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現代イランの女性労働

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 経 営 学 )    村 上明 子 学 位 論 文 題 名

現代イランの女性労働

学位論文内容の要旨

  1979年 の イ ラ ン 革 命 以 降 , 同 国 で は イ ス ラ ー ム に よ る 社 会 統 合 が 企 図 さ れ た こ と で , そ こ で の 女 性 の あ り 方 に つ い て は 多 方 面 よ り 多 大 な 関 心 が 寄 せ ら れ て き た 。 本 論 文 で は , 同 国 で 展 開 さ れ る イ ス ラ ー ム ・ べ ー ス の 社 会 統 合 論 理 の 詳 細 に 着 日 し , そ れ が 経 済 ・ 社 会 発 展 が 進 展 す る 中 で 女 性 の 活 躍 と ど の よ う に 結 ぴ つ い て い る の か , ひ る が え っ て 地 域 適 合 的 な 発 展 論 理 と は 如 何 に 理 解 さ れ る か を 検 討 す る こ と が 課 題 の 大 枠 で あ る と 言 え る 。   さ て 女 性 就 業 に 視 点 を 転 じ て み る と , そ の 決 定 要 因 と し て は 経 済 的 要 素 ( 労 働 市 場 の 需 給 構 造 , 労 働 者 個 人 の 家 計 状 況 等 ) の 他 に も , 家 庭 に 関 す る 要 素 ( 結 婚 ・ 出 産 ・ 育 児 ・ 家 事 等 ) や , さ ら に は 制 度 的 要 素 ( 関 連 政 策 や 社 会 規 範 等 ) が 大 き く 影 響 す る こ と が 広 く 知 ら れ て い る 。 特 に イ ラ ン の 場 合 は , 元 々 イ ス ラ ー ム . ベ ー ス の 性 別 役 割 規 範 が あ る 中 で , 革 命 後 に そ れ が 国 家 に よ っ て 担 保 さ れ 強 化 さ れ た と い う 経 緯 が あ る 。 し た が っ て 本 論 文 は , イ ラ ン の 社 会 構 造 や 労 働 市 場 を 取 り 巻 く 制 度 的 背 景 と 課 題 を 整 理 し た 上 で , そ こ で の 女 性 労 働 の 在 り 様 を 検 討 す る こ と を 目 的 と し た も の で あ る 。

  各 章 の 内 容 は 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。

  第1章 で は , 既 存 の 研 究 を 基 に , イ ラ ン 社 会 に お け る 女 性 の 配 置 と そ の イ ラ ン 的 特 徴 を 検 討 し た 。 革 命 後 の イ ラ ン で は , 社 会 統 合 論 理 の 正 当 性 を イ ス ラ ー ム に 求 め つ つ , 二 っ の ス ロ ー ガ ン 「 被 抑 圧 者(m08tazafin)の 解 放 」 「 自 立 経 済(esteqlil‑e eqte8adiも し く はkhod ka伍 ーl) の 実 現 」 を 掲 げ て 社 会 建 設 が 進 め ら れ た 。 そ う し た 独 特 の 内 的 発 展 論 理 の も と , 革 命 後 一 ー 特 に 近 年 の 特 徴 と し て − ― イ ス ラ ー ム ・ フ ェ ミ ニ ズ ム の 勃 興 が 看 取 さ れ て い る 。 こ う し た 動 き は , 現 代 イ ラ ン の イ ス ラ ー ム 体 制 が , そ の 枠 内 に お け る 対 話 と 変 化 を 是 認 す る も の で あ る こ と の 証 左 で あ る 。

  ま た 女 性 の 社 会 的 配 置 に つ い て も , イ ス ラ ー ム . ベ ー ス の 社 会 関 係 を 保 持 し つ つ , そ れ が も つ 旧 来 の 「 家 父 長 的 」 「 父 権 的 」 「 ( 女 性 が ) 従 属 的 」 と い っ た イ メー ジ と は 異 な る実 態 が 明 ら か と な っ て い る 。 そ れ は 例 え ぱ , 高 等 教 育 と 結 婚 市 場 と の 連 動 や , 結 婚 契 約 に お け

