 の事業活動 の本質が情報 の蓄積 と 処理 にあ る とい う見解 に立 ち,見 え ざる資産 の本 質が情報 (あ るい は知識)

図表1 3つの見えざる資産 と情報の流れ 環 境

環境情報 顧客情報の蓄積、市 場情報の獲得、企業外 技術の導入

・・・・・‑

・・・> ▲・1 1‑ 1‑ 三 ・・

=・・‑・⁝・・

企業情報

企業の信用、ブランド やイメージ、流通 ・関係 会社への影響力

(出所) 伊丹 (1984)p.63図 と伊丹 (2001)p.69図 より作成

344 国際経営論 集 No.23 2∝)2

(9)

29)

にある と考 えている。そ して,企業活動 に伴 う情報 フローの観点か ら,図表 30) 1の ように,環境情報,企莱情報,内部情報処理特性 の3つ に分 けている。

環境情報 とは,顧客や市場 に関す る情報,企業外 の技術 に関す る情報であ り, 環境か ら企業 に流れて蓄積 されてい くのである。企業情報 とは,企業 ブラン

ドやイメージ等 の企業や商品に関す る有用 な情報 であ り,企業か ら環境 に流 れて顧客 に蓄積 されてい くのである。

内部情報処理特性 は,組織構成員の意思決定 とい う情報処理活動 を意味す る。技術力,ノウハ ウ,システムカ,サービス供給力,組織風土 ・文化等が, 内部情報処理特性 として分類 されている。技術力や ノウハ ウは,近年のナ レ

ッジ ・マネジメ ン トとい う経営手法が正面 に据 えた知識のひ とつで もあるの 31)

で,理解 しやすい情報的資源である システムカ については

,

「システムが あるか ら適切 な情報処理が迅速 に行 われ,その情報 に基づいて業務が遂行 さ れる とい う意味 で情報処理特性 である」 とい うように,情報 システムの構 築 ・運営力 と理解す ることがで きる。サ ー ビス供給 は,「協働集 団である企 業 とい う組織体 では,人々は互 いにコミュニケーシ ョンをとって意思決定 と い う情報処理活動 を行 っている」 ことか ら,情報処理活動 のひ とつ と理解す

32)

ることで きる。組織風土 ・文化 は,組織構成員 の思考のクセあるいは共通 か つ特有 な情報の伝達 ・処理パ ター ンとされている。先述の ように,情報 とは, 特定の状況 において意味 を付与 され,特定の意思決定問題 に関連 して価値が あると評価 されたデータであるので, この ような情報処理 はそれ を実行す る 意思決定者の経験や所属す る組織 の歴史や風土 ・文化 による ところが大 きい

と考 えることがで きる。

この ような企業 ・環境 間の情報の流れ と企業 内の情報の流れが絶 えない こ とによって,経験が蓄積 され学習が活性化 されてい き,見 えざる資産が絶 え ず更新 ・管理 されてい くことになるのである。有形 あるいは目に見 える資産 では競争優位 を確立す ることがで きな くなっている今 日では,無形 あるいは 目に見 えない模倣 困難 な資産,例 えば,組織風土 ・文化 ,経営理念,教育 ・

情報 システム戦略 における組織能力 345

(10)

訓練 ,技術 や ノウハ ウ等 を企業が所有 ・蓄積 していることが,競争優位 の源 泉 に とって重要 になって きているのであ る。

3

情報戦略における組織能力の事例

3‑1 物流 と情報 との連動能力

ウ ォルマ ー ト ス トアーズ社 は,売上高1950億 ドル,純利益 約54億 ドル, 33) 時価総額約2750億 ドル を誇 るデ ィス カウン トス トア ・チ ェー ンである。創業 者 の故サ ム ・ウォル トンが1962年 にアーカンソー州 ロジ ャース に 1号店 を開 いて以来,人 口5万人以下 の町でデ ィス カウン トス トアは成 り立 たない とい う当時の業界 の常識 に挑戦 して,競合他社が見 向 きもしなか った場所 に次 々 と出店 した。情報化経営 については,店舗 とデー タ通信 す るため に米 国では じめて衛 星通信網 を利用 した り,ECR (EfficientConsumerResponse:効 率 的な消費者対応 ) を米 国で最初 にプロクタ一 ・ア ン ド ・ギ ャンブル社 と共 同で始 めた りした。 さらに, イ ンターネ ッ トの利用 による仕入先 との売上予 測 の共有 によって情報共有 の範 囲 とレベルを拡大 した り,顧客 の買 い物かご 単位 で収支 を把握 して収益構造 を強化 した りして きてお り,小売業 の情報化

