と述べている。 例えば,斜面崩壊では材料(= 風 化 層) は斜面に貯留され (飯田,1996;今村,2007),土石 流では材料 (=崩積物) は渓床に貯留される(今村, 2007)。このように,今村 (2007) は,「山地災害におけ る免疫性の本質は,いろいろな物質の 貯留現象の存 在 に」あり,従って 貯留の限界 に「近づいた時期 から災害発生の 危険時期 にはいると見ることができ る」と述べている。従って, 貯留の限界 に関する研 究を進めることによって,将来起こりうる斜面災害につ いて予測できる可能性がある。このような免疫性・周期 性の検討は斜面の発達史の検討においても重要な課題で あるといわれているが,この視点での研究の蓄積はまだ 少ない (日本応用地質学会,1999)。 本研究は,この視点から,浸食前線 (羽田野,1974) が 明瞭な風化花崗閃緑岩地域を例として,斜面崩壊・土砂 1 .はじめに 斜面崩壊に免疫性あるいは周期性があることについて は,古くから議論がなされてきた (小出,1955,1973)。 ここでいう免疫性とは「一度崩壊した斜面は素因の条件 が再び回復するまで(免疫性の有効期間)は,同じよ うな誘因が作用しても崩壊しない」という特性として定 義される (日本応用地質学会,1999)。最近では,今村 (2007)が富士山大沢の土石流を例として,「大沢源頭部 での土砂の生産が降雨量などの誘因にそれほど規制され ずに,……ほぼ一定であるのに対して,扇状地への土砂 の流出・堆積には6∼8 年の周期性が認められる」こと を挙げ,「大沢からの破局的な土石流出が一度あると次 の破局的な流出までの6∼8 年間は免疫性がある」との 考えを示し,この免疫性の主因は土砂の貯留現象にある
鵜澤 貴文
*・小坂 和夫
**Modes of slope failures and sediments storages under erosion front were studied for a weathered granodiorite area in the northern Yamanashi, central Japan. The study area is topographically characterized by the upper and lower knick lines, the latter representing the active erosion front of the area. Geomorphological and geological surveys reveal that the modes of slope failures and sediments storages are different among three topographical zones: the zone between the upper and lower knick lines is characterized by small-scale slope failures and finer sediments from weathered granodio-rite, whereas the zone under the lower knick line is characterized by small-scale slope failures and detached blocks from jointed granodiorite and also by large-scale debris avalanches. The zone above the upper knick line is characterized as a storage zone of glacial and pre-glacial clastics of Pleistocene and Pliocene ages.
The revealed modes of slope failures and sediments storages in three topographical zones are assumed to be closely related to periods of immunity against disastrous slope failures.
Keywords: erosion front, slope failure, sediments storage, weathered granodiorite, Yamanashi
浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留
―山梨県北部の風化花崗閃緑岩地域における例―
Slope Failures and Sediments Storages under Erosion Front:
An Example from a Weathered Granodiorite Area in the Northern Yamanashi
Takafumi UZAWA
*and Kazuo KOSAKA
**(Received November 16, 2013)
日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要 No.49 (2014) pp.115−141
* Kankyou Chishitsu Co., Ltd. : 4-15-203, 1-Chome, Kaizuka, Kawasaki-ku
Kawasaki, Kanagawa 210-0014, Japan
** Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and
Sciences, Nihon University: 3-25-40 Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan
* (株)環境地質:
〒210-0014 神奈川県川崎市川崎区貝塚1丁目4-15-203
** 日本大学文理学部地球システム科学科:
生産・土砂貯留・土砂流出,および斜面発達の詳細を記 載し,斜面災害の軽減に向けての研究の一助とすること を目的とする。 2 .地形地質概要 2.1 地形概要 調査地域は山梨県山梨市北部三み富とみ (旧東山梨郡三富 村 むら ) の笛ふえふきがわ吹川上流域で,関東山地南西縁部に位置する (図1)。調査地域の北縁は標高2,000∼2,500m程度の急 峻な稜線 (奥秩父連峰),西縁は標高1,300∼2,600m程度 の稜線,東縁は標高1,500∼2,100m程度の稜線で,これ らの稜線が笛吹川上流域の分水嶺を成す。この流域の中 央よりやや東寄りに広瀬ダム・広瀬湖 (湖面標高1,050m 前後)が位置する。広瀬ダム・広瀬湖周辺には土石流危 険渓流箇所・急傾斜地崩壊危険箇所が多数ある (国土交 通省土地・水資源局,2002:山梨県,2005)。 笛吹川に沿う段丘としては,更新世の牧まきおか丘段丘に分類 される城じょう古こ じ寺面(河床からの比高∼100m),請うけ地ぢ面 (河 床からの比高∼20m;木材化石の14C年代は約 3 万年ま えで,中屋ローム層 (Pm-1より上位) に覆われる),完 新世の窪くぼ 平だいら段丘(河床からの比高∼10m;ローム層に 覆われない) がある (大村・手塚,1988)。 笛吹川はこれより南へと流下し,甲府盆地北北東部の 笛吹川扇状地 (斉藤,1988) から盆地中央部を経て,盆地 西部で富士川に合流する (図 1)。 2.2 地質概要 調査地域の地質は主に広瀬花崗閃緑岩(中新世中期 末) である (図 1) (三村他,1984;柴田他,1984)。これ は磁鉄鉱系列花崗岩類であるが,調査地域北東縁 (広瀬 湖北東方約5kmの雁坂嶺∼雁峠) に分布する四万十累 層群との接触部のごく狭い範囲 (幅数百 m) に限っては チタン鉄鉱系列花崗岩類である (Shimizu, 1986)。花崗 閃緑岩に接する四万十累層群はホルンフェルスになって いる (図 1)。四万十累層群のホルンフェルスは調査地 域南端部 (広瀬湖から南南西方の下流に川かわうら浦西ノ平まで の約5kmの笛吹川両岸) にもわずかに分布する (図 1)。 広瀬湖西∼南西方には東山梨火山深成複合岩体 (中新 世後期・鮮新世初期) に属する火山岩・火山砕屑岩・花 崗閃緑岩 (三村他,1984) が分布する (図 1)。広瀬湖下 流の川浦付近の笛吹川河床から徳和にかけては川浦複合 岩体 (中新世後期) が分布する (柴田他,1984)。 これらの基盤岩類の上にはところによりローム層が堆 積する (浜野,1985)。 3 .調査方法 3.1 地形図判読 国土地理院発行1:25,000地形図により地形図判読を 行った。使用した地形図は笛吹川上流から下流へ順に 「金峰山」 (北西部),「雁坂峠」 (北東部),「柳沢峠」 (南 東部),「川浦」 (南西部) の 4 図幅 (以下,順に地形図 A,B,C,D) である (図 1)。判読範囲は,地形図 B「雁坂 峠」図幅南西端部に位置する広瀬湖を中心として,広瀬 湖上流側 (北側) ではダム集水域全域,同下流側 (南側) ではダムからおよそ6km下流の川浦上かみおぎはら荻原までの範囲 の笛吹川集水域とした。判読要素は,水系,遷急線,崩 壊地・地すべり地,緩斜面・平坦面である。 3.2 空中写真判読 国土交通省の国土情報ウェブマッピングシステム (http://nlftp.mlit.go.jp/WebGIS/) か ら 空 中 写 真( カ ラー,昭和51年度撮影,1:15,000) をダウンロードし, 地形図判読範囲内について適宜判読を行った。判読要素 は,遷急線,崩壊地・地すべり地,緩み岩盤,土石流堆 積物地形,段丘面である (表 1)。 3.3 現地踏査 地形図判読・空中写真判読により,斜面崩壊と砕屑物 の貯留とが顕著である広瀬湖周辺・笛吹川近傍 (国道 140号線沿い) で,調査地点を抽出して現地踏査を実施 した。現地踏査では,基盤地質の破断・緩み状況・風 金峰山 国師ヶ岳 甲武信ヶ岳 雁坂峠 長野県 南佐久郡 埼玉県 秩父郡 甲府市 山 梨 市 塩 山 市 広瀬湖 笛吹川 関 東 山 地 甲府盆地へ↓ 三 富 雁峠 雁坂嶺 2289m 1703m 2475m 2373m 2224m 2591m 2599m 2231m 2047m 2031m 1314m 1686m 1336m 1776m 2112m -1050m-A B D C 川浦 徳和 埼玉県 東 京 都 35°50’ 138°45’ 甲府 山 梨 県 山梨市⇒ 富士川 笛吹川 静 岡 県 長 野 県 神奈川県 GD:花崗閃緑岩(広瀬型) GD GD GD Hf Hf : ホルンフェルス Gd Gd:花崗閃緑岩 Hf Pc Pc Pc: 火山砕屑岩 5 km 1:25,000地形図 A: 金峰山 B: 雁坂峠 C: 柳沢峠 D: 川浦 図1 調査地域 (地質分布は産業技術総合研究所地質調査総合センター (2002): 1:200,000地質図幅「甲府」による.)
浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留 の上端を縁取る遷急線を下位遷急線と呼ぶ (図 4,5)。 上位と下位との遷急線が交わる所では,一般に上位遷急 線が下位遷急線の位置でT字型に止まる,すなわち,下 位遷急線が上位遷急線を切る形で分布する (図 4,5)。 遷急線は笛吹川の東側 (ヌク沢−広瀬湖以東,以後, 「東側地域」) では密に分布し,上位と下位との関係も明 瞭であるが,西側(鶏冠谷−広瀬湖以西,以後,「西側 地域」) では東側地域よりも粗で,特に,上位遷急線は わずかである (図 4)。以下,東側・西側地域をそれぞれ 便宜的に北部・中部・南部に分ける (図 4)。両地域共, 北部は広瀬湖の北側,中部は広瀬湖の東西両岸,南部は 広瀬湖の南側である。 c. 崩壊地・地すべり地 地形図の 「がけ (岩)」 で図示 される崩壊地形は西側地域北部 (東沢とその支谷) で密 に分布する。これは花崗閃緑岩の白い岩肌から成る直立 した崖で,国師ヶ岳から甲武信ヶ岳に続く奥秩父連峰 (図1) の景観をつくるが,それ以外の場所では数が少な い。 「がけ (土)」で図示される崩壊地形は,西側地域では 北部・中部 (西沢とその支谷),東側地域では北部 (ヌク 沢・ナレイ沢・久渡沢とその支谷) では北東縁分水嶺 (破不山・雁坂嶺・水晶山・古札山) 直下,中部 (谷渡 川・広川とその支谷) では谷渡川の谷壁と下位遷急線 下,南部では白沢・雷いかづち沢・滑なめり 沢さわを取り巻く下位遷急線 とその直下に多数ある (図 6)。図示された「がけ (土)」 の形状には「ヘアピン状」・「舌状」・「円弧状」・「コの字 状」があり,区域により卓越する形状が異なる (表 2)。 西側地域の北部・中部では急斜面に「ヘアピン状」の 「がけ (土)」が多く,東側地域北部では分水嶺直下の急 斜面に「ヘアピン状」・「舌状」,中部では谷両岸の急斜 面に「舌状」・「円弧状」が多い。南部ではこれら3 つの 形状のものが主に下位遷急線直下の急斜面に密に発達す る (図 5,6)。「がけ (土)」から斜面下方に向けて谷 (一 次谷) が発達する箇所も多い (図 5)。 この他,谷が円弧状に入り不安定化しているように見 られる斜面 (川崎・品川,2006) が特に東側地域の幾つ かの凸形斜面 (鈴木,2000) で認められる。 d. 緩斜面・平坦面 山腹や河床には緩斜面・平坦面 が分布する。山腹にある緩斜面は谷の発達が悪く,その 意味で山頂小起伏面に似た特徴を呈する。西側地域中部 にある緩斜面は現河床 (アザミ沢・京の沢) から比高 100m程度の位置 (標高 1800m−∼1900m+) にある (図 7A)。広瀬湖の東西両岸では西側 (=西側地域中部) が 比較的急な斜面であるのに対して,東側 (=東側地域中 部) は比較的緩やかな斜面で,そこに数段の平坦な尾根 化,および,被覆層・堆積物の特徴に着目して,観察・ スケッチ・写真撮影を行った。 4 .調査結果 4.1 地形図判読結果 a. 水系 水系は,判読範囲全域にわたって概ね亜樹 枝状を呈する (図 2)。調査地域の主体を成す花崗閃緑 岩地域では,水系密度が比較的低く線分状の小谷が卓越 して枝分かれの少ない水系 (「水系A」) と水系密度が比 較的高く屈曲した小谷が卓越して枝分かれの多い水系 (「水系B」) とが認められる (図 3)。北東縁のホルンフェ ルス地域および南西縁の火山砕屑岩地域では水系密度が 比較的低い (図 2,3)。水系の上流側末端部 (谷頭部) に は「がけ (土)」の表記 (表 2) がある箇所が多く,他方, 下流側末端部 (合流部) では等高線が合流部 (下流側) に 向かって凸で等高線間隔が広く,緩斜面と判読される箇 所が多い。 b. 遷急線 判読範囲には傾斜10°前後の比較的緩やか な斜面 (「緩斜面」),傾斜45°前後の比較的急な斜面 (「急 斜面」),両者の中間で傾斜30°前後の斜面 (「中斜面」) が ある (図 4)。緩斜面は起伏が穏やかで谷の発達が悪い 山頂小起伏面が主であるが,それ以外の緩斜面も若干あ る。急斜面では谷が密に発達して襞状を呈する (写真 1A)。緩斜面と中斜面との境界線,中斜面と急斜面との 境界線が遷急線であり,地形図では等高線間隔が比較的 広くてより明るく見える領域と等高線間隔が比較的狭く てより暗く見える領域との境界線として認められる (図 5)。中斜面の上端を縁取る遷急線を上位遷急線,急斜面 表1 空中写真の判読基準 判読要素 判読基準 遷急線 上部がより緩傾斜,下部がより急傾斜である 傾斜変換線.浸食や崩壊の痕跡を伴う遷急線 を浸食前線と見なす. 崩壊地 斜面にあって植生が無く花崗閃緑岩の白い地 膚の認められる箇所. 地すべり地 滑落崖,移動域,堆積域が認められる円状な いし長円状の地形. 緩み岩盤 尾根のうち,下部では押出し地形,側部では 急な斜面を伴う谷,頭部では段差あるいは緩 斜面のいずれもが認められるもの. 土石流 堆積物地形 沢の出口に存在する水平ないし緩傾斜の平坦 な面で,同じ沢および他の支流・本流に続く 平坦面 (段丘面) がないもの. 段丘面 笛吹川およびその支流の河岸に連続的あるい は断続的に続く緩傾斜面.