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る 女 性 側 か ら の 積 極 的 な ネ ゴ シ エ ー シ ョ ン な ど に 象 徴 的 で あ る 。 ま た , 女 性 の 潜 在 能 カ の 高 ま り に よ っ て , バ ー ス コ ン ト ロ ー ル な ど , 私 的 領 域 に お け る 彼 女 た ち の 裁 量 も 高 ま っ て お り , か か る 動 向 は イ ラ ン に お け る シ ー ア 派 イ ス ラ ー ム の 受 容 と 無 関 係 で は な い 。   一 方 で , 労 働 市 場 へ の 女 性 の 参 入 に つ い て は 厳 し い 状 況 に あ る と 言 え る 。 こ れ は 性 別 役 割 規 範 の 存 在 も さ り な が ら , 人 口 圧 カ の 高 ま り と 厳 し い 国 際 関 係 に よ る 経 済 活 動 の 冷 え 込 み な ど , 社 会 構 造 上 の 問 題 も 非 常 に 大 き く 作 用 し て い る 。

  第2章 で は , イ ラ ン の 労 働 市 場 を 取 り 巻 く 制 度 的 背 景 と そ こ で の 課 題 を 概 観 し , 問 題 点 の 把 握 を 進 め た 。 労 働 市 場 の 構 造 的 な 問 題 と し て の 労 働 供 給 の 過 多 , そ し て イ ス ラ ー ム と 巨 大 産 油 国 と い う 要 素 が , 政 治 ・ 経 済 か ら 文 化 ・ 社 会 関 係 ・ 規 範 に 至 る ま で 様 々 な 影 響 を 与 え て い る 様 子 に つ い て , 教 育 内 容 や 法 制 度 , 人 口 動 態 な ど の 関 連 イ ン デ ィ ケ ー タ , そ し て 経 済 制 裁 の 概 要 と , 以 上 へ の 対 応 策 と し て の 5カ 年 計 画 に 注 目 し た 。   そ の 結 果 , イ ラ ン で は 革 命 以 前 の 社 会 統 合 論 理 へ の ア ン チ テ ー ゼ と し て , 人 的 資 源 の 配 置 論 理 が 見 直 さ れ , そ れ は イ ス ラ ー ム 的 観 点 に よ る 弱 者 保 護 を 意 図 す る も の と い う 特 徴 を 明 ら か に し た 。 そ の 結 果 , 女 性 に 関 し て は 「 母 性 」 が 第 一 義 で あ り , か つ 「 保 護 さ れ る べ き 存 在 」 と し て 配 置 す ぺ く 法 的 枠 組 み が 整 備 さ れ て い る 。 ま た 職 場 を 司 る 論 理 に つ い て も ,

「 労 働 者 お よ ぴ 弱 者 保 護 の 徹 底 」 と い う イ ラ ン 革 命 の 影 響 が 看 取 さ れ る 。   他 方 で , イ ラ ン 労 働 市 場 が 直 面 す る 課 題 に つ い て は , 労 働 供 給 量 の 増 加 へ の 対 応 策 と し て ,5カ 年 計 画 各 期 に お い て 新 規 雇 用 創 出 策 が 推 進 さ れ た 。 し か し 人 口 圧 カ の 高 ま り , 政 策 パ ッ ケ ー ジ の 整 合 性 の 欠 如 , そ し て 経 済 制 裁 と い う 極 め て 制 約 的 な 要 件 の 強 化 な ど に よ っ て , 各 期 に お け る 雇 用 創 出 策 は 目 標 値 達 成 ま で に は 至 っ て い な い 。   か か る 諸 問 題 に 対 し て , 第3章 で 実 際 の 労 働 市 場 が イ ラ ン の 現 状 を ど の よ う に 認 識 し , 対 応 策 を 見 出 し て い る の か を 検 討 し た 。 ま ず は 雇 用 者 側 へ の イ ン タ ビ ュ ー を 通 し て , 制 度 に 関 す る 認 識 や 市 況 お よ び 企 業 活 動 全 般 に 関 す る 認 識 を 確 認 し , 政 策 や 経 済 制 裁 が 現 在 の 労 働 市 場 に ど の よ う な 影 響 を 与 え て い る か を 検 討 し た 。 そ の 上 で , 景 気 の 影 響 を 受 け や す く 労 働 者 の 流 動 性 が 高 い 業 種 と し て タ ク シ ー ド ラ イ バ ー に 着 目 し , 彼 ら へ の イ ン タ ビ ュ ー を 通 し て , 市 況 が 労 働 者 に 与 え る 影 響 や イ ラ ン 労 働 市 場 の 分 節 構 造 を 考 察 し た 。   以 上 か ら , 労 働 者 保 護 の 理 念 と 労 働 需 給 の 逼 迫 , そ し て 景 気 の 悪 化 と が 相 ま っ て , む し ろ 労 使 双 方 に 猜 疑 心 を も た ら し て い る と い う 皮 肉 な 現 実 が 明 ら か と な っ た 。 他 方 で , か つ て は 一 般 的 で は な か っ た 正 規 職 の 流 動 性 も 看 取 さ れ つ っ あ る 。 ま た , 雇 用 者 に よ る 女 性 労 働 者 の 認 識 か ら は , 一 見 す る と ス テ レ オ タ イ プ と 思 わ れ る 女 性 観 が 逆 説 的 に 女 性 の 労 働 市 場 参 入 を 促 進 し て い る 様 子 も 確 認 さ れ た 。 制 裁 下 の 経 済 活 動 に つ い て は , 迂 回 ル ー ト の 確 保 や 決 済 通 貨 の 変 更 で 対 応 し て い る 様 子 が 確 認 さ れ , さ ら に 革 命 以 前 か ら 営 業 を 続 け る 企 業 か ら は , 政 治 的 孤 立 に よ っ て 同 国 に お け る 企 業 活 動 が 翻 弄 さ れ 続 け た 経 緯 が っ ま び ら か に な っ て い る 。 一 方 で 労 働 者 側 , 特 に 市 況 や 逼 迫 す る 労 働 需 給 の 影 響 が 看 取 さ れ や す い タ ク シ ー ド ラ イ バ ー に 視 点 を 転 じ て み る と , 同 国 経 済 の 行 き 詰 ま り が 如 実 に 反 映 さ れ る 結 果 と な っ た 。 こ の こ と か ら , 労 働 市 場 の 階 層 構 造 と , 分 節 化 さ れ た 労 働 市 場 の 階 層 間 の 上 方

