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二つのタイプの収支計算書

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(1)

《研究ノート》

二つのタイプの収支計算書

岡 田 裕 正

Abstract

The purpose of this paper is to investigate the reason of double entry on the basis of the statement of receipts and disbursements. There are two types of the statement, type①which shows cash receipts in debtor and cash payments in creditor, type②which shows vice versa. To ac- complish the purpose, this paper is constructed by two sections. Section 1focuses on cash book from which the statement is prepared. Section 2focuses on checking accuracy of cash balance which is calculated in cash book with the causes of cash receipts and payments, and tries to clarify the reason of double entry.

Keywords:Cash Book, Cash Balance, Causes for Cash Receipts and Disbursements, Cheking Accuracy of Cash Balance

はじめに

本稿の目的は,二つのタイプの収支計算書と現金出納帳の関係の検討を通 じて,貸借複記が生じる理由を試論的1に述べることである2。現在の多くの 1 本稿は,岡田(1999)pp.208‑212において述べた二つのタイプの収支計算書について計 算結果の検証という観点から再整理したものである。本稿とは別に,陣内(1978)のよう に,企業簿記が複記形式をとることについて,「「潜在的(即自的an sich)複記」とこれ の一定の条件下における「顕在的(対自的(fur sich)複記)への転化」」と考え(p.113), 単記式でも十分に機能する数量計算においても潜在的(即自的)には複記性を有してい ると述べている(p.115)。

2 馬場(1975)では,「…企業会計の計算構造において収入支出計算なるものが欠くことを 得ない要因をなしていることを忘れてはならないのである。…この問題は,もっと広範 な会計の計算構造の根幹にふれるていの意義を具有するものと思うのである」(p.255)

と述べている。

(2)

収支計算書は,報告式,すなわち上段に収入,下段に支出を記載する様式で 表示されるが,貸借複式記入という記録計算を検討する本稿の目的から,勘 定式の様式で検討する。この勘定式を用いた収支計算書には,「①借方に収 入,貸方に支出を記載するタイプ」(タイプ①と呼ぶ)3と,「②借方に支出,

貸方に収入を記載するタイプ」(タイプ②と呼ぶ)とがある4

タイプ②について,例えば新田他(2004)5では,「現金の増加減少(現金出 納帳)の記録に対応して,その原因の記録を行う」,あるいは「一つの取引 を,増加の「事実」(左側に記入)と「原因」(左側に対応して右側に記入)

と「二重」つまり複式に記録する」

p

.17(一部変更))というように,現金 出納帳の記録に対応させて述べている。そして,この原因を集計したものを

「収支原因計算書」という名称で呼んでいるが,これはタイプ②の収支計算 書に相当する。このような事実と原因の記録により「取引がすべて複式に記 録されてきたから,収支原因計算書が計算する」金額は,「現金出納帳の在 高…に一致する」とともに,「これまでの記録が正しかったことを示す機能 もある」と述べている(

p

.17(一部変更))6

確かにこの関係で貸借複記の説明は可能である。しかし,この場合,「現 金増減という事実」の記録と,「現金増減の原因の記録」が対照的でなけれ ばならない理由,つまり貸借複記の理由をさらに明らかにすることが必要で あると考える。

そこで,本稿では,この課題について以下の順序で考察する。第1節では,

現金出納帳での計算を現金残高計算の観点から検討する。これを受けて,第 2節では,現金出納帳で算定された現金残高とそれを引き起こした理由に基 づいて算定された収支差額との一致の確認7という観点から収支計算書につ 3 ①のタイプを示したものとして久野(2006)p.18がある。

4 ②のタイプの例として新井・出塚(1991)では,公益法人が作成する収支計算書は借方 に支出,貸方に収入が計上される様式になっている(pp.13‑14)。なお,現在の公益法人 では,キャッシュフロー計算書の作成が求められている