破風山 雁坂嶺 水晶山 古札山 倉掛山
1 km
雁峠 広 瀬 湖 白 沢 円 川 釜 沢 滑 沢凡例
谷底緩斜面
東側地域
西側地域
(北部)
(北部)
(中部)
(中部)
(南部)
(南部)
広 瀬 湖 Hf Hf Gd Pc Pc Hf Pc Gdホルンフェルス
火山砕屑岩
花崗閃緑岩
Hf Hf Pc Pc 白地花崗閃緑岩
A B
D C
図2 水系図 調査地域には主に花崗閃緑岩が分布する(白抜き部).西側地域・東側地域の区分は図4に基づく. (国土地理院発行 1:25,000地形図 A「金峰山」(昭和61年10月30日発行),B「雁坂峠」(昭和61年 11月30日発行),C「柳沢峠」(昭和62年1月30日発行),D「川浦」(平成元年8月1日発行)使用)浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留 の下方斜面に集中している (鵜沢他 (2012) の図 1)。 d. 土石流堆積物地形 沢沿いや沢の出口にある平坦 ∼緩斜面の地形で同じ沢および他の支流・本流に続く平 坦面 (=段丘面) がないものを土石流堆積物の地形とし て識別した。空中写真により判読できる程度の広がりの あるものは2 地点 (広瀬湖下流の白沢の沢出口と円つぶら 川かわ, 東側地域南部,地形図C「柳沢峠」内)で認められる (図9)。 e. 段丘面 笛吹川河岸の平坦な面は主に2 面判読で きる (図 9)。下位の段丘面 (Tr2) は中位の段丘面 (Tr1) より面積が小さい。概してTr1の方がより傾斜し,Tr2 の方がより傾斜が緩やかである。一部に,Tr1より高い 位置にも平坦面がある。また,笛吹川に合流する多くの 支流には段丘面・土石流堆積物がつくる平坦∼緩傾斜の 地形面がない。判読範囲の南方には,これらに連続する 中位段丘面と下位段丘面,さらに上位段丘面がある。 4.3 現地踏査結果 現地踏査を行った地点を図10に示す。 a. 基盤岩 節理:花崗閃緑岩体には鉛直∼急傾斜で北北東走向, 北西走向の節理が卓越する。前者は数十cm∼数m間隔 で発達しており,各所で沢の流路がこれに従う(写真 3A・B)。節理に沿って沢などの微地形が発達するとこ ろもある。節理には,開口,根系の侵入,裂罅水,マサ 化・粘土化が認められる(写真3C・D)。 ラミネーションシーティング:ラミネーションシー が発達する (写真 2)。その東方にも山頂小起伏面に続く 緩斜面がある (図 7B)。河床付近にある緩斜面・平坦面 は水系の発達が悪く,東側地域の「水系B」に比較的多 く 分 布 す る (図 7C)。大平高原の平坦面は火山砕屑 岩 (大おお 平だいら溶結凝灰岩:層厚1,000m+,年代4.5∼5.1Ma; 三村他,1984,柴田他,1984) の分布域にある (図 7D)。 4.2 空中写真判読結果 a. 遷急線 斜面の傾斜角度がある線を境界にして上 側がより緩やか,下側がより急な場合,この境界になる 線を遷急線として判読した。空中写真では遷急線は1 つ の斜面 (尾根から下って谷底に至る斜面) で 1∼数本認 められる。地形図判読結果同様,上位遷急線は下位遷急 線のところでT字型で止まっており,下位遷急線が上位 遷急線を切って走る形を呈する。一般に,上位遷急線で は緩斜面と中斜面とが接する部分が丸くて角がなく,下 位遷急線は角があって直下の急斜面が切り立っている。 b. 崩壊地・地すべり地 調査地域北部・中部 (=広瀬 ダム集水域) における地すべり地形その他の斜面崩壊地 形の分布を図8 に示す。全体的な分布の特徴は地形図判 読結果 (図 6) と一致するが,崩壊の発生箇所として, 調査地域北縁の山稜直下における崩壊,遷急線の直下に おける崩壊,および,林道の直上・直下における崩壊の 3 種が主なものとして認められる (瀬崎他,2011ab)。 c. 緩み岩盤 緩み岩盤は,凸状尾根地形 (渡,1992) に注目し,頭部の段差地形,側部の谷地形,末端の押出 し地形などの特徴によって判読した。緩み岩盤は遷急線 破風山 雁坂嶺 水晶山 古札山 倉掛山
1 km
雁峠 広 瀬 湖 白 沢 円 川 釜 沢 滑 沢東側地域
西側地域
(北部)
(北部)
(中部)
(中部)
(南部)
(南部)
広 瀬 湖Hf
Hf
Qd
Pc
Pc
Hf
Pc
Qd
ホルンフェルス
火山砕屑岩
石英閃緑岩
Hf
Hf
Qd
Pc
Pc
白地
花崗閃緑岩
1 km
広 瀬 湖(北部)
(中部)
水系 A
水系 B
(南部)
Hf: ホルンフェルス 図3 花崗閃緑岩地域における水系の2 つの型 水系A:水系密度が比較的低く線分状の小谷が卓越して枝分かれが少ない. 水系B:水系密度が比較的高く屈曲した小谷が卓越して枝分かれが多い. (本図は東側地域中部の水系の例)破風山 雁坂嶺 水晶山 古札山 倉掛山
1 km
雁峠下位遷急線
上位遷急線
急斜面
西 沢 東 沢 ヌ ク 沢 鶏 冠 谷 白 沢 滑 沢 円 川 アザミ沢 京の沢緩斜面
中斜面
下位遷急線
凡例
がけ(土)
西 沢 東 沢東側地域
西側地域
(北部)
(北部)
(中部)
(中部)
(南部)
広 瀬 湖 Hf Hf Gd Pc Pc Hf Pc Gdホルンフェルス
火山砕屑岩
花崗閃緑岩
A B
D C
図4 緩斜面・中斜面・急斜面と遷急線浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留 ティング (藤田,2003) がところにより認められる。広 瀬湖の上流の西側地域と東側地域との境界部付近 (西 沢,東沢,ヌク沢,ナレイ沢が笛吹川に合流するあた り)では特に連続的かつ顕著に発達する。ラミネーショ ンシーティングは直上の風化面 (土壌層) にほぼ平行に 発達するが,斜面に沿ってほぼ平行に密に発達するもの とその下方のほぼ水平なものとの2 方向のラミネーショ ンシーティングがある場合もある (写真 4)。 緩み岩盤:風化花崗岩類の緩み岩盤の概念図および詳 細図は鵜沢他 (2012) に示されている通りである。流れ 盤斜面と受け盤斜面とでそれぞれに特徴的な斜面の崩れ 方がある (図11)。 流れ盤の緩み(露頭ls-1:東側地域中部谷渡川:林道 沿いの切土) (写真 5):節理は開口し,あるいは,ずれ を伴いプルアパート構造が形成されている。岩盤の上端 部は植生に覆われていて亀裂・開口を観察することがで きないが,その上は角礫状基盤岩片・土壌に覆われ,そ の上面 (地形面) は階段状を呈し,根曲がりした樹木が ある。岩盤の一部は灰∼茶色を呈する板状部とそれを挟 む優白色細粒部とから成り,熱水変質の見かけを呈す る。この部分は周囲の岩盤より割れ目が多く,節理間隔 が狭い (数cm間隔)。また,割れ目周辺の岩石が粘土化 している。 受け盤のトップリング(露頭ls-2:東側地域中部谷渡 川:切土斜面) (写真 6):緩み岩盤中部は節理が開口 し,これに垂直の亀裂によって,柱状の岩片が斜面下部 にずれている。節理を梯子状に繋ぐ割れ目は開口してお り (写真 6A, B, C),ブロックトップリング (上野 (2012) に引用されたGoodman and Bray (1976) の用語) の形態 を示す。緩み岩盤の末端部は破壊されて,岩片状を呈す る(写真6C)。緩み岩盤の上面は土壌がなく,角礫状 岩片が覆う (写真 6D)。この部分の樹木は根曲がりを呈 する。緩み岩盤周囲では薄い土壌層が覆う。この露頭付 近は割れ目が多く,節理系によりブロック化された岩盤 の緩みの進行により,斜面下部のブロックが脱落した形 態を呈するオーバーハングした斜面が多い (写真 7)。 直立した板状節理の曲げ(露頭ls-3:東側地域北部ナ レイ沢:支流の谷壁) (写真 8):高さ2.8mの露頭表面は 風化し,ハンマーで叩くと表面はボロボロと崩れるが (木宮 (1975) の基準による「風化花崗岩B」(長石は指 頭で粉砕できるほど風化し,ハンマーで軽くたたくと砂 状となり,岩塊とならない)),その内部自体はある程度 の硬さがある(同「花崗岩B」(ハンマーで軽打したぐ らいでは割れない))。露頭上部は厚さ50cm未満の腐植 土層が覆う。ほぼ鉛直な谷壁をつくる岩盤側面は鉛直な 節理面で,これに平行なほぼ鉛直の節理が二つあり,さ らに奥には2m以上節理がない (写真左半分)。二つの 節理で挟まれた板状部は下に向かって細くなり,楔型を 呈する。このほぼ鉛直な楔形板状部に曲げ構造があり (たわみ性トップリング:上野 (2012) 同上),両側は開 口している。割れ目幅は10cm,土壌との境界では 5cm 程度である。開口部には礫が挟まれ,下部は長さ数 10cm程度の節理の発達によりさらに薄い板状に割れて いる。
