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事前照会手続の整備の現状 と今後の方向性

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(1)

経営 と経済 第

83

巻 第 1号

2003

6

89

事前照会手続の整備の現状 と今後の方向性

鈴 木 孝 直

Abstract

lntheU.S.,thereisthelntemalRevenueSeⅣice'sprivateletterml ingprogram (PLRP)・Aprivateletterrulingisawrittenstatementis suedbytheNationalOfficeoftheIRStoataxpayerinordertointerpret andapplythetaxlawstothetaxpayer'sspecificsetoffacts.ThePLRP isoneofmajormeasuresasadvancemlingsintheU.S.Thepurposeof thePLRPistosolvetheproblem thattaxpayersfrequentlyhesitateto moveonimportantbusinesstransactionswithoutsomeofficialassur ancesoftaxconsequences.

InJapan,manypeoplehavediscussednecessityoftheadvancemling includingthePLRPfromtheviewpointofimprovlngtaXpayerS'predic tabilityontaxeffectformorethan30years.Recently,theNationalTax Administration(NTAトthetaxauthorityinJapan,improvedanopera tionthattheNTA answerstotaxpayers'questionsontaxwithdocu‑

ment.

Thepurposeofthispaperistoclarifythedifferencesbetweenthe newmeasurebytheNTAandtheadvanceruling一mainlythePLRP,and thentocommentwhetherstillmoremeasuresuchasthePLRPisin‑

dispensableornotinJapan.

Thedifferencesareexaminedin;1)basis,2)purpose,3)effectofthe privateletterortheanswerbytheNTA,4)mlingAreaorqualified questions,andsoforth.Inconsequence,thefeatureoftheNTA'snew measurewassummarizedthat;1)Itisnotbasedonspecifictaxlaws andregulations,2)Itspurposeincludesnotonlytheimprovementof taxpayers'predictabilityontaxeffectbutalsotheunificationandtrams

(2)

parencyoftaxadministration,3)ItbindsneithertheNTAnorthetax‑

payer,4)Qualifiedquestionsarelimitedtomattersthatcontributeto manyothertaxpayers.Inotherwords,mattersthatsatisfyonlyspecific taxpayer'sdemandshallbeexcludedfrom thequalifiedquestion.

ConcerningthenecessityofintroducingthePLRPinJapan,this paperconcludesthatitisnotindispensabletoadoptsuchdeviceinthe currentsituationbecauseofthe5mainreasons;1)purposeofaselfas sessmentsystem,2)missionofcertifiedpublictaxaccountant,3) propertaxation,4)administrationresources,5)fairtreatmentfortax‑

payerS

Keywords:advanceruling,letterruling,predictability,taxpayerseⅣ‑

ice,NationalTaxAdministration

目 次 :

は じめに

事前照会手続をめ ぐるこれまでの議論

ア メ リカのア ドバン′ ス ・ルー リング

レター ・ルー リング制度

文書回答施策の概要

文書回答施策の特徴

Ⅶ 我が国における事前照会手続の今後の方向性

Ⅶ おわ りに

は じ め に

租税法律主義は租税法全体 を支配す る基本原則の一つであ る。 そ して,現 代 におけ る租税法律主義 の機能 は , 「各種の経済上の取 引や事実の租税効果 ( タ ックス ・エフ ェク ト) について十分な法的安定性 と予測可能性 を保障 」

1

)

1

)金子宏 『 租税法』 ( 弘文堂 ,第

8

版増補版

,2002)79

頁。

(3)

事前照 会手続 の整備 の現状 と今後 の方 向性

91

す ることである。

ここで法的安定性 とは,法秩序の内容が安定 してお り,ある行為 にどの よ うな法律効果が結びつ くか予測可能な状態 をいう。 したがって,後段 に着 目 すれば法的安定性 と予測可能性の両者は関連が全 くないわけでな く,法的安 定性 には予測可能性の前提 とい う側面があ り,また逆 に予測可能性が保障 さ れるか らこそ法的安定性が実現 される とい うように両者は相互に密接な関係 にあるもの と考 え られる。そこで本稿 においては便宜的に法的安定性 と予測 可能性の両者 をま とめて予測可能性等 と呼ぶ こととする。

租税法律主義は租税法 を貫 く基本原則であるか ら,予測可能性等の保障が 要請 される対象は,租税法の法源の問題 と関連する。憲法,法律,命令,条 令,規則等は国内法源 として,条約,交換公文等は国際法源 として法源に含 まれることについては争 いがな く,また,判例 も租税法の法源の一種 とされ る

2)