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移 動 が 容 易 で な ぃ こ と が 推 測 さ れ る 。

  第4章 で は , 新 た な 潮 流 の 中 で 出 現 し つ っ あ る 労 働 者 群 の 典 型 例 で あ る 女 性 の ホ ワ イ ト カ ラ ー 層 に 着 目 し , 彼 女 達 へ の イ ン タ ビ ュ ー を 基 に , 労 働 市 場 を 中 心 と し た イ ラ ン 女 性 が 関 わ る 領 域 に つ い て , 現 代 的 特 徴 の 解 明 を 中 心 課 題 と し て 検 討 し た 。   そ の 結 果 , 近 年 イ ラ ン で 勃 興 し つ っ あ る 女 性 ホ ワ イ ト カ ラ ー 層 の 特 徴 と し て , 階 層 性 の 中 で 培 わ れ た 社 会 関 係 が 重 要 な 意 味 を 持 つ こ と が 明 ら か に な っ た 。 す な わ ち , 「 よ り 良 い 生 活 へ の ア ク セ ス 権 」 を 得 る た め に , 親 世 代 か ら の 階 層 の 高 さ が 第 ー の 鍵 と な り , そ れ を 持 続 さ せ る た め に 第 二 の 鍵 と し て 教 育 と 結 婚 が 重 要 な 要 素 と な る 。

  か か る 状 況 は , 独 自 の 論 理 に 拠 る 経 済 ・ 社 会 発 展 の 途 を 模 索 す る 現 代 イ ラ ン を 象 徴 す る も の で あ る 。 す な わ ち , 既 存 の 社 会 関 係 や 性 別 分 業 規 範 を む し ろ 積 極 的 に 活 用 す る こ と で 様 々 な ラ イ フ コ ー ス 選 択 が 可 能 と な る 。 本 論 文 で は , 女 性 ホ ワ イ ト カ ラ ー 層 の 動 向 を 通 じ て , 彼 女 達 が 人 生 そ れ ぞ れ の ス テ ー ジ で 職 場 ・ 学 校 ・ 家 庭 ・ 地 域 社 会 な ど 多 様 な 空 間 に お け る 自 己 実 現 を 日 指 す 様 子 を 描 写 し た 。 こ れ こ そ が , 新 中 間 層 世 帯 に 育 っ た 高 学 歴 女 性 の 典 型 的 な 行 動 パ タ ー ン の ー っ と 言 え よ う 。