5 同様の説明は宮上(1984)pp.3‑6,安平(1993)pp.7‑12でもみられる。

6 藤重他(1993)pp.5‑13においても,同様の説明をしている。

7 この意味で,本稿では,岩田(1956)で述べられている「計算と計算の照合」の考えを 用いている。

(3)

いて検討する8

1 現金出納帳

収支計算書のタイプが二種類あるとはいえ,いずれを作成するにしても,

現金出納帳が必要であるといえるだろう。現金出納帳は,借方に受け入れた 現金額(受入額),貸方に支払った現金額(支払額)を発生順に記録したも のである。

この記録の目的には,その借方合計額と貸方合計額の差額に基づく現金残 高の計算があるといえる9。現金残高を計算するのは,企業であれ家庭であ れ,現金後払いを考慮しないならば,何かを購入しようとしても,その時点 で保有している現金(現金残高)以上の支払いができないからである。しか し,現金残高の把握には,二つの方法がある。すなわち,①現金を直接数え る方法と②現金出納帳において期中の現金の受け払いという事実の記録(出 納記録)に基づき計算して求める方法である。

二つの方法は,手元にある現金を直接数えあげるか,期首残高と期中の現 金受入額・支払額の記録計算を媒介するかの相違はあるが,現金それ自体を 対象としている点で共通している。これらの方法のうち,現金出納帳は,現 金残高計算という目的のために,現金それ自体の受け払いという動きを対象 として,それを受入額と支払額として発生順に記録(出納記録)したものと 8 現金の受け払いは,営利活動を行う企業のみならず,消費活動を行う家庭等でも生じ る。したがって,現金を対象とする会計を取り出した場合,それは企業会計固有の議論 ではなくなる。この点で,企業会計で主として利用される貸借複式記入の議論とはなら ないという限界を本稿は有している

9 現金出納帳について,現金受け払いの明細の記録という説明(例えば,黒澤(1954)p. 72),山桝(1976)p.92)に加えて,久野(2006)での「現金の収入・支出のつど証ひょう にもとづいて発生順に取引明細を記入し残高を常時把握しておく」(p.104),沼田(1988) での「この記入によって,収納,支払および残高が明らかとなる」(p.10),安平(1993) での「…さまざまな取引のうち現金の収支に関連するもののみをとりあげて詳細に記録 し,それに基づいて現金収支および現金残高の管理を適切に果たそうとするためのもの である」(pp.79‑80)などの説明もあるので,現金残高の計算もこの目的にあると考えて よいであろう(なお,黒澤(1990)p.44では「現金収支とその残高は,現金出納帳でいつ も明らかにしておくことが必要である」と述べている)。(下線部はいずれも筆者)

(4)

いえるだろう10

現金出納帳には,三欄式とT字型があるが,本稿の目的が,貸借複記が生 じる理由の検討にあるので,T字型を利用する。この際,借方に受入額,貸 方に支払額を記入するのは,藤田(1987)では,T字型は「加算・減算という,

演算の記号」

p

.61)と理解されており,引き算という観点からみれば,借 方に被減数,貸方に減数が記入されると理解されていることに基づいている。

現金残高の計算は,期首残高と期中の受入総額の合計額を被減数とし,期中 の支払総額を減数として,算出されるからである。したがって,現金出納帳 の例を示すと,図1のような記録となる。

図1 現金出納帳の例 現金出納帳

4/ 1 給 料 100,000 4/ 2 家 賃 60,000 4/15 バイト代 50,000 4/10 本 代 5,000 4/30 食 事 代 70,000 4/30 現金残高 15,000

150,000 150,000

(出所:筆者作成)

だが,現金出納記録に基づいて計算された現金残高は,それだけでは計算 ミスなく求められたものかどうかは不明である。そこで,この計算上の現金 残高の検算をするために,T字型の勘定記録では,計算された答えを含めて,

貸借それぞれの合計額の一致を通じて確認している。図1では,「4/30現金 残高15,000」という貸方記入額を加算した上での貸借合計額が150,000円で 一致していることの確認がこれに該当する。