34)

の手本 とされてい る点が多 い。

GeorgeStalk,PhilipEvans

&

LawrenceE.Shulman(1992)による と, ウ ォルマー ト社 の組織能力 は,定義 は容易 だが実現す るのは困難 な企業 目標

35) を実際 に実現 してい るこ とと,それ を可能 にす る在庫補 充 システムである。

彼 らは, ウ ォルマー トの成功要因 と して しば しば とりあげ られてい る創業者 の才能や理念,EDLP (EveⅣdayLow Price)戦略,厳 しい コス ト意識,従 業員 ひ と りひ とりに責任 を持 たせ仕事 を任せ て動機づ けること,入 口で顧客 を迎 える歓迎員 (greeter),規模 の経済 を実現す るための大規模 な店舗 と豊 富 な品揃 え等 は,組織能力 を説明す るには必ず しも十分 な要素でない と考 え ている。

346 国際経営論 集 No.23 2002

(11)

ウォルマー ト社 の組織 目標 は,顧客 に高品質の商品 を購入で きるよう取 り 計 らうこと,顧客が必要 とす るときにそれ らの商品を提供す ること,競争力

にある価格設定 を可能 にす るコス ト構造 を開発す ること,最高の好評 と信頼 性 を構築 ・維持すること,である。 ウォルマー ト社 は

,1 9 9 2

年 にはシアーズ ローバ ック社 を抜いて世界最大の小売業 にな り,売上高ではは じめてゼネラ ル ・モー ターズ社 を抜 いて世界最大 の民間企業 になる と予想 されているが, とりわけ,小売業 とい う成熟産業 に もかかわ らず, ウォルマー ト社 だけが売 上高 と純利益 において前年比

2 0 %

前後の増加 を記録 し続 けていることを考 え ると, この ような組織 目標 の実現 ・維持力 は,容易 に模倣 されない組織能力 である。

そ して, この 目標 の実現 に貢献 している在庫補充 システム (クロス ・ドッ キング ・システム) ち,情報 とい う無形資産 と物流 とい う有形資産 を連動 さ せる組織能力 と捉 えることがで きる。 この在庫補充 メカニズムにおいては, 商品が絶 えず ウォルマー トの倉庫 に配送 され,そ こで選別 ・再包装 されて各 店舗 に配送 される。商品が倉庫 に在庫 として保管 されることはほ とん どな く, 約

2 0 0 0

台の社有 トラックが

1 9

箇所

( 2 0 0 0

年 には

5 3

箇所 あ り

,2 0 0 4

年 には

9 1

箇 所 まで増 えることが予想 されている)の物流セ ンター間で動 くことによって, 48時間以内での倉庫 か ら店舗へ商品配送が可能 になった。それによって,莱 界平均では週

1

回の ところ,平均週

2

回の商品棚への補充が可能 となったの である。情報 システムの面では,衛星通信 システムによって,販売時点デー タを約

4 0 0 0( 2 0 0 0

年 には

7 0 0 0 )

のサ プライヤーに直接送信す ることと,全店 舗でのあ らゆる販売時点で注文が出されてか ら

1‑2

時間以内にそれ らを整 理 し実行 に移す ことが可能 になった。 このシステムによって, ウォルマー ト の物流セ ンター とサ プライヤーの間が継続的に連携 されて,通常の在庫 と運 用 コス トを排 除 しつつ, トラ ック数台分 の商品 を購買す る効果が実現 され, 販売 コス トを業界平均 よ りも