がけ(土)
西 沢
東 沢
1 km ← 白沢 傾斜 5~15° 傾斜 40~50° 傾斜 25~35° がけ(土) 下位遷急線 上位遷急線 図5. 等高線に現れた遷急線の様子. 遷急線に沿ってがけ(土)があり,がけ(土)の下側には谷が発達する. 急斜面の水系は「水系A」.中・緩斜面の水系は「水系B」. (倉掛山~白沢:東側地域南部.国土地理院発行 1:25,000地形図「柳沢峠」使用) 「急斜面」 「中斜面」 「緩斜面」 ←円川 凡例 図5 等高線に現れた遷急線の様子 遷急線に沿ってがけ (土) があり,がけ (土) の下側には谷が発達する. 急斜面の水系は「水系A」.中・緩斜面の水系は「水系B」. (倉掛山∼白沢:東側地域南部. 国土地理院発行 1:25,000地形図「柳沢峠」使用) 表2 地形図に示されたがけの分布 西側地域 東側地域 北部 ■ □(ヘアピン状) □(ヘアピン状・舌状) 中部 □(ヘアピン状) □(舌状・円弧状) 南部 (がけの表示は僅か) □(ヘアビン状・舌状・ 円弧状) (地形図で卓越する形状) ■がけ(岩) □がけ(土) ヘアピン状 舌状 円弧状 コの字状 (国土地理院発行 1:25,000地形図「雁坂峠」使用)破風山 雁坂嶺 水晶山 古札山 倉掛山
1 km
雁峠下位遷急線
がけ(土)
西 沢 東 沢 滑 沢 雷 沢 白 沢 広 川 谷 渡 川 久 渡 沢 ナレイ沢 ヌ ク 沢 鶏 冠 谷雨裂
下位遷急線
凡例
東側地域
西側地域
(北部)
(北部)
(中部)
(中部)
(南部)
(南部)
広 瀬 湖A B
D C
図6 崩壊地分布図(地形図判読結果)浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留 b. 被覆層 段丘堆積物:上位段丘面の分布は雷いかづち地区 (写真12) な ど部分的である。中位段丘面には崩積土がのり,緩斜面 になっている場所が多い (図13)。下位段丘面は中・上 位段丘面より連続性がよく,厚い崩積土が載る箇所は少 ない。 土石流堆積物: 空中写真で土石流堆積物地形と判読さ れた地形を現地踏査した。 白 沢 ( 露 頭a-1) ( 写 真13): 白 沢 は 広 瀬 ダ ム 南 方 約 1.5kmの地点(標高 900m) で東から笛吹川に合流する (図2;地形図C「柳沢峠」)。全長約2.5km,平均勾配 約34/100(=(1750m−900m)/2500m; 約18°) の「水系 A」を流れる沢である(図 4,5)。地形図では,沢の集 水域におよそ25の「がけ (土)」と10以上の「雨裂」が 認められ (図 6),土砂生産量が多いことを示している。 白沢出口付近の現河床から約30m上の沢沿いには,円 緩み岩盤の変位率:緩み岩盤の変位率を図12に従い 測定した。測定結果は, 露頭ls-2:(20cm/500cm)×100 =4 (%)(写真 6) 露頭ls-4:(70cm/62.5m)×100 ≒ 1 (%)(写真 9) である。 風化帯:花崗閃緑岩の風化帯は踏査路の各所で認めら れる (写真 10)。谷底に露出する花崗閃緑岩は風化の程 度が弱く,木宮 (1975) の「花崗岩AまたはB」である が,踏査路の山腹に露出する花崗閃緑岩は同「風化花崗 岩A (長石は白濁するが,岩盤としての組織を残してお り,節理面もはっきりしている) あるいはB」である。 尾根付近の斜面傾斜が緩やかな箇所では同「マサA」 (全体が一様に風化して砂状を呈するが,粘土分は少な い) が露出する。マサは厚いところでおよそ30mの厚さ に達する。斜面における風化帯の崩壊は各所で見られる (写真11)。 2000m 1900m 1800m (接峰面等高線)
A
A
D
C
B
A
D
B
500 m
図7 緩斜面の例 (A)急斜面の下にある緩斜面.(地形図A:広瀬湖西方) (B)山頂平坦面とその周辺にある緩斜面.500m接峰面と独立標高点(○)とを示す.(地形図B:広瀬湖北東方) (C) 谷底にある緩斜面.崩積土から成る.(地形図C:広瀬湖南方). (D)山腹にある緩斜面.火山砕屑岩層から成る.(地形図D:広瀬湖南西方).(使用地形図A∼Dは図 2 に同じ)無い堆積構造で,角礫を多く含み,上部に大きさ1m以 上の巨礫が散在する。円川の出口付近には厚さ3m以上 の砂礫層がある (写真 14B)。現地踏査によるこれらの特 徴から土石流堆積物と判定される。この沢の河床に供給 されている砕屑物は,これら半固結∼未固結堆積物が崩 れたものが多い(写真15)。 笛吹川を挟んで対岸の赤の浦集落では1m程度の花崗 閃緑岩礫が集落の緩斜面 (Tr1) に認められる (露頭a-2: 写真16)。このことは,円川またはその北側の沢からの 土石流が笛吹川対岸の赤の浦まで到達し,一時的に笛吹 川を堰き止めた可能性が考えられる。 崩積土:崩積土は調査地域に広く分布する。観察した 6 地点の崩積土について浸食前線付近のものから河床に あるものまで,順に述べる。 浸食前線直下の崩積土 (露頭s-6:東側地域南部白沢) (写真17):浸食前線直下の谷頭斜面に比較的新しい崩 壊跡があり,現在ガリー浸食が認められる (写真17A)。 礫・角礫を含み無層理で,淘汰が悪く上部に巨礫を含む 堆積物が分布する(写真13)。これは,その特徴から土 石流堆積物と判断される。 円 川 (露頭 a-3) ( 写 真14):円つぶら 川かわは 広 瀬 ダ ム 南 方 約 2.5kmの 地 点( 標 高850m) で 東 か ら 笛 吹 川 に 合 流 す る (図 2;地形図C「柳沢峠」)。全長約2.0km,平均勾 配約38/100(=(1600m−850m)/2000m; 約21°) の「水 系A」を流れる沢である (図 4,5)。下流の約1.2kmに 25の堰堤がある(山梨県,2005)。空中写真で土石流堆 積物と判読した堆積面は,笛吹川合流地点から円川の谷 を 埋 め る 形 で800m程 度 連 続 す る 緩 斜 面 (25/100= 150m/600m; 約14°) である。この面は地表に 2m程度の 角張った巨礫が散在する穏やかな斜面である。この堆積 面は縦断方向で穏やかな2 段の面から成る (写真14A)。 上の面の植生 (樹木) は下の面の植生に比べて相対的に 若く,より新しい土石流堆積物が古い土石流堆積物の上 に堆積している。これらの面をつくる堆積物は,層理の 下位遷急線 上位遷急線 破風山 雁坂嶺 水晶山 古札山 倉掛山
1 km
雁峠東側地域
西側地域
(北部) (北部) (中部) (中部) 広 瀬 湖1 km
崩壊地・地すべり地 凡例 下位遷急線 上位遷急線 水系 図8 崩壊地・地すべり地分布図(空中写真判読結果)浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留 (写真18):風化花崗閃緑岩の谷壁斜面に風化生成物が 堆積している。花崗閃緑岩塊の下面にはすべり面があ る。すべり面の上側 ・ 下側の岩塊部には土で充填されて いる開口割れ目がある。一部は正断層のずれを呈し,崩 積土の堆積後も土砂の変位が進行して不安定であると判 断される。 成層構造を持たない崩積土 (露頭s-1:東側地域北部 谷頭・谷壁には風化した節理のある花崗閃緑岩 (「風化 花崗岩B」) が露出する (写真 17B)。谷頭斜面には植生が 少なく,根曲がりを伴う樹木が若干認められる。谷頭斜 面下部は平坦で厚い崩積土 (2∼3m) が堆積している。 この崩積土はほとんどがマサから成り,細∼中礫大の角 礫を含む (写真17C)。 すべり面を伴う崩積土 (露頭s-4:東側地域南部釜沢)
A B
D C
段丘面 1 km図9. 土石流堆積物と段丘面.