しかし,このような手続きに基づいて現金残高という計算結果の正確性を 確認したとしても,単に一定時点での現金残高を知ることだけを目的とする ならば,わざわざ現金出納帳に記録をする必要はない。既に述べたように,

10 これと同時に,現金出納を示す証憑に基づく発生順の記録により,出納係の管理責任 を明らかにすることにもなる(久野(1990)pp.101‑102)。

(5)

手元の現金を直接数えれば,現金残高は確認できるからである。それにも関 わらず現金出納帳を作成するのは,現金の管理という目的があるからであろ 11。現金出納帳に摘要欄が設けられるのはこのためである12

したがって,それだけの現金受入額や支払額をもたらした理由あるいは原 因の記入により,現金出納帳は,単なる現金残高計算だけではなく,現金受 け払いを引き起こす行為の管理という機能を持つことになる13。図1を例に とれば,現金残高が15,000円しかないのに,20,000円のものを購入すること はできないので,その購入という行為を抑制することになる。さらに,摘要 欄の現金受け払いの理由の記録に基づいて,現金の受入れの増加策を立てた り,支払い抑制策を立てたりする等の効果ももたらされるであろう。例えば,

先月に比べて食費が多いので,バイト時間を増やすとか食事制限をする等の ことである14。また,ある目的の下で結成された団体であれば,受け入れた 金額を管理する責任やそれを団体の活動目的に即して支払った責任等を示す ことにつながる15

そして,現金出納帳の詳細な記録を,現金受け払いを引き起こした理由別 に整理表示すれば,企業や家庭の活動状況を表示することも可能になる。こ れが,本稿の「はじめに」で述べた,タイプ①の収支計算書であると考えら れる16

11 人間の行為が目的意識的なものである以上,目的達成に向かって進行していることを 知る必要があると考えることができるであろう(岡田(1999)p.202)。

12 ただし,摘要欄に記載された事項は,現金出納を引き起こした理由あるいは原因(つ まり企業活動や家庭の活動)を示すものであるから,名目的なものである。例えば図1 の4/10の摘要欄は「本を購入したことにより5,000円の支出が生じた」ということを示し ているが,現実に本が存在しているかどうかは別の問題である。

13 このように受け払いの記録に基づいて算定された現金残高は,「現実に存在するはずの 在高」である。理由は別にして財産の受け払い記録に基づいて計算された在高であるか ら,当然残っているべき金額という性格を持つからである(岩田(1956)p.16)。 14 ただ,この場合も,受け入れた現金を,あらかじめ食費用,家賃用等あらかじめ定め

た支払計画ごとに分けておいて,それぞれの現金の減り具合をみて行為の管理をするこ とも考えられる。

15 新田他(2004)では,「現金出納帳の摘要欄には,現金増加の 原因 (会計責任の発生)

と現金減少の 原因 (会計責任の解消)が記入されているので,…」(p.15)と説明さ れている。

16 久野(2006)では,このタイプの収支計算の借方の収入と貸方の支出について,責任者 の会計責任の設定から解除に至る過程を示しているとして,以下のような算式でそれを

(6)

2 収支計算書

第1節では,現金出納帳における記録の目的を第1義的には現金残高計算 に置くとともに,その摘要欄の記録が持つ管理機能について述べた。ここか ら収支計算書の作成をするとすれば,現金出納帳の摘要欄に記載された理由 または原因項目別の分類集計により作成することができる。新田(2004)が指 摘するように,現金出納帳における記録数が大量になれば,これらの記録を 原因項目に分類し集計する作業の手間が増え,それに伴いミスが生じる可能 性も大きくなるので,現金それ自体を対象とした記録とは別に,現金の受け 払いを引き起こした原因別の記録をすることが考えられるのである

p.