2‑3%

削減す ることがで きた。 この ようなコ ス ト面の差が

,EDL P

戦略 を可能 に したのである。

情報 システム戟略 における組織能力 347

(12)

クロス ・ドッキ ング ・システムの効果 は明 らかであるが,運用 ・管理が極 めて困難 で他 の大規模小 売業者が模倣 ・利用 で きない とい う点で,その構 築 ・運用力が ウォルマー ト社 の組織 能力 であ る とい うのが,Stalk,Evans

&Shulmanの見解 である。彼 らは,競合企業 のKマー ト社が同様 の機能 を 持つ システムを利用 しているに もかかわ らず,取扱商品量の50%しか処理で きない状況 を指摘 している。 これは,前節の情報化のパ ラ ドクス現象あるい はウ ォルマー ト社 に よる小 さな工夫 の積 み重 ねの結果である。 したが って, 取 り扱 う物流量 と情報量が多 ければ多いほど,それ らを連動 させ ることが困 難 になってい くことを考 える と, ウォルマー ト社 は,大量の物流 と大量の情

36) 報 とを連動 させ る能力 に優れているとい うことがで きる。

ただ し, ここで注意すべ きは,Stalk,Evans&Shulmanが ウォルマー ト 社 の組織能力 を説明す る上で軽視 している創業者の才能や理念や,従業員 ひ とりひとりに責任 を持たせ仕事 を任せ て動機づ けることは,情報 と物流 とを 連動 させ る組織能力 にとってむ しろ重要 なことではないか, とい うことであ る。 とい うのは, ウォルマー トの扱 う物流量やそれに伴 う情報量の膨大 さを 考 えると,故サム ・ウォル トンが創業時か ら考案 し提唱 して きた 「ウォル ト

37

)

ン主義 (成功す るための10か条

) 」

が今 日も経営 トップか ら現場のパ ー トタ イマーに至 るまで浸透 しているか らこそ,会社への強い忠誠心が全社的に持 たれ,意欲 的 に仕事 に取 り組 む企業風土が醸成 されてお り,それゆえ,情報 と物流 との連動 に成功 してクロス ・ドッキング ・システムを実現 した, とい えるか らである。 さらに,義務教育の行 き届 いた 日本 と比べ て米国の労働者 の教育水準 は多様 であること,その ような状況下で従業員 を動機づけて効率 的に活動 させ ることは米 国企業 にとって困難であることを考 えて も,ウォル マー ト社 の教育 システムが優 れている といえる。この ような見 えざる資産は, 先述の楠木 ・野中 ・永 田が指摘 している組織能力の特性 を備 えてお り, ウォ ルマー ト社 の競争優位 とい う点では重要 な役割 を果 た しているのである。 し たがって,Stalk,Evans

&

Shulmanの見解 は, この ような点では議論 の余

348 国際経営論 集 No.23 2002

(13)

地があろう。

3‑2 データマイニング能力

ウォルマー ト社 は,大規模 なデータウェアハ ウス を利用 してのデータマイ 38)

ニ ングを実践 して高収益 をあげていることで も知 られてい る。データウェア ハ ウス とは,基幹系業務 システム等 の社 内外 のデー タベ ースか ら必要 なデー タを抽 出 し,各ユーザー部門の利用 目的に合 わせて再編集 した情報系 データ ベースである。そ して,デー タマイニ ング とは,企業が収集 した大量の生デ ータを,相 関関係分析,時系列分析 ,バスケ ッ ト分析 ,クラス タリング等 の 手法 を用いることによって,販売動 向に関す る発見 しに くい法則性や規則性

39) を見出す ことである

これ まで多 くの企業が,顧客 ニーズの変化 の動 きを捉 えるために商品や顧 客の情報 を処理す る必要性が高 まって きたことを背景 に,データウェアハ ウ スに資金 を投 じて きた ものの,当初期待 したほ どの有効活用がで きていない, すなわち,データマイニ ングに成功 していないのが実情である。そのなかで, ウォルマー ト社 は,実効性のある情報化投資 と情報 システム実践 を展 開 して きた。 ウォルマー ト社 は,所有す る店舗 (約

