論 説
テ ロ
・ 難 民 に 関 す る E U 基 本 諸 条 約 お よ び E U 移 民 法 の 枠 組 み と
﹁ 移 動 の 自 由 ﹂
新 井 信 之
は じ めに 一 テロ
・ 難 民に 関 する 近 年の 動 向 ヨ ー ロ ッパ に おけ る テロ リ ズ ムの 脅 威
㈠ 二
〇 一五 年 のパ リ 同時 多 発 テロ 事 件
㈡ テ ロ 行為 の 頻発 移 民
・ 難民 の 大量 流 入と シ リ ア難 民 の発 生
㈠ 移 民
・難 民 の急 増
㈡ シ リ ア難 民 の危 機 的状 況 欧 州 連 合︵ E U︶ と トル コ の 難民 送 還協 定
㈠ 難 民 送還 協 定の 締 結
一
㈡ 送 還 協定 の 内容
㈢ 送 還 協定 の 現況 と 問題 点 テ ロ
・ 難民 へ の排 斥 感情 の 勃 興 二 欧州 連 合
︵E U
︶の 基 本諸 条 約 の枠 組 み 欧 州 連 合︵ E U︶ 存 立の 基 本 理念 と 法体 系
㈠ 基 本 理念 と 諸条 約
㈡ 欧 州 連合
︵ EU
︶ の法 体 系 基 本 諸 条約 に おけ る テロ
・ 難 民に 関 する 規 定と そ の 背景
㈠
﹁ 移 動の 自 由
﹂の 歴 史的 背 景と 一 般 規定 の 枠組 み
㈡ テ ロ リズ ム
・犯 罪 防止 等 に 関す る 諸規 定
㈢ 移 民
・難 民 庇護 に 関す る 諸 規定 シ ェ ン ゲン 協 定と ダ ブリ ン 規 則
㈠ シ ェ ンゲ ン 協定 に よる
﹁ 移 動の 自 由﹂ の 確立
㈡ 難 民 の受 け 入れ と ダブ リ ン 規則 三 EU 移 民 法に お ける 出 入国
︵ 域
︶管 理 の枠 組 み E U 移 民法 の 概要
㈠ E U 移民 法 の特 徴
㈡ E U 移民 法 の重 層 的構 造 E U 移 民法 に おけ る 出入 国
︵ 域︶ 管 理制 度
㈠ シ ェ ンゲ ン 協定 圏 域内 の 出 入国
︵ 域︶ 管 理
㈡ 欧 州 連合
︵ EU
︶ の域 外 国 境管 理
二
㈢ E U 構成 国 との 連 携・ 協 力 の脆 弱 性 四 テロ
・ 難 民の 排 斥と
﹁ 移動 の 自 由﹂ の 相克 欧 州 連 合︵ E U︶ の テロ
・ 難 民対 策 の実 施
㈠
・ ア メ リカ 同 時多 発 テ ロ事 件 のイ ン パク ト
㈡ イ ス ラム 過 激派 に よる テ ロ への 警 戒体 制
㈢ E U 域外 国 境・ 沿 岸警 備 の 強化
㈣ 出 入 国︵ 域
︶管 理 情報 の 共 有化 基 本 権 保障 の ジレ ン マ
㈠ シ リ ア難 民 への 処 遇
㈡ 基 本 権保 障 のパ ラ ダイ ム
㈢ 基 本 権保 障 の限 界 欧 州 連 合︵ E U︶ の 存立 と
﹁ 移動 の 自由
﹂ の展 望
㈠ 移 民
・難 民 の流 入 とテ ロ リ ズム の 因果 関 係
㈡ ヨ ー ロッ パ 統合 と
﹁移 動 の 自由
﹂ の動 揺
㈢ 危 機 管理 と 人権 保 障の 止 揚 お わ りに
三
は じ め に
近年 の ヨ ー ロッ パ に お い ては
︑ イ ス ラム 系 過 激 派 組織 の 活 動 が活 発 化 す る中
︑ 二
〇 一 五年 一 一 月 一三 日
︑ フ ラン ス の パ リ で 死 者 一 三 二 名︑ 重 軽 傷 者 三 二
〇 名 あ ま り の 犠 牲 者 を 伴 な う 同 時 多 発 テ ロ 事 件 が 発 生 し た
︒実 行 犯 は
︑ ベ ル ギ ー 生ま れ の 移 民二 世
・ 三 世の イ ス ラ ム 過激 派 で あ った
︒ さ ら に翌 二
〇 一 六 年三 月 に は
︑ベ ル ギ ー の ブリ ュ ッ セ ルで 多 発テ ロ が 発 生 し︑ ま た 同 年七 月 に は ニー ス で も テ ロ事 件 が 起 きる な ど
︑ ヨ ーロ ッ パ で はこ こ 一
〇 年で 最 も 深 刻 なテ ロ の脅 威 に 直 面し て い る と いわ れ て い た︵︶
︒ それ と と も に
︑中 東 や ア フリ カ か ら 殺到 す る 難 民 や移 民 へ の 対応 を め ぐ って
︑ 欧 州 連 合︵ E U
︶ の動 き も 活 発と な り
︑二
〇 一 五 年 一 二 月 に は E U の 首 脳 会 議 で あ る 欧 州 理 事 会
︵
Eur ope an C ounc il
︶ が ブ リ ュ ッ セ ル で 始 ま っ た
︒ こ こ で は︑ E U 構 成 国の 領 域 内 外の 国 境 を 警備 す る E U 直轄 の
﹁ 欧 州国 境
・ 沿 岸 警備 隊
﹂ の 創設 が 焦 点 とな っ て い た
︒こ れ は︑ 難 民 や 移民 が ギ リ シ ャや ハ ン ガ リー
︑ ク ロ アチ ア の 国 境 に殺 到 し
︑ 国ご と の 対 応 には 限 界 が ある こ と が 浮き 彫 り に な っ た た め で あ っ た
︒ 欧 州 理 事 会
︵
Eur ope an C ounc il
︶ で は
︑ シ リ ア の 隣 国 で 二
〇
〇 万 人 以 上 の 難 民 が と ど ま る ト ル コか ら E U 構成 国 に 難 民を 受 け 入 れ る﹁ 第 三 国 定住
﹂ 策 の 拡 大に つ い て も協 議 す る こと に な っ た が︑ ハ ン ガ リー な ど中
・ 東 欧 諸 国は 各 国 へ の割 り 当 て に反 対 す る 姿 勢を 示 し た
︒ま た
︑ 同 会 議で は
︑ 不 法移 民 を 強 制送 還 す る 組 織を 設 置す る 方 針 でも 一 致 し た
︒そ の 理 由 は︑ 中 東 な ど から 欧 州 に 押し 寄 せ る 人た ち の 中 に は難 民 だ け でな く 不 法 移民 や テ ロリ ス ト が 含ま れ て い る との 反 発 が EU 構 成 国 の各 国 に 強 い ため で あ っ たか ら で あ る︵︶
︒ この よ う な 状況 に お い て
︑ヨ ー ロ ッ パに お け る 移 民・ 難 民 問 題は
︑ 大 量 難民 の 流 入 と テロ リ ス ト が結 び つ け られ て
四
議 論さ れ る よ うに な り︵︶
︑ 二
〇一 五 年 一 一月 一 三 日 の パリ 多 発 テ ロ事 件 以 降
︑も は や テ ロ に対 す る 安 全保 障 の 危 機的 状 況 と切 り 離 し ては 考 え ら れ ない と さ れ るの で あ っ た︵︶