  以 上 を 基 に , 終 章 に て イ ラ ン に お け る 性 別 役 割 規 範 は 女 性 の 活 動 に 制 約 を 加 え る 側 面 だ け で は な く , 場 合 に よ っ て は 女 性 の 人 生 の 選 択 肢 の 幅 を 広 げ る 可 能 性 に つ い て 論 じ た 。 そ れ は 女 性 自 身 が , イ ス ラ ー ム ・ べ ー ス の 男 女 像 が も た ら す 「 女 性 ら し さ 」 「 女 性 観 」 を む し ろ 積 極 的 に 活 用 し て い る こ と , そ し て , 「 女 性 ら し さ 」 に 安 堵 感 を 覚 え る 経 営 者 が 少 な く な い と い う 事 実 よ り 指 摘 し う る 。 か か る 状 況 は , 国 家 に よ る 共 同 体 イ メ ー ジ の 固 定 化 が 生 ん だ 皮 肉 な 捻 じ れ 現 象 と も 言 え る だ ろ う が , そ の 反 面 , 女 性 自 身 に よ る 能 動 的 か つ 戦 略 的 な 行 動 の 産 物 で あ る 点 も 評 価 す ぺ き で あ る 。

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学位論文審査の要旨 主 査 . 教 授    宮 本 謙介 副査   准教授   高井哲彦 副査   准教授   樋渡雅人

学 位 論 文 題 名

現代イランの女性労働

     本研究は、イラン・イスラーム世界における女性労働の特質を、現地実態調査に 基づくオリジナルデータを中心に解明したものである。まず序章で課題設定の問題関 心と分析のフレームワークが示されている。現代イランにおける女性就業の特徴を見 るには、労働市場の需給構造を規定する社会制度・社会規範の作用に注目すべきこと が強調される。っまルイスラーム.べースの社会統合論理が、イラン革命後どのよう に制度化され、それが時代とともにどのように変化しているか、それに規定されて女 性労働市場がどのようなイラン的特質をもって形成されているのかを検討すること、

こ れ が イ ラ ン の 女 性 労 働 の 現 状 と 将 来 展 望 を 分 析 す る カ ギ で あ る と い う 。    本研究は、先行の研究蓄積が極めて乏しい西アジア・イスラーム世界の女性労働を 対象とした先駆的業績であり、外国人による現地調査が厳しく規制されている中、ペ ル シ ャ 語を 習 得し て 筆 者自 身が現 地で収集 したオリ ジナルデ ータも貴 重である 。    論 文の第1 章 ・第 2 章で は、既存の 先行研究 やマクロデータ・法制度などの検討を 通 して、現 代イラン の社会制度に占める女性の位置と労働環境を俯瞰している。第1

.章「現代イランの社会構造:女性の配置とその特徴」では、革命後のイランの女性の 社会的位置について検討している。イランの革命体制は、社会統合論理をイスラム理 念に求めながら、自立的社会経済建設を進め、その大枠の中で社会変容をも是認する ものとなっていること、また女性の位置も「家父長的支配下にある」「家庭内に閉じ こもる存在」という一般のイメージとは大きく異なる実態があり、高等教育への女性 進学率の飛躍的上昇(男性のそれを上回る)と高学歴者の「婚姻市場」における女性 の 積 極 的 行動 な ど 、女 性 の社 会 的 位置 を 変化 さ せ る動 向 に 注目 す べき と 言 う。

   第 2 章「制度 ・政策・ 経済制裁」では、女性の社会的位置の変化が労働市場におい てどのように作用しているのかを問うている。革命後の家族関連法、労働法などの法 整備の中で、女性についてもイスラーム的弱者の観点から、家庭内における母性を第

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一義として、労働市場への参入に制限をくわえていること、同時にイラン労働市場全 体が、若年労働力中心の構成ゆえに需給逼迫し、革命後の5 カ年計画各期の雇用創出 政策が限定的効果に止まること、それに国際的な経済制裁による市場の退縮が加わり、

と く に 女 性 の 参 入 し う る 労 働 市 場 も な お 厳し い 環 境に あ るこ と が 示さ れ る。

   第3 章・第 4 章が筆者自身の現地調査で収集したデータに基づく分析である。上述 の厳しい労働環境の中でも、女性労働の底流に変化の兆しを捉えている。第3 章「労 働市場に見るイラン的特徴」では、調査企業(12 社)の経営者へのインタビュー調査 によって、雇用主が労働市場を取り巻く諸制度をどのように認識しているかを検討し ている。労働法が過剰に労働者保護的であるため、正規での雇用に慎重で、有期雇用 が市場の流動性を高める要因になっていること、概ね女性の職場進出を歓迎するが、