3 0 0 0

店)や物流 セ ンターの数が 膨大で, シアーズ社 の

3 . 6 3

,K

マー ト社 の

1 3 . 1 2

倍 の容量があるデー タウェ アハ ウス を所有 しているに もかかわ らず,商品別,店舗別, 日付別等 のデー タを競合企業 よ りも詳細 に把握 ・分析 して約10万品 目の販売動向 を予測 して いる。近年では,取引企業や技術系企業 との協調 関係 を深 めることによって, 売上需要予測精度 をさらに向上 させ る研究 も,数年 にわたって継続 している

分析対象 となるデータが多ければ多いほどデー タマイニ ングが困難 になるこ とを考 えると, ウォルマー ト社 のデー タマイニ ング実践能力 は,組織能力の

40) ひとつ と考 えることがで きる。

そ もそ もデータマイニ ング とは,デー タを情報 に変換す るプロセスであ り, 先述の ように,特定の状況 ・時間における意味 をデータに付与す ることによ

情報 システム戦略における組織能力 349

(14)

って,特定の意思決定問題 に関連 して価値があると評価す ることである,と 換言することがで きる。そ して,その意思決定主体 による意味の付与や価値 判断は,意思決定主体が所属す る組織の歴史 ・風土 または主体 自身の経験に よるところが大 きいのである。 したがって,ウォルマー ト社がデータマイニ ングに成功 している要因は, ウォルマー ト社独 自の歴史や風土 ・文化,従業 員の社 内での経験 にあ り, これ らが組織能力 に深 く関係 しているとい うこと がで きる。

ウォルマー ト社 は

,

「ウォル トン主義」が提唱 している 「競合他社 よりも 予算 を上手 にコン トロールすることによって,常 に変わ らない競争優位が存 在す る」や

EDL P

に由来す る 「倹約精神」や 「コス ト削減主義」 を正面に 据 えて きた。情報化投資 について も

,

「実施す るか らには,

4

カ月以内に技 術 開発 ・導入 コス トを必ず回収なければならない」 とい う意識が全社的に浸 透 してお り,競合他社の情報化投資予算が売上高の1.0‑1.4%であるのに対 して, ウ ォルマー ト社 は0.5%に とどめてい る。 この ような風土 に加 えて,

「消費者の期待 を超 えるものを提供す ることによって,消費者 は絶 えず来店 する」 という価値観が,顧客満足 を実現するようなデータマイニ ングを後押 ししている。 したが って,データマイニ ング重視の文化が醸成 されていると いって もよいだろう。

とりわけ重要 な要因は,「現場か ら直接得 られる情報 を重視する」風土で ある。 ウォルマー ト社では,その ような創業者の姿勢 を受け継 ぎ,毎週土曜 日の朝 に経営幹部数100人が集 まって会議 を開 き,特定の店舗,商品,販売 政策 に関す る具体的なテーマが活発 に話 し合われている。無論,幹部のみな らず,現場社員か ら得 られる情報 を,情報技術が提供するデータ以上に重視 す る風 土 ・文化 が浸透 してい る。そ して,「同僚 と利益 を共有す ること」,

「あ らゆる同僚 とコミュニケーシ ョンをとること」等の理念が,社員間の信 頼関係 を構築 し,データマイニ ングにおける情報共有 を促進 している。さら

に,ウォルマー ト社の沿革に象徴 される 「逆流 に向かって泳 ぐ」風土が,デ 350 国際経営論集 No.23 2002

(15)

一夕分析か ら得 られる数値や安易 に信用せずに自らその妥当性 を再検証する 行動 を促進 しているのである。

さらに,システム開発部門では,データマイニ ングか ら配送 システムまで の全てのソフ トウェアを開発 していることにも注意 したい。アウ トソーシン グしないで 自社で開発 した方が より良いシステムがで きるとい う価値観が浸 透 しているように思われる。それは,他社 にとって模倣 困難 な情報 システム を意味 している。