。 したが って, これ らについて予測可能性等の保障が要請 され ることは 疑 いがない。 ここで問題 となるのは通達であるが,通達は法源ではないもの の,現実に課税実務 は通達に依拠 して実施 されてお り,また租税法の解釈 ・ 適用に関連 した問題の多 くが通達 に基づいて解決 されている実情 を踏 まえる

と,機能面か らみた通達は法源 と同様 と考 え られ る

3)

。 したがって,通達 に 対 して もまた,予測可能性等の配慮が要請 される と考 えるべ きである。

予測可能性等の保障を担 う主体については,前述q )法源等の制定 に関わる すべての機関がその責めを負 うこととなる。中で も,租税法律主義の下では, 法律が租税法の法源の中で最 も重要であることか ら

4)

,立法府の責務は重大 である。他面,先で述べた ような課税実務の実態 に鑑みる と,税務行政を担 う租税行政庁 における予測可能性等の保障に向けた取組み も立法府 と同様 に

2

)金子 ・前掲注 1書

,112

頁。

3

)金子 ・前掲注 1番

,110

頁。

4

)租税法律主義は,すべての課税要件 と租税の賦課徴収手続は,原則 として法律に よっ

て規定 されなければな らない とする。

(4)

重要であ り注 目すべ きである。

税務行政 におけ る予測可能性等の保障については,事前照会手続の拡充整 備の問題 として3

0

年以上前か ら議論 されて きている。多 くの研究者等による 議論の中では,申告前の段階におけ る手続 として,ア メリカにおけ るア ドバ ンス ・ルー リングの ような,納税者が税法等の解釈や適用等 について事前 に 租税行政庁 に対 して確認 を求め ることがで きる制度の創設,すなわち事前照 会手続 を拡充整備すべ きとい う主張がなされ,また,新制度を導入 した場合 に生ずるであろう問題点についての研究 も,制度の必要性を否定する目的か らではな く,導入に先立ち どの ようにして問題解決を図るか,あるいは問題 を回避するには事前照会手続の内容をどうすべ きか という立場か らの研究が 主 となっている。 また各種団体を中心 とする納税者等か らは,現在 まで継続 して事前照会手続 に関す る新制度導入の要望が出されているが,これまで新 制度導入又は整理 された形での施策の実施は行われなかった。

この ような中,我が国の租税行政庁であ る国税庁は,平成

13

9

3日よ

り 「税務上の取扱 いに関す る事前照会 に対す る文書回答

」5)

( 以下 「文書回 答施策」 とい う。)を開始 した。 これは,納税者等か らの税務上の取扱いに 関する照会に対 し,一定の要件 に該 当するものについて文書 により回答す る とともに,その内容を公表するものであ り,納税者の予測可能性を高め るた めの施策 とされている。文書回答施策の実施の背景には, これまでの長 い議 論等があ り,その内容が注 目される。

そ こで,本稿では,国税庁による文書回答施策が これまでの事前照会手続 の拡充整備 に関す る議論 との関係の中で どの ように位置付け られるかについ て,従来の議論の中で中心的存在であったアメ リカのア ドバンス ・ルー リン

5

)当施策 は,当初,平成

13

6

月22 付課総

卜19

ほか

8

課共 同 「 事前照会 に対 す る文書回

答の実施 について ( 事務運営指針

)

」 に基づ き実施 されていたが,国税庁部 内の組織変更

に伴 い,平成

14

7

月1

0

日以降は,平成

14

6

月28 付課審

1‑14

ほか

8

課共 同 「事前照会

に対す る文書回答の事務処理手続等 について ( 事務運営指針)」に基づ き実施 されてい る。

(5)

事前照 会手続 の整備 の現状 と今後 の方 向性

93

グ等 との差異に着 目して整理す るとともに,税務 における事前照会手続整備 の今後の方向性 について若干の コメン トを したい。

本稿の構成は,まず,事前照会手続の整備を巡 って我が国では どの ような 議論が行われて きたか,その経緯 を整理す ることか ら始める。次に,導入の 必要性が指摘 されているアメ リカのア ドバンス ・ルー ーリング制度について, その中心をなす レター ・ルー リング制度の仕組み等に焦点を当て,可能な限 り最近のアメ リカの資料 に基づいて整理する。次いで我が国の文書回答施策 の仕組 み等 についてま とめた後 ,文書回答施策 の特徴 を主 として レター ・ ルー リング との対比 によって浮 き彫 りにする。最後に,我が国の文書回答施 策 について現時点での評価を行い,今後の事前照会手続の整備の方向性につ