︒ま た
︑ E U各 国 の 国 粋主 義 者 た ち の間 で は
︑ 当初 シ リ ア 難 民に つ いて は 暗 黙 の拒 否 反 応 で あっ た も の が同 テ ロ 事 件に よ っ て い っき に 表 面 化し
︑ 移 民
・ 難民 の 流 入 はE U を 脅 かす 外 部 から の 戦 争 行為 の 一 形 態と し て 主 張 され る よ う にな っ た
︒ テ ロリ ス ト た ちは
︑ 大 勢 の移 民
・ 難 民 集団 の 中 に 隠れ る 潜在 的 な 脅 威 であ り
︑ い つで も ヨ ー ロッ パ に 入 り 込む こ と の 出来 る 危 険 な 存在 で あ る とい う の で ある
︒ す な わ ち︑ す べて の 難 民 と移 民 は 潜 在 的な テ ロ リ スト で あ り
︑ ロー マ 帝 国 時代 の 不 道 徳 な 異 邦 人
︵
ba rba ria n
︶ に も 匹 敵 す る と 強 硬 に 主張 す る も の もあ っ た︵︶
︒ さら に は
︑ 昨今 の テ ロ と 難民 危 機 の 問題 は
︑ 単 に 人の 流 入 を 規制 す る だ けで は な く
︑ そも そ も ヨ ーロ ッ パ の 統合 は 間 違っ て い た のか と い う よ うな 疑 問 が 呈さ れ
︑﹁ 移 動の 自 由
﹂に よっ て 促 進 され て き た ヨー ロ ッ パ の 統合 を 揺 る がし
︑ 分断 の 危 機 に さら す も の とし て 大 き な 論議 を 呼 び 起こ す も の とな っ て い る︵︶
︒ 二〇 二
〇 年 一月 三 一 日 にE U か ら イ ギリ ス が正 式 に 脱 退し た の も
︑ 移民
・ 難 民 の大 量 流 入 によ る 経 済 や 治安 の 悪 化 を懸 念 す る こ とが そ の 理 由の ひ と つ と考 え ら れて い る
︒ ヨー ロ ッ パ 統合 の 過 程 を 促進 す る E Uと し て は
︑ 構成 国 の さ らな る 脱 退 の懸 念 を 鎮 め るた め に も イギ リ スと の 離 脱 交 渉に 際 し て は厳 し い 姿 勢 をも っ て 臨 んで き た の であ る︵︶
︒ 本稿 で は
︑ 昨今 の ヨ ー ロ ッパ に お け るテ ロ 事 件 と 大量 難 民 の 流入 が も た らす 危 機 的 な 状況 を 受 け 止め
︑ そ れ を乗 り 越 えて い か な くて は な ら な いE U 存 立 の核 心 部 分 とも い え る
﹁ 移動 の 自 由
﹂と そ の 制 度的 枠 組 み の 検証 を 試 み るも の であ る
︒ ま ず
︑第 一 に
︑ テロ と 難 民 危 機の 近 年 の 動向 を 整 理 し︑ 次 い で
︑ それ に 対 応 する べ く E Uの
﹁ 移 動 の 自由
﹂ に関 す る 基 本 理念 と 法 的 枠組 み を 検 証し つ つ
︑ テ ロ・ 難 民 の 排斥 と
﹁ 移 動の 自 由
﹂ の 相克 に つ い て検 討 を お こ なう
︒ そし て
︑ こ れら か ら 導 か れる 今 後 の 課題 と 展 望 につ い て 考 え てみ た い と 思う
︒
五
一 テ ロ
・ 難 民 に 関 す る 近 年 の 動 向
ヨ ー ロ ッ パに お け る テ ロリ ズ ム の 脅威
㈠ 二
〇 一 五年 の パ リ 同 時多 発 テ ロ 事件 二〇 一 五 年 一一 月 一 三 日 夜︑ パ リ 中 心部 の コ ン サー ト ホ ー ル やカ フ ェ な どを 武 装 集 団 が襲 撃 し
︑ 市民 一 三
〇 人が 死 亡
︑多 数 が 負 傷し た
︒ 過 激派 組 織
﹁ イ ス ラ ム 国
﹂︵ IS
︶ が
︑ 仏 の シ リ ア 空 爆 へ の 報 復 だ と す る 犯 行 声 明 を 出 し た︒ 襲 撃実 行 犯 ら は 主に フ ラ ン スや ベ ル ギ ー出 身 の 若 者 で︑ そ の ほ とん ど は
︑ 犯行 当 日 や そ の後 の 治 安 部隊 と の 銃 撃 戦で 死 亡し て い る
︒フ ラ ン ス 司 法省 は 同 月 一九 日
︑ 本 件パ リ 同 時 多 発テ ロ 事 件 の首 謀 者 で
︑ベ ル ギ ー 国 籍の ア ブ デ ルア ミ ド
・ア バ ウ ド 容疑 者 の 死 亡を 確 認 し た と発 表 し た
︒指 紋 や 掌 紋な ど の 身 体 的特 徴 か ら 身元 を 確 認 し
︑ア バ ウ ド 容疑 者 は過 激 派 組 織
﹁イ ス ラ ム 国﹂
︵ I S
︶ のメ ン バ ー で あ る こ と が 判 明 し た と さ れ る
︒ 当 時 の カ ズ ヌ ー ブ 内 相 は
︑ フ ラ ン ス が二
〇 一 五 年の 春 以 降
︑ 未然 に 防 い だテ ロ 事 件 六件 中 四 件 に 同容 疑 者 が 関与 し て い ると 発 言 し た
︒事 件 は 発 生か ら 六日 で 大 き な 節目 を 迎 え たが
︑ フ ラ ン スや ベ ル ギ ーな ど 関 係 国で テ ロ 情 報 の収 集 や 分 析に 課 題 を 残し て い た
︒ 仏政 府 は当 初
︑ 今 回 のテ ロ が
﹁ シリ ア で 計 画さ れ た
﹂ と し︑ ア バ ウ ド容 疑 者 は シリ ア か ら 実 行犯 に 指 示 を出 し て い る とみ て いた
︒ だ が その 後
︑ 同 一 九日
︑﹁ ア バウ ド 容 疑 者 がギ リ シ ャ に い た
︑と い う 情 報 を 欧 州 外 の 国 か ら 得 た の は 一 六 日 に なっ て か ら だ った
﹂ と さ れ︑ E U 構 成 国間 の 連 携 不足 を 露 呈 して い た︵︶
︒ また
︑ 捜 査 関係 者 に よ る とア ブ デ ル アミ ド
・ ア バ ウド 容 疑 者 が︑ シ リ ア から の 難 民 に 紛れ て 事 件 の二 カ 月 前 にギ リ シ ャ に 入 国 し た と 話 し て い た こ と が わ か っ た
︒ 同 容 疑 者 は 学 校 や 交 通 機 関 を 狙 っ た 新 た な テ ロ も 計 画 し て い た と い
六
う
︒ア バ ウ ド 容疑 者 の 発 言 や足 ど り に つい て
︑ フ ラ ンス 警 察 当 局が 得 た 重 要参 考 人 の 供 述と さ れ る 情報 が フ ラ ンス の 雑 誌で 報 じ ら れた