10 ~ 30 m 河床からの比高 30 ~ 50 m 50 ~100 m 100 ~150 m 広 瀬 湖 土石流堆積物 破風山 雁坂嶺 水晶山 古札山 倉掛山1 km
雁峠 広 瀬 湖 白 沢 円 川 釜 沢 滑 沢東側地域
西側地域
(北部)
(北部)
(中部)
(中部)
(南部)
(南部)
広 瀬 湖 Hf Hf Gd Pc Pc Hf Pc Gdホルンフェルス
火山砕屑岩
花崗閃緑岩
Hf Hf Qd Pc Pc 白地花崗閃緑岩
A B
D C
s-3 s-7 s-2 ls-3 s-1 s-6 ls-4 s-4 s-5(南部)
(中部)
(北部)
西側地域
東側地域
1 km
ls- 1 ls-2 a-3 a-2 a-1 図9 土石流堆積物と段丘面 図10 現地踏査地点 ls-1(写真 5 ) ls-2(写真 6, 7) ls-3(写真 8 ) ls-4(写真 9 ) s-1(写真19) s-2(写真20) s-3(写真22) s-4(写真18) s-5(写真21) s-6(写真17) s-7(写真23)イ沢の出口付近) (写真20):風化した花崗閃緑岩基盤の 上に,堆積物 (2 層),土層,堆積物,土層の順に重な る。斜面下部の手前側の表面には二次的に堆積したマサ がある。基盤の花崗閃緑岩は節理に沿ってマサ化してい る。その上にのる最下部の堆積物は下部砂礫層 (礫径 15cm程度の亜円礫を含む基質支持砂礫層)と上部砂礫 層 (礫径20cm程度の亜円∼ (割れて尖った) 亜角礫を含 む礫支持砂礫層)とから成る。上部砂礫層は沢の上流側 (画面右側) で薄い。この上に土層がのる。この土層は 左右に連続しない。この上に厚さ30cm程度の砂礫層 (直径15cm程度の亜角礫を含む) がのる。この上の土層 は根系層を成す。 礫の配列に覆瓦状構造が認められないこと,マサに葉 理が認められないこと,層の厚さが著しく変化するこ と,土層を挟むこと,割れて尖った礫を含むことなどか ら,繰り返して発生した斜面崩壊により生じたものと推 定される。水流や土石流の影響は認められない。 広範な崩積土 (露頭 s-5:東側地域南部滑沢) (写真 21):滑沢流域では尾根や山腹に緩斜面・中斜面が比較 的広く分布する (図 7)。滑沢の谷底はこれより北側 (笛 吹川上流側) の笛吹川支流と比べて,谷底幅が数 10m∼ 100mと相対的に広く,渓流堆積物の分布が顕著であ る (図 2,4)。この緩斜面は花崗閃緑岩礫と二次マサと から成る崩積土で構成されている (写真 21A)。崩積土は ナレイ沢の出口付近) (写真19):風化した花崗閃緑岩基 盤の上に,一部に土壌層を挟んで堆積物がのる。堆積物 は直径15∼50cm (最大100cm) で淘汰が悪い花崗閃緑岩 礫およびその間を埋める二次的に流されたマサから成 り,基盤の上に約2mの厚さで無秩序な内部構造を呈し て堆積している。礫は立方体状・直方体状の形態を呈す るものが多く,角は角状 (angular) ないし円状 (round-ed) を呈する。一部に 腐り礫 が含まれる。礫の姿勢 には直立・傾斜・水平のいずれもがあり,覆瓦状構造の ような一定の方向性は認められない。この上に直径5∼ 10cm (最大 20cm) の花崗閃緑岩礫を含む厚さ 10∼30cm の主に二次的に流されたマサから成る細粒な層がのる。 さらにその上を土壌層が覆う。土壌層は根曲がりした樹 木を伴う。 以上の特徴から,風化した基盤岩の上に崩積土が乗 り,その最上部が土壌化して根系層 (稲垣,1999,2000) になったものと推定される。 成層構造を持つ崩積土 (露頭s-2:東側地域北部ナレ 図11 岩石崩落と斜面のゆるみ (渡,2005) 写真5 は左側の場合に,写真 6 は右側の場合にそれぞれ対応する. 図12 地すべりの地形諸元.(稲垣他,2007) 図13 段丘面と崩積土の分布 (国土地理院発行 1:25,000地形図「雁坂峠」使用)
広
瀬
湖
印刷時 400%拡大 2013 09 30 図13. 段丘面と崩積土の分布. (国土地理院発行 1:25,000地形図「雁坂峠」使用)500 m
段丘面 10 ~ 30 m 河床からの比高 30 ~ 50 m 崩積土浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留 礫層と泥層の間に粒度の遷移する層は観察されず,急な 粒度変化である。 5 .考察 5.1 調査地域の特徴と貯留現象 地形図判読結果・空中写真判読結果を模式的に表すと 図14Aのようになる。この結果は山地斜面が緩斜面,中 斜面,急斜面から成り,それらの境界として上位および 下位の遷急線があること (図 4,5),遷急線直下で斜面 崩壊が多いこと (図 5,6,8) を示しており,山地斜面 地形の模式図として知られている特徴 (今村他,1983: 日本応用地質学会,1999) に一致する。調査地域を広く 占める急斜面・中斜面は斜面崩壊発生頻度が高いとされ る傾斜30°以上 (藤田,1979) (写真1) であり,それぞれ に応じた斜面崩壊の様子が認められる (表 2)。中斜面 と急斜面とでは水系のパターンが異なり (図 2∼5),土 砂の貯留形態も異なる (表 3)。 西側地域では笛吹川の分水嶺の標高が2,000∼2,600m 程度と高く (図 1),深さが500∼800m以上ある深い谷 が亜樹枝状の水系 (「水系A」) を成している (図 2)。遷 急線の分布は粗で,そのほとんどが山頂小起伏面を縁取 る下位遷急線であり,上位遷急線は僅かである (図 4)。 これに対応して,中部の分水嶺付近 (アザミ沢・京ノ沢) および南部の大平 (図 7) を除き,急斜面が多く (写真 2),「雨裂」および「がけ」(がけ (岩) およびがけ (土)) が多い一方 (図 6),山腹の緩斜面や河床の平坦面は少 ない (図 2,4)。 これとは対照的に (写真 2),東側地域は笛吹川の分 水嶺の標高が1,500m以下∼2,300m程度と比較的低く, 尾根との標高差も200∼500m程度の比較的浅い谷が亜 樹枝状の水系(「水系A」および「水系B」)を成してい る。遷急線の分布は密で,上位および下位遷急線が共に 多い。上位は漸移的な遷急線 (地形断面図で角がなく丸 ところにより礫支持であったり基質支持であったりす る。堆積構造もところにより無構造であったり平行葉理 があったりする (写真21B, C)。 沢底では岩盤の上に堆積 物が直接乗るほか (写真21D), いくつかの高さの堆積面 が認められる (写真21E)。 堆積面の植生に顕著な差異は ないが,低い面の方ほど若い (胸高直径が小さい)木が 多い傾向が認められる。 土層を挟む堆積物 (露頭s-3:西側地域,東沢と西沢 との合流点:河床) (写真 22):沢の合流点から下流に向 けておよそ40mに渡って厚さ約 3mの堆積物の断面が観 察できる (写真 22A)。合流点付近には厚さ 1m程度の礫 混じりの土層がレンズ状に挟まれる (写真 22B)。レンズ 状土層の下側は隙間のある礫層である。上流側は薄い土 層と礫層で,土層は下流側ほど砂質分が増えて砂質土と なり,最下流部ではマサ土である。この一連の堆積物が つくる平坦面とは別の高さの堆積物や植生が異なる平坦 面も認められる。 以上の特徴からこの堆積物は土砂移動と貯留のいくつ かの過程を経た河床堆積物であると推定される。 現河床堆積物:調査地域の河床には一般に土砂が堆積 していて,基盤が露出するのは西側地域中部の西沢など 比較的限られている。河床堆積物の断面が観察できる一 例を示す。 複数の層からなる河床堆積物 (露頭s-7:東側地域北 部ヌク沢:砂防ダム上流側) (写真23A, B):間に砂層を 挟む2 層の砂礫層からなる。貯留現象が複数回あったこ とを示唆し,貯留が累積している。材を含む成層した泥 質層を挟むことから比較的小規模な堰き止めがあった可 能性がある。 上部堆積物 (写真23C) は,上部から腐植層, 砂礫層の 順に堆積する。腐植層は厚さ3cm程度,砂礫層は厚さ 50cm程度である。腐植層の上には礫が散在する。砂礫 層は細礫よりなり,φ1 ∼3cmの亜角∼亜円礫を含む。 この層には石英の礫が相対的に多く含まれる。石英礫は 支沢の河床礫にも多く含まれていることから,この堆積 物は支沢由来のものであると考えられる。下部の堆積物 をあまり削り込んでいない。 下部堆積物 (写真23D) は,粒度変化が確認される。 表面は粗粒砂が覆い,その下部は平行ラミナが認められ る中粒砂よりなる。この層には材が挟まれる。その下部 は粗粒砂層となり,φ1 ∼5cmの礫を含む。その下部は 中粒砂層であり,平行ラミナが認められる。その下部は 泥より成り,材を層状に含んでいる。最下部は粗粒砂層 より成り,φ5 ∼10cmの礫を含んでいる。ここに挟まれ る泥層は砂防堰堤より高い位置で堆積している。また, 表3 水系による貯留形態の差異 水系A 水系B 斜面の相対的 新旧 新 旧 砕屑物の 貯留形態 渓床・堰き止め湖 (岩盤崩壊) 渓床 貯留物質 供給源 緩み岩盤など マサ 特徴 角礫 2次マサ 土石流堆積物 巨礫を含む 細粒分が多い 「免疫性」 大規模な崩壊堰止湖 活発な貯留 緩慢な貯留