いて若干の コメン トを行 う。

事前照会手続をめ ぐるこれまでの議論

1.事前照会手続の拡充整備の必要性

事前照会手続 とは,納税者が税法等の解釈や適用等について申告 に先立ち 租税行政庁 に対 して見解を求め ることがで きる手続をい う。事前照会手続の 拡充整備については

30

年以上前 か ら議論 があ り

6)

, これまでの大半の見解は

6

)昭和

43

7

30

日に政府税制調査会が提 出 した 「税制簡素化 についての第三次答 申」

は , 「税務上の事前照会に対する回答」 という項 目を設け,その中で,納税者 に固有の事 実関係 に対す る法令適用等 について申告前 に租税行政庁 の見解 を確認 するこ とがで きる 制度は納税者 が安心 して取引又は 申告が行 える点で重要 とし,従来の租税行政庁 に よる 税務相談等の果たす役割の大 きさを評価 しつつ も,更に一歩進めて,納税者 が具体的 な 課税要件事実等 につ き書面 で照会 し,それに対 して租税行政庁 が書面 で回答す る慣行 を 育成す ることが望ま し く,国税庁 内部 においてそ うした方向での検討 が行われるこ とを 期待す る, としている。

また,国会 におけ る質疑 に関 しては,例 えば,第1

02

回衆議院予算委員会第二分科会

(1985

3

7

日) において,青 山丘分科員は 「納税者の保護 と経済活動の安定のため

に,法的安定性,予測可能性 が著 し く高め られるこの ようなア メリカの制度 に準 じた制

度の実現が望 まれる」 としてア ドバンス ・ルー リング制度の導入について政府の見解 を

求めている。

(6)

基本的方向性 としてその必要性 を肯定 しているが,その具体的内容 について は,現在 までの ところコンセンサスを得た詳細なモデルは存在 しない。多 く の論者が,ア メリカにおけるア ドバンス ・ルー リングの ような仕組みが必要

と述べてい るが

,

「の ような」の部分が示す通 り,ア ドバンス ・ルー リング が有す る要素の うち必要な ものは具体的に何かについては酸味 さを残 してい る。

最近の事前照会手続に関する記述 としては,金子氏の 「 租税法の解釈 に関 する具体的問題 について,まだ通達 がない とか,通達はあるがそれが どの よ うに適用 されるか明 らかでない場合に,納税者 としては,ある経済的意思決 定をす るかどうかの前提 として,その点に関する租税行政庁の公定解釈 また は取扱 を事前 に知 りたい と希望することが多い。 この ような場合に,法的安 定性 と予測可能性 を高めるためには,アメ リカのア ドヴ ァンス ・ルー リング

(advanceruling)

の手続の ように,事前 に租税行政庁の公定解釈の表 明を 求める手続を制度化することが必要 かつ有益であろう

。」7)

があ り,従来の必 要性 に関する議論は概ね これに集約 される。 これは換言すれば,納税者サ イ

ドには租税行政庁の公定解釈や取扱 を申告前段階で把握 した上で経済的意思 決定を行いたい というニーズがあ り,これに応 えて事前照会手続を拡充整備 すれば納税者の予測可能性等を高め ることにな り,租税法律主義の要請 に合 致する というものである。

前で述べた金子氏の見解 によれば, 事前照会手続の制度化が必要な理 由は, 端的には納税者の予測可能性等を保障 し前述の納税者ニーズを充足するため

となる。そ うする と,予測可能性等の保障 により保護 されることとなる当該 納税者ニーズの合理性が問題 となる. この点について金子氏は,第一 に, 般的 ・抽象的な定めにな らざるを得ない租税法令の性質に起因 して,法令適 用段階における疑問や見解の相違が生 じうるとともに,租税行政庁 による解

7)金子 ・前掲 注 1書 ,11 1 頁。

(7)

事前照 会 手続 の整 備 の現 状 と今後 の方 向性

95

釈通達 によって もなお対応 し切れない取引,解釈問額が発生するほか,通達 の適用 において も不明確な場合が少な くない現状 を指摘 し,当該納税者ニー ズに合理性 を認めている

8)

。 また,第二の理 由 として,所定の不服 申立制度 や訴訟 による解決の方法があるものの, これは納税者に とって リスクを伴 う

ものであるとともに,多大の時間 と費用を要する可能性がある点を挙げ,令 理性を肯定 している

9)10)0

なお,予測可能性等以外の視点か らは,諸外国において事前照会手続を整 備 している国が多 く

11)

,経済取引の国際化の進展 に伴い,外国企業等か らの 照会が増加す るとの予測 に立 って,我が国において も国際的整合性の観点か ら対応が必要である点や

12)