︒ ロ イ タ ー通 信 は
︑ シリ ア に 渡 った ア バ ウ ド 容疑 者 が
︑ 難民 流 入 に よる 混 乱 に 乗 じて 簡 単 に 欧州 に 戻っ た と 自 慢 げに 語 っ た
︑と い う 供 述 を確 認 し た とし て い る
︒ギ リ シ ャ 紙 カテ ィ メ リ ニも 二 七 日
︑ア バ ウ ド 容 疑者 と 一致 す る D N A型 が 今 年 一月
︑ ア テ ネの 集 合 住 宅 二カ 所 で 検 出さ れ て い たと 報 じ た
︒ 仏政 府 が 同 容疑 者 の 死 亡 後︑ D NA 情 報 を ギリ シ ャ な ど EU 構 成 国 に送 付 し て いた と い う の であ る︵︶
︒
㈡ テ ロ 行 為の 頻 発 近年 の ヨ ー ロッ パ に お い ては
︑ 本 件 テロ 事 件 以 前に お い て も
︑二
〇
〇 四 年三 月 の ス ペ イン
・ マ ド リー ド 列 車 爆破 テ ロ 事件
︑ 二
〇
〇五 年 七 月 のイ ギ リ ス
・ ロン ド ン 同 時爆 破 テ ロ 事 件︑ 二
〇 一 四年 五 月 に はベ ル ギ ー
・ ブリ ュ ッ セ ルの ユ ダヤ 博 物 館 で の発 砲 事 件
︑二
〇 一 五 年 一月 に は フ ラン ス の パ リで シ ャ ル リ ー・ エ ブ ド 新聞 社 襲 撃 事件 が 発 生 し た︒ さ ら に は
︑二
〇 一 五 年 一一 月 の 本 件テ ロ 事 件 を 経て
︑ 翌 二
〇一 六 年 三 月の ベ ル ギ ー
・ブ リ ュ ッ セル 多 発 テ ロ事 件
︑ 二〇 一 六 年 七月 の フ ラ ン ス・ ニ ー ス
・ト ラ ッ ク 暴走 テ ロ 事 件
︑二
〇 一 六 年一 二 月 の ドイ ツ
・ ベ ル リン
・ ト ラ ック 暴 走 テロ 事 件
︑ 二〇 一 七 年 三月 の イ ギ リ ス・ ロ ン ド ン・ ウ ェ ス トミ ン ス タ ー 襲撃 テ ロ 事 件︑ 二
〇 一 七年 四 月 の ス ウェ ー デ ン
・ ス ト ッ クホ ル ム
・ トラ ッ ク 暴 走テ ロ 事 件
︑ 二〇 一 七 年 四月 の フ ラ ンス
・ パ リ
・ シャ ン ゼ リ ゼ襲 撃 テ ロ 事 件︑ 二
〇 一 七 年 五 月の イ ギ リ ス
・マ ン チ ェ スタ ー ア リ ーナ 自 爆 テ ロ 事件
︑ 二
〇 一七 年 六 月 の イギ リ ス
・ ロン ド ン
・ ロン ド ン 橋 襲 撃 テ ロ 事件
︑ 二
〇 一七 年 六 月 の フラ ン ス
・ パリ
・ ノ ー トル ダ ム 寺 院 襲撃 テ ロ 事 件な ど が 発 生 し︑ イ ス ラ ム過 激 派 が 関 係 し て いる と み ら れる 重 大 な テロ 事 件 が 頻 発す る の が 現実 と な っ て いた
︒ す な わち
︑ ヨ ー ロッ パ に お け るテ ロ 事 件 に つ い ては
︑ こ れ ま で民 族 紛 争 や分 離 独 立 派 によ る ヨ ー ロッ パ 地 域 内部 の 独 自 の 要因 に よ る もの が 特 質 とさ れ て き た 七
が
︑明 ら か に 近年 の 状 況 は それ と は 異 なる 国 際 社 会 の情 勢 と E U構 成 国 内 の社 会 状 況 の 変化 に よ る もの と な っ てき た の であ る
︒ 移
民
・ 難 民の 大 量 流 入 とシ リ ア 難 民の 発 生
㈠ 移 民
・ 難民 の 急 増 ヨー ロ ッ パ への 難 民 の 流入 は
︑ 一 九 四〇 年 代 お よび 一 九 五
〇年 代 か ら 漸 次増 加 し て きた
︒ 第 二 次 大戦 後 の 最 初の 一
〇年 間 に 西 ヨ ーロ ッ パ へ やっ て く る 難民 の ほ と ん どは 共 産 主 義国 家 か ら であ っ た
︒ 交 通お よ び 情 報手 段 が 発 達 する と ヨー ロ ッ パ への 道 を 探 ろ うと す る 第 三世 界 か ら の人 的 集 団 を 受け 入 れ る こと に な っ た
︒一 九 七
〇 年代 の 初 頭 には
︑ 世 界に は 五
〇
〇万 人 ほ ど の戦 争 や 動 乱 など に よ る 流民
︵
disp laced perso n
︶が 存 在 し て い た が
︑ そ の 多 く は そ れ ぞ れ の 出 身 国内 や 周 辺 地 域で よ り 安 全な 場 所 を 確 保す る こ と がで き た
︒ ヨー ロ ッ パ 諸 国が 受 け 入 れた 大 き な 人的 集 団 は ボ ート ピ ープ ル と 呼 ばれ る ベ ト ナ ム難 民 で あ った
︒ 二 一 世 紀初 頭 ま で には
︑ 世 界 の難 民 は お よ そ二 千 万 人 にま で 膨 れ 上が り ヨ ーロ ッ パ 大 陸へ の 避 難 を 求め よ う と する 数 が 増 加し た の で あ る︒ ユ ー ゴ スラ ビ ア の 内戦 に よ り 一 九九
〇 年 代 の中 ご ろ にヨ ー ロ ッ パ各 国 へ の 難民 は ピ ー ク に達 し た
︒ だが
︑ そ れ 以降
︑ ヨ ー ロ ッパ に お け る難 民 申 請 の数 は 徐 々 に 下降 し てき て い た︵︶
︒ とこ ろ が
︑ 二
〇一
〇 年 か ら二
〇 一 二 年 にか け て ア ラブ 世 界 で 広が っ た 民 主 化を 求 め る 反政 府 運 動 であ る
﹁ アラ ブ の 春
﹂ に伴 う 社 会 的混 乱 を 逃 れ︑ 北 ア フ リ カ や 中 東 か ら ヨ ー ロ ッ パ へ 流 入 す る 難 民 が 急 増 し た
︒ 二
〇 一 三 年 一
〇月 に は 地 中 海で 難 民 を 乗せ た 船 が 出火
・ 沈 没 し 三六
〇 人 以 上が 死 亡 す る 事件 が 発 生 する な ど し たた め
︑ E U は急 き ょ共 通 の 難 民対 策 強 化 に 乗り 出 し た ので あ っ た︵︶
︒ そも そ も 近 年に お い て は
︑そ れ ま で の政 治 亡 命 者 を含 め
︑ 戦 争や 貧 困 を 逃れ よ う と ヨ ーロ ッ パ に 庇護 を 求 め て入 域
八
し よう と す る 難民 が 増 え て いた
︒ そ の うち
︑ ア ジ ア