A
B
1 1 1 2 2 5 ① 遷急線直下の谷頭における斜面崩壊 4 水系 A 水系 B 上位遷急線 ⇒ 下位遷急線 ⇒ 緩斜面 中斜面 急斜面 緩斜面 ④ 谷合流部における沖積錐,河床堆積物 「ヘアピン状」 「舌状」 ② 谷壁における斜面崩壊 土砂の貯留 空中写真で判読される遷急線 ⇒ (角が丸い) (角がある) 3 ③ 林道の直上直下における斜面崩壊 襞状 土砂の生産 6 ⑤ 土石流堆積物 ⑥ 段丘堆積物 ⑦ 緩み岩盤 西側地域:急斜面が卓越 東側地域:緩・中・急斜面が発達 7 1 「円弧状」 「コの字状」→
→
→
マサの表層崩壊 ラミネーション 緩み岩盤の崩壊 シーティングの崩壊→
低角剪断面のすべり→
トップリング マサ土・風化礫・コアストーン マサ土・角礫・ブロック 風化殻 緩み岩盤 地すべり 岩屑なだれ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +C
下位遷急線 ⇒ 一次貯留 (原位置貯留) ラミネーション シーティング 節理系 水系 A 水系 B 中斜面 急斜面 緩傾斜 二次貯留 (近傍貯留) 緩斜面 中斜面 急斜面 上位遷急線 下位遷急線→
→
( 浸食前線)D
亜樹枝状水系 A 亜樹枝状水系 B 急斜面 中斜面 緩斜面 がけ(岩) がけ(土) 地すべり 緩み岩盤 河床堆積物 谷底堆積物 崩積土 土石流堆積物 マサ土 マサ ラミネーションシーティング トップリング マサ・コアストーン コアストーン礫 ブロック状岩塊 土石流 岩屑なだれ 崩積土 沖積錐 地すべり堆積物 ⇒ ⇒ 周氷河性岩塊 ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ 砕屑物の貯留 ⇒ 斜面崩壊 =砕屑物の移動 凡例 一次 貯留 一次 貯留 二次 貯留 三次 貯留 容れ物 河床 容れ物 谷底 容れ物 急斜面 一次 貯留 二次 貯留 亜樹枝状水系 B 容れ物 緩斜面 容れ物 中斜面 容れ物 谷底 マサ・コアストーン 図 14 上下の遷急線と水系・斜面崩壊・砕屑物貯留との関係を示す模式 図 A :地形から見た土砂の生産と貯留. B :基盤岩における貯留と崩壊. C :表層における貯留と崩壊. D :地形から見た砕屑物の貯留浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留 の崩壊」 (藤田,1979) が多い (図14B)。斜面崩壊は遷急 線付近で多く発生して (今村,2007),直線型斜面から土 砂を供給する。ラミネーションシーティングが発達する 場所 (写真 4) では,それに特有の斜面発達の仕方や崩 壊のメカニズムがあり (千木良,2002),土砂の供給の様 相 も 異 な る こ と が 考 え ら れ る (図14B)。マサとラミ ネーションシーティングとは花崗閃緑岩地域における細 粒砕屑物の代表的な一次貯留の様式と言える。これらに 由来する崩積土は渓床という 容れ物 に色々な仕方で 二次貯留 され (cf. 4.3 b), 貯留の限界 に至るまでの 間,土石流発生の準備をする。 岩盤のトップリングは小規模な崩壊や岩屑の形成に大 きな役割を果たしている (千木良,1983) (写真6,7,8)。 緩み岩盤が崩壊すると,岩片(岩塊)という形の岩屑を 供給する (図14BC)。 このような斜面下方への物質移動 (集団移動) は,樹 木の傾斜や根曲がり (写真 6A,9A,18A),プルアパー ト構造,節理の開口などを伴う緩み岩盤によって推定で きる (例:露頭1s1∼4:写真 5)。下位遷急線より下方 の急斜面にある緩み岩盤は後氷期以降につくられたと考 えられ (cf. §5.1),その意味で現在の物質移動である。 緩み岩盤は,斜面においてすべりに移行する前の状態 である。地すべりの地形発達は変位率と斜面の傾斜との 関係で分類でき,四国中央構造線沿いの地すべりでは, 初生地すべり発生時の地すべりの変位率は0.5%∼2.5% 程度が多く,その時の地すべりの傾斜は25∼30°になる ことが多い (稲垣他,2007)。花崗岩類地域では変位率の 値が5 %程度になると初生すべりが発生すると予想さ れ,この変位率は地質ごとの限界歪にほぼ等しいと考え られている (鵜沢他,2012)。露頭で得られた 2 つの変位 率(4 %,1 %)はこの値よりやや小さく,斜面崩壊の 「予備軍」であり,「容れ物」を斜面,「貯留物」を歪, 「貯留限界」を地質の限界歪とした貯留現象と考えるこ とができる (図14B)。 崩壊が起きて沢を堰き止める規模であれば,新たな 容れ物 を形成し, 貯留の限界 が新たに設定される であろうし,小規模のものは貯留物質の主要素になると 思われる。 以上のことから,基盤岩の節理,ラミネーションシー ティング,緩み岩盤,風化殻は一次貯留の具体的な姿で ある (図14C)。 5.3 浸食前線から見た一次貯留および二次貯留の様相 上位遷急線より上方にある小起伏面 (=緩斜面) は, 古い時代の準平原的地形であり,風化岩(マサ)が厚く みのある傾斜変換部)で丸みを帯び,下位は明瞭な遷急 線 (地形断面図で明瞭な傾斜変換点) で角があって切り 立っている。下位遷急線は上位遷急線をT字型に切って 分布する。下位遷急線に沿っては,地形図に示された 「がけ (土)」が多く (図 5),等高線からは 0 次谷が判読 され,空中写真判読からは崩壊地および緩み岩盤が多く 認められる (鵜沢他 (2012) の図 1)。これらのことか ら,下位遷急線が現在活動する浸食前線であることが推 定される。最下位の浸食前線は後氷期∼現在の地形形成 条件に対応して形成された最も新しく形成された事例 (羽田野,1979) があることを考え併せると,下位の角の ある浸食前線は後氷期以降現在まで活動しているものと 考えられる。一方では,山腹の緩斜面や河床の平坦面も 広く分布し (図 7),段丘面 (写真12) や土石流堆積物 (図9),崩積土 (図13),現河床堆積物の産状は§4.3b に記載した通り様々であり,堆積作用も活発であること が認められる。 以上のことから,調査地域は,土砂の生産と貯留とが 共に顕著に進行している地域であり,従って,斜面崩壊 の免疫性・周期性および土砂の貯留現象・貯留限界につ いて検討に値する地域であると言える。 ここで,谷底に初めに土砂を供給する前の斜面におけ る貯留を一次貯留 (原位置貯留),斜面崩壊によって不安 定土砂を谷底に供給する現象を二次貯留 (近傍貯留),二 次貯留した不安定土砂が土石流等により運搬されて再堆 積する現象を三次貯留 (遠地貯留) と呼ぶとすると,調 査地域は,下位遷急線 (=浸食前線) とその下の急斜面 における一次貯留と谷底における二・三次貯留とが顕著 であると言える (図14A)。 5.2 基盤岩から見た一次貯留の様相 花崗閃緑岩体内の節理系は沢の流路を規制したり (写 真3AB),緩み岩盤の崩壊に関係したりして (写真 5∼ 9),その結果として生じる微地形の配列は空中写真で 長さ数百m程度の連続性の乏しいリニアメントとして 判読される。調査地域西方の金峰山でも北西または北北 西の著しい方向性が認められるトアが節理方向を反映し た組織地形として知られている (貝塚他,2000)。広瀬花 崗閃緑岩体についてみると,走向が南北で東に急傾斜し た節理系が卓越し,これに次いで走向が北東−南西,北西 に急傾斜した節理系が認められることが報告されている (石田,2001)。節理系によりブロック化された花崗閃緑岩 は斜面における一次貯留の代表と言える (写真 5∼9)。 花崗岩類地域における斜面崩壊は,マサの表層崩壊 (写真11) に代表され,「深成岩地域における「風化岩型」