, 予測可能性等に付随するもの とも考 え られるが, 申告納税制度 が前提 とす る納税者 と租税行政庁 との信頼関係向上 に資す る 点

13)

が事前照会制度の拡充整備が必要性な理 由 として挙げ られている。

以上の ように事前照会手続の拡充整備の必要性は主 として予測可能性等の 保障の観点か ら肯定 されている。 これに対 し,出村氏は,主 として 日米の法 制度等の違 い及び事前照会手続の法的性質の観点か ら,新たな事前照会手続

8

)金子宏 「財政権 力」『 岩波講座 ・基本法学

6

権力』 ( 岩波書店

,1985

年)

159160

頁。

9

)金子 ・前掲注

8

論文

,159160

頁。

10)

この点 については,桜井 氏 も同様 の見解 を示 している ( 桜井 四郎 「事前確認制度 の確 立 と透 明性のあ る税務行政」『 税理

』42

2

,1999

,55

頁。)

ll)OECD

1988

年の調査 に基づ きま とめた報告書 によれば

,22

カ国中ア ドバ ンス ・ルー リングを採用 してい る国は

15

カ国 ( オー ス トラ リア,カナダ,デンマー ク, フ ィン ラン ド, ドイツ,ギ リシ ャ, イ タ リア,オランダ,ニ ュー ジー ラン ド, ノル ウ ェー,ポル ト ガル,スペ イン,スウ ェーデン, イギ リス,ア メ リカ)であ る。 なお,フランスは,報 告書別表 に よれば採 用国に含め るこ とも可能の ように思われ るが,報告書本文の記述で は除外 されているため,それに従 った

。(OECD,Taxpayers'RightsandObligations,pp.

21,89(1990))

12)

金子宏 「ア ドヴ ァソス ・ルー リングの制度化」『 税研

』72

,1997

,6

頁。

13)

上 田卓 「 事前確認制度の動 向 とその検討」『 税研

』95

,2001

,59

頁。

(8)

の創設 に否定的見解を示 している

14)

。要約すれば,予測可能性等を保障 しよ うとすれば事前照会 に対する租税行政庁の回答を公式の もの として納税者及 び租税行政庁 に対 して一定の拘束力を持つ もの と位置付けざるを得ず,そ う なる と法制度 としての整備が必要 となるが,これは租税行政庁 に法律の隙間 を埋める立法的機能を認めることになるため我が国の法制度 にな じまず,ま た,法令に直接の根拠を持たない行政の運用 レベルの施策 として実施 された 場合は,現在 までの通達 をめ ぐる諸問題 と同様の問題 を惹起するか ら新たな 事前照会手続の創設 は不要 とす るものである。 しかし,他方で同氏は事前照 会手続の有益性 に も言及 してお り

15)

,事前照会手続 自体が全 く無益 と主張 し ているわけではない。つま り,アメ リカにおけるア ドバンス ・ルー リングの ような制度を予測可能性等の視点か らは有益な もの と評価 しつつも,そ うし た制度をそのままの形で我が国に導入することは困難 としているに止まる。

こうしてみ ると,事前照会手続の拡充整備が必要 とす る意見 も,他方で, 租税行政庁の回答 と信義則 との関係,合法性原則や公平負担原則 との関係, 租税行政庁の現実的な対応可能性,申告納税制度の趣 旨との関係等多 くの解 決すべ き問題点を指摘 していることか ら,事前照会手続の拡充整備が必要 と する見解 と不要 とする見解の差異は,前者 が事前照会手続は予測可能性等の 保障のために必須の ものであ り,派生する問題を解決すべ き問題 と位置付け

14)

出村仁志 「行政庁 による公定解釈の表示」『 税務大学校論叢

』19

,1989

,162‑189

頁。

15)出村氏の掲 げる事前照会手続 に よるメ リッ トは,納税者側か らは,①租税行政庁の見

解を知 ることで,納税者は当該取引を完 了させ るか否かを決定 で きること,②将来の租

税行政庁 との紛争,訴訟 を避け る行動 を選択で きること,( 卦租税行政庁 に対す る当該取

引の正確な報告が可能 とな り, 自主的な納税 を促進す る結果 となるこ と,租税行政庁側

か らは,( D租税行政庁 による法律等の運用 におけ る高度の整合性が達成 され ること,②

将来発生す る可能性のある訴訟件数の減少効果が見込 まれること,( 丑事前照会手続 は貴

重 な情報源 となるこ と,④ いわゆ る一般通達発達の際の基礎 となるこ と,⑤調査官の仕

事の簡素化につなが ること,である。 ( 出村 ・前掲注

14

論文

,180181

頁。)