︑中 東 な ど から ト ル コ 経由 の 陸 路 を 利用 し て ギ リシ ャ に 向 かう ケ ー スが 最 も 多 いも の で あ っ た︒ 他 方
︑ 北ア フ リ カ から は
︑ 海 路 で最 短 距 離 のイ タ リ ア を目 指 す ル ー トが 一 般 的 であ っ た︒ そ の よ う な意 味 に お いて
︑ イ タ リ アは 難 民 に とっ て E U への 玄 関 口 と なっ て お り
︑ラ ン ペ ド ゥー ザ 島 が そ の最 前 線に 位 置 す る ので あ る
︒ 多く の 難 民 は︑ い っ た ん EU 域 内 に 入る こ と が でき る と 域 内 国境 検 査 を 廃止 し た シ ェ ンゲ ン 協定 に 保 護 され
︑ 域 内 国 境を 越 え て ドイ ツ や ス ウェ ー デ ン な どを 目 指 し てさ ら に 移 動す る の が 現 状で あ っ た︵︶
︒
㈡ シ リ ア 難民 の 危 機 的 状況 欧州 連 合
︵ EU
︶ に と っ て移 民
・ 難 民問 題 が 喫 緊 の課 題 に な った の は
︑ 弾圧 や 迫 害 を 逃れ て 自 国 を脱 出 す る 人の 数 が 急増 し て い るこ と に よ るも の で あ る
︒と く に 二
〇一 五 年 に 入 って か ら は シリ ア 内 戦 の長 期 化 に 伴 い︑ シ リ ア の人 口 二︑ 二
〇
〇 万 人の う ち 四
〇
〇万 人 以 上 が難 民 と し て国 外 に 逃 れ
︑同 国 内 の 避 難 民 を 加 え る と 人 口 の 過 半 数 が 難 民 化 し て いる と い う 状況 で あ っ た︵︶
︒シ リ ア の 人 道 的 状 況 は
︑ 内 戦 の 激 化 や
﹁ イ ス ラ ム 国
﹂︵ IS
︶ の 出 現 な ど に よ り
︑第 二 次 世 界大 戦 後 の 世界 に お い て最 大 の 危 機 であ る と い われ て い る
︒ EU に よ る と二
〇 一 四 年一 二 月 一 一 日の 時 点 で シリ ア 国内 で 人 道 的 な支 援 を 必 要と す る 人 々 は一
︑二 二
〇 万 人 で
︑ そ の う ち 五
〇
〇 万 人 は 子 ど も で
︑ 避 難 民 は 七 六
〇 万 人 と 推 定さ れ た︵︶
︒ EU お よ び E U構 成 国 は
︑こ れ ら の 避難 民 や 周 辺 諸国 に 庇 護 を求 め た 難 民を 経 済 的 に 支援 す る と とも に
︑ E U構 成 国 に庇 護 を 申 請し て き た シ リア 難 民 を 優先 的 に 庇 護し て い た
︒ しか し
︑ シ リア 情 勢 は ます ま す 悪 化 し︑ E U お よび E U 構成 国 は さ らな る 困 難 に直 面 す る こ とに な っ た︵︶
︒ シリ ア の 内 戦に よ り 数 百万 人 の シ リ ア人 が 危 機 的状 況 に 直 面 し選 択 の余 地 な く 身の 安 全 を 求 めて 難 民 と なっ て ヨ ー ロッ パ を 目 指 して い た の であ る︵︶
︒
九
欧 州 連 合
︵E U
︶ と ト ルコ の 難 民 送還 協 定
㈠ 難 民 送 還協 定 の 締 結 地中 海 ル ー トや 西 バ ル カ ン・ ル ー ト を通 っ て シ リア な ど か ら 難民 が 大 量 に流 入 す る 欧州 連 合
︵ E U︶ で は
︑ 域内 外 の 難民 に 人 道 的保 護 を 保 障す る だ け で なく
︑ 域 外 国境 に お い てE U の 域 内 に流 入 し よ うと す る 不 法 移民 を 抑 制 する 措 置が 大 き な 課 題で あ っ た
︒こ れ に つ いて は
︑ ギ リ シャ と シ リ アの 間 に 位 置す る ト ル コ の存 在 が 大 きな ポ イ ン ト であ っ た︒ ト ル コ は︑ 地 理 的 に もシ リ ア を はじ め と し て︑ イ ラ ク や 他の 国 々 か ら多 く の 移 民
・難 民 が 流 入す る と こ ろで あ っ た︒ ト ル コ 国内 で 登 録 され た 難 民 の 数は 既 に 三 一〇 万 人 を 超 え︑ そ の 大 半は シ リ ア 難民 で あ り 同 国は 当 時 の 世界 最 大 の 難 民 受 け 入れ 国 に な って い た
︒ トル コ を 経 由 して 海 を 渡 って E U 構 成 国で あ る ギ リシ ャ に 流 入し た 難 民 は 二〇 一 五 年 に 八 五 万七
︑〇
〇
〇 人を 記 録 し
︑ 二〇 一 六 年 は七 月 ま で に一 五 万 六
︑〇
〇
〇 人 に 達し て い た
︒ EU に と っ てE U 域 内 に 流 入 す る難 民 の 対 策 には ト ル コ の協 力 は 不 可欠 な も の に なっ て い た ので あ る︵︶
︒ 二〇 一 六 年 三月 一 七 日
︑ EU と ト ル コ政 府 は ト ル コか ら ギ リ シャ へ の 難 民流 入 対 策 を 柱と す る
﹁ EU
・ ト ル コ声 明
︵
EU -T ur ke y Sta tem ent
︶﹂
︵
に︶
合 意 し た
︒E U構 成 国 の 中 でも と く に 多く の 難 民 が最 終 目 的 地 とし て 目 指 した ド イ ツ に とっ て
︑難 民 の 大 量流 入 を 阻 止 する た め に はト ル コ の 協力 が 不 可 欠 なも の で あ った
︒ そ の ため E U は
︑ 主要 ル ー ト の一 つ で ある ト ル コ から エ ー ゲ 海を 通 っ て 入 域し よ う と する 難 民 の 抑制 不 能 な 流 入を 食 い 止 める べ く
︑ こ の協 定 に 合 意し た ので あ っ た
︒
㈡ 送 還 協 定の 内 容
﹁E U
・ ト ルコ 声 明
﹂ の主 な 合 意 内 容は 次 の よ うな も の で あっ た︵︶
︒
一
〇
① E U は︑ 二
〇 一 六 年三 月 二
〇 日以 降 に ト ル コか ら ギ リ シャ 諸 島 に 渡っ た 全 て の 不法 移 民 お よび 難 民 と して 認 定 さ れ なか っ た 庇 護 申請 者 を ト ルコ に 送 還 し︑ そ の 費 用 はE U が 負 担す る
︒
② E U は︑ 年 間 七 万二
︑〇
〇
〇 人を 上 限 と して
