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気管支喘息の発症及び治療反応性における

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 伊 佐 田    朗

学 位 論 文 題 名

気管支喘息の発症及び治療反応性における      遺伝的背景に関する研究

学位論文内容の要旨

【背景】

  気管支喘息は好酸球を主体とした慢性気道炎症により、可逆性の気道狭窄と気道過敏性が生 じる疾患である。過去の検討より、気管支喘息の発症や治療薬の反応性に関して、環境要因、遺 伝的要因が関与していることが知られている。

  気管支喘息患者の喀痰中ではトロンビンが増加しており、気道内で凝固系が活性化しているこ とが報告されている。トロンビンの増加には組織因子(Tissue factor: TF)の発現と外因系凝固経路 を活性化が重要な役割を果たしており、TFは喘息患者の喀痰でも増加していることから、TFは喘 息の発症、病態に関与していることが推測される。7,F遺伝子のプロモーター領域には、いくっかの 遺伝 子多型 が存在し 、特に‑603部分に存 在するA→G多型で は、Gアレル は、血清TF濃度の上 昇を介し、心血管系疾患発症のりスク因子であることが報告されている。本研究では、TFと喘息発 症 と の 関 連 を 検 討 す る 目 的 で 、TF遺 伝 子 多 型 に お け る 患 者 対 照 研 究 を 施 行 し た 。   また、気管支喘息の治療に用いられるp2刺激薬は、この受容体遺伝子をコードするp2アドレナ リン 受容体(ADRB2)遺伝 子の多型性が、治療の反応性に影響を及ぼすことが報告されている。

ADRB2遺伝子多型のうち、16番のアミノ酸におけるグリシン(Gly)からアルギニン(Arg)^の多型 (Arg16Gly)に 関する検 討が最も 多く、 短期間作 動性p2刺 激薬(SABA)や 長期間作 動性p2刺 激 薬(LABA)の連用により、Arg/Arg型においてピークフローの経時的な増悪が認められることが、

欧米人を対象に報告されている。ADRB2遺伝子多型は人種により異なることが知られているが、こ れま で日本 人を対象 とした 検討の報 告はない 。今回 我々は日 本人喘 息患者を 対象にADRB2遺 伝子 多型(Arg16Gly)とp2刺激薬 の長期連 用によ る呼吸機能の変化との関連を後ろ向きに検討 した。

【 目 的】

研 究1: 気 管 支 喘 息 発 症 に お け るTissue factor遺 伝 子 ―603A‑*G多 型 の 影 響 研 究2:ADRB2遺 伝子Arg16Gly多 型 が 気管 支 喘 息患 者 のp2刺 激 薬長 期連用に 与える影 響

【対象と方法】

研究1:対 象は当 科通院中 の喘息 患者437人及ぴ 健常者389人を対 象とし た検討(Primary群)

と理 化学研 究所の協 カにより 健常者745人と 喘息患者343人(Replicate群)の両群で患者対照 研究を行なった。また、多型のプロモーター活性を解析するためにルシフェラーゼアッセイと、転写 に関与する核蛋白同定のためにゲルシフトアッセイを行なった。

研究2:対象は当科通院中で6ケ月以上p2刺激薬を連用した喘息患者(全例吸入ステロイドを定 期的 に使用 中、Arg/Arg型86人、Gly/Gly型83人)。当科初診時および治療経過中の呼吸機能 検査を両群で比較した。

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(2)

【結果】

研 究1: 健常者389人及 び喘息 患者437人を対 象とした 検討(Primary群)で、遺伝子型GGと21 歳以上の喘息発症(成人発症喘息)との関連が認められた(OR=2.89、p二ニ0.023)。健常者722人と 喘息患者932人(Replicate群)を用いた追試でも同様の傾向を認め(OR=1.60、=―0.064)、全体の 解析ではGG型は成人発症喘息と明らかな関連を認めた(n=2480、OR‑1.736、p=0.0117)。また、

ルシフェラーゼアッセイによりGアレルではAアレルと比較し約30%の転写活性の亢進(pく0.05)を 認めたが、転写に関与する核蛋白の同定はできなかった。

研究2:初診時の1秒量はGly/Gly型でより低値を示した(pニニ0.022)。6ケ月以上使用後の1秒量 はArg/Arg型 で はp2刺 激 薬 連用 群 に 比べ 非 連 用群 で 治 療に よ る 改善 の 程 度 が大 き かった (0.13士0.067(L) vs. 0.049土0.080(L)、P ̄0.44)。一方、Gly/Gly型では非連用群に比べ連用群で1 秒 量 の 改 善 が 明 ら か に 大 き か っ た(0.032:t0.12(L) vs. 0.42:tO.11(L)、p=0.027)。