(9)

事前照会手続の整備の現状 と今後の方 向性

97

るのに対 し,後者は派生する問題が大 き過 ぎるため予測可能性等の保障のた めの手段 として事前照会手続の拡充整備を用いることは適当でない とする点 にある。 事前照会手続は予測可能性等の保障に寄与する とい う点については, 両者の共通認識 といえる。

結局,事前照会手続の拡充整備の問題は,事前照会手続は予測可能性の保 障に有益 とい う前提に立 って,その上で予測可能性等の保障によって納税者 の利益 をどこまで保護すべ きか,それに適合 した制度又は施策をどう構築す るか という問題に収欽す ると思われ る。

2

.これまでに提案 された事前照会手続

我が国においては, これまでに研究者や,政府税制調査会等の機関, 日本 税理士会連合会等の団体等によ り,新たな事前照会手続 として,事前調停制 皮,事前仲裁制度,事前協議制度,事前照会回答制度,事前照会制度,事前 確認制度等の創設 が提案 されて きた。 これ らは明瞭な独 自性 によりそれぞれ 独立 して存在する というより,名称は異なるものの議論の出発点を予測可能 性等の保障の更なる向上 に置いた軸 を同 じくするもの といえる。 また,比較 的最近提案 された ものは,ある程度内容が具体的であるが,議論の初期段階 の ものは趣 旨程度 しか示 されていない等,提案内容が不明確な ものが多い。

したが って, これ ら各 々を逐一整理 し比較することについては,そ もそ も困 難 とい う問題があるほか,提案の背景である経済社会情勢が大 きく変化 して いること,互 いの概念が厳格にその差異に注意 して用い られて きてはいない こと等があ り,あま り大 きな意味は認め られない。

ただ,諸外国ではア ドバンス ・ルー リング とアグ リーメン トとして明確に 概念が区別 されている関係が,我が国の議論の中では,例えば事前照会制度 と事前確認制度の関係の ように必ず しも明確に区別 して用い られて こなかっ た とい う問題は ここで指摘の必要があるか もしれない。

この点について佐藤氏は事前照会制度 と事前確認制度の概念の差異の整理

(10)

を試みてお り,概要は次の とお りである

16)

。事前照会制度はいわばア ドバン ス ・ルー リングに対応す るものであ り , 「申告制度 を補完するために納税者 がある取引を行お うとす る場合,事前 に税法上の取扱いについて課税庁に見 解を照会する制度」であるのに対 し,事前確認制度はアグ リーメン トに対応 し , 「納税者 が採用 したい と考 えている経済行為 について事前 に課税庁 に申 し出て,一方課税庁は資料 に基づいてそれを検証 した うえ, これに確認を与 え,以後 その方法に従 って行 えば妥当な もの として認め られる」制度である。

この ように,佐藤氏は両者の違 いを自主的ルールづ くりとい う側面の有無 に 求めているが,結論 においては,アグ リー メン トの 自主的ルールづ くりの機 能は税法解釈の枠を超 えるものではないか ら,結局ア ドバンス ・ルー リング では対応が困難な複雑な事案がアグ リーメン トの対象 となる事案 となる関係 にある として,事前確認制度を事前照会制度の一部 と位置付けている。

この ようなア ドバンス ・ルー リング とアグ リー メン トの区別は, ・創設すべ き事前照会手続の内容を具体的 にデザ インする過程 においては非常 に重要な 問題であ り,果た して佐藤氏の結論が妥当か どうか も含め,論点を整理の上 で更に詳細な検討が必要である。本稿の主 目的は創設すべ き事前照会手続の 具体的 内容 を提案 す るこ とではないためそ うした点 には深 く立ち入 らない が,手法の問題 として,諸外国におけるア ドバンス ・ルー リング とアグ リー メン トという用語を,従来の ように 日本語の事前照会制度 と事前確認制度 に それぞれ置 き直 して概念整理を試みるのでな く,諸外国の制度の名称をなる べ くそのまま使用することが適当である点のみ指摘 したい。 これは, 日本語 への置 き換 えは,既存の類似用語 との混 同を生 じる可能性があるか らであ り

17)

,そうした問題 を避けるため,本稿ではなるべ く原語を使用す ることと

16)佐藤美知雄 「

事前確認制度の理論 と実務」『 税理』38 巻

8

号, 1

995

年,1

22‑124

頁。

1

7)我が国には,税法 に規定 された一般的制度 としての事前確認制度は存在 しない ものの,

昭和61 年度の税制改正 に よる移転価格税制 の創設 に続 いて昭和

62

4

月に発達 された通

達 「独立企業 間価格 の算定方法等の確認 について」 に よ り導 入 されたいわゆ る事前確認

制度等 が存在 す る。

(11)