︑ ト ル コ が 右 の ギ リ シ ャ 諸 島 か ら 送 還 を 受 け 入 れ た シ リ ア 人 の 庇 護 申 請者 数 に 対 し
︑ト ル コ に ある 難 民 キ ャ ンプ か ら 同 数の シ リ ア 人難 民 を E U 構成 国 に 定 住さ せ る
︒
③ E U は︑ 拠 出 が 予 定さ れ て い る三
〇 億 ユ ーロ の 支 払 い を速 め
︑ 資 金を 使 い 切 った 後
︑ 二
〇 一八 年 末 ま での 追 加 資 金 三〇 億 ユ ー ロに つ い て 決 定す る
︒
④ E U は︑ シ リ ア 国内 で 同 国 民や 避 難 民 が より 安 全 な 地域 で 暮 ら せ るよ う
︑ 人 道的 状 況 を 改善 さ せ る た めの あ ら ゆ る共 同 の 取 り 組み に つ い てト ル コ と 連 携す る
︒ 送
還 協 定 の中 で は
︑ E Uと ト ル コ との 間 の 国 境の 不 法 入 国 を防 止 す る こと も 明 記 さ れ︑ 密 入 国 ルー ト を 遮 断す る こ と に よ っ て 密 入 国 斡 旋 業 者 の 活 動 を 防 止 し
︑ E Uの 域 外 国 境 を 守 る た め
︑ 後 述 す る
﹁ 欧 州 対 外 国 境 管 理 協 力 機 関
﹂
︵
FRONTEX
︶ と
﹁ 北大 西 洋 条 約 機構
﹂︵ N AT O
︶ が エ ーゲ 海 域 で 偵 察
・監 視
・ 査 察 活 動 す る た め の 協 力 体 制 を 整 え た
︒ま た
︑ E U 構成 国 と ト ルコ の 間 の 査 証︵ ビ ザ
︶ 自由 化 を 図 り︑ ト ル コ 国 民の ビ ザ 要 件撤 廃 を 目 指す こ と も 含 まれ て いた
︒
㈢ 送 還 協 定 の現 況 と 問 題点 この 合 意 に より 結 果 的 に トル コ か ら EU 構 成 国 へ 流入 す る 移 民・ 難 民 の 数は 著 し く 減 少し た と い われ て い る︵︶
︒ これ に より ト ル コ とE U の 関 係 は良 好 な も のに な る こ と が予 想 さ れ たが
︑ そ の 後の 一 年 間 で その 関 係 は むし ろ 後 退 した と 一 一
い われ る
︒ そ の原 因 は 大 き く二 つ 挙 げ られ る
︒ ま ず
︑第 一 の 理 由は
︑ E U 側が 約 束 し た トル コ 国 民 に対 す る E U構 成 国 への ビ ザ な し渡 航 の 自 由 化が 現 在 で も実 現 し て いな い 点 で あ る︒ 第 二 の 理由 は
︑ ト ルコ に お け る 二〇 一 六 年 七月 一 五日 の ク ー デ タ未 遂 事 件 以降
︑ エ ル ド アン 大 統 領 およ び 公 正 発展 党 が 国 家 非常 事 態 宣 言下 で ク ー デタ 未 遂 に 関 与し た 人物 を 徹 底 的 に排 除 す る 動き を 強 め たこ と で あ っ た︵︶
︒ それ と と も に︑ こ の 送 還 協定 に つ い ては
︑ 二
〇 一 六年 三 月 二
〇日 に 施 行 され る 以 前 か ら法 的 に も 倫理 的 に も いく つ か の点 に お い て問 題 が 指 摘 され て お り
︑E U に と って は 苦 し 紛 れの 土 壇 場 の対 応 で あ ると の 批 判 が なさ れ て い た︵︶
︒そ の ひと つ は 国 際法 上 の 問 題 であ っ た
︒ 難民 と し て 庇 護を 求 め る 者の 受 け 入 れは
︑ 最 初 に 入国 し た 構 成国 に 要 求 する ダ ブ リン 規 則︵︶ に 違反 し
︑ 域 内 での 個 人 の 自由 な 移 動 を 保障 す る シ ェン ゲ ン 協 定シ ス テ ム が 脅威 に さ ら され る 恐 れ があ る と いう の で あ る︒ ま た
︑ ト ルコ の よ う な第 三 国 へ 難民
︵ 庇 護
︶ 申請 者 を 移 送す る 場 合
︑そ れ は 個 別 的な 審 査 と 決定 を 経 たう え で の み認 め ら れ る︒ そ し て
︑ 集団 的 な 送 還の 禁 止 お よび 難 民 を そ の者 の
﹁ 生 命ま た は 自 由が 脅 威 に さ らさ れ るお そ れ の あ る領 域 の 国 境へ 追 放 し また は 送 還 し ては な ら な い﹂ と 難 民 条約 三 三 条 一 項に 規 定 さ れる ノ ン
・ ル フー ル マン 原 則 が 考慮 さ れ な く ては な ら ず
︑ト ル コ が 申請 者 に と っ ての 安 全 な 第三 国 で あ る かど う か 疑 問で あ る と いう も の であ っ た︵︶
︒ テ
ロ
・ 難 民へ の 排 斥 感 情の 勃 興 この よ う な 状況 の 中 で
︑ 多く の ヨ ー ロッ パ 人 が 難 民の 増 加 は テロ の 危 険 性を 増 加 さ せ ると 考 え る よう に な っ たと い わ れて い る︵︶
︒ メデ ィ ア の 多 くも イ ラ ク やシ リ ア の よ うな 紛 争 地 域か ら 流 入 する 大 量 難 民 が自 分 た ち の国 に 大 き な脅 威 を 与え
︑ 自 分 たち の 国 で テ ロ行 為 を 引 き起 こ す 可 能性 を 増 大 さ せる も の と 報道 し て い た︵︶
︒
一 二
チェ コ
︑ ハ ンガ リ ー
︑ ポ ーラ ン ド
︑ スロ バ キ ア な どの E U 構 成国 の 政 府 首脳 た ち も
︑ それ ま で ヨ ーロ ッ パ へ の大 量 難 民の 流 入 を
﹁組 織 的 な 侵 略﹂ で あ る とか
︑ と く にイ ス ラ ム 系 難民 に つ い ては
﹁ 受 け 入れ 不 可 能
﹂ であ る と か
︑庇 護 申 請者 が 国 境 のフ ェ ン ス を破 っ て 入 国 した こ と を
﹁テ ロ 攻 撃
﹂で あ る と か
︑ま た E U の難 民 政 策 をテ ロ リ ズ ム を呼 び 込む
﹁ ト ロ イ の木 馬
﹂ で ある な ど と して
︑ 難 民 の 流入 や か れ らの 権 利 に つい て 敵 対 的 な態 度 を 示 して い た
︒ と ころ が 二〇 一 五 年 一一 月 の パ リ 同時 多 発 テ ロ事 件 以 降
︑か れ ら は 庇 護申 請 者 の 入国 に つ い て 政治 的 信 念 とも い え る よう な 頑 なな 拒 否 反 応を 示 す よ うに な っ た の であ る