17)17 そしてここに「現金の受入れ事実を借方に記入すればその理由や原因を貸方 に記入する」,逆に「現金の支払い事実を貸方に記入すればその理由や原因 を借方に記入する」という貸借複記が成立する。

だが,なぜ現金受け払いという事実とその理由・原因を「対照的」に記録 することになるのかという点で疑問が残る。つまり,現金の受入(支払)を 借方(貸方)に記入すれば,それを引き起こした理由を貸方(借方)に対照 的に記録しなければならない理由は何かということが問題として残ると思わ れるのである。この問題について,本節では,現金出納帳で計算される残高 の正確性を,それを引き起こした原因の側面からの計算的な確認という点か ら検討してみたい18

第1節で述べたように,現金出納帳で計算された現金残高の計算上の正確 性については検算によって確認されていた。しかし,この確認方法にはもう

表している(p.18)。

「収入の部:課責額〔前回繰越金+収入額〕

=支出の部:免責額〔支出額〕+残余責任額〔次回繰越金〕」

17 山下(1954)では,シュマーレンバッハとワルプのそれぞれの説に共通して述べられて いる「収支計算に基づく損益計算」の意味に相違があることを指摘した上で,「一般に収 支計算と言ふ場合,何よりも先に考えられるものは,言ふ迄もなく,現金の収支計算で ある。…(中略)…ところがいま一つ,現金そのものの収支ではなく,その現金収支の 原因を抽象的に計算する収支計算の考へ方が存する。」(p.128)と述べている。

18 岡田(1999)では,この点について,人間の目的意識的行為には,行為とその進捗の管 理という二面があり,それを総合する必要があるという観点から考察をしている。

(7)

一つ別の方法,つまり摘要欄に記載された現金出納の理由や現金を利用する 方法もある。この点について,本稿の「はじめに」でも参照した新田他 (2004)では,現金受け払いの「事実」とその「原因」の複式記録に続いて,

次のように述べられている。「この場合,取引がすべて複式に記入されてき たから,収支原因計算書が計算する5,000円(収支差額のこと:岡田)は現 金出納帳の在高5,000円に一致するとともに,左右の金額も一致する。複式 に記入することは左右の金額の一致を保証し,これまでの記録が正しかった ことを示す機能もある。

p

.17)

しかし,仮に現金受け払いの理由を記した計算書を示すとすれば,図2の ような様式もあると考えられる19。第1節でも述べたように,藤田(1987)に よれば,T字型の借方が被減数,貸方が減数となるからである。この考えを そのまま適用するなら,図2のように,理由や原因も現金出納帳の記録と同 じ側に記録しても別に問題ないと考えられる。

このため,図2は図1と基本的に変わらない。しかし,図2は,現金出納 の理由を対象としているものであり,現金それ自体を記録の対象とはしてい ない。したがって,貸方の摘要欄には「現金残高」ではなく「収支差額」と 記載している。いうまでもなく,図2の場合も貸方の「収支差額15,000」の 記録により,収支差額の検算による計算ミスのチェックはなされている20

図2 現金出納の理由を示した計算書

給 料 100,000 家 賃 60,000

バイト代 50,000 本 代 5,000

食 事 代 70,000 収支差額 15,000

150,000 150,000

(出所:筆者作成)

19 厳密に言えば,図2の「現金出納の理由を示した計算書」の前提には,各原因別の記 録があり,それを集約して作成することになるが,この流れについては,藤重他(1993) pp.10‑13を参照。

20 ただし,図2のような計算書を作るとした場合,現金出納を引き起こした理由自体の 正確性の問題が生じる。これは,図1の摘要欄の記録についても同様である。このこと については,証憑等の外部的な証拠に頼ることになるであろう。

(8)

ここで問題になるのは,タイプ②のような収支計算書,すなわち借方に現 金の支出額,貸方に収入額を記録した収支計算書が生じる理由である。この ことを,現金出納帳の現金残高と現金受け払い(出納)を引き起こした理由 に基づく収支差額との一致の確認(照合)という点から考察してみる。もし 両者が一致していれば,現金出納帳における現金残高の正確性は,それを引 き起こした理由の観点からも確認できたといえるのである。この関係を,式 で示せば次のようになる。そして,両者の一致を確認するだけであるなら,