事前 照会 手 続 の整 備 の現 状 と今後 の方 向性

99

する。

前で述べた とお り, 金子教授の最近の記述 をは じめ従来の議論 においては, 必要かつ有益 な事前照会手続はアメ リカのア ドバンス ・ルー リングに類する 制度である とされていることか ら,次章では これについて整理する。

Ⅲ アメ リカのア ドバ ンス ・ルー リング

アメ リカのルー リング及びア ドバンス ・ルー リングについては, これまで 既に多 くの論者により紹介されて きた ところであるが

18)

,後章で我が国の事 前照会 に対す る文書回答 との比較を行 う上で必要なため,で きるだけ最近の 資料 を基に再度簡単にま とめてお く。

ア メ リカの連邦 レベルでの内国税 ( 以下 「 連邦税」 とい う。)に関す る最 上位の法令は

nternalRevenue Code

( 以下 「内国歳入法」とい う。)である。

そ して,内国歳入法を執行するため必要な内国歳入法の解釈及び適用につい て,内国歳入法

S7805(a)

によ り

Secretary oftheTreasur

y ( 以下 「 財務長 官」 という。)に

̀̀mlesandregulations'

'を定め る権限が付与 されている。

また,財務長官 に付与 された権限は,ア メ リカの連邦税の執行機 関である

InternalRevenue Service

( 以下 「内国歳入庁」 とい う。)の

Commissioner

( 以下 「内国歳入庁長官 」 とい う。)にも委任 されている

19)20)0

18)

金子 ・前掲注

8

論文

,160163

貢 ;碓井光明 「ア ドバンス ・ルー リングに学 ぶ」『 税理』

279

,1984

,37

貢 ;出村 ・前掲注

14

論文

,176185

頁 ;望月爾 「ア メ リカのア ドバ ンス ・ル ーリング制度の再検討

『 政経研究』第

72

,1999

,119131

頁等。

19)CodeofFederalRegulations,Title26,ChapterI,SubchapterF,Part301, §30

1.

78051.

20)̀̀regulations"

は,大 き くは

しegislativeregulations

( 立法的規則)

,Interpretiveregu‑

lations

( 解釈的規則)

,Proceduralregulations

( 手続的規則) に区分 され る。 この内,

Legislativeregulations

Interpretiveregulations

は財務 長 官 に よ り定 め られ ,

Proceduralregulations

は内国歳入庁長官が定め る。

(12)

本稿の検討対象であるルー リングは,いわゆる

InformalIRS Rulings

と 呼ばれ るカテゴ リーに属 し

21)

,前述の

"rulesand regulations'

'とは原則 と して区別すべ きものであ り,内国歳入庁長官が定 め る

ProceduralRegula‑

tion

にその定義が置 かれている

22)

。 これに よれば , 「ルー リングは,内国歳 入庁本庁 により納税者又はその授権を受けた代理人に対 して発行 される文書 による表示であって,特定の事実関係 について税法を解釈 し,適用するもの」

であ り,ル ー リング発行権限 については 「ルー リングの発行 は

Assistant Commissioner(Technica

l )の一般的監督下 にあ り,大部分は,法人課税部 の 部長及び個人課税部の部長 に再委任 されて きている 。」 とされている0

実務 においては,

ProceduralRegulation

に規定 されたルー リング以外 に も内国歳 入庁 が納 税 者 に対 して行 う手 引 きの形 態 が存在 し,

Revenue Procedure

( 以下 「レベニ ュー ・プロシージ ャ‑」 とい う。)

23)

に列挙 された 各形態の概要等は次の通 りである。

LetterRulings

(レター ・ルー リング)

「レター ・ルー リングは,内国歳入庁本庁 によ り納税者に対 して発行 され る文書 による表示であって, 納税者の特定の事実関係について税法を解釈 し, 適用す るものである。 レター ・ルー リングは,納税者の会計方法又は会計期 間の変更請求 に対 す る内国歳入庁本庁 による文書 に よる認容又は否認 を含 む。発せ られた レター ・ルー リングは,クロージング ・アグ リーメン トを伴 うものでない限 り, この

Revenue Procedure

の §

12

で述べ る理 由に該 当す

2

1

)P.Morgan,TaxProcedureandTaxFraud,at24(WestpublishingCo・1990).

22)CodeofFederalRegulations,Title26,ChapterI,SubchapterH,Part601,SubpartB

,

$601.201(a)(2).

23)Rev.Proc.20031,Section2,2003.

1

.