位遷急線を挟んで上側の緩斜面(山頂小起伏面)および 下側の中斜面には「水系B」が発達し,マサ・風化礫・ コアストーンなどの風化および節理に関連した比較的細 粒の砕屑物が谷底に供給される。下位遷急線の下側の急 斜面には「水系A」が発達し,緩み岩盤・岩盤クリー プ・トップリングなどにより角のある岩塊が谷底に供給 される。斜面発達史の違いを反映したこのような違い は,二次貯留物の違い(岩塊の大きさや形,基質の量 比),ひいては, 災害の免疫性 にも関係すると考えら れる。 すなわち,土砂は風化生成物として元の場所に留まっ たり (一次貯留) ( 風化層の貯留 (形成),今村,2007), 崩壊して崩積土として留まったり (二次貯留),谷底に堆 積して広い平坦地を形成し (三次貯留),それらが再度運 搬されることを繰り返しながら笛吹川へと流下してい く。 ただし,笛吹川付近の一次貯留では一回の土石流で笛 吹川へと移動する場合もあると考えられる。 5.4 渓床における土砂貯留(二・三次貯留)と土石流 山腹斜面から供給された土砂 (の一部) は渓床に二次 貯留される。貯留された土砂は豪雨や大地震による新た な崩壊が無い限りは,渓床に貯留され続け (一時的貯留, 今村,2007),次の大規模な (破局的な) 土石流発生まで の免疫期間となる。従って,土石流の発生の 免疫性 の機構はその渓流の斜面発達史に関係していることにな る (表 3)。 「水系A」ではほとんどの土砂は流下し,沢出口に小 規模な沖積錐をつくっている (図14A)。滑沢は下位遷 急線に縁取られ「水系A」が発達する急斜面で囲まれた 窪地 (図 4,7C) で,渓床には広く土砂が堆積 (=貯留) されている (図 2)。笛吹川へは約 2kmの峡谷で繋が る。滑沢のような地形は他に西側地域北部 (東沢上流: 地形図A) や広瀬湖南部 (左岸) で流入する沢 (地形図 B) で顕著である。また,円川のように,沢の出口付近 に土石流堆積物 (図 9) として,土砂を 貯留 してい る場合もある。 「水系B」では沢の中腹に緩斜面をもち,そこで渓流 堆積地を形成している。そのため,上流部で発生した小 規模な土石流は沢出口まで到達せず,発生地近傍に堆積 する。このような貯留現象で,来るべきより大規模な土 石流 (災害) の発生準備がされていることになる。この ような渓流堆積地の存在は,山地上流域より生産された 土砂が,一洪水時に一気に下流まで流下するのではな く,河床のところどころで滞留しながら徐々に流下する 残っている。この地域のマサは鮮新世後期を中心とする 時代に形成されたと考えられる (小坂,1992)。また,調 査地域北縁の標高2,000∼2,200m以上の稜線に沿う緩斜 面には岩塊斜面が発達し,最終氷期の寒冷気候下で形成 された化石周氷河斜面とされている (清水,1983)。上位 遷急線より上方には,鮮新世後期を中心に形成されたマ サや最終氷期に形成された岩塊が一次貯留されているこ とになる。 上位遷急線と下位遷急線との間は中斜面であり,比較 的厚いマサが1 次貯留されており,「水系 B」が発達す る。下位遷急線における浸食前線の前進に伴って不安定 土砂に移行していくものと考えられる (図14C)。「地す べり移動の初期状態にあり滑動量は小さいが不安定域, 亜変動域と推定される範囲」(清水他,2001) が中斜面・ 緩斜面に多いのはこのことに関係すると考えられる。 下位遷急線の直下は活発に崩壊が発生している (藤田 (1979) の「岩屑型」崩壊)。特に,調査地域北縁の標高 2,000mを超える領域では化石周氷河斜面もあり,現在 でも冬季に凍結破砕作用が行われ,岩盤が細かく破砕さ れていることが推定され (写真1A),地形図に「ヘアピ ン状」の「がけ (土)」として示される崩壊が多い。崩 壊した土砂が堆積し (写真17∼20),崩積土や土石流堆 積物 (二次貯留) の堆積面が各所で平坦な地形を作って いる (写真13∼16, 21)。下位遷急線に囲まれた流域は水 系密度が低く直線状の谷が卓越して枝分かれの少ない流 域 (「水系A」) である。段丘面が発達せず,渓床では基 盤岩が露出するところもあるが (西側地域の一部),滑 沢周辺 (東側地域南部) のように,尾根に平坦面・緩斜 面が発達し,その斜面は厚い崩積土によって形成されて いるところもある。「浸食前線直下の崩積土(露頭s-6: 白沢) (写真17)」も谷底に厚い崩積土が堆積したもので あり,規模は小さいが滑沢と同様の土砂貯留の様相を呈 する。同様の地形はアザミ沢 (西側地域中部,図 4,7A) にもある。このような地形で広面積のものは水系Bで多 く,水系Aで少ない。 上位と下位遷急線によって分布が規制される水系Aと 水系Bとでは斜面発達の様相が異なり,それに従って 災害の免疫性 への寄与も異なる。水系Aでは,緩み 岩盤自体が崩壊物の容れ物 (=貯留) であるとも考えら れ,これが免疫性を持っていて,斜面崩壊の周期的な繰 り返しの一因となる。渓流における土石流の免疫性とし ては,渓流内の不安定土砂 (堰き止めによる土砂の増加 を含む) のみならず,渓流斜面の緩み岩盤の免疫性も考 慮すべき一因となる。 以上のことから,次のように纏められる (図14D)。上
浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留 図15に纏め,以下のように結論する。 1 .調査地域は,斜面崩壊と砕屑物の貯留とが共に顕著 に進行している地域である。その特徴は,上位または 下位遷急線の上側にある緩斜面,上位遷急線と下位遷 急線との間にある中斜面,下位遷急線の下側にある急 斜面ごとに纏められる。 2 .上位または下位遷急線の上側にある緩斜面 (山頂小 起伏面) では,「水系 B」が発達し,鮮新世後期の温 暖な時期を中心に形成されたマサ,および,更新世後 期の寒冷な時期を中心に形成された岩塊が「原位置貯 留」されている。これらは遷急線における斜面崩壊に より斜面下方へと移動する 3 .上位遷急線と下位遷急線との間にある中斜面では, 「水系B」が発達し,マサ・コアストーンなどの風化 および節理に関連した比較的細粒の砕屑物および円磨 度の高い岩塊が「現位置貯留」されている。これらは 斜面崩壊により谷底に移動し,崩積土や谷底堆積物と して「二次貯留」される。 ことを意味する。このような河道内不安定土砂が貯留さ れる場は比較的広い氾濫原区域となる。このような河道 内滞留土砂は現在の河道における掃流砂を考える上で最 も重要な生産源である (中村,1990)。 渓床堆積物がつくる堆積面には高さの異なる幾つかの 面があるところがある (写真21,22)。一般的には,より 高い堆積面のもの程より古い堆積物である傾向がある (中村,1990)。貯留地の地形は大規模であれば,山腹の 緩みを抑制している可能性もある。このような場所で は,渓床堆積地の流出により斜面の再変動が起こる可能 性がある。 以上のことは,土石流の機構・関与物質(二・三次貯 留,周期性・免疫性の問題)が水系パターンや地質・表 層物質(一次貯留,斜面の発達史)と密接に関係してい ることを具体的に示している。 6 .結論 以上の調査と考察とから明らかになった本地域の浸食 前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留に関する特徴を
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節 理 の あ る 花 崗 閃 緑 岩 材料としての表層物質 風 化 花 崗 閃 緑 岩 上位遷急線 下位遷急線 n次谷 崖錐 地すべり地形 沖積錐 谷底 土石流堆積物 段丘面 河床 緩 み 岩 盤 ラミネーション 崩 積 土 土石流 地すべり 移動 小規模災害 発生前 貯留 免疫 発生後 土 石 流 地 崩 落 崩 壊 流 下 三次貯留 二次貯留 遠地貯留 近傍貯留 山 稜 斜 面 谷 壁 谷 底 段 丘 河 床 地 形 山頂 山稜 シーティング 山腹斜面 マ サ 山頂小起伏面 山麓緩斜面 べ す り 地 べ す り 移動体 堆積物 貯留 貯留=