図2のような記録でも十分にその役割を果たせるであろう。二つの計算結果 を目視すれば十分だからである。

現金出納帳の現金残高=現金出納理由に基づく収支差額

しかし,もし不一致であれば,金額の誤記や現金出納の記録漏れなど,不 一致の原因を調査することが必要となる。この原因調査にあたり,現金残高 と収支差額との差額を計算することも有効である。このためには,一方から 他方を控除して,その答えが0になるかどうかを確認することになる。この 計算には,以下の二通りがある。

現金出納帳の現金残高−現金出納理由に基づく収支差額=0 ………(1) 現金出納理由に基づく収支差額−現金出納帳の現金残高=0 ………(2)

ここで現金出納帳の残高は,式(3)に示す計算式で求めることができる。

現金出納帳の現金残高=期首現金残高+期中現金受入額−期中現金支払額 …(3)

これに対して,収支差額は,式(4)で示す計算で求めることができる。

収支差額=前期収支差額+期中現金受入原因額−期中現金支払原因額 …(4)

式(3)および式(4)を,式(1)及び式(2)に代入すれば,式(1)′および式(2)′

のようになる。

(9)

(期首現金残高+期中現金受入額−期中現金支払額)

−(前期収支差額+期中現金受入原因額−期中現金支払原因額)

=期首現金残高+期中現金受入額−期中現金支払額

−前期収支差額−期中現金受入原因額+期中現金支払原因額=0 …(1)′

(前期収支差額+期中現金受入原因額−期中現金支払原因額)

−(期首現金残高+期中現金受入額−期中現金支払額)

=前期収支差額+期中現金受入原因額−期中現金支払原因額

−期首現金残高−期中現金受入額+期中現金支払額=0…………(2)′

ここで,式(1)′の計算をT字型で表示すれば,図3のようになる。

図3 式(1)′

期 首 現 金 残 高 期 中 現 金 支 払 額 期 中 現 金 受 入 額 前 期 収 支 差 額 期 中 現 金 支 払 原 因 額 期 中 現 金 受 入 原 因 額

(出所:筆者作成)

図3に基づいて,借方の「期中現金支払原因額」と貸方の「前期収支差額」

および「期中現金受入原因額」とを集計すれば,図4に示すようなタイプ② の収支計算書が出来上がる。すなわち,これは,現金出納帳で計算された期 末現金残高を,期中の現金の受け払いの原因の視点から説明した収支計算書 と言えるであろう。

図4 式(1)′に基づく収支計算書

期 中 現 金 支 払 原 因 額 前 期 収 支 差 額 期 中 現 金 受 入 原 因 額

(出所:筆者作成)

(10)

これに対して式(2)′をT字型で表示すると図5のようになる21

図5 式(2)′

前 期 収 支 差 額 期 中 現 金 支 払 原 因 額 期 中 現 金 受 入 原 因 額 期 首 現 金 残 高 期 中 現 金 支 払 額 期 中 現 金 受 入 額

(出所:筆者作成)

図5に基づいて,借方の「前期収支差額」および「期中現金受入原因額」

と貸方の「期中現金支払原因額」とを集計すれば,図6に示すようなタイプ

①の収支計算書が出来上がる。

図6 式(2)′に基づく収支計算書

前 期 収 支 差 額 期 中 現 金 支 払 原 因 額 期 中 現 金 受 入 原 因 額

(出所:筆者作成)

図4,図6ともに貸借差額が期末の収支差額となる。

しかし,図5の場合,現金出納帳の記録が現実の現金出納帳の記録と貸借 逆となり,現実のものとは整合しない。タイプ①のような収支計算書が生じ るのは,現金出納帳の摘要欄を利用したものといえるであろう。