【考察】

研 究1: 本研究 により、ぴ遺伝子プロモーター領域の‑603A‑*G多型と成人発症喘息との関連が 認められ、GG型は、成人発症喘息の危険因子であることが示された。さらにGアレルではAアレ ルと比較し転写活性が亢進して韜り、GG型はTF遺伝子の発現を介し喘息発症に寄与することが 示された。

  21歳 以上で 発症した 成人発 症喘息と 心血管 系疾患との関連を示す疫学研究が存在する。TF 遺伝子‑603Gは心筋梗塞や静脈血栓との関連はすでに知られていることから、TFは喘息と心血管 系疾患の発症にかかわる共通の遺伝子である可能性が推測された。GG型では繰り返し外界から の刺激に曝されることにより、気道内でTFの発現が亢進し、凝固反応がより強く引き起こされた結 果、成人喘息の発症に寄与する可能性が考えられた。また加齢により凝固能カ§亢進していくことが 知られており、この事もGG型が成人発症喘息tごおいてのみ危険因子であった理由のーっである と 考え ら れ た。 以 上 よりT遺 伝 子が 成 人 発症 喘 息 に関 与 す る候 補 遺 伝子 と 考 えら れ た 。

研究2:我々の検討により、Gly/Gly型ではp2刺激薬連用により呼吸機能の改善が認められたの に対し 、Arg/Arg型ではp2刺激薬連用の有無による呼吸機能の改善に差はなく、p2刺激薬連用 の有用性は明らかではなかった。

Arg16Gly遺 伝子 多 型 とp2刺 激 薬連 用 に よる 呼 吸 機能 の 変 化に つ い ては 、Arg/Arg型 で は Gly/Gly型 と 比較 し 、p2刺 激 薬 連用に 伴い呼吸 機能が 低下する という 欧米から の報告 があ る。最 近の前 向き研究 では、 この遺伝 子多型とp2刺激薬連用の治療効果には関連はなぃこと が 示さ れてい るが、興 味深いこ とに、 アフリカ 系アメ リカ人の みを対 象とした 検討では 、 Arg/Arg型 はLABA使 用に よ り 呼吸 機 能 の改 善 を 認め な い こと が報告 されてい る。SMART試 験 に韜 いても 、アフリ カ系アメ リカ人 において は、p2刺 激薬の使 用によ り喘息関 連死が 多 い こと も報告 されてお り、p2刺 激薬の効 果には人 種差が ある可能 性があ る。実際 、日本 人 におけるADRB2遺伝子多型頻度やハプロタイプ遺伝子型の分布は、アフリカ系アメリカ人により近 いことが知られており、日本人におけるp2刺激薬連用による影響はアフリカ系アメリカ人と同じ傾向 である 可能性 がある。 よって 、今後日 本人を対象にした大規模な前向き検討を実施すること が重要な課題であると考えられた。

【結語】

  ぴ遺 伝 子 及ぴADRB2遺 伝子 に 存 在 する遺伝 子多型と 、気管 支喘息の 発症お よび治療 反応 性 と の関 連を検 討した 。TF‑603A‑*G遺伝 子多型で は、GG遺 伝子型はTF遺伝子 の発現を 亢進 し、成人発症喘息に関与することが示された。また、ADRB2遺伝子Arg16Gly多型では、Arg/Arg 型でp2刺激薬連用による呼吸機能の改善を認めなかった。

  今後、大規模かつ複数の人種での検討、及び治療反応性にっいては前向きの検討により、TF およぴADRB2遺伝子が喘息の発症、治療反応性との関連がより明らかになることが期待される。

    ―199 ‑

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

気管支喘息の発症及び治療反応性における      遺伝的背景に関する研究

  気 管支 喘息 は 好酸 球を主体とした慢 性気道炎症により、可逆性 の気道狭窄と気道過敏性が生 じる 疾患 であ る 。気 管支喘息の発症や 治療薬の反応性に関して、 環境要因、遺伝的要因が複雑 に関与していることが知られている。

  気 管支 喘息 患 者の 気道内において、 凝固系の活性が亢進してい る事が報告されている。凝固 系の 亢進 は、 炎 症の 結果のみならず、 疾患の病態形成に関与する 可能性が報告されている。組 織因子(Tissue factor: TF)は、外因系凝固経路の初期因子として重要な役割を果たしており、TF は喘息の発症、病態に影響する可能性が推測される。