︒ す なわ ち
︑ そ れま で あ っ た 難民 流 入 に 反対 す る 気 運 が同 テ ロ 事 件に よ っ て 受 け 入 れ を拒 絶 す る 格好 の 理 由 にさ れ
︑ そ の 後の テ ロ 行 為の 頻 発 と そ れに 対 す る 恐怖 心 が さ らな る 反 難 民
・反 移 民 感 情 と 強 硬な 政 策 の 実 施を 引 き 起 こし て し ま っ たの で あ る︵︶
︒ たし か に
︑ ヨー ロ ッ パ に おけ る 近 年 のテ ロ 行 為 の ほと ん ど は 地元 出 身 者 によ っ て 引 き 起こ さ れ た もの で あ り
︑新 た に EU に 入 域 した 庇 護 申 請 者や 難 民 に よる も の で はな い の で あ るが
︑ テ ロ 行為 者 の 多 くは 移 民 に ル ーツ を 持 つ もの で あ った こ と も 否め な い 事 実で あ っ た
︒ その た め 移 民・ 難 民 の 受け 入 れ に 関 する 近 年 の 議論 は
︑ ヨ ーロ ッ パ で あ れど こ であ れ
︑移 民
・ 難 民 の流 入 と テ ロリ ス ト に よる 安 全 保 障 上の 恐 怖 が 結び つ い て 広 く公 の 関 心 事と な っ て いた
︒そ し て
︑ 反移 民 の ポ ピュ リ ス ト た ちが こ れ を 利用 す る こ とに な っ た の であ る︵︶
︒ か れ ら は︑ コ ス モ ポリ タ ン 的 なグ ロ ー バ ル な移 民 の受 け 入 れ はロ ー マ 帝 国 の不 道 徳 な 異邦 人
︵
ba rba ria n
︶ の例 を 出 す まで も な く
︑ 今日 に お い て は も は や そ れ を 許 容 す るこ と は で き ない 状 況 と なっ て い る と強 く 主 張 す るの で あ っ た︵︶
︒ さら に は
︑ イ スラ ム へ の 病的 嫌 悪 感
︵恐 怖 心
︶ や 極右 に よ る 人種 差 別 も 指摘 さ れ︵︶
︑ そ のた め ヨ ー ロッ パ は
︑ テ ロの 恐 怖に 対 す る 一種 の 社 会 的 なヒ ス テ リ ー状 態 に 陥 っ たと い っ て いい で あ ろ う︒ E U は
︑ この よ う な 社会 的 背 景 およ び 移 民・ 難 民 の 流入 と テ ロ リズ ム の 防 止 とい う 危 機 管理 に 直 面 し
︑ヨ ー ロ ッ パの 統 合 さ えも 脅 か す よ うな 異 常 な 事態 を 一 三
受 け止 め 対 峙 して い か な く ては な ら な い状 況 に 追 い 込ま れ て い った の で あ る︒ だ が
︑ こ れに つ い て
︑E U 存 立 の基 本 理 念と と も に 人の
﹁ 移 動 の 自由
﹂ に つ いて の 重 大 な危 機 的 状 況 を乗 り 越 え るべ く 整 備 され て い る は ずの 出 入 国
︵域
︶ 管理 に 関 す る 法的 枠 組 み とは
︑ い っ た いど の よ う なも の に な って い る の で あろ う か
︒ 次 に は
︑ E Uの 存 立 と 統合 の 基 盤 たる 基 本 諸 条 約お よ び 移 民法 の 法 的 枠組 み に つ い て検 証 し て いく こ と と す る︒
二 欧 州 連 合
︵ E U
︶ の 基 本 諸 条 約の 枠 組 み
欧 州 連 合
︵E U
︶ 存 立 の基 本 理 念 と法 体 系
㈠ 基 本 理 念と 諸 条 約 欧州 連 合
︵ EU
︶ は
︑ 構 成国 間 で 締 結す る 条 約 を法 的 根 拠 に ヨー ロ ッ パ 統合 を 進 め てい る
︒ そ れ は︑ 人 間 の 尊厳
︑ 自 由︑ 民 主 主 義︑ 平 等
︑ 法の 支 配
︑ お よび 弱 者
・ 少数 者 に 属 する 人 々 の 権 利を 含 む 人 権の 尊 重 と い った 普 遍 的 な諸 価 値を 共 通 の 基 礎と し て ヨ ーロ ッ パ 統 合の 過 程 を 新 たな 段 階 へ 促進 す る こ とを 目 標 に 掲 げて 設 立 さ れた︵︶
︒ 現 在
︑ 二
〇二
〇 年一 月 に 正 式に 脱 退 し た イギ リ ス を 除く 二 七 か 国︵︶ がE U に 加 盟し
︑ 主 要 な機 関 を 設 置 して 統 治 の ため の 制 度 的 枠組 み を形 成 し て いる
︒ だ が E Uは
︑ 平 和 と繁 栄 と 安 定の た め に 共 に取 り 組 む こと を 誓 っ た ヨー ロ ッ パ の民 主 的 主 権国 家 の 集ま り で あ るも の の
︑超 国 家 機 関 でも
︑単 な る 国 際 協 力機 関 で も なく
︑構 成国 が 主 権 の一 部 を 共 同の 機 関︵︶ に 移 譲し
︑ 構 成国 間 で 民 主的 な 決 定 と 行動 が で き るよ う に す る もの で あ る︵︶
︒そ し て
︑ この す べ て の EU 構 成 国 が合 意 し て 締 結し た EU の 複 数 の条 約
﹁
Treaties of th e Eu ro pean U nio n
︵ま た は
Th e EU Treaties
︶﹂ が
︑ そ の法 的 根 拠 とな っ て い る ので
一 四
あ る︒ こ れ ら の諸 条 約 は
︑ EU の 目 的 と権 限 を 明 ら かに し
︑ 目 的の 遂 行 に 必要 な 諸 機 関 およ び 諸 制 度の 枠 組 み をは じ め とし て
︑ E Uの あ ら ゆ る 行動 の 根 拠 を規 定 す る
︒条 約 は す べ ての E U 構 成国 に 対 し て法 的 拘 束 力 を有 し
︑ E U構 成 国は 当 該 諸 条 約を 遵 守 す る義 務 を 負 う もの と な っ てい る の で ある︵︶
︒ かか る E U の 基本 法
︵
E ur ope an U ni on funda m ent al la w
︶ と な って い る 諸 条約 は
︑ 全 体 とし て の E U法 の 根 幹 を なす 主 要な 法 源
︵ 一次 法
; pr im ar y sour ce s
︶ で あ り
︑そ の 最 高 位 に は 二
〇
〇 九 年 に 発 効 し た リ ス ボ ン 条 約 と 呼 ば れ る