改めていうまでもなく,図3の場合,以下のように記録が対応している。

借方:期 中 現 金 受 入 額 ⇔ 貸方:期中現金受入原因額 借方:期中現金支払原因額 ⇔ 貸方:期 中 現 金 支 払 額 これを反映して図2を書き換えると図7のようになる22

21 佐藤(1988)では,資金勘定組織を組み入れた修正済残高試算表から,収支計算書を貸 借対照表及び損益計算書と合せて作成する精算表を示している(pp.33‑35)。

22 本稿で使用した例では,現金の期首残高がないため,図7と図4とが相違しているよ うにみえるが,期首残高がある場合には,貸方にその金額を「前期収支差額」として記 載することとなる。

(11)

図7 現金出納の理由を示した計算書2

家 賃 60,000 給 料 100,000

本 代 5,000 バイト代 50,000

食 事 代 70,000 収支差額 15,000

150,000 150,000

(出所:筆者作成)

現金受け払いとそれを引き起こした理由を示した対照的な記録の背後に は,このように現金出納帳における現金残高計算を,それをもたらした原因 記録で検証する仕組みがあるということができると思われる。

むすびに代えて

本稿では,現金出納帳における現金受け払いの記録(出納記録)に基づき 計算された現金残高と現金受け払いを引き起こした原因の記録に基づく収支 差額との一致の確認という観点から,貸借複記に関する試論を述べた。これ によって,現金残高の正確性を確認することは可能といえるだろう。つまり,

新田他(2004)で述べられているような貸借複記とそれに基づく収支計算書の 形式は,現金出納帳における現金残高の計算とそれを引き起こした理由に基 づく収支差額との一致を一つの記録体系の中に織り込んだものといえるだろ う。しかし,これはタイプ①の収支計算書を否定するものではないと思われ る。いわゆる単式簿記(現金出納帳だけしかない場合)であれば,その摘要 欄を利用した収支計算書の作成もあり得るからである。

しかし,現実に企業で利用される簿記は,貸借対照表と損益計算書を導出 するものである。具体的に財務諸表を導出する貸借複式簿記にまで展開する ためには,他の資産,さらには負債や費用・収益項目の成立が必要である。

したがって,本稿で示した考えが,企業における貸借複式簿記にまで展開可 能か否かということは,今後の検討課題である。

(12)

参 考 文 献

新井清光,出塚清治(1981)『やさしい公益法人会計』公益法人協会 岩田巌(1956)『利潤計算原理』同文舘

岡田裕正(1999)「企業会計の基本的計算構造論」『経営と経済』(長崎大学経済学会)第79 巻第3号

久野光朗編著(1990)『簿記論講義』(第9版)同文舘 久野光朗編(2006)『簿記論テキスト』(改訂版)同文舘 黒澤清(1954)『全訂商業簿記』千倉書房

黒澤清(1990)『新編簿記Ⅰ』(第7刷)一橋出版

佐藤倫正(1988)「資金計算の構造−財政状態変動一覧表の教育効果−」『会計』第133巻第 6号

陣内良昭(1978)「会計における複記性原理について」『東京経大学会誌』(東京経済大学)

第108号

新田忠誓,村田英治,佐々木隆志,溝上達也,神納樹史(2004)『会計学・簿記入門』(新訂 第2版)白桃書房

沼田嘉穂(1988)『簿記教科書(四訂新版)』同文舘 馬場克三(1975)『会計理論の基本問題』森山書店

藤重義則,上野清貴,岡田裕正(1993)『利益会計の基礎』同文舘 藤田昌也(1987)『会計利潤論』森山書店

宮上一男(1984)『簿記会計の基礎』森山書店 安平昭二(1993)『簿記要論(三訂版)』同文舘

山下勝治(1954)「二つの収支計算思考」『シュマーレンバッハ研究』(神戸大学会計学研究 室編)所収,森山書店

山桝忠恕(1976)『複式簿記原理(改訂版)』千倉書房

参照

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