  ま た、 気管 支 喘息 の治療に使用され るD2刺激薬の反応性は、遺 伝的影響を受けることが報告 されている。中でも、胆 刺激薬の受容体をコードするp2アドレナリン受容体遺伝子(AD.朏2)に存 在する遺伝子多型のうち、16番アミノ酸におけるグリシン(Gly)からアルギニン(舳g)^の変化と胆 刺激薬の効果との関連に ついてこれまで数多くの検討 が報告されている。しかし、日本人を対象 とした検討はこれまでな く、今回は日本人喘息患者を 対象に創)Rロ2遺伝子多型(鉗g16Gly)と 胆 刺 激 薬 の 長 期 連 用 に よ る 呼 吸 機 能 の 変 化 と の 関 連 を 後 ろ 向 き に 検 討 し た 。   気管 支喘 息発 症 にお けるTissuefactor遺 伝子 ‐603A→G多 型 の影 響に つい ては 、 患者 対照 研究 を行 なっ た 。健 常者389人及 び喘 息患 者437人を対象(Hokudai群)とした検討で、遺伝子 型GGと21歳以 上 の喘 息発 症( 成人 発 症喘 息) との関連が認められ た。健常者722人と喘息患者 932人(RIKEN群)を用い た追試においても同様の傾向 が確認された。また、ルシフェラーゼアッ セイにより、GアレルではAアレルと比較し約30%の転 写活性の亢進が認めたられた。本研究より ぽ 遺伝 子プ ロモ ー ター 領域 の―603A→G多型 と 成人 発症 喘息 と の関 連が 示さ れ、TFは喘 息の 発症に寄与する要因のーっと考えられた。

  ま た 、4DR日2多 型 が 気 管 支 喘 息 患 者 の 胆 刺 激 薬 長 期 連 用 に 与 え る 影 響 に つ い て は 、 ん ヴmg遺 伝 子 型 群64人 とG1シGly遺 伝 子 型 群64人 の 喘 息 患 者 を 対 象 と し 、 各 遺 伝 子型 で6 ケ月 以上 胆刺 激 薬を 連用 した 群と 発 作時 のみD2刺 激 薬を 使用 した 非連 用群とで一秒量の変化 を 比較 し検 討を 行 なっ た。GlシGly群で は非 連 用群 に比 べ連 用 群で 一秒 量の 改善 が 明ら かで あ っ た が 、pば ガ 灯g群 で 憾 陀 刺激 薬連 用群 と 非連 用群 とで 治 療に よる 改善 に差 を 認め なか っ た 。 っ ま り 、 胆 受 容 体 遺 伝 子多 型の 違し ゝ が胆 刺激 薬連 用 によ る呼 吸機 能の 改 善に 影響 を 及 ば す 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 人 種 差 に よ りD2刺 激 薬 の 効 果 に 違 い が あ る 事 が 報告 され てし ゝる が、 こ の影 響に はA別ロ2遺 伝子 多型 が関 与 して いる 可能 性も 考えられる。今後、胆

200

   

西

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刺激薬連用による喘息病態への影響について、日本人を対象とした大規模な前向き検討を 実施することは重要な課題であると思われた。

  今回日本人を対象に行なった検討により、TF遺伝子は成人発症喘息の発症に関連し、また ADRB2遺 伝 子 は 陀 刺 激 薬 の 治 療 効 果 に 影 響 を 与 え る こ と が 示 さ れ た 。   審査にあたり副査の筒井教授より1)喘息に関連する遺伝子としてTFに注目した理由とそ の根拠、2)喘息と全身性の血栓症のとの関連、3)p2刺激剤に対する治療効果が高い患者と 低い患者の存在に関する質問があった。また、有賀教授からは1)喀痰や気管支肺胞洗浄液 にお けるTF濃度に対する遺伝子多型の影響、2)多型以外のTF濃度上昇に関わる因子の有 無、3) 江DRB2多型が胆刺激薬長期連用に与える影響のメカニズムの質問があった。最後 に主査の西村教授より1)喘息を対象にした多型研究で成人と若年に発症を分けた検討の有 無 、2) 遺 伝 子 多 型 研 究 の 方 向 性 や 今 後 の 展 望 に つ い て の 質 問 が あ っ た 。   いずれの質問に対しても、申請者は自験データや過去の文献を引用し、概ね適切に回答した。

質疑応答の時間は約15分であった。

  この論文は、遺伝子多型を用いて気管支喘息の発症や薬剤の効果に影響を及ばす遺伝的背 景 を 示 し た も の で あ り 、 今 後 の さ ら な る 臨 床 応 用 へ の 可 能 性 が 期 待 さ れ る 。   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ 申請者 が博士( 医学) の学位を 受けるの に充分 な資格を 有する ものと判 定した 。

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参照

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