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放射線の急性障害

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128 2011

ト ピ ッ ク ス

放射線の急性障害

奥羽大学口腔機能分子生物学講座口腔生化学  前 田 豊信   去 る3月 の 福 島 第 一 原 子 力 発 電 所 の 事 故 で,

福 島 県 内 の み な らず 日本 国 内 で は,大 変 な混 乱 が 生 じて い る。 事 故 発 生 当 時,政 府 発表 で 多用 され た 「直 ち に人 体 に 影 響 を 与 え る もの で は な い」 は, 私 の な か で 大 変 印 象 に残 っ た 。 こ の 「直 ち に 人 体 に 影 響 を与 え る」 につ い て 考 えて み た い と思 う。

  私 の よ う な 門 外 漢 が,「 直 ち に 人 体 に影 響 を 与 える レベ ル 」 と聞 く と,「急 性 障 害 の 出 る レ ベ ル 」 と連 想 して しま う。 現 在 の と こ ろ政 府 は,国 際 放 射 線 防 護 委 員 会(ICRP)の 勧 告 に従 い,発 が ん リス ク が高 ま る レベ ル(20‑100msv)〜 急 性 障 害 の 出 る レベ ル(500msv)以 上 と して い る1)。

こ の 急 性 障 害 に つ い てICRPは,500msvで リ ン パ 球 が減 少,1Svで 約10%の 人 が 嘔 吐,3Sv以 で 約50%の 人 が,7sv以 上 で す べ て の 人 が 死 亡 す る と して い る2)。こ の と き,特 に 問題 と な る の が, 放 射 線 高 感 受 性 の 組 織(骨 髄 と腸 管 〉 の 細 胞 死 で

あ る。 昨 今,放 射 線 誘 導 性 ア ポ トー シス の 分 子 機 構 が 明 らか に な りつ つ あ る 。

  p53は53  kDaの タ ンパ ク で,コ ー ドす る遺 伝 子 は が ん抑 制 遺 伝 子 と して 知 られ て い る。 これ は, p53が 細 胞 周 期 のG1→Sの 移 行 時 に働 き,内 部 経 路 を促 進 させ,ア ポ トー シ ス を促 進 させ る。 ま た, 約 半 数 の が ん 細 胞 でp53の 欠 失 や 変 異 が 見 つ か っ て い る。 一 方 で,p53の 機 能 と して, DNA修 復 機 能 も よ く知 られ て い る。 こ の相 反 す る機 能 発 現 は, p53の 下 流 で 決 定 さ れ る。 す な わ ち, p53AIP1が 活 性 化 す る と ア ポ トー シ ス が,p53R2が 活1生化 す

る と損 傷 したDNAの 修 復 が 行 わ れ る。 つ ま り, p53は 細 胞 の生 死 を決 定 す る と もい え る3)。

  放 射 線 の 急 性 障 害 で は,こ のp53の 転 写 と下 流 のp53AIP1が 活 性 化 す る こ と が 知 ら れ て い る。

従 っ て,p53の 転 写 を 抑 制 す る と,高 感 受 性 組 織 で の ア ポ トー シ ス が抑 制 され るの で は な い か,と

い う観 点 か ら研 究 され て い る の が,放 射 線 防 護 剤 で あ る 。 従 来 か らp53転 写 抑 制 剤 と して 知 られ て い る も の に,サ リチ レー ト,塩 化 カ ドミ ウ ム,ピ フ ィ ス リ ン α な ど が あ る。 し か し,こ れ ら はin vitroで,放 射 線 誘 発 ア ポ トー シ ス は 十 分 に 抑 制 で き な か っ た 。 最 近,オ ル トバ ナ ジ ン酸 ナ トリウ

ム(バ ナ デ ー ト)は,p53転 写 と ア ポ トー シ ス を 有 意 に抑 制 した,と い う報 告 が な され た4)。これ は, 他 のp53阻 害 剤 は, p53の 転 写 活 性 化 に よ る, PUMAやNoxaな どの 標 的 遺 伝 子 発 現 を介 し た, 転 写 依 存 性 経 路 に 効 果 を示 す 。 一 方 で,最 近 報 告5)

され て い る,転 写 非 依 存 性 経 路 は 抑 制 で きず,バ ナ デ ー トの み が こ の経 路 を も抑 制 す る こ とが,特 徴 で あ る と して い る 。

  この 報 告 か ら,急 性 放 射 線 障害 に対 して,バ デ ー トで 完 全 に予 防 で き る と も思 え る。 しか し, p53阻 害 剤 はp53が 活 性 化 す る 前(被 曝 前)に 与 しな くて は な らな い 。 これ は,放 射 線 が ん 治 療 で は 有 効 だ が,突 発 的 な 事 故 な どへ の 応 用 は 難 し い こ と を示 唆 す る。 ま た,放 射 線 誘 導 性 ア ポ トー シ ス で は,p53非 依 存 性 経 路 も知 られ て い る6)。こ の こ とか ら,バ ナ デ ー トに は放 射 線 防 護 剤 と して 急 性 障 害 予 防 に,一 定 の 効 果 が期 待 で き るが 無 欠 で な い と思 わ れ る。 い ず れ にせ よ,私 た ち が 原 発 を含 め た 放 射 性 物 質 を,安 全 に扱 え る 日が早 く来 る こ と を切 に 祈 る。

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo‑

21‑d11.pdf

ICRP.1990  Recommendations  of the  Interna‑

tional  Commission  on  Radiological  Protection.

ICRP  Publication  60  1991.

Oda,  K,Arakawa,  H., Tanaka,  T., Matsuda,  K.

et  al.:p53AIP1,  a potential  mediator  of p53‑

dependent  apoptosis,  and  its regulation  by Ser‑46‑phosphorylated  p53.  Cell.102;

849‑862  2000.

Morita,  A.,Yamamoto,  S., Wang,  B., Tanaka,  K.

et  al.:Sodium  orthovanadate  inhibits  p53‑

mediated  apoptosis.  Cancer  Res.  70;257‑265   2010.

Erster,  S.  and  Moll,  U.  M.:Stress‑induced p53  runs  a transcription‑independent  death program.  Biochem  Biophys  Res  Commun.  331

;843‑850   2005.

Potten,  C.  and  Wilson,  J.:Apoptosis  The  Life and  Death  of  Cells.  Cambridge  University Press.  2004.

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参照

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