以上のようなウォルマー ト社の事例 は,情報戦略が,単 なる技術上の問題 ではな く,文化的 ・社会的要因を含む,人間に関わる問題であることを示 し

41)

ている。 したがって,たとえ最新の情報技術 を導入 して大量のデータを収集 しても,データマイニ ングを実践する能力がなければ,情報技術 を有効 に利 用で きないことになる。試行錯誤 しなが らデータを情報 に変換する,学習意 欲の高い優れた社員の存在が,何 よりも重要なのである。 この ような風土 ・ 文化が醸成 していることによって,データウェアハ ウスは強力 なツールにな るとい うことがで きる。

4

情報戦略 とプロセス ・イノベーション‑ むすびにかえて

これ まで論 じて きたウォルマー ト社 の情報戦略 とそれ を支 える組織能力 は,あ くまで競合他社 に対する競争優位性 とい う側面 を論 じているレベルで あ り,近年の企業経営 において重要な課題 とされているイノベーシ ョンの レ ベルでの論述はない。 しか し,雑貨店主だったサム ・ウォル トンがディスカ ウン トス トアのウォルマー ト社 を創設 し, さらにスーパーセ ンター (ディス カウン トス トアの1.5‑ 2倍 の広 さで,従来の 日用 品に加 えて食料 品全般 を 扱 う)へ と業態 を転換 していった過程 を考察すれば,ウォルマー ト社が 「自 己変革能力」 によって持続的 に成長す る 「変化 し続 ける会社 (Changing Company)」であること,す なわち, ビジネス ・プロセスのイノベーシ ョン

情報 システム戦略 における組織 能力 351

(16)

42)

が繰返 されて きたことに留意 しなければならない。したが って,組織能力 は, プロセス ・イノベーシ ョンを実現するレベルになければならない。

プロセス ・イノベーシ ョンは,新 たなプロセスの設計のみならず,新 たな ビジネス戟略の立案 とプロセス設計活動および複雑 な技術的 ・人的 ・組織的

43)

側面での変革等の全てを含 んでいる. ウォルマー ト社のプロセス ・イノベ‑

44)

シ ョンに関係する情報戦略の主な特性 は,つ ぎの2点である。

1

に,情報技術 を活用す る場合 は,既存の業務のや り方の変更すること を視野 に入れていることである。先述の 「倹約精神」や 「コス ト削減主義」

ゆえに,投資回収予測 を下回った ときには,新 システムの機能不足のみなら ず,特定の ビジネス ・プロセスを変更 しなかったことが原因ではないか とい う発想で,試行錯誤 しなが らビジネス ・プロセスを迅速 に変革することを意 識 している。 これは,情報技術 はプロセス ・イノベーシ ョンのイネーブラー のひとつであるにす ぎず,技術的側面 と人的 ・組織的側面 とを連携 させ るこ とな しにはプロセス ・イノベーションは実現 しない というプロセス ・イノベ ーシ ョンの理念 と一致 している。

2

に,新 たな情報技術 を導入する場合は,情報機器ベ ンダー と共同で開 発することである。ベ ンダーは,新技術 を共同開発することによって,ウォ ルマー ト社 を導入事例 として宣伝 し,その技術 を他社 に販売す ることがで き る。一方,ウォルマー ト社 は,ベ ンダー との取引 を有利 にで きるのに加 えて, 競合企業がその技術 をす ぐに獲得で きないよう工夫 している。 これは,プロ セス ・イノベーシ ョンにおいては,企業の枠 を超 えたビジネス ・プロセスの 設計 をも視野 に入れる必要があるとい う理念 を満た している。

情報化パ ラ ドクス現象が起 こっていること,情報的資源 としての見 えざる 資産が競争優位 の源泉 になっていること,情報技術が産業の収益性 を悪化 さ せ得 ること等 を考慮すると,情報技術の利用 を前提 に したビジネス ・プロセ スの変革 とい う今 日的命題 においては,情報 システム戦略における組織能力 の役割期待が ます ます重要になって くる。

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情報 システム戦略 における組織 能力

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参照

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