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大規模災害 一次貯留 原位置 貯留 貯留 と 移動 と 災害 と 地すべり地形 図15 まとめ言う『山地災害の免疫性の点から見たランク区分図』の 作成までは行えていない。これをすすめるためには,例 えば「風化花崗岩類の緩み岩盤の変位率は最大で5 %」 というような 貯留の限界 の定量的評価が必要であ る。また,今村(2007) が述べているように,本地域の 災害記録を調べ,地形地質と照合する必要もある。今後 は,これらをまとめて土砂災害ハザードマップを作成 し,住民が安全に暮らせる仕組みを考えたいと考えてい る。また,第四紀中期以降の氷期・間氷期の繰り返しに 伴う谷の埋積・下刻と砕屑物生産量の増加・減少に関す る問題 (貝塚他,2000) も課題として残る。 本報告は鵜澤の調査結果 (平成19年度日本大学文理学 部地球システム科学科卒業研究) を基本として小坂の補 足調査結果 (平成22・23年度日本大学文理学部個人研究 費)を用いてまとめたものである。環境地質(株)の稲垣 秀輝博士には終始ご支援を賜り,原稿の改善に向けての ご指摘を戴きました。記して感謝の意を表します。 4 .下位遷急線 (=浸食前線) の下側にある急斜面で は,「水系A」が発達し,緩み岩盤・岩盤クリープ・ トップリングなどにより角のある岩塊が「原位置貯 留」されている。ここでは,谷頭と谷壁とにおける斜 面崩壊,および,谷の合流部における堆積 (二・三次 貯留)が特徴である。 5 .斜面の傾斜角度,および,砕屑物の粒度・形態のこ のような違いは斜面発達史の違いを反映しており,二 次貯留物の違い (岩塊の大きさや形,基質の量比),ひ いては, 災害の周期性 にも関係すると考えられ る。「原位置貯留」,「二次貯留」された砕屑物は,時と して小規模災害や大規模災害を伴いながら,笛吹川へ と移動していく (三次貯留)。 7 .おわりに この報告では,斜面発達史の違いによる 貯留物質 の違いまでは言及することができたが,今村 (2007) の 千木良雅弘(1983):節理性岩盤表層部にみられるトップリ ングの性質とその意義.応用地質,24 (1),9-20. 千木良雅弘(2002):群発する崩壊―花崗岩と火砕流―.近 未来社,228頁. 藤田勝代(2003):香川県小豆島の花崗岩類に発達するラミ ネーションシーティングのロックコントロールと構造規 制.深田地質研究所年報,第4 号,155-174. 藤田 崇(1979):崩壊の特性と崖錐性基底礫岩の形成につ いて,地質学論集,第16号,pp.141-148. 浜野一彦(1985):表層地質図.土地分類基本調査,御岳昇 仙峡,山梨県,26-30. 羽 田 野 誠 一(1974): 最 近 の 地 形 学 8.崩 壊 性 地 形( そ の 2).土と基礎,22 (11),85-93. 羽田野誠一(1979):後氷期開析地形分類図の作成と地くず れ発生箇所の予察法.昭和54年度砂防学会研究発表会 概要集,16-17. 飯田智之(1996):土層および風化帯の発達モデル.恩田裕 一・奥西一夫・飯田智之・辻村真貴編:水文地形学:山 地の水循環と地形変化の相互作用.古今書院,4.1: 169-176. 今村遼平(2007):山地災害の『免疫性』について.応用地 質,48 (3),132-140. 今村遼平・岩田健治・足立勝治・塚本 哲(1983):画でみ る地形・地質の基礎知識.鹿島出版会,232頁. 稲垣秀輝(1999):1998年台風4号による福島県白河地方で の表層崩壊の特徴.応用地質,40 (5),306-315. 稲垣秀輝(2000):滋賀県南西部に分布する風化花崗岩の表 層崩壊の特徴.応用地質,41 (2),103-112. 稲垣秀輝・小坂英輝・大久保拓郎(2007):四国,中央構造 線沿いの地すべりの発生と安定化.日本地すべり学会 誌,44 (4),37-43. 石田 高(2001):伊豆弧と本州弧の衝突地域の火成活動お 引用文献 よびテクトニクス(V)―衝突帯付近の花崗岩類とカル デラ-角礫岩パイプ列―.山梨大学教育人間科学部紀 要,2 (2),29-39. 貝 塚 爽 平・ 小 池 一 之・ 遠 藤 邦 彦・ 山 崎 晴 雄・ 鈴 木 毅 彦 (2000):日本の地形4 関東・伊豆小笠原.東京大学出 版会,349p. 川崎輝雄・品川俊介(2006):河谷斜面に見られる地すべり の活動性と斜面地質の推定.応用地形セミナー,日本応 用地質学会応用地形学研究小委員会,93-100. 木宮一邦(1975):花こう岩類の物理的風化指標としての引 張 強 度 ― 花 こ う 岩 の 風 化・ 第 1 報 ― 地 質 学 雑 誌,81 (6),349-364. 小出 博(1955):山崩れ(応用地質 II).古今書院,形成選 書,15-23. 小出 博(1973):日本の国土 自然と開発 下.東京大学出 版会,v+pp.289-556. 国土交通省土地・水資源局(2002):土地保全図(山梨県) 縮尺 1:150,000. 小坂和夫(1992):甲府盆地周辺における花崗岩類の風化の 産状.日本大学文理学部自然科学研究所「研究紀要」第 27号,63-70. 三村弘二・加藤祐三・片田正人(1984):御岳昇仙峡地域の 地質.地域地質研究報告(5 万分の 1 図幅),地質調査 所,61p. 中村太士(1990):河床堆積地の時間的・空間的分布に関す る考察.日林誌,72 (2),99-108. 日本応用地質学会(1999):斜面地質学―その研究動向と今 後の展望―.日本応用地質学会,口絵8p.+x+294p. 大村昭三・手塚光彰(1988):(14) 笛吹川流域.日本の地質 『中部地方Ⅰ』編集委員会(編),日本の地質4 中部地方 Ⅰ,共立出版,pp.173-174. 斉藤亨治(1988):日本の扇状地.古今書院,vii+280p.
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写真 1.下位遷急線下側急斜面の微地形.(A)急斜面に谷が密に発達して襞状を呈する.(東側地域北部:広瀬湖北岸から 北方に稜線を望む)(B)高標高部には氷雪が残る.(西側地域南部:上荻原から北方に大平を望む.1月撮影) 写真 2.広瀬湖両岸の非対称な斜面. 西側地域中部(画面右)の 域中部(画面左)の地形. 平坦な尾根(白実線)が発 沢大橋から南方に広瀬湖と 写真 3.節理系の様態.(A)節理系に沿う谷(東側地域北部,なれいの滝).(B)節理系に沿う流水(東側地域南部,白沢). (C)節理への根系進入(東側地域南部,釜口南の沢).(D)節理近傍の粘土化(東側地域南部,釜口南の沢).
A
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粘土←要許可申請
B
A
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その両岸を望む.) 急な斜面と対照的な東側地 達する. (広瀬湖北端の西 (↑:節理) 広瀬湖 西沢大橋 東側地域南部 西側地域中部 東側地域中部B
浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留 ーティング.(場所) 写真 4-5.流れ盤の座屈と開口した節理. 写真 4.花崗閃緑岩のラミネーションシーティング. 上部ほど細かく割れている.(西側地域中部,西沢渓谷) 図 11(左)に該当. 写真 5.流れ盤の緩みと開口 した節理. (C) 節理スケッチ (A)露頭全景 と粘土化. (B) 流れ盤頭部の開口 盤末端部の岩片化.(D)緩み岩盤頭部の開口と角礫状岩片(開口幅 20cm).(東側地域中部,谷渡川:露頭 ls-2) 写真 6.受け盤のトップリング.図 11(右)に該当. (A)露頭全景. (B)節理スケッチ(全体的に岩片化).(C)緩み岩 階段状 土壌 1m (東側地域中部,谷渡川:露頭 ls-1)
A
B
C
A
B
C
D
基盤岩片 角礫状 1m 1m B写真 10.花崗閃緑岩の風化帯の産状. (東側地域南部 , 釜口対岸の沢)
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写真 11. 遷急線(=侵食前線)直下のマサの表層崩壊. 遷急線を頭部とする崩壊(東側地域南部,雨沢) 写真 9.緩み岩盤. (B)スケ (露頭 ls-4) (A)緩み岩盤上部の露頭. 変位率≒ 1% 遷急線 写真 7.花崗閃緑岩のオーバーハング.(露頭 ls-2 付近) 写真 8.節理による板状部の曲げ.(露頭 ls-3) 1 m 曲げA
B
(C)地形断面 1250 1200 1150 0 50 100 150 (m) ッチC
緩み岩盤 ⇐ A B ↰ マサ 閃綠岩 風化 花崗 花崗岩 標高(m) 750 800 850 900 950 1000 1050 1100 1150 100 0 200 300 400 500 600 700 水平距離(m) 地表面→
角礫 風化帯 標 高 (m) 水 平 距 離浸食前線下における斜面崩壊と砕屑物の貯留 写真 12.上位段丘面 . (上荻原の対岸(西側 写真 13.土石流堆積物.河床からの比高約 35m.上部に 約1m の巨礫が集まる.(白沢の出口:露頭 a-1). 写真 14. 円川に沿う緩斜面 (A) と土石流堆積物(B,C,D). 破線:河床断面 (A) 黒線:地形断面 写真 15. 治山ダムの状況. 満砂で,表流水は マサで,苔の付い た角礫も貯留され ている(東側地域 上位段丘 中位段丘 下流 (B) 上部に約1m の巨礫.(東側地域南部,円川の沢の出口付近 : 露頭 a-3)