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博 士 ( 環 境 科 学 ) 小 森 田 智大

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博 士 ( 環 境 科 学 ) 小 森 田 智大

学 位 論 文 題 名

亜 寒 帯 汽 水 湖 ( 火 散 布 沼 ) に お け る 懸 濁 物 食 二 枚 貝

( ア サ リ : Ruditapes ウ カ ilippinayu7n) の 個 体 群 動 態 が 親 生 物 元 素 (C , N , P , Si) の 循 環 過 程 に 及 ぼ す 影 響

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

沿岸域においては、天然海水中の植物プランクトンおよび粒状態有機物などを主な餌とする ことから、環境に対する負荷および費用対効果の側面からみても持続可能性が高い二枚貝類 の養殖・漁業が行われている(Naylor et al. 2000)。このような天然の生物生産能カを基盤とし た採貝漁業は、主に基礎生産能カの高い汽水域で行われることが多く、汽水域を含む様々な 海域において持続可能な漁業を営むための調査・研究が行われている。本研究の対象種であ るアサリ(Ruditapes philippinarum)は、北半球を中心とした世界各国で生息が認められており、

漁業種としても重要視されている。日本でも全国的にアサリ漁は行われているが、1986年の16 万 トンを最大値として、その後漁獲量は急激な減少傾向を示し、2004年には3万6千トンと 1986年の23%に至った。アサりの漁獲量の減少に対して国内における需要がほば一定である ため、アサりの国内自給率は1995年以降40%程度の割合にまで低下している。このようなアサ リ漁獲量の急激な減少については、各海域における要因が複雑に絡み合っているため、その 回復を図るために、野外におけるアサリ個体群に関する基礎的な知見が必要とされている。

これまでの二枚貝類に関する研究は、主に物質循環(摂餌、排泄、栄養塩類の再生産)に焦 点を当てたものと、個体群動態(浮遊幼生、新規加入、二次生産)に焦点を当てた研究例があ り、それぞれの専門領域に関する問題意識から個別に研究されてきた。そこで、本研究では、

埋 在性懸濁物食二枚貝類であるアサりについての、個体群動態の特徴およぴ物質循環過程 の特徴を包括的に評価することを目的とした。

本 論文は、北海道東部に位置する汽水湖(火散布沼)において、埋在性二枚貝類であるア サりを対象として行われた研究であり、以下の構成からなる。個体群動態に関する研究の中で、

浮遊幼生期間については、約1週間間隔で、その密度を調査し、浮遊幼生の水平分布に対し て、物理およぴ生物的要因が与える影響を明らかにした。着底期間については、日本の他の 海域に生息するアサリ個体群の死亡率、成長率、着底期間、1日当たりの死亡率およぴ温度     ―999―

(2)

条件を比較することで、亜寒帯に生息するアサリ個体群の特徴を明らかにした。次に、個体群 動態と物質循環過程をっなぐ研究として、高密度のアサリ個体群が形成されている調査定点に おいて、各種環境要因(光、温度、栄養塩類)、餌資源としての微細藻類現存量(植物プランク トンおよぴ底生微細藻類)およぴアサりの二次生産量の季節変動パターンに関する調査を2年 間に渡って実施した。この結果をもとに、アサりの主要な餌資源を推定し、アサりによる生物生 産(摂餌および排泄)が餌となる基礎生産者に対して、具体的にどのような作用を持っているの かを検討した。さらに、沼口部における夏季の栄養塩類の収支計算およぴアサりによる潜在的 排泄量の推定から、基礎生産者との間における物質循環過程についての定量的な評価を行つ た。最後に、個別に挙げた各章の特徴をまとめることにより、懸濁物食二枚貝類の個体群動態 が物質循環過程に対して与える影響を明らかにした。

    アサりの浮遊幼生は、秋季に出現し、数週間で着底期に入った。この時、浮遊幼生の分布 には水塊構造(物理的作用)と生物的要因(餌資源)の両方が重要であり、浮遊幼生の餌とし ては、植物プランクトンを起点とした微生物食物網である可能性が示唆された。着底後、他の 海域と比較したところ、温度に依存して稚貝の成長が抑制される一方で、1日当たりの死亡率も また抑制されることを明らかにした。これは、補食や種間競争などの様々な生物的死亡要因が 低減するためであることが考えられた。そのため、着底期という底生動物にとっての脆弱な期間 に 韜い て も 、 他の 海 域 と比 べ る と半 分以 下の死 亡率を維 持するこ とが可 能であっ た。

    本フイールドは、比較的水温およぴ気温などの気象条件が冬季には厳しくなることから、成 員になってもなお、二次生産量は温度に依存し、着底期と同様に密度の変化は比較的小さく、

安定して減少していった。密度が安定することで、個体群が多くのコホートによって形成された。

そのため、高い生物量を基礎とした、高い生物生産(二次生産)が確認された。これらの結果と して、夏季においては、温度の上昇に応じて二次生産量が上がることにより、餌となる底生微細 藻類の現存量を減少させることが確認された。その一方で、生物活性の高まりに伴う、栄養塩 類の再生産によって、底生微細藻類の光合成速度を向上させる可能性が示された。定量的な 推定によると、アサりによる栄養塩の再生産量の52〜92c}'oを底生微細藻類が利用している可 能性 が示され 、埋在性 二枚員 類による 栄養塩 類の再生 産過程 の特徴を 浮き彫りにした。

    以上に示した様に、二枚貝類という低コストでありながらも環境に対する負荷が比較的小さ い資 源を持続 的に活用するためには、本研究で示した個体群動態およぴ物質循環過程の観 点の双方向からのアプローチが必要不可欠である。