﹁欧 州 連 合︵ E U
︶条 約﹂
︵
T E U ; T reaty o n th e E u ro p ean U n io n
︶
︵
が︶
あ る︒ 本 条 約 は︑ E U の 根 幹に つ い て 規定 す る も の で︑ 根 本中 の 根 本 を規 定 す る 規 範と い う こ とが で き る︵︶
︒ これ に 続 く もの と し て﹁ 欧 州 連 合︵ E U︶ 運 営条 約
﹂︵
TFEU ; Tr ea ty
on the func tioni ng of the E ur ope an U ni on
︶ 等 が 挙 げ られ る︵︶
︒ こ のE U 条 約
︵T E U
︶ と EU 運 営 条 約︵ T F E U
︶と の 関係 は
︑ 基 本的 に 前 者 が 総則 を
︑ 後 者が 細 則 を 定め る も の で
︑そ れ と と もに
︑ 欧 州 連 合︵ E U
︶ 条約 六 条 一 項で
︑
﹁ 欧州 連 合
︵ EU
︶ 基 本 権 憲章
﹂︵
C F R ; C ha rte r of F unda m ent al R ight s of the E ur ope an U ni on
︶ は
﹁ 諸条 約 と 同 様 の法 的 価値 を 有 す る﹂ と さ れ
︑条 約 上 の 法的 拘 束 力 が付 与 さ れ て いる
︒か く し て
︑E U の 基本 法︵
E ur ope an U ni on funda m ent al
law
︶た る 諸 条 約に は
︑ そ の 最 高 位 に は E U 条 約 が あ り
︑ こ れ に 続 く も の と し て EU 運 営 条 約 が 挙 げ ら れ る
︒ ま た︑ E U 基本 権 憲 章 はこ れ ら と 同等 の 法 的 価 値を 有 す る もの と な っ て いる︵︶
︒
㈡ 欧 州 連 合︵ E U
︶ の 法体 系 この よ う に 現在 の 欧 州 連 合︵ E U
︶ は︑ E U 条 約︵ T E U
︶ およ び E U 運営 条 約
︵ T FE U
︶ を 基礎 と し て 形成 さ れ
︑そ の 中 で 独自 の 機 関 によ り 意 思 決 定が な さ れ
︑法 行 為 の 履 行が 組 織 と して の E U 自身 に よ っ て 確保 さ れ る もの と なっ て い る
︒ この E U の 全体 と し て の 法︵ E U 法
︶は
︑ 国 際 法で も な く
︑ 国内 法 で も ない
︑ 独 自 の法 秩 序 を 形 成し
︑ 一 五
国 際社 会 で 影 響力 を 有 す る 独自 の 存 在 感を 示 し て い ると い わ れ る︵︶
︒ こ の こ と は︑ 欧 州 司 法裁 判 所 に よっ て 具 体 的 な判 決 のな か で も 述べ ら れ て お り︵︶
︑ E U お よび E U 法 の 特質 を 端 的 に表 す も の とい え る
︒ さ らに は
︑ E U運 営 条 約
︵ TF E U︶ 三 四 四 条が 紛 争 解 決 につ い て E Uの 自 己 完 結性 を 定 め て おり
︑ こ こ でも E U 法 が独 自 の 法 秩 序を 形 成 し てい る こ とが 覗 え る とこ ろ で あ る︵︶
︒ そし て
︑ こ の法 源 な い し 存在 形 式 と して は
︑ 大 き く分 け て
︑
①欧 州 連 合
︵E U
︶ の 基 本法 た る 諸 条約
︑
② 理 事会 と 共 同し て 欧 州 議会 が 定 め る 法令 と と も に同 理 事 会 およ び 委 員 会 のそ れ ぞ れ が定 め る 法 令︵
﹁ 規 則
﹂﹁ 指令
﹂﹁ 決 定﹂
﹁ 勧 告
﹂﹁ 意 見
﹂︶
︵
︑︶
③構 成 国 に 共通 す る 法 の一 般 原 則
︑
④欧 州 人 権 裁判 所
︵
E ur ope an C our t of H um an R ight s
︶ お よ び 欧州 司 法裁 判 所
︵
C our t of Jus tic e of the E ur ope an U ni on
︶の 判 例 の 四つ が 挙 げ られ る
︒ こ こ では
︑ 欧 州 連合
︵ E U
︶ の基 本 諸条 約 は E U の 法 体 系 の 中 で の
﹁ 一 次 法
﹂︵
pr im ar y sour ce s
︶ に 相 当 し
︑﹁ 移 動 の 自 由
﹂に 直 接 影 響 す る 規 則 や 指 令 と い った 法 令 た る﹁ 二 次 法
﹂︵
se conda ry sour ce s
︶ の基 礎 と な っ てい る の で ある
︒ 基
本 諸 条 約に お け る テ ロ・ 難 民 に 関す る 規 定 とそ の 背 景
㈠
﹁ 移 動 の 自由
﹂ の 歴 史的 背 景 と 一般 規 定 の 枠 組み 現在 の ヨ ー ロッ パ に お ける 人 の﹁ 移 動 の 自 由﹂ の嚆 矢 は
︑ 一九 五 一 年 に 石炭 お よ び 鉄鋼 産 業 に 従事 す る 労 働 者の
﹁ 移 動の 自 由
﹂ を 保障 し た 欧 州石 炭 鉄 鋼 共 同体 条 約
︵ EC S C︵
︶︶
で あり
︑ そ し て︑ 一 九 五 七 年の ロ ー マ 条約
︵ T E E C︵
︶︶
に よっ て 設 立 され た 欧 州 経 済共 同 体
︵
E E C ; E ur ope an E conom ic C om m uni ty
︶の 誕 生 を 契機 と し て 共同 体
︵ 構 成 国︶ の 領域 内 の す べて の 労 働 者 が﹁ 移 動 の 自由
﹂ を 享 受す る こ と に なっ た こ と であ っ た
︒ その の ち 労 働者 以 外 の 共 同体 の そ の 他の 国 民 に つい て も 加 盟 国の 領 域 内 にお け る 人 の自 由 な 移 動 を実 現 す る べく 国
一六
境 管理 を 取 り 払う シ ェ ン ゲ ン協 定 が 一 九八 五 年 に 調 印さ れ
︑ ま た︑ 一 九 九 二年 に は マ ー スト リ ヒ ト 条約 に よ る 欧州 連 合
︵E U
︶ の 発足 に 伴 っ て 構成 国 国 民 のE U 市 民 権が 創 設 さ れ た︒ さ ら に は︑ 前 出 の 二〇
〇 九 年 の リス ボ ン 条 約の 成 立に よ り
︑ E U市 民 に つ いて は