内国歳入庁は,納税者の権利義務 に影響 を与

え る手 続上 の取 決 め を公表 す るた め

,RevenueProcedure

を発 し,それ を

Internal RevenueBulletin

に掲載 している

.RevenueProcedure

もルー リングの一種 といえる。

(13)

事前照会手続の整備の現状 と今後の方向性

101

る場合は,取消又は修正が可能である

。」24)

レター ・ルー リングは

,PrivateRulings

,

AdvanceRulings,PrivateLe terRulings(PRLs)

とも呼ばれ る

25)

。 レター ・ルー リングは,あ くまで これ

を請求 した納税者 に対 してのみ効力を有するほか,裁判所は レター ・ルー リ ングの内容 に拘束 されず法律解釈を行 うことがで きるなど,先例性や法的効 果 とい う点か らは価値 を見出 し難い ものの,税法の複雑化や頻繁な改正 に起 因 して法律の不明部分が多 くなる中で, 実際上, 個 々の納税者はレター ・ルー リングに信頼 を寄せてお り, この点がレター ・ルー リング制度が有効に機能 している基盤である とされている

26)

0

ClosingAgreement

( クロージング ・アグ リーメン ト)

「クロージング ・アグ リーメン トは,特定の問題又は租税債務についての 内国歳入庁 と納税者間の

finalagreement

( 最終合意)であ る。 クロージン グ ・アグ リー メン トは,内国歳入法 §

7121

に基づ くものであ り

,fraud

( 詐 欺),

malfeasance

( 違法行為),又は

misrepresentationofamaterialfact

( 重 要な事実の虚偽表示)が明 らか となった場合を除 き

,fina127)

である。 ( 以下省 略)

」28)

クロージング ・アグ リー メン トは

,1938

年,米国議会が,歳入システムの 賢明な行政のために,内国歳入庁長官 に対 して, 任意 に正式なクロージング ・

24)Ld.Section20

1.

25)D.Osteen,eta

l ."

ThePrivateLetterRulingProgram attheHalfCenturyMark"at 126,InForb,SecondAnnualUSCInstituteonFede71alTaxation(1990).

26)Rev.Proc・200311,Section2‑12,2003.1;P.Morgan,Supylanote21,at.25;D.

Osteen,etal.supylanote25,at1216;M.Salzman,mSPyiaCticeandPy10Cedu

y l

e,2ed.at 3‑47 (199

1 ).

27)

内国歳入法 §

7121(b)

では

,"finalandconclusive

' ' としている。

28)Rev.Proc.20031,Section202,2003.

1

.

(14)

アグ リー メン トを締結 し得 る権限を立法措置 に よ り付与 した ことで誕生 し た

29)

。 しかし, 2 年後,クロージング ・アグ リー メン トは,計画中の取引に 対 して時機 を得た手引 きを行 うための仕組み としては,効果的でないことが 明 らか とな り

,1940

年 には レター ・ルー リング制度が導入され ることとな る

30)0

クロージング ・アグ リー メン トは,懸案 となった問題 を最終的かつ絶対的 に解決するための納税者 と内国歳入庁間の契約であ り,アグ リーメン ト締結 後 は不服 申立 てや修正はで きない こ ととな ってい る。 クロージング ・アグ リー メン トは,内国歳入庁又は納税者 が希望 した場合に締結 されるが,あま り頻繁 には使用 されてはお らず,また,内国歳入庁は利用の奨励 も行 ってい ない。 しかし,レター ・ルー リング発行過程 において,内国歳入庁がクロー ジング ・アグ リー メン ト締結を条件 とする場合があるほか,税務調査,徴収, 不服申立てのそれぞれの過程 においては有効 に機能 している

3

1 ) 0

DeterminationLetter

( デ ィクー ミネーシ ョン ・レター)

「デ ィクー ミネーシ ョン ・レターは,特定の事実関係について内国歳入庁 本庁が既に発 した原則及び先例を適用する,税務署長が発する文書 による表 示 であ る。 デ ィタ‑ ミナ‑シ ョソ ・レターは, それが法律 ,租税条約 ,

regulations

( 規則) において明 らかに確立 された

rules

に基づいてなされ る か,又は

InternalRevenueBulletin32)

において公表 され,提示 された質問に

29)D.Osteen,etal.suP71anOte25,at12‑12.

30)〟.

3

1

)M.Salzman,supylanOte26,at346.

32)InternalRevenueBulletin

は毎週発刊 され,内国歳入庁のルー リング及び手続並び に財

務省決定 ,租秩条約 ,法令 ,判例等 を通知 す るために内国歳 入庁長官 が用 い る手段 であ

。InternalRevenueBulletin

において公表 された項 目の内,恒久的な性質 を有する もの

については,半年毎 に発刊 され る

CumulativeBulletins

に収録 され る。

(D.Osteen,eta

l .