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学 位 論 文 審 査 の 要旨 主査   教授    門谷    茂 副査   教授    仲岡雅裕 副査   准教授   工藤   勲

副査   教授    堤   裕昭(熊本県立大学大学院      環境共生学研究科)

学 位 論 文 題 名

亜 寒 帯 汽 水 湖 ( 火 散 布 沼 ) に お ける 懸 濁 物 食二 枚 貝

(アサリ:Ruditapes ウカ ilippiyzaru7n) の個体群動態が 親 生物 元 素 ( C , N , P , Si) の 循 環 過 程に及 ぼす影 響

    北 半球 を中 心と した 世界 各国 で生 息が 認 めら れており、我が国でも漁業 種として も重要視されているア サり(Ruditapes philippinarum)は、1986年の16万トンを最大値と し て 、 そ の 漁 獲 量 は 急 激な 減少 傾向 を 示し 、2004年 には3万6千ト ンと1986年の23% に 至っ た。 アサ りの 漁獲 量の 減少 に対 して 国 内に おける需要がほぼ一定して いると考 え ら れ る た め 、 ア サ り の国 内に おけ る 自給 率は1995年以 降40%程 度の 割合 にま で低 下 して いる 。こ のよ うな アサ リ漁 獲量 の急 激 ぬ減 少については、各海域にお ける要因 が 複雑 に絡 み合 って いる こと が予 想さ れる 。 その 資源回復を図るために、野 外におけ るアサリ個体群に関す る基礎的な知見が必要とされている。

こ れ ま で の 二 枚 貝 類 に 関す る研 究は 、 主に 物質 循環 (摂 餌, 排泄 ,栄 養塩 類の 再生 産)と、個体群動態( 浮遊幼生,新規加入,二次生産)に焦点を当てた研究例があり、そ れ ぞ れ の 専 門 領 域 に 関 する 問題 意識 か ら個 別に 研究 され てき た。 野外 に生 息す る個 体 群 の 維 持 お よ ぴ 管 理 を す る 上 で は 、 浮 遊 幼 生 過 程 か ら 干 潟 堆 積 物 へ の 着 底 後の 生 残 と 、 干 潟 に 形 成 さ れる 個体 群の 成 長過 程に おけ る特 徴を 物質 循環 過程 の観 点か ら 評価 する こと が必 要不 可欠 であ る。 そこ で ,本 学位論文では、埋在性懸濁 物食二枚 貝 類 で あ る ア サ り に つ いて の、 個体 群 動態 およ ぴ物 質循 環過 程の 特徴 を包 括的 に評 価 する こと で、 亜寒 帯の 汽水 湖に おけ る生 物 生産 過程の特徴を明らかにする ことを目 的としている。

本 研 究 は 、 北 海 道 東 部 に 位 置 す る 汽 水 湖 に お い て 、 埋 在 性 二 枚 貝 類 で あ る ア サり を 対象 とし て行 われ た研 究であり、以下の構成か らなる。緒論に続く第2章で は、個体 群 動 態 の 新 規 加 入 過 程 に 関 す る 研 究 の 中 で , 浮 遊 幼 生 期 間 に っ い て 、 約1週 間 間 隔 で そ の 密 度 を 調 査 し 、浮 遊幼 生の 水 平分 布に 対し て、 物理 的要 因船 よぴ 生物 的要 因 が与 える 影響 を明 らか にし た。 第3章 では 、着 底期 間に つい て取 り扱 い 、日 本の他

(4)

の海域に生息するアサリ個体群の死亡率、成長率、着底期間、日平均死亡率および 温度条件を比較することで、亜寒帯に生息するアサリ個体群の特徴を明らかにした。

次に、第4 章では、個体群動態と物質循環過程をっなぐ研究として、高密度のアサリ 個体群が形成されている調査定点において、各種環境要因(光・温度・栄養塩類)、微 細藻類現存量(植物プランクトンおよぴ底生微細藻類)およぴアサりの二次生産量の季 節変動パターンに関する調査を2 年間に渡って実施した。この結果をもとに、アサりの 主要な餌資源を推定し、アサりによる生物生産(摂餌およぴ排泄)が餌となる基礎生産 者に対して、具体的にどのような作用を及ばしているのかを定量的に検討した。第5 章 では、第4 章で得られた基礎生産者とアサりの関係をもとに、沼口部における夏季の 栄養塩類の収支計算および干潟域に生息するアサりによる潜在的排泄量の推定から、

基礎生産者との間の物質循環過程の定量的な評価を行った。第6 章では、沼口部に おいて水質の長期観測を4 年間に渡って行うとともに、夏季と冬季に栄養塩の収支を 見積もった。この結果より,系外からの栄養塩の流入の季節的特徴を示し、冬季にお いては外海水由来の栄養塩類を低温適応した底生微細藻類が利用することにより、

有機物の蓄積が起こり春期以降の二次生産を支えている可能性を見いだした。第7 章では、各章で得られた特徴をまとめることにより、亜寒帯の汽水湖における生物生産 過程の特徴と、二枚貝類の個体群動態が物質循環過程に対して与える影響を定量的 に示すことに成功した。

  

以上の通り、申請者は亜寒帯汽水域における低次生産過程をめぐる物質循環に関 して多数の新知見を得ており、今後の沿岸低次生態系研究の発展に大きな貢献をす ることが期待される。

審査委員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者としての熱意や大学院博

士課程における研鑚などもあわせ、申請者が博士(環境科学)の学位を受けるのに充

分な資格を有するものと判定した。

参照

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