︑ E U 構成 国 の 領 域内 に お け る﹁ 移 動 の 自 由﹂ は も ち ろん の こ と
︑国 境 を 越 え て個 人 の権 利 保 障 が 強化 さ れ る こと に な っ た︵︶
︒人 の
﹁ 移 動 の自 由
﹂ と
﹁E U 市 民
﹂概 念 の 導 入 は︑ ヨ ー ロ ッパ 社 会 に お ける 国 境の 壁 を 取 り除 く 手 段 と して 機 能 し
︑ヨ ー ロ ッ パの 統 合 を 促 進し て き た ので あ っ た︵︶
︒ この リ ス ボ ン条 約
︵
Treaty of Lisb on
︵︶︶
は
︑ 既 存 の 欧州 連 合
︵ EU
︶ お よ び欧 州 共 同 体
︵E C
︶ の 組織 自 体 に 抜 本的 な 改革 を も た らす も の で あ った
︒ そ れ は︑ 既 存 の 欧州 連 合 条 約
︵旧 T E U
︶お よ び 欧 州共 同 体 条 約
︵旧 T E C
︶を 改 正 し︑ 後 者 に つい て は E U運 営 条 約
︵ TF E U
︶ とし て 名 称 を変 更 し た の であ る
︒ E U運 営 条 約
︵ TF E U
︶ 第二 一 条︿ 旧 T E C 一八 条
﹀ に よっ て
︑ す べて の 連 合 市 民 は︑
﹁ 両 条 約 並 び に そ の 実 施 の た め に 採 択 さ れ た 措 置 に 規 定 さ れ る 制限 及 び 条 件に 従 い
︑ 構 成国 の 領 域 内 に お い て 自 由 に 移 動 し︑ か つ 居 住 す る 権 利 を 有 す る
﹂︵ 第 一 項
︶ と し て EU 域 内に お け る 移 動・ 居 住 の 権利 が 認 め られ る の で あ る︒ さら に リ ス ボ ン条 約 は
︑ 両条 約
︵ 旧 TE U 及 び 旧 TE C
︶ の 条文 の 番 号 を付 け 替 え
︑ EU 運 営 条 約︵ T F E U
︶に 警 察お よ び 刑 事司 法 の 相 互 協力 の 諸 規 定を 出 入 国
︵域
︶ 管 理
︑ 査証 お よ び 国境 管 理 に 関す る 既 存 の 諸規 定 と と もに 新 し く組 み 入 れ た︒ E U 運 営条 約︵ T F E U
︶は
︑ 第 六七 条︿ 旧 T E C 六一 条 及 び 旧 TE U 二 九 条﹀ にお い て
︑ E Uは
︑ 基本 権 及 び 構 成国 の 相 異 なる 法 制 度 並び に 伝 統 を 尊 重 し つ つ
︑﹁ 人 に 対 す る 域 内 国 境 管 理 の 廃 止 を 確 保 し
︑ 構 成 国 間 の 連帯 に 基 づ いて 難 民 の 庇護
︑ 移 住 及 び対 外 国 境 管理 に 関 す る 共通 政 策 の 枠組 を 構 築 し︑ 第 三 国 民 に対 し 公 平 に接 す るも の
﹂︵ 同 二項
︶ と さ れ
︑﹁ 犯 罪
︑ 人種 差 別 主 義 及び 外 国 人 排斥 主 義 を 抑止 し か つ 制 圧す る 措 置
︑警 察 及 び 司 法機 関 並び に 他 の 権 限あ る 機 関 間の 調 整 及 び協 力 の た め の措 置
︑ 及 び刑 事 事 件 に関 す る 判 決 の相 互 承 認
︑必 要 な 場 合に は
︑ 一 七
刑 事法 の 近 似 化の 措 置 を 通 して
︑ 高 い 水準 の 安 全 の 確保 に 努 め る︒
﹂︵ 同 三 項︶ と し て
︑自 由
︑ 安 全 及び 司 法 の 分野 の 確 立に つ い て の一 般 規 定 を 置く
︒ また
︑ E U 運営 条 約︵ T F E U︶ 第 七 五 条
︿ 旧 T E C六
〇 条﹀ に お い て
︑﹁ テ ロ リ ズ ム 及 び そ れ に 関 連 す る 活 動 の 防 止及 び そ れ ら との 闘 い に 関し て
︑ 第 六七 条 に 定 め る目 的 を 達 成す る の に 必要 な 場 合
︑ 欧州 議 会 及 び理 事 会 は
︑ 通常 立 法手 統 に 従 って 規 則 を 制 定す る こ と によ り
︑ 自 然人 又 は 法 人
︑団 体 又 は 非国 家 団 体 に よっ て 所 有 され る か 若 しく は 保 持 さ れ る 資 金
︑ 金 融 資 産 又 は 経 済 的 利 得 の 凍 結 の よ う な 資 本 移 動 及 び 支 払 に つ い て の 行 政 的 措 置 の 枠 組 み を 定 め る
︒﹂ と し て
︑ テ ロリ ズ ム 防 止等 の た め の一 般 規 定 を 置い て い る
︒ こ れに よ り E Uは
︑﹁ 移 動 の自 由
﹂ と と もに E U 域 内に お け る テロ
・ 犯 罪 取 締ま り の た めの 相 互 協 力︑ 出 入 国
︵ 域︶ 管 理お よ び 難 民 に関 す る 法 令を 制 定 す る基 盤 を 広 げ てい っ た
︒
㈡ テ ロ リ ズ ム・ 犯 罪 防 止等 に 関 す る諸 規 定 欧州 連 合
︵ EU
︶ 域 内 で
﹁移 動 の 自 由﹂ が 実 現 する に し た が って 多 様 な 価値 観
︑ 行 動 様式
︑ 情 報
︑疾 病 等 を もっ た 人 たち が 構 成 国間 を 自 由 に往 来 で き る よう に な る
︒そ の 中 に は テロ リ ス ト や犯 罪 者 も 含ま れ
︑ そ れ に伴 っ て 必 要と な るの が E U 構 成国 間 の 警 察お よ び 刑 事 司法 の 協 力 であ る
︒ だ が︑ 警 察 や 刑 事司 法 は
︑ 主権 国 家 が その 統 治 権 に 基づ き 領土 内 で 行 使す る 権 限 で あり
︑ こ の こと は E U 構 成国 も 例 外 では な い
︒ その た め
︑ 国 際社 会 に お いて は
︑ 国 境を 越 え る刑 事 事 件 の解 決 の た め に各 主 権 国 家は 他 国 と 条約 を 結 び
︑ 相互 の 刑 事 司法 の 協 力 体制 を 整 え て きた の で あ る︒ E U 運 営 条約
︵ T F EU
︶ は
︑ テ ロ・ 犯 罪 行 為等 に 対 す る刑 事 分 野 に おけ る 司 法 協力 に つ い て︑ 第 八 二 条
︿旧 T E U 三 一 条
﹀ で︑
﹁ 国 境 を超 え た 刑 事 事件 に お け る判 決 及 び 裁 判 所 の 決 定 並 び に 警 察 及 び 司 法 協 力 を 促 進 す る の に 必 要
一 八