Supylanote25,at1215.)

(15)

事前照会手続の整備の現状 と今後の方向性

103

対 して明確 に回答するレベニ ュー ・ルー リング,意見,判決 における結論 に 基づいてなされる場合に限 って発行 される。 ( 以下省略)

」33)

デ ィクー ミネー シ ョン ・レターの先例性及 び法的効果 については , レ ター ・ルー リング と同様 である

34)

。前述の規定 か らも明 らかなように,デ ィ クー ミネーシ ョン ・レターは,既に課税上のルールや内国歳入庁の課税方針 が明 らかに となっている事柄 について, 納税者か らの書面による質問に対 し, 確認的に税務署長 により発せ られるものである といえる。 したがって,課税 実務 に携わ る専門家 に よる調査 によって課税関係の明確化 は可能 であ るほ か, 税法上不 明確な部分 を明確 にする機能は持たないことか ら,ア ドバンス ・ ルー リングの範噂 には含 まれない。

InformationLetter

( インフ ォメーシ ョン ・レター)

「インフ ォメーシ ョン ・レターは,内国歳入庁本庁又は税務署長のいずれ かによ り発せ られ る表示 であ る。 これは,税法 ( 租税条約 を含む。)に関す る十分に確立 された解釈又は原則へ注意を促す ものであ り,特定の事実関係 に当該解釈及び原則を適用す ることは しない. インフ ォメーシ ョン ・レター は,納税者の質問が一般的な情報を必要 としている場合や,納税者 か らの請 求内容がこの

revenueprocedute

が定める要件を満た してお らず,かつ内国 歳入庁が一般的な情報が当該納税者 を手助けす ることになる と考 え られ る場 合に発行 される。 ( 中略) インフ ォメーシ ョン ・レターは助言のみであ り, 内国歳入庁 を拘束する効力はない

。」35)

前述の規定 にあるように,インフ ォメーシ ョン ・レターはあ くまで一般的 な助言に止 まるものであ り, これにより納税者の個別的な課税関係が明確化 されるものではない。

33)Rev.Proc.2003‑1,Section2‑03,2003.

1

. 34)zd.Section2‑13.

35)〟 Section204.

(16)

RevenueRuling

(レベニ ュー ・ルー リング)

「レベニ ュー ・ルー リングは

,InternalRevenueBulletin

に公表 された内 国歳入庁 による解釈である。 これは,特定の事実関係に税法を どの ように適 用するかについての内国歳入庁の結論である。 レベニ ュー ・ルー リングは, 内国歳入庁本庁のみが発 し,納税者,内国歳入庁職員,その他関係者の情報 及び手引 きのために公表 される。 ( 以下省略)

」36)

レベニ ュー ・ルー リングは,内国歳入庁による公式税法解釈を示す もので あ り,まず

InternalRevenueBulletin

に掲載 された後

,CumulativeBulletin

に最編纂 される。 レベニ ュー ・ルー リングにおいては,内国歳入庁が特定の 事実関係 に税法をどの ように適用するかが示 され,レター ・ルー リングの場 合 と異な り先例性を有する。すなわち,同 じ条件 にある納税者は レベニ ュー ・ ルー リングを引用す ることがで きる。効果に関 しては,基本的 に内国歳入庁 及び納税者 を拘束す るが

37)

,裁判所は拘束 されない

38)

0

前述の各形態は,いずれ も予測可能性等を高める点で一定の効果がある と 認め られ るが,ア ドバンス ・ルー リング として よ り効果がある と考 えられ る ものは レター ・ルー リングであろう。なぜな ら, レター ・ルー リングは個別 納税者の特定事例に対する税効果に関する内国歳入庁 としての公式見解を納 税者の申告前 に表明するものであるため,納税者は 自身の申告 に先立ち,将 来 内国歳入庁が行 う自身に対す る課税処分を知 り得 るか らである。我が国で 導入の必要性が指摘 されているア ドバンス ・ルー リングは,具体的には,主 にレター ・ルー リングを指す もの と思われる。 レベニ ュー ・ルー リングも発 出の相手先が不特定であるものの,内容が特定事例に基づ くものであること

36)Zd.Section205.

37)

レベ ニ ュー ・ルー リングに示 された条件 と実質的 に同一 であ ることが条件 である

。 (P.

Morgan,Supranote21,at26.)

38)D.Osteen,etal.SuPranote25,at125.

参照

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