契約期間や処遇を制限して周辺部的な職務に配置するのが一般的であること、女性の 労働市場参入とイスラーム的女性保護の観点を両立させようとする企業サイドのスタ ンスを捉えている。また、タクシードライバーへのインタビューでは、高学歴者の雇 用環境が厳しい中で、安定的で高収入の就職が困難であることから、典型的な待機場 所として選択されている職種であり、また女性のみを顧客とする女性ドライバーが急 増して、男性が独占してきた職種への女性参入の好例ともされている。フオーマルセ クターにおける労働市場の需給逼迫と流動性の高さが検証されるとともに、イスラー ム的社会規範を維持しつつ、それをむしろ活用して女性が労働市場に参入するという 社会変化にも注目している。。

   第4 章「女性労働者のライフコースと職務意識:テヘラン市ホワイトカラー層の事 例分析」は、経済発展とともに生起する新興社会階層としての「新中間層」に着目し、

女性ホワイトカラー(32 名)へのインタビュー調査を基に、高学歴女性の就労実態を 分析している。性別役割規範に基づく女性就労といえば、男性とは空間的に分離され た職場(女性向け女性医療従事者、女性教育向け女性教員など)が典型とされてきた が、本章では男女が競合する職種を対象とし、新興の女性労働市場の形成を捉えてい る。女性ホワイトカラーの労働市場への参入には、高学歴・上層世帯出身という社会 関係の階層性、高等教育修了という女性自身の学歴水準が重要な要素であり、さらに 就労を継続するには高学歴男性との家族形成が重要な要件となっている。これらの要 件を満たすならば、イスラーム的社会規範や性別分業規範をむしろ積極的に活用しな がら、様々なライフコースの選択が可能となる。っまり高学歴女性たちは、地域社会 や家庭内で女性(母性)としての役割を果たしながら、同時に労働市場にも参入し、

社会制度的に許容される範囲内ではあるが、様々な業種・職種での就労が可能となっ ている。近年急速に進むイラン女性の高学歴化は、新たなライフスタイルとキャリア アップを志向する女性を生みだし、イラン的社会慣行・雇用慣行を内部から変化させ るモメントにもなると言う。この章では、イラン的性別役割規範の枠組みの中に止ま りながら、イラン的社会慣行を壊すというよりも、むしろそれを積極的に活用して、

イラ ン 的な 新 中 間層 の 女性 労 働 市場 が 形 成さ れ つっ あ る ことに注 目している 。    本研究の評価すべき点は、以下の3 点に集約できる。

   第1 に、先行研究の整理およびマクロ経済統計・開発政策・労働関連法規の詳細な 検討から、イラン労働市場を取り巻く制度的背景が明らかとなっていることである。

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イスラーム法をべースとする強固な性別役割規範の中にありながら、女性の社会的位 置が変化しつっあることが示されている。

   第2 に、企業経営者へのインタビュー調査から、雇用方針・人事管理などを通して 労働市場認識が提示され、女性労働市場における就労制約が企業レベルから照射され ていることである。

   第3 に、高学歴女性のホワイトカラー労働者の就労実態の調査から、新中間層出身 の女性たちが参入する新興労働市場の性格を検討したことである。家庭・地域社会に おけるイスラムベースの女性特有のポジションを維持しつつ、既存の社会慣行を活用 しながら同時に労働市場にも進出する革新的女性像が提示されている。こうした実証 研 究 は 、 先 行 研 究 に は 皆 無 で あ り 、 当 該 研 究 分 野 へ の 貢 献 は 実 に 大 きい 。    今後の課題としては、筆者も指摘しているように、女性労働市場の全体像を捉える ために、本研究でカバーできていない業種・職種の女性労働について調査を積み重ね る必要がある。例えば、下位労働市場(低学歴・不熟練の製造業生産職やサービス業 など)に参入する女性がイラン的な性別役割規範の中でどのような就労制約を受けて いるか、それが産業高度化とともにどのように変容しつっあるのか、といった課題で ある。本研究によって詳細な文献研究と労働関係法規等の分析が既に行われているの で、今後現地での実態調査を進めれば研究の完成度は一層増すものと期待できる。

   以上、本研究における未開拓の研究領域への挑戦、論旨の一貫性、独創的な結論を 高く評価し、審査委員は一致して、本研究が博士(経済学)の学位授与に値するもの との結論